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竹林軒出張所

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タグ:マンガ ( 96 ) タグの人気記事

『殷周伝説 太公望伝奇 (1)〜(22)』(本)

b0189364_21041610.jpg殷周伝説 太公望伝奇 (1)(22)
横山光輝著
希望コミックス

伝説的な軍師、太公望の一代記

 横山光輝の遺作。古代中国の王朝、殷が、紂(ちゅう)王の暴政により、周の武王によって倒される過程を描く。原作は、明代に書かれた『封神演義』と『史記』。『封神演義』自体、妖怪とか仙人とか出てくる話である(らしい)ため、このマンガも歴史物語風でありながら、随所にオカルト的な要素が出てくる。『史記』や『三国志』のような話を期待していると少し当てが外れるかも知れない。
 ストーリーは、元々が伝説的な話であるため少々荒唐無稽だったり、後半はほとんどが戦闘シーンが延々と続き、さながら水島新司の甲子園マンガみたいで少し辟易するが、太公望呂尚が登場するあたりはなかなか見応えがあった。なんせ、長年仙人修行を続けて娑婆に戻ったばかりの呂尚が、嫁さんから仕事をしろなどと迫られて商売を始めたりする(しかも商売はあまりうまく行かない)。もちろんその後、呂尚は周の国で作戦参謀として頭角を現すんだが、その辺の落差は、よくあるエピソードとはいえ、なかなか面白い。
b0189364_21045301.jpg また登場人物がやけに多くなるのも、他の中国文学ものの横山マンガと共通で、まるで『水滸伝』である。おかげで主要登場人物以外ほとんど頭に入ってこなかった。登場人物の描き分けは割合されていたとは思うが、いかんせん、味方も敵も次から次へと登場してくるんで、こちらの頭がついていかない。
 作品のレベルとしては、たとえば途中かなり絵が荒れていたりして(これでも単行本化前にかなり加筆訂正が行われたらしい)、『三国志』『史記 』には遠く及ばない。だがこのマンガの完結後、横山氏が事故死したため、結局これが遺作になった。編集者によると、横山氏はこの後『孫子』のマンガ化に意欲を示していたということで、そういう点でも非常に残念である。横山版の『孫子』にも興味があるところだが、ないものはしようがない。少なくとも殷と周の関係や、太公望呂尚などについてかなり知ることができた点、このマンガも十分評価に値する。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『史記 (横山光輝版)(本)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』
竹林軒出張所『項羽と劉邦 (1)〜(3)(本)』
竹林軒出張所『水滸伝 (1)〜(6)(本)』
竹林軒出張所『平家物語 (上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『元禄御畳奉行の日記 (上)(下) (横山光輝版)(本)』

by chikurinken | 2017-03-24 07:02 |

『ドミトリーともきんす』(本)

ドミトリーともきんす
高野文子著
中央公論新社

こちらが読みたいものと大きく異なる

b0189364_7542432.jpg 高野文子のマンガということになると非常に期待してしまうが、この作品は面白くない。朝永振一郎、湯川秀樹、牧野富太郎、中谷宇吉郎の4人の著作を紹介していくというコンセプトのマンガだが、マンガにする必然性があまりないため、マンガ的な面白さは皆無である。
 「ドミトリーともきんす」という名前の寮にこの4人が若い学生として住んでいて、寮母のとも子、その娘のきん子と関わり合うという設定で工夫は見られるが、なにせ紹介される著作がかれらのエッセイみたいな本であるため、その本の内容自体が面白いと感じない。それが最大の難点である。著者自身がかれらの著作を気に入って、それでマンガ化を試みたということらしいのだが、面白さはまったく伝わってこなかった。
 残念ながら、高野文子らしい繊細な感性もなければ、絵としての面白さもあまりない。個人的に非常に好きな作家だけに、次回作には期待したいと思う。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『火打ち箱(本)』
竹林軒出張所『夏休みが終わります』
by chikurinken | 2017-01-25 07:54 |

『21世紀少年 (上)(下)』(本)

b0189364_17494486.jpg21世紀少年 (上)(下)
浦沢直樹著
小学館

ハリウッド映画のような虚しさ

 『20世紀少年』の続編、つまり後日談。連載時の事情は知らないが、たぶん『20世紀少年』から引き続きそのまま連載が続いた、つまりタイトルの付け替えだけが行われたんじゃないかと思う。『20世紀少年』の時点で一応は決着が付いたが、依然として謎を残したままで、その謎が『21世紀少年』で明かされる。つまり世界大統領の「ともだち」の正体が明かされ、地球の滅亡が回避されるといったような内容。
 個人的には「アホクサ」の状態が続いていたため、内容については正直どうということはないというのが僕の感想。『20世紀少年』の全体像が見えた、謎解きが終わったという単にそれだけの結果で、ハリウッドのアクション映画のように、読み終わった後は虚しさだけが残った。
★★★

