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竹林軒出張所

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タグ:本 ( 588 ) タグの人気記事

『日本語ぽこりぽこり』(本)

b0189364_20164837.jpg日本語ぽこりぽこり
アーサー・ビナード著
小学館

マルチリンガルの詩人
ならではの視点が面白い


 英語と日本語を駆使する詩人アーサー・ビナードのエッセイ集。タイトルは、所収エッセイ「夜行バスに浮かぶ」で紹介されている夏目漱石の俳句「吹井戸やぽこりぽこりと真桑瓜」から来たもの(だと思う)。
 エッセイはどれも(やや脱力気味ではあるが)ウィットが効いていて面白い。特に日本語に関するものが目を引く。日本語に翻訳された詩の誤訳を指摘したものもなかなかに興味深い。
 また(雑誌の企画のために)日本ならではの「体のための商品」を集めたというエッセイ(「三年前の夏の土用にぼくが死にたくなかったワケ」、初出は『新日本文学』)が実に秀逸。このエッセイ集の中で一番長いものであるため、目玉だったのかも知れない。ABOBAコンドームや陰毛用かつらなどを入手して雑誌社に送ったという内容の話ではあるが、少しとぼけたタッチで書き連ねており、著者のエッセイの特徴がよく発揮された一本と言える。
 著者は日本在住が長いようだが、日本文化を外の目から見るという視点が貫かれていて、その視点は多くのエッセイに反映されている。一方でアメリカに住んでいた頃に経験した話もあり、そのときの経験が日本との比較文化的な視点で記述されたりする。こういった2種類のものが併存しているのはこの著者ならではであり、その部分が一番の魅力と言えるかも知れない。概ねどのエッセイも面白かったが、最後の「オマケのミシシッピ」(著者のミシシッピ川に対する思いを盛り込んだ旅行記、初出は『翼の王国』)は、あまり面白味を感じなかった。しかもかなり長い一編で、この一本のおかげで最後はかなり退屈してしまった。
第21回(2005年) 講談社エッセイ賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ちいさな言葉(本)』
竹林軒出張所『本当はちがうんだ日記(本)』
竹林軒出張所『小説より奇なり(本)』
竹林軒出張所『子どもはみんな問題児。(本)』
竹林軒出張所『かつをぶしの時代なのだ(本)』

by chikurinken | 2017-06-25 07:15 |

『武満徹・音楽創造への旅』(本)

