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竹林軒出張所

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『ギャル農業』(本)

『ギャル農業』(本)_b0189364_18131431.jpgギャル農業
藤田志穂著
中公新書ラクレ

 「ギャル」と呼ばれる女性が、米作りや野菜作りを始めた話を簡単にまとめたもの。渋谷などに集まるケバイファッションの女性が今「ギャル」と呼ばれているというのはよく知らなかったが、ガングロなどもこの「ギャル」に含まれるようだ。この本の発想は、ああいったケバく軽い女が農業に手を染めるということに対する興味から出たものだろうが、本書を読めばわかるんだが、著者はケバく軽いというような女性ではないんだな、これが。本書の印象では、素直で真摯、なおかつ謙虚で聡明という感じで、そういう人であるからこそ、環境や農業について懸念するのも考えてみれば自然な流れである……本当のところは。人を外見で判断してはならないのだ。
 ともかく、そういった著者が、世間の「ギャル」のイメージを変えたくて起業し(マーケティングの企業で黒字続きだったそうです)、やがて社長を辞めて本格的に農業に関わるようになった。そのあたりの事情を本書で語っている。経歴が面白いため、会社がどのように成功したかや、農作業の内容だけではなく農業を始めるに当たってのプロセスなどに興味があったのだが、このあたりは残念ながら省略されている。本人にとってはあまりそのあたりの意識がないのかも知れないが、ここのところが一般的には一番興味ある部分だ。会社を運営するのも農業を始めるのも(特に日本では)簡単ではないのでね。そこらあたり残念である。
 4章だてで構成されているが、3章と4章は、著者の考え方というか哲学がエッセイ風に記述されていて、「ギャル農業」の部分とは直接関係ない。もちろん、著者の考え方やものの見方は素直かつ謙虚で、読んでいて非常に気持ち良く、若いのに偉いなと思うのだが、いかにもページを埋めるために加えたという感じを受ける。こういう部分を追加する代わりに、先ほども言ったように、会社の内容や農業に入っていくプロセス(農家の協力を得るための方法など)を詳しく描いてほしかった。
 内容は全体的に薄めである。文章も真面目で素直なため、1時間ちょっとあれば全部読める。少しもの足りない感じもするが、ただ、本をあまり読まない若者向けのメッセージという主旨であるならばそれも納得できる。
 ともかく、本書で著者の魅力は非常によく伝わってくる。だから読んでいて心地良い。要は「人は見かけによらない」ってことだ。

★★★☆
by chikurinken | 2009-12-29 18:14 |
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