ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

タグ:ドキュメンタリー ( 502 ) タグの人気記事

『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄』(ドキュメンタリー)

罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄 息子を殺された父
(2009年・東海テレビ)
監督:齊藤潤一
撮影:板谷達男
ナレーション:藤原竜也

死刑制度について考える、その2

b0189364_19202681.jpg 死刑制度について問い直すドキュメンタリー。
 世界的に見ると、独裁国家を除き、死刑制度は明らかに廃止の方向に進んでいるが、今の日本では、八割の人が死刑存続を望んでいるらしい。死刑存続を望んでいるという人々に訊いてみると、多くは犯罪抑止力がある、被害者の心情を汲むべきなどと言い、そういった通説を論拠にしているらしい。しかし実際は、犯罪抑止力には関係ないということが判明している(らしい)し、被害者の心情も本当に「奴らを殺せ!」というものなのか、にわかに判断しがたい。そこらあたりを森達也が『死刑』で追究していたが、このドキュメンタリーの趣旨も同じところにある。副題を見てもわかるように、娘を奪われた母、弟を失った兄、息子を殺された父という3人の被害者家族が、加害者に対してどう考えているかを追っている。
 結論を言えば、1人は加害者の死刑に反対する立場、1人は加害者の極刑を望む立場、1人は極刑を望みはするが死刑に対して少しずつ疑問を感じ始めているという立場で、三者三様である。もちろんどの被害者家族も加害者に対して憎悪を持ち、決して許せないと感じている点は共通しているが、加害者を殺すことが必ずしもベストの解決策ではなく、一生贖罪させる方が良いのではと考え始める人もいるということである。したがって、まったく無関係の他人が、「被害者の心情を考えると断固死刑」などと言うのはまったくのお門違い、お節介、無節操ということになる。このドキュメンタリーに登場する3人の一人、娘を理不尽に殺された女性は、1人殺しただけでは死刑判決が出ないのが通例であることを不服に思い、加害者を死刑にするための署名を全国的に呼びかけた。結果、なんと30万人もの署名が集まったのだった。つまり事件とまったく関係ない30万の人間が、加害者を殺せと要求したわけである。赤の他人が、まったく関係ない人間に対して、たとえそれが凶悪殺人者であろうと、存在が気に食わないから殺せというのはいかがなものかと思うが、これが日本の現状である。おそらくここで署名した人々は、あいつが気に食わない、あの人がかわいそうという程度の気持ちから「殺す」ことを要求しているのだろうが、それならば少なくとも公権力が人を殺すということについて、少し考えをめぐらせるくらいのことはやっても良いんじゃないか。
 このドキュメンタリーの趣旨は、おそらくそういうことなのだろう。その点では『死刑』と非常によく似ている。また、死刑が執行される刑場の映像、刑死者の首の写真なども出てきて、リアルな死刑を少しだけ実感することができ、その点でもあの著作と非常に重なる。さらに元刑務官の坂本敏夫のインタビューまであり、どこまでもあの著書と重なる。ディレクターが森達也かと思うほどである(実際は違う)。
 死刑に賛成か反対か表明する前に、少なくとも死刑がどういうものであるか考えるべきで、そのための資料としても非常に有用な番組である。『死刑弁護士』『光と影 光市母子殺害事件 弁護団の300日』などを製作した東海テレビならではのアプローチで、東海テレビのドキュメンタリーはやはりすごいと感じてしまう。
第18回FNSドキュメンタリー大賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『死刑(本)』
竹林軒出張所『ぼくに死刑と言えるのか(本)』
竹林軒出張所『死刑弁護士(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『光と影 光市母子殺害事件 弁護団の300日(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『裁判長のお弁当(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『検事のふろしき(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『永山則夫 100時間の告白(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-06-23 07:19 | ドキュメンタリー

『光と影 光市母子殺害事件 弁護団の300日』(ドキュメンタリー)

