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竹林軒出張所

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『レディ・チャタレー』(映画)

レディ・チャタレー(2006年・仏英ベルギー)
監督:パスカル・フェラン
原作:D・H・ロレンス
脚本:パスカル・フェラン、ロジェ・ボーボ、ピエール・トリヴィディク
撮影:ジュリアン・イルシュ
美術:フランソワ=ルノー・ラバルテ
衣装デザイン:マリー=クロード・アルトー
出演:マリナ・ハンズ、ジャン=ルイ・クロック、イポリット・ジラルド、エレーヌ・アレクサンドリディス

b0189364_19561222.jpg原作を活かしながらも
別の風味で仕立て上げた


 フランス版の『チャタレイ夫人』。そのため登場人物は皆フランス語を話す。原作のテーマである階級の問題がほとんど問題視されていないのは、いかにもフランス的である。この作品では、不倫の恋愛のみにテーマを絞っている感じで、そのあたりはあまりブレがない。
 この映画の魅力は、なんと言っても映像の美しさ、自然の表現である。主人公のチャタレイ夫人、コニーが森番のバーキンと逢い引きするために森の小屋に赴くシーンで、森の自然がこれでもかという具合に描写される。登場人物たちも自然の中の人間として描かれているかのようである。ストーリーよりも映像を重視した、「映像詩」と言っても良いような構成で、そのためか各シーンは断片的に表現され、ブラックアウトでつなぐというスタイルが貫かれている。説明が足りない部分は、サイレント映画を彷彿させる字幕と控え目なナレーションによって語られる。そういった効果もあり、全体に渡って非常に詩的な印象を受ける。
 『チャタレイ』お約束の性描写もあり、割合赤裸々ではあるが、恋愛映画の1シーンというレベルで描写されるため、どぎつさはほとんど感じない。男の性器が映り、それについてコニーがコメントするシーンなんかもあってリアルであるが、日本版DVDでは当然のことながら性器の部分は塗りつぶされて隠されている。はなはだ野暮な処置である。
 キャスティングもはまっており、どの俳優も好演している。またどのシーンも魅力的だが、中でも雨のシーンは印象的で、この映画のハイライトと言って良い。撮影以外にも美術や衣装も美しく、こんな森や山小屋が近くにあったらなと思わせるような魅力が漂っている。今回見るのは二度目だったが、前回同様とても心地良さを感じた。不倫テーマにつきまとうようなざわついた感じはあまりなく、あくまで恋愛映画にとどまっているのは製作者たちの見識の高さゆえではないかと思う。
2006年セザール賞作品賞、主演女優賞、脚色賞、撮影賞、衣装デザイン賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(1993年ドラマ版)(ドラマ)』
竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(2015年ドラマ版)(ドラマ)』

by chikurinken | 2017-06-14 06:55 | 映画

『チャタレイ夫人の恋人(2015年ドラマ版)』(ドラマ)

チャタレイ夫人の恋人(2015年ドラマ版)(2015年・英)
監督:ジェド・マーキュリオ
原作:D・H・ロレンス
出演:ホリデイ・グレインジャー、リチャード・マッデン、ジェームズ・ノートン、ジョディ・カマー

