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竹林軒出張所

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タグ:銅版画 ( 15 ) タグの人気記事

こんなんあります

「西岡真太郎銅版画展」
ギャラリーグロス(岡山市北区富田町)
2015年3月17日〜3月14日
10:00-19:00(期間中無休)最終日は17時終了

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 会場は、かつてフィリップ・モーリッツアーリング・ヴァルティルソンの展覧会を開催したお馴染みのギャラリーグロス。コーヒーの美味しいギャラリー喫茶です。エッチング、メゾチント、エングレーヴィング作品を展示します。
 考えようによってはモーリッツやヴァルティルソンに並んだということになるな……。

竹林軒出張所『フィリップ・モーリッツ銅版画展』
竹林軒出張所『アーリング・ヴァルティルソン メゾチント銅版画展』
by chikurinken | 2015-03-06 08:18 | 美術

職人への道 -- エングレーヴィング

b0189364_8453780.jpg 銅版画の技法の1つにエングレーヴィングという技法がある。銅板をビュランという彫刻刀で彫って線を刻んでいく技法で、「金属で金属を彫る」ことから、一種の彫金と考えることもできる。実は日本の紙幣の原版も銅版であり、しかもエングレーヴィングで彫られている。お手持ちのお札をルーペで見ていただくと、細い線をたくさん入れて陰影を作っていることがおわかりいただけるだろう。エングレーヴィングでは、線か点でしか表現できないので、暗いところには線をたくさん入れ明るいところにはあまり入れないという、そういう表現が必然的にとられる。
 エッチングやドライポイントと比べても難易度がかなり高く敷居も高いため、エングレーヴィングをやってみようという人はあまり多くないようだ。おそらくメゾチントよりも人口が少ないんじゃないかと思う(竹林軒出張所『メゾチントという絶滅危惧技法』参照)。そもそも銅版画の始まりがエングレーヴィングだったという話で、エッチングはお手軽に銅版画製作に近付くための手段として登場したのではないかと勝手に想像している。エングレーヴィングはやはり職人技なのだ。
b0189364_8463730.jpg さて、エングレーヴィングの大家といえば、ドイツの画家、アルブレヒト・デューラーで、エングレーヴィングをやるとなると当然意識せざるを得なくなる。ということで、僕もとりあえずデューラーの真似をすることにした。本当であれば『メレンコリア』あたりに取り組みたいところだが、これは「難易度が高い!」ということで、もう少し小さい版で模写してみることにした。ただ模写といっても、元絵をトレースして原画を描いたわけで、厳密には模写というのははばかられる。実質的には「お手本」みたいなものになるわけだ。で、今回取り上げた絵は『フィリップ・メランヒトンの肖像』である。『The Complete Engravings, Etchings and Drypoints of Albrecht Durer』という本に原寸大で収録されていたので、それを利用させてもらった。
 いざ取り組んでみると、曲線による陰影表現が非常に多く(髪や顔など)、いかにもエングレーヴィングな表現だと感じる。線による陰影表現の魅力みたいなものも感じることができる。そういうわけで、デューラーのドローイングも何点か模写してみた。また、デューラーの著作も読んだりしたのだった(竹林軒出張所『ネーデルラント旅日記(本)』参照)。おかげでデューラーをかなり身近に感じられるようになった。
b0189364_8452753.jpg 結論としては、思った以上によく彫れたが、納得がいかない箇所というのも非常に多い。模写する場合の常だが、どうしても原画に近づけようとするあまり、原画本来の表現方法から結果的に外れてしまうことがある。今回も本に印刷されたものが元絵なので、細かい線が見えない部分もあり、その辺は想像して再現する他なかった。印刷で線が潰れていたりする箇所もあって、いたずらに階調だけを近づけようとして汚い表現になってしまった箇所もある。このあたり反省材料である。次に模写するときに活かしたいとも思う。だが正直、エングレーヴィングの模写というか再現は、相当骨が折れるので、あまり気が進まないところなのだ。できあがった作品を原画と比べてみて、かなりガッカリすること請け合いという面もある(相手が大家なので致し方ないが)。自分の好きな絵柄を描いた方がどれだけ楽か知れないとも思う。とは言っても大変勉強になったのも事実で、エングレーヴィングの技術は、これ以前と比べて格段に向上したのではないかと自分なりに思っている。