光と影 〜光市母子殺害事件 弁護団の300日〜(2008年・東海テレビ)
監督:齊藤潤一
撮影:岩井彰彦
ナレーション:寺島しのぶ

学校や会社でのいじめに通じる
日本人の集団ヒステリー状態について考える


b0189364_18345595.jpg 光市母子殺害事件について、弁護団の視点から見てみようというドキュメンタリー。
 被害者側が積極的にマスコミに登場して加害者の死刑を訴えたり、被害者を愚弄するかのような加害者の手紙が公開されたりしたこともあり、社会が集団ヒステリー状態になって「加害者を殺せ」の大合唱になった、あの事件である。あげくに(人権感覚が著しく欠如した)ある弁護士が、担当弁護士たちの懲戒請求を要求するようテレビで訴えるなど(しかもこれに応える形の愚かな懲戒請求書が7500通以上届いたらしい)、周囲でもいろいろ「事件」が起こった。おかげで担当弁護士たちは、皆責任感から手弁当で弁護を買って出ていたにもかかわらず、脅迫やバッシングに遭い、結構ひどい目に遭ったらしい。
 一方でその弁護士たちがなぜこの事件にあれほどコミットしたかも、このドキュメンタリーで明らかにされている。このドキュメンタリーは、言ってみれば、あのときの異常な集団ヒステリーを(バッシングされる側という)逆側からの視点で照射するもので、当時こういった類の報道が皆無であったことを考えると、非常に価値の高いドキュメンタリーと言える。オウム騒動を扱った『A』などと同様、こういうマスコミが存在していたことがまだ救いであると言える。
 少年に対して死刑を適用すること、死罪として処理することで真相がわからないままになり加害者による贖罪がおこなわれなくなること、「被害者側の心情」という発想で報復的な罰を施すことなどについても、本来であれば熟考すべきであり、マスコミにはそれをリードする役割があるはずなのに、そういった一切を放棄し言ってみれば集団リンチに加担したこと(毎度のことではあるが)は、日本のマスコミの汚点の1つである。事件が決着した後、そういったことを冷静に振り返るのは非常に大切で、わずかに残されたマスコミの良心がこのドキュメンタリーに結実したと考えることもできる。
 ネット社会になってから、思考を欠いて自分の情緒(それも乏しい経験に基づいた非常に素朴な感情)だけで行動する愚者が増えているのは世界的に共通のようだが、そういう社会であるからこそ、さまざまな視点が呈示されるべきである。そういう意味でも価値の高いドキュメンタリーと言える。死刑弁護人、安田好弘も登場。
日本民間放送連盟賞最優秀賞、芸術祭優秀賞、ギャラクシー賞優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑(本)』
竹林軒出張所『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホットコーヒー裁判の真相(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『裁判長のお弁当(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『検事のふろしき(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『A(映画)』
竹林軒出張所『A2(映画)』
竹林軒出張所『FAKE(映画)』

by chikurinken | 2017-06-22 07:34 | ドキュメンタリー

『検事のふろしき』(ドキュメンタリー)