b0189364_22293568.jpg武満徹・音楽創造への旅
立花隆著
文藝春秋

死んだ作曲家の残したものは

 雑誌『文學界』に6年近く連載された「武満徹・音楽創造への旅」をまとめたもの。立花隆が作曲家、武満徹とその周囲の人にインタビューを敢行し、武満徹の人間、作品、哲学などに迫ろうという試みである。中でも武満本人には、連載前に30時間、連載開始後も30時間以上インタビューしているということで、かなりの力作であることがわかる。しかも、何と連載中に武満が逝去する(1996年2月)という「事件」まで起き、武満にとっては、このインタビューが自身について語る最後の機会になった可能性が高い。ちなみに武満逝去後も連載は続き、もちろん新しくインタビューすることはできないわけだが、過去のインタビューでそれまで使われていなかったものを取り上げるなどして、連載はその後2年以上も継続することになった。本書ではIの部分が逝去前、IIの部分が逝去後というふうな構成でまとめられている。
 僕自身、立花隆の著書は80年代によく読んでおり、『宇宙からの帰還』『中核VS革マル』は非常に印象深かった。その後の『脳死』あたりからだんだん面白さがなくなってきて、それ以降はあまり読まなくなった。立花隆の印象は、とにかくインタビューがうまい、またそれをまとめるのもうまいというもので、インタビューものは秀逸である。それを考えると、1人の作曲家に対して立花がこれだけ時間をかけてインタビューしたというだけで十分期待が持てる。事実、期待に違わない素晴らしい仕上がりで、それは一つには立花隆自体が武満徹に心酔していたということも原因として挙げられる。武満に対する興味が尽きないことが窺われるし、武満もそれに対して十二分に応えている。そのおかげで、一人の(魅力ある)人間の来し方、考え方などが一冊の本にまとめられ、その中でその人間が生き続けているかのような大著が生まれることになったわけだ。武満徹の本としては、あるいは1人の人間の伝記本としても、これ以上は望むべくもないという孤高の一冊に結実したと言える。
 何よりも武満徹の魅力が存分に描き出され、若い頃は無頼の生活を送っていたとか、想像を絶するほどの困窮を極めていたとか、これまでの武満像を打ち砕いてくれるようなエピソードも満載である。一番驚いたのは、武満が音楽家になることを決意した時点で楽譜をまったく読めなかったという話で、ほとんど独学で音楽の理論を勉強したというのも驚きである。ピアノも当然持っておらず、道を歩いていてピアノの音が聞こえてきたら、その家を訪ねピアノを弾かしてくれるようお願いしていたなどという話は、驚きを通り越して面白すぎるくらいである。しかも若い頃は病弱で、死ぬ前に1曲ぐらいちゃんとした楽曲を書いておきたいという熱意で曲を作るが、できあがった先から原稿をどんどん捨てていくという話も、あまりに意外すぎる。無頼にもほどがあるというものである。僕自身が、武満徹について、子どもの時分から音楽の英才教育を受けたようなブルジョア家庭の育ちだとばかり思い込んでいたので、その意外さたるや推して知るべしである。いやそれ以前に、音楽の基礎知識もなく作曲家になろうとした、そして実際になったというのがまず不思議だ。そんなことが現実に可能なのかと思う。これが本当であれば(本当なんだろうが)、人間には運命というものがあるのかとも感じる。武満徹はなるべくして作曲家になったということなのだ。そして実際に素晴らしい仕事をやってのけた。だが本人にしてみれば、ほとんどの作が恥ずかしいほどダメだという。このあたりもまことに意外で、とにかくものすごく不思議な人である。
 そうかと思えば、世界中のさまざまな分野の人と非常に広い交友関係があり、現代音楽のメシアン、ベリオ、ジョン・ケージ、現代美術のジャスパー・ジョーンズなどとかなり親密に付き合っていることがわかる。しかもイサム・ノグチから夢窓疎石のことを教わったりもしている。当然国内の美術界、音楽界にも実に広い交友関係があり、武満徹の魅力がそうさせているのかわからないが、どの人とも気負いなく付き合っていることが見えてくる。
 武満徹は、もちろん現代音楽で有名なんだが、その他の分野でも幅広く作曲活動を行っており、その範囲は映画音楽、雅楽、ポップスと非常に多岐に渡る。自身が聞く音楽も非常に多岐に渡っていたようで、ポップス、雅楽、民族音楽、歌謡曲などありとあらゆる音楽に関心を示していたらしい。その割にはブラームスやフォーレをあまり聞いていなかったりもしている(あらためて聴いてみて非常に感動した……という話。なんだか不思議だが)。また他のところで聞いた話だが、なんでもビートルズが大変好きで、ポール・マッカートニーにファンレターを書いたとかいう話もある。とにかく不思議な人なんである。
 音楽に対してもいろいろ突き詰めて考えており、特に西洋音楽と日本の音楽、東洋の音楽などについての彼なりのさまざまな哲学が展開される。中には本人の作品に直結しているものもあり、音楽を通じた思想家という表現もあてはまるかも知れない。そういうことがわかるのもこれだけのインタビューが行われたゆえであり、1冊の本が人物像を明確に浮かび上がらせる役割を果たしているというのが、この本に対する実感である。肉体がなくなった後でも、これだけの記録が残るのは一人の人間にとって光栄なことではないかと思う。もちろん武満徹の場合は音楽の作品が多数残されていて、今でも彼の評価は衰えることがないが、武満徹という魅力的な人間がこの一冊の中で蘇ることで、その生涯自体が一つの芸術作品のようにも思えるのである。それを実現した名著がこれで、立花隆にとっても最高傑作の一冊と言えるのではないかと思う。
★★★★