『チャタレイ』映像化の悪い例

b0189364_19445856.jpg BBCが20年ぶりに製作した『チャタレイ夫人の恋人』。しかし前作と比べると、炭酸が抜けたビールのような、なんとも物足りない中途半端な作になっている。
 まず登場人物が中途半端である。チャタレイ夫人コニーの夫、つまりクリフォードが結構善人で、これだとコニーの行為が正当化できない。ただの裏切り不倫話になってしまい、そのために後味も悪い。しかもコニーの相手の森番、オリバーも、間男のくせしてクリフォードに対してはなはだ身勝手な振る舞いに及ぶ。そのため、この2人に対してまったく共感できない。彼らに対して自分の立ち場がわかっているのかとさえ思う。クリフォードの介護に当たっているボルトン夫人もクリフォードに対して非常に身勝手につらく当たる。こうしてみると、まったくクリフォードが浮かばれない。不倫話なんだから、むしろ背徳感などを入れて、それなりのリアリティを持たせたいところで、ましてや寝取られた方(クリフォード)に救い(あるいは「当然の報い」のような印象)がなければ、話として成立しないんじゃないかと思う。それから、コニーとオリバーが接近するあたりの描写もまたぞんざいで、まったくリアリティが感じられず、男女の機微の面白さがないのも大きなマイナス・ポイントである。恋愛ドラマとしても見るに堪えないレベルである。
 キャストは、オリバー役のリチャード・マッデン、クリフォード役のジェームズ・ノートンとも結構なイケメンで、そのくせコニー役のホリデイ・グレインジャーは野暮ったくてまったく冴えない。こういったキャストを見ると、女性向けに作ったドラマなのかと穿った目で見てしまう。
 『チャタレイ夫人』と言えば「大胆な性描写」が話題になるんだが、そういったシーンもほぼ皆無であった。非常にソフトで、一般映画のちょっとしたラブシーンなみ。これが『チャタレイ』なのかと言いたくなるような代物である。内容も薄っぺらい上、性格描写がデタラメで、明確な主張もなく、このドラマで何が言いたいのかわからないという類の作品である。同じ原作でも作り手によってこんなに変わるものかという思いを新たにした次第である。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(1993年ドラマ版)(ドラマ)』
竹林軒出張所『レディ・チャタレー(映画)』

by chikurinken | 2017-06-12 06:44 | 映画

『チャタレイ夫人の恋人(1993年ドラマ版)』(ドラマ)

チャタレイ夫人の恋人(1993年ドラマ版)(1993年・英)
監督:ケン・ラッセル
原作:D・H・ロレンス
脚本:マイケル・ハジャッグ、ケン・ラッセル
出演:ジョエリー・リチャードソン、ショーン・ビーン、ジェームズ・ウィルビー、シャーリー・アン・フィールド

b0189364_20164243.jpgBBC製作の「官能大作」

 D・H・ロレンスの問題作『チャタレイ夫人の恋人』を全4回のドラマに仕立てたもの。これはいわゆる「オリジナル完全版」で、劇場公開用に半分くらいに短縮したバージョンもある。
 『チャタレイ夫人の恋人』と言えば大胆な性描写が有名で、本国英国でも出版は永らく見合わせられていたらしい。本邦でも伊藤整の翻訳が発禁処分になって、裁判でその正否が争われることになったのは有名な話(いわゆる「チャタレー裁判」)。もっとも性的な表現については時代を経るに従って多くの国ですっかり解禁されてしまったため、少なくとも文学の世界では、今となってはどこが問題なのかわからないくらいの表現である。猥褻裁判のバカバカしさが時代を経て明らかになったというわけ。
 『チャタレイ夫人の恋人』について言えば、性描写ばかりが脚光を浴びているが、実際には英国の階級問題についても鋭く追究している書であるため、文学的価値は今でも存続している。ただしドラマや映画で取り上げられる場合はどうしても「官能大作」みたいな扱いになるのは致し方ないところ。
 このドラマ版『チャタレイ夫人』は、元々どういう形態で放送されたかわからないが、天下のBBCが製作したもので、原作をかなり忠実にドラマ化しているらしい。原作を読んでいないのでどの辺まで忠実かはよくわからないが、前に見た『レディ・チャタレー』とは若干印象が違う。『レディ・チャタレー』の方は詩的な描写が多く、それがあの映画を優れものにしていたが、こちらのドラマ版はもう少し即物的で、そのせいかあまり面白味は感じなかった。原作をよく活かしていたとは思う。目を引いたのは、チャタレイ夫人、コニー役のジョエリー・リチャードソンという女優(僕は全然知らなかったが結構売れている人らしい)。この女優が、ちょっとラファエル前派の絵画みたいな風貌で、大変魅力的であった。また森を駆けるシーンなんかも、ちょっと無邪気な感じで可愛いコニーを好演していた。
 他の部分では階級問題の描写がなかなかよくできていて、このテーマの追究という点では一定の成果を上げている。1時間ドラマ×4回で、しかも官能描写がところどころ織り交ぜられているので、見ていてそれほど苦にはなることはないが、全部続けて見るとなると(正味215分)疲れてきて若干の退屈さを感じるんじゃないかとは思う。全編、正攻法な表現ではあるが、少しありきたりかなとも感じる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『レディ・チャタレー(映画)』
竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(2015年ドラマ版)(ドラマ)』
竹林軒出張所『裁判百年史ものがたり(本)』
竹林軒出張所『氾濫(映画)』