検事のふろしき(2009年・東海テレビ)
監督:齊藤潤一
撮影:塩屋久夫
ナレーション:宮本信子

他の東海テレビ司法番組と違って
検察官には親近感を持てなかった


b0189364_20533466.jpg 日本の裁判のあり方を問い続ける東海テレビが、今度は検察官の日常のドキュメンタリーを作った。『裁判長のお弁当』の続編みたいな位置付けのドキュメンタリーである。
 普段はその日常を一切カメラの前に曝すことがない検察官だが、おそらく2009年に裁判員制度が導入されることがきっかけで、検察庁もこういった形で広報することになったのではないかと思われる。数人の検事に密着してその仕事にスポットを当てるんだが、なぜかわからないがあまり目新しさを感じない。今まで覗いたことがないようなシーンのはずだが、どれも想定内なのか、その辺りはよくわからない。
 こういう司法ドキュメンタリーで一番物足りないのが、司法関係者の一番の仕事、つまり実際の裁判の状況が紹介されないということで、法廷内の様子がテレビで公開されることがないため仕方がないといえば仕方がないのであるが、このドキュメンタリーではなんと、ある刑事事件の法廷で検事が有罪を主張する(生々しい)シーンが出てきて、実際の検事の仕事を垣間見ることができる。実はこれは、裁判員裁判を前に全国で行われた模擬裁判の一環であり、今回の取材対象である名古屋地裁でも同様の模擬裁判が行われ、その風景が撮影されたものである。この模擬裁判、全国で同じ事案について行われたらしく、模擬裁判員の立ち会いの下、実際の司法関係者が有罪、無罪を争うというものだったらしい。ちなみにこの事案、圧倒的に証拠が不十分で、推定無罪の原則から行くと無罪になるのが当然な案件なんだが、全国の多くの裁判所で有罪判決が出ていたらしい。これはちょっと驚き。
 また、若い女性検察官が、人が殺されたんだから容疑者を有罪にしなければならないと語っていたのも少々驚き。容疑者が実際の犯人かどうかはどちらでも良いと言わんばかりの態度に幼稚さを感じたが、これが検察官の一般的な考え方なんだろうかなどと考えてしまった。もちろん検察官は容疑者を起訴するのが仕事ではあるが、日本の有罪率99.9%という恐るべき数字もあるいはこういった意識から来ているのかと感じた。
 検察官に親近感を持たせるような、一見検察の宣伝であるかのような番組ではあったが、その実、検察官の歪んだ意識みたいなものが見て取れ、そのあたりが実は東海テレビの狙いだったのではないかと、見終わった今になって感じている。検察官おそるべし。東海テレビもおそるべし。
ギャラクシー賞奨励賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『裁判長のお弁当(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『光と影 光市母子殺害事件 弁護団の300日(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-06-21 06:53 | ドキュメンタリー

『裁判長のお弁当』(ドキュメンタリー)

裁判長のお弁当(2007年・東海テレビ)
監督:齊藤潤一
撮影:板谷達男
ナレーション:宮本信子

一裁判官の仕事から
日本の司法制度の構造的な問題点をあぶり出す


b0189364_19243675.jpg 名古屋地裁の裁判長に密着して、世間にあまり知られていない裁判官の仕事や働きぶりなどにスポットを当てるドキュメンタリー。
 これまで裁判官の日常が映像で紹介されるようなことはほとんどなかったらしいが、さすが東海テレビ、裁判所に取材を申し込んでみたということらしい。裁判所側も、開かれた司法を目指していたためかどうかわからないが、条件付きでOKを出したということで、この辺は放送局側にとっても予想外だったようだ。条件というのは、裁判官の家庭での様子は撮影しない(妻子に危害が及ぶ可能性があるため)、パソコンのモニターに映っている判決書の草稿は撮影しない(事前に判決が漏れる可能性があるためだろう)、裁判官同士の合議(判決をどうするかの話し合い)は撮影しないなど。どれもまあ筋が通っているが、合議の様子は見てみたいところではある。
 さて、今回撮影対象になったのは、天野裁判長という人で、何でもくじで外れて選ばれてしまったということらしい。この裁判官、早朝から夜遅くまで勤務していて、そのために昼食用と夕食用の2種類の弁当を持っているのだ。一般的に裁判官は、年間400くらいの事案に対して判決を書かなければならないらしく(しかもその数は増えている)、相当な激務であることは間違いない。
 このドキュメンタリーでは、退官した別の裁判官にも取材していたが、その裁判官は家に帰ってからも数時間仕事をしていたという。何でも過労死した場合に備えて証拠を残すため、仕事時間をメモしていたらしい(幸い過労死せずに退官できた)。背景として、判決の量をこなすのが裁判官の評価につながるという現状があるらしい。
 また一方で裁判官は、人付き合いも非常に限定されたものになる。家族は官舎に住み、官舎の家族とのつきあい以外、近所づきあいはほとんどないという。これはたとえば知人ができた場合、その知人を裁判で裁く可能性が出てくるためで、意図的に接触を避けているということなんだそうだ。このことが、裁判官が世間を知らないというようなことにも繋がり、世間の常識とかけ離れた判決が出される原因にもなっている(らしい)。
 この作品を製作している東海テレビは、これまで冤罪を取り上げたドキュメンタリーを数々作っていることもあり、なぜ間違った判決が出され冤罪が生み出されるのかという問題に真剣に取り組んでいる。そのせいか、このドキュメンタリーでは、問題意識が明確で、その原因まではっきりと指摘している。つまり仕事量に比べ裁判官の数が少なすぎること、(最高裁判所を頂点とするヒエラルキーのせいで)裁判官の独立性が保たれていないこと、そのために斬新な判決を出すことが左遷につながることなどが、諸悪の根源、冤罪がなくならない原因であると指摘しているわけだ。
 1人の平均的な裁判官の仕事姿を追うことによって、日本の司法制度の構造的な問題点を明らかにすることができているわけで、これはもうドキュメンタリーの鑑である。演出は淡々としていて、一見するとほとんど『はたらくおじさん』であるが、その実、非常に強力なメッセージ性を秘めている。大変貴重なドキュメントと言って良い。東海テレビのドキュメンタリーはやはりすごい。
第45回ギャラクシー賞大賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『光と影 光市母子殺害事件 弁護団の300日(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『検事のふろしき(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-06-20 07:24 | ドキュメンタリー