参考:
竹林軒『CDレビュー 武満徹の愛した小品』
竹林軒出張所『武満徹の「うた」』
竹林軒出張所『マエストロ・オザワ 80歳コンサート(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『さわり(本)』
竹林軒出張所『他人の顔(映画)』

by chikurinken | 2017-06-04 07:29 |

『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧』(本)

シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧
エマニュエル・トッド著、 堀茂樹訳
文春新書

分析はトッドらしく興味深いが
例によってきわめて読みづらい翻訳文だ


b0189364_20285391.jpg 2015年1月のシャルリ・エブド襲撃事件(竹林軒出張所『パリ戦慄の3日間 シャルリ・エブド襲撃事件(ドキュメンタリー)』を参照)の後、エマニュエル・トッドがフランスで緊急出版した著書の翻訳本。
 あの事件の後、フランス中でシャルリ・エブドを擁護する論調がわき起こり、それはもはやヒステリックな状態にまで達した。パリをはじめ、フランス全土でシャルリ・エブド擁護のデモ行進(いわゆる「私はシャルリ」)が行われ、それはさながらイスラム教に対するヒステリックな拒絶であるかのようであった。そしてその後しばらく、これに反対する言論がこれもまたヒステリックに叩かれるという状態が続き、ちょっとした全体主義的雰囲気になっていたという。自由の国フランスで起こったこういう事態に違和感を抱いた人々もいたようだが、発言しにくい雰囲気ができあがってしまった。
 そういうさなかに出版されたのが、「私はシャルリ」に対して批判的な論調を持つこの本で、案の定、大バッシングを受けたらしい。それでも内容は非常に分析的で、トッドらしくなかなか鋭い。集団ヒステリー状態の人々には、痛いところを突かれたのが耐えがたかったのかどうかはわからないが、示唆に富んだ内容であるのは確かである。
 要するに本書では、今回の現象について、フランス国内(他の国々でもそうだが)で進行している脱宗教(フランスの場合脱カトリック)の傾向のために精神的な拠り所を失った人々が、生活の拠り所の喪失(格差の拡大)と相まって、その敵意を外部にある宗教的なもの(つまりイスラム教)に向けていることの現れであると分析する。その公式は「宗教的空白+格差の拡大=外国人恐怖症」というもの。またさらに興味深かったのが、現在ヨーロッパで頻発しているテロ行為、あるいはISの活動自体も、ヨーロッパの場合と同様、脱宗教(脱イスラム教)の結果発生したのだという分析である。したがってテロ行為をイスラム教のせいにするのはまったくのお門違いだと著者はいう。世界中で、脱宗教が進んだせいで起こっている混乱と、グローバリズムによって広がった格差が、現在の種々の問題を生み出す原因になっているとする。こういうことを統計を駆使して論証していくのがこの本で、内容は非常に濃い。だがしかし、例によって翻訳が非常に拙いため、読みづらくて仕方がない。おかげで内容については半分くらいしか理解できていない。とは言っても、本書の分析は決して浅はかなものではなく、さまざまな事象に対して別の角度から次々と新しい見方を提示してくるのはいかにもトッドらしい。決してないがしろにできない性質を持つ本である。だがやはり、翻訳がこれじゃあね……という感じを毎度持つのだ。もう少しだけでも、読みやすい日本語にできないものだろうかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『パリ戦慄の3日間 シャルリ・エブド襲撃事件(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』
竹林軒出張所『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告(本)』
竹林軒出張所『エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-06-02 07:28 |

