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竹林軒出張所

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『柔道一直線』(1)、(2)(ドラマ)

柔道一直線 (1)、(2)(1969年・TBS、東映)
原作:梶原一騎
脚本:佐々木守
演出:小林恒夫、冨田義治
出演:桜木健一、高松英郎、吉沢京子、藤江喜幸、青木和子、牧冬吉、由利徹、白木みのる

スポ根ドラマの元祖

『柔道一直線』(1)、(2)(ドラマ)_b0189364_08491593.jpg 東映が、『柔道一直線』の第1回と第2回をYouTubeで無料公開していたため、懐かしさもあって見てみた。
 知らない人のために言っておくと、『柔道一直線』とは子ども向けの実写ドラマで、梶原一騎原作、永島慎二作画のマンガがオリジナルである。1969年に放送され、当時の多くの子どもを魅了した。僕自身は、本放送時、再放送時、再々放送時(中学生のとき)の都合3回は見ているが、なにぶん数十年も前のことで、細かいところは忘れてしまっている。もちろん印象的なシーン、たとえば近藤正臣がピアノの鍵盤の上に立ち爪先で「ネコふんじゃった」を演奏する場面などはよく憶えているし、二段投げ、ライナー投げ、大噴火投げ、フェニックスなどといった必殺技も記憶に残っている。また「ニッポンジュードー、ヨワーイ」などのセリフも中学時代よくマネして遊んでいたためよく憶えている。柔道のことをろくに知らなかった当時の子どもが見れば、かなりエキサイティングな内容であるが、実際の柔道に馴染んでくると、あまりの荒唐無稽さ、内容のバカバカしさに呆れてしまう。原作者の梶原一騎は柔道の有段者のはずなのによくこんなストーリーを書けたもんだと、今となっては思うが、子ども向けマンガということで、注目を集めるための派手な(魔球ならぬ)魔技が必要だったのかも知れない。だが、冷静な目で見ると、あんなド派手な大技を開発するよりも、絞め技や寝技に磨きをかけることの方が手っ取り早いんじゃないかと思ってしまう。もっともこれは『巨人の星』などの他のスポ根マンガにも共通する感覚である。
 で、今回見た第1話と第2話では、ド派手な大技はあまり出てこない(車周作の地獄車ぐらい)。もっとも、背負い投げされた中学生が数メートル吹っ飛んでいって壁板を突き破るみたいな、アホらしい演出は随所に出てくる。しかもアメリカ人の柔道家が日本人の柔道家と対決するときに反則技を使ったり審判に暴行したりというシーンまで出てきて、よくもまあこんな荒唐無稽なプロットを作ったものだと思ってしまう。プロレスじゃないっちゅーの。なおこのアメリカ人柔道家は、その後、街の中で暴れて警官をたたきのめしたりするが、車周作の地獄車で倒されるという無茶苦茶な展開になる。
 そういう荒唐無稽さは随所にあるものの、ストーリーはそれなりに練られていて、毎回惹きつけるものがあるのは確かであり、(僕を含む)子どもたちが毎週釘付けにされたのも頷ける。そうは言っても、これでは柔道の歪んだイメージが子どもたちに植え付けられやしないかとも思う。柔道とプロレスと町の喧嘩が一緒くたに扱われているわけだ。一方で、監修に木村政彦の名前があったりして、しかも講道館からこのドラマのスタッフに感謝状が送られたなどという話まであり、そのあたり何だか訳がわからない。講道館から抗議が来ても良さそうなものだが、要するに柔道の普及に一役買ったということのようなのだ。実際、幼少時にこの作品の影響を受けた柔道選手や格闘家もいるようで、それを考えると、愚にも付かないようなものであっても重要な役割を果たすということが世の中にはあるもんなんだなと感じてしまう。
★★★

