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竹林軒出張所

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『大魔神』、『大魔神怒る』、『大魔神逆襲』(映画)

大魔神(1966年・大映)
監督:安田公義
特技監督:黒田義之
脚本:吉田哲郎
美術:内藤昭
音楽:伊福部昭
出演:高田美和、青山良彦、藤巻潤、五味龍太郎、島田竜三、遠藤辰雄、伊達三郎、出口静宏、二宮秀樹

b0189364_20552151.jpg下克上と大魔神

 『大魔神』シリーズ第1作。善政を敷いている為政者(守護大名か)がクーデターで追われ、命からがら逃げた若君と姫が、元近臣の力を借りて、再び政権を奪回しようとする、というのがメインのストーリー。お約束通り、下克上のクーデターで政権を取った一派は、悪政を敷き領民は苦しめられ、しかも村人の守り神である魔神像まで破壊しようとする。そういう具合に、善と悪の争いに魔神が絡んできて、最後はお決まりの勧善懲悪で、現人神として現れた魔神が大暴れするという話である。
 基本的に子ども向けの特撮映画ということで、細かいところがご都合主義だったりするんで、そのあたりがガッカリなんだが、脚本は割合よくできている。題材は面白いのに演出が今イチなんで、この映画なんかまさにリメイクにふさわしいと思うんだが、いまだにリメイクはない。特撮シーンは非常に良くできていて、建物を破壊しまくる大魔神にヒヤヒヤする(NGを出したら取り返しがつかない)。いずれにしても破壊シーンは特筆ものである。また美術も大映作品らしく豪華である。なお若殿を演じる二宮秀樹は、第3作の主人公、鶴吉も演じている。『マグマ大使』でちびっ子ロケット、ガムを演じている子役である。
★★★

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大魔神怒る(1966年・大映)
監督:三隅研次
特撮監督:黒田義之
脚本:吉田哲郎
美術:内藤昭
音楽:伊福部昭
出演:本郷功次郎、藤村志保、丸井太郎、内田朝雄、北城寿太郎、藤山浩二、上野山功一、神田隆、橋本力、平泉征

b0189364_20552758.jpg戦国時代と大魔神

 『大魔神』シリーズ第2作。全3作の中で一番地味と言える。今までたびたび見ているはずなのに、『十戒』ばりに湖が割れるシーン以外はまったく憶えていなかった。
 ある領国が隣の領国に侵略されるという、戦国時代にはよく起こったであろう話が題材になっている。ただひとつ違っていたのは、農民を大切にしていた為政者が滅ぼされ、悪政を敷く悪人が支配者になったということ。また例によって、村人の守り神である魔神を破壊するのである。やがて、何とか逃げ延びた侵略された側の若君が見つけ出され処刑……という算段になって、魔神様がお怒りになるという具合に話が進んでいく。前作と舞台や設定は違うが、根本的には同じで、ワンパターンの展開になる。日本の子どもは子ども時分からこういった「ワンパターン」に慣らされるので、ワンパターンドラマが流行ったのかも知れない……などと考えてしまう。ただこういった映画を見ると逆に、ワンパターンの良い面がわかることもある。この映画など、善が悪に虐げられるというストレスを観客に与えまくり、最後の最後に「スカッとジャパン」になるという典型的な復讐劇である。あまりに模範的で、観客は少々アホらしいと思いながらも、最後の最後には安心するわけだ。悪が栄えて映画が終わるとなると、見ている方はストレスを抱えたまま家路につかなければならなくなる。見る側の心の中で収束しないで終わってしまい、いつまでもモヤモヤが残ることになってしまう。
 キャストは、特撮映画としては珍しく、本郷功次郎や藤村志保などの一線級俳優が登場。また、大魔神俳優(大魔神の着ぐるみを着ている人)の橋本力も、一般の役で出ていたそうな(全然気が付かなかった)。また若かりし日の平泉征も結構重要な役で出ていた。平泉征は『なんたって18歳』がデビューかと思っていたので意外だった。
★★★