『健康診断は受けてはいけない』(本)

b0189364_20284745.jpg健康診断は受けてはいけない
近藤誠著
文春新書

検診は「公共事業」だと

 今年の2月に発売された近藤誠の新刊。健康診断が役に立っていないどころか有害ですらあるということを繰り返し語る本。
 健康診断で「がん」が見つかり、手術などの治療をしたせいで結局死んでしまうというような事例がまま見受けられるが、そもそも症状が出ず健康診断でしか見つからないようなものは転移しない「がんもどき」であるため、そういう場合は基本的に治療は必要ないというのが著者の主張である。著者によると、実際、外科手術をして合併症が発生しそのために死期を早めるケースが多いという。これについては、海外の研究により、健康診断では寿命を延ばすことができない(むしろ死亡率を挙げる結果になっている)ことが示されており、そのあたりのデータについても、日本では意図的あるいは医師の無知から曲解されて、無理やり健康診断が有用であるという結論が導かれている。厚生労働省も企業に対して健康診断を押し付けているのは、非常に悪質で、犯罪的であると著者は主張する。
 内容については概ね今までの著書の焼き移しで、『成人病の真実』『これでもがん治療を続けますか』をミックスしたような内容である。斬新なのは第9章の「検診を宣伝する者たち」で、医学界の権威の皆さんを、実名を挙げてバッサバッサと切り捨てている点。ここで俎上に上っているのは、東大医学部放射線科准教授・中川恵一、産婦人科医・宋美玄、聖マリアンナ医科大学乳がん検診センター付属クリニック院長・福田護、京都大学名誉教授・小西郁生、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授・勝俣範之ら。日野原重明までがぶった切られている。大変痛快ではあるが、名誉毀損で訴訟みたいな話にもなりかねないところである。また多くの医者について、勉強不足かつ能力不足、中身が貧弱などとも書いていて、(エラそうな)医者嫌いの僕にとってはこちらも非常に痛快。国が推進している検診は「税金から資金を補助し、産業を保護・育成する」という点で「公共事業」と同じとする指摘はなかなか鋭い。
 近藤誠の他の著書と同じく、本書も非常に読みやすいし、理屈も非常に単純である。信じるか信じないかは読者次第だが、少なくとも医者に殺されるのはイヤだと感じるのは僕だけではあるまい。僕自身は、万一がんになったらジタバタしないで、天寿を全うする所存でいるが、もちろん実際にそういう立場になったらどうなるかわからない。これまで近藤誠の本を何冊か読んで、ある程度のカラクリがわかっているつもりなんで、その辺は存外うまく割り切れるのではないかとも思っている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『成人病の真実(本)』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
竹林軒出張所『これでもがん治療を続けますか(本)』
竹林軒出張所『日本は世界一の「医療被曝」大国(本)』
竹林軒『書籍レビュー:この本をすすめる本当の理由』
竹林軒出張所『どうせ死ぬなら「がん」がいい(本)』
竹林軒出張所『大往生したけりゃ医療とかかわるな(本)』

by chikurinken | 2017-05-31 07:28 |

『あなたの体は9割が細菌』(本)

