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竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『ふつうな私のゆるゆる作家生活』(本)

ふつうな私のゆるゆる作家生活
益田ミリ著
文藝春秋

あまりにタイトル通りの内容

b0189364_18465716.jpg 『すーちゃん』の益田ミリが、自らの身辺を描いたエッセイ・マンガ。
 タイトルが内容をよく反映しており、まさにゆるゆるな生活。また「ふつうな私」という表現も、学校時代目立たない生徒で、短大を卒業してOLをやっていた頃もあまり目立たない存在だったという著者の履歴をうまく表している。あまり良いとは言えないタイトルではあるが、内容はしっかりと反映している。
 登場する「私」はこのようにごく「ふつう」の感じではあるが、若い頃から公募で入賞したりすることはたびたびあったようで、やはり光るものを持っていたようである。彼女の日常は、編集者と会ったり、ネタ探しのために変わったイベントに出かけたり(しかも直前まで行くのが嫌だったりする)という、そういう日々である。編集者の中には常識外れな人もいて嫌な思いをすることもあるが、逆に意気投合するような人もいる。感受性が強いこの「私」にとっては「ゆるゆる」でありながら波風が起こる毎日のようである。この作者の感受性は、どこか非常に女性的な印象を受けるが、そこがこの人の著書を魅力的にしている要因なんだろうなとあらためて感じたのであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』

# by chikurinken | 2018-10-19 07:46 |

『オレの宇宙はまだまだ遠い』(本)

オレの宇宙はまだまだ遠い
益田ミリ著
幻冬舎

裏側から見た『すーちゃんの恋』

b0189364_17583281.jpg 『すーちゃん』シリーズ第5弾はまだ出ていないと前回書いた(竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』参照)が、実はこの本、『すーちゃんの恋』の続き……とは言えないが、スピンオフの話である。したがって『すーちゃんの恋』の後に続けて読むと楽しめる。第5弾ではないにしても、第4.5弾ぐらいの位置付けになるのではないかと思う。
 どういうことかというと、『すーちゃんの恋』に出てきてすーちゃんが恋をする相手、地味な土田さんが主人公で、土田目線で話が展開する。その中ですーちゃんとの出会いも出てくるため、裏側から見た『すーちゃんの恋』というような立ち位置である。この土田という人も、すーちゃん同様、周りの人々に優しく、自己犠牲を厭わないようなタイプの、「ロハス的」とでも言えそうな(そんな言葉はないが)好人物である。毎日を一生懸命過ごしながらも、こんな自分で良いのかというような哲学的自問を繰り返すのは、すーちゃん同様。がんばれ若者!などと励ましたくなる素朴な存在である。
 また、すーちゃんがいなくなった後のカフェの変容にもついても利用者の目線(土田の視点)で触れられていて、少しホッとする。他にもあちこちに工夫があって、著者の益田ミリも本人役(?)として話の中に現れるという趣向もなかなか面白いと思う(少しやり過ぎな感じはあるが)。さらには、主人公が書店員であるために、話の中でいろいろな本が紹介されていくんだが、これも楽しい工夫である(巻末にそれぞれの本の一覧まである)。
 本書の最後に付いている番外編は、『すーちゃんの恋』にあった番外編と同様のシチュエーションを土田の立場から描いていて、これもあの本と比較するとなかなか楽しい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』

# by chikurinken | 2018-10-18 07:58 |

『すーちゃんの恋』(本)

すーちゃんの恋
益田ミリ著
幻冬舎

思わず感情移入してしまう魅力的な登場人物

b0189364_18253337.jpg 『すーちゃん』シリーズ第4弾。『どうしても嫌いな人 すーちゃんの決心』を読んだら、すーちゃんがその後どうなるのかが非常に気になる。というわけでこの第4弾は、転職後の話。どうしても受け付けられない同僚に耐えられなくなりカフェをすっぱり辞めたすーちゃん。その後無事に保育園の給食担当として就職する。女性ばかりの職場で、これまで以上に出会いがなくなった彼女であったが、新たな出会いがある。それが書店員の土田さん。でも土田さんには既に彼女がいた。しかし土田さんもすーちゃんのことが気になる。さあどうする?というような展開になる。が、残念ながらこの本では2人(3人)がどうなるか決着は付いていない。この後は第5弾でどうぞ……ということなのかも知れないが、今のところ第5弾は出ていないのだった。
 すーちゃんと土田さんとの初期のやりとりは、なかなかリアルで共感できるが、(僕から見ると)少し恥ずかしいような部分もある。だがこの主人公のすーちゃん、幸せになってほしいと思わず願ってしまうような素敵なキャラクターである。そのためにどうしても感情移入してしまう。感じの良いこの土田さんと何とかうまくやってほしいと考えてしまうのであった。他に出てくる登場人物(保育園の園長先生夫妻など)も大変感じが良くて、この本については(『どうしても嫌いな人』を読んだときよりもずっと)穏やかな気持ちになる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』