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大魔神逆襲(1966年・大映)
監督:森一生
特撮監督:黒田義之
脚本:吉田哲郎
美術:内藤昭、加藤茂、西岡善信
音楽:伊福部昭
出演:二宮秀樹、堀井晋次、飯塚真英、長友宗之、山下洵一郎、仲村隆、安部徹、名和宏、北林谷栄

b0189364_20553242.jpg拉致・強制労働と大魔神

 『大魔神』シリーズ第3作。3作中、プロットがもっともしっかりしているのがこれ。だが演出が雑で、ディテールがいい加減なので、ツッコミどころが多くなってしまった。実際、かつて劇場で見たときはあちこちで失笑が起こっていた。こういうふうにシニカルな見方をされてしまうのは、作品として残念な結果と言える。
 ストーリーは、硫黄を採掘するために隣の国から拉致され強制労働させられている木こりたちの話。その木こりたちを救おうと、木こりの子どもや弟達4人が、決死の覚悟で魔神の山を通って隣国まで向かうというのがメインのプロットである。この山越えの過程では、野を越え山を越え、崖まで上っていく。(見た目では)かなりの崖を子ども達が実際に登っており、今こんな撮影をしたら児童福祉法で引っかかるんじゃないかというような大変そうなロケである。どこでロケをしたかはよくわからないが、劔岳に似た山が映っていたのでもしかしたら立山あたりで撮影したのかも知れない。また、他にもいろいろなエピソードが盛り込まれ、冒険譚としてなかなかよくできている。残念なのは、さっきも言ったようにディテールが適当な点で、これが致命的になっている。美術も相変わらずすごいし、映像も美しい。特撮もよくできていて申し分ないのに、いい加減な演出のせいで台無しである。結果的に子ども向け映画でとどまってしまうのだ。
 主演の子どもは、第1作でちょい役で出た二宮秀樹(『マグマ大使』のガム役で有名)。他は、あまり知らない俳優ばかりだった。唯一の例外は、山の老婆を演じていた北林谷栄ぐらいか。このとき55歳だから老婆役にはまだ早いが、この人、若い頃から老婆になるまで老婆ばかりを演じている。そのため結果的に息の長い老婆女優になった。アニメ(トトロのお婆ちゃん)でも老婆を演じていたから、こうなると国宝クラスである。
 この『大魔神』シリーズで取り上げられているプロットのように、拉致され強制労働させられて虐げられる(あげくに殺される)などというような不快な事例、あるいは為政者が自分の私腹を肥やすために民衆を段圧するという事例は今でもあるわけで、そういう連中は、願わくば魔神様が現れて滅ぼしてほしいと思うが、なかなかそうは行かず、悪が栄えることがあるのも現実である。せめて、こういった映画を見てスカッとしたらいかがだろうか(スカッとできるかどうかわからないが)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『大魔神甦る』
竹林軒出張所『ドラゴン怒りの鉄拳(映画)』

by chikurinken | 2017-10-18 07:00 | 映画

『天地明察』(映画)

天地明察(2012年・角川、松竹)
監督:滝田洋二郎
原作:冲方丁
脚本:加藤正人、滝田洋二郎
音楽:久石譲
出演:岡田准一、宮崎あおい、佐藤隆太、市川猿之助、横山裕、笹野高史、岸部一徳、中井貴一、松本幸四郎、渡辺大、白井晃、市川染五郎、きたろう

