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竹林軒出張所

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『夜間もやってる保育園』(映画)

夜間もやってる保育園(2017年・夜間もやってる製作委員会)
監督:大宮浩一
撮影:遠山慎二、前田大和
出演:ドキュメンタリー

現実を知るためのミクロ的な視点が提供される

『夜間もやってる保育園』(映画)_b0189364_08065071.jpg 新宿で夜間保育園を運営しているエイビイシイ保育園のドキュメンタリー。
 エイビイシイ保育園は、かつて無認可の夜間保育園、俗に言うベビーホテルを運営していたが、その後都の認可を受け、認可保育園になった。ただし以前と同様、夜間も子どもたちを受け入れる夜間保育園事業も継続している。そのエイビイシイ保育園の現在に迫った作品である。中心となるのは当然エイビイシイ保育園であるが、全国のその他の夜間保育園の状況も紹介される。
 一人親世帯や夜間勤務が増えている昨今、深夜も子どもを預かってくれる保育園が必要とされる現状がある。それにもかかわらず、現在認可されている夜間保育園は80箇所で、受け入れられている子どもの数は2,500人程度。ベビーホテルは現在1,749箇所存在し33,000人程度の子どもが預けられている(平成26年度の厚生労働省資料より)ことから、必要性があるにもかかわらず満たされていない状況であることがよくわかる。つまりこちらも、昼間の保育園同様、待機児童が大量に存在するということになる。
 このデータからは、現実を直視できていない行政の姿が浮き彫りになるわけだが、ほとんどの人にとっても夜間保育園は、その実態や必要性は未知の世界である。この映画で紹介される夜間保育園の姿はそのミクロ的な姿を映し出す貴重なドキュメントであり、行政関係者や政治家もこれを見て現実を直視すべきときが来ていると感じる。
『夜間もやってる保育園』(映画)_b0189364_08065541.jpg エイビイシイ保育園では、給食を有機野菜で作ったり、母親の相談にも乗ったりしており、子どもや母親のためという目線で運営しているのが見てとれる。また保育士もやりがいを感じている様子で、子どもを預ける環境として理想的な存在という印象を受ける。また子どもたちにとっても居心地の良い環境であるように見える。同時に、このような種類の夜間保育園こそ、今現在、全国的に必要とされている施設であることがよくわかるのである。
 一方で夜間保育園に預ける親には、「育児放棄」だの「子どもがかわいそう」だの心もとない言葉が浴びせられることがあるらしい。他人の立場に立てない狭量な人々が多いのも一つの理由だが、同時に、こういう人々が現実を知らないというのも大きな原因である。多くの人に夜間保育の現実を知らしめるという意味でも、この種のドキュメンタリーが貴重な存在になる。NHKや民放放送などを通じて、もっと広く一般に公開すべき作品であると感じる。

追記:
 このエイビイシイ保育園とその園長、かつて何かの映像で目にしたような記憶があるんだが、よく思い出せない。前に見たのはこの映画が製作される以前だったはずで、もしかしたら別のドキュメンタリーで紹介され、それを目にしていたのかも知れない。これについては確認できなかった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『子どもはみんな問題児。(本)』
竹林軒出張所『子どもの未来を救え(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『セーフティネット・クライシス(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『母ちゃんのごはん(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『子どもたちの階級闘争(本)』
竹林軒出張所『みんなの学校(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『学校の「当たり前」をやめた。(本)』

# by chikurinken | 2024-10-11 07:06 | 映画

『大学は出たけれど』(映画)

大学は出たけれど(1929年・松竹蒲田)
監督:小津安二郎
原作:清水宏
脚本:荒牧芳郎
出演:高田稔、田中絹代、鈴木歌子、飯田蝶子

超短縮版だが
オリジナルの雰囲気は伝わってくる


『大学は出たけれど』(映画)_b0189364_09030801.jpg 小津安二郎が若い頃に撮影したサイレント映画。元々70分程度の作品だったようだが、現在残っているのはわずか10分程度の映像である。ただ、非常にうまく編集されているため、ストーリーが成立しており、1本の短編映画としてできあがっている。もちろん面白さはさしてないが、オリジナルの雰囲気はかなり伝わっているようで、違和感はまったくない。元々の映画もこの超短縮版とさして変わらないんじゃないかとさえ思う。それくらい、この短縮版の編集は見事である。
 主人公は大学を卒業したばかりの男(高田稔)で、現在求職活動をしているが仕事が見つからない。そんな折、田舎から母(鈴木歌子)と許嫁(田中絹代)が揃って上京してくる。母に見栄で仕事が決まったと連絡していたためである。そこから話が展開していくという流れである。
 この10分版からは、見る側に主人公の心情(失職者の辛さなど)が伝わってくるようなことはなかったが(おそらく元の作品にも表現されていなかったと思われる)、サイレント時代の映画は概ねそういったものである。当時の小津安二郎が、デビューして数年の新人監督だったことを考えると、むしろ出来の良い部類の作品だったのではないかと思う。それは、当時、この映画のタイトル「大学は出たけれど」が流行語になったことからも窺われる(当時の就職難の時代を反映したうまいタイトルだったようだ)。
 キャストは、小津映画でお馴染みの面々がすでに登場しており、笠智衆までチョイ役(カフェの客)で登場する。サイレント映画なので、演技がどうのというようなものではないが、どのキャラクターもそつなく演じられている。そのため今見ても、大げさなメイク以外はまったく違和感を感じなかった(大げさなメイクはサイレント映画時代の定番である)。
★★★