by chikurinken | 2017-06-10 07:15 | 映画

『マルコヴィッチの穴』(映画)

マルコヴィッチの穴(1999年・米)
監督:スパイク・ジョーンズ
脚本:チャーリー・カウフマン
出演:ジョン・キューザック、キャメロン・ディアス、キャサリン・キーナー、ジョン・マルコヴィッチ、チャーリー・シーン、オーソン・ビーン、メアリー・ケイ・プレイス、ブラッド・ピット、ショーン・ペン

高い完成度で不条理を極めた映画

b0189364_18491558.jpg 実に不条理なストーリーで、その奇抜さに目を奪われる。
 主人公が人形遣いで、家にチンパンジーをはじめとするさまざまな動物たちを飼っている(妻がペットショップに勤めているため)という背景もかなり異色だが、あるビルに7 1/2階というものがあり、その階の壁に穴があいていて、その穴が俳優のジョン・マルコヴィッチの脳内に繋がっているというかなり奇天烈な設定がそれ以上に異色である。だがそのあたりの描写にまったく無理がないため、ごく自然にこの不条理な世界に引きずり込まれていく。こういう世界観を1本の映画として仕立てあげたスタッフに脱帽である。
 繋がっている先がなぜジョン・マルコヴィッチの脳内なのかよくわからないが、ジョン・マルコヴィッチは舞台を中心に活躍する性格俳優で、日本で言うと橋爪功とか故・戸浦六宏あたりが近いか。ちょっと悪ノリみたいなストーリーではあるが、ジョン・マルコヴィッチが淡々と本人役を演じていて、そのあたりがまず驚きである。しかもマルコヴィッチ周辺の人物(実際にそうなのかはわからないが)として、チャーリー・シーンなんかが実名で出てきたりもして、現実とフィクションの境界をかなり薄くする役割を果たしている。他にもブラッド・ピットやショーン・ペンが本人役でチラッと出てくる。内容もさることながら、こういう役者の使い方もやや不条理な感じがする。監督が役者もやっているスパイク・ジョーンズだから彼らの友情出演を実現できたのかはわからないが、とにかく映画としては、こういう(一見)訳のわからない世界がしっかりまとめ上げられていて、非常に完成度が高いと言える。
 今回、『レ・ミゼラブル』で爬虫類的なしつこさを持つ冷酷な登場人物を演じるマルコヴィッチに接したことがきっかけでこの映画を見たわけだが(今回で二度目)、あれだけの名優がよくもこんな類の映画に出たもんだと感心した次第。とにかくユニークな映画であった。
第56回ヴェネツィア国際映画祭国際批評家連盟賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『レ・ミゼラブル (1)〜(4)(ドラマ)』

by chikurinken | 2017-06-08 06:48 | 映画

『隊長ブーリバ』(映画)

