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竹林軒出張所

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『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法』(本)

b0189364_22244365.jpgニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法
石川英輔著
講談社文庫

度量衡から
江戸の生活と考え方を探る


 大江戸ブームの火付け役である石川英輔の著書。
 これも元は雑誌連載(『なごみ』の「ニッポンのサイズ」)をまとめたもので、全18章構成になっている(ということは連載は全18回だったと想像できる)。江戸時代に使われていた度量衡、つまり測定の単位がテーマになっていて、さまざまな単位、たとえば尺、石、匁などがどういう単位だったのか、どのようないきさつで使われるようになったのかなどの他、現代とのつながりも紹介されていく。(四畳半とかの)畳や坪など現代でも使われている単位はもちろんだが、里や鯨尺など現代ではあまり使われない単位まで、かなりの範囲が網羅されていて、非常に勉強になる。
 なんでもこういった単位の多くは、律令時代に唐から導入され、その後実質的な値が随時変動してきた(多くは増えてきた)んだという。また業界ごとに大きさが違う単位なんかもあって(建築業界の曲尺とアパレル業界の鯨尺)、現代的な感覚で言うとややこしいったらない。だが著者によると、そもそも違う業界で流通している(名前だけが共通の)単位なので混同されることはほとんどなく、混乱はなかったという。現代のメートル法に慣れた感覚から言うとおかしく感じるが、確かにそれで良いと言われるとそれでも良さそう。
 そもそもメートルという値は19世紀に地球の子午線の4000万分の1の長さとして決められたものであり、一方で伝統的な度量衡は人間の感覚から生じたような単位であるため、成り立ちからしてまったく違う。メートル法がきわめて厳密な単位であるのに比べて、伝統的な度量衡は随分感覚的で、時代によって変動したりもしている。一尺が親指と人差し指を広げた程度の長さであったり、一里が人が1時間で歩ける距離であったりなどという話を聞くと、ものさしや時計がなくても概ね長さが推測できるような単位になっているのに感心する。また江戸時代でよく使われていた(米の)一石という単位が、1人が1年食べて暮らせる量というのも驚きである。つまり加賀百万石という場合、加賀藩は100万人の人口を養える経済力があったことを示していることになる。
 また現代使われているグレゴリオ暦と旧暦の比較も非常に面白い。旧暦は太陽太陰暦であり、太陽暦と太陰暦を組み合わせたシステムである。今の暦と比べると、閏月があったりして現代人の感覚からはややこしく感じるが、実際のところは生活に根ざしていた暦であって、農業や漁業に非常に適した暦であったという説も目からウロコである。それは時刻についても同様で、江戸時代のように季節によって1単位の長さが変わっても、むしろその方が便利であるという考え方も新鮮。随所に石川英輔の主張が押し出され、しかも分かっているようでよく分からない度量衡の単位がよくわかる、著者の他の『大江戸』シリーズに匹敵する画期的な本である。是非手元に置いて随時参照したいと思わせる本である。実際僕は、図書館で借りた後、買って手元に置いている。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『大江戸庶民いろいろ事情(本)』
竹林軒出張所『江戸時代はエコ時代(本)』
竹林軒出張所『実見 江戸の暮らし(本)』
竹林軒出張所『ニッポンの旅 江戸達人と歩く東海道(本)』
竹林軒出張所『大江戸しあわせ指南 ― 身の丈に合わせて生きる(本)』
by chikurinken | 2016-05-23 07:23 |

『大江戸しあわせ指南 ― 身の丈に合わせて生きる』(本)