# by chikurinken | 2018-10-17 07:25 |

『どうしても嫌いな人』(本)

どうしても嫌いな人 すーちゃんの決心
益田ミリ著
幻冬舎

すーちゃんにエールを送りたくなる

b0189364_16030332.jpg イラストレーター、益田ミリによるマンガ、『すーちゃん』のシリーズ第3弾。これも形式は『すーちゃん』と同じで、4コマ・マンガではないが、1ページあたり4コマ×2列で、7ページで1話という構成。当然絵も同じで、『結婚しなくていいですか。』同様、全部まとめて合巻にしてもまったく違和感はない。
 今作は、嫌いな同僚に悩むという話。今回の準主役はいとこのあかねちゃんで、彼女も同じく職場の困った同僚に悩んでいる。この2人の困った同僚は、確かに実際にいそうな人物で、こういう奴が近くにいたら相当なストレスになるのは必至という存在。モデルがいるんじゃないかというくらいリアルなキャラクターで、相当不愉快である。特にすーちゃんの同僚は、鈍感人間にありがちな図々しさで、こちらが開いた心にズケズケ入ってきて散らかしまわして早々に去っていくというタイプの人物で、こういうのが身近にいたら確かに参ってしまいそうである。すーちゃんは実際にかなり参ってしまう。僕自身はこのすーちゃんの感性、要するにこの著者の感性ということになるんだろうが、非常に好きで、こういう人とは友達になれそうな気がする(向こうからは嫌がられるかも知れないが)。
 で、すーちゃんみたいなおとなしめの人が、こういう困った人にどのように対処したら良いかというと、実際のところ世間で良く言われるような処方箋というのはないわけで、すーちゃんはおそらく非常に妥当な決断をする。そうなっちゃいますね……と思わず頷くが、何だか納得いかないような気もする。これはすーちゃんの立場からするともっとそうなんだろうが……と、このように非常に感情移入してしまいました。そういう意味でも、良いマンガだと思います、はい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』

# by chikurinken | 2018-10-16 07:02 |

『結婚しなくていいですか。 』(本)

結婚しなくていいですか。 すーちゃんの明日
益田ミリ著
幻冬舎

30代女性にとっての結婚

b0189364_16393406.jpg イラストレーター、益田ミリによるマンガ、『すーちゃん』の続編。これも形式は『すーちゃん』と同じで、4コマ・マンガではないが、1ページあたり4コマ×2列で、7ページで1話という構成。当然絵も同じで、『すーちゃん』と合巻にしてもまったく違和感はない。
 主人公のすーちゃんはカフェの店長。友達の美人のまいちゃんは結婚しているという状況。結婚していると疎遠になるのか、今回の巻にはまいちゃんはあまり出てこない。すーちゃんはヨガを始めて、そこでばったり昔の先輩のさわ子さんに会う。さわ子さんはもうすぐ40歳になる独身女性で、母、母に介護されている祖母との3人暮らし。40歳前のさわ子さんと、親から結婚をせっつかれるすーちゃんが今回の主役になる。すーちゃんにとっては、結婚はともかく自分の将来像、つまりひとりぼっちの老後というのも非常に気になって気が落ち込んだりする。
 こういうのはよく聞く話ではあるが、しかしこのマンガからは、当事者の感情が読み手によく伝わってきて、大変説得力がある。結局のところ将来に対する漠とした不安ということになり、それは結婚していてもしていなくても概ね同じではないかと思うが、それでも未婚の女性にとってはそれが結婚に直結するというのもよくわかる話。結婚しないという意志を決めることもそれなりに決断が必要になるし、結婚したくても実際には簡単に行かない。複雑な女性心理である。絵がシンプルなだけに、登場人物の内面が伝わりやすいということもあるのだろうか。30代女性のいろいろな問題、それに対する感情が直に迫ってきて、リアルな印象を受ける。『すーちゃん』同様、若い女性も大変だ……とつくづく感じるのであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』

# by chikurinken | 2018-10-15 07:39 |

『すーちゃん』(本)