隊長ブーリバ(1962年・米)
監督:J・リー・トンプソン
原作:ニコライ・ゴーゴリ
脚本:ウォルド・ソルト、カール・タンバーグ
出演:ユル・ブリンナー、トニー・カーティス、クリスティーネ・カウフマン、サム・ワナメイカー

b0189364_20554608.jpgちょっとオペラ的で
いたずらに壮大な映画


 16世紀の東ヨーロッパの話。ポーランドに領地を奪われたコサックが、臥薪嘗胆の思いでポーランドから領地を奪い返すことを誓う。コサックを率いるのはタラス・ブーリバ(ユル・ブリンナー)だが、コサック内部での対立、息子(トニー・カーティス)とポーランド人女性(クリスティーネ・カウフマン)との恋愛など、さまざまな要素が絡んで、壮大なストーリーへと発展していく……という、まあそんな映画である。
 ちなみに原作はゴーゴリで、『タラス・ブーリバ』というタイトルの楽曲もあり(ヤナーチェク作曲)、そちらも割合有名である(僕はそちらで「タラス・ブーリバ」の名前を聞いたことがあった)。
 ストーリーはやや荒唐無稽かつご都合主義的、浪漫主義的で、さらに言えば民族主義的でもあるが、ブーリバの息子たちが大勢のポーランド人に追跡されたり、あるいは壮大な合戦シーンがあったりと、それなりに楽しませる趣向になっているのはハリウッド映画的と言える。ただし甘ったるい恋愛シーンなどは、余計なように思えるし、後半特に、一気にクライマックスまで進みたいところで展開がやや停滞気味になってしまったのもあまりいただけない。見るのに飽きてしまった。もっとも飽きてしまうのは後半だけでなく、僕にとっては全般的にあまり熱中できないというタイプの映画だった。
 この映画の魅力はユル・ブリンナー演ずるブーリバのスケールの大きさで、野蛮人的な粗暴さがあるが、非常に魅力的でもある。息子とたわむれて格闘するシーンは(ハリウッド映画によく出てくる)西部の男を思わせるし、息子を侮辱した男と息子に命がけのチキンレースをさせるなど(『理由なき反抗』を彷彿させる)というのも、案外ハリウッド映画の理想的父親像を再現しているのかも知れない。そういうブーリバに魅力を感じ、ブーリバをもっと見たいと感じていたところで、息子のベタベタした恋愛シーンなどをダラダラと見せられると少々イラッとしたりするわけだ。いろんな人が楽しめるようにというサービス精神なんだろうが、シンプルに野卑な男たちの話で良かったんじゃないかとも思う。それからコサックが宴会に興じて唄ったり踊ったりというシーンも散りばめられていたが、これも不要だと感じる。MGM製の映画であるため、サービスのつもりでミュージカル的な要素を入れたんだろうが、むしろ進行の邪魔になっているとさえ感じた。何度も言うが男のドラマにしてほしかったところである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ナバロンの要塞(映画)』
竹林軒出張所『十戒(映画)』

by chikurinken | 2017-06-06 06:55 | 映画

『裸の太陽』(映画)

裸の太陽(1958年・東映)
監督:家城巳代治
原作:氷室和敏
脚本:新藤兼人
音楽:芥川也寸志
出演:江原真二郎、丘さとみ、中原ひとみ、仲代達矢、高原駿雄、山形勲

b0189364_20592037.jpg平凡な明朗青春ドラマ

 仲代達矢繋がりで見たが、映画自体はきわめて平凡。鉄道労働者たちがみんなで「竈焚きの歌」を歌うなど、見ていて気恥ずかしくなるような演出もあり、あまり感心しない。貧困問題も顔を覗かせるが、全般的に明朗青春ドラマで終始している。例によって仲代達矢は存在感があるが、なんだかはっきりしないよくわからないキャラクターではある。
 江原真二郎が主人公で、その後実生活で彼と結婚する中原ひとみも出ているが、2人の絡みは一切ない。
 主人公が機関車に石炭をくべる乗務員(「竈焚き」)であるため、途中、蒸気機関車が大地を疾走する映像がふんだんに出てくる。『ある機関助士』を思い出させるシーンもありなかなか迫力があったが、思えばこのシーンが唯一の見せ場であった。映画としては総じて平凡という印象である。
 余談ではあるが、作詞家の山口洋子が端役(丘さとみの同僚役)で出ていた。なんでも山口洋子、作詞家になる前は東映ニューフェイスとして女優デビューしていたらしい。
ベルリン国際映画祭青少年向映画賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『ある機関助士(映画)』
竹林軒出張所『姉妹(映画)』
竹林軒出張所『路傍の石(映画)』

by chikurinken | 2017-05-11 06:58 | 映画

『上意討ち 拝領妻始末』(映画)

