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竹林軒出張所

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『プーチンの道』(ドキュメンタリー)

プーチンの道 〜その権力の秘密に迫る〜(2015年・米WGBH)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

怪物プーチンの来し方、行く末

b0189364_18324779.jpg ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がどのように成り上がって、どのような方法で政治を行っているかを紹介、というか告発するドキュメンタリー。
 KGBの職員だったプーチンは、ソビエト連邦崩壊により職を失うが、サンクトペテルブルクで懇意のサプチャーク市長に拾われ、市長が直接手を下せない汚い仕事を引き受けることで頭角を現していく。その後、サプチャークの中央政界進出に伴いプーチンも中央政界に進出。エリツィン大統領の汚い仕事の処理を引き受けたことから、エリツィンにも可愛がられる。
 エリツィンが大統領を退任するにあたり、大統領時代の自身の犯罪行為を追求しない後継大統領としてプーチンを指名するに及んで、プーチン時代が始まる。その後首相に就任したプーチンは、世間的にも認知度が低かったが、ロシア高層アパート連続爆破事件の際にチェチェンの過激派による仕業と決めつけ、チェチェンに対して攻撃を強行したあたりから保守層を中心に支持を集めるようになる。
 このドキュメンタリーでは、この連続爆破事件はFSB(KGBの後継組織)の自作自演で、プーチンが知名度を上げるために仕掛けたものと断定していたが、真相はわからないにしてもかなり怪しいのは確かである。しかもそれを告発した記者や元職員が不当逮捕されたり謎の死を遂げたりしているという事実もある。少なくともこの連続爆破事件とチェチェン紛争で結果的に一番得をしたのは、その後大統領選挙を勝ち抜いたプーチンであるのは確かである。しかも連続爆破事件についての調査も打ち切りにしているなど、怪しさ満載である。
 このドキュメンタリーで描かれるプーチンは、利己主義的な第三世界型の独裁者で、先進国の指導者では断じてない。もっとも先進国とされている米国でも似たようなサイコパスが大統領になっているわけで、先進国の指導者が民主的な存在かというと必ずしもそうではないところが悩ましいところである。米ロの首脳、それから我が国の首相も含め、互いに親近感を感じているように聞くが、そういうのもなんだかわかるような気がする。
インパクトメディア歴史アーカイブ映像部門インパクト賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『混沌のウクライナ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『暴かれる王国 サウジアラビア(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『こうしてソ連邦は崩壊した(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『スターリンの亡霊(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドーピング ロシア陸上チーム 暴かれた実態(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『バシャール・アサド 独裁と冷血の処世術(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーで見る 独裁者スターリン(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-08-22 08:08 | ドキュメンタリー

『カメラマン・サワダの戦争』(ドキュメンタリー)

