路上のソリスト
(2009年・米)
監督:ジョー・ライト
原作:スティーヴ・ロペス
脚本:スザンナ・グラント
出演:ジェイミー・フォックス、ロバート・ダウニー・Jr.、キャサリン・キーナー

(以下若干ネタワレしています。ご注意ください)
ロサンゼルス・タイムズのノンフィクション・コラムが原作の感動ドラマ(ということらしい)。
ホームレスの天才的チェリストと記者との交流の話で、このチェリストは統合失調症を患っていて、ジュリアード音楽院を中退したという経歴を持つ。記者は、リストラに揺れるロサンゼルス・タイムズで、仕事への情熱を少し失いかけながらも新しい記事を追い回している。そういう設定である。確かによくできた話でうまくまとまっているが、見た後何だかしっくり来ず、とてもモヤモヤする。
これが実話だとしても(ま、そうなんだろうが)、統合失調症で人前で演奏活動ができない演奏家であれば、演奏家として活動しようがないじゃないかと思う(記者は彼を甦らせようとするんだが)。しかも本人が病気であることを認めず、しかも舞台を用意してもらっても演奏できないというんであれば、彼はもう演奏家ではない。路上での一人演奏がたとえうまかろうが、人に聞かせることさえできない。ということであれば、大道芸をやるしかないし、それだって人が集まったときに落ち着いて演奏できるかどうかわかったもんじゃない。彼がたとえば作曲家であれば人と接しなくても活動できるが、演奏家はそうはいかない。だから、この作の作者(記者)がどんなにほめようと、作者と本人の関係者以外、まったく関係ない話なのである。だからと言って、この映画でかれらの交流が何かを生み出しているかと言えば、その辺もなんだか微妙である。貧困の問題を照らし出してはいるが、どうもそのあたりも中途半端な気がする。つまり、主人公の2人の関係性以外、何も生まれていないような、しかもその関係性もなんだかはっきりしないもので、ホントにモヤモヤするんだ。何だかよくわからないんだが。
ただ、そういうこと(背景とか細かい部分)にこだわらず、アメリカ的に脳天気な感じで見れば、感動ドラマとして楽しめると思う。特に全編通じて流れるベートーヴェンの『英雄』は、こうやってあらためて聴くと非常に良いものである(大体はチェロ・パートのみだが)。
★★★