『“青い黄金”を追え!』(ドキュメンタリー)

“青い黄金”を追え!〜一獲千金 荒野のデニムハンター〜(2017年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

いろんな「ハンター」がいるもんですな

b0189364_08012307.jpg アメリカで廃坑や古家で古いジーンズ(ビンテージ・ジーンズ)を探し歩いている人たちがいて、こういう人たちはデニムハンターと呼ばれているらしいが、その中でも専業でこういう仕事をやっている人(ブリット・イートンって人)に密着する番組。他にもビンテージ・ジーンズの取引を専門にやっている人、販売をやっている人(日本人)なども出てきて、ビンテージ・ジーンズ界(?)がよくわかるような構成になっている。
 ビンテージ・ジーンズが高値で取引されるようになったのはこの20年で、この番組によるとその震源は日本らしい。日本でビンテージ・ジーンズがかつてのアメリカを象徴する品物として珍重されるようになったせいで、その価値観がアメリカ、ヨーロッパにまで広がっていき、今のように5万ドルで取引されるようなものまで出てきたという。そのためにビンテージ・ジーンズの特徴を表す用語に「ヒゲ」などの日本語が使われていたりする。
 番組自体は、デニムハンターのデニム探しがメインで、興味深く見ることができる。50分と比較的短い番組枠に凝縮されている印象で、よくできた番組と言える。ただ元々興味のある分野ではないため、それ以上の感慨はなかった。こういうのが好きな人には堪らないだろうが。ま、でも、そういった類のものでも気軽に接して知ることができるのが、テレビ・ドキュメンタリーの醍醐味と言えば言えるわけだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ヒマラヤのゴールドラッシュ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-06-18 08:05 | ドキュメンタリー

『祇園 女たちの物語 お茶屋・8代目女将』(ドキュメンタリー)

祇園 女たちの物語 〜お茶屋・8代目女将〜(2017年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

安易に美化することはできないと思う

b0189364_07403180.jpg 京都、祇園のお茶屋の女将の物語。客に最高のサービスを提供することを旨として、これまで女将業を勤めてきた太田紀美さん。しかしすでに77歳で、体も以前のように無理が利かなくなってきた。娘に女将業を譲ることを考えているが、娘は割合ドライに接客を行うために、一抹の不安を抱えているという状況。
 なんでもこのお茶屋には、女将は結婚してはならない、ただし娘を産んで後を継がせなければならないというような(少し無茶な)家訓があるらしい。太田さんはすでに8代目で、彼女も未婚のまま娘を産んだという。世間の一般的な感覚からは大分ずれているように思えるが、それこそが祇園。江戸時代の花街の伝統がそのまま踏襲されていて、それがお客にとって魅力になっているからにはそれを踏襲するのが理想ということらしい。僕にはアナクロのようにも思えるが、本人さんたちがそれで良ければ、他人があれやこれや言うことではない。
 だが祇園には(今はどうかわからないが)旧態依然とした人権感覚がかなり続いていたようで、被害に遭った少女たちも多いと聞く。少なくともあまり美化することはできないんじゃないかと思う。この番組では、日本の伝統の一面としてお茶屋を描いているが、手放しで称賛することは僕にはできない。やはりどこかで、たとえば中国の纏足みたいな一種異様な感じを受けるのだがどうだろうか。番組は若村麻由美がナレーションを担当していて、全体的にジャパネスクな良い雰囲気を醸し出していた。普通に見ている分には、上記のような反感を抱いたりしないだろうが、どこか腑に落ちない自分がいる。一見美しい面だけを取り上げて美化するだけでは、物事の本質は見えてこない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『外国人が見た禁断の京都(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『舞妓の反乱(本) 再録』
竹林軒出張所『祇園・継承のとき 井上八千代から三千子へ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『祇園囃子(映画)』
竹林軒出張所『祇園の姉妹(映画)』