参考:竹林軒出張所『メゾチントという絶滅危惧技法』
竹林軒出張所『ちょっとだけドライポイント』
by chikurinken | 2012-08-05 08:48 | 美術

メゾチントという絶滅危惧技法

 最近、銅版画で検索してこのブログに当たっている方が何人かいらっしゃいまして、そういうこともあって久々に銅版画の解説などをしてみようかなと思い立ちました。
 銅版画の技法の一つにメゾチントというものがあります。前にも書きましたが(竹林軒出張所『ちょっとだけドライポイント』)、ただでさえ廃れかかったマイナーな技法である銅版画の中でも、さらにマイナーな技法と言えるかも知れません。ではメゾチントとは? ということで今回はメゾチントについて少しご紹介を。
b0189364_1148156.jpg 銅版画の基本は、前にも書いたように、溝にインクを詰めてそれを刷り取るというものです。メゾチントではこの溝を縦横無尽に入れてしまいます。そのまま印刷するとどうなるかおわかりでしょうか。なんと全面真っ黒になってしまいます。これに「夜」などとタイトルを入れて一枚の絵にしてしまうのも一興ですが、もう少し洗練されたものにするために、この溝を一部削り取るようにします。この削り取り具合で、黒の階調を調節することができます。完全に削り取って平坦にしてしまえば白になります。そこら辺をうまいことやると、黒地を背景に白い部分が入った絵を作成できるというわけです(右の図 --文房堂のカタログより-- 参照)。
 このメゾチントという技法、元々は模写のための手段だったらしく、油彩などの大きめの作品を、小サイズのモノクロ版画として転写し、これを普及版として販売するということが行われていたようで、今でも当時の細密なメゾチントが残されています。少しずつ削っていくという地道な作業であるため、技法的にさっさと済ますという類のものではなく、そのために緻密な表現が可能になるということです。
b0189364_11463010.jpg なお、使用する道具は、溝を縦横無尽に入れる(これを「目立て」と言います)ための道具と削り取るための道具の2種類が最低でも必要です。前者は、一般的にはベルソー(ロッカーとも呼ぶ)が使われますが、ルーレットと呼ばれる「コロコロ」みたいな道具や、カッターナイフなどでも代用できます。ベルソーもルーレットも結構お高くなっています。需要があまりないことを考えれば致し方ないとも言えます。目立ては時間がかかる面倒な作業であるため、通常あまり大きな版は作れません(最近は機械を使って大判を作る人もいる)。目立て道具を持っていなかったり自分でやるのが面倒だという人向けに目立て済みの小サイズの銅板も売られています。削り取るための道具はスクレーパーやバニッシャーですが、こちらは銅版画で一般的に使う道具です。こういった原始的な道具を駆使して、銅板に立ち向かっていくのがメゾチントです。
 メゾチントは一度は廃れた技法で、それを長谷川潔という人が復活したという話です。その後、浜口陽三という人がカラーメゾチントの技法を確立したということで、そういうこともあってか、日本ではメゾチントは比較的よく知られていますが、よそではマイナーな存在のようです。
 私も最近メゾチントの作品を何点か集中的に作りました。率直な実感は「手間がかかる!」ということで、とにかく終えるまで、場合によっては何ヶ月もかける必要があります。それでもやはり、メゾチントで表現される黒の魅力はナカナカで、ちょっと「やめられまへんなあ」というところもあるのです。今は少しメゾチントから離れていますが、いずれ再開しようと思っております。

参考:
女子美術大学版画研究室『メゾチント』
竹林軒出張所『模写好きの弁』
竹林軒出張所『アーリング・ヴァルティルソン メゾチント銅版画展』
竹林軒出張所『ちょっとだけドライポイント』