上意討ち 拝領妻始末(1967年・東宝、三船プロ)
監督:小林正樹
原作:滝口康彦
脚本:橋本忍
撮影:山田一夫
美術:村木与四郎
音楽:武満徹
出演:三船敏郎、司葉子、仲代達矢、加藤剛、江原達怡、大塚道子、松村達雄、三島雅夫、神山繁、山形勲、市原悦子

b0189364_21012788.jpgリアルだけど……
リアルじゃなかった……


 これも小林正樹作品で、『切腹』と似たようなスタッフ、キャストの映画である。原作まで滝口康彦と共通。撮影監督と美術監督は異なるが、映像はなかなか凝っている。撮影だけ取り上げるならばこちらの方に分があるかも知れない。幾何学を生かしたような非常に凝ったものが随所に現れ、そもそもタイトルバックからして遊びの要素が多く、ここだけでも十分楽しめる。どこか現代美術風の要素が全編に漂うが、決して奇を衒ったものでない。非常に正攻法でもあり、何も考えずに見ていたら気が付かないかも知れない。それほど名前の撮影監督ではないが、素晴らしい映像である。
 ストーリーは、藩主の都合で元側室を結婚相手にあてがわれ、しかもその後、互いに馴染んで子までできたところでまた返せと要求されて、腹に据えかねた武士が藩に対して反旗を翻す……というもの。ただ終わりの方があまりに荒唐無稽になってエンタテインメント的な要素が強くなっていくため、なんだか釈然としない。藩士の仕事や生活が(特に序盤)かなりリアルに描かれているにもかかわらず、ストーリー展開にリアリティがなくなり、見ていてちょっと納得が行かなくなってきたが、どうもこのあたりは原作にない部分で、映画の製作側が改変した結果がこれ、ということのようだ。原作のままだとあまりに地味で、1960年代の映画としては成立しにくいという思いがもしかしたら製作者の側にあったのかも知れない。チャンバラ・シーンがふんだんに出て来て確かにエンタテイメント的には面白くなっているが、何か腑に落ちない部分が最後まで残る。このあたりは『切腹』と比べて少し見劣りする部分である。
 主人公の笹原伊三郎を三船敏郎、その友人でライバルの浅野帯刀を仲代達矢が演じており、『用心棒』『椿三十郎』を思い出させる取り合わせである。ただ三船と仲代、どちらかと言うと互いの役を演じる方がそれぞれの役柄に合っているような気もするが、製作が三船プロということで、こういう風(つまり主人公=三船)になったのかなどと勝手に想像する。他の役者、加藤剛や司葉子、神山繁や山形勲に至るまで非常に適役だったため、2人のずれ具合(?)が特に目に付いた次第。
 演出は正攻法で、最後まで一気呵成になだれ込むようなストーリー展開は見事である。武士世界の不条理をテーマにした作品だが、細かい部分にある程度目をつぶり、エンタテインメント作品として見れば、非常に素晴らしい映画である。申し分はない。言うまでもなく武満徹の音楽も非常に良い。
第28回ヴェネツィア国際映画祭国際映画評論家連盟賞受賞
昭和42年キネマ旬報ベストテン日本映画第1位
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『切腹(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『用心棒(映画)』
竹林軒出張所『椿三十郎(映画)』

by chikurinken | 2017-05-09 07:00 | 映画

『切腹』(映画)

b0189364_11163217.jpg切腹(1962年・松竹)
監督:小林正樹
原作:滝口康彦
脚本:橋本忍
撮影:宮島義勇
美術:大角純一、戸田重昌
音楽:武満徹
出演:仲代達矢、岩下志麻、石浜朗、三國連太郎、三島雅夫、丹波哲郎、中谷一郎、青木義朗、稲葉義男

