ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

青空文庫の『ヴィヨンの妻』を読む

 青空文庫というプロジェクトがあり、古典文学が無料で提供されているというのは、おそらく多くの人がご存じだと思う。
 青空文庫は、著作権に縛られない(つまり著作権保護期間が過ぎた)作品を、ボランティアの手で入力、校正して、広く一般に提供しようという、インターネットの理想を体現したようなプロジェクトで、実際に相当数の古典作品が無料で提供されている。しかもそれを読むための環境(ソフトウェアなど)も無料の場合が多く、そちらの方を向いて手を合わせたくなるような理想主義の結晶である。
 最近僕自身、余生というものについて思いを馳せることが多くなり、見る映画や読む書籍など、ある程度厳選して、本当に優れたもの、自分が見たり読んだりしたいものだけを中心に鑑賞していこうという決意を固めたところである。そういうわけで、しばらく遠ざかっていた小説についても、古典中心に再接近しようかなと考えていた。というわけで「青空文庫」の出番になる。
 さて、青空文庫を実際に読むに当たり、使っているMacで動く青空文庫対応リーダー(ソフトウェア)が必要になる。実は、今から10年近く前、OS 9の時代に青空文庫のデータを大量にダウンロードして、OS 9対応リーダーで読めるような準備をしていたことがあるんだが、実際にいっぱいかかえていたところで、例によって積ん読状態でまったく読むことはなかった。それ以来遠ざかっていたため、現在のOS X環境で動作する青空文庫リーダーというのをよく知らなかった。
b0189364_8552950.jpg そこで例によってインターネットでチョコチョコッと検索して、いくつかソフトを見つけたんである。とりあえず、AozoReaderazurという2つのソフトを試すことにした。AozoReaderは無料だがazurは2100円のシェアウェアである。機能的にはazurの方が良いようだが、2100円の価値があるかどうかは、使う人次第ということになる。
 使い勝手は両方のソフトでほぼ同じで、矢印キーでページをめくるようになっている。表示も美しく、実際に紙の本を読む場合と比べても遜色ない。ただMacの画面が少し明るすぎて目が疲れるような若干の違和感はあった。
 今回、20年以上前に読んだ、太宰治の『ヴィヨンの妻』を読んでみた。前に読んだときは、正直「なんじゃこりゃ」と思ったのである。僕は以前から太宰治の少しシニカルな笑いが好きで、太宰治の作品は割に好きだったんだが、こと『ヴィヨンの妻』に至っては「過剰なナルシシズム付きの日記」ぐらいにしか思われず、到底受け入れることができなかった。が、今回は、(以前と同じように)確かに終わり方に唐突さを感じたものの、太宰治に対する理解が以前よりあったせいか、割に面白く読むことができた。自身をシニカルに扱っているのも良いし、赤裸々さもすごみを感じる。
 青空文庫であるが、何より古典に気軽に接することができるというのは非常に良い。今回のソフトでは書籍をダウンロードして保存してから読むというのではなく、随時サーバーから取り出してくるという感覚で、今流行りのクラウド・コンピューティングに近い感覚である。確かにネットに接続していなければアクセスできないが、パソコンならばほとんどの場合ネットに接続できているわけだし、それを考えるとパソコン環境であれば、そういう方法でも良いんじゃないかという気もしてくる。手元にないというのは多少心許なさを伴うものだが、実際にはそれほどマイナスになることはないのだ。かつてのように大量にダウンロードしたところで、ハードディスクの肥やしになるのが関の山だ。そういうわけで、今回は特に「必要なものだけ随時呼び出す」という方法も悪くないんではないかと感じた。何でも最近ではiPhoneやiPod Touchでも青空文庫を読める環境があると聞く(こちらは書籍をダウンロードするようだ)。つまり手元に置いておきたい古典をどこにでも持ち運ぶことができるわけで、これこそ古典の正しい使い方と言えるんじゃないかと思う。すごく贅沢なことではあるが。

参考:
竹林軒出張所『富嶽百景・走れメロス 他八篇(本)』
竹林軒出張所『冬の花火 わたしの太宰治 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『女性操縦法 “グッドバイ”より(映画)』
竹林軒出張所『ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ(映画)』
竹林軒出張所『太宰治物語(ドラマ)』
by chikurinken | 2010-02-22 09:00 | パソコン
<< 『プライドと偏見』(映画) 『親密すぎるうちあけ話』(映画) >>