プチギャラリー
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レンブラントとカラヴァッジオ

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メゾチントはやっぱり模写でしょうの一枚と定番のヌード

by chikurinken | 2012-04-28 12:04 | 美術

ちょっとだけドライポイント

 相変わらず銅版画などというものを続けておりますが、銅版画といっても興味のない方にとっては「なんのこっちゃ」でしょう。
 日本の学校現場ではおおむね木版画がカリキュラムに組まれていますので、木版画については大抵の方がイメージを持たれていると思います。要は出っ張ったところにインクや絵の具を付けて、それを紙に刷り取る(つまり写す)という作業で、こういうのを凸版画といいます。出っ張っているところ(凸部分)を刷り取るので。
b0189364_20235296.jpg 一方、銅版画は凹版画と呼ばれ、へこんでいる部分にインクを入れて刷り取るのです。銅版画の刷りの現場を見たことがないとこれがもうひとつピンと来ないと思います。どうするかというと、何らかの手段であらかじめ銅板に絵や字を描いておきます。釘みたいなもので金属をひっかくと溝ができますが、ああいったものと思っていただければ結構。その部分が他より少しへこんでいるので、まずそこにインクを詰め込むのです。ローラーを使ったりタンポみたいなものでグイグイ力業でインクを押し込んだりといろいろな方法でやるんですが、この状態のままだとへこんでいない部分にもインクが付いてしまいます。そのため、このへこんでいない、つまり平たい部分は布で拭き取るのですね。そうすると、へこんだ部分に入ったインクはそのままで、平たい部分はインクがないという状態になります。この状態にして、銅板の上に濡らした紙を載せ、上から強い力を加える(通常はプレス機を使う)と、紙が溝に入り込んでインクを吸い取る……こうして絵ができあがるということになります。これが銅版画です。
b0189364_20241047.jpg で、実際に絵や字をどうやって銅板上に描くかというと、一般的に使われるのはエッチングという技法で、これは銅板全体をグランドという石油系の素材で薄く覆い、そこの上から細い鉄筆のようなもの(ニードルなどと呼ばれます)で描くという方法を使います。ニードルで線を書くと、その部分だけグランドが剥がれて銅が露出します。これを腐食液(銅を溶かす溶液)に浸けると、露出している部分だけが融け、そこだけがへこんだ部分になるというわけ。プリント基板を作ったことがある人ならお馴染みの方法でしょう(そんな人、あまりいないか)。
 もっと直接的な方法にドライポイントという技法があります。名古屋では「ドリャーポイント」と言いますが(ウソ)、これはニードルを使って直接銅板をひっかく技法です。通常はこのひっかく技法だとなかなかきれいな線ができにくいので、エッチングが多用されるということになります。ただ短いストロークで線を引けばそれほど汚い線にならないということが最近わかりまして、何枚かドライポイントで銅版画を作ったりしておるのです。上の2枚はどちらもドライポイントでやったもの。目下修行中といったところです……。
 もっとも銅版画、もともとは出版で普及した方法のようですが、今となっては過去の技術で、芸術家と一部の好事家以外、あまり関心のある人はいないかと思います。とは言え、僕も縁で銅版画などに関わることになったわけで、銅版画普及のために、これからもときどき銅版画の解説などを交えていこかなと思っておる次第です、ハイ(要らんとか言わないでね)。
絵はクリックで拡大します。

参考:『武蔵野美術大学 造形ファイル -- 銅版画』
   竹林軒出張所『本場の銅版画に驚嘆……別の意味で』
by chikurinken | 2012-02-27 20:21 | 美術

本場の銅版画に驚嘆……別の意味で

 『欧州 美の浪漫紀行』という番組がBS-Japanで放送されていて、映像も美しくとても真摯で良い番組なんだが、この第4回の「ニュルンベルグ 国立ゲルマン博物館」の回が(日本で銅版画をやっている人にとって)あまりに衝撃的だったため、今回紹介しようと思う。ですから、銅版画に興味のない方は今回は跳ばしてください。

b0189364_1261321.jpg この「ニュルンベルグ」の回で紹介されていたのは、ドイツ、ニュルンベルグにあるデューラーハウスであった。デューラーハウスというのは、ドイツの大画家、アルブレヒト・デューラーの生家であり、現在はデューラー関連の資料が展示された博物館になっていて、木版画や銅版画の実演も行われている。木版画プレス機は、僕にとっては伝説的な機械で、非常に興味深いものであるが、銅版画については、当時から今まで技術があまり変化していないため、それほど目新しさはない。番組では、そのあたりの実演風景も丁寧に紹介していて、さながらデューラーハウスを訪れたかのようであった。
 で、われわれ(日本で銅版画をやっている人)が衝撃を受けたのは、その実演風景であった。というのも、あまりに作業が大雑把なんである。今までやっていた(日本での)われわれの作業はいったい何だったのかと頭をかかえるほどである。しかもそれが本場で行われていると来ている。

