草の大地に生きる —ある放牧酪農家の人生—
(2025年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集
新企画定点観測ドキュメンタリーの予感
北海道足寄町の酪農家・吉川友二氏に密着するドキュメンタリー。
この吉川氏、若い頃牧場でバイトし、その際に牛舎で管理する集約的な酪農に疑問を持ったことをきっかけに、酪農に本格的に関わることになる。ニュージーランドの牧場での修行を経た後、自ら足寄に渡って、放牧式の酪農を始めることになった。同じ頃、足寄の集約的酪農が採算が取れず壊滅状態だったこともあって、放牧地を拡大し現在に至る。もちろん放牧地は当時荒れ地だったこともあり、開墾には労力も年月もかかったようだが、理想の酪農を行うために奮起したのだった。

その後、放牧酪農に関心を持つ若者たちも研修生としてこの吉川牧場(「ありがとう牧場」)にやってきては独立していき、吉川氏の放牧酪農も少しずつ足寄だけでなく全国的に拡散しているという状況である。さらにはあるチーズ職人が「ありがとう牧場」の牛乳を気に入って、近所にチーズ工房を作り、この牧場の牛乳を使ってチーズ作りを行っているというようなケースもあり、この「ありがとう牧場」の周辺が、村のようになって放牧酪農産業が広がっているという。
その吉川氏もすい臓がんになり、今年になって死去した。「ありがとう牧場」は長男が継ぎ、いろいろと難渋しながらも放牧酪農を続けている。吉川氏はいなくなったが、彼が残した放牧酪農村は存続し、おそらく今後も拡大するだろうというところで番組は終わる。

撮影は数年間に渡っており、吉川氏の元気なとき(がんが発覚する以前)から死去後までが映像に捉えられたドキュメントで、期間は短めだが定点観測ドキュメンタリーとして成立している。さらに今後数年に渡って取材を続ければ、放牧酪農村にもいろいろな変化が出てくることになり、結果的にこの村のドキュメントとして大いに価値を持つ作品ができあがることになると思われる。製作関係者には、是非今後も取材を続けていただきたいものである。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『山懐に抱かれて(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『夢は牛のお医者さん(映画)』竹林軒出張所『五島のトラさん(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ハッピーヒル(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『フード・インク(映画)』竹林軒出張所『食について思いを馳せる本』