日本映画の最高峰

 日本映画の最高傑作の1本。演出、脚本、美術、音楽、そして二重構造のストーリーとどれをとっても一級品。これだけの映画を作り上げた60年代の日本映画界に脱帽である。
 職にあぶれた浪人ものが、切腹したいから藩邸の軒先を借りたいと申し出る、藩の方は軒先で切腹されても叶わないため(事なかれ主義の役人根性もあり)幾ばくかの金を渡して浪人を立ち去らせるという、そういう変な事件が流行っている時代の話。これだけでも、藩の官僚主義や、一般的には美化されがちな武士の実の姿などが描かれていて結構面白い話なんだが、そこに貧困がもたらす不幸や、「エセ武士道の建前主義が押しつぶす個人」という構造が描かれるなど、一見単純そうなストーリーに重層化されるさまざまな問題提起、皮肉は目を瞠るものがある。またそれを、ダイナミックな回想形式で描き出した橋本忍の脚本も見事である。橋本忍作品の中でも最高の仕事に数えて良い。
 小林正樹の演出、仲代達矢の演技も特筆もので、両者にとって最高峰の1本である。仲代演じる津雲半四郎が当初飄々とした姿を見せているのもユーモラスだが、やがて緊迫感が高揚し、憤怒の姿へと変貌していく過程は、演出技術の極みである。三國連太郎のニヒルな家老との掛け合いは、実力者2人ならではで、良質な会話劇を見ているような迫力である。
 決闘シーンも真剣が使われているらしく、真剣が重いため竹光のように素早く刀を振り回せず、スピード感がやや欠如して見える。もちろん迫力はかなりあるんだが、仲代達矢が語った話によると、監督はそれで良いと言ったらしい。本物を見せたいということだったんだそうだ。確かに考えてみると、この映画では竹光と真剣がモチーフに使われているのだから、こんな大事な場面で竹光はちょっとないよなと思う。また、Wikipediaによると演者たちの剣法も本格的なものだったらしい。この殺陣のシーンのすごさというものは僕自身あまり気が付かなかったが、ディテールにも随分こだわっていることがわかる。もっともそれが功を奏したかどうかはわからないが(Amazonのユーザーズレビューでこの映画に低評価を入れていた猛者がいて、その中に決闘シーンが陳腐みたいに書いていた者がいた。こういうわかった風でトンチンカンな人はどこにでもいるものだ)。
 モノクロの映像もずっしりと重みを感じるようなもので、琵琶を使った武満徹の音楽がまた大きなインパクトを残す。先ほども言ったが、これだけの優れた要素が1本の映画に凝縮するということはそう滅多にあることではなく、言ってみれば一種の奇跡である。第16回カンヌ映画祭でも、上映後グランプリ間違いなしという評価を受けたため、主演の仲代達矢は地元の放送局から発表前であるにもかかわらずグランプリ前提のインタビューを受けたという。ところがその後、ヴィスコンティの『山猫』が急遽現れ、そっちがグランプリをかっさらっていった(仲代達矢談)ということらしいのだ。そのため、グランプリに次ぐものということで審査員特別賞が与えられたそうで、もちろん『山猫』も素晴らしい映画であるが、『山猫』と『切腹』がぶつかった映画祭というのも超ハイレベルであることよなあと思う。
 いずれにしても、桐箱に入れておきたいような立派な映画で、また何度か見たいと思わせる素晴らしい作品である。武満徹作曲のこの映画の主題曲はCDでたびたび聞いているが(『オリジナル・サウンドトラックによる 武満徹 映画音楽』のディスク1に収録されている)収録時間が16分と長すぎるのが玉に瑕である。
第16回カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞
★★★★☆