 ということで少し紹介します。
 まず、武蔵野美術大学のホームページで、動画で紹介されている銅版画の印刷の方法(『武蔵野美術大学 造形ファイル』>『銅版画』より)。
 基本的には、
1. 紙を用意(刷毛で1枚ずつ湿らせ、ビニールシートで包んで一晩置く)
2. インクを用意(ガラス板などの上にインクを出し、金属ベラでよく練る)
3. 銅版にインクを載せる(銅版をウォーマーで暖めながら、ゴムべらでインクを丁寧に万遍なくのせる)
4. 銅版上のインクを拭き取る(2種類の寒冷紗を使って全体のインクを取り除き、最後に紙片を使って表面の曇りを取り除く)b0189364_11361383.jpg
5. 版をプレス機に載せて印刷(プレート上に見当を置き、その上に版を置いて、さらにあい紙とフェルトを載せてからハンドルをゆっくり回す)
という手順になる。ただしこれはものすごく丁寧な方法で、日本人であっても、ここまではなかなかやらないというレベルではある。

デューラーハウスの場合は、
b0189364_11362650.jpg1. 版上に直接パレットナイフでドバッとインクを付けて、タンポで万遍なく塗り込み、そのあと布で拭き取る(さながらテーブルを拭くかのよう)
2. 印刷の直前に、水の入ったバケツに紙をどっぷり浸けて引き上げ、そのままプレス機に載せる(滴が落ちるほどビショビショ)
3. 版と紙の上に簡単なフェルトを置いてプレス機のハンドルを回し印刷

 普段実際に銅版画を印刷するとき、いろいろ複雑な作業があるんだが、b0189364_11364816.jpgここまでやる必要があるのだろうかと思うことは正直結構ある。で自分の中でそれなりに絞り込んで必要最小限しかやっていないと思っていたんだが、本場のありさまと言ったらどうだ。
そんなに単純で良いの?と思わず訊きたくなるほどだが、印刷結果はそれなりにそこそこのものになっていたのだな、映像から確認すると。やはり日本人の特質として、馬鹿丁寧な部分というものがあるんだろうか……と考え込んでしまう。b0189364_1137423.jpgま、おそらく、几帳面な先人が実践した作業というものが、日本の美術学校の伝統として今まで引き継がれて(引きずられて?)いるような部分もあるんだろうけどね。それにしてもあまりの差異に驚く。デューラーハウス以外でのヨーロッパの銅版画刷りの作業というのも見てみたいもんだと思った……素直に。
by chikurinken | 2011-04-11 11:59 | 美術

模写好きの弁

 人の絵を模写するのが好きだ。
 人の絵を見て、欲しいと思うことは、巨匠の絵であってもまったくない。でも、模写するために手元に置いておきたいから貸してほしいと思うことはある。好きな絵は模写するのが一番と思っている。
 模写するという作業は、その作家に対する挑戦のような面もあるし、教えを乞うているような面もある。また、できあがったものが当然巨匠の作品と比較される(そして自分も比較する)ことになるので、手を抜いたりごまかししたりすることも許されない。そのあたりの厳しさがなかなか面白いところである。うまくできたら巨匠の作品(イミテーションではあるが)が手に入るしね。もっとも、たとえうまくできたとしても、何かもの足りないような気もするし、しょせん俺の実力はこんなものかと落ち込むこともある。だがそもそもあちらは巨匠。何を落ち込むことがある!

