ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

タグ:映画 ( 583 ) タグの人気記事

『ブレードランナー ファイナル・カット』(映画)

ブレードランナー ファイナル・カット(1982年・米)
監督:リドリー・スコット
原作:フィリップ・K・ディック
脚本:ハンプトン・ファンチャー、デヴィッド・ピープルズ
デザイン:シド・ミード
音楽:ヴァンゲリス
出演:ハリソン・フォード、ルトガー・ハウアー、ショーン・ヤング、エドワード・ジェームズ・オルモス、ダリル・ハンナ、ブライオン・ジェームズ

ブレードランナーは一角獣の夢を見た

b0189364_20263258.jpg フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が原作。舞台は2019年のロサンゼルス。怪しげな外国語が飛びかう多国籍の街。日本語が飛びかう屋台、巨大スクリーンに映される芸者の広告(なぜか「強力わかもと」)が新鮮である。LAでありながらずっと雨が降っている。
 この時代、人間そっくりのアンドロイド(レプリカント)が普及しており、知性も腕力も持っていて他の星での肉体労働などに従事しているが、中には地球に紛れ込む者がいる。そういうレプリカントを破壊するのがブレードランナーで、主人公もその1人。地球に紛れ込んだ数人のレプリカントを追うというのがこの映画のメインストリームである。
 ストーリー自体は比較的平凡だが、この映画の特徴は美術で、とにかく舞台の描写がリアルですごい。この映画が作られたときはまだCGがなかったため、一般的な合成による特撮で作られているが、非常に質が高い。それに世界観が独特で、たとえば主人公のハリソン・フォードが日本人の経営する屋台で麺を食べているシーンは、妙にユーモラスで最初見たとき思わず笑いがこみ上げてきた。ちなみにこの映画、僕自身は1984年ぐらいに初めて見ており、そのときは美術はすごいと思ったがストーリーがよく把握できず、なんだか曖昧な印象しか残らなかった。この映画、公開当初はあまり人気が出ず、時代を経るうちにカルト的な人気を集めて今に至っているんだが、当初は製作側でもストーリーがわかりにくいといわれていたようで、それでも見切り発車みたいな形で公開されたらしい。監督のリドリー・スコットにとってはそれが不本意だったようで、その後人気が高まるにつれて、カットされたシーンを活かし監督自身が再編集したディレクターズカット版が発表された。そしてさらにその後編集が加えられて「ファイナル・カット」版が作られ、それが今回見た作品ということになる。今回は、ストーリー自身にはわかりにくさを感じなかった。鳩のシーンも非常に魅力的だった。
 撮影時からいろいろスタッフの間で対立があったりとか、演出上もいろいろとゴタゴタがあったことがメイキングビデオ(『デンジャラス・デイズ メイキング・オブ・ブレードランナー』)で紹介されていたが、(アメリカの事情は知らないが)そんな状態でもこれだけの完成度を持つ作品ができあがったということに驚く。リドリー・スコットの前作『エイリアン』同様、ともかくデザインを含め美術が際立った映画で、リドリー・スコットとシド・ミードの才能のたまものなんだろうと思う。世界観を堪能してくださいというそういう映画である(と思う)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ポアンカレ予想 100年の格闘(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-08-16 07:27 | 映画

『陸軍中野学校』(映画)

