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竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『本なら売るほど (1)、(2)』(本)

本なら売るほど (1)(2)
児島青著
ハルタコミックス

画力がすごい
新人とは思えない


『本なら売るほど (1)、(2)』(本)_b0189364_09120936.jpg 古本屋を営む若者が主人公の小説である。各回ごとに1冊または数冊の本がモチーフに使われ、古本屋稼業を軸に話が展開される。
 ストーリーは、中にはありきたりなものもあるが、どれもよく練られており、展開と構成もスムーズで、しかも絵も非常に美しい。実はこの作者、この本がほとんどデビュー作のようで、SNSで第1話を発表したところ、それを目にした編集者にスカウトされ、その後マンガ誌(「ハルタ」)の掲載(読み切り→短期連載→長期連載)に至ったといういきさつがあるらしい。言ってみればアマチュアあがりだが、新人とは思えないほどの画力と構成力で、まったく驚くばかりである。構成(ネーム)については編集者からかなり厳しく直しを入れられたらしく、著者はかなり苛立たしく感じたようではあるが、これだけの成果物が出てくれば、文句の付けようがないだろうと思う。
 作品の中で取り上げられる本は小説が中心であり、フィクションをあまり読まない僕には未知のものが多かったが、第6話の「青木まり子」現象(『本の雑誌』40号で話題になったもの)は、『本の雑誌』を当時リアルタイムで読んでいたためお馴染みであった。また第7話の『クシー君の夜の散歩』(懐かしい)、『童夢』、第3話の『高丘親王航海記』は、全部マンガで読んだことがある。こういうものが出てくると少し嬉しくなる。
 第3巻も今年出版予定らしく、連載もまだ続いている模様。本書は試し読みした後買って読んだんだが、全体的な水準が非常に高く、買って読むだけの価値があるマンガだと感じた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『わたしの小さな古本屋(本)』
竹林軒出張所『高丘親王航海記(本)』
竹林軒出張所『話せる古本屋(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『13坪の本屋の奇跡(本)』

# by chikurinken | 2026-01-15 07:11 |

『「壇蜜」(1)』(本)

「壇蜜」(1)
清野とおる著
モーニングKC

有名人と突然恋人になった人

『「壇蜜」(1)』(本)_b0189364_13145883.jpg 昨今、YouTubeで(広告として)ときどき目にするマンガ「壇蜜」の第1巻。YouTubeでは第1話だけが動画化されて紹介されており非常に興味をそそるが、だからといって、その広告に乗ってまんまと買ったりはしない、僕自身は。だが知り合いにそういう人がいて、まんまとこの第1巻を買ってしまったようである。こちらは、渡りに舟でそれに乗っかって、借りて中身だけ読んだのだった。面白いマンガではあったが、買うまでもないなというのが僕の所感である。
 YouTubeの動画に出てくるのはなれそめの部分で(第1話)、著者の清野とおるが、テレビ番組で共演した壇蜜から突然プロポーズされるというスリリングなエピソードが紹介されている。それだけでも十分面白いが(というよりそこが一番面白かった)、その他にも、怪奇現象が起こり続ける壇蜜の不思議なマンションのエピソードや、壇蜜の独特のノリが紹介されていく。
 人気有名人と突然恋人になるという展開の面白さは、映画やドラマでも取り上げられるエピソード(たとえば『ノッティングヒルの恋人』)であるが、それが現実であるため、その内容のリアリティは一様でない。ただ壇蜜自身が絵で描かれることから、あまり現実感が涌かない。もしかして絵空事かとも感じるが、途中、壇蜜と写っている記念写真がコマの中に出てくるため、決して絵空事でないことが実感される。
 現在第1巻のみが発売されているようで、第2巻にも興味が湧くところではある。知人がまた第2巻を買ったら読ませてもらおうと思う(さすがに僕自身は買いません)。
★★★☆

# by chikurinken | 2026-01-12 07:14 |

『お別れホスピタル (1)、(2)』(本)

お別れホスピタル (1)(2)
沖田×華著
BIG SPIRITS COMICS

終末期病棟の「あるある」……なのか?