アク抜きしたら風味もなくなった

b0189364_20555141.jpg 映画は原作とは別物であり、それは重々わかっているつもりだが、気に入った原作本の映画化となるとやはりかなり不満が残る。
 原作は冲方丁(「うぶかたとう」と読むらしいが、読めない)の同名歴史小説で、非常に完成度の高い作品であり、特にキャラクターの描き方が非常にうまい。渋川春海の貞享暦をモチーフにした(一種の)青春成長小説で、史実を割合忠実に辿りながらも、劇的な要素をそれなりに盛り込んでいる。渋川春海をはじめとする登場人物が魅力的で、関孝和、保科正之、水戸光圀、本因坊道策らが(どれも奇抜な性格ではあるが)活き活きと目の前に現れる。キャラクターだけでなく、この小説全体について言えるのだが、非常に映像的であり、情景が視覚的に描かれている。それを考えると、そのまま忠実に映像化したらそれなりの傑作になるのではと思うのだが、映画の作り手は、そうは思わなかったようで、随所に改変が行われてしまった。
 もちろん時間の制約や、映像化にまつわる制約があっただろうし、映画的な演出も必要だったことは想像できるが、だがたとえば忍者の集団が測量隊を襲ったりする戦いのシーンが果たして必要と言えるのかはなはだ疑問。まったく必然性を感じない。それにもしこういうエピソードを入れたいのであれば、もう少し後に入れなければ、話のつじつまが合わないような気もする。
 キャスティングについても、春海の妻の「えん」は原作では気丈な人で、だからこそ春海との関わりに面白さが出るんだが、映画の宮崎あおいの「えん」にはそういう要素がなく、「えん」関連の面白い部分はそっくり落としましたという結果になっている。おかげで単なる恋物語で終わってしまって面白さ半減。実にもったいない。他のキャストは概ね原作に合わせて選ばれているようだが、うまくいっているものはあまりない。保科正之がぎりぎりOKという感じである。本因坊道策は横山裕の雰囲気が非常に良かったが、こちらも一部キャラが殺されてしまった。この映画化全般について言えるが、濃い部分(つまり面白い味のある部分)をことごとくそぎ落として、アク抜きしたような作品になってしまっている。
 音楽も付け方があまりにありきたりで、一体誰が今どきこういった陳腐な音楽付けをするのかと思っていたら、久石譲だった。原曲はともかく、音楽監督の資質としては疑問符が付く。あるいは監督の意向かもしれないので何とも言えないが。
 この原作を映像化するのであれば、今流行りのドキュメンタリー・ドラマみたいな形を取るかなんかして随所に解説を入れる必要があると思う。やはり当時の暦や和算の状況、江戸幕府が文治主義に転換した背景、囲碁界の状況などをセリフだけで説明するのは無理がある。それに、そもそもが数十年に渡る物語であるため、これを2時間に凝縮するとなると根本的に足りない。最低6時間くらいは必要ではないかと思う。NHKで1時間×10回シリーズぐらいで作り直したら良いものができるかも知れない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『天地明察 (上)(下)(本)』

by chikurinken | 2017-10-17 07:00 | 映画

『幸せはパリで』(映画)

幸せはパリで(1969年・米)
監督:スチュアート・ローゼンバーグ
脚本:ハル・ドレスナー
音楽:マーヴィン・ハムリッシュ、バート・バカラック
出演:ジャック・レモン、カトリーヌ・ドヌーヴ、ピーター・ローフォード、マーナ・ロイ、シャルル・ボワイエ

消えるには消えるだけの理由がある

b0189364_18252310.jpg ジャック・レモン主演のロマンティック・コメディと聞いていたため、ビリー・ワイルダーの『アパートの鍵貸します』みたいな作品を想像していたが、大変な思い違いだった。
 ストーリーも荒唐無稽だし演出もありきたりなものばかりで、しかも笑わせようとしている箇所すらさして笑えない。情けなくなるような映画である。カトリーヌ・ドヌーヴも少し年がいっていて魅力半減だし、あまり見るところのない作品で、見ているうち、終わるのだけが楽しみになってしまった。
 ストーリーを簡単に紹介しておくと、投資会社の部長に昇格した男(ジャック・レモン)が社長の妻(カトリーヌ・ドヌーヴ)と、それと知らずに恋仲になり、翌日パリに駆け落ちするという話。その間に馬鹿みたいなコミカルなエピソードが出てくるという代物で、これを1本のハッピーエンドの映画にしている。この題材では面白いものができるとは到底思えず、エラい思い違いと言わざるを得ない。そもそも不倫で駆け落ちしてハッピーエンドと言えるのだろうか。前途多難な2人の状況しか見えてこない。
 この作品、永らくDVD化されていなかったらしいが、それも合点がいく。むしろこのまま消えてしまっても良かったかも知れないと思う。この映画で唯一の見所だったのがバート・バカラックの挿入歌で、ときどき耳にするバカラック作の「April Fools」はこの映画で使われたものであるということを今回初めて知った。だからと言ってどうということはないのだが。
★★

参考:
竹林軒出張所『アパートの鍵貸します(映画)』

by chikurinken | 2017-10-05 07:24 | 映画

『男と女』(映画)

