夜間もやってる保育園(2017年・夜間もやってる製作委員会)
監督:大宮浩一
撮影:遠山慎二、前田大和
出演:ドキュメンタリー
現実を知るためのミクロ的な視点が提供される 新宿で夜間保育園を運営しているエイビイシイ保育園のドキュメンタリー。
エイビイシイ保育園は、かつて無認可の夜間保育園、俗に言うベビーホテルを運営していたが、その後都の認可を受け、認可保育園になった。ただし以前と同様、夜間も子どもたちを受け入れる夜間保育園事業も継続している。そのエイビイシイ保育園の現在に迫った作品である。中心となるのは当然エイビイシイ保育園であるが、全国のその他の夜間保育園の状況も紹介される。
一人親世帯や夜間勤務が増えている昨今、深夜も子どもを預かってくれる保育園が必要とされる現状がある。それにもかかわらず、現在認可されている夜間保育園は80箇所で、受け入れられている子どもの数は2,500人程度。ベビーホテルは現在1,749箇所存在し33,000人程度の子どもが預けられている(平成26年度の厚生労働省資料より)ことから、必要性があるにもかかわらず満たされていない状況であることがよくわかる。つまりこちらも、昼間の保育園同様、待機児童が大量に存在するということになる。
このデータからは、現実を直視できていない行政の姿が浮き彫りになるわけだが、ほとんどの人にとっても夜間保育園は、その実態や必要性は未知の世界である。この映画で紹介される夜間保育園の姿はそのミクロ的な姿を映し出す貴重なドキュメントであり、行政関係者や政治家もこれを見て現実を直視すべきときが来ていると感じる。
エイビイシイ保育園では、給食を有機野菜で作ったり、母親の相談にも乗ったりしており、子どもや母親のためという目線で運営しているのが見てとれる。また保育士もやりがいを感じている様子で、子どもを預ける環境として理想的な存在という印象を受ける。また子どもたちにとっても居心地の良い環境であるように見える。同時に、このような種類の夜間保育園こそ、今現在、全国的に必要とされている施設であることがよくわかるのである。
一方で夜間保育園に預ける親には、「育児放棄」だの「子どもがかわいそう」だの心もとない言葉が浴びせられることがあるらしい。他人の立場に立てない狭量な人々が多いのも一つの理由だが、同時に、こういう人々が現実を知らないというのも大きな原因である。多くの人に夜間保育の現実を知らしめるという意味でも、この種のドキュメンタリーが貴重な存在になる。NHKや民放放送などを通じて、もっと広く一般に公開すべき作品であると感じる。
追記:
このエイビイシイ保育園とその園長、かつて何かの映像で目にしたような記憶があるんだが、よく思い出せない。前に見たのはこの映画が製作される以前だったはずで、もしかしたら別のドキュメンタリーで紹介され、それを目にしていたのかも知れない。これについては確認できなかった。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『子どもはみんな問題児。(本)』竹林軒出張所『子どもの未来を救え(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『セーフティネット・クライシス(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『母ちゃんのごはん(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『子どもたちの階級闘争(本)』竹林軒出張所『みんなの学校(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『学校の「当たり前」をやめた。(本)』