参考:
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『リメイクもういらん党宣言』
竹林軒出張所『上意討ち 拝領妻始末(映画)』
竹林軒出張所『山猫(映画)』

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 以下、以前のブログで紹介した橋本忍関連の本に関する記事。
(2005年9月28日の記事より)

b0189364_11194232.jpg脚本家・橋本忍の世界
村井淳志著
集英社新書

 脚本家・橋本忍の1ファンである著者が、橋本忍の諸作について追ったルポ。
 本書で紹介されている作品は、『七人の侍』、『羅生門』、『真昼の暗黒』、『私は貝になりたい』、『切腹』、『白い巨塔』、『日本のいちばん長い日』、『八甲田山』、『砂の器』の9作品である。どれを取ってみても日本の映画史に残るような名作揃いで、あらためて橋本忍の偉大さがわかろうというものだ。
 著者は1ファンではあるが、単にファンが書いた礼賛本とはひと味もふた味も違う。橋本忍自身にも果敢にインタビューを挑んでいるし、そのインタビューもなかなか切り込みが鋭い。
 『私は貝になりたい』をビデオで見るたびに、二等兵がBC級戦犯として裁判を受けたことが本当にあったんだろうかと毎回思う。
 また『切腹』を見るたびに、この話のネタ元は何なんだろうかと思う。
 この間『白い巨塔』を見たときは、今でもこういうドロドロしたことが大学の医学部内であるんだろうか、実話が元になっているんだろうかと思った。
 『七人の侍』の脚本担当者として、冒頭のテロップに橋本忍を含む3人が出てくるが、この壮大な話を作り出したのはそのうちの誰だろうかというのは、当初からの疑問だった。
 実は、こういったことすべてについて、あるいは調査あるいはインタビューにより、本書で明らかにされている。問題提示の方法とその解決方法がきわめて適切で、切れ味が鋭い(その鋭さは『切腹』の脚本を彷彿とさせるほどだ)。私が今まで抱えていた素朴な疑問が、この本でことごとく氷解した。
 橋本忍の脚本のすばらしさを知る人すべてにとっては、まちがいなくお奨めの本だ。もちろん日本映画ファンにも……。
★★★☆

by chikurinken | 2017-05-07 11:20 | 映画

『椿三十郎』(映画)

椿三十郎(1962年・東宝、黒澤プロ)
監督:黒澤明
原作:山本周五郎
脚本:菊島隆三、小国英雄、黒澤明
音楽:佐藤勝
出演:三船敏郎、仲代達矢、小林桂樹、加山雄三、団令子、志村喬、藤原釜足、入江たか子、伊藤雄之助