『お別れホスピタル (1)、(2)』(本)_b0189364_09002473.jpg 終末期病棟に勤める看護師が主人公のマンガ。
 終末期病棟(ターミナル)とは、回復が見込めない患者が死期を迎えるまで入院する病棟のことで、院内では「ゴミ捨て場」とも呼ばれているらしい。そのため退院する患者は皆無で、看護師側の視点からすると、仲の良い患者も手がつけられない患者もほぼ全員死地に送り出すことになる。
 患者の中には、認知症が進んで暴れる人や複雑な家庭の事情を持つ人などさまざまな人々がおり、十人十色の人間模様がある。そういう患者の姿を描いた連載マンガがこの作品である。元々は『ビッグコミックスピリッツ』の連載で、現在も進行中のようである。また2024年にNHKでドラマ化されている模様で、僕はその存在すら知らなかったが、ドラマになりやすい素材ではあると思う。
 絵は単純化されたものであまり上手さを感じることはないが、コマ割りなどが洗練されているために、滞りなく読む進めることができる。さすが人気マンガ誌の連載作品は違うなどと感じてしまう。また描かれている内容も(病院関係者以外の)一般の読者にとっては目新しいもので、リアリティもある。こういうものに触れると、僕を含む一般読者はいろいろと考えるわけで、自分自身の末期についても思いを馳せたりすることになる。著者が元看護師ということなので、おそらく体験談や体験談の伝聞が元になっているのではないかと思う。著者には、他にも病院関連の著書があるようで(『透明なゆりかご』)、体験に基づく話がもっとも説得力を持つのは、どういう世界でも変わりない。本書の面白さはそういうところに根ざしているのではないかとつらつら考える。
 今回第2巻まで読んだが、第3巻以降も似たような話が続くことが考えられる。現在第15巻まで出ているらしいが、そんなにネタが続くものなのか疑問にも感じる。僕自身は2巻でもう十分ということで、今回はこの2冊で終了である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『おひとりさま 笑って生きて、笑って死にたい(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『在宅死 死に際の医療(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『島の命を見つめて 豊島の看護師・うたさん(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『旅立つ人と(ドラマ)』
竹林軒出張所『やがて来る日のために(ドラマ)』
竹林軒出張所『病院で死ぬということ(映画)』
竹林軒出張所『家で死ぬということ(ドラマ)』
竹林軒出張所『ラスト・ソング(本)』
竹林軒出張所『大往生したけりゃ医療とかかわるな(本)』
竹林軒出張所『思い通りの死に方(本)』
竹林軒出張所『最高の死に方(本)』
竹林軒出張所『どうせ死ぬなら「がん」がいい(本)』

# by chikurinken | 2026-01-08 09:00 |

『末期ガンでも元気です』(本)

末期ガンでも元気です
38歳エロ漫画家、大腸ガンになる

ひるなま著
POLARIS COMICS

「他人事のような明るさ」で描かれる
末期ガン闘病記


『末期ガンでも元気です』(本)_b0189364_14434693.jpg 自称「エロ漫画家(女・38歳)」の著者が、腹部に異常を感じ医療機関で受診したところ、進行中の大腸ガンが見つかり(2019年)、治療を受けて現在(2020年)に至るまでを時系列で描いたマンガ。元々はWEBコミック「COMICポラリス」に2020年7月から半年間連載していた作品である。
 近年しばしば目にするガン体験記の一種だが、本書は、絵がきわめてユニークな点で目を引く。表紙を見るとわかるように、主人公は『鳥獣人物戯画』に出てくる兎の姿で描かれ、主人公が頼りにする義姉も同じく『鳥獣人物戯画』に出てくる旅支度の兎の姿で描かれる。ガンの診断ができなかった「やぶ医者」は『鳥獣人物戯画』のとぼけた蛙の姿であるが、他の医師はリアルな姿で(かなり美化されて)現れる。夫については、覆面レスラーの姿でちょくちょく登場する(プロレス好きらしい)。絵はよく描き込まれており、水準が高い。僕が今回この本を読んだのも作画に惹かれてである。
 ある程度時間が経った時点で過去を振り返りながら描かれたものだと思われるが、内容は迫真的で、一気に読ませる面白さがある。また、著者には、ガンだけでなく、自分の実親との確執もあり(父親に壮絶な暴力を受けていたらしい)、そのあたりの扱い(病院への来訪の拒否など)もかなり目新しい情報である。
『末期ガンでも元気です』(本)_b0189364_14435061.jpg タイトルは「末期ガンでも元気です」であるが、本書発表から約2年後の2022年12月に著者は逝去する。マンガでは、内容が深刻であるにもかかわらず他人事のように明るく描かれていたため、著者が亡くなったという事実が意外な感じもするが、腸閉塞を起こしかけるぐらい大腸ガンが進行していたことから考えると、ある意味想定内ということになるのか。しかしこれだけの作品を残せる人が、B級マンガばかり描いていたというのも大変もったいない話で、残念ながら本作が代表作ということになってしまった。マンガならではの「他人事のような明るさ」で表現された本書は、ガン診断を受けた人だけでなく、これからガン診断を受ける可能性のある多くの人にとって意義のある著作になっている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『やはり死ぬのは、がんでよかった(本)』
竹林軒出張所『大往生したけりゃ医療とかかわるな(本)』
竹林軒出張所『どうせ死ぬなら「がん」がいい(本)』
竹林軒出張所『思い通りの死に方(本)』
竹林軒出張所『最高の死に方(本)』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
竹林軒出張所『大学教授がガンになってわかったこと(本)』
竹林軒出張所『近藤誠の本、5冊』
竹林軒出張所『これでもがん治療を続けますか(本)』