 言い訳じみた前置きが長くなったが、最近やってみた模写をここで披露させていただこうかな……という話なのである。ちなみに技法は銅版画である。1つ目はレンブラントの風景画で、元の版画とほぼ同じサイズで作ってみた。ただし元絵のトレースなどは一切していないので、並べてみたら大分違うと思う。要は自分の受けたイメージをそのまま真似するということである(←なんてかっこいいセリフなんだ……)。それに、画集の小さめの絵を元にしたため細かいところがわからない。そもそも何を描いたのかすらわからない部分もあったので、適当に補完しながら描いた。ただ技術的なものとか、その絵のバックグラウンドとか、いろいろなものがわかったような気がするのだ。本当に作家と対話しているような気分になるから不思議である。
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レンブラントの模写(エッチング、ドライポイント)
ドライポイントの感じなんかなかなか良いんじゃないかと自負しているが如何……


 もう一つは、アーリング・ヴァルティルソンという方(竹林軒出張所:『アーリング・ヴァルティルソン メゾチント銅版画展』参照)のメゾチント作品。僕も最近本格的にメゾチントを始めたが、始めるにあたり、そのきっかけとなったヴァルティルソン様のお作をちょっとばかり練習台にさせていただこうかなということで、模写させていただいた。こちらはホントのところデキはもう一つで、本家と見まがうばかりとはまったくいかないが、ちょっと見、間違うくらいの感じにはなったんじゃないかと思うような思わないような……。ただ、こちらも作る過程でいろいろなことを勉強させていただいたような気がする。
 イヤー、模写って本当に良いもんですね。
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ヴァルティルソンの模写(メゾチント)
小さめに作ったこともあってかなりアラが目立つ……

絵はクリックで拡大します。

by chikurinken | 2011-03-10 20:14 | 美術

1枚の銅版画ができあがるまでの変遷

 今日は少し珍しい絵をご覧いただこうと思う。
 銅版画は、ご存じない方のために言っておくと、銅板の表面に溝を作って、その溝にインクを詰めて紙に刷りとる技法である。したがって、銅板上に、刷り上がる絵と左右対称の絵ができあがっていることになる。実際、真上から見ると見えにくいが、確かに左右対称の絵が存在する。
 それでこの溝をどうやって作るかというと、まず一つ目に考えられるのが、キリみたいに先端が尖ったもので直接刻む方法(直刻法、ドライポイント、ビュランなど)がある。もう一つ、化学反応を利用して、銅を溶かす腐食液に銅板を浸ける方法(腐食法、エッチング、アクアチントなど)もある。こちらは少しわかりにくいかも知れないが、あらかじめ銅板を何らかの膜(グランド)で覆っておき、そこに先端が尖ったもので絵を描くという技法を使う。絵を描くときに膜を取り除いて銅が露出するようにするのである。このまま腐食液に入れると、露出した部分だけが溶けて、溝ができるという寸法である。
 僕は後者の腐食法をよく使っているが、その際、腐食を1回して絵を完成させるのではなく、何度か繰り返して絵を少しずつ作っていく。同時に、すでに銅板上にできてしまった溝を、削って取り除くという方法もあわせて行う。こうすることで、自分の望む絵を作り上げていく。これを、何度か試し刷りしながら続けていく。結果、その過程が刷り上がったものとして残ることになる。こういうのをステートなどと呼んで、ステート1、ステート2などと呼ぶこともある。
 昨日ここで紹介した人物画は、7ステート存在する。また、途中アクアチントという技法も使っている。アクアチントというのは、線ではなく面で黒く塗る技法で、腐食する時間を調節することで、黒の度合いをある程度、コントロールすることができる。今回は、その過程で刷り上がったステートを紹介させていただこうと思う。こういうのはめったに見ることができないと思うので貴重である……と自負している。え? そんなもの見たくない?……とか、言わないの〜、てか、言わせない〜。