カメラマン・サワダの戦争 〜5万カットのネガは何を語るか〜(1982年・NHK)
NHK総合 NHK特集

人生を駆け抜けた一人の男の軌跡

b0189364_21181994.jpg ベトナム戦争の報道写真で有名になったカメラマン、沢田教一のドキュメンタリー。1982年にNHK特集で放送されたもの。
 学生時代、個人的に報道カメラマンに興味を持ったことから、ロバート・キャパや一ノ瀬泰造などの本を読んでおり、沢田教一についても写真集(『泥まみれの死』)や青木富美子が書いた伝記(『ライカでグッドバイ』)を読んでいる。このドキュメンタリーもどこかで見たというよう記憶があるが、1982年の時点ではまだ沢田教一について僕は知らなかったはず。あるいは再放送を見たのかも知れない。
 この番組は、沢田の13回忌に、奥方の沢田サタさんが教一が戦死した場所(カンボジアの田舎)を訪れるというエピソードをメインに据え、沢田教一の生涯と仕事を追っていくというもの。
 沢田教一は、ベトナム時代、戦場で撮った写真をUPIベトナム支局に売りながら自分の写真を発表していた。報道写真は数年したらネガが処分されるらしいが、沢田は処分前に自らが引き取り、それをサタに送っていた。そのため、当時の他の報道写真家と比べ、ネガがかなり残っていて、サタの手元には5万カットあるらしい。そのネガを追うことで、沢田教一の戦場における足跡や、どのようなものに関心を示したか探る。そして彼の最大の関心事が、戦場における家族や子どもだったということで、実際こういった写真が非常に多いらしい。もっとも彼がピューリッツァー賞を受賞した『安全への逃避』にしても、戦争における家族を描いたもので、こういった点が沢田を他の報道カメラマンと違った存在に押し上げる要因にもなっている。
 沢田の生涯や沢田の写真の特徴を非常にうまくまとめたドキュメンタリーで、古典的な秀作として現在に残っている。DVDは出ていないが、今でもNHKアーカイブスであるいは見られるかも知れない(未確認。一部は見られる)。僕が今回見たのは、今年の6月に『あの日 あのとき あの番組〜NHKアーカイブス〜』という番組枠で再放送されたものである。報道写真家の石川文洋がゲストで、しかも沢田サタさんの今の姿まで映像で登場して(現在92歳!)、サービス精神満点の再放送であった。久々に沢田教一に興味が沸いたんで『泥まみれの死』と『ライカでグッドバイ』をもう一度読もうと思ったが書棚にはなかった。どうやら処分したようだ。僕自身、あの当時から随分日和ったものである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ベトナム戦争関連のドキュメンタリー3本』
竹林軒出張所『フルメタル・ジャケット(映画)』
竹林軒出張所『運命の一枚〜“戦場”写真 最大の謎に挑む(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『それでもなぜ戦場に行くのですか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イラク戦争関連の本』
竹林軒出張所『サルバドル 遥かなる日々(映画)』

by chikurinken | 2017-08-20 07:17 | ドキュメンタリー

『中国映画を支えた日本人』(ドキュメンタリー)

中国映画を支えた日本人 〜 “満映”映画人 秘められた戦後(2006年・NHK)
NHK-BS1 BSプレミアム プレミアムカフェ

中国映画のもう一つの歴史

b0189364_21042266.jpg 太平洋戦争中、中国大陸に建国された満州国は、日本の傀儡国家であったことから日本人が大勢入植し、その日本人向けに満州映画協会という映画会社(いわゆる「満映」)まで設立された。この映画会社、満州人の美人が日本人に恋するという、日本人にとって非常に都合の良いストーリーの映画をたくさん作ったが、同時に李香蘭(山口淑子)というスターまで生み出した。「満映=李香蘭」という図式まである。というか、僕自身はそういう図式でしか満映を知らなかったのだ。
 さてその満映だが、大日本帝国の無条件降伏で戦争が終結すると、当時満映に乗り込んでいた大勢の日本人映画人は、一部帰国したが、その後も当地に大勢残っている。満映自体は、その後乗り込んできた中国共産党が接収し、共産党のプロパガンダ映画を作り始めた。その際、残った日本人映画人は、現地の中国人映画人の指導に当たったり、その後の共産党製作の映画のスタッフとして協力したりしたらしい。この中には内田吐夢などもいたそうだ。当時の中国の映画レベルがあまり高くなかったこともあり、こういった日本人技術者は非常に重宝され、その技術が中国内の映画人に引き継がれる役割を果たしたというのがこのドキュメンタリーの趣旨である。
 僕自身は1980年初期から中国映画を目にしていたが、たまに目にしていた文革時代のプロパガンダ映画の質の低さに辟易していた一方で、1987年の『古井戸』は、そういった映画と異なるレベルの高さを感じてかなり驚いた記憶がある。戦後中国に(特に文化大革命による)映画技術の断絶があったと感じていたため、こういった作品が作れるのかと思い意外性を感じたわけである。なんでもこの映画の主役と撮影を担当したチャン・イーモウ(その後偉大な映画人になるが)は、満映で技術を受け継いだ中国人技術者の弟子筋にあたるらしく、満映の技術を引き継いだ一人ということになる。技術には継承が重要であるということを考えると、これは十分納得のいく話ではある。
 僕にとって、中国映画には韓国映画と違って魅力を感じるものが多いのは事実で、戦前に日本にあった映画技術が継承されたことがその要因なのかどうかはわからないが、もし継承されているのであればそれは中国文化にとってラッキーなことであった。結果的には日本人技術者を引き留めた中国共産党の勝利ということになるのか。なお、その後日本人技術者たちは、中国に種をまいた後、無事帰国を果たしたようである。このドキュメンタリーによると、多くの技術者たちが、満映時代、その後の共産中国時代について、映画人としての彼らにとって素晴らしい時代だったと感じている模様である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『証言 日中映画人交流(本)』
竹林軒出張所『中国10億人の日本映画熱愛史(本)』
竹林軒出張所『単騎、千里を走る。(映画)』

by chikurinken | 2017-08-18 07:02 | ドキュメンタリー

『ブレードランナー ファイナル・カット』(映画)