男と女(1966年・仏)
監督:クロード・ルルーシュ
脚本:ピエール・ユイッテルヘーベン、クロード・ルルーシュ
音楽:フランシス・レイ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、アヌーク・エーメ、ピエール・バルー、ヴァレリー・ラグランジェ

内容が乏しい! 30分で十分収まる内容

b0189364_19150003.jpg カンヌでもオスカーでも賞を取っている名画ではあるが、失望したというのが素直な感想。見たのは今回が初。
 レーサーの男(ジャン=ルイ・トランティニャン)と映画のスクリプターをやっている女性(アヌーク・エーメ)が出会い恋に落ちるというたわいもないストーリー。映像は全編詩的ではあるが、なんせ内容が薄いのではなはだ退屈。しかもモノクロ映像とカラー映像が交互に出てきたりするが、その意図がまったくわからない。最初回想シーンにモノクロを使っているのかとも考えたがそうでもない。で、見終わった後、DVDに収録されていたクロード・ルルーシュのインタビューを見てわかったんだが、当初すべてモノクロで撮る予定だったが、スポンサーが現れてカラー撮影が可能になった。ただしカラー撮影用の機材が爆音をたてるため、屋外での撮影、それもロングショットでの撮影に限定したということらしい。驚くほどの行き当たりばったりの理由だった。
 そもそもこの映画、失敗作続きで赤字を抱えていたルルーシュが、配給先も決まらないまま撮影を始めた作品だったということで、撮影動機は自主映画的なものと言える。つまり自主映画まがいの作品が高評価を得てしまったという類の作品である。道理で作りが雑で奥行きがないわけである。実際今見ると、当時の評価は少々過大だったんではないかと思う。唯一の救いはフランシス・レイの音楽で、あのテーマ音楽のけだるさが全編を包んで独特の雰囲気を作り出した、それが評価される原因だったというのが案外正しいのではないかと思ったりした。
1966年カンヌ国際映画祭パルム・ドール、アカデミー賞外国語映画賞受賞
★★☆

参考:
竹林軒出張所『甘い生活(映画)』
竹林軒出張所『モンパルナスの灯(映画)』
竹林軒出張所『ローラ(映画)』

by chikurinken | 2017-10-04 07:14 | 映画

『ゲームの規則』(映画)

ゲームの規則(1939年・仏)
監督:ジャン・ルノワール
脚本:ジャン・ルノワール
出演:マルセル・ダリオ、ジャン・ルノワール、ノラ・グレゴール、ローラン・トゥータン

面白いんだかどうなんだかよくわからない

b0189364_18522079.jpg ジャン・ルノワールの代表作みたいに言われている作品。
 上流階級の人々が、それぞれ配偶者の浮気を承知の上で自ら浮気しているという状況で、そういった人々がある貴族の館にパーティで集まるとどうなるかという話を戯画的に描いたもの。なお浮気しているのは上流階級だけに限らず、この館で働いている使用人たちにも及んで、ドタバタするという展開になる。全編ドタバタして、非常に喜劇的ではあるが、正直笑えるものなのかどうかもよくわからない。完全に作り物の芝居として接するのであればともかく、話の展開自体かなり無理があることから、リアリティはあまり感じられない。舞台ならいざ知らず、映画の素材として適していないんではないか。
 この話の元になった事件があってそれを風刺的に描いたものかそういうこともわからないし、なにぶん情報がほとんどないので細かいことについてはコメントできないが、少なくとも僕自身は面白さを感じなかった。唯一の見所と言えば、監督のジャン・ルノワール自身が重要な役で登場していることぐらいで、それにしても格別印象に残りそうにもない。実はこの映画、30年くらい前に自主上映会で見ているが、内容をまったく憶えていなかったという代物である。なるほどそれも頷ける……という、そういう種類の映画であった。もう二度と見ることはないだろう。
★★★

参考:
竹林軒出張所『大いなる幻影(映画)』
竹林軒出張所『ピクニック(映画)』

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 以下、以前のブログで紹介したジャン・ルノワール作品に関する記事。この2本の映画については、見たことすら憶えていなかった。