陸軍中野学校(1966年・大映)
監督:増村保造
脚本:星川清司
出演:市川雷蔵、小川真由美、待田京介、E・H・エリック、加東大介、村瀬幸子、早川雄三

暗くて暗くてとてもやりきれない

b0189364_20445900.jpg 太平洋戦争中に実在した「陸軍中野学校」を舞台にしたスパイ映画。
 陸軍中野学校というのは、諜報活動のプロを養成すべく陸軍内に作られた機関で、この映画でその名が世間に知られるようになったのではないかと推測される。
 内容は陸軍中野学校がどういう学校か、どういう性格かという説明が多く、特に序盤は多分に説明的であるが、その後主人公の三好陸軍少尉(市川雷蔵)が関係者を殺害しなければならなくなるという展開は想定外で、ドラマとしてなかなかうまく練り上げられている。主演の市川雷蔵は、この映画が初の現代劇ということで、雷蔵が新境地を見せた映画としても知られている。興行的にも当たったようで、その後シリーズ化された。
 総じてよくできた映画ではあるが、ただやはりフィルムノワール(「虚無的・悲観的・退廃的な指向性を持つ犯罪映画」- Wikipediaによる)風で、しかも殺伐としており、あまり気分が良い作品ではない。この気分の悪さというのは、作り手による反戦のメッセージだろうとは思う。そういう点で、この時代に多数作られた戦争ヒロイズム映画とは一線を画す作品ではある。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『間諜X27(映画)』
竹林軒出張所『兵隊やくざ(映画)』
竹林軒出張所『巨人と玩具(映画)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』
竹林軒出張所『炎上(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』
竹林軒出張所『小野田元少尉の帰還(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第5集〜第8集(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-08-14 06:44 | 映画

『兵隊やくざ』(映画)

兵隊やくざ(1965年・大映)
監督:増村保造
原作:有馬頼義
脚本:菊島隆三
撮影:小林節雄
出演:田村高廣、勝新太郎、淡路恵子、北城寿太郎、早川雄三

人間的な魅力に富む二人の超人の話

b0189364_06581856.jpg 『兵隊やくざ』はシリーズになっていて、途中の作品はたびたび見る機会があったものの、シリーズ第1作目、つまり本作についてはなかなか見る機会がなく、今回とうとう見ることができたということになる。シリーズの途中から見るというのははなはだ不本意で、だから実際には見てはいない。そもそもシリーズ化した作品というのは第1作が当たったためにシリーズになったというのが普通である。ならばとりあえず第1作を見れば良いではないかというのが僕の考え方である。まあ普通の人はそうだろうが。
 もっともこの『兵隊やくざ』、シリーズ化されているといっても、比較的地味な作品群で、映画ファンでなければ知らないようなシリーズである。勝進のシリーズ作品と言えば『座頭市』の方がはるかに有名だし。ただし僕は『座頭市』も勝進もあまり好きではない。したがって『兵隊やくざ』にしても、とりあえず第1作目を見れば良いかなという程度の考えしかなかった。
 で、今回まあ見たわけだが、予想に反して、これが非常に良くできた面白い映画に仕上がっていたのだった。型破りの元やくざ、大宮(勝新太郎)が、関東軍に二等兵として入隊してくるが、関東軍といえば苛烈な初年兵いじめで有名。でもって、当然この初年兵、目を付けられて散々な目に遭わされる。しかしこの大宮、そんじょそこいらのやわな人間と違って、腕力と破天荒さにかけては天下一品。徐々に自分の居場所を作っていく。この大宮の目付役が三年兵の有田(田村高廣)だが、大宮に共感を覚えたか、窮地を救ったり上官に対してかばったりする。大宮の方も有田をボスと認め、この恩義をいつか返すと誓うというそういった流れになる。
 軍隊内、特に大日本帝国陸軍のいじめや暴力というのはいろいろな映画で描かれていて、見ていていつも辟易する。『真空地帯』しかり、『人間の條件』しかりであるが、『真空地帯』ではそんな中で実力でのし上がる男、『人間の條件』ではあくまでも正義を貫こうとする男が出てきて、それがドラマの中心になる。この映画も同様で、(身分)秩序がしっかりあってしかも暴力によってその秩序が維持されている集団内に、破天荒な人間が入ってきて一悶着起こすというドラマになる。ただその入ってくるよそ者が、「人物」でありながら腕力も持っている魅力的な存在というのがこの映画のミソである。この人物、どこか無法松を思わせるが、無法松→阪妻→田村高廣というふうにこの映画にも繋がっているのはたまたまか。この魅力的な男が異常な集団の中で、人間性を見失わずに自分を貫いていく。またもう一人の主人公、有田の正義感も気持ち良い要素である。彼も異常な集団の中で、まともな思考とまともな感情を見失わない。そういう意味では、二人ともややスーパーマン的ではあるが、基本的に娯楽映画だからそれで良い。
 駐屯地のセットは野っ原の中にしっかりと作られていて、舞台が満州と言われてもまったく違和感はない(実際の撮影地は北海道あたりか)。大映映画らしい豪華さである。
 先ほども言ったが、この映画かなり当たったようで、その後シリーズ化され、結局第9作まで作られた。ただし増村保造が監督したのはこの一作のみで、後はプログラムピクチャーの監督が担当している。見ていないし見る予定もないのでどの程度の作品になったかはわからない。やはりこの一作だけで終わらせても良かったんじゃないかというのが実感である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『真空地帯(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『無法松の一生(映画)』
竹林軒出張所『陸軍中野学校(映画)』
竹林軒出張所『巨人と玩具(映画)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』