ブレードランナー ファイナル・カット(1982年・米)
監督:リドリー・スコット
原作:フィリップ・K・ディック
脚本:ハンプトン・ファンチャー、デヴィッド・ピープルズ
デザイン:シド・ミード
音楽:ヴァンゲリス
出演:ハリソン・フォード、ルトガー・ハウアー、ショーン・ヤング、エドワード・ジェームズ・オルモス、ダリル・ハンナ、ブライオン・ジェームズ

ブレードランナーは一角獣の夢を見た

b0189364_20263258.jpg フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が原作。舞台は2019年のロサンゼルス。怪しげな外国語が飛びかう多国籍の街。日本語が飛びかう屋台、巨大スクリーンに映される芸者の広告(なぜか「強力わかもと」)が新鮮である。LAでありながらずっと雨が降っている。
 この時代、人間そっくりのアンドロイド(レプリカント)が普及しており、知性も腕力も持っていて他の星での肉体労働などに従事しているが、中には地球に紛れ込む者がいる。そういうレプリカントを破壊するのがブレードランナーで、主人公もその1人。地球に紛れ込んだ数人のレプリカントを追うというのがこの映画のメインストリームである。
 ストーリー自体は比較的平凡だが、この映画の特徴は美術で、とにかく舞台の描写がリアルですごい。この映画が作られたときはまだCGがなかったため、一般的な合成による特撮で作られているが、非常に質が高い。それに世界観が独特で、たとえば主人公のハリソン・フォードが日本人の経営する屋台で麺を食べているシーンは、妙にユーモラスで最初見たとき思わず笑いがこみ上げてきた。ちなみにこの映画、僕自身は1984年ぐらいに初めて見ており、そのときは美術はすごいと思ったがストーリーがよく把握できず、なんだか曖昧な印象しか残らなかった。この映画、公開当初はあまり人気が出ず、時代を経るうちにカルト的な人気を集めて今に至っているんだが、当初は製作側でもストーリーがわかりにくいといわれていたようで、それでも見切り発車みたいな形で公開されたらしい。監督のリドリー・スコットにとってはそれが不本意だったようで、その後人気が高まるにつれて、カットされたシーンを活かし監督自身が再編集したディレクターズカット版が発表された。そしてさらにその後編集が加えられて「ファイナル・カット」版が作られ、それが今回見た作品ということになる。今回は、ストーリー自身にはわかりにくさを感じなかった。鳩のシーンも非常に魅力的だった。
 撮影時からいろいろスタッフの間で対立があったりとか、演出上もいろいろとゴタゴタがあったことがメイキングビデオ(『デンジャラス・デイズ メイキング・オブ・ブレードランナー』)で紹介されていたが、(アメリカの事情は知らないが)そんな状態でもこれだけの完成度を持つ作品ができあがったということに驚く。リドリー・スコットの前作『エイリアン』同様、ともかくデザインを含め美術が際立った映画で、リドリー・スコットとシド・ミードの才能のたまものなんだろうと思う。世界観を堪能してくださいというそういう映画である(と思う)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ポアンカレ予想 100年の格闘(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-08-16 07:27 | 映画

『陸軍中野学校』(映画)

