遠まわりの雨(2010年・日本テレビ)
演出:雨宮望
原作:山田太一
脚本:山田太一
出演:渡辺謙、夏川結衣、岸谷五朗、田中美佐子、AKIRA、井川比佐志、YOU
ラストですべてぶちこわし注意:これから見る方はご注意を。ストーリーや内容についてかなり触れています。 山田太一の単発ドラマがなんと日テレで。
山田太一が日テレで仕事をしたというのは、今まであまり聞いたことがなかったが、日テレでもやはり山田ドラマは山田ドラマだった。山田太一は演出面にも相当口を挟むらしいから。今回も山田節が随所に現れるが、むしろ少し古くささを感じた。演出面でも、そろそろターニングポイントに来ているのだろうか……と感じる。
蒲田の町工場が舞台ということで、山田ドラマらしく鋭い踏み込みを見せはしているが、目新しさはあまりなく、いつものように新しい世界を垣間見せてくれるというようなものではなかった。ストーリー展開についても、山田ドラマの中でも素朴な部類に入る。こちらも目新しさはなく、全体を通してなるようにしかならなかった。つまり自然な流れというか、ありきたりというか、もちろんどう感じるかは見る人次第だが。
意外だったのは、最後に昔の恋人同士(渡辺謙、夏川結衣)が鎌倉で密会するというシーンで、一気に恋愛ドラマの様相を呈してきたことだ。それまで、恋愛ドラマとは思えないような、家族を中心とした展開だっただけに少し驚きであった。恋愛ドラマにするんなら、家族や同僚、ご近所になるべく焦点を当てず、もっと個人的な関係性を強調すべきではないだろうかと思う。そういうこともあって、鎌倉前、鎌倉後で大きくドラマが分離しているような印象を受けた。そういう点でも、妙に素人っぽく感じたのだった(大先生に対して失礼であるが)。
2つの家族が登場しそこにさまざまな関係性が生じるというドラマは、山田太一の得意分野であり、これまでもいくつかあった。その中でも
『沿線地図』(1979年・TBS)が、「関係性」という点では今回の話に割と似ているような気がする。で、やはりこの家族間にも恋愛みたいなもの(つまり不倫だが)が起こったんだが、関係を持った当事者は、むしろそれに対し嫌悪感を持つという展開になり、一種の事故のような扱われ方だった。こういう扱い方が家族ドラマとして非常に自然な流れで、とにかく身辺がざわついているという印象が伝わってきて、そのあたりが良かったのだ。だから、今回のドラマみたいに、メロドラマに仕立て上げて、強引におもいっきり臭い場面で終わらせてしまうというのはちょっとどうよ、と感じてしまうのである。
一般的に山田ドラマは、最終回が一番つまらない(本人もクライマックスが苦手だと公言している)のだが、それは、それまでの過程があまりに充実していて、必ずしも完全に収束できないためである。だが、人間の生活なんて必ずしもきれいに収束しないんであって、そういう終わり方も、山田ドラマの質に鑑みるのであれば、実は「あり」なのではないかとも思う。最後に、苦笑い(製作者側に対するもの)が少し生じるというのも、山田ドラマ独特で、それは展開のあまりのすばらしさに対する対比であって、それはそれで良いものである。今回のドラマは、そういう苦笑いの要素はなく、強引(と僕は思ったんだが)に恋愛ドラマのクライマックスに到達したんだが、見ているこちらとしては完全に引いてしまって「もう無理!」という感情が押し寄せてきた。僕にとって、このシーンは、それまでのストーリー展開をすべて台無しにするものであった。台無しになるくらいなら、中途半端なクライマックスの方がずっと良い。中途半端であってもそれは個性みたいなものなんだから、くだらない恋愛ドラマを真似することなんかないと思うが、ほんと、つまらない終わり方をしてくれたと思う。
★★★参考:
竹林軒出張所『沿線地図(1)〜(15)(ドラマ)』竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』