大江戸しあわせ指南 ― 身の丈に合わせて生きる
石川英輔著
小学館101新書

b0189364_9585027.jpg「大江戸」への超入門

 大江戸ブームの火付け役である石川英輔の著書。
 元々はCD付きマガジン『落語 昭和の名人』全26巻に連載したエッセイで、それを1冊にまとめたのがこの本。そのため落語に関連した記述が散見される。内容はこれまで著者があちこちで書き綴ったことがほとんどで、あまり目新しさはない。江戸社会を記録や絵画で読み解き、リアルな姿を甦らそうとするのも著者の他の本と共通する。
 江戸の社会は、化石燃料に依存せず、植物由来のエネルギーのみを使って身の丈に合わせて生活していた(せざるを得なかった)ということが繰り返し書かれるのも他の著書と一緒である。テーマがはっきりしていてその決まったテーマから各論に掘り下げて、詳細な部分まで迫るというアプローチで、非常にわかりやすいだけでなく非常に興味深い。これは著者の表現力に由来するんだろうが、リアルな江戸社会がとても身近に感じられて、読んでいると気分が高揚する。
 とは言え、石川英輔の他の本に慣れた身からは、目新しさがほとんどないという点はあらためて指摘しておかなければならない。本作りに安直さを感じるというか、連載を集めて新書に仕立て上げるという作り手の編集態度に対して、それで良いのかと思う。お手軽に石川史観に近づけるというメリットはあるが、本当に石川英輔が描く江戸を知りたければ講談社文庫の『大江戸』シリーズを読むのが一番ではないかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『大江戸庶民いろいろ事情(本)』
竹林軒『書籍レビュー:江戸の新発想』
竹林軒出張所『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法(本)』
竹林軒出張所『実見 江戸の暮らし(本)』
竹林軒出張所『江戸時代はエコ時代(本)』
竹林軒出張所『ニッポンの旅 江戸達人と歩く東海道(本)』
by chikurinken | 2016-05-22 09:59 |

『元禄御畳奉行の日記 ― 尾張藩士の見た浮世』(本)

b0189364_22414717.jpg元禄御畳奉行の日記 ― 尾張藩士の見た浮世
神坂次郎著
中公新書

斬新な内容だが読みづらさもある

 先日紹介したマンガ版『元禄御畳奉行の日記』の原作。
 マンガを読んだ後こちらの原作に当たったが、驚いたことに、あのマンガ版、この原作のかなりの部分を描ききっていた。しかもマンガ版は、時系列に従って物語的にストーリーが展開するため非常にわかりやすいという利点もある。
 この原作では、テーマ別に記述を集めてそれについて解説していくという構成で、話が前後するため少々分かりづらさはある。また、オリジナルの『鸚鵡籠中記』の記述をそのまま抜き出している部分が多く、中には内容についてあまり解説をしていない箇所もあるため、ところどころ読みづらくなっている。そもそも『鸚鵡籠中記』自体、日記であるため誤字や当て字が結構あり、解読しなければ読めない部分がある。また原文で読む場合、その背景について知らなければ、解読不能な部分もある。そのため、原文をそのまま提示されるという方法は少々不親切に感じる。
 内容はマンガ版と同様、『鸚鵡籠中記』を紹介するもので、朝日文左衛門の日常と身辺雑記が紹介される。ただ、あのマンガ版がこの本の内容のかなりの部分を汲み上げているため、正直あのマンガを読んでいれば原作は読む必要がないんじゃないかと感じる。そういう点でもあのマンガ版は出色のデキと言うことができる。横山光輝おそるべしである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『元禄御畳奉行の日記 (上)(下) (横山光輝版)(本)』
竹林軒出張所『幕末単身赴任 下級武士の食日記(本)』
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『ニッポンの旅 江戸達人と歩く東海道(本)』
竹林軒出張所『大江戸庶民いろいろ事情(本)』
竹林軒出張所『江戸時代はエコ時代(本)』
by chikurinken | 2016-05-20 06:41 |