『桑畑三十郎餘話』みたいな話だが
前のヤツよりデキが良い


b0189364_20305445.jpg 1961年作の『用心棒』の続編と言っても良い映画。話に直接的な繋がりはないが、痛快な主人公が共通で、今回はそれが山本周五郎の世界に乗り込んだというような話である。そのため、主人公の椿三十郎とその他の登場人物にはちょっと落差があって、そのあたりも独特のユーモアを生み出している。強いて言うなら山中貞雄の『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』(竹林軒出張所『山中貞雄のこと……追記』を参照)みたいな場違いさがあって、しかもその場違いな登場人物は前作から踏襲したものというもので、このあたり、黒澤映画らしからぬ上品なおかしみがあって良い。
 ストーリーは山周の話らしくしっかり構築されているため、『用心棒』と比べると、がっしりした骨格の存在を感じる。また、登場人物たちも前作以上に魅力的で、城代家老の伊藤雄之助が出たときなどは思わず吹き出してしまった。仲代達矢の室戸、奥方の入江たか子、未熟な若侍たちも造形がしっかりできている。黒澤映画の中ではもっとも完成度が高い1本と言える。
 内政で揺れるある藩を舞台に、例によって縦横無尽に動き回る超人的な浪人(三十郎)という構図である。しかもその浪人、善意で不遇の人々を助けようとするという具合で、ヒューマニズム溢れるお話である。難点は少々作りすぎの感があるという点。それに加えて、仲代達矢演じる室戸の扱いがなんだか最後まで納得いかずモヤモヤする。この室戸に対する三十郎の心情もモヤモヤした感じだったので、おそらくそれは製作者の意図通りなんだろうが、それにしてもなんだかイヤな感じが残る。実際この感覚は、30年以上前に一度見たときからずっと引きずっているわけで、要するに、理屈ではわかるが感性レベルで納得いかないというものなのだ。もちろん室戸と椿三十郎の関係がこの映画の目玉なんで省くわけにはいかないし、変えるわけにもいかないんだろうが、やはりなんかイヤなんである。映画を見終わった後にこういう感じを残されるというのはちょっと迷惑な話で、少なくとも最後はスッキリ終わらせてほしいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『用心棒(映画)』
竹林軒出張所『蜘蛛巣城(映画)』
竹林軒出張所『デルス・ウザーラ(映画)』
竹林軒出張所『上意討ち 拝領妻始末(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『リメイクもういらん党宣言』
竹林軒出張所『山中貞雄のこと……追記』

by chikurinken | 2017-05-05 20:30 | 映画

『用心棒』(映画)

用心棒(1961年・東宝、黒澤プロ)
監督:黒澤明
脚本:黒澤明、菊島隆三
撮影:宮川一夫
音楽:佐藤勝
出演:三船敏郎、仲代達矢、東野英治郎、司葉子、山田五十鈴、加東大介、河津清三郎、志村喬

b0189364_18442623.jpgハリウッド的な
あまりにハリウッド的な


 黒澤明の代表作。滅法強い侍が、知力と腕力を駆使して悪者たちを倒していくというストーリーの映画である。
 活劇の要素が非常に強い映画だが、ただの活劇に留まらず、人情あり笑いありで、エンタテインメント色が非常に強いハリウッド的な映画と言って良い。もっとも見終わった後はそれなりの爽快感が残るため、多くのハリウッド映画で見た後に感じるようなバカバカしさは、この映画ではあまり感じない。この映画が公開後『荒野の用心棒』としてリメイク(というよりパクリ)されたことも、(この映画がハリウッド的であることを思えば)頷けるというものである。
 この映画、何よりテンポが非常に良く、見る者を飽きさせない。また主人公の桑畑三十郎(三船敏郎)がまことに魅力的であることも特筆すべきである。敵役の卯之助(仲代達矢)、居酒屋の親父(東野英治郎)も素晴らしい存在感を見せる。また、映像が凝っていて、たとえば近景と遠景を画面の中に並べて入れたりなど、随所に工夫が見える。後で確認したところ撮影監督は宮川一夫ということで、どうりでねと一人納得した。
 個人的な好みとしては、過剰なセンチメンタリズム、ヒューマニズムがうるさく感じられる。子どもが母親を呼ぶシーンや三十郎に礼を言うシーンなんかは、臭さが鼻について少々辟易する。黒澤映画らしいとは思う。黒澤映画らしいと言えばセリフが聞きとりにくいところも他の黒澤作品と共通している。最初の方に登場人物によって舞台の背景が語られるんだが、何を言っているのかよく聞き取れない。結局背景がよくわからないまま最後まで行ってしまった。ホントのところ字幕でも付けてほしいくらいである。
 とは言うものの黒澤映画の中では良い部類のもので、僕としては本作と『七人の侍』、『隠し砦の三悪人』、『椿三十郎』『デルス・ウザーラ』あたりを推したいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『椿三十郎(映画)』
竹林軒出張所『蜘蛛巣城(映画)』
竹林軒出張所『デルス・ウザーラ(映画)』
竹林軒出張所『上意討ち 拝領妻始末(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『リメイクもういらん党宣言』

by chikurinken | 2017-05-03 07:43 | 映画