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竹林軒出張所

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タグ:ドキュメンタリー ( 508 ) タグの人気記事

『プーチンの道』(ドキュメンタリー)

プーチンの道 〜その権力の秘密に迫る〜(2015年・米WGBH)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

怪物プーチンの来し方、行く末

b0189364_18324779.jpg ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がどのように成り上がって、どのような方法で政治を行っているかを紹介、というか告発するドキュメンタリー。
 KGBの職員だったプーチンは、ソビエト連邦崩壊により職を失うが、サンクトペテルブルクで懇意のサプチャーク市長に拾われ、市長が直接手を下せない汚い仕事を引き受けることで頭角を現していく。その後、サプチャークの中央政界進出に伴いプーチンも中央政界に進出。エリツィン大統領の汚い仕事の処理を引き受けたことから、エリツィンにも可愛がられる。
 エリツィンが大統領を退任するにあたり、大統領時代の自身の犯罪行為を追求しない後継大統領としてプーチンを指名するに及んで、プーチン時代が始まる。その後首相に就任したプーチンは、世間的にも認知度が低かったが、ロシア高層アパート連続爆破事件の際にチェチェンの過激派による仕業と決めつけ、チェチェンに対して攻撃を強行したあたりから保守層を中心に支持を集めるようになる。
 このドキュメンタリーでは、この連続爆破事件はFSB(KGBの後継組織)の自作自演で、プーチンが知名度を上げるために仕掛けたものと断定していたが、真相はわからないにしてもかなり怪しいのは確かである。しかもそれを告発した記者や元職員が不当逮捕されたり謎の死を遂げたりしているという事実もある。少なくともこの連続爆破事件とチェチェン紛争で結果的に一番得をしたのは、その後大統領選挙を勝ち抜いたプーチンであるのは確かである。しかも連続爆破事件についての調査も打ち切りにしているなど、怪しさ満載である。
 このドキュメンタリーで描かれるプーチンは、利己主義的な第三世界型の独裁者で、先進国の指導者では断じてない。もっとも先進国とされている米国でも似たようなサイコパスが大統領になっているわけで、先進国の指導者が民主的な存在かというと必ずしもそうではないところが悩ましいところである。米ロの首脳、それから我が国の首相も含め、互いに親近感を感じているように聞くが、そういうのもなんだかわかるような気がする。
インパクトメディア歴史アーカイブ映像部門インパクト賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『混沌のウクライナ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『暴かれる王国 サウジアラビア(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『こうしてソ連邦は崩壊した(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『スターリンの亡霊(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドーピング ロシア陸上チーム 暴かれた実態(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『バシャール・アサド 独裁と冷血の処世術(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーで見る 独裁者スターリン(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-08-22 08:08 | ドキュメンタリー

『カメラマン・サワダの戦争』(ドキュメンタリー)