by chikurinken | 2017-08-12 06:59 | 映画

『コン・ティキ』(映画)

コン・ティキ(2012年・英/スウェーデン/デンマーク/独)
監督:ヨアヒム・ローニング、エスペン・サンドベリ
脚本:ペッテル・スカヴラン
出演:ポール・スヴェーレ・ヴァルハイム・ハーゲン、アンドレス・バースモ・クリスティアンセン、ヤーコブ・オフテブロ、トビアス・ザンテルマン

教養バラエティの延長みたいな映画

b0189364_08385903.jpg 1947年に南米ペルーからポリネシアまで筏(コン・ティキ号)で航海し、過去に南米からポリネシアへの人の移動が存在したことを「証明」したトール・ヘイエルダールのコン・ティキ号での冒険を描いた映画。
 伝記映画であるため、どうしても教育映画あるいは『知ってるつもり』などの教養バラエティみたいな内容になってしまう。また航海成功という結末がわかっていることもあり、スリルやサスペンスも中途半端である。致し方ないが。
 『太平洋ひとりぼっち』などでも同様たが、ある場所からある場所への移動をプロットの中心に据えてしまうと、その間に何が起こったかという話になってしまい、ともすれば退屈になりがちである。この映画も案の定、やはり見ていると飽きてくる。ただそれでもサメとの戦いや嵐のすさまじさなどが描かれていて、ハラハラドキドキの要素はある。また海洋の美しさも描かれているため、それなりに楽しめる内容にはなっている。ヘイエルダールの冒険を追体験できるのは確かである。とは言え、やはり教養のために見る映画になるかな。
 僕自身は、この映画のおかげでヘイエルダールやコン・ティキ号に興味を持ったため、先日、図書館で『コン・ティキ号探検記』を借りてきた。面白ければ全部読むかも知れないが、とりあえずは拾い読みのつもり。なおコン・ティキ号の顛末については、乗員が撮影したフィルムを基に作られた映画があるらしい。しかもアカデミー賞を受賞したという。こちらも少し興味のあるところだ。
★★★

補足:
 コン・ティキ号にはヘイエルダール以外に5人の乗員がいたが、映画ではこれがほとんど区別できなかった。見終わってからたった5人だったっけと感じたぐらいだ。外見に特徴のある俳優を選んでたら良かったのに。

参考:
竹林軒出張所『太平洋ひとりぼっち(映画)』
竹林軒出張所『ココ・シャネル 閉ざされた時代に自由の翼を(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-07-22 08:40 | 映画

『黄色いリボン』(映画)