あなたの体は9割が細菌
アランナ・コリン著、矢野真千子訳
河出書房新社

主張に1本筋が通っている良書

b0189364_08122145.jpg 人間の体内に棲む微生物(本書では「マイクロバイオータ」と呼ぶ)と人間の共生関係について説いた本。
 20世紀になって抗生物質が乱用されるようになりマイクロバイオータが大量に殺されたことから、この共生関係が壊され、I型糖尿病、アレルギーなどの21世紀病(免疫疾患)が発生したというのが著者の主張。
 著者はマイクロバイオータの重大性から説く。人間の体内には100兆を超えるマイクロバイオータが棲んでおり、消化吸収に関わる多くの重要な仕事はマイクロバイオータが担当している。微生物はライフサイクルが短いため、環境に適用しやすいという特質がある。この特質を利用することで、人間を含む大きな生物は(本来であれば進化のために何百年何千年もかけなければ適用できない)食生活に容易に適用できるようになっているらしい。
 しかしその関係は、抗生物質によって大きく変わった。抗生物質は感染症に対して大きな効果を発揮したことは言うまでもないが、あまりに不必要に乱用されているため、人間の体内のマイクロバイオータが相当量殺され、人によっては、マイクロバイオータの組成が大きく変わった。また肉中心の食生活もその組成を変える助けになっている。これが21世紀病の原因ではないかというのが本書のキモの部分である。しかも肥満や自閉症まで、マイクロバイオータの組成変動が原因ではないかとする(これについては十分な考察がある)。
 また同時に、本来であれば出産時に母から子に伝えられるマイクロバイオータが子に伝わりにくくなっていることも指摘する。帝王切開が増えていることがその原因で、帝王切開の場合、産道を通るときに浴びせられる母親のマイクロバイオータが子に浴びせられる、つまり取り込まれる機会が損なわれる(通常であれば母から子へマイクロバイオータが継承される)。さらに、母乳の代わりに人工乳を使うことも、マイクロバイオータの子への伝搬を阻害するという。こういう話はちょっと聞いただけではにわかに信じがたいが、これについても何度も繰り返し論証している。論証がどのくらいできているかは即断できないが、少なくとも論証しようとしている。そのため全体的にはかなりくどさを感じる記述になっている。もちろんこれは著者の良心とも言えるわけで、必ずしもマイナスポイントではない。
 ともかく治療が難しい21世紀病を克服するには、マイクロバイオータを正常化(抗生物質登場以前の段階まで戻す)することが重要で、そのために抗生物質の使用は極力少なくする、出産、育児についてもマイクロバイオータの観点から見直すべきというのが著者の主張である。また21世紀病に対しては、糞便移植が効果を発揮していることも紹介している(竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』を参照)。これも腸内のマイクロバイオータを正常化させるための治療である。
 マイクロバイオータについて非常に詳細に解説し、なおかつ今後の我々のあり方についても示唆する良書で、内容は『失われてゆく、我々の内なる細菌』と重複する部分も多いが、あの本ほどの読みにくさもない。
 『あなたの中のミクロの世界 (1)(2)』もこの本と同じような内容が紹介されていたため、あのドキュメンタリーの補足(あるいは理論的な拠り所)として読むのもありだ。とにかく主張が明解で結論がはっきりしているので、読後感は非常に良い。
 微生物の専門的な名前が多出するのが少々難だが、一方でしっかりした索引が付けられているため、それを十分補っている。値段もまあ手頃だし、この手の本を買うならまずこの本ということになる。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『失われてゆく、我々の内なる細菌(本)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (1)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『わたしたちの体は寄生虫を欲している(本)』
竹林軒出張所『土と内臓 微生物がつくる世界(本)』

by chikurinken | 2017-04-23 08:13 |

『短歌をよむ』(本)

b0189364_18542516.jpg短歌をよむ
俵万智著
岩波新書

読もうが詠もうが短歌は短歌

 歌人、俵万智の短歌論。出版されたのが1993年で、第二歌集が出た後ということになる。『サラダ記念日』で一世を風靡したとは言え、短歌の世界ではまだ新人に入る時代に短歌について書いてみた、しかも岩波新書にということで、著者にとってはかなり思い切った本ではないかと思うが、なかなかよくできている。あるいは渾身の作と言っても良いかも知れない。
 「短歌を読む」、「短歌を詠む」、「短歌を考える」の三部構成になっており、本書のタイトルが『短歌をよむ』であることから「短歌を考える」は蛇足のようにも感じられるが(実際当初は2部構成の予定だったらしい)、執筆の段階で急遽この章の追加が決まったという。「短歌を考える」の項では、短歌の世界から身を引いた現代歌人について論じているんだが、結果的に著者による決意表明みたいになっており、読んでいて何やら少し気恥ずかしさも感じる。
 第1章の「短歌を読む」は、和歌や短歌の鑑賞教室、第2章の「短歌を詠む」は、自作の例から、どのような推敲を経て短歌が作られていくかが示される。第2章も種明かしみたいで面白かった(たとえばサラダ記念日の歌<「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日>は、本当のところはサラダではなくカレー味の唐揚げだったとか、日付も7月6日ではなかったとか)が、個人的には第1章の鑑賞教室が一番のお気に入りである。伊勢物語の解説本などでもそうだったが、著者の古典文学に対する洞察が僕には新鮮で、しかも語り口もなかなかうまいため、あの本同様、非常に興味深く感じる。
 全体として見るとそれなりにまとまっていて、しかも熱意も感じられるなど、総じて良書ではあるが、僕としてはやはり第1章だけでも良かったかなという感じがする。
★★★