参考:
竹林軒出張所『20世紀少年 (1)〜(22)』
竹林軒出張所『手塚×石ノ森 ニッポンマンガ創世記(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2017-01-24 07:08 |

『20世紀少年 (1)〜(22)』(本)

20世紀少年 (1)(22)
浦沢直樹著
小学館

キミは著者の大風呂敷に付き合えるか

b0189364_7372970.jpg 15年以上前のマンガで、当時結構人気があったように記憶している。映画化もされ、テレビCMで放送される映画の予告編が不気味だったことを憶えている。
 内容も、おそらくオウム真理教の一連の事件をモチーフにしたであろうストーリーで、全編に不気味さが漂う。
 70年代に少年少女時代を送った主人公たちが成長し、その同級生の中に数々の怪事件の首謀者がいるということがわかり、かつての仲間たちを集めてその究明に乗り出すというストーリー。やがてそこに不気味な宗教団体の存在が明るみに出て来てしっちゃかめっちゃかになるというふうに話が進んでいく。
 主人公たちは、概ね僕と同世代で、使われる懐かしグッズも概ね知っているし、ノストラダムスの世紀末に関する予言なども身近だったため、このマンガで扱われている世紀末の恐怖感なども身近には感じる。実際オウム真理教も、あの予言からもたらされた不安を心の中のどこかに持っていた信者が中心だったというし、モチーフとしては面白い。ただし話が進んでいくうちに、物語の空間的な広がりがあまりにないことがだんだん見えてきて少々しらけてくる。もちろん、この著者は、画力がある上、見せ方が非常にうまい(先が非常に気になる終わり方をする)ため、どんどん読み進めることはできるんだが、ストーリーがやはり安直であると感じてしまう。大風呂敷を広げてはみたが、どうしようもなくなったという感じもあるし、何より死んだことになっている登場人部が実は生きていてその後大活躍するなどというストーリーもちょっと受け入れがたい。ご都合主義的と言わざるを得ない。
 これくらい画力、表現力がある作家であれば、もう少ししっかりしたストーリーならば良い作品ができるんじゃないかと感じたりする。そういう意味では、この作家にとっては原作ものの方が良いんではないかと感じる。実際この著者の『マスターキートン』なんかよくできていて面白かった。とりあえず『20世紀少年』については、ストーリーが稚拙過ぎるという評価に尽きる。語り口があまりにうまいため22巻までひたすら引っ張られてしまったが、途中からアラが見え始め、最後の方ではアホクサという見方をしていたことをここに明記しておく。
★★★

参考:
竹林軒出張所『21世紀少年 (上)(下)(本)』
竹林軒出張所『手塚×石ノ森 ニッポンマンガ創世記(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2017-01-23 07:38 |

『三国志 (1)〜(30)』(本)