『元禄御畳奉行の日記 (上)(下)』(横山光輝版)(本)

b0189364_2115994.jpg元禄御畳奉行の日記 (上)(下)
神坂次郎原作、横山光輝著
秋田文庫

横山光輝がこんなものまで

 横山光輝のマンガである。原作は、中公新書から出た『元禄御畳奉行の日記』。これは出版当時かなり話題になった本で、そのことは僕の記憶に残っている。ただしこのマンガを読むまで原作本は読んでいなかったため内容についてはよく知らなかった。今回、酒井伴四郎という下級武士に関する本(竹林軒出張所『幕末単身赴任 下級武士の食日記(本)』を参照)を読んだため、その流れで江戸のリアルな武士の生活にもう少し触れてみたいと感じて、この本に思い至った。あの中公新書は今でも出ているかなと思ってネットで探してみたところ、横山光輝のマンガ版があることを知って、さしあたりこちらを図書館で借りてきたというわけ。
 内容は原作をかなり忠実に再現しており、主人公の朝日文左衛門の人となりや生活がリアルに甦ってくる。ちなみに原作は、この朝日文左衛門が残した『鸚鵡籠中記』から面白い記述を引っ張り出して、それで文左衛門の当時の生活を探っていくという趣向の本である。
 この朝日文左衛門って人、とにかく異常なほどの記録魔で、18歳から45歳までの26年8カ月に渡って自分の周りで起こったことを克明に記録しており、それに『鸚鵡籠中記』と名付けていた。この本は尾張藩に保存されていて永らく公開が禁じられていたらしい(本書による)。一つには幕政や藩政に対する批判が記述されていたためとされているが、実際に徳川綱吉の政策についてはかなり痛烈に批判しているようだ。また藩主の一族についても色情狂扱いしている他、彼らのゴシップを書き連ねたりしていることもその原因と考えられる。
 ただ、公務員である武士がここまで藩政や幕政を批判できていたというのは意外で、封建主義の権化みたいに言われている江戸時代のイメージを一新する事実である。ここに書かれているようなことは、当然当事者間で酒のつまみとして話されていたようなことだろうと思う。それを考えると、彼らには、封建社会とは言え、今の我々が考えている以上に自由闊達な気風があったのかも知れない。
 またゴシップと言えば、藩主だけでなく近隣で起こった事件などについても詳細に取り上げられていて、これも単にイメージとしての江戸でなく、リアルな当時の姿を伝えてくる。とにかくこの文左衛門、酒井伴四郎同様非常にマメで、あれやこれやを事細かく書き綴っているのである。当時当たり前だったことというのはなかなか記録に残りにくいものだが、そういう点を細かく記録している点でもこの『鸚鵡籠中記』には価値があると言える。
b0189364_2122589.jpg さてこの文左衛門、いろいろな手習いに通い、その手習い先の娘と結婚して、やがて父から家督を受け継いで一家の主となる。その後、酒と女遊びにうつつを抜かし、妻の嫉妬が激しくなって夫婦関係がうまく行かなくなる。その後一種の帰宅恐怖症になって、友人たちと飲み歩くようになるが、それが妻の嫉妬に拍車をかけて、ますます家に帰れなくなるという悪循環に陥るのだ。このあたりは、侍であっても現代人と共通する部分である。結果的に妻とは離縁し、その後再婚するも、二番目の妻の嫉妬も輪をかけて強烈で、ますます酒に溺れるようになるのだった。で、結局酒で肝臓を悪くし、酒で命を取られることになるんだが、身から出た錆とはいえ結婚運もあまり良くなかったのかも知れない。
 また、若くして御畳奉行という役職を拝命し出世する。で、その職務上3カ月間の京大坂出張があったんだが、この間商人の接待攻勢に遭い、毎日楽しく過ごしたりしている。そのためこの京大坂出張は文左衛門にとって数年に一度の楽しみになる。接待されて喜び浮かれるなどというのも現代のサラリーマンとさほど変わらず親近感が持てる。さらに言うと、当時の役人(武士)の状況が300年後の今とあまり変わらないというのもなかなか興味深いところである。1人の記録魔のおかげで、元禄時代の武士のリアルな生活が垣間見えてくるわけだ。
 江戸という時代が泰平の時代で、文化面、経済面で大いに発展したことを考えると、そこでの生活が現代に通じていても何ら不思議はないんだが、我々に与えられている江戸時代のイメージがあまりに封建的で窮屈な社会というものであるため、リアルな姿が見えてくるといまだに意外に思えてくる。こういう機会を通じて、作られた「江戸暗黒時代」のイメージを少しずつ取り払っていきたいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『元禄御畳奉行の日記 ― 尾張藩士の見た浮世(本)』
竹林軒出張所『幕末単身赴任 下級武士の食日記(本)』
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『ニッポンの旅 江戸達人と歩く東海道(本)』
竹林軒出張所『大江戸庶民いろいろ事情(本)』
竹林軒出張所『江戸時代はエコ時代(本)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』
竹林軒出張所『史記 (横山光輝版)(本)』
竹林軒出張所『項羽と劉邦 (1)〜(3)(本)』
竹林軒出張所『水滸伝 (1)〜(6)(本)』
竹林軒出張所『平家物語 (上)(中)(下)(本)』
by chikurinken | 2016-05-19 06:59 |