すーちゃん
益田ミリ著
幻冬舎文庫

若い女性もいろいろ大変だ

b0189364_18172528.jpg イラストレーター、益田ミリによるマンガ。4コマ・マンガではないが、1ページあたり4コマ×2列で、7〜8ページで1話という構成。元々何かの雑誌に連載されていたものかと感じたが、書き下ろしのようである(未確認)。
 へのへのもへじ並みのシンプルな絵で、動きもほとんどなく、描くのに時間がかかっていなさそう。スクリーントーンは貼ってある。これで内容がつまらなかったら誰も見向きもしないんだろうが、絵からは想像できないほど内容は充実していて、いちいち考えさせられるところがある。
 主人公は、都会暮らしの30台前半の独身女性、すーちゃんで、正社員としてカフェに勤務。基本的には他人に優しく接する人であるが、自分の中では自身をもっと良い人間に変えたいと思っている。職場では他の人間にあまり立ち入らないよう立ち入らせないように振る舞っている。近所に住む友達のまいちゃんが、心を許せるほぼ唯一の存在。そういうすーちゃんが日常を送る様子が本当に淡々と描かれるんだが、すーちゃんもまいちゃんもかなり繊細で、結婚プレッシャーや他人の心ない言葉で傷ついたりする。独身女性はこんなに大変なのかと思うが、若いうちは確かにこういったことで傷ついたり他人をやっかんだりしていたなと思う。一方で将来が暗く思えたりもするし、生きていくのもいろいろ大変だと思う。主人公たちのいろいろな感情や情念が伝わってきて、そして彼女たちの性格や人格が、この単純化された絵とよくマッチしていて、このシンプルな絵が逆に魅力的になってくる。
 なおこのマンガ、この後シリーズ化され、何点か続編が出ている。また、映画化もされているらしい。すぐに読めるんで図書館で続編を借りて読んでみようかなどと思っている。すーちゃんとまいちゃんのその後も非常に気になるし……(なお、この『すーちゃん』では、すーちゃんが勤め先のカフェの店長になり、まいちゃんが結婚する)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』
竹林軒出張所『大家さんと僕(本)』
竹林軒出張所『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。(本)』
竹林軒出張所『家に帰ると妻がカフェをやりたがっています。(本)』

# by chikurinken | 2018-10-14 07:17 |

『長い道』(本)

長い道
こうの史代著
双葉社

道≒すず

b0189364_19482828.jpg のんびりおっとりした若い女性「道」が、遊び人の若い男「荘介」と、親同士が飲み屋の席で約束したせいで結婚することになった。その結果、道が荘介の家に転がり込むことになる。まったく道が好みではないために結婚に乗り気ではない荘介と、なぜかわからないがそのまま居着いてしまう道との奇妙な同居生活が続く……それが1話3〜4ページで完結するというマンガがこれ。元々は雑誌に連載していたもので、なんでも著者の最初の非4コマ・マンガの連載だったそうで、反響もあまりなかった(つまり制約も少なかった)ために自由に楽しく描いた作品だそうな。このマンガ自体も、道同様、何だかのんびりおっとりしている。
 主人公の道は、同じ著者の『この世界の片隅に』の主人公「すず」と非常によく似たキャラクター設定で、少し抜けていて誰からも愛されるような人物像である。道の独特の性格に荘介も徐々に惹かれていくというか情が湧いていくというか、そういう流れになるが、設定自体がかなり荒唐無稽であるため、わかったようなわからないような雰囲気が最後まで漂う。
 回によっては、タッチが変わっていたり、あるいはまったくセリフなしで話を進めていたりしており、「自由に楽しく描いた」というのが窺える。ただセリフなしの回は、物語の挿絵が並んでいるような感じで、内容がわかりにくいところも多い。
 話は(やや変わってはいるが)新婚生活を描いており、『この世界の片隅に』と似た感じの雰囲気もある(特に主人公がほぼ同じだし。もちろん夫のキャラはちょっと違う)。それに登場人物の中には意地悪な小姑まで出てきて、このあたりも『この世界の片隅に』同様。『長い道』を戦中の環境に置き換えたのが『この世界の片隅に』だという見方もできるかも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『貧乏まんが(本)』
竹林軒出張所『この世界の片隅に(映画)』

# by chikurinken | 2018-10-13 07:48 |

『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』(本)

よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話
いしいさや著
KCデラックス ヤングマガジン

「エホバの証人」の内実がよくわかる

b0189364_18534350.jpg 街中を数人の女性(男性もいる)が日傘を差して無表情で歩いているのをよく見かける。お察しの通り、彼女らは一軒一軒訪問して「宗教」のお話をしたいなどと言い、ほとんどの場合門前払いを食うのだが、まったく意に介さずという感じて次の家に赴く。ご存知、宗教組織(カルト認定している国もあるらしい)「エホバの証人」の信者たちで、夏の炎天下を幽霊のようなたたずまいでフラーッと歩いているのを見ると、この人たちは一体何なんだろうかと感じてしまう。
 このマンガは、母親が「エホバ」の信者で、子ども時代、それに伴われて布教活動を行っていたという作者が、その子ども時代を回顧して描いたもの(まさにタイトル通り!)。母に連れられて、奉仕(例の勧誘ね)や集会に行き、学校の行事(運動会など。闘うことがダメなんだそうだ)もものによっては参加できない。本人としては辛い生活だったようだが、母が主導するので反対はできない。そういう状況が具体的に描かれるため、状況がよく理解できる。
 母(および信者)は、死んだ後「楽園」に行けると信じてこういう活動をしているらしい。神、エホバがいずれ悪い人間、悪いことをすべて滅ぼして(今日本で頻発している災害もこの種のものらしい。被害者は「悪い人間」か……)、良い人間のみが地上の楽園に永遠に楽しく暮らすことができるという信仰である。善悪という二元論が幼稚な発想である上、人間中心で実に身勝手な考え方だと思うが、要は一種の原理主義と言っても良いのではないかと思う。この母は信じているんで多少の苦行は我慢できるだろうが、それに付き合わされる周囲の人間は堪ったもんではないだろうなと思う。
 この話の主人公の「さや」も終始母の態度とエホバの教義に疑問を感じているが、一方でさやの父も信者ではなく、母の信仰に対しては冷ややかなようである(そういう風に描かれている)。この父はさやに対しては非常に優しく、そのあたりは表情だけで非常にうまく描かれている。母の冷たさ、無表情さも描写がうまいため、最初のエピソードを読むだけで、この母の態度にギョッとする。著者の技術の高さゆえと言える。
 このマンガは元々、著者が活動を止めた後罪悪感に責めさいなまれ、そのために認知行動療法の一環として描き始めたものだという。それをインターネットで発表したところ非常に受けて、その後『ヤングマガジンサード』に連載されるという運びになったものであり、動機は非常に純粋である。それに「エホバの証人」の信者の生活や思考、カルト信者の周辺の人々の混乱などが丁寧に描かれるため、ルポルタージュとしての価値も高い。
 実は、僕の中・高時代のある同級生(女子)も「エホバ」の家の子どもで、ウチに勧誘に来たこともある。それに彼女、修学旅行でも東大寺に入らなかったりしていた(何しに行ったんだかわからない)。宗教者というものはそういうものかと最近まで思い込んでいたが、クリスチャンでも普通に寺や神社に参拝しているのを最近目にして、彼女らが極端だったのがわかったのだった。そういう点では僕も「彼女のせいで」大きな誤解を与えられていたということになる。もっと近い場所に信者がいたら、本書の著者のようにさぞかし大変なんだろうなと思う。
 絵は丁寧だが、三段組みであるため、少々スカスカの印象がある。そのため、情報量が全体的に少ないが、それでもキャラクターの描写がうまいため、表情や仕草による情報量は多いと言える。したがってすぐに読み終わるが、内容は充実している。良い内容の本であると思う。こういう「良い」本は、きっと「楽園」に行けるだろう(よく売れるだろう)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』
竹林軒出張所『さよなら、カルト村(本)』
竹林軒出張所『カルトの思い出(本)』
竹林軒出張所『酔うと化け物になる父がつらい(本)』
竹林軒出張所『人間仮免中(本)』

# by chikurinken | 2018-10-12 07:53 |

『勝負 名人への遠い道』(ドキュメンタリー)