b0189364_8263753.jpg三国志 (1)〜(30)
横山光輝著
潮漫画文庫

マンガ日本遺産

 マンガ版『三国志』。全30巻構成(最初の版は全60巻)の力作で、完成まで15年かかったという。
 この『三国志』は、他の『三国志』同様、中国西晋時代の歴史書『三国志』を基にして明の時代に書かれた『三国志演義』がベースになっている。さらにこのマンガ版については、吉川英治が『三国志演義』を翻案して書いた小説『三国志』が基になっているらしい。
 時代は、後漢末、黄巾の乱で国中が乱れるところから始まる。主人公に据えられるのは蜀の劉備玄徳で、あくまでも蜀側から見た歴史観である。そのため、ライバルである魏の曹操は、漢の帝位をないがしろにした奸物という位置付けである。とは言っても、魏や呉にも随時スポットが当てられ、同時進行的に描かれており、オリジナル『三国志』の記述が活かされている。
 劉備と関羽、張飛の出会い(桃園の誓い)から、内戦、魏蜀呉の戦い、それぞれの建国と天子の即位などが、時代に沿って進行していく。しかしやがて建国時代の英雄たちが世を去り、次の世代に委ねられる。蜀の国は、軍師である諸葛亮孔明が国を動かし、魏の国は司馬懿仲達がこれに対抗する。この2人の戦いは見物で、後半部のハイライトである。だがその後この諸葛も死に、国はさらにその後の世代に委ねられていく。最終的には司馬懿の子孫である司馬炎が魏の国を滅ぼし(帝位を禅譲される)、蜀、呉も滅ぼして統一を果たす。中国の大陸を舞台に、数々の英雄たちが世代を継ぎながら、現れては消えていく。まさに歴史の一断面、人間の栄枯盛衰を目の当たりにする思いである。
b0189364_8292119.jpg 絵は横山光輝らしく丁寧で、表情などもうまく描き分けられているため、登場人物の心情がよく伝わってくる。関羽や張飛が剣の達人でスーパーマンだったり表現は少々オーバーだが、このあたりは『演義』の影響なのかと思う。また登場人物がやたら多く、すべてを憶えられないのも残念な点だが、これも『演義』から引き継いだものなので致し方あるまい。もっとも全部憶えられなくてもあまり不都合はないが(重要人物については絵が印象に残る上何度も出てくるので確実に憶えられる)。
 しかしそれにしても、『三国志演義』をマンガにしてほぼ全体を網羅したというのは大変な労作で、しかも文庫化される折にそれまでに判明した時代考証的事実に従って全面的に描き直したというから、まったくもって頭が下がる思いがする。マンガ表現の限界を超えていると言っても過言ではない。実際30巻ともなると、読むだけでも結構大変である。実は20年近く前(おそらく文庫化された折)に何冊か買って読んだんだが、途中で断念してしまったことがある。今回はそのリベンジという位置付けで、当初は図書館で借りて読んでいたが、途中なかなか借りられない巻があったりしてストレスが溜まるため、結局全巻セットをまとめて古本で買った。それなりに費用はかかるが、この本については手元に持っておくだけの価値があると思う。読み終わったときの満足感も非常に大きく、個人的には「日本遺産」と言ってもいいんではないかと思っている。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『史記 (横山光輝版)(本)』
竹林軒出張所『項羽と劉邦 (1)〜(3)(本)』
竹林軒出張所『殷周伝説 太公望伝奇 (1)〜(22)(本)』
竹林軒出張所『水滸伝 (1)〜(6)(本)』
竹林軒出張所『平家物語 (上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『元禄御畳奉行の日記 (上)(下) (横山光輝版)(本)』

by chikurinken | 2016-07-16 08:30 |

『重版出来』(2)(ドラマ)

重版出来 (2)(2016年・TBS)
演出:土井裕泰
原作:松田奈緒子
脚本:野木亜紀子
出演:黒木華、オダギリジョー、永岡佑、坂口健太郎、松重豊、中江有里、前野朋哉、荒川良々、安田顕

b0189364_856857.jpg少し新しさが見えてきた

 マンガ雑誌編集部を舞台とするマンガが原作のドラマ。
 第1回目はあまりに予定調和でガッカリだったが、第2回目は内幕ものとしてそれなりによくできていた。相変わらず主人公がハイパーな力を発揮するという点は変わりないが、この回は脳天気さが周囲に良い影響を与えるという、比較的リアリティのある展開で違和感がない。
 また今回は出版社の営業部がモチーフになっていたのも割合新鮮である。編集志望で出版社に入ったが営業部に回されやる気のない日々を過ごしている営業マン(坂口健太郎)が話の中心になっているが、これなんかは非常にリアリティのあるモチーフである。性格の違う主人公(黒木華)が(本人は意識せずに)この営業マンに仕事への取り組み方のヒントを与えるというストーリーも自然に流れる。比較的ありふれた展開ではあるがそれはまあご愛敬。
 次回以降は主人公がマンガ家の担当になるということで、再び編集部中心の話になりそうだが、もう少し見ても良いかなと思わせるような展開になってきた。
 生瀬勝久が営業部長を演じていたが、彼には異常な役が多いという印象があり(いまだに「槍魔栗三助」のイメージがあるし)いつもはそっちの方で好演しているわけだが、こういう普通の役も実にうまく演じていたのが僕としては意外だった。オダギリジョーも良い味が出てきた。黒木華は相変わらずオーバーアクトでいただけない。中江有里が書店員役でゲスト出演していたが、ドラマで見るのは随分久しぶりである。書店員(マンガ担当だが)役とはなかなか考えたもんだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『重版出来 (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (1)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (7)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『トキワ荘の青春(映画)』
竹林軒出張所『舟を編む(映画)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
by chikurinken | 2016-04-24 08:56 | ドラマ

『重版出来』(1)(ドラマ)