by chikurinken | 2017-06-17 07:41 | ドキュメンタリー

『バシャール・アサド 独裁と冷血の処世術』(ドキュメンタリー)

バシャール・アサド 〜独裁と冷血の処世術〜
(2016年・仏ILLEGITIME DEFENSE)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

バシャール・アサド概論

b0189364_21160061.jpg シリアに君臨するバシャール・アサド大統領について紹介するドキュメンタリー。
 シリアに長年に渡り独裁者として君臨したハーフィズ・アサドが2000年に死去し、その後継として指名されたのが二男のバシャール・アサド。当初は力量不足という見方もあったが、イギリス留学の経験があるなど国際感覚を持つ新しい指導者として欧米からは歓迎を受けた。
 折しもアラブの春の旋風がシリアにまで及び、反政府勢力が力を付けてくる。しかもアサド家は、シリアでは少数派のシーア派アラウィー派であるため、(バシャール本人の思惑とは異なり)多数派の国民からの信任が得られなかったこともあり、次第に反動化していく。反政府勢力だけでなく国民に対して武力を行使するようになり、あげくに民間人に対して化学兵器を使用するなど大弾圧を繰り返すようになる。このため、シリア国民だけでなく、欧米諸国からも反発を受けることになる。結果的に外国からの支援を受けた反政府勢力が力を伸ばしていき、バシャール政権の命運が尽きるのも時間の問題と考えられるようになった。
 そんなときバシャールは、隣国のイラク、そしてシリア国内でも勢力を伸ばしてきたISを利用し、バシャール政権を、この凶悪テロリスト組織から世界を守るための防波堤と位置付けるような印象操作を国外に対して展開するようになる。これが奏功したのか、バシャール政権はロシアなどの支援を受けることができ、それがために今でも一定の勢力を保つことができている……これが現状である。ただ一説によると、生命線であるISに対して裏で武器供与などの支援すら行っているという話もある。また、現在バシャール政権が支配している領域もシリア国内の半分以下という有様で、今後の展開は予断を許さない。そういった状況を紹介していくドキュメンタリーがこれである。
 一種の報道番組ではあるが、状況を整理して非常にわかりやすく紹介しているため、背景がよく把握できる。特にISとの関係はちょっと予想外で(あるいはすでに報道されていたことなのかも知れないが)、個人的には目を開かれた思いがした。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『イスラーム国の衝撃(本)』
竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『追跡「イスラム国」(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“イスラミック ステート”はなぜ台頭したのか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“アラブの春”が乗っ取られる?(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-06-16 07:15 | ドキュメンタリー

『電流戦争! エジソン VS テスラ』(ドキュメンタリー)

