
手元に1枚のCDがある。カラヤン指揮、ベルリン・フィルの
『ウェーバー序曲集』
である。
今から25年ほど前、CDが普及し始めた頃に買った輸入盤のCDである。当時ついにCDプレイヤーを買った僕は、安い輸入盤を中心にクラシックのCDを買い集めていた。当時の国内盤のクラシックのCDは2800円〜3200円が中心的な価格で、中には1枚3500円もするものもあった。今だったら5枚組で3500円なんていうのもあるくらいで、レコード会社のアコギさがよくわかるというものだ。そんなわけで、国内盤とは少しばかり距離を置いて、輸入盤ばかりを買っていた。まあしかし、輸入盤ということで品揃えは期待できず、一種の安売りバーゲン・セールみたいなものであった。そういう時期にこの『ウェーバー序曲集』を買った。ウェーバーの序曲集なんてのは、僕にとっては優先度がそんなに高くなかったと思うんだが、なぜか買ったのだ。このCDの中で知っている曲と言えば「舞踏への勧誘」と「魔弾の射手序曲」くらいのもので、オイリアンテ序曲やオベロン序曲などに至ってはタイトルすら知らなかった。でも買ったのである。
ところが、ウェーバーは僕となかなか相性が良かったらしく、その後、すり切れるほどこのCDを聴くことになったんだな(CDだからすり切れたりしないけどね)。買ってもほとんど聴かないCDというのも結構あるんで、こういうCDは大当たりの部類に入る。
今日はなぜか「魔弾の射手」を聴きたくなったんで、久しぶりにこのCDの曲を聴いていた。CDプレイヤーは使わずにiPodでだが。あれから時代は変わったのだ。

話は変わるが、この間珍しく、NHK教育TVでバレエを見た。ちなみに僕にはバレエを見る趣味はまったくない。クラシックにバレエ音楽というのが割に多いのでまったく興味がないわけではないんだが、あまり見たことはない。このとき放送されたのは『バレエ・リュス・プログラム』というもので、「バレエ・リュス」と言えば、知る人ぞ知る(知らない人はまったく知らない)ディアギレフ主宰の歴史的バレエ興行である。僕もそんなに詳しく知っていたわけではないが、ストラヴィンスキーとかドビュッシーとかピカソとかニジンスキーとか文化史に名を残している人々が関わっていたという話は聞いたことがあった。そういうわけでピカソがやったとかいう書き割りなんかもちょっと覗いてみようかなと思って見ていたんだが、いやいや、バレエ侮るべからずである。このバレエ・リュス・プログラムには完全にはまってしまった。人間の動きがこんなに美しく表現される見せ物だとはつゆ知らなかった。あんまり気に入ったんで、録画し変換してiPodに入れたほどである。
この『バレエ・リュス・プログラム』の1本目が「ばらの精」という演目で、それにウェーバーの「舞踏への勧誘」が使われていた。
「舞踏への勧誘」では、最初に男が女を踊りに誘い、女が躊躇する情景を表した、チェロとフルートの掛け合いから始まる。しばしやりとりがあって、やがて華やかな踊りが始まる。したがって「舞踏への勧誘」という堅いタイトルよりも「ダンスのお誘い」くらいの表現が近いような気がする。非常にわかりやすい曲で、舞踏の部分もゴージャズである。非常に好きな曲なんだが、「バレエ・リュス」では、これに乗せて豪華絢爛な振り付けが展開されるのだ(ニジンスキーがつけた振りらしい)。「ばらの精」のストーリーは「舞踏への勧誘」とは少し違うが、それでも「舞踏への勧誘」の精神を十分体現していた。「バレエ・リュス」は僕にとって新たな発見である。時代は変わっても良いものは変わらないという教訓であった。
参考:
「バレエ・リュス」(Wikipedia)竹林軒出張所『バレエ・リュス 踊る歓び、生きる歓び(映画)』竹林軒出張所『シャネル&ストラヴィンスキー(映画)』竹林軒出張所『パリ・オペラ座のすべて(映画)』