陸軍中野学校(1966年・大映)
監督:増村保造
脚本:星川清司
出演:市川雷蔵、小川真由美、待田京介、E・H・エリック、加東大介、村瀬幸子、早川雄三

暗くて暗くてとてもやりきれない

b0189364_20445900.jpg 太平洋戦争中に実在した「陸軍中野学校」を舞台にしたスパイ映画。
 陸軍中野学校というのは、諜報活動のプロを養成すべく陸軍内に作られた機関で、この映画でその名が世間に知られるようになったのではないかと推測される。
 内容は陸軍中野学校がどういう学校か、どういう性格かという説明が多く、特に序盤は多分に説明的であるが、その後主人公の三好陸軍少尉(市川雷蔵)が関係者を殺害しなければならなくなるという展開は想定外で、ドラマとしてなかなかうまく練り上げられている。主演の市川雷蔵は、この映画が初の現代劇ということで、雷蔵が新境地を見せた映画としても知られている。興行的にも当たったようで、その後シリーズ化された。
 総じてよくできた映画ではあるが、ただやはりフィルムノワール(「虚無的・悲観的・退廃的な指向性を持つ犯罪映画」- Wikipediaによる)風で、しかも殺伐としており、あまり気分が良い作品ではない。この気分の悪さというのは、作り手による反戦のメッセージだろうとは思う。そういう点で、この時代に多数作られた戦争ヒロイズム映画とは一線を画す作品ではある。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『間諜X27(映画)』
竹林軒出張所『兵隊やくざ(映画)』
竹林軒出張所『巨人と玩具(映画)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』
竹林軒出張所『炎上(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』
竹林軒出張所『小野田元少尉の帰還(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第5集〜第8集(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-08-14 06:44 | 映画

『兵隊やくざ』(映画)

兵隊やくざ(1965年・大映)
監督:増村保造
原作:有馬頼義
脚本:菊島隆三
撮影:小林節雄
出演:田村高廣、勝新太郎、淡路恵子、北城寿太郎、早川雄三

人間的な魅力に富む二人の超人の話

b0189364_06581856.jpg 『兵隊やくざ』はシリーズになっていて、途中の作品はたびたび見る機会があったものの、シリーズ第1作目、つまり本作についてはなかなか見る機会がなく、今回とうとう見ることができたということになる。シリーズの途中から見るというのははなはだ不本意で、だから実際には見てはいない。そもそもシリーズ化した作品というのは第1作が当たったためにシリーズになったというのが普通である。ならばとりあえず第1作を見れば良いではないかというのが僕の考え方である。まあ普通の人はそうだろうが。
 もっともこの『兵隊やくざ』、シリーズ化されているといっても、比較的地味な作品群で、映画ファンでなければ知らないようなシリーズである。勝進のシリーズ作品と言えば『座頭市』の方がはるかに有名だし。ただし僕は『座頭市』も勝進もあまり好きではない。したがって『兵隊やくざ』にしても、とりあえず第1作目を見れば良いかなという程度の考えしかなかった。
 で、今回まあ見たわけだが、予想に反して、これが非常に良くできた面白い映画に仕上がっていたのだった。型破りの元やくざ、大宮(勝新太郎)が、関東軍に二等兵として入隊してくるが、関東軍といえば苛烈な初年兵いじめで有名。でもって、当然この初年兵、目を付けられて散々な目に遭わされる。しかしこの大宮、そんじょそこいらのやわな人間と違って、腕力と破天荒さにかけては天下一品。徐々に自分の居場所を作っていく。この大宮の目付役が三年兵の有田(田村高廣)だが、大宮に共感を覚えたか、窮地を救ったり上官に対してかばったりする。大宮の方も有田をボスと認め、この恩義をいつか返すと誓うというそういった流れになる。
 軍隊内、特に大日本帝国陸軍のいじめや暴力というのはいろいろな映画で描かれていて、見ていていつも辟易する。『真空地帯』しかり、『人間の條件』しかりであるが、『真空地帯』ではそんな中で実力でのし上がる男、『人間の條件』ではあくまでも正義を貫こうとする男が出てきて、それがドラマの中心になる。この映画も同様で、(身分)秩序がしっかりあってしかも暴力によってその秩序が維持されている集団内に、破天荒な人間が入ってきて一悶着起こすというドラマになる。ただその入ってくるよそ者が、「人物」でありながら腕力も持っている魅力的な存在というのがこの映画のミソである。この人物、どこか無法松を思わせるが、無法松→阪妻→田村高廣というふうにこの映画にも繋がっているのはたまたまか。この魅力的な男が異常な集団の中で、人間性を見失わずに自分を貫いていく。またもう一人の主人公、有田の正義感も気持ち良い要素である。彼も異常な集団の中で、まともな思考とまともな感情を見失わない。そういう意味では、二人ともややスーパーマン的ではあるが、基本的に娯楽映画だからそれで良い。
 駐屯地のセットは野っ原の中にしっかりと作られていて、舞台が満州と言われてもまったく違和感はない(実際の撮影地は北海道あたりか)。大映映画らしい豪華さである。
 先ほども言ったが、この映画かなり当たったようで、その後シリーズ化され、結局第9作まで作られた。ただし増村保造が監督したのはこの一作のみで、後はプログラムピクチャーの監督が担当している。見ていないし見る予定もないのでどの程度の作品になったかはわからない。やはりこの一作だけで終わらせても良かったんじゃないかというのが実感である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『真空地帯(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『無法松の一生(映画)』
竹林軒出張所『陸軍中野学校(映画)』
竹林軒出張所『巨人と玩具(映画)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』