『幕末単身赴任 下級武士の食日記』(本)

b0189364_8475533.jpg幕末単身赴任 下級武士の食日記
青木直己著
NHK出版生活人新書

下級武士の生活を覗き見

 万延元年(1960)に江戸詰めになった、酒井伴四郎という紀州藩士は、かなりのメモ魔で、どこに行って何を見て何を食べたかをかなりマメに記録として残していて、その記録が江戸の下級武士の生活を今に伝える一級資料になっている。その彼の日記を覗きみて、当時下級武士がどのような生活をしていたか、何を食べていたか、何を楽しんでいたかを垣間見ようというのがこの本。
 この本は、元々2000年から2003年までNHK出版の『男の食彩』という雑誌に連載していたものをまとめたもので、前に紹介した酒井伴四郎が登場するドキュメンタリー竹林軒出張所『江戸古地図の旅 〜江戸東京 迷宮の道しるべ〜』もここからヒントを得られているのは間違いない。僕自身もあのドキュメンタリーを見て酒井伴四郎に興味を持ち、この本を手に取ったわけで、ドキュメンタリーと本とで相乗効果をもたらしていると言うことができる。
 酒井伴四郎は、叔父である宇治田平三の補佐役みたいな形で、彼らを含む計5名、従者1名という構成で江戸詰になった。江戸には、紀州から中山道を通って下っており、伴四郎の日記はそのあたりから始まる。大雨で足止めを喰らったり、名物を買って食べたりしている様子が詳らかに書かれているため、当時の江戸の旅の様子がよく分かる。この本では、この伴四郎の日記と平行して当時のさまざまな食べ物やその食べ物にまつわる蘊蓄が著者によって語られていくんだが、こちらも非常に面白い。ちなみに著者は、和菓子の研究をしている人で、執筆当時、虎屋文庫研究主幹を勤めていたらしい。
 本では、伴四郎が江戸に入ってからもこのような進行で語りが進められていき、伴四郎の生活や当時の食べ物が面白く紹介されていく。鰹を自分で調理して皆がひどい下痢をしたとか、自分が食べようと残していた鰺を「叔父様」(宇治田)が勝手に食べていて立腹したとか、内容が詳細であるため、さながら野次馬的に伴四郎の生活を覗き見しているような印象さえ受ける。同時に江戸の街の活気が伝わってきて、非常に魅力的に映る。
 江戸に蕎麦屋が3000以上あったとか、幕府から諸大名に菓子を賜る儀式(6月16日の嘉定の日)があったとか(僕にとって)目新しい情報もいろいろと出てきて、読んでいて楽しさを感じるような良書である。江戸関連の本も永らく読んでいなかったが、また久しぶりに石川英輔の本を読んでみようかなと感じた(石川英輔も、さながら江戸を見てきたように紹介するから、この本同様読んでいて楽しさを感じる)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『江戸古地図の旅 〜江戸東京 迷宮の道しるべ〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『幕末グルメ ブシメシ!(1)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『元禄御畳奉行の日記 ― 尾張藩士の見た浮世(本)』
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『ニッポンの旅 江戸達人と歩く東海道(本)』
竹林軒出張所『大江戸庶民いろいろ事情(本)』
竹林軒出張所『江戸時代はエコ時代(本)』
by chikurinken | 2016-05-18 08:48 |