1) 第1回目の腐食。修正しやすくするため、短い腐食時間で仕上げている。この段階ではほとんど下絵。
2) 全体的に階調を加えて、バランスを見る。    
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3) アクアチントで、背景と髪の部分、胸の部分に黒い階調を入れた。ちょっとヘマをして指紋が入ってしまったが、いずれ削り取る部分なので無問題。
4) 背景を大分削り取り、髪の部分を少し削って実在感を出す。    
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5) 背景をさらに削り、顔に調子を加える。
6) 顔と身体に調子をさらに加える。        
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7) 背景をさらに削り、身体に調子を加え、さらに身体の調子のバランスを整える。
8) 顔の調子を加筆して、バランスを整える。さらに顔の部分に手を入れて階調を整えて完成(昨日の作品を参照)。
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-- 絵はクリックで拡大します --

by chikurinken | 2010-07-07 20:52 | 美術

雁皮刷りをやってみた(銅版画)

 今日は、銅版画の話です。興味のない方は飛ばしてくださいませ。

 銅版画の刷りの技法に雁皮刷りという方法がある。雁皮というのは雁皮紙という和紙のことで、通常であれば版画用の厚手の紙に印刷するところを、雁皮紙に印刷する(さらにそれを厚手の紙に貼り付ける)というのが雁皮刷りである。刷り上がった状態で、通常の版画用の紙の上に雁皮紙が載っており、そこに絵が印刷されることになる。
 雁皮紙に刷られた銅版画は結構出まわっているので、今までも何度か目にしたことがあるが、あまり感慨もなく、むしろなぜこういう面倒なことをやるんだろうというようなことを考えていた。そのため、今まで雁皮刷りをやろうという気も起こらず、周りでやっている人がいたら面白半分に見ていた程度である。職人さんの技みたいで、見ている分にはなかなか面白いのだ。
 ま、しかし、銅版画を始めてからそこそこ経つので、一度くらいは経験しておこうかなと思いたった。そんなわけで、少し前にやってみたところ、思いの外刷り上がりに味わいがあって、今少し魅力を感じているところである。僕自身、普通の刷りと雁皮刷りを比べてみて、初めてその味わいがわかったわけだ。人の作品だと比べてみるということができないので、なかなかわかりにくいものである。おかげで、雁皮刷りをやる意味というのも少しわかったような気がする。というわけで、先週、今週と雁皮刷りばかりやっていたのだった。
 では、サンプルをお見せいたしましょう。それぞれ違うインクで刷っているのでそのあたりは差し引いて見ていただくということで……。
 スキャンした画像なので違いはわかりにくいかも知れないが、実物を見ても「何となく違う」というレベルなのである。でも、その「何となく」に意味があって、少しぼやけた感じが味わい深い……ような気がする。

 雁皮刷りの技法については、以下のホームページで詳細に書かれています。興味のある方はどうぞ。
 刷ってみよう! B.雁皮刷り(版画HANGA百科事典)

左:一般的な刷り(ナチュラルホワイトのハーネミューレ紙、黒インク)
右:雁皮刷り(ホワイトのハーネミューレ紙に雁皮刷り、セピアインク)
-- クリックで拡大します --

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by chikurinken | 2010-07-05 11:28 | 美術

切り絵を銅版画にしてみたという話(銅版画マニア向け)

昨日の続き)
 作った切り絵を銅版画にしようという話の続き。

 今回は純粋にテストであるため、失敗する確率も高い。机上の空論である可能性もある。それでも何となく勝算が高いような気もしている。
 実際に行った方法はこういうものである。

(1) 切り終わった切り絵を銅版画に重ねる。
(2) 上からエアブラシで水性グランドを吹き付ける。これを何度も繰り返し、切ってしまって抜けている部分に水性グランドの層ができるくらい吹き付ける。
(3) 切り絵を取り除き、今度は版全体に渡って水性グランドをエアブラシで吹き付ける。このとき、ある程度ドットが残るようにする。
(4) この状態で腐食する。

 こうすると、抜けている部分(切り絵の白い部分)にできた層が防蝕膜になり、後で吹き付けた部分(切り絵の黒い部分)にアクアチントがかかるという寸法である。このあたり、銅版画の経験がない人にはさっぱり見当がつかないだろう。銅版画の経験がある人も、そこそこの経験と想像力がなければわからないと思う。そういうわけで、これはかなりのマニア向けの情報である。本当は秘密にしておくという手もあったんだが、もともと水性グランドをエアブラシで吹き付けてアクアチントをやるという方法はネットで知ったので、まあ恩返しみたいなものである。そもそも、「エアブラシで水性グランドのアクアチント」をやろうという人であれば、この程度のことは容易に想像がつく……と思う。