by chikurinken | 2017-08-12 06:59 | 映画

『季節が変わる日』(ドラマ)

季節が変わる日(1982年・日本テレビ)
演出:久野浩平
脚本:山田太一
出演:八千草薫、岡田真澄、小池朝雄、早川勝也、キャロライン、ハナ肇

教育についていろいろ考えるドラマ
なかなかの力作


b0189364_08131479.jpg 不登校の息子をある山間の寄宿学校に入れることにした女性(八千草薫)と、非行の娘を同じ学校に入れることにした男性(岡田真澄)が恋愛関係に陥っていくというストーリー。この学校というのが軍隊式で、子ども達のヤワな根性をたたき直すというコンセプトの施設。おそらく戸塚ヨットスクール(竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』を参照)がモデルだと思われるが、ドラマではこのような施設に対する批判精神も顔を覗かせる。一方で荒れる子どもをお払い箱にした親が見せる安心感なども描かれ、少し辛辣さも感じる。
 これも日テレ製作のドラマで、ややリズム感を欠いている上、ホテルのベッドシーンなんかは(以前の日テレドラマらしさを感じるような)ちょっと気恥ずかしい演出で、ちょっとどうよと思うようなものであったが、先が読めないストーリー展開はさすが山田ドラマである。子どもを寄宿学校に入れて親たちがよろしくやっているということには反撥も感じるが(主人公の口からもそういうセリフが語られる)、しかしこの親たちにしても、不倫ではないわけだし恋愛したって問題はないわけで、こういう(視聴者という)第三者による(一方的で)禁欲的な考え方は理不尽である。本来は。だがまあそういう感慨を持つのも自然といえば自然で、一方でそういう紋切り型の考え方をしてしまう自分が何やらみっともなくもあり、なかなか厳しいところを突かれたという感じが残る。かくのごとく、いろいろ考えるところが多いドラマで、そのあたりも山田ドラマらしいと言える。
 教育の問題は難しいし、特にこのドラマが製作された時代は不登校に対する定見がなかったこともあり、親も社会も手探り状態であったと思う。教育の歪みが校内暴力などという形で現れたのもこの少し前の時代で、教育については難しい問題が山積みであった。答えは簡単に見つからないし、今も正答があるわけではないが、社会が以前より柔軟に対処しているのは実感できる。それは教育に対して真摯に向き合った人々の成果でもあるわけで、こういった問題意識の高いドラマも一役買っていたのではないかと思う。実際山田太一には教育論(『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと』)もあり、これも大変興味深い本であった。子どもが提示してくる問題に対しては真摯に向き合うというのが唯一の方策なのかなとも思うが、このドラマでも何となくそういう方向性が示されていたように思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと(本)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-08-10 08:13 | ドラマ

『ちょっと愛して…』(ドラマ)