参考:
竹林軒出張所『刑事くん (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 林で書いた詩(ドラマ)』
竹林軒出張所『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(本)』
竹林軒出張所『七帝柔道記(本)』
竹林軒出張所『七帝柔道記 (1)、(2) (マンガ版)(本)』
竹林軒出張所『七帝柔道記 (3)〜(6) (マンガ版)(本)』
竹林軒出張所『VTJ前夜の中井祐樹(本)』
竹林軒出張所『変身忍者 嵐 (1)、(2)(ドラマ)』
竹林軒出張所『夏子の酒(ドラマ)』

# by chikurinken | 2024-03-18 07:48 | ドラマ

『「山上徹也」とは何者だったのか』(本)

「山上徹也」とは何者だったのか
鈴木エイト著
講談社+α新書

安倍晋三殺害事件の背景を”推測”する

『「山上徹也」とは何者だったのか』(本)_b0189364_07370360.jpg 『自民党の統一教会汚染』で政界とカルト宗教との繋がりを暴いた鈴木エイトが、安倍晋三殺害事件の犯人である山上徹也に迫ろうとする本。
 山上徹也に迫ろうとする本ではあるが、実際には山上徹也は拘置所に収監されており、しかも外の世界に向けて発信することもまったくないため、山上に迫ることができているかというとさにあらず、残念ながら外側から推測するしかないというのが実態である。
 ただ、著者は早い段階から安倍晋三をはじめとする自民党議員と統一教会との関係を暴いてきており、山上徹也も著者の記事を通じてその事実を知ったわけであるから、著者の活動があの事件の遠因の1つであるとは言える。しかも事件を起こす前に山上は、著者、鈴木エイトにDMを送っていたのである。これについては、著者は事件が発覚するまで気付かなかったらしく、それについても責任を感じているようである(つまり山上とやり取りすることで事件の発生を食い止めることができたのではという思いがある)。同時に、早い段階から安倍晋三に迫っていた自分自身と、山上徹也、安倍晋三の三者の間に運命的な繋がりがあったも感じているようだ。そういう背景があって、情報が少ないなりにも山上徹也にアプローチすることに意義を感じているようで、それが本書の上梓に繋がったということである。
 本書では、事件に至るまでの山上徹也の足跡を、SNSでの痕跡を辿って追っていくんだが、同時に著者は山上を親身に世話していた叔父や、担当弁護士のところにも足繁く通い、何とか手がかりを得ようとしている。もっとも、事件に至るまでの背景を解明しようとする努力は伝わってくるが、実際にはやはり決定的に情報量が足りない。結局のところ本書では、自身と、山上徹也、安倍晋三のこの10年間の足取りを辿るというレベルで終わってしまっている。今後、公判で山上自身の口でその背景が語られれば、さらに深掘りできるかも知れないが、現時点ではやはり推測で終始するしかないのである。本書には、今後の展開を見据える上での予備知識を提供するという価値はあるが、残念ながらそれ以上ではない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『自民党の統一教会汚染(本)』
竹林軒出張所『「カルト宗教」取材したらこうだった(本)』
竹林軒出張所『妖怪の孫(映画)』
竹林軒出張所『決定版 マインド・コントロール(本)』
竹林軒出張所『カルト宗教信じてました。(本)』
竹林軒出張所『カルト宗教やめました。(本)』
竹林軒出張所『家族不適応殺(本)』

# by chikurinken | 2024-03-15 07:36 |

『「集団の思い込み」を打ち砕く技術』(本)