勝負 名人への遠い道(1981年・NHK)
NHK総合 NHK特集

古い演出が気になるが
面白い題材ではある


b0189364_21010236.jpg プロの将棋棋士になるには、養成機関である奨励会に通わなければならず、今のプロ将棋棋士は皆奨励会出身者である。奨励会は、6級から始まり最上位が三段。どこから入るかは、人によって異なるが、普通は6級から入って、リーグ戦を勝ち抜き少しずつ昇級していく。なおこの奨励会に入ること自体、かなりの難関で、全国から精鋭が集まって切磋琢磨しているというイメージで捉えると良い。最上位の三段の奨励会員は、三段リーグというリーグ戦を戦い、ここで好成績を収めると晴れて四段、つまりプロ将棋棋士になることができる。そのため、実力的にはほぼ同等だとしても、三段と四段の間には雲泥の差がある。この奨励会だが、実は年齢制限があって、その年齢に達する前に規定の段位に達しなければ退会しなければならない。そのため、この年齢制限を巡っていろいろな葛藤があり、そこでドラマが生まれるというわけだ。
 1981年に作られたこのドキュメンタリーは、年齢制限間近の1人の奨励会員、鈴木英春(えいしゅん)に密着するというもの。この鈴木氏、撮影当時30歳で、当時の奨励会には30歳までに四段に昇段できなければ退会という規定があった(現在は異なる)。つまり勝ち抜けなければ、これが最後の三段リーグになるという状況である。ちなみに当時、最強の名人だったのは中原誠で、33歳。この撮影の際は、名人戦(中原の防衛戦)を闘っていた。鈴木氏はかなり若い頃から奨励会にいたため、おそらく奨励会でも中原と顔を合わせているのではないかと思う。この栄光まっただ中の1人と崖っぷちの1人というのが好対照になっていて、そのあたりがこの番組の演出の妙である。
 ドキュメンタリー自体は、今ではあまり見られないような、ゆっくりで静かな映像が続く。説明が非常に少ないという印象で、ドラマであるかのような演出である。ただ少しやり過ぎという感もある。何しろ対局中の映像にスロー映像や接写を多用したりまでしている。
 で、結末を言ってしまうが、この鈴木氏、案の定というか予想通り、三段リーグで規定の勝ち数が得られず、プロ棋士を断念せざるを得なくなる。今までの人生のすべてをかけてきたプロ棋士の夢がなくなってしまい、当然のことながら、虚無の状態が続くという風になる。ただ、このドキュメンタリー、最後の最後になかなか粋な演出を用意している(ばらしてしまえば、鈴木と中原との対局)。
 なおこの鈴木英春氏、その後、アマチュア棋士のタイトルを取ったりして、アマチュア棋士の中では結構有名な人らしい。いろいろな戦法も編み出しているようで、今の将棋界にもそれなりの足跡を残しているようである。プロになるだけがすべてではないということがわかって面白い(プロ棋士の中にも冴えない人はいくらでもいる)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『聖の青春(本)』
竹林軒出張所『聖 ― 天才・羽生が恐れた男 (1)〜(7)(本)』
竹林軒出張所『ヒカルの碁(1)〜(23)(本)』
竹林軒出張所『将棋の解説者』
竹林軒出張所『将棋中継の聞き手』

# by chikurinken | 2018-10-10 07:00 | ドキュメンタリー

『離婚の泥沼』(ドキュメンタリー)

離婚の泥沼
(2016年・英Minnow Films)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

揉め事にはウンザリするが
緊迫感があって見応えはある


b0189364_17290905.jpg 離婚した英国の元夫婦が、子どもの面会について、調停人を交えて話し合う場を設けた。その場にカメラを入れ、その調停の過程に密着するドキュメンタリー。彼らの結婚生活や来し方などもあわせて紹介される。
 調停の場には、元夫側は現在の結婚相手、元妻側は彼女の母親も参加する。現在の結婚相手がこういった場に出てくること自体結構問題じゃないかと思うが、案の定、この女性が元妻をなじったりするため、双方エスカレートして罵り合いになる。第三者的に見れば実にくだらない状況に見え、問題をテーマ(この場合、子どもを元夫にどの程度会わせるか)に絞って話し合えば良いじゃないのと思うが、当事者はそうは行かないらしい。最終的に双方が少し冷静になって、ある程度の決着を見るが、一段落した後も問題は再燃し、再び話し合いの場が設けられるという具合に話が進む。結局、現在の結婚相手が関わらない方が良いというような当たり前の結論に至ったようだが、第三者の目には、正直実にあほくさい紛争に映る。それにこの元夫にもかなり問題があるように感じたが、それはまた別の話。
 この調停には、出席者の顔ぶれや議事の進行方法など、開始前からかなりいろいろな問題がある。その結果として、話し合いの場では、感情にまかせて突っ走らないよう気をつけながら、テーマを絞って、要件だけについて話すようにしなければならないというような条件が逆照射される。それを考えると、このドキュメンタリー自体が一種の反面教師になっている。ただ、カメラの立ち会いを認めて世界中に自らの恥部をさらしたこの元夫婦に対しては、そういう部分限定で敬意を表したいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『エロティシズム(本)』
竹林軒出張所『ウホッホ探険隊(映画)』