重版出来 (1)(2016年・TBS)
演出:土井裕泰
原作:松田奈緒子
脚本:野木亜紀子
出演:黒木華、オダギリジョー、松重豊、永岡佑、荒川良々、高田純次、安田顕、滝藤賢一、ムロツヨシ

b0189364_822217.jpgなるようにしかならない
予定調和なドラマ


 マンガ雑誌編集部が舞台のマンガが原作ということで、内幕ものとしてかなり期待して見始めたが、正直あまり見所がなかった。素材が部外者でも想像できるようなものばかりで目新しさがない上、第1回目は、新入社員が難題を解決するという、あり得ない予定調和で終わってしまった。むしろ手も足も出せずにことの成り行きを見守る新人という展開が自然で、そうなるのかと思って少し期待していた僕がバカだった。
 昨今のテレビドラマにそういうまっとうな演出を期待すること自体無理があったと後で気が付いた。だがこんなに単純な予定調和な終わり方で良いのかとも思う。なるようにしかならないドラマなんて面白くもなんともないんじゃないか。
 主人公は、体育大学柔道部出身でしかも元オリンピック強化選手という設定。膝のケガでオリンピックを断念し、新卒で出版社に入り、マンガ編集部に回される。その彼女が、持ち前の明るさとバイタリティで編集部に新風を巻き起こすという(かなり)ありきたりなストーリー。演じるのは黒木華という、あまり華のない女優(当初は能年玲奈や有村架純がやる予定だったとかいう噂もある)。かなりのオーバーアクトが鼻に付く。周りには結構面白い役者を集めているが、演出がありきたりであまりキャスティングの面白さは感じられなかった。今回の新番組も一応チェックして、唯一期待できそうな番組だったんで見てみたが、残念ながら期待外れだった。もう1回くらい見るかも知れないが今のところあまり興味は沸いていない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『重版出来 (2)(ドラマ)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (1)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (7)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『トキワ荘の青春(映画)』
竹林軒出張所『舟を編む(映画)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
by chikurinken | 2016-04-23 08:03 | ドラマ

『人生はあはれなり… 紫式部日記』(本)

b0189364_18591693.jpg人生はあはれなり… 紫式部日記
小迎裕美子著、赤間恵都子監修
KADOKAWA/メディアファクトリー

日記までネタにされてしまった
紫式部……あわれなり


 先日の『本日もいとをかし!! 枕草子』と同じ作者、監修者のマンガで、『紫式部日記』を題材にしたもの。『紫式部日記』のマンガ化は非常に珍しく、おそらくこれが初めてではないかと思う。そこらあたりに価値を置きたいと思う。
 内容は、『本日もいとをかし!! 枕草子』と同じように、絵はあまりうまくもないし美しくもない。ただし『枕草子』ほど下品に描かれてはいない。しかもかなり原作に沿った内容で、『枕草子』の場合よりも好感が持てる。それに繰り返すが、やはり題材が珍しい。そのあたりが大きな評価ポイントになる。宮中での紫式部の立場や人間関係などもしっかり描かれていて、その点もポイントが高い。監修がしっかりしているという印象である。先日の『枕草子』よりも断然こちらの方がお奨めである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『本日もいとをかし!! 枕草子(本)』
竹林軒出張所『日本人なら知っておきたい日本文学(本)』
by chikurinken | 2016-03-09 07:58 |

『本日もいとをかし!! 枕草子』(本)

b0189364_18505559.jpg本日もいとをかし!! 枕草子
小迎裕美子著、赤間恵都子監修
KADOKAWA/メディアファクトリー

にくきもの
下品に描かれた古典マンガ


 古典をマンガ化するという企画は最近多くなっていて、目新しさもなくなってきた。それでも次々出てくるのはある程度売上が見込めるからなのか。古典作品を見直し、(一般的に堅苦しいイメージの)古典に対する親近感を読者に持たせるという点では確かに一定の役割を果たしているが、あまりに多くなってくると今度はその質が問われるようになる。
 今回読んだのは『枕草子』をマンガ化したもので、『枕草子』が書かれたいきさつ(『枕草子』にとってはこれが結構重要な要素だと思うんだが)や人間関係などが割合詳しく紹介されていて好感が持てるが、しかし(カバーを見るとわかるように)いかんせん絵が汚いし、表現もかなり下品である。翻案自体はかなりよくできているんだが、このテのマンガはあまり好感が持てない。確かに『枕草子』を身近にするという役割は果たせるが、これほど下品に貶めるのはやり過ぎのような気がする。まあサクッと読めるんで、とりあえず『枕』を知りたいという人には良いかも知れないが、あまり妙な先入観を植え付けるような描写はいかがなものかとは思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『人生はあはれなり… 紫式部日記(本)』
竹林軒出張所『日本人なら知っておきたい日本文学(本)』
by chikurinken | 2016-03-07 06:50 |