 さらにマニア向けの情報を。銅版画上で切り絵を白黒反転させるというワザもちょっと考えた。要は上の(1)と(2)を実行して、そこから石油系の通常のグランドを薄く流し引きでかけ、リフト・グランドしてから、(3)をやるというもの。これは現在構想のみで実際にはやっていない。が、たぶん大丈夫だと思う。ま、いろいろ考えればいろいろな技法が思い浮かぶものである。
 さて、実際に上の方法でやった切り絵銅版画だが、結果は下の図のようになった。方法論としては完全にOKであることがわかった。正直、あまりにうまくいったんで驚いたほどだ。
 ただ、この絵については、完全にうまくいったわけではなく、白と黒の境界部分がぼやけたり(エアブラシのエアのせいで上の切り絵の部分が浮いてしまったため)、まわりに変な線が入ったりしている(あらかじめ水拭きしていた箇所に水が残っており、水性グランドがうまいぐあいに乗らなかったようだ)。原因がわかっているため、対処の方法もあるだろう。
 一番の問題点は、切り絵を銅版画にして何になるのかという哲学に関わる問題である。アクアチントのかけっぱなしであるため、銅版画的な面白さはむろんない。ただ、これを少しずつ削ったりすれば、階調を付けることもできるので、いろいろな応用も考えられる。
 ちなみに、銅版画仲間にこれを見せたところ、あまり芳しい反応はなかった……。
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切り絵のようですが、実は銅版画なのですね……これが。
ちなみにモデルはコルトレーン……

by chikurinken | 2010-04-21 19:15 | 美術

切り絵をやってみたという話

 切り絵を銅版画にして、木版画やリノカットのような効果を出せないものだろうかと以前から考えていたんだが、先日重い腰を上げてついに試すことにした。
b0189364_20152128.jpg とは言え、今まで切り絵なんかやったことがなかったので、まず切り絵をやってみるところから始めなければならない。参考書は、小宮山逢邦という人の『切り絵のこころ』という本である。大分前に買った本で、基本的には画集なんだが、切り絵のやり方も懇切丁寧に説明している。巻末には、すぐに手を付けられるように、切ればすぐできるという状態で切り絵の原画が掲載されている。とりあえず、これに挑むことにする。カッターなんかの道具は画材屋さんですでに購入済みである。
 最初は少しばかり時間がかかったが、まあ無難にできた(上の写真の「エビ」)。ちょっと見ではなかなかのものである。もちろん本人はこれがひどいデキであることを知っているのだが(ちょっと見は良いけれどよく見るとだめなんです……)、ま最初だからこんなものだろうと思い込むことにする。少しこなれてきたので他のもやってみることにした(上の写真の「小鉢」)。最初は1枚2時間ぐらいかかったが、1時間ぐらいで切り終わるようになった。
b0189364_2013574.jpg さっそくこれを使って銅版画を……ということになるんだが、人の絵を銅版画にしてみてもつまらないし、オリジナルの絵でやってみようかと、何やら野心がムクムクと首をもたげてきた。もっとも、現状では銅版画にすることが可能かどうかも不明なんだが、万一成功したときに人の絵だと何にもならないという気もするのだ。というわけで、以前銅版画用に描いた下絵を使って切り絵に挑戦することにした。少し時間がかかったが、ま、なんとかそれなりのものができた(右図)。
 切り絵をやってみてわかったんだが、切り絵は絵心のない人がやっても、意外にそこそこのものができる。白黒のメリハリが詩的であるため、絵が多少歪んだりしても味になる。絵心はないけど、なんか絵でも描いてみたい、細かい作業は苦にならない……という人には持ってこいだと思う。
 ということで、いよいよ銅版画に転写するという作業にかかる。が、それはまた別の話。機会があればまた続きを書くことにする。
(続くかも知れない)

by chikurinken | 2010-04-20 20:16 | 美術