黄色いリボン(1949年・米)
監督:ジョン・フォード
原作:ジェームズ・ワーナー・ベラ
脚本:フランク・ニュージェント、ローレンス・スターリングス
出演:ジョン・ウェイン、ジョーン・ドルー、ジョン・エイガー、ベン・ジョンソン、ミルドレッド・ナトウィック

b0189364_20342785.jpg悪いが達成感のみだった

 小学生のときに合唱で隣のクラスが歌っていた「あ〜のこ〜のきっいろいリボン」という歌のせいで、僕の記憶にしっかりと根を下ろしていたのがこの映画。といっても見るのはおそらく今回が初。もしかしたら深夜テレビで見たかなーという記憶もなくはないが、内容についてはまったく憶えていないので「初」と言っても間違いない。
 監督ジョン・フォード、主演ジョン・ウェインのテッパン西部劇で、退役を間近に控えた軍人が退役前にアメリカ人とインディアン(先住民)の戦闘に関わるというストーリー。スーパーヒーローによるできすぎな話であまり琴線に触れるところもないが、馬の疾走シーンや行軍シーンはジョン・フォード作品らしくそれなりに迫力がある。だが、このできすぎなストーリー自体がそもそも面白いのかという疑問は最後まで残る。結局のところ、有名な映画を見たという達成感以外何も残らなかった。多分ストーリーも早々に忘れることだろう。
★★★

参考:
竹林軒出張所『荒野の決闘(映画)』
竹林軒出張所『リオ・グランデの砦(映画)』
竹林軒出張所『タバコ・ロード(映画)』

by chikurinken | 2017-07-20 07:34 | 映画

『大病人』(映画)

b0189364_21032163.jpg大病人(1993年・伊丹プロ)
監督:伊丹十三
脚本:伊丹十三
撮影:前田米造
出演:三國連太郎、津川雅彦、宮本信子、木内みどり、高瀬春奈、熊谷真実、田中明夫、三谷昇、高橋長英

ドラマとしては薄っぺらだが
医療に対する問いかけは厳しい


 伊丹十三が医療の問題を問う野心作。『病院で死ぬということ』が参考文献として挙がっていたことからもわかるように、誰のための医療か、誰のための治療か、誰のための病院かという問題提起がこの映画の基調である。テーマ自体は、近藤誠が主張しているような内容で、今となってはそれほど珍しくないが、時代が93年であることを考えると、かなり先進的と言える。しかも医者が看護師に対して「看護婦のくせに医者が決めた治療方針に口を出すな」などという差別的な言動をしたりして、当時の医療の状況を適確に反映しているような気がする。ただこの映画では、看護師が「看護婦のくせに」という一言に烈火の如く怒り、結局医者が折れるという顛末になる。そういうディテールも面白いし「患者が医者に殺される」と言わんばかりの表現も面白い。
 とは言っても、伊丹映画らしく、ドラマ的な重厚さは欠けている。伊丹映画の多くにはサブプロットめいたものがないため、製作者が面白いと思っていることを紹介していくだけで終始してしまう傾向がある。こういう映画を「一本道」とでも名付けたら良いかも知れないが、どこかバラエティ番組的で、そういう部分が物足りなさに繋がる。この映画も例外ではないが、ただし死後の世界を表現した映像などが出てくるなど、見所が多いのも確か。登場人物が割合ステレオタイプなこともありドラマとしては物足りないが、バラエティとして見ればなかなか見所が多い。また演出にも破綻がないため、見て楽しんでいろいろ考えるための素材と考えればこれ以上のものはないかも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『病院で死ぬということ(映画)』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
竹林軒出張所『どうせ死ぬなら「がん」がいい(本)』
竹林軒出張所『タンポポ(映画)』
竹林軒出張所『マルタイの女(映画)』
竹林軒出張所『ミンボーの女(映画)』
竹林軒出張所『スーパーの女(映画)』
竹林軒出張所『小説より奇なり(本)』

by chikurinken | 2017-07-18 07:00 | 映画

『アンナ・カレーニナ』(映画)

アンナ・カレーニナ(1997年・英米)
監督:バーナード・ローズ
原作:レオ・トルストイ
脚本:バーナード・ローズ
音楽:ゲオルク・ショルティ
出演:ソフィー・マルソー、ショーン・ビーン、アルフレッド・モリナ、ミア・カーシュナー、ジェームズ・フォックス