カメラマン・サワダの戦争 〜5万カットのネガは何を語るか〜(1982年・NHK)
NHK総合 NHK特集

人生を駆け抜けた一人の男の軌跡

b0189364_21181994.jpg ベトナム戦争の報道写真で有名になったカメラマン、沢田教一のドキュメンタリー。1982年にNHK特集で放送されたもの。
 学生時代、個人的に報道カメラマンに興味を持ったことから、ロバート・キャパや一ノ瀬泰造などの本を読んでおり、沢田教一についても写真集(『泥まみれの死』)や青木富美子が書いた伝記(『ライカでグッドバイ』)を読んでいる。このドキュメンタリーもどこかで見たというよう記憶があるが、1982年の時点ではまだ沢田教一について僕は知らなかったはず。あるいは再放送を見たのかも知れない。
 この番組は、沢田の13回忌に、奥方の沢田サタさんが教一が戦死した場所(カンボジアの田舎)を訪れるというエピソードをメインに据え、沢田教一の生涯と仕事を追っていくというもの。
 沢田教一は、ベトナム時代、戦場で撮った写真をUPIベトナム支局に売りながら自分の写真を発表していた。報道写真は数年したらネガが処分されるらしいが、沢田は処分前に自らが引き取り、それをサタに送っていた。そのため、当時の他の報道写真家と比べ、ネガがかなり残っていて、サタの手元には5万カットあるらしい。そのネガを追うことで、沢田教一の戦場における足跡や、どのようなものに関心を示したか探る。そして彼の最大の関心事が、戦場における家族や子どもだったということで、実際こういった写真が非常に多いらしい。もっとも彼がピューリッツァー賞を受賞した『安全への逃避』にしても、戦争における家族を描いたもので、こういった点が沢田を他の報道カメラマンと違った存在に押し上げる要因にもなっている。
 沢田の生涯や沢田の写真の特徴を非常にうまくまとめたドキュメンタリーで、古典的な秀作として現在に残っている。DVDは出ていないが、今でもNHKアーカイブスであるいは見られるかも知れない(未確認。一部は見られる)。僕が今回見たのは、今年の6月に『あの日 あのとき あの番組〜NHKアーカイブス〜』という番組枠で再放送されたものである。報道写真家の石川文洋がゲストで、しかも沢田サタさんの今の姿まで映像で登場して(現在92歳!)、サービス精神満点の再放送であった。久々に沢田教一に興味が沸いたんで『泥まみれの死』と『ライカでグッドバイ』をもう一度読もうと思ったが書棚にはなかった。どうやら処分したようだ。僕自身、あの当時から随分日和ったものである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ベトナム戦争関連のドキュメンタリー3本』
竹林軒出張所『フルメタル・ジャケット(映画)』
竹林軒出張所『運命の一枚〜“戦場”写真 最大の謎に挑む(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『それでもなぜ戦場に行くのですか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イラク戦争関連の本』
竹林軒出張所『サルバドル 遥かなる日々(映画)』

by chikurinken | 2017-08-20 07:17 | ドキュメンタリー

『中国映画を支えた日本人』(ドキュメンタリー)

中国映画を支えた日本人 〜 “満映”映画人 秘められた戦後(2006年・NHK)
NHK-BS1 BSプレミアム プレミアムカフェ

中国映画のもう一つの歴史

b0189364_21042266.jpg 太平洋戦争中、中国大陸に建国された満州国は、日本の傀儡国家であったことから日本人が大勢入植し、その日本人向けに満州映画協会という映画会社(いわゆる「満映」)まで設立された。この映画会社、満州人の美人が日本人に恋するという、日本人にとって非常に都合の良いストーリーの映画をたくさん作ったが、同時に李香蘭(山口淑子)というスターまで生み出した。「満映=李香蘭」という図式まである。というか、僕自身はそういう図式でしか満映を知らなかったのだ。
 さてその満映だが、大日本帝国の無条件降伏で戦争が終結すると、当時満映に乗り込んでいた大勢の日本人映画人は、一部帰国したが、その後も当地に大勢残っている。満映自体は、その後乗り込んできた中国共産党が接収し、共産党のプロパガンダ映画を作り始めた。その際、残った日本人映画人は、現地の中国人映画人の指導に当たったり、その後の共産党製作の映画のスタッフとして協力したりしたらしい。この中には内田吐夢などもいたそうだ。当時の中国の映画レベルがあまり高くなかったこともあり、こういった日本人技術者は非常に重宝され、その技術が中国内の映画人に引き継がれる役割を果たしたというのがこのドキュメンタリーの趣旨である。
 僕自身は1980年初期から中国映画を目にしていたが、たまに目にしていた文革時代のプロパガンダ映画の質の低さに辟易していた一方で、1987年の『古井戸』は、そういった映画と異なるレベルの高さを感じてかなり驚いた記憶がある。戦後中国に(特に文化大革命による)映画技術の断絶があったと感じていたため、こういった作品が作れるのかと思い意外性を感じたわけである。なんでもこの映画の主役と撮影を担当したチャン・イーモウ(その後偉大な映画人になるが)は、満映で技術を受け継いだ中国人技術者の弟子筋にあたるらしく、満映の技術を引き継いだ一人ということになる。技術には継承が重要であるということを考えると、これは十分納得のいく話ではある。
 僕にとって、中国映画には韓国映画と違って魅力を感じるものが多いのは事実で、戦前に日本にあった映画技術が継承されたことがその要因なのかどうかはわからないが、もし継承されているのであればそれは中国文化にとってラッキーなことであった。結果的には日本人技術者を引き留めた中国共産党の勝利ということになるのか。なお、その後日本人技術者たちは、中国に種をまいた後、無事帰国を果たしたようである。このドキュメンタリーによると、多くの技術者たちが、満映時代、その後の共産中国時代について、映画人としての彼らにとって素晴らしい時代だったと感じている模様である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『証言 日中映画人交流(本)』
竹林軒出張所『中国10億人の日本映画熱愛史(本)』
竹林軒出張所『単騎、千里を走る。(映画)』

by chikurinken | 2017-08-18 07:02 | ドキュメンタリー

『“黒幕”バノンの戦い』(ドキュメンタリー)