# by chikurinken | 2026-01-05 07:43 |

2025年ベスト

 今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんでそのあたりご理解ください。
 例によって、映画とドラマはあまり見ていない(しかも昔見たものばかりである)ため、ベストの対象は本とドキュメンタリーだけです。
(ベスト内のリンクはすべて過去の記事)

今年読んだ本ベスト5(35冊)
1.『殺人犯はそこにいる』
2.『羊皮紙をめぐる冒険』
3.『ピエタ』
4.『テロルの昭和史』
5.『ストーリーが世界を滅ぼす』

2025年ベスト_b0189364_09175239.jpg 僕が読むのはノンフィクションの本が多いんだが、3がフィクションで、1と2もスリリングでフィクションの一種と見なせるような本である。
 1.の『殺人犯はそこにいる』は、ジャーナリスト、清水潔が北関東連続幼女誘拐殺人事件の解明に挑んだ作で、評価もすでに高く、世間ではよく知られた本である。今までこの手のミステリー系と言って良いようなノンフィクションにはあまり手を出さなかったが、冤罪関連で関心が涌いたため今年になって読んでみたのだった。なんと言っても、警察が突き止められなかった犯人を特定するまでに至った、しかもそれが明らかになったにもかかわらず警察が動こうとしなかったというのが衝撃的で、ジャーナリズムの力だけでなく日本の行政組織に横たわる闇が明るみにされている点が特に印象深い。著者の緊張感が伝わってくるような迫真的な記述も大きな魅力である。
 2.の『羊皮紙をめぐる冒険』は、羊皮紙に魅せられた若者が、自ら羊皮紙を作ってみては改良し、本場に乗り込んで本物を手に取り、さらに改良を加えて、やがて羊皮紙のスペシャリストになっていくまでの過程が、少し軽い筆致で自伝的に描かれる書である。この本自体は(面白いには面白いが)軽さが気になって必ずしも好みというわけではないが、著者が他で出している『羊皮紙のすべて』という本が非常に格調高い良い本で、『羊皮紙をめぐる冒険』はその序章というような位置付けで接するとその価値の高さに気づく。マニアのパワーにあらためて感心する。
2025年ベスト_b0189364_09021955.jpg 3.の『ピエタ』は、近世ヴェネツィアを舞台にした小説で、かつて実在したピエタ慈善院を舞台にした作品。元々はAmazon Audibleで小泉今日子による朗読版を聞いており、その後この原作に当たったため、印象の中心は小泉今日子のAudible版になるが、当時の風俗が破綻なく描かれ、しかもドラマ性もあって、近年では珍しい(僕が知らないだけかも知れないが)と思わせるような立派な小説に仕上がっていた。とは言っても、僕が本書に対して抱いている好感度は、Audible版の小泉今日子の熱演あっての前提である。そういうわけで、Audible版が一番のお奨めである。
 4.の『テロルの昭和史』は、昭和史研究の第一人者、保阪正康の、これまでの研究成果を統合したようなダイジェスト的な著作で、著者が他の書で紹介してきた昭和のテロ事件を一冊にまとめたような本である。調査が細部にわたり、内容が深く、しかも本書ではそれぞれの事件の繋がりにまで論考が及んでいるため、通史として非常に価値が高い。軍部の暴走をマスコミや民衆が推し進めていった過程もよくわかるようになっていて、「軍=悪」という画一的な見方に終始しない姿勢は、歴史に対する取り組み方として見習う必要があると感じる。
2025年ベスト_b0189364_12292570.jpg 5.の『ストーリーが世界を滅ぼす』は、他人が発したナラティブ(語られたストーリー、物語)が人々の考え方に影響し、それが結果的に集団の考え方を醸成するという議論で、社会がこういったナラティブに取り巻かれ影響を受けている状況を提示している。特に現代ネット社会では、真実に基づかないナラティブがはびこって一般市民に大きな影響を及ぼしているという現実があるわけで、そういう現状を踏まえて、我々個人個人の側が受け取るナラティブに対して注意を払わなければならないと主張する。米国のノンフィクションに見られるような冗長さが前編に渡っているが、主張は明確で斬新なため、一読の価値は十分ある。

