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竹林軒出張所

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『アルマ・マーラー ウィーン式恋愛術』(本)

b0189364_9571357.jpgアルマ・マーラー ウィーン式恋愛術
フランソワーズ・ジルー著、山口昌子訳
河出書房新社

 『「もっと知りたい 世紀末ウィーンの美術」(本)』のところで書いたように、アルマ・マーラーの伝記を読んでみた。自伝を含め、今何冊か入手できるようだが、今回は諸所の事情でこの本を選んだ。事前のリサーチ(といってもAmazonの書評を調べた程度だが)では、翻訳に難ありとのことだったが、難ありの翻訳にはある程度慣れているので、内容の深さを考慮したというわけである。
 さて、実際に読んでみると、確かに「翻訳に非常に難あり」であった。今まで読んだ翻訳本の中で最悪と言って良い。根本的にこの翻訳は時制がメチャクチャである。したがって時制をこちらの頭の中で補いながら読まなければならない。Amazonの評者がこれについて触れていたが、まさにどんぴしゃりの批評であった(この点については)。また時制以外にも、文章がぶつ切りでつながりがなく、人に読ませる論文としてははなはだ稚拙である。完成した文章とは到底言い難く、メモのレベルに近い。念のため言うが、何も僕は美文を求めているわけではないのだ。とにかく普通に読むことができない文章なのである(ちなみにこの翻訳者に対しては何ら反感はない……思い入れもないが)。翻訳が悪いのか原文が悪いのか本当のところはわからないが、とにかくめまいがするような文章であった。

 さて、アルマ・マーラーの生涯であるが、こちらもめまいがするようなものである。演劇人であるマックス・ブルクハルト(よく知らない)や画家のグスタフ・クリムトと浮き名を流すも、23歳のときに作曲家(で当時ウィーン宮廷オペラ劇場音楽監督)のグスタフ・マーラーと結婚する。その後、建築家のグロピウス(バウハウスの創設者として有名……らしい)と不倫関係になるも、その過程でマーラーが死亡し、結果的にグロピウスとも破局を迎える。その後今度は新進画家のオスカー・ココシュカと関係を持ち、やがて堕胎、破局。再びグロピウスとの関係が再燃しやがて結婚。その後、今度は作家のヴェルフェル(僕は知らなかったが当時トマス・マンと並び称されるような大作家だったらしい)と不倫関係に陥り、やがてグロピウスと離婚してヴェルフェルと結婚という、もう「何ですかこれは!」と言いたくなるような生涯である。
 僕がもっとも興味があったのはアルマ・マーラーの心の移り変わりというのか、要するにどういうメンタリティだったのかということだった。本書では、このあたりの事情を比較的客観的に淡々と書いており、何となくそれが伝わってくるようなところもあった。アルマ・マーラーが、男を惹きつける美貌と知性の持ち主だったということ、何より男にあがめられることを望んだということ、地位や金よりも才能を好んだということなどは本書で触れられているが、それでも全面的に納得というわけにはいかない。特に後半生については、やはり著者なりの分析が不足しているような印象を持った(マーラーとの結婚生活とグロピウスとの不倫関係については、非常にわかりやすい解釈があった)。
 というわけで、僕なりに勝手に解釈してみると、アルマ・マーラーは(グスタフ・マーラー同様)相当なエゴイストでナルシストであり、それに加えてメンタリティがきわめて男性的であったということになる。なによりも最後まで理解できなかったのが、なぜアルマ・マーラーが、これだけ多くの才能(つまり男)を惹きつけたかである。写真を見る限り、絶世の美女のようにも見えない……。そうそう、この本では巻頭に、アルマやマーラー、グロピウス、ココシュカらの写真が何枚か掲載されていて、イメージを掴みやすくなっている。その点はとても良い。もっと写真が多くても良かったくらいである。
 ともかくなんかモヤモヤするような感じで読み終わった本であった。もちろん、内容だけでなく、文章もモヤモヤ続きであったんだが。

★★★
by chikurinken | 2010-05-22 22:56 |
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