参考:
竹林軒出張所『秋刀魚の味(映画)』
竹林軒出張所『浮草(映画)』
竹林軒出張所『彼岸花(映画)』
竹林軒出張所『お早よう(映画)』
竹林軒出張所『秋日和(映画)』
竹林軒出張所『麥秋(映画)』
竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえった「東京物語」』
竹林軒出張所『青春放課後(ドラマ)』
竹林軒出張所『小津安二郎 隠された視線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『小津安二郎は生きている(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『絢爛たる影絵 小津安二郎(本)』

# by chikurinken | 2024-10-09 07:02 | 映画

『隠し砦の三悪人』(映画)

隠し砦の三悪人(1958年・東宝)
監督:黒澤明
脚本:菊島隆三、小国英雄、橋本忍、黒澤明
出演:三船敏郎、千秋実、藤原釜足、上原美佐、藤田進、樋口年子、志村喬

アラは目立つがアクションシーンは一流

『隠し砦の三悪人』(映画)_b0189364_11073836.jpg 黒澤明のアクション時代劇。今回数十年ぶりに見たが、内容はかなり憶えていた。
 2つの国の間で戦が起こり、破れた方に足軽として参加した百姓が主人公の二人(千秋実、藤原釜足)。この二人が偶然、薪に隠された金を見つけ出すが、そこに現れたのが山賊風の男(三船敏郎)。この男、実はさらに多くの金(敗戦国が隠した復興のための軍用金)をすでに見つけており、分け前を渡すからこの金を隣国まで運び出すのを手伝えという。そこで、この男の連れの聾唖の女(上原美佐)とともに、この金を隣国まで運び出すというのが主なプロット。ただし、その際、戦勝国(この金を探し求めている)の中を何とかして脱けていかなければならないという設定になっており、つまるところ敵中突破がストーリーの中心になる。
 敵中を通って財宝を運び出すことから、敵との間で摩擦が起こり、いかにしてその中を抜け出すかというあたりがストーリーの見どころになる。黒澤明と脚本家たちが集まり、敵軍と味方に分かれて双方から敵陣突破の案を出し合うという方法でシナリオが作られたということで、そのためもあってシナリオはよくできている。ただ演出上、あちこち恥ずかしいシーンが見受けられ、こういう部分がなければ良いのにという箇所は割合多い。黒澤映画にはそういうシーンが多く、もう少し抑えた演出をすれば良いのにと思うことは多いが、この作品もそれに当てはまる。さらに、音声が聞きとりづらく役者が何を言っているのかわからないシーンが多かったのも難点で、これも黒澤映画の「あるある」である。中でも雪姫(上原美佐)のセリフが一段とわかりにくく、こちらももう少し何とかしたら良いのにと思うことが多かった。セリフ回しもわざとらしさが漂い、これは主人公の足軽2人にも共通。見ていていろいろとアラが見える映画ではある。ただアクションシーンはどれも本格的で、そちらの方は大いに見どころがある。結局のところ、黒澤明はアクションというあたりに落ち着くわけである。
 ストーリーは、先ほども言ったようによくできているが、ことごとくヒューマニズムに落とし込むあたりが少しどうかと思う。ただヒューマニズムに落とし込んでいることもあり、試聴後感はさっぱりして心地良い。しばらく時間が経つと、ちょっとやりすぎだよなと感じるという類のもので、劇場でこの映画を見れば、帰りの足取りは軽快になるのは間違いない。僕自身も最初に見たのは名画座だったが、この映画の印象は結構良かった記憶がある。なんと言っても三船敏郎が快演で、三船の演技だけでも見る価値があると言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『用心棒(映画)』
竹林軒出張所『椿三十郎(映画)』
竹林軒出張所『蜘蛛巣城(映画)』
竹林軒出張所『天国と地獄(映画)』
竹林軒出張所『デルス・ウザーラ(映画)』
竹林軒出張所『羅生門(映画)』
竹林軒出張所『MIFUNE: THE LAST SAMURAI(映画)』
竹林軒出張所『リメイクもういらん党宣言』

# by chikurinken | 2024-10-07 07:07 | 映画

『夜明けの刑事 (15)、(16)(ドラマ)』

夜明けの刑事 (15)、(16)(1974年・TBS、大映テレビ)
監督:瀬川昌治、国原俊明
脚本:加瀬高之、山浦弘靖
出演:坂上二郎、石橋正次、 鈴木ヒロミツ、藤木敬士、 石立鉄男、山口いづみ、尾藤イサオ、小松政夫、常田富士男、松村達雄、新克利、吉田日出子、峰岸徹