参考:
竹林軒出張所『恋する伊勢物語(本)』
竹林軒出張所『たんぽぽの日々(本)』
竹林軒出張所『生まれてバンザイ(本)』
竹林軒出張所『ちいさな言葉(本)』
竹林軒出張所『オバカ記念日』

by chikurinken | 2017-04-21 06:54 |

『殷周伝説 太公望伝奇 (1)〜(22)』(本)

b0189364_21041610.jpg殷周伝説 太公望伝奇 (1)(22)
横山光輝著
希望コミックス

伝説的な軍師、太公望の一代記

 横山光輝の遺作。古代中国の王朝、殷が、紂(ちゅう)王の暴政により、周の武王によって倒される過程を描く。原作は、明代に書かれた『封神演義』と『史記』。『封神演義』自体、妖怪とか仙人とか出てくる話である(らしい)ため、このマンガも歴史物語風でありながら、随所にオカルト的な要素が出てくる。『史記』や『三国志』のような話を期待していると少し当てが外れるかも知れない。
 ストーリーは、元々が伝説的な話であるため少々荒唐無稽だったり、後半は戦闘シーンばかりが延々と続き、さながら水島新司の甲子園マンガみたいで少し辟易するが、太公望呂尚が登場するあたりはなかなか見応えがあった。なんせ、長年仙人修行を続けて娑婆に戻ったばかりの呂尚が、嫁さんから仕事をしろなどと迫られて商売を始めたりする(しかも商売はあまりうまく行かない)。もちろんその後、呂尚は周の国で作戦参謀として頭角を現すんだが、その辺の落差は、よくあるエピソードとはいえ、なかなか面白い。
b0189364_21045301.jpg また登場人物がやけに多くなるのも、他の中国文学ものの横山マンガと共通で、まるで『水滸伝』である。おかげで主要登場人物以外ほとんど頭に入ってこなかった。登場人物の描き分けは割合されていたとは思うが、いかんせん、味方も敵も次から次へと登場してくるんで、こちらの頭がついていかない。
 作品のレベルとしては、たとえば途中かなり絵が荒れていたりして(これでも単行本化前にかなり加筆訂正が行われたらしい)、『三国志』『史記』には遠く及ばない。だがこのマンガの完結後、横山氏が事故死したため、結局これが遺作になった。編集者によると、横山氏はこの後『孫子』のマンガ化に意欲を示していたということで、そういう点でも非常に残念である。横山版の『孫子』にも興味があるところだが、ないものはしようがない。少なくとも殷と周の関係や、太公望呂尚などについてかなり知ることができた点、このマンガも十分評価に値する。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『史記 (横山光輝版)(本)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』
竹林軒出張所『項羽と劉邦 (1)〜(3)(本)』
竹林軒出張所『水滸伝 (1)〜(6)(本)』
竹林軒出張所『平家物語 (上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『元禄御畳奉行の日記 (上)(下) (横山光輝版)(本)』

by chikurinken | 2017-03-24 07:02 |

『本当はちがうんだ日記』(本)

