「カントは哲学界のホームラン王です」と学生時代から公言していた僕としては、カントの三批判の筆頭である『純粋理性批判』も是非しっかり読んでおきたいところである。これまで何度か岩波文庫版にトライしたことがあるんだが、その都度途中でやめた。挫折したという感覚ではなく、飽きたという感覚である。とにかく翻訳文がわかりにくい。というか、こんなの日本語じゃねー!というような文章である。正直日本語を読みながら原文を予測するという作業をずっと続けなければならない。言っておくが、カントはことさらに難解な書物を書こうとしたわけではなく、出版当時、わかりにくいという批判を浴びて何度も改訂版を出してわかりやすくするよう努めたんである。もっともそういう文章であるから、元々わかりにくい文章であることは確かなんだろう。ただこれまで(途中までとは言え)読んできた感覚から言うと、それほど難しいことを書いているわけではないということだ。カントは、潔癖かつ整理魔であるゆえ、それまでの哲学界で主流だった理論に検討を加えた上でその対象となった問題を整理した。それが『純粋理性批判』であるというのが僕の認識である。だから内容はともかく、文章自体をややこしくかつ小難しくする必要というのはまったくないのであって、それでもこんなに読みにくい翻訳になっているのは、ひとえに翻訳者の未熟さゆえである……と断じてしまおう。だから、ちゃんとした英語版があれば、そっちを読んでみようかなどと考えていたくらいである。ドイツ語版の翻訳なんて、僕の語学力からすれば無理だから。

で今日、丸善に行ってみたら
『完全解読 カント「純粋理性批判」』 
という本が出ていて、これがどうやら、これまでの翻訳に対するアンチテーゼとして、こなれた翻訳の『純粋理性批判』を出してみたというコンセプトらしい。かなり食指が動いたが、とりあえず衝動買いはやめて、一度図書館で借りてみて良かったら買おうということにした。それでも気になるんで、家に帰ってAmazonで少し調べてみたが、もっと良さそうな
『純粋理性批判』の翻訳本も、最近光文社から出たらしい。Amazonの読者批評でも上々である。こちらは全7巻だそうな……。ちなみに岩波文庫版は全3巻、『完全解読』の方は1巻である。どうして7巻にもなるのか僕には見当が付かない(しかも第1巻だけで400ページもあるらしいし)が、そのコンセプトからして非常に興味をそそられるところだ。このシリーズでは
『永遠平和のために』
も出されているようで、こちらも興味をそそられる。図書館に揃うまで待つか今のうちに買ってしまうか、少し迷っているところである。もっとも買ったところで途中でやめる可能性も非常に高いわけで、それに、たとえこの第1巻を読んだとしても、2巻以降はこれから配本されるということで、なんだか先が長い話になりそうである。フルマラソンを走るような気構えが必要になりそうだ。
追記:
学生のときに倫理学の先生から「わからないでも良いから原語で読みなさい。読み終わる頃にはなんとなくわかってくるから」と言われたことがある。なんでもこの人は学生時代、『純粋理性批判』をドイツ語で読了したが、読み終わってもさっぱりわからなかったらしい。随分忍耐強い人なんだろう。僕にはまったくもってそんなことは不可能である。ホントは「マンガ純粋理性批判」みたいなものがあればそちらで済ませたいくらいだ。
参考:
竹林軒出張所『純粋理性批判〈1〉(本)』竹林軒出張所『まんがで読破 カント・作 純粋理性批判(本)』竹林軒出張所『エピクテトス 人生の授業(本)』