(2005年9月27日の記事より)
b0189364_18522350.jpgどん底(1936年・仏)
監督:ジャン・ルノワール
原作:マキシム・ゴーリキー
脚本:ジャン・ルノワール、シャルル・スパーク
出演:ジャン・ギャバン、ルイ・ジューヴェ、シュジ・プリム、、ジュニー・アストール

 ゴーリキー原作の戯曲をジャン・ルノワールが映画化したもの。原作を大幅に変えているという(原作読んだことがないからよくわからない)。
 ただ全体的に戯曲調(舞台風)であったのは確か。タイトルからネオリアリズム風の暗い映画かとも思ったが、救いのある映画になっていた。ルノワールゆえか。
 個人的には、屋外レストランのパーティめいたシーンが、印象派絵画を連想させて良かった。やはりルノワール……。
★★★
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(2005年11月30日の記事より)
b0189364_18522628.jpg南部の人(1945年・米)
監督:ジャン・ルノワール
原作:ジョージ・セッション・ペリー
脚本:ヒューゴ・バトラー
出演:ザカリー・スコット、ベティ・フィールド

 ジャン・ルノワールがアメリカに渡って撮った代表作(らしい)。
 米国南部の貧しくて厳しくも人情深い生活を扱っているが、ジョン・フォードの『怒りの葡萄』のような、社会の矛盾をついた告発ものではない。もう少しおおらかでのんびりしたところがある。『大草原の小さな家』に近いか……。主人公は確かにいろいろな苦難を突きつけられるが、どこか牧歌的である。それだけに、見ていて少し物足りなさを感じた。芝居として完結しているような感じで、わき出すものがないというか……。ちょっと退屈した。
 動物を狩って、家族全員でむしゃぶりつくように食うシーンは、空恐ろしくもあった(喜びに満ちたシーンのようだが)。アメリカ人ってのは野蛮だなと素直に感じた。
★★★

by chikurinken | 2017-10-03 06:51 | 映画

『ヘッドライト』(映画)

ヘッドライト(1955年・仏)
監督:アンリ・ヴェルヌイユ
原作:セルジュ・グルッサール
脚本:フランソワ・ボワイエ、アンリ・ヴェルヌイユ
音楽:ジョセフ・コズマ
出演:ジャン・ギャバン、フランソワーズ・アルヌール、ピエール・モンディ、ポール・フランクール、ダニー・カレル、リラ・ケドロヴァ

捨てられた女よりもっと哀れなのは
よるべない女です


b0189364_08084347.jpg 中年男が若いウェイトレスと不倫関係になるという恋愛ドラマ。主演は国民俳優ジャン・ギャバンで、今回は『恐怖の報酬』ばりのトラック野郎を演じる。このジャン・ギャバン、どの映画でも積極的に演技をしているという感じはないが、どの役もよくはまっているから不思議。暗黒街のボスを演じた『望郷』の印象が今まで強かったが、『港のマリー』の冷静な実業家もよく合っていたし、この若い女に溺れるトラック野郎もなかなか良い。相手役はフランソワーズ・アルヌールで、ギャバン-アルヌール・コンビは前年の『フレンチ・カンカン』以来ということになる。
 ストーリーは割合ありきたりだが、中年男の家族、仕事、恋愛がよく描かれている。冒頭のトラックのカットも意外性があり面白い。ヘッドライトを多用した映像も印象的で、そのために『ヘッドライト』という邦題が付けられたのだろうと思われる(原題は『とるに足りない人々』という意味だそうだ)。また、この時代のフランスの労働者階級の様子もしっかり描かれていて、風俗という点でも興味深い。
 これまで未見の名画であり、期待が大きかった分多少物足りなさはあったが、しかし破綻もなくよくできた映画である。ちょっと女の子が憐れで、マリー・ローランサンの詩「鎮静剤」の一節、
  悲しい女よりもっと哀れなのは不幸な女です。
  不幸な女よりもっと哀れなのは病気の女です。

を思い出す。このあたりは『浮雲』と共通。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『地下室のメロディー(映画)』
竹林軒出張所『ダンケルク(映画)』
竹林軒出張所『望郷(映画)』
竹林軒出張所『大いなる幻影(映画)』
竹林軒出張所『港のマリー(映画)』
竹林軒出張所『霧の波止場(映画)』
竹林軒出張所『暗黒街のふたり(映画)』

by chikurinken | 2017-10-02 08:10 | 映画

『赤い橋の下のぬるい水』(映画)