b0189364_07380204.jpg本当はちがうんだ日記
穂村弘著
集英社

飲み屋での会話…みたいな

 歌人、穂村弘のエッセイ集。といっても僕はこの人のことをまったく知らなかった。今もあまり知らない。
 このエッセイ集は、2003年から2005年にあちこちの雑誌に書いたエッセイをまとめたもので、半分くらいは『小説すばる』に連載したもの。他は『本の雑誌』や『讀賣新聞』など。媒体によって内容も違っており、『小説すばる』に連載したもの(本書の第I部)は、自分がいかにダメな人間か書いたものが多く、癒やし系あるいは脱力系のエッセイということになるか。たとえば、40歳にして独身とか、友だちがいないとか、あだ名で呼ばれたことがないとか書かれているが、ちゃんと勤めて稼いでいるようだし、趣味も多いし、しかも歌人としても有名らしいし、どこがダメ人間だというツッコミはともかく、こういった些細なことへのこだわりというかコンプレックスがこの第I部の味である。
 『本の雑誌』の連載をはじめとする第II部はそういうダメさ加減は身を潜め、特有のこだわりが顔をもたげ、こちらも味わいになっている。ただ、この著者の歌や人物に特別な関心を寄せているのでなければ、あまりどうと言うことのないエッセイで、軽く読めるんで今回読んでみたんだが、正直あまり感じるところがなかったというのが本音の部分である。よほど特異な見方でも披露されないと、こうした飲み屋での会話みたいな内容ではあまり満足できないし、ことさらに時間をかけて読む必要があったのか疑問を感じている。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ちいさな言葉(本)』
竹林軒出張所『生まれてバンザイ(本)』
竹林軒出張所『たんぽぽの日々(本)』
竹林軒出張所『日本語ぽこりぽこり(本)』
竹林軒出張所『小説より奇なり(本)』
竹林軒出張所『さわの文具店(本)』
竹林軒出張所『かつをぶしの時代なのだ(本)』
竹林軒出張所『山手線内回りのゲリラ(本)』

by chikurinken | 2017-03-22 07:07 |

『クー・クラックス・クラン 白人至上主義結社KKKの正体』(本)

b0189364_17133161.jpgクー・クラックス・クラン
白人至上主義結社KKKの正体

浜本隆三著
平凡社新書

KKKの出自と現代

 アメリカの秘密結社、クー・クラックス・クランについて書かれた「日本ではじめての新書」。
 クー・クラックス・クラン(KKK)は、アメリカの古いドラマでときどき目にする白装束の一団で、ドラマでは黒人や黒人に理解がある白人を拉致して暴行を加える(場合によっては殺人)集団として描かれ、アメリカ史の暗部を示す素材として取り上げられる。視聴者の方も、概ね恐怖の対象としてKKKを捉える。だがその実態は意外に知られていない。そこでそれを掘り下げて、彼らの真の姿に迫ろうという試み、それがこの本である。
 KKKの活動時期は大きく、南北戦争直後(1860年代)、移民が増加した20世紀初頭(1920年代)、公民権運動が盛んだった時期(1960年代)の3期に分けられる。それぞれの時代に共通しているのが、それまで利益を受けていた多数派だった人々が既得権益が失われることをもっとも恐れた時期だということで、そのはけ口として、KKKのような活動が盛んになったというのが著者の分析である。一方でKKKは、集団として福祉活動を行っていたこともある(第二期)というんだから意外。また1920年代の第二期には、会員数が数百万単位まで増えていたらしいが、その裏にはネズミ講まがいの会員獲得作戦があったという(その後会員数は激減)。こういうことを考えるとKKKは単なるテロリスト集団とも言えない側面もあるが、それはどこの暴力集団でも共通かも知れない。
 今の時代も「それまで利益を受けていた多数派だった人々が既得権益が失われ」つつある時代で、そのためか排外主義や保守主義が世界中に蔓延してきている。そういう意味ではKKKが台頭してきた時代と共通性がある(日本でも差別的な言動が多くなっている)。KKKとアメリカの歴史を振り返ることで、この時代の社会の動きを予想しそれに対処できるようにしたいというのが本書の目的らしいが、そのあたりはうまく達成できていると思う。しかしやはりKKKは遠い世界の話であり、読んでいてあまり熱くなれずむしろ醒めてしまう自分がいる。どことなく学術論文的な記述のようにも感じるが、それも物足りなさに拍車をかけているのか。読みやすくはあるが、さして満足感を感じない本というのが僕の印象であった(あくまでも個人的な感想です)。
★★★