# by chikurinken | 2018-10-09 07:28 | ドキュメンタリー

『Peace』(ドキュメンタリー)

Peace(2010年・Laboratory X)
監督:想田和弘
撮影:想田和弘
ドキュメンタリー

淡々とした日常風景

b0189364_19483790.jpg これも想田和弘の「観察映画」。ナレーションも音楽もない。ただ淡々と目の前のことをカメラに収める。
 今回被写体になったのは、想田氏の岳父母(妻の両親)、柏木夫妻である。二人とも岡山市在住で、ボランティアで障害者の送迎を行っている。ただこの仕事、あくまでボランティアである。利用者からガソリン代だけを受け取っており、自治体からの補助金などもない。当然収益はない。仕事は別にやっているのかよくはわからないが、福祉関係の仕事を続けていた(いる?)ことは、義父の話から窺える。
 利用者を訪問し送迎するシーンがこの作品の主要部分になるが、一方で彼らの家にやって来るたくさんの猫も、もう一つの柱になっている。自宅で飼っているふうな猫もいるが、家に上げている映像はなく、実際には餌をやっている程度の飼い方のようだ。中には野良猫も混ざっている(義父は「泥棒猫」と呼んでいる)。そういった日常風景が淡々と映し出される。
 淡々とした日常風景以上のものはなく、これで映画になるのかというような映像ではあるが、見ていてそれなりに面白いのが不思議。タイトルは「Peace」だが、平和を大きな声で訴えるというような映画ではない。この淡々とした日常が平和(Peace)であると言われれば確かにそうなのかなとも思う。登場する利用者の中に末期の肺がんの人がいて、その人が吸っていたタバコがピース(Peace)だったが、まさかそれがタイトルの意味ではあるまい。
 ともかく描かれるのは、市井の人の淡々とした日々で、大した感想も出てこないが、しかし先ほども言ったように75分間まったく飽きなかったのも事実である。そのあたりは想田監督の手腕と言えるのかも知れない。
2011年香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『精神(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『選挙(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『選挙2(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-10-08 07:48 | ドキュメンタリー

『選挙2』(ドキュメンタリー)

選挙2(2013年・Laboratory X)
監督:想田和弘
撮影:想田和弘
出演:山内和彦、山内さゆり(ドキュメンタリー)