“黒幕”バノンの戦い(2017年・米WGBH)
NHK-BS1

トランプ政権のダースベイダーという見方もある

b0189364_18451287.jpg トランプ政権の影の大統領とまで言われている黒幕、スティーブン・バノン。そのバノンの経歴と野望に迫るドキュメンタリー。
 ブライトバートという右翼系新聞の経営、編集に乗り出し、自分の右翼的指向を表現する手段を得たバノンは、やがて政界への野望を持つようになる。自らが直接表に出るのではなく、政界に打って出たいと思っている人間を探し出し、そこに自分の思想や政策を注ぎ込む。まるで寄生生物のようだが、寄生される側として現れたのが、大統領への野心を持った実業家、ドナルド・トランプ。トランプ自体も差別主義者で、バノンと似たような思考の持ち主である。こうして共依存関係ができてくる。
 このドキュメンタリーによると、トランプが訴えるラティーノの排斥や反イスラム政策もバノンがその筋書きを書いたものである。トランプが注目を集め出したのは、バノンのトランプ陣営参加以降で、バノンの力はまったく侮れない。またトランプが女性差別的な言動で窮地に追い込まれたときも、対立候補クリントンに攻撃を集中することで事なきを得たのもバノンの手腕ということである。
 そんなバノンの存在がマスコミに知られるようになったのは最近だが、それ以来マスコミで影の大統領などと囁かれるようになる。トランプがバノンの操り人形であるかのように描くメディアも現れ、それにいらだったトランプがバノンを遠ざけるのではないかという憶測が出て来たこともある。
 だが残念ながら、現時点では相変わらずバノンとトランプは蜜月のよう。この番組を作った人々もバノンがトランプから離れるのを期待しているフシがあるが、先行きがどうなるかはなかなか見えてこない。
 バノン自体については今回初めて知ったんだが、いずれにしてもトランプ政権はそんなに長くは持たないだろうと思う。公約も当初発表した大統領令以外ほとんど手つかずだし、何よりも敵が多すぎる。今後も強硬路線を貫くだろうし、何もできないまま(そもそもスタッフも足りていないというじゃないか)、スキャンダルまみれでいずれ消え去る運命にあるのではないか。憎悪と不正だけで大統領職を得たは良いが、大統領は名誉職ではない。目下の焦点は1期まっとうできるかどうかと、やけを起こして妙なことをしでかさないかの2点。なんと言っても莫大な量の大量破壊兵器を抱えている国だからね。
★★★

参考:
竹林軒出張所『“強欲時代”のスーパースター D・トランプ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“フェイクニュース”を阻止せよ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-07-28 07:11 | ドキュメンタリー

『“強欲時代”のスーパースター D・トランプ』(ドキュメンタリー)

“強欲時代”のスーパースター 〜ドナルド・トランプ 1980s-1990s〜
(1991年・米The Press and the Public Project)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