参考:
竹林軒出張所『人種隔離バスへの抵抗(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『グローリー 明日への行進(映画)』
竹林軒出張所『キング牧師とワシントン大行進(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2017-03-20 17:14 |

『土と内臓 微生物がつくる世界』(本)

土と内臓 微生物がつくる世界
デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー著、片岡夏実訳
築地書館

植物の根と人間の内臓の中は同じらしい

b0189364_8125331.jpg 土壌の細菌が自然の中で果たす役割は非常に大きく、植物や菌類はこういった細菌を根の部分で利用しながら生長する。中には植物を攻撃する細菌もあるが、それはむしろ少数派で、植物は他の細菌を利用しながらこういったいわゆる「悪玉菌」を撃退しているという。一方で、我々の内臓(特に小腸と大腸)の中にも非常に多くの微生物が棲息しており、人間や動物の身体はこういった微生物を利用しながら(あるいは助けられながら)生きている。その関係は植物の根と同じであり、人間の内臓はいわば植物の根をひっくり返したような構造になっているというのが著者の主張。農薬が大地に棲む微生物を十把一絡げに殺してしまい大地を不毛の地にするように、人間の体内では抗生物質が有用な微生物まで虐殺し腸内を不毛にしてしまう。結果的に、免疫関連の(現在原因不明の)病気が発生するという。その過程もミクロ的に詳細に描かれていて、わかりやすい。ただし著者のデイビッド・モントゴメリー(前も書いたが本来であれば「モンゴメリー」だろうと思う)は土壌の専門家で、大地の微生物についてはともかく、体内の微生物については門外漢であり、説得力はあるがどこまで信用して良いものかちょっとわからない。
 共著者はデイビッドの妻のアンであり、こちらは生物学者。おそらく第6章、第7章あたりを書いたのではないかと思うが、ここらあたりは学術というよりむしろ体験記みたいなもので、学術書みたいな本を期待している向きは失望するかも知れない(わかりやすくはなっているが)。
 このように本書は学術書ではないが、人間と微生物との関わりの歴史や、大地での微生物の働き、腸内での微生物の働きや免疫システムの機能など、非常に網羅的に紹介しており、微生物のあれやこれやについて知るには恰好の書物になっている。また、人間にとって食生活がいかに大切か、何を摂取すべきかについても、説得力のある見解が披露される。これについては僕自身少し感じるところがあり、現在少し乱れている食生活を変えてみようかと考えたりするきっかけになった。
 難点は、同じ著者の『土の文明史』にも当てはまるが、翻訳がものすごく読みにくい点で、『土の文明史』のときと同様もう少しこなれた日本語にできなかったのかと思う。そもそも「モントゴメリー」から直せよと思う。ちなみにこの著者、デイビッド・モントゴメリー名義の訳書については『土の文明史』と本書の2冊が刊行されているが、実は「デイヴィッド・R. モンゴメリー」名義の訳書もある(『岩は嘘をつかない 地質学が読み解くノアの洪水と地球の歴史』)。同一人物である。Amazonで検索すると別人扱いになり紛らわしいったらない。この著者の本については洞察力が鋭く、僕自身大変興味があるんで、次からはもう少ししっかりした翻訳で読めたら良いなと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『土の文明史(本)』
竹林軒出張所『あなたの体は9割が細菌(本)』
竹林軒出張所『失われてゆく、我々の内なる細菌(本)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (1)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ 医者いらずの驚異の力(本)』
竹林軒出張所『食について思いを馳せる本』
by chikurinken | 2017-02-24 08:13 |