「集団の思い込み」を打ち砕く技術
なぜ皆が同じ間違いをおかすのか

トッド・ローズ著、門脇弘典訳
NHK出版

自分の感じ方を大切にしようという議論

『「集団の思い込み」を打ち砕く技術』(本)_b0189364_08580025.jpg 書かれていることは割合ありふれているが、かなり画期的な論考である。
 多くの人は実は倫理的に正しいことを好むのだが、「自分以外の大勢は現実的(あるいは利己的)なことを支持しているのだろう」と思い込んでしまう。このようなことが日常的に多々発生していると著者は言う。だが実際のところ、個別に調査してみると、自分以外の大勢も倫理的に正しいことを支持しているということが多いらしいのだ。つまり大勢の人の中にこういった誤った予断があり、それによって誤った世論が形成されてしまうことが多い、特にSNSが影響力を持つ現在のネット社会ではそれが顕著であると著者は言うのである。大勢の人々の中に横たわるこのような予断を著者は「集団的幻想」と呼んでいるが、「集団的幻想」が存在するということを意識した上で、我々は自身の感覚を信じて、自らが正しいと思うことを主張すべきである。それが誤った世論の形成を阻むことに繋がるのだというのが、本書での著者の主張である。
 著者によると、人は多数派に従う傾向があり、たとえ違和感を感じる意見であっても、多数派の意見が正しいと信じ込んでしまうことが多いらしい。そのため、誤った標準である「集団的幻想」が存在する状況であれば、自分がどう感じているかに関係なく、その幻想が正しいのだと思い込んでしまい、それが自分の考え方と違っていれば口をつぐむ性質が人間にはあるという。つまり人間は、思っている以上に、多数派(と感じているもの)に付和雷同してしまいがちなのである。
 目の前でいじめやハラスメントが行われていても、大勢がそれに賛同していると思い込んで見て見ぬ振りをするなどというのがこれに当たる。実際は多くの人は、こういう行為は不当だと思っているのだが、それに気付かず(あるいは意図的に目をそらし)「集団的幻想」に従ってしまうなどということは実際よく起こっている。ネットの世論についても、ジョニー・デップ裁判などを持ち出すまでもなく、(倫理的に許容できないような)多数派の意見が席巻してしまうことがきわめて多い。それを見越してかどうだか知らないが、ボットなどを利用し多数派を装って、偏った意見をまき散らすような不埒な勢力もある上、それに乗じてバカ騒ぎをする一般大衆も存在する。実際は多くの人は、倫理的な行動を支持するため、目の前のこういった行為や流れには賛同していないのだが、大衆が支持するのならばそれが正しいのだろうと思い込み、それを許容してしまうというのが、諸悪の根源だとするのが著者の主張である。
 この著者の主張は、感覚的に納得する部分が多く、モヤモヤが晴れるような思いがする。したがって著者の言うように、周りに流されず、自分で考えて正しいと思う意見を主張することが第一であり、一人一人がそういう行動を取ることで、歪んだ世論の是正が可能になるという考え方については、100%同意する。僕自身も今後、そういう態度で世間の風潮に対峙していくべきだとあらためて感じた。
 本書では、以上のようなことが、さまざまな実証データ(他者の実験や論文)を引用しながら述べられている。アメリカ製のこの種類の本によく見られる傾向だが、本書も全体的にやや散漫で冗長な印象も受けるが、テーマが一貫しており、また同時に議論の展開が非常にスリリングであるため、途中で飽きるということはない。自分の生き方、人間のあり方、周囲との関わり方などを見直す上で、きわめて有用な書で、目からウロコが落ちるような思いがする快著であった。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『何が記者を殺すのか(本)』
竹林軒出張所『教育と愛国(映画)』
竹林軒出張所『同調圧力(本)』
竹林軒出張所『さよならテレビ(本)』
竹林軒出張所『騙されてたまるか 調査報道の裏側(本)』
竹林軒出張所『FAKEな平成史(本)』
竹林軒出張所『#ジョニー・デップ裁判(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『SNS暴力(本)』
竹林軒出張所『“ネットいじめ”の脅威(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ネットいじめは防げるのか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カナダ いじめ撲滅プロジェクトの1年(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『いじめを生む教室(本)』

# by chikurinken | 2024-03-13 07:57 |

『最高の木を求めて』(ドキュメンタリー)

最高の木を求めて
あるバイオリン職人の4年

(2021年・ノルウェーNorsk Fjernsyn、BALDR Film)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ヴァイオリンのように
このドキュメンタリーも空洞だった