ちょっと愛して…(1985年・日本テレビ)
演出:せんぼんよしこ
脚本:山田太一
出演:樹木希林、川谷拓三、和田アキ子、河内桃子、篠田三郎、沢田雅美、小倉一郎

冴えない男女のドラマ……だが
やっぱり冴えてる方が良いような


b0189364_21075742.jpg 山田太一脚本の1985年のドラマ。製作は山田ドラマとしては珍しい日本テレビだが、山田ドラマの味は損なわれていない。このドラマは放送時見ておらず、存在すら知らなかった。日テレ放送だったからか。
 婚期が遅れている冴えない男女(樹木希林と川谷拓三)が、結婚相談所を通じて結婚相手を求めるが、なかなか理想的な相手が見つからず……という展開のドラマ。『想い出づくり。』を作るときに「ドラマだけがね、なんかこう2人の男女のきれいなのがいて、後は奉仕するっていうのは……恋敵とかだってね、恋敵という役にもう固定されてしまうわけでしょ。そんなドラマはね、早晩壊れちゃうだろうって思った」という山田センセイ、それを地で行くようなストーリーである。
 確かに美しい男女があれやこれやあって恋愛関係に陥るという話もバカバカしさを感じるが、でもやっぱり恋愛ドラマは美しい男女の方が良いという気もする。このドラマにはキャストレベルでのリアリティはあるが、出ている人が美形の方が見ていて楽しいし、精神的にも盛り上がるんではないかと感じた。もっとも、それは一般的なつまらない恋愛ドラマでの話で、密度が濃いこういうドラマだと、ちょっと冴えない風貌でもOKかなとは思う。一方で、篠田三郎や河内桃子などの美形男女が出てくると、見ているこっちは安心したりする。なお篠田三郎と河内桃子は結婚相談所の職員役で出てくるんだが、主役の2人を鑑みると、これも少し意地悪な配役だと感じる。
 主人公が勤めるのがデパートの紳士服売り場で、しかも紳士服メーカーから直接派遣されているという立場で、主人公の口から「そういうのがあるんです」と語られるが、僕自身はそういうシステムがあることを知らなかったので、そういうもんなんだと感心した。こういう目新しい職業形態が紹介されるのも山田ドラマらしいと言える。主人公の同僚役を務めるのが和田アキ子で、この役が非常に魅力的である。主人公と仕事面で対抗しながらも、主人公の幸せのために尽力するという存在である。和田アキ子の山田ドラマ出演は『輝きたいの』以来(だと思う)。一方主役の樹木希林も山田ドラマの出演は珍しい。『さくらの唄』以来ではないかと思う。なおこの『さくらの唄』だが、久世光彦演出の水曜劇場だったこともあり、樹木希林(当時、悠木千帆)らの出演陣がやたらアドリブばかりやるんで、山田太一が非常に怒って「アドリブは止めて台本通りにやってくれ」と要求した(こういうこともあり、それ以降久世光彦とは組んでいない)という逸話が残っている。それを考えると樹木希林の主役起用は意外である。
 ドラマとしては、途中まで流れがあまり良くなく少々まだるっこしさを感じるが、途中から良い具合のダイナミズムが出て来た。話のテーマとしては『ハワイアン ウエディング・ソング』に似ているが、どちらのドラマもオリジナルで魅力的な作品であることには変わりない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『輝きたいの(1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ハワイアン ウエディング・ソング(ドラマ)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』

by chikurinken | 2017-08-09 07:07 | ドラマ

『いちばん綺麗なとき』(ドラマ)

