もっと知りたい 世紀末ウィーンの美術
クリムト、シーレらが活躍した黄金と退廃の帝都
千足伸行著
東京美術

ここで取り上げるべきかどうか少し迷ったが、結局取り上げた。「もっと知りたい」シリーズは、入門者向けのちょっとしたムック本である。写真や絵がふんだんに使われていて、しかも分量も適度で読みやすい。入門者にはうってつけである。ちなみに「ウィーン世紀末」については僕も入門者である。
世紀末ウィーンというと、分離派、クリムト、エゴン・シーレなどがその代表格で、本書でもそのあたりを中心に扱っているが、他にも時代背景や風俗が述べられていて、芸術家と社会との関わりを含めトータルで理解できるようになっている。そういう意味で大変勉強になった。当時のウィーンが性的に退廃していて、しかも自殺者が多かったなど、そのあたりはあまり知らない事実であった。確かにクリムトやエゴン・シーレの作品を見るとそのあたりの事情も頷けるのだ。かれらのポルノまがいの性的な描写はてっきり作家(クリムトやエゴン・シーレ)の趣味世界だと思っていたのだが、社会の側にそういう事情があったわけだ。当然といえば当然であるが。
個人的に興味深かったのは、クリムト、エゴン・シーレに続く第三の画家として紹介されているオスカー・ココシュカであった。作曲家、グスタフ・マーラーの未亡人、アルマ・マーラーとの間で激しい愛欲関係があったらしく(この部分、狂気がかった印象を受けた)、そのあたりを作品としても表現している。本書で紹介されている、ココシュカの『風の花嫁』という作品(アルマとの関係を表現した作)は特に興味を惹くものであった。ココシュカの絵はこれまでも実際に数点見たことがあり、特に気を惹かれるものもなかったが、この絵についてはなかなか面白いと思った。それにアルマとの「激しい愛欲関係」というのも興味がある。そのうち、アルマ・マーラーの自伝でも読んでみようかしらんと思った。
★★★☆