稲妻
(1952年・大映)
監督:成瀬巳喜男
原作:林芙美子
脚本:田中澄江
出演:高峰秀子、三浦光子、村田知英子、小沢栄、浦辺粂子、植村謙二郎、香川京子

成瀬巳喜男の映画は、若い頃に何本か見たが、「過剰なセンチメンタリズム」のイメージが強く、どうも苦手な部類に入る。ただ一般には評価が高く、キネ旬ベストテンなどにもよく顔を出しており、気になる存在ではある。今回、縁あって『稲妻』を見ることになった。『稲妻』は、高峰秀子がバスガイドをやっているスチール写真を見たことがある程度で、まったく先入観がなかった。原作が林芙美子だというのも、今回タイトル・バックで初めて知ったほどである。
実際に見てみると、「過剰なセンチメンタリズム」が顔をのぞかせる場面もあったが、意外にも普通に見ることができた。年齢を重ねたせいか、それともこの映画がよかったのか……「林芙美子+成瀬己喜男」という「過剰なセンチメンタリズム」の代名詞みたいな組み合わせであるにもかかわらず、である。
林芙美子の原作らしく、ダメ男、クズ男がたくさん出てきて、まともな男はほとんど出てこない。登場する女たちの方にもそういう男を呼び寄せる要素があるんだが、さしずめ昭和版「ダメンズ・ウォーカー」という様相である。嫌な人間やダメな人間の有象無象が、汚らしい環境でだらしない生活を繰り広げ、主人公(高峰秀子)はそれに嫌気がさすんだが、その対極として描かれる文化的で清潔な生活(決して金があるわけではない)が実に高潔な印象を与える。主人公の視点がストレートにこちらに伝わってきて小気味良さを感じた。細部まできっちりと作られており、成瀬己喜男監督の仕事に職人芸のような味も感じた。成瀬巳喜男に対する印象が以前と大分変わった。
原作が短編なのかどうかは知らないが、映画の方は短編〜中編小説のようなさっぱりした味わいがあった。前に見てクタクタになった成瀬作品(『浮雲』など)ももう一度見てみようかな、今ならもっと違う感覚があるかも……と思わせるような秀作であった。
★★★★参考:
竹林軒出張所『浮雲(映画)』竹林軒出張所『流れる(映画)』竹林軒出張所『女が階段を上る時(映画)』竹林軒出張所『乱れる(映画)』竹林軒出張所『めし』(映画)竹林軒出張所『放浪記(映画)』竹林軒出張所『あらくれ(映画)』竹林軒出張所『このところ高峰秀子映画が多いことについての弁明』