『アンナ・カレーニナ』の決定版かも……

b0189364_22081212.jpg アメリカ製の『アンナ・カレーニナ』。そのためほとんどのシーンでは英語が話される。ただしところどころ(身分の低い人が語る場面など)ロシア語になる箇所がある。なぜだかわからない。ロシア語にするんなら全部ロシア語にしたら良いし、全編英語ならそれでも良いと思うが。
 主演はフランス人女優、ソフィー・マルソーで、ソフィーも英語をしゃべる。ソフィー・マルソーと言えば僕とも近い世代で、『ラ・ブーム』でデビューした頃もテレビで予告映像が流されていたりしたため、個人的には長い間興味の対象であった。ただ映画を見るのは今回が初めてである。若い頃はアイドル扱いであまりいい映画に出ていなかったため、僕の食指が動くような映画がなかったことが原因と思われる。この映画については、世評が割に高く、ソフィー・マルソーが演じるアンナ・カレーニナに興味があったため、今回見てみた。
 『アンナ・カレーニナ』は以前、ヴィヴィアン・リーが主演したもの(監督はジュリアン・デュヴィヴィエ)を見たが、あまり印象に残っていない。ストーリーも概ね忘れていて、ただの不倫話程度の記憶しかなかった。今回久々に『アンナ・カレーニナ』に接して、「ただの不倫話」ではないことは重々わかった。すまなかった、トルストイ。
 映画は、ロシアでロケが行われており、原作のイメージはかなり再現されているのではないかと思う。やたら登場人物が多いのはトルストイらしいが、メインのストーリーとあまり関係ないレヴィンとキティをさも主役であるような立ち位置に登場させていることには多少違和感を感じた。もっとも長編小説であれば、登場人物が多いことはむしろ有利に働くし、彼らの平凡な幸福が主題の柱であることは容易に想像できるんで、小説レベルではそれで良かったんだろうとは思う。逆に言えば、この映画、割合原作に忠実に作っていると言えるのかも知れない。
 ちょっとがっかりだったのは音楽で、チャイコフスキーやラフマニノフの音楽が全編使われていたこと。ロシアと言えばチャイコフスキーやラフマニノフというあまりにありきたりな発想がいただけない。恋愛で盛り上がるシーンが『悲愴』交響曲の第1楽章で、エンディング・ロールはヴァイオリン協奏曲と来る。月並みにも程があるってもんだ。ちなみに音楽担当は、指揮者のゲオルク・ショルティである。ショルティであることを考え合わせると、なるほどの選曲と言えなくもない。
 演出などは隅から隅まできっちり行われており、ソフィー・マルソーの演技もなかなか迫真的であった。ただ「アンナ・カレーニナ」という登場人物については、なんだか見通しが効かない。こういう行動をする人間がいても全然不自然ではないが、そうなっちゃいます?というような行動が多かったのも事実。でもまあ、全編通して退屈することなく見ることができるし、当時の風俗などもうまく再現されていて、よくできた映画と言えるんじゃないかと思う。『アンナ・カレーニナ』の決定版と言っても良いかも(他の映画をあまり見ていないので本当のところはよくわからないが)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『トルストイの家出(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『原作と映画の間』
竹林軒出張所『カラマーゾフの兄弟(映画)』
竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(1993年ドラマ版)(ドラマ)』

by chikurinken | 2017-07-16 07:07 | 映画

『レディ・チャタレー』(映画)

レディ・チャタレー(2006年・仏英ベルギー)
監督:パスカル・フェラン
原作:D・H・ロレンス
脚本:パスカル・フェラン、ロジェ・ボーボ、ピエール・トリヴィディク
撮影:ジュリアン・イルシュ
美術:フランソワ=ルノー・ラバルテ
衣装デザイン:マリー=クロード・アルトー
出演:マリナ・ハンズ、ジャン=ルイ・クロック、イポリット・ジラルド、エレーヌ・アレクサンドリディス