『ハイビジョン日本大百科 大江戸百花繚乱』(ドキュメンタリー)

ハイビジョン日本大百科 大江戸百花繚乱(2005年・NHK)
NHK-BSハイビジョン ハイビジョン特集

b0189364_18204349.jpg過去の放送の寄せ集め

 江戸文化をまとめて紹介するドキュメンタリー。過去にNHKで放送されたいろいろな番組から素材を寄せ集めたもので、見たことがある映像が次々に出てくる。こうなってくると、安直なダイジェスト集というそしりは逃れられまい。
 番組は「尾形光琳」、「大江戸火事繁盛記」、「錦絵」、「葛飾北斎」、「四谷怪談」、「歌川広重」の6部構成になっていて、他にも江戸の生活、食、井戸、花見、番付などが非常に雑多にとりとめもなく紹介されていく。しまいには竹林軒出張所『江戸古地図の旅 〜江戸東京 迷宮の道しるべ〜(ドキュメンタリー)』の酒井伴四郎の映像も出てくるといった有様で、オリジナルの番組を見ていなければともかく、見た人には間違いなく手抜きの番組作りに映る。
 江戸文化を多岐に渡って雑多に紹介するという番組もありだと思うし、見ていてそれなりに楽しめるんだが、こういう寄せ集め番組を見せられた日にゃ、放送の作り手としての良心を欠いているんじゃないかと思わず感じてしまう。テレビ製作者たちには、表現媒体を持っている幸せをかみしめた上で、それなりの覚悟を持ってしっかり取り組んでほしいと思う。ま、こういうのはないものねだりなんだろうが。
★★★

参考:
竹林軒出張所『江戸古地図の旅 〜江戸東京 迷宮の道しるべ〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『北斎漫画を読む 江戸の庶民が熱狂した笑い(本)』
竹林軒出張所『幕末単身赴任 下級武士の食日記(本)』
by chikurinken | 2016-05-16 07:19 | ドキュメンタリー

『江戸古地図の旅』(ドキュメンタリー)

江戸古地図の旅 〜江戸東京 迷宮の道しるべ〜(2003年・NHK)
NHK-BSハイビジョン ハイビジョンスペシャル 大江戸繁盛記 (1)