今年見たドキュメンタリー・ベスト5(60本)
1.『万年時計』
2.『印象派の夜明け』
3.『平成の名香合』
4.『AIの不都合な真実』
5.『ハルマゲドンを待ち望んで』

2025年ベスト_b0189364_08295382.jpg 今回選んだドキュメンタリーは、1〜3までが文化ドキュメンタリーである。1.の『万年時計』は、江戸時代に作られたからくり時計の複雑な構造を、CGを交えて解説するというもので、内容については言うまでもないが、優れた映像表現も特筆に値する。後世に残しておくべき映像で、保存版とも言えるような作品であった。
 2.の『印象派の夜明け』は、フランスのドキュメンタリー作品。19世紀後半にフランスで起こった印象派の運動を、それが発生した背景から、その運動が後世にもたらした影響に至るまで、ドラマ仕立てで再現したドキュメンタリーである。中でも、作家に似た俳優を起用して再現したドラマ風の映像が非常によくできており、しかも、第1回印象派展を学術的な視点に基づいて再現するなど、地味だが目を瞠るような演出もある。これも保存版と言える作品である。
2025年ベスト_b0189364_08461639.jpg 3.の『平成の名香合』は、2009年にNHKで放送されたドキュメンタリーで、数十年ぶりに実施された香道の行事、名香合について、主宰者、参加者に密着して、レポートするというもの。通常であれば接することがない非常に特異な世界に、映像を通じて接することができるという点で、これも価値が高い。先の2本の作品とあわせて、記録映像としての価値を再認識させるドキュメンタリー作品であった。
 4.の『AIの不都合な真実』は、目下世界中を席巻している(先進的な)AIが、実は低賃金の収奪的な(手作業の)労働に支えられていることを報告する、きわめてユニークな内容のドキュメンタリー。AIは今でも過大に評価され、世の人々がAIを万能であるかのように思い込んでいるフシがあるが、所詮は(低賃金労働に従事する)犠牲者の上に築かれた砂上の楼閣に過ぎない。一般人の間のAIの幻想はまだ当分続きそうだが、このドキュメンタリーは、その実態を明らかにしており、AIの見直しのきっかけになる可能性を秘めた作品である。
2025年ベスト_b0189364_09024318.jpg 5.の『ハルマゲドンを待ち望んで』は、米国のキリスト教福音派の実態を明かす作品で、利己主義のスーパー保守主義者たちを次々に生み出す不気味な福音派の現状が明かされる。正直言って、こういう人間が多数存在する米国という国に空恐ろしさを感じるが、こういう人間たちがイスラエルに赴いて、パレスチナで戦争を起こそうとしているという現実にも不気味さを感じる。単なる宗教で片付けられない不気味さは、オウム真理教や統一教会に通じるものがあり、新しい脅威が次々に生み出される現代社会の暗黒面を物語っているようである。気持ち悪いので、ここでもう一度紹介し直すのもはばかられるんだが、日本在住の小市民の僕にも将来的に影響する可能性があるため、現実に目を向けておく必要があるとあらためて感じる。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、相手をしていただいてありがとうございました。更新頻度も以前より少なめですが、またときどき立ち寄ってみてください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
竹林軒出張所『2012年ベスト』
竹林軒出張所『2013年ベスト』
竹林軒出張所『2014年ベスト』
竹林軒出張所『2015年ベスト』
竹林軒出張所『2016年ベスト』
竹林軒出張所『2017年ベスト』
竹林軒出張所『2018年ベスト』
竹林軒出張所『2019年ベスト』
竹林軒出張所『2020年ベスト』
竹林軒出張所『2021年ベスト』
竹林軒出張所『2022年ベスト』
竹林軒出張所『2023年ベスト』
竹林軒出張所『2024年ベスト』

# by chikurinken | 2025-12-29 07:07 | ベスト