ドラマの格は高いが
ストーリーは安直かつ予定調和


『夜明けの刑事 (15)、(16)(ドラマ)』_b0189364_09350025.jpg 50年前にTBS系列の水曜日夜8時から放送されていた刑事ドラマである。
 70年代は刑事ドラマばやりの時代。刑事ものと言えば、全体にハードボイルドタッチで、容疑者に暴力を奮いまくって拉致するような、今考えると無茶苦茶ではあるが、そういう類のドラマが多かった。このドラマは、コント55号の坂上二郎が主人公の人情刑事、鈴木刑事を演じ、その彼が主役という、他のハードボイルドドラマとは少し違った趣向だったため、異彩を放っていた。僕もほぼ毎週見ていた。
 今回見たのは、第15話「ウソの結婚・刑事はつらいよ」と第16話「ふるさとの学校の先生」の2本。特に第16話は、当時の坂上二郎のヒット曲『学校の先生』をフィーチャーした回で、チャンスがあれば見たいと思っていた作品である。正直再び見られるとは思っていなかったが、今回TBSチャンネルで放送されたものをタイミング良く見ることができた。この作では、予想通り坂上二郎の『学校の先生』が、映像を交えてほぼすべて披露される。そのシーンはさながらプロモーションビデオのようであったが、全体のストーリーは「学校の先生」というテーマに沿ってうまいこと落とし込んでいた。ただやはり予定調和であり、しかも逮捕状がないにもかかわらず被疑者を平気で逮捕ししょっ引いてくるというような場面が出てきて少しばかり引いてしまう。こういうのが当時世間に蔓延する標準的な考え方だったことを思うと、冤罪が多発するのも合点が行くというもの。空恐ろしい。
『夜明けの刑事 (15)、(16)(ドラマ)』_b0189364_09350584.jpg なおこの回については、松村達雄、新克利、吉田日出子、峰岸徹がゲスト的に登場する他、第15話については山口いづみ、尾藤イサオ、小松政夫らが登場する。『夜明けの刑事』全体を見ると、各回のゲストがかなり豪華で、山口百恵やキャロル、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドが登場している回まである。中には、中ピ連の榎美沙子が出ている回もあって、これなどはぜひもう一度見てみたいと感じる。
 このようにドラマの格みたいなものが高いというのは感じるが、やはりストーリーが安直かつ予定調和で、違和感を感じる。いい大人になった今見て楽しめるかというと、なかなかそう呑気なことを言っていられないというのが正直な感想である。
★★★

参考:
竹林軒出張所『刑事くん (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』
竹林軒出張所『男たちの旅路 第2部「廃車置場」(ドラマ)』
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『刑事(映画)』
竹林軒出張所『エルピス (1)〜(10)(ドラマ)』
竹林軒出張所『刑事ジョン・ブック 目撃者(映画)』
竹林軒出張所『完全密着 凶悪犯を捕まえろ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『正義の行方(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『時間が止まった私(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『私は屈しない 特捜検察と戦った女性官僚と家族の465日(ドラマ)』

# by chikurinken | 2024-10-04 07:33 | ドラマ

『日曜劇場 天使を乗せたタクシー』(ドラマ)

日曜劇場 天使を乗せたタクシー(1988年・北海道放送)
脚本:市川森一
演出:長沼修
出演:岩城滉一、マリア・デル・ソル、岡田奈々、織本順吉

贅沢なドラマではあるが……

『日曜劇場 天使を乗せたタクシー』(ドラマ)_b0189364_08155624.jpg これも北海道放送製作の『東芝日曜劇場』。1980年代、北海道放送は年に数本『東芝日曜劇場』を製作していたようで、これもその中の1本。どの作品も丁寧に作られており、しかも今でも再放送されることがあり、そういう意味では見上げた放送局と言える、北海道放送は。
 金に困っているスナック経営者(岡田奈々)のために、その女に惚れているタクシー運転手(岩城滉一)が奔走して500万円をこさえようとする、そのために脅迫まがいの犯罪にまで手を染めようとするというようなストーリー。スペイン舞踊なども登場して、なかなか奮った贅沢なドラマになっている。キャストも比較的豪華である。
 とは言え、ストーリーにあまり面白味を感じない上、主人公が犯罪に手を染めようとするのが何だかいたたまれなくて、あまり見続ける気にならなかったのも事実。実際、僕はこのドラマ、途中で見るのを止めている(しかも二度)。結局それほどひどい結末にはならない上、それなりの意外性があってよくできたストーリーと言えるのかも知れないが、のんびりと気楽に見られるような「日曜劇場」風のドラマではなかったこともあり、僕自身はあまり受け付けなかった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『日曜劇場 春のささやき(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 林で書いた詩(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ダイヤモンドのふる街(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ぼくの椿姫(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 春遠からじ(ドラマ)』
竹林軒出張所『私が愛したウルトラセブン(ドラマ)』
竹林軒出張所『グッドバイ・ママ (1)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『花祭(ドラマ)』

# by chikurinken | 2024-10-02 07:15 | ドラマ