b0189364_11404094.jpg地図を題材にしながら
江戸の生活を覗き見


 万延元年(1960)に江戸詰めになった酒井伴四郎という紀州藩士は、かなりのメモ魔で、どこに行って何を見て、何を食べたかをかなりマメに記録として残している。その記録が、今となっては江戸の下級武士の生活を伝える一級資料になっているってんだから伴四郎も驚きだろう。
 こういった地方出の下級武士が、江戸を見歩くときに利用したのが地図である。当時江戸ではさまざまな地図が出版されており、江戸全体を描いた大絵図の他、町を部分的に描いた切絵図も多く流通していた。切絵図は、利便性や携帯性にも配慮され、色分けもしっかりされている他さまざまな地図記号も駆使されていて、現代の地図と比べても見劣りしない。しかもこういった地図が毎月改定されて出版されていたというのだから驚く。
 他の武士のことは分からないが、少なくとも酒井伴四郎については、仕事もせいぜい3日に1日、しかもごく短時間であるため、毎日暇をもてあましていた。そのためこういった地図を使って市中を観光して歩いた。酒井の場合は、観光のみならず、いろいろなものを食べ歩いた他、土産を買ったりもしており、なかなか贅沢な生活を送っている(少なくとも江戸詰の間は)。
b0189364_11405748.jpg この番組では、酒井伴四郎(吹越満)が現代にタイムスリップして現代の少女と一緒に東京を旅して廻るというミニドラマを随所に挿入しながら話が進むが、こういう演出が本当に良いのかどうかは微妙なところである。何かというとすぐタイムスリップするという安直さはどうかと思うが、ではあるが、結果的に現代の地図と古地図との比較をうまいことこのミニドラマ内でやっていて一定の役割は果たしているんで、一概に否定できないところである。
 また途中、ゲストを迎えての対談やいろいろなエピソードも交えるなど、番組自体かなり雑多なイメージはあるが、何となく江戸時代が見えてきて、疑似的に江戸観光をしているかのような、言ってみれば逆タイムスリップをしているような味わいもある。古地図を通して見る江戸という時代は、この番組を通じて見ると、非常に魅力的に映る。番組の主旨を考えると、一応の成功は成し遂げていると言えるんじゃないかな。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『幕末単身赴任 下級武士の食日記(本)』
竹林軒出張所『幕末グルメ ブシメシ!(1)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『大江戸庶民いろいろ事情(本)』
竹林軒出張所『江戸時代はエコ時代(本)』
竹林軒出張所『ニッポンの旅 江戸達人と歩く東海道(本)』
竹林軒『映画レビュー:「ラスト・サムライ」に見る「逝きし世の面影」』
竹林軒出張所『にっぽん 微笑みの国の物語 前編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『にっぽん 微笑みの国の物語 後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『過ぎし江戸の面影(本)』
竹林軒出張所『和本のすすめ(本)』
竹林軒出張所『ハイビジョン日本大百科 大江戸百花繚乱(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-05-15 11:41 | ドキュメンタリー

『婉という女』(映画)

b0189364_8593953.jpg婉という女(1971年・ほるぷ映画)
監督:今井正
原作:大原富枝
脚本:鈴木尚之
出演:岩下志麻、北林谷栄、山本学、北大路欣也、江原真二郎、河原崎長一郎、緒形拳、中村賀津雄、楠侑子、長山藍子、岸田今日子

「幽閉」生活のリアル

 野中婉の半生を描いた映画。
 野中婉という人は、江戸時代初期に土佐藩の家老を務めた野中兼山の娘である。野中兼山は土佐藩の家老として腕をふるったが、その後失脚し、そのために野中家は幽閉され、数十年の間外部との接触が一切断たれる。野中婉も4歳から40代になるまで幽閉生活を送るが、その後野中家は許され、普通の生活に戻る。その野中婉が見た、幽閉中の家族の不幸や葛藤、幽閉後の生活などを描くことで、政治によって翻弄される市民、異常な環境下に置かれた女の性などがあぶり出される。原作は、大原富枝の同名小説である。
 監督は日本映画界の巨匠、今井正。キャストも豪華メンバーで、映画は全編正攻法に展開する。奇抜な演出はなく、原作の持つ味わいをそのまま出そうという意図が見受けられる。話はおおむね幽閉時と幽閉後の2つに分かれているが、前後の途絶感はあまりなく、割合うまくまとまっている。原作小説を映像という形で正確に再現したというような、そういう映画である。ただし、原作小説に見られるようなシニカルな描写は比較的少ない。
★★★☆

参考:
参考
竹林軒出張所『にごりえ(映画)』
竹林軒出張所『米(映画)』
竹林軒出張所『喜劇 にっぽんのお婆あちゃん(映画)』
by chikurinken | 2014-12-26 08:59 | 映画