電流戦争! エジソン VS テスラ
(2015年・米Stephen David Entertainment)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

b0189364_08341824.jpg「電流戦争」概論

 19世紀末のアメリカ、電球の発明と電気系統の普及で一躍時代の寵児になったエジソンだが、電気系統については直流電力を使っていたことから送電系統が数百メートルまでしか拡大できず、電気の普及の上でこれが大きな足枷になっていた。
 かねてより交流電力網の可能性を主張していたオーストリア人、テスラは、エジソンの研究所で働きながらも、交流システムの利点をエジソンに説いていたが、結局エジソンとは物別れになる。エジソンの研究所から独立した後は、自ら交流システムを開発し、ウェスティングハウスと協力して、交流システムを実用化させる。エジソン側はあくまでも直流電力にこだわり、交流電力に対して(ウェスティングハウスとテスラに対して)「交流電力は危険」というあからさまなネガティブ・キャンペーンを行っていた(重犯罪者を処刑するための、交流電力を使った電気椅子を提供したりしている)。
 その後、ナイアガラの滝に作られた発電所から電気を送るための送電網に交流電力が使われるようになった(つまりテスラ、ウェスティングハウス勢が受注した)ため、交流電力が爆発的に普及し、現在の交流電力網が定着した。そのいわゆる「電流戦争」について紹介するのが、このドキュメンタリー。番組は、多くの部分がドラマ仕立てになっていて内容が非常にわかりやすい。
 交流電力網の拡大に伴って、テスラはウェスティングハウスからかなりの金額を手にすることになっていたが、契約金額が法外だったことからウェスティングハウス自体の経営が立ちゆかなくなり、結局テスラは利用料収入の大半を放棄することになる。そのため晩年はみじめな生活を送り、貧困のうちに死んでいったという。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『発明はいかに始まるか(本)』
竹林軒出張所『世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史(本)』
竹林軒出張所『人類初飛行の光と影(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『iPadの衝撃 その1』

by chikurinken | 2017-05-21 08:35 | ドキュメンタリー

『人類初飛行の光と影』(ドキュメンタリー)

人類初飛行の光と影 〜ライト兄弟とホワイトヘッド〜
(2016年・豪仏独ARTEMIS INTERNATIONAL他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ライト兄弟はビル・ゲイツなみ

b0189364_20061824.jpg ライト兄弟が人類史上初めて飛行機を飛ばしたとされるのは1903年。しかし実際は、ドイツ生まれのグスターヴ・ホワイトヘッドという人物が、1901年にアメリカで初飛行を経験していた、しかも何度も数百メートル飛んでいたという事実を紹介するドキュメンタリー。
 発明は一人の天才によっていきなり生み出されるものではなく、同時代のいろいろな技術の集積の結果生まれるということは重々知っており、ライト兄弟以前にも大勢の人間が空を飛んだことも知っているが(竹林軒出張所『発明はいかに始まるか(本)』を参照)、しかしこのホワイトヘッドの件、ことはそれほど簡単ではないようだ。このドキュメンタリーによると、すでに実用飛行を成功させたホワイトヘッドの元をライト兄弟が訪れ、投資を匂わせながらその飛行機の秘密を丹念に調べていったという事実があるらしい。つまり今でいう産業スパイということになる。その後ホワイトヘッドは、資産を差し押さえられたりしたため、飛行実験を続けられなくなったが、一方のライト兄弟は1903年に飛行に成功したと世間に発表する。ただしこの時点では、本当に飛行に成功したか疑わしいというのもこのドキュメンタリーの主張である。ライト兄弟はその後、飛行機の技術に対する特許を取ったため、飛行機が作られるたびに特許料を得られるようになって、富を築いていった。一方のホワイトヘッドは不遇の晩年を送り、初飛行の功績もライト兄弟のものとなった。
b0189364_20101329.jpg こういう事実が最近明るみに出たため、ライト兄弟ではなく、ホワイトヘッドが人類史上初めて飛行機を飛ばしたという事実を認める団体も増えているという。だがスミソニアン博物館は、頑なにこの事実を受け入れようとしない。今でも、最初に飛行に成功したとされるライト兄弟の飛行機(ライト・フライヤー号)が展示されているわけだが、実はこれ、スミソニアン博物館とオーヴィル・ライト(ライト兄弟の弟の方)との間に交わされた契約のためだということがここで明かされる。つまりライト兄弟の子孫がその展示に協力する代わりに、ライト兄弟の初飛行という「事実」を絶対に覆さないという契約があり、それが今も効力をもっているらしいのだ。
 どこまでが真実かにわかに判断できないが、こういういきさつを聞くと、ライト兄弟、まるでビル・ゲイツである。エジソンも似たようなものだったという話を聞くが、要するに要領の良いやつが一番得をするという良い証左なのかも知れない。やはり常識だと思っていることは疑ってかかる必要がある……とあらためて思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『発明はいかに始まるか(本)』
竹林軒出張所『世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史(本)』
竹林軒出張所『iPadの衝撃 その1』

by chikurinken | 2017-05-19 07:04 | ドキュメンタリー

『京都人の密かな愉しみ 桜散る』(ドキュメンタリー)