冗長で無駄に長い

b0189364_15250516.jpg 2005年に、川崎市議会議員選挙に立候補し当選した山内和彦氏が、2011年再び同じ選挙に出馬する。その選挙活動の様子を追ったドキュメンタリーがこの作品。前回の選挙は、ドキュメンタリー映画『選挙』で描かれていたが、今回はその続編に当たる。
 前回は外部の人間がいきなり(自民党に代表される)日本型選挙の現場に入ったときにどう感じるかという視点がテーマだったが、今回は、普通の人間が普通の感覚で日本型選挙を戦うとどうなるかという実験的な「観察映画」である。「実験的」と言っても、製作者側は単に山内氏に密着し、他の候補を含む選挙の様子を撮影するだけで、実際に「実験的」なのは山内氏である。かつては落下傘候補として自民党議員になったが、その次の選挙では推薦を受けられなかったのか(あるいは他の自民党議員への義理があったのか)結局出馬せず、一般人として過ごしていたが、2011年の福島原発事故で(国民が騙されていたことについて)憤りを覚え、その憤りを人々に表明したいという動機で急遽出馬を決める。そのため選挙活動もおざなりで、ポスターを張って選挙ハガキを送るだけで、街頭演説もほとんどしない(最終日に放射能除去作業者のコスプレをした状態で数回だけ街頭演説を行った)。ときどきポスターの掲示板をまわって剥がれているポスターを張り直すという活動がメインで、撮影者はそれに同行して取材する。したがって動きはあまりなく、山内氏の聞き語りが中心になる。他の候補に対するコメントや、福島原発事故対策や原子力行政への憤りなどが語られるが、これがこのドキュメンタリーの一番面白い部分と言っても良い。なんと言っても山内氏の魅力がこの作品のミソである。
 ただし、この程度の活動で選挙を勝ち抜こうというのは虫が良すぎるのは誰の目にも明らかで、もちろん彼の言っていること、つまり名前を連呼したり街を歩いている人に握手を強要したりすることはおかしい、政策を主張すべきだというのはきわめて正論であり同意するが、実際に名前と顔が知られないことには、票が集まるわけがないじゃないかというのは第三者的に見れば明らかで、本人も言っていた「青島幸男なみ」の活動では、一般人が当選するには無理がある。前の作品(つまり『選挙』)による知名度を少々過大評価しすぎたのでは……と僕自身は感じた。結果は当然落選である。
b0189364_15251131.jpg このときの選挙は、東日本大震災の直後で自粛ムードが漂っていたことから、当初はどの候補者も名前を大音量で連呼することはあまりなく、街頭演説も控え目で、非常に穏やかで「正常な」感のある選挙だったが、数日過ぎると案の定堰を切ったように「正常化」した。山内氏が訴えるような、政策を主張してそれを有権者が吟味するというような選挙は今の日本では決して起こり得ないということが、この過程を通じて徐々に明らかになってくるのがなかなか虚しい。そもそも日本の有権者のほとんどは、個人的な利害が絡んでいない限り選挙になんか関心がない。個人的な利害がある人ばかりが選挙に参加するため、利益誘導型になってしまう。システムを抜本的に変えない限り、選挙互助団体である自民党や公明党がいつまでも勝ち続けるのは目に見えている。そういうことをあらためて思い知らされるドキュメンタリーであった。
 ドキュメンタリー自体は、日常風景の撮影が非常に多く、無駄に長いという印象である。なんせナレーションがないドキュメンタリーが、2時間半を超えるのである。途中他の候補者(自民党)から撮影するなとクレームが来たりして緊迫する場面があったが、こういうシーンが続かなければ2時間以上もドキュメンタリー映画を見続ける元気はない。なお、僕は自民党についてはまったく共感を覚えていないが、彼らの(撮影を拒否するという)主張については一理あると思う。ただ映像化されると、カメラに対するクレームがいくら正論であってもその人が悪者に見えてしまうのは世の常で、この作品でもご多分に漏れない。映して欲しくないという人を撮影する(その上、映画作品という形で残す)のは、映像という名の暴力であると思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『選挙(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『精神(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『Peace(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-10-07 07:24 | 映画

『選挙』(ドキュメンタリー)

選挙(2006年・Laboratory X)
監督:想田和弘
撮影:想田和弘
出演:山内和彦、山内さゆり(ドキュメンタリー)

日本の異様な選挙について

b0189364_17181392.jpg 以前NHKの『BS世界のドキュメンタリー』で短縮版(ピーボディ賞の受賞対象はこの番組らしい)が放送されたときに見て、その後劇場公開時にこのフルバージョン(120分版)を見た。ということで今回で見るのは3回目ということになる。
 このドキュメンタリーの主人公、山内和彦という人は、川崎市議会議員補欠選挙において、自民党の公募候補として採用されて出馬したいわゆる落下傘候補。そのまったくの選挙素人である山内氏が、選挙に出馬して奮闘する様子を密着撮影したのがこの作品である。ナレーションは一切無く、ただ淡々と選挙準備、選挙活動、選挙後が映像で紹介されるという作品。
 とは言うものの、選挙活動などというものは一般人にとってはまったく縁遠い世界であるため、その様子は非常に興味を引く。特に日本独特と思われるあの名前連呼型の独特の選挙運動は、こうやって内部の目で映像化されるとその異様さが一層目を引く。ましてや舞台になるのが自民党の選挙事務所である。山内がこのドキュメンタリーの中で語っているように、自民党は体育会的で、上下関係や義理人情に結構うるさい。自称「文化系」の山内が感じている違和感は見ているこちらにも伝わってきて、自民党、ひいてはそれを支持する日本人の体質が見えてくるようである。山内が自民党の先輩達にやたら怒られたりするんだが、さながら自分が責められているようで、思わず感情移入してしまう。
 また同時に、自民党が、信条や思想云々で集まっている政党と言うより、選挙互助会であるというのも映像から見えてくる。この選挙では、補欠候補である山内を助けるために、同じ自民党に属する川崎市会議員や、その支持者らが集まってきて、山内の選挙活動を支援している。次回以降の選挙では、彼らは皆、山内と票を争うライバルになるにもかかわらずである。そういう部分に、自民党、あるいは日本人の特質が見えてくる感じがする。
 僕が最初に見た短縮版は、『BS世界のドキュメンタリー』の「世界の選挙」みたいなシリーズで放送されたもので、多分に海外で見られることを意識させられるシリーズだったんだが(実際に200カ国近くでテレビ放映されたらしい)、そのことを知っていたため、自分自身もやや客観的な視点で日本の選挙に接する機会が得られることになった。実際にこのドキュメンタリー自体、日本の選挙を客観的に捉えており、日本の自称「民主主義」選挙のサンプルとして非常にユニークな存在になっている。同時にこれが世界で公開されることに一抹の恥ずかしさも感じる。もう少し日本の選挙制度、政治システムも何とかできるんじゃないかと思ってしまうが、あのアメリカの大統領選挙みたいなクレイジーなのも勘弁してもらいたいところではある。
2009年ピーボディ賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『選挙2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『精神(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『Peace(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『日本の異様な結婚式について(ラジオドラマ)』