『過ぎし江戸の面影』(本)

b0189364_7465168.jpg過ぎし江戸の面影
双葉社スーパームック

「いろいろな素材から寄せ集めて
味付けしちゃいました」という本


 タイトルや内容から判断すると多分に『逝きし世の面影』を意識した本なんだろう。内容は『逝きし世の面影』に出てきた記述を孫引用してコメントを付けたようなもので、あまり目新しさはない。昔の日本を映した写真や図版をたくさん取り込んだのがひとつの目玉なんだろうが、こういった図版もすでに発表されているものばかりで、こちらも目新しさはあまりない。本書最大の目玉は、モノクロ写真や着色写真にコンピュータを使って新たに色付けしたという部分なんだろうが、これも写真によっては色がギトギトしていて汚いものもある。
 というわけで全編中途半端な印象は否めないが、『逝きし世の面影』を読むときの資料集みたいにして使えば、利用価値はあると思う。それにこういった分野の知識をあまり持っていない人にとっては入門用として格好の素材ではある。ただし、現代日本を持ち上げるような記述が多いのはちょっと疑問。この本で紹介されているような江戸情緒は、現代人によってことごとく破壊されつくしたものであって、江戸・明治初期の日本に当時の西洋人(現代の日本人と通じるものがあると思う)が瞠目したからといって、現代日本がすばらしいということにはならない。こういう素材が妙なナショナリズムに利用されるのはまったくもって愉快ではない。自国のことをすごいすごいなどと声高に言っている輩はよその国の人からは尊重されないよと偏狭なナショナリストたちに忠告してやりたいところで、そのようなナショナリズム本として扱われないことを切に望む。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『カラーでよみがえる東京(ドキュメンタリー)』
竹林軒『映画レビュー:「ラスト・サムライ」に見る「逝きし世の面影」』
竹林軒出張所『にっぽん 微笑みの国の物語 前編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『にっぽん 微笑みの国の物語 後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『美しき日本の面影 小泉八雲のアルバム(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『100年前の世界一周(本)』
by chikurinken | 2014-10-29 07:48 |

『ザ・プレミアム よみがえる江戸城』(ドキュメンタリー)

ザ・プレミアム よみがえる江戸城(2013年・NHK)
NHK-BSプレミアム

冗長な正月番組にするにはもったいない素材

b0189364_8212575.jpg 江戸城の本丸御殿をCGで復元して披露しようという企画。CGの復元には5年の歳月がかかったという。
 お正月番組だったこともあり、全体的におめでたい雰囲気で、だらだらと2時間半にわたって進行する。CGは割合よくできていてそれなりに面白いが、高橋克実がツアーコンダクターになって内部を案内するという見せ方がいただけない。非常に冗長で無駄な演出である。
 CGは、残されている図面を詳細に検討した上で作られたということで、割合しっかりしたものになっている。また襖絵も、現在残されている下絵から再現したと言うことで、こちらもある程度信頼できそうである。何より、江戸城の天守閣が早々に消失してしまい、事実上本丸御殿が江戸城の中心になっていたというのは今回初耳で、そう考えると江戸城は純粋に政務機関だったと考えても良さそうである。
 大広間や松の廊下を紹介するくだりでは、それぞれ関連するエピソードが示され、当時の風習や作りなども詳細に紹介されてまあ楽しめるが、考証が少々眉唾な印象もある。デタラメではないんだろうが、たとえば松の廊下は実際は暗かったなどと言われても、合理性に欠けているんでにわかに信じられない。番組の解説では、松の廊下は、図面から推察すると板戸で覆われていたと考えられるため外光が入らず暗かったはずと言うが、暗くする必然性がなければ、明かりを入れる方が合理的な気がする。そうすると考証の方をもう一度検討し直すべきではないかと感じたりするんだがどうだろう。
 こういう感じで随所に中途半端さが残る番組作りで、いっそのことCGを素材に江戸城の機能を丁寧に紹介するというストレートな展開のドキュメンタリーにした方が番組として良いものになったんじゃないかと思う。どこかで正月向けのバラエティ番組にしたいという意向が働いていたようだが、こういう風に処理してしまったため、せっかくの素材が無駄になったような気もする。
★★★

参考:
竹林軒出張所『京都御所 〜秘められた千年の美〜(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2014-01-21 08:21 | ドキュメンタリー