京都人の密かな愉しみ 桜散る(2017年・NHK)
NHK-BSプレミアム ザ・プレミアム

これで密かな愉しみも終わり

b0189364_20435353.jpg 前回の放送のレビューで予想したように(竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 月夜の告白(ドキュメンタリー)』を参照)、『京都人の密かな愉しみ』シリーズは今回の春版で完結ということらしい。メインのストーリーが妙な方向に迷走していたんで、この辺で収束させるのも良かろうと思う。それから予想的中ついでにもう一つ、なんと阿部海太郎が作曲したこのドキュメンタリーの音楽集も発売になった。武田カオリの「京都慕情」もこれに収録されているということで、こちらも予想的中と言える。もちろん大した予想ではないが、文春新書ふうに盛って言うならば「予言していた!」ということになる(竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』を参照)。
 閑話休題。今回の最終回『桜散る』だが、間に挿入されるミニドラマが1本、料理コーナーや桜にまつわるエピソードなど、これまでのシリーズとほぼ同じ形式で展開される。「ごきんとはん」という京言葉のミニ講座なんかも挿入されていてなかなか楽しい。メイン・ドラマの方は、主人公の三八子(常盤貴子)に結婚相手が現れ、ヒースロー教授も無事に我が家に帰還するという展開で、ええとこに落ち着かはったということになる。エミリー(シャーロット・ケイト・フォックス)も落ち着くべきところに落ち着いた。冒頭、エミリーがヒースローに吐いた「よういわんわ!」というセリフがちょっと意外で、なかなか面白かった。なお、フォックス自身、この「よういわんわ」という言葉が好きだそうな(『シャーロット・ケイト・フォックスのスペシャルインタビュー』を参照)。相変わらずこの人の日本語のイントネーションは美しい。ただし京都弁はやっぱり変。
 これまでのシリーズ同様、全体的によくまとまっている番組で、2時間という長い枠でありながらまったく見飽きることがないのは、演出の源孝志の力量だと思うが、しかしドラマについては、ちょっとリアリティを欠いているし、設定も少しばかり陳腐ではないかと感じた。演出は正攻法で破綻はないが、ドラマの中では気になることがいろいろ出てくる。ちっちゃいことを気にしない人であれば問題ない程度ではあるが、源孝志自体がそういう人なんだろうかとも思ってしまう。
b0189364_20435867.jpg まあでも、このシリーズはそれなりに充実していて見所も多かったんで、これで最終回ということになると何やら一抹の寂しさも感じられる。そういうあなたに……というわけではないんだろうが、何と最初のバージョンのDVDも発売になっている。さすがにDVD発売までは予想できなかったんで、こちらは少し驚いた。存外このドキュメンタリー(ドラマ?)、人気があったのかも知れない。個人的には、DVDはともかく、武田カオリの「京都慕情」はぜひ入手したい!ということで、実はすでにAmazonでデジタルミュージックをダウンロード購入しているのだった。ちなみにこの曲、タイトルは「Reflections in a palace lake」となっていて、一見するとわかりにくいが試聴できるので、欲しい人は確認してから買っていただきたい。フルコーラスで2分40秒ある。情緒的な表現がいかにもという感じで京都のイメージに大変合っており、オリジナルより断然こちらの方が良い……と僕は思う。この歌を聴くと、この武田カオリという人、非常に表現力のある歌手だとあらためて感じる。このドラマの一番の魅力はこの歌と言っても過言ではないほどである。この歌については、これからも密かな愉しみになりそう。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 夏(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 冬(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 月夜の告白(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』


by chikurinken | 2017-05-17 06:43 | ドキュメンタリー