# by chikurinken | 2018-10-06 07:17 | ドキュメンタリー

『ファンタスティック・プラネット』(映画)

ファンタスティック・プラネット(1973年・仏、チェコ)
監督:ルネ・ラルー
原作:ステファン・ウル
脚本:ローラン・トポール、ルネ・ラルー
アニメーション

映像がファンタスティック

b0189364_17160263.jpg 一部で伝説的な存在になっているSFアニメ映画。
 未来社会が舞台だと思われるが、地上では人間(と似たような種族)はすでに弱者になっている。世界を支配しているのは、ドラーグ族という(人間から見て)巨人族で、しかも高等文明を持つ。人間は、ドラーグ族にあるいは愛玩されたりもするが、基本的に駆逐されるべき存在である。人間族は、異常な速度で繁殖することからドラーグ族にとって厄介な存在になっており、それを勘案すると現代社会におけるネズミみたいな存在と言えるのか。その人間族が、いよいよドラーグ族に撲滅させられそうになり、それで反乱を起こす……というようなストーリーになる。
 今ではSFで良くあるストーリーと言えば言えるが、この映画は元祖みたいな存在かとも思う。それに何より、映像が非常にユニークで、奇妙な生物、植物が次々に登場して、相当な気持ち悪さも漂う。しかしそうは言ってもユニークであることには変わりなく、そのあたりは『エイリアン』のギーガーを思わせるような部分もある。いずれにしても、キャラクター・デザインはかなりのものである。映像の芸術性も高く、やはり独特の映像がこの映画の一番の魅力で非常に「ファンタスティック」である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ラ・ジュテ(映画)』

# by chikurinken | 2018-10-05 07:15 | 映画

『パピヨン』(映画)

パピヨン(1973年・米仏)
監督:フランクリン・J・シャフナー
原作:アンリ・シャリエール
脚本:ダルトン・トランボ、ロレンツォ・センプル・ジュニア
出演:スティーブ・マックイーン、ダスティン・ホフマン、アンソニー・ザーブ、ロバート・デマン

過酷で壮絶な脱獄映画

b0189364_17041169.jpg 脱獄映画。主演は『大脱走』のスティーブ・マックイーン。
 脱獄映画は数あれど、この映画の舞台である南米ギアナのデビルズ島は、脱獄の難易度がもっとも高いと言える。こんなところから無事脱出するなんてあり得ないと序盤では思わされるが、それをやってのけるから映画になる。だからといってリアリティの欠片もないなんてことはない。あちこちに予想外のエピソード(たとえばハンセン氏病で隔離されている男や先住民たちの支援など)が出てくるため、リアリティがないなどという考えは一切浮かばない。それもそのはず、この映画の原作者、アンリ・シャリエール自身が、かつてこの刑務所に収容されており、9回脱獄を試み、9回目に成功させているらしい。つまり原作は、実話を基にした小説と来ている(ただし映画とは少々ストーリーが異なっているようである)。映画で描かれる刑務所内の様子や脱獄の過酷さは壮絶の一言で、真に迫っている。脱走映画ならこれくらいのリアリティは欲しい。
 キャストは、どの役者も好演で、特に主演の2人(スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマン)は非常に魅力的である。監督のフランクリン・J・シャフナーは、原作ものばかり撮っている人だが、どの映画を見てもキャストが魅力的に映る。演出はきわめて正攻法で、「職人芸」という言葉が当てはまるような印象がある。この映画も大変よくできた作品で申し分ないんだが、他のシャフナー作品同様、結局エンタテイメントで終わってしまっているのが、少々物足りないような……。もちろんそれ以上を求めるのも無理があるということは承知ではあるが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『網走番外地(映画)』
竹林軒出張所『パットン大戦車軍団(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』

# by chikurinken | 2018-10-04 08:03 | 映画