『日本まんが 第壱巻』(本)

日本まんが 第壱巻 「先駆者」たちの挑戦
荒俣宏編著
東海大学出版部

b0189364_7484112.jpg日本マンガ史の一級資料

 マンガ・オタクの荒俣宏が、日本マンガの歴史を辿るため、マンガ作家や収集家などにインタビューしてまとめた本。かなりマニアックで、著者も言っているように一般受けするような類の本ではない(出版できるかどうかが危ぶまれていたらしい)が、資料的な価値は非常に高い。
 本書では、日本にマンガがどのように取り込まれ、それが発展したかについて考察するが、そのためにまずマンガ研究家の清水勲に話を聞く。この本の特徴でもあるが、インタビューの内容をかなり忠実に再現していて、さながら現場に居合わせているかのような臨場感がある。したがって非常に読みやすいし、語られている内容も専門的ではあるがわかりやすい。
 清水氏の話もかなりマニアックだが、日本のマンガが北斎漫画の時代を源流として、その後明治期に(ビゴーで有名な)ポンチ絵や、アメリカで流行していた新聞漫画(コミック・ストリップ)などの影響を受けてきたという流れがわかる。この影響により日本でも部数獲得のために新聞でマンガが発表されるようになった。こういうものが子どもたちに受け、やがて子ども向けの絵物語が売られるようになる。一方で新聞媒体を中心とした時事漫画も勢力を維持するという時代が戦後に至るまで続く。
 戦後になると、手塚治虫が現れ、それまでの子ども向けの絵物語的なマンガを一気に近代化した。そうして手塚の影響を受けたマンガ家たち(トキワ荘グループなど)が次々に登場して、マンガ週刊誌の隆盛と共に現在のような地位を築くことになった。一方時事漫画の方は、「漫画集団」というやや閉鎖的なグループが主導権を取り、こちらも一つの潮流として永らく地位を保っていた。
 歴史的にはこういう流れだが、その中で具体的にどのように時代が動いてきたかは当事者でなければわからない。そこで、当事者たちの話を聞くことで、埋もれてしまっているミクロ的な歴史を掘り起こそうというのが、本書の趣旨である。で、トキワ荘グループからは水野英子、漫画集団からはやなせたかし、トキワ荘グループからはやや離れた位置付けとしてちばてつや、貸本漫画から水木しげるという具合にさまざまなジャンルの第一人者から話を聞くということになるわけだ。
 それぞれの作家たちが非常に興味深い話をしていて、ま、トキワ荘グループや水木センセイは他でもよく語られるんで、それほど目新しさはないわけだが、それでも面白い話はふんだんに出てくる。何よりあの水野英子が、今マンガで食べていくことができないというのが驚きであった。マンガを描いていないわけではなく、長編ものを描き続けているのだが、どこの出版者も出版、掲載してくれないらしい。出版社が過剰に商業主義に走っているため、売れそうにない硬派なものは端から避けられるらしいんだな。それを思うと、日本のマンガの将来も暗いという気がする。
 ちばてつやの若い頃の話も非常に面白い。ちばてつやは、デビュー当時、『ちかいの魔球』(『巨人の星』への影響も大きかったという)という野球マンガを出していたんだが、本人は野球のことをまったく知らなかったらしい。それを考えると、当時のマンガ界というのも実にいい加減な世界だったと言えるが、そういういい加減さを伴っている業界だから面白かったのかもしれない。なんでも杓子定規に経済性ばかり考えるようになるとつまらなくなるのは、今の放送業界や出版業界を見れば一目瞭然。せめて水野英子に発表の場を与えるくらい、融通の利く業界になったらどうだと思う。もっとも、そういう部分はこの本ついても言えるわけで、こういう流通に乗りにくい地味な本がなかなか出版されないというのも問題である。それを考えると東海大学出版部はエラいと言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『白土三平伝 カムイ伝の真実(本)』
竹林軒出張所『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘の時代―寺田ヒロオのまんが道(本)』
竹林軒出張所『まんが トキワ荘物語(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘青春日記―いつも隣に仲間がいた…(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘の青春(映画)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
by chikurinken | 2015-09-14 07:50 |