赤い橋の下のぬるい水(2001年・日活)
監督:今村昌平
原作:辺見庸
脚本:冨川元文、天願大介、今村昌平
出演:役所広司、清水美砂、中村嘉葎雄、ミッキー・カーチス、ガダルカナル・タカ、夏八木勲、不破万作、北村和夫、倍賞美津子

「イマヘイ」ワールドに浸りきる

b0189364_20541798.jpg 今村昌平らしいヘンな映画。リストラにあったサラリーマン(役所広司)が「哲学者」と呼ばれたホームレスの話を信じて能登に行き、そこでやたら潮を吹く女性(清水美砂)と出会って恋に落ちるというストーリー。「やたら潮を吹く女性」が出てきているあたりからして何だか現実感が希薄で、やや不条理な要素が出てくる。しかもアフリカ出身の留学生マラソンランナーだの、神社のおみくじを手書きするお婆さんだの、現実からかなり遠い人々が普通に登場してきて、不思議な世界を形作る。ただしその周辺は日常が普通に進行していて、日常と非日常が渾然一体となって成立した世界である。両者の間にはまったく違和感がなく、ありそうでなさそうな面白い世界ができあがっている。
 主演は役所広司、清水美砂という『うなぎ』コンビであるが、イマヘイ監督「らしさ」はこちらの方が『うなぎ』よりはるかに上を行っている。潮で虹ができるなど、あちこちに散りばめられたバカバカしい笑いもらしいと言える。
 エンドロールで気が付いたが高田渡が出ていたようで、もう一度最初から見直したら、冒頭部分に飲んだくれのホームレスとして登場していることを発見。飲んべえのホームレスとは「らしい」キャスティングである。なお、今回見たのは2回目だったが、交接シーンと魚が集まってくるシーン以外ほとんど憶えていなかった。また交接シーンは多いが、清水美砂は着衣だし、それほどエロさはない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『うなぎ(映画)』
竹林軒出張所『豚と軍艦(映画)』
竹林軒出張所『にあんちゃん(映画)』
竹林軒出張所『人間蒸発(映画)』
竹林軒出張所『ゆきゆきて、神軍(映画)』

by chikurinken | 2017-09-13 06:53 | 映画

『女が階段を上る時』(映画)

女が階段を上る時(1960年・東宝)
監督:成瀬巳喜男
脚本:菊島隆三
撮影:玉井正夫
音楽:黛敏郎
出演:高峰秀子、森雅之、団令子、仲代達矢、加東大介、中村鴈治郎、小沢栄太郎、淡路恵子

仕事や起業についていろいろ考えた
そういうテーマの映画かどうかはわからないが


b0189364_19294139.jpg これも、『浮雲』同様、ミキちゃんデコちゃん(成瀬巳喜男と高峰秀子のこと)コンビの映画で、しかも森雅之に加東大介まで出ている。ただ内容は『浮雲』とは大分違って、主人公は銀座のバーの雇われママで、その生き様が描かれる。
 前半は、雇われママの仕事ぶりが中心で、成瀬巳喜男は一体この映画で何を描きたいのかなどとつらつら考えていたが、後半になって話が進み始め、作り手の主張がしっかり伝わってくる上々のドラマに仕上がっていた。菊島隆三のオリジナル脚本のようだが、菊島隆三本人がプロデューサーまでやっているところを見ると、脚本家にとってそれなりの自信作だったかと思う。実際よくできたシナリオである。
 何とか銀座で生き残っていこうとする美人ママと、サポートを申し出る金持ちたちの群像劇、と言ってしまえばそういう話なんだが、どこか花街の世界を思わせる話で、見ていて『祇園囃子』を連想したが、そういうのが製作者の狙いでもあるのではないかと思う。菊島の身近にモデルがいたのか(たぶんいたんだろう)よくわからないが、2時間のドラマとしてきっちりまとめ上げられていて、インパクトも残すのは、やはり脚本家、そして監督、さらにはキャストの技量だろう。
 音楽はビブラフォンを使ったジャジーなもので、担当は黛敏郎。基本的に黛敏郎の音楽は好きではないが、この映画については非常に良い味を出していた。絵作りもきれいで、コントラストが効いたモノクロ映像が美しい。地味な作品ではあるが、佳作である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『わたしの渡世日記 (上)(本)』
竹林軒出張所『流れる(映画)』
竹林軒出張所『祇園囃子(映画)』
竹林軒出張所『浮雲(映画)』
竹林軒出張所『稲妻(映画)』
竹林軒出張所『乱れる(映画)』
竹林軒出張所『放浪記(映画)』