b0189364_19561222.jpg原作を活かしながらも
別の風味で仕立て上げた


 フランス版の『チャタレイ夫人』。そのため登場人物は皆フランス語を話す。原作のテーマである階級の問題がほとんど問題視されていないのは、いかにもフランス的である。この作品では、不倫の恋愛のみにテーマを絞っている感じで、そのあたりはあまりブレがない。
 この映画の魅力は、なんと言っても映像の美しさ、自然の表現である。主人公のチャタレイ夫人、コニーが森番のバーキンと逢い引きするために森の小屋に赴くシーンで、森の自然がこれでもかという具合に描写される。登場人物たちも自然の中の人間として描かれているかのようである。ストーリーよりも映像を重視した、「映像詩」と言っても良いような構成で、そのためか各シーンは断片的に表現され、ブラックアウトでつなぐというスタイルが貫かれている。説明が足りない部分は、サイレント映画を彷彿させる字幕と控え目なナレーションによって語られる。そういった効果もあり、全体に渡って非常に詩的な印象を受ける。
 『チャタレイ』お約束の性描写もあり、割合赤裸々ではあるが、恋愛映画の1シーンというレベルで描写されるため、どぎつさはほとんど感じない。男の性器が映り、それについてコニーがコメントするシーンなんかもあってリアルであるが、日本版DVDでは当然のことながら性器の部分は塗りつぶされて隠されている。はなはだ野暮な処置である。
 キャスティングもはまっており、どの俳優も好演している。またどのシーンも魅力的だが、中でも雨のシーンは印象的で、この映画のハイライトと言って良い。撮影以外にも美術や衣装も美しく、こんな森や山小屋が近くにあったらなと思わせるような魅力が漂っている。今回見るのは二度目だったが、前回同様とても心地良さを感じた。不倫テーマにつきまとうようなざわついた感じはあまりなく、あくまで恋愛映画にとどまっているのは製作者たちの見識の高さゆえではないかと思う。
2006年セザール賞作品賞、主演女優賞、脚色賞、撮影賞、衣装デザイン賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(1993年ドラマ版)(ドラマ)』
竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(2015年ドラマ版)(ドラマ)』

by chikurinken | 2017-06-14 06:55 | 映画

『チャタレイ夫人の恋人(2015年ドラマ版)』(ドラマ)

チャタレイ夫人の恋人(ドラマ版)(2015年・英)
監督:ジェド・マーキュリオ
原作:D・H・ロレンス
出演:ホリデイ・グレインジャー、リチャード・マッデン、ジェームズ・ノートン、ジョディ・カマー

『チャタレイ』映像化の悪い例

b0189364_19445856.jpg BBCが20年ぶりに製作した『チャタレイ夫人の恋人』。しかし前作と比べると、炭酸が抜けたビールのような、なんとも物足りない中途半端な作になっている。
 まず登場人物が中途半端である。チャタレイ夫人コニーの夫、つまりクリフォードが結構善人で、これだとコニーの行為が正当化できない。ただの裏切り不倫話になってしまい、そのために後味も悪い。しかもコニーの相手の森番、オリバーも、間男のくせしてクリフォードに対してはなはだ身勝手な振る舞いに及ぶ。そのため、この2人に対してまったく共感できない。彼らに対して自分の立ち場がわかっているのかとさえ思う。クリフォードの介護に当たっているボルトン夫人もクリフォードに対して非常に身勝手につらく当たる。こうしてみると、まったくクリフォードが浮かばれない。不倫話なんだから、むしろ背徳感などを入れて、それなりのリアリティを持たせたいところで、ましてや寝取られた方(クリフォード)に救い(あるいは「当然の報い」のような印象)がなければ、話として成立しないんじゃないかと思う。それから、コニーとオリバーが接近するあたりの描写もまたぞんざいで、まったくリアリティが感じられず、男女の機微の面白さがないのも大きなマイナス・ポイントである。恋愛ドラマとしても見るに堪えないレベルである。
 キャストは、オリバー役のリチャード・マッデン、クリフォード役のジェームズ・ノートンとも結構なイケメンで、そのくせコニー役のホリデイ・グレインジャーは野暮ったくてまったく冴えない。こういったキャストを見ると、女性向けに作ったドラマなのかと穿った目で見てしまう。
 『チャタレイ夫人』と言えば「大胆な性描写」が話題になるんだが、そういったシーンもほぼ皆無であった。非常にソフトで、一般映画のちょっとしたラブシーンなみ。これが『チャタレイ』なのかと言いたくなるような代物である。内容も薄っぺらい上、性格描写がデタラメで、明確な主張もなく、このドラマで何が言いたいのかわからないという類の作品である。同じ原作でも作り手によってこんなに変わるものかという思いを新たにした次第である。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(1993年ドラマ版)(ドラマ)』
竹林軒出張所『レディ・チャタレー(映画)』