『最高の木を求めて』(ドキュメンタリー)_b0189364_10291950.jpg イタリア・クレモナでヴァイオリンづくりに携わる職人に密着するドキュメンタリー。
 この職人、ガスパーは、ストラディバリウスを超えるヴァイオリンを作ることを日々夢見ているが、そのために必要なのはすばらしい素材であると感じている。ストラディバリウスにはカエデの木が使われているが、目が詰まった非常に美しい素材であり、これが現代ではほとんど手に入らない。ストラディバリウスの製作者、アントニオ・ストラディバリは、現在のボスニアあたりで材を調達したのではないかと考えられており、ガスパーもボスニアの森で優れた材を調達できるのではないかと考え、そちら方面で材の入手を手配する。だが現実的には、ボスニア紛争の影響で材が取れる森には地雷が埋まっているため、たとえ良い材木があったとしても入手はきわめて困難である。ガスパーの目標は、良い材を手に入れて優れたヴァイオリンを作り、そのヴァイオリンをヴァイオリニストのジャニーヌ・ヤンセンに演奏してもらうことであるという。
『最高の木を求めて』(ドキュメンタリー)_b0189364_10292359.jpg このドキュメンタリーでは、材を入手し、ヴァイオリンを製作してヤンセンに贈るまでの過程を追っていくわけだが、この類のドキュメンタリーに付きもののヴァイオリン製作の現場はほとんど出てこず、入手に奔走するガスパーの映像ばかりが出てくる。そのため、楽器作りという観点からの面白味はほとんどない。木を探す過程ばかりだから、家具職人や植木職人でも同様の映像になるわけである。(タイトルから類推すると)4年間取材を続けたらしいのでそれなりの労苦はあったのだろうが、できあがった作品は中身が薄く面白味のないものになってしまった。ドキュメンタリーとして考えると、ストラディバリウスどころか合板製ヴァイオリンみたいな出来になってしまっているのがはなはだ残念なところである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『バイオリンの聖地クレモナへ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ストラディヴァリウスの謎(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ストラディバリに挑む(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ストラディバリウスをこの手に!(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのショパンコンクール(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2024-03-11 07:28 | ドキュメンタリー

『久石譲 いま世界で奏でる音楽』(ドキュメンタリー)

久石譲 〜いま世界で奏でる音楽〜
(2023年・NHK)
NHK-総合 NHK MUSIC SPECIAL

久石譲の世界的な人気に驚く

『久石譲 いま世界で奏でる音楽』(ドキュメンタリー)_b0189364_08275805.jpg 作曲家、久石譲に2022年から1年間に渡って密着し、その活動を映像に収めたというドキュメンタリー。
 久石譲といえばスタジオジブリの映画音楽で有名で、おそらくその影響だと思うが、世界中にその名前が知れ渡っているようだ。このドキュメンタリーを見ると、ヘルシンキ、パリ、ロンドン、ニューヨークなど、世界中の大都市で自ら指揮者として舞台に立ってコンサートを行い、それがまた大盛況になっている。僕自身は、久石譲の才能を買っていたが、あくまで国内の人でありこれほど海外で名前が知れ渡っているとは思わなかった。ウィーン楽友協会(オーケストラはウィーンフィルではなくウィーン交響楽団だが)で指揮をし、しかも満員の観客を涌かせているなど、まったく想像すらしていなかった。ドイツ・グラモフォンと契約してCDを出したという話も驚きであった。
『久石譲 いま世界で奏でる音楽』(ドキュメンタリー)_b0189364_08280345.jpg 他にも、宮﨑駿の新作『君たちはどう生きるか』の音作りの風景や、ロイヤルシェイクスピアカンパニーによる演劇版『となりのトトロ』のプロデュース風景などが登場するほか、ミニマルミュージックへの傾倒なども紹介される。久石の活動の幅広さが、45分という短い時間枠にぎっしり凝縮されており、まったく飽きずに見ることができる優れた音楽ドキュメンタリー作品に仕上がっていた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『魔女の宅急便(映画)』
竹林軒出張所『夢と狂気の王国(映画)』
竹林軒出張所『高畑勲、「かぐや姫の物語」をつくる。(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ジブリと宮﨑駿の2399日(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『天地明察(映画)』
竹林軒出張所『小さな駅で降りる(ドラマ)』

# by chikurinken | 2024-03-08 07:27 | ドキュメンタリー