by chikurinken | 2017-09-11 07:29 | 映画

『お葬式』(映画)

お葬式(1984年・NCP、伊丹プロ)
監督:伊丹十三
脚本:伊丹十三
撮影:前田米造
出演:山崎努、宮本信子、菅井きん、大滝秀治、奥村公延、財津一郎、江戸家猫八、友里千賀子、尾藤イサオ、岸部一徳、高瀬春奈、笠智衆、藤原釜足、佐野浅夫

b0189364_20262400.jpgセンスが光る写実の映画

 伊丹十三の映画監督デビュー作。「葬式を出す」という実体験を基にした映画である。なんでも伊丹が本当に葬儀を出した際に、皆で火葬場の煙突を見上げたときその様子が「まるで小津安二郎の映画じゃないか」と思ったことが映画を作るきっかけだった、という話を以前どこかで聞いたことがある(おそらく『小早川家の秋』のことを指していると思われる)。そのためか、葬儀の現場を(面白おかしくではあるが)忠実に再現したという類のストーリーである。ただ忠実に再現してもそこに詩情が芽生えるならば、それはそれで一本の作品である。正岡子規のいわゆる「写実」というものに当たるのか。伊丹十三、松山つながりであるいは子規を意識したのかも知れない。発表当時もそういう「写実」のさりげなさが評価されたように記憶している。なお、当時伊丹十三は役者として有名で、前年に出演した『家族ゲーム』の演技でキネ旬の助演男優賞を受賞している。だからその後、映画監督業が活動の中心になっていったのがやや意外だった。もっともどの映画も話題になったし評価も高いので、それはそれで良かったのだろう。とは言ってもどの映画も結局「写実」の域を出ないもので、単調な作品に堕してしまったのははなはだ残念。伊丹がそういう方向に行ったのはこの映画が余りに高く評価されたためだろうが、もちろん当時そういう映画が珍しかったこともある。
 この映画については、起伏は少ないが、非常によくまとまっていてとても監督処女作とは思えない。それになんと言ってもキャスティングが素晴らしい。菅井きんの姑、大滝秀治の親戚の(嫌な)オヤジについては(そもそもが前例のあるはまり役なので)今さら言うまでもないが、江戸家猫八の葬儀屋や笠智衆の坊さん、佐野浅夫の近所の気の良いオジさんなんかも余りにはまっていて、伊丹十三のセンスが光っていると感じる。利重剛と井上陽水もごくチョイ役で出演。葬式関係のシーンは、実際に伊丹十三の別荘が舞台として使われており、かなりの部分はロケではないかと思う。
 途中、モノクロのスケッチ風映像日記が挿入されていたりするのも非常にセンスが良い。この部分は写真家の浅井愼平が撮影しているらしいが、こういう凝った部分も伊丹十三ならでは。それでまたすごく良い映像なんだ、これが。
 とにかく随所に伊丹十三のセンスが光っている映画である。根本敬(だと思われる)作のポスターも良い味を堕していて、これも伊丹のセンスのたまもの。「お葬式」という字の書体も良い。
★★★☆
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 以下は、以前のブログで紹介した『小早川家の秋』の評の再録。