いちばん綺麗なとき(1999年・NHK)
演出:伊豫田静弘
脚本:山田太一
出演:八千草薫、加藤治子、夏八木勲、多田木亮佑、中嶋ゆかり

短時間、少製作費でもこれだけのドラマができる

b0189364_20042549.jpg 茨木のり子の詩「私が一番きれいだったとき」を思い出させるようなタイトルだが、内容もあの詩と共通する要素がある。また、あの詩と同様、反戦テーマも入っていて、うまいこと練り上げられたストーリーである。
 夫に先立たれた女性(八千草薫)のもとに、その夫が不倫していたという情報がもたらされる。その情報を持ってきたのは、夫の不倫相手の女性の夫(夏八木勲)ということで、不倫された者同士が、それぞれの想いをぶつけ合うという展開になっていく。途中、戦争の引き上げの話がストーリーに絡められ、しかもロードムービー的な味も盛り込まれてなかなか盛りだくさんである。しかも、山田ドラマには珍しく、主演の八千草薫と加藤治子の激しいぶつかり合いなどまである。それも、向田邦子作品かと思わせるような激しさである。実際、この2人、(後から思い出したんだんが)向田作品の『阿修羅のごとく』の長女役と次女役で「さもありなん」という感じ。向田邦子へのオマージュだったんだろうか。
 配偶者の死後、その不倫が発覚するというストーリーは『魂萌え!』を思い起こさせるが、発表はこちらのドラマが先である。もしかしたら桐野夏生、このドラマからモチーフを拝借したか。今ではよく扱われるモチーフになったが、もしかしたらこのドラマが元祖かも知れぬ。
b0189364_08141816.jpg 先ほども言ったように、いろいろな要素が盛り込まれた盛りだくさんなストーリーだが、セリフの生々しさ、登場人物の行動様式のリアリティなどは、さすが山田ドラマとうならせるようなものである。夫に不倫されていた妻と妻に不倫されていた夫が、配偶者たちの行動を推測して怒りを感じながらも「(配偶者の不倫の話について)こんな話他の人にできない」などと漏らすさりげないセリフに思わずうなってしまう。
 なおこのドラマ、舞台が名古屋で、京都の舞鶴まで舞台が広がっていく。おそらくNHK名古屋の製作ではないかと思うが、製作に関する詳細な情報がタイトルバックに出なかった。夜9時から1時間15分の『NHKドラマ館』という枠で放送されたらしいが、僕自身は見ていない。この頃はほとんどの山田作品はチェックしていたがこれについてはチェック漏れであった。主演の3人を除くと無名の俳優ばかりで、しかも家の中のシーンまでロケで撮影しているなど(ただしそれはそれで良い効果が出ている)、製作費が少なかったのかと勘ぐったりもするが、作品のグレードは高い。1時間15分枠、しかも少なめの製作費でこれだけのものができるとなれば、今放送されている他の多くのドラマは一体何なんだと感じてしまう。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『再会(ドラマ)』
竹林軒出張所『旅の途中で(ドラマ)』
竹林軒出張所『「早春スケッチブック」、「夕暮れて」など(ドラマ)』

by chikurinken | 2017-08-08 07:04 | ドラマ

『富士ファミリー』(ドラマ)

富士ファミリー(2015年・NHK)
演出:吉田照幸
脚本:木皿泉
出演:薬師丸ひろ子、小泉今日子、吉岡秀隆、高橋克実、ミムラ、片桐はいり、中村ゆりか、マキタスポーツ、小倉一郎、仲里依紗

取って付けたようなエピソードがどうもね

b0189364_20180321.jpg 昨年の正月に放送されたドラマだが、今の今まで見ていなかった。つまりハードディスクの肥やし状態。
 木皿泉の脚本で、木皿泉ドラマの常連が登場するドラマ。あまり起伏のない癒やし系のドラマであろうという予測に違わず、木皿泉らしい穏やかなドラマであった。
 いくつかの小エピソードを盛り込んでひとつのストーリーにするのはこの脚本家らしいが、やはりどれも大して面白味を感じない。もちろんこれはデキが悪いわけではないため見る人次第ということだが、僕などはこういったドラマには物足りなさを感じる。お化けが出たり吸血鬼が出たりするのもやり過ぎでくだらないし、それに20年間連続で女性の誕生日にプロポーズする(しかも断り続ける)というのもリアリティがなさすぎ。設定自体が多分に童話的で、これを受け入れられるかどうかも人によるんだろう。「誰でも今のまま生きてて良いんだよ」というのがこのドラマのメッセージで、その辺はまずまずと言えるが、あまりにリアリティを欠いたこの類のドラマを、僕はやはりあまり歓迎したくないと思うのである。
第32回ATP賞テレビグランプリドラマ部門最優秀賞受賞
★★★

追記:
続編の『富士ファミリー2017』も録画しているが、おそらく見ないと思う。

参考:
竹林軒出張所『すいか (1)〜(10)(ドラマ)』
竹林軒出張所『昨夜のカレー.明日のパン (1)〜(2)(ドラマ)』
竹林軒出張所『おやじの背中 (2)〜(6)(ドラマ)』

by chikurinken | 2017-08-06 07:17 | ドラマ