by chikurinken | 2017-06-12 06:44 | 映画

『チャタレイ夫人の恋人(1993年ドラマ版)』(ドラマ)

チャタレイ夫人の恋人(ドラマ版)(1993年・英)
監督:ケン・ラッセル
原作:D・H・ロレンス
脚本:マイケル・ハジャッグ、ケン・ラッセル
出演:ジョエリー・リチャードソン、ショーン・ビーン、ジェームズ・ウィルビー、シャーリー・アン・フィールド

b0189364_20164243.jpgBBC製作の「官能大作」

 D・H・ロレンスの問題作『チャタレイ夫人の恋人』を全4回のドラマに仕立てたもの。これはいわゆる「オリジナル完全版」で、劇場公開用に半分くらいに短縮したバージョンもある。
 『チャタレイ夫人の恋人』と言えば大胆な性描写が有名で、本国英国でも出版は永らく見合わせられていたらしい。本邦でも伊藤整の翻訳が発禁処分になって、裁判でその正否が争われることになったのは有名な話(いわゆる「チャタレー裁判」)。もっとも性的な表現については時代を経るに従って多くの国ですっかり解禁されてしまったため、少なくとも文学の世界では、今となってはどこが問題なのかわからないくらいの表現である。猥褻裁判のバカバカしさが時代を経て明らかになったというわけ。
 『チャタレイ夫人の恋人』について言えば、性描写ばかりが脚光を浴びているが、実際には英国の階級問題についても鋭く追究している書であるため、文学的価値は今でも存続している。ただしドラマや映画で取り上げられる場合はどうしても「官能大作」みたいな扱いになるのは致し方ないところ。
 このドラマ版『チャタレイ夫人』は、元々どういう形態で放送されたかわからないが、天下のBBCが製作したもので、原作をかなり忠実にドラマ化しているらしい。原作を読んでいないのでどの辺まで忠実かはよくわからないが、前に見た『レディ・チャタレー』とは若干印象が違う。『レディ・チャタレー』の方は詩的な描写が多く、それがあの映画を優れものにしていたが、こちらのドラマ版はもう少し即物的で、そのせいかあまり面白味は感じなかった。原作をよく活かしていたとは思う。目を引いたのは、チャタレイ夫人、コニー役のジョエリー・リチャードソンという女優(僕は全然知らなかったが結構売れている人らしい)。この女優が、ちょっとラファエル前派の絵画みたいな風貌で、大変魅力的であった。また森を駆けるシーンなんかも、ちょっと無邪気な感じで可愛いコニーを好演していた。
 他の部分では階級問題の描写がなかなかよくできていて、このテーマの追究という点では一定の成果を上げている。1時間ドラマ×4回で、しかも官能描写がところどころ織り交ぜられているので、見ていてそれほど苦にはなることはないが、全部続けて見るとなると(正味215分)疲れてきて若干の退屈さを感じるんじゃないかとは思う。全編、正攻法な表現ではあるが、少しありきたりかなとも感じる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『レディ・チャタレー(映画)』
竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(2015年ドラマ版)(ドラマ)』
竹林軒出張所『裁判百年史ものがたり(本)』
竹林軒出張所『氾濫(映画)』

by chikurinken | 2017-06-10 07:15 | 映画