(旧ブログ2005年11月5日の記事より)
小早川家の秋(1961年・東宝)
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:中井朝一
出演:中村雁治郎、原節子、司葉子、新珠三千代、小林桂樹、森繁久彌、浪花千栄子、団令子、加東大介、山茶花究、宝田明、藤木悠、杉村春子、笠智衆

b0189364_20274582.jpg 松竹の監督、小津安二郎が東宝で撮った映画。
 見るのはこれで二度目で、前回はあまり好印象を持たなかったが、今回は絵の美しさに感心した。きれいな映像というだけではなく、日本の風物、景観が良く表現されていて、懐かしさがこみ上げる。さりげなく撮ったような京都の町並みもはなはだ美しい。今でも京都の花見小路あたりにわりと残っているような風景だが、ここに写っている絵は印象が全然違う。
 それに、登場人物の立ち居のすばらしさ。立ち居については前の『浮草』のところでも書いたが、この映画では単に立ち居が美しいというだけでなく、登場人物のキャラクターにあわせた立ち居が表現されているように感じた。この辺の表現は、ちょっと歌舞伎を彷彿とさせる。そんなわけで歌舞伎役者の中村雁治郎が抜群に良い味を出している。小津の映画で彼が出るのは『浮草』とこれだけだが、大映の役者を東宝まで引っ張ってくるという小津の思い入れがよくわかるというものだ。ひょうひょうとしたおかしみが出ていて、コロコロ変わるえびす顔や怒り顔などの表情の変化も楽しい。
 演出も、他の小津映画以上に様式的である。原節子と司葉子が並んで話をするシーン(いくつかある)なんて、やり過ぎじゃないかと思うくらいだ。この辺も歌舞伎的である。東宝でちょっと実験してみたという感じなのだろうか。
 全編に渡り、登場人物たち(大人)の魅力や懐かしい風景があふれていて、見ている側が子供に帰り大人たちの挙動を目の当たりにしているかのような錯覚さえ覚える。小津映画のローアングルのカメラ目線が子供の視線を表現しているなどと言われることがあるが、この映画ほどそれを感じたことは今までなかった。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『タンポポ(映画)』
竹林軒出張所『マルタイの女(映画)』
竹林軒出張所『ミンボーの女(映画)』
竹林軒出張所『大病人(映画)』
竹林軒出張所『スーパーの女(映画)』
竹林軒出張所『小説より奇なり(本)』

by chikurinken | 2017-09-09 07:25 | 映画

『うなぎ』(映画)

b0189364_20273025.jpgうなぎ(1997年・ケイエスエス)
監督:今村昌平
原作:吉村昭
脚本:冨川元文、天願大介、今村昌平
出演:役所広司、清水美砂、佐藤允、柄本明、常田富士男、倍賞美津子、市原悦子、哀川翔、小林健、寺田千穂、田口トモロヲ

人の善意が心地良い

 一昨日のドラマ(竹林軒出張所『せつない春(ドラマ)』参照)の清水美砂つながりで見た映画。同じ今村昌平監督作品の『赤い橋の下のぬるい水』と同じ主演コンビだが、あの映画みたいな濡れ場はほとんどない。それにあの映画、あるいは初期の今村映画と比べると、割合普通のストーリーで、変なイマヘイ映画を期待していた僕としては少し拍子抜けした(ただし変な要素もあるにはある)。
 人間(女性)不信の刑務所帰りの男が、周囲の人間の善意で立ち直ろうとする話と言ったら良いだろうか。ストーリーは今となってはそれほど珍しいものではないが、しかしやはり世界観は独特と言える。精神障害の母親を登場させたりするのもその独特な世界観ゆえなのか。
 役所広司と清水美砂の好演は言うまでもないが、脇役の佐藤允や哀川翔のいい人ぶりが非常に良い。この映画を見ていると、彼らと一緒に、不器用な生き方をする主人公を応援したくなるような心持ちにさせられるが、ストーリーとしてはなんだかピリッとしない部分もあって、流れの悪さを感じる部分もあった。まあしかし人の善意が伝わってくる心地良い映画であるのは確かである。ただ映画祭のグランプリにふさわしいかどうかは微妙。
第50回カンヌ映画祭パルムドール受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『赤い橋の下のぬるい水(映画)』
竹林軒出張所『豚と軍艦(映画)』
竹林軒出張所『にあんちゃん(映画)』
竹林軒出張所『人間蒸発(映画)』
竹林軒出張所『ゆきゆきて、神軍(映画)』

by chikurinken | 2017-09-07 07:27 | 映画