史上最悪の大統領の行状

b0189364_19085671.jpg アメリカ大統領にまで上り詰めたドナルド・トランプが、若い頃、どのようにしてのし上がったかを描いた1990年のドキュメンタリー。
 80年代は、その毒舌と自信でマスコミから盛んに取り上げられていたが、80年代の終わり頃になると、トランプの法律違反や悪辣な手法が明るみにあり、しかもデリバティブを地で行くような詐欺的な取引まで明らかになっていき、マスコミの扱いも冷ややかになっていく。詐欺的で無理な経営手法のせいで破産も間近……そういった折(1991年)に作られたのがこのドキュメンタリーである。この後いったんは破産寸前まで行ったが、ロスチャイルドなどの支援のおかげで立ち直ったらしい。そのあたりは当然のことながらこのドキュメンタリーでは描かれていない。
 このドキュメンタリーで紹介されるトランプの手法は、裏切り、企業乗っ取り、補助金詐取、詐欺、地上げに伴う住民への脅迫など、経済に関係するありとあらゆるあくどい所業が登場する。マフィアとの取引も噂されているとも。実際このドキュメンタリーは、トランプ側の圧力によりお蔵入りになっていたらしいが、ここに来て日の目を見ることになった。
 ここに登場するドナルド・トランプという人物、とにかく人との繋がりを重視するという感覚に著しく欠けており、言ってみれば、自分さえ良ければ良い、他人は自分に奉仕する存在くらいの考え方を持っているように見受けられる。この男の言動から判断すると間違いなく反社会性人格障害(サイコパス)だろうということがわかる。なぜこのような男を最高権力者に選んだのかわからないが、こちらの国もあちらの国も愚か者を権力者に戴いている国は、国民の知性レベルが窺われるというもの。だが一方でこういった人間に武器を自由にする権限を与えておくことの危険性についてはわきまえておかなければならない。幸い今のところ、大したことを実行できていないが(この男の価値観があまりに周囲と違うため)、いずれは消えるであろうことは目に見えているが、それまでに世界の状況に致命的なダメージを与えないでくれることのみを願う。
 トランプがこれまでどのような悪辣なことを重ねてきたかが紹介されているドキュメンタリーは貴重で、このドキュメンタリー自体が悪意に満ちていると見る向きもあるかも知れないが、この男の所業はそれを上回る邪悪さである。彼の法律違反を集めて法廷に出したら、終身刑になってもおかしくない。だがそういうことになったとしても決して反省するようなことはなく、周りの人間を恨むだけだろう。まさにサイコパスの本領発揮。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“黒幕”バノンの戦い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
竹林軒出張所『良心をもたない人たち(本)』

by chikurinken | 2017-07-26 07:08 | ドキュメンタリー

『“フェイクニュース”を阻止せよ』(ドキュメンタリー)

“フェイクニュース”を阻止せよ(2017年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

ネットが人の思考力を削いでいる現状

b0189364_21443067.jpg 昨年のアメリカ大統領選挙で、ライバル候補者を攻撃する「フェイクニュース」(ほとんどはクリントン候補に対するものだが)が出回り、トランプ候補の躍進に拍車をかけたらしい。実際のところ、インターネットが重要なメディアになっている今、真偽が怪しいニュースは多い。中でも「フェイクニュース」については内容がデタラメで、多くは特定の個人を攻撃するための材料にしか過ぎず、確信犯的で、大衆をある一定の方向に導こうとするデマゴーグ的な意図が見える。こういったもので騙される人がどの程度いるかわからないが……というのは、そもそもこういった類のニュースを信じる人は、こういったニュースを信じたいと思っている人じゃないかと感じているためである。しかしこの種類の人々に攻撃材料を与えるという点では由々しき問題であるため、こういった「情報」が実は嘘であることを示す情報も必要になってくる。
 今年フランスでも大統領選挙があり、極右勢力FN(人民戦線)の党首、ルペンが躍進するなどという現象が起こった。インターネットの普及とともに世界的に右翼が跋扈しているのはご承知の通りで、そのための推進力として、ライバルを攻撃するフェイクニュースの類が活用されるという状況が起こっているのだ。右翼連中は力を得るためには手段を選ばないというのか、あることないこと垂れ流し続ける。これも世界共通の現象である。
 さて、ここからが本題だが、フランスの大手新聞社は、フェイクニュースが嘘であることを積極的に暴いて、こういった攻撃が大統領選挙の結果に影響しないよう尽力しているらしい。で、このドキュメンタリーに登場する新聞社リベラシオンは、大統領選挙を前に、フェイクを暴き、その出所を突き止めるという業務を行っていたが、最終的にその出所がアメリカであることを知る。しかもそれが、先のアメリカ大統領選挙でも大量のフェイクニュースを流したトランプに近い人物であることが判明。アメリカ大統領選挙のロシアのケースと同じように、特定の国の選挙に他国が影響を及ぼせる状況が実現しているのがネット社会の現状ということである。こうして民主主義を守ることが難しくなっていることが明らかにされる……そういうドキュメンタリーである。
 なお内容は、『クローズアップ現代』で以前放送されたものと似ており、おそらく使い回しではないかと思う。使い回しだと引け目があるかも知れないが、こういった「啓蒙」番組は、地上波でも何度か放送したらどうだと感じる。大衆に周知させる価値が十分にある情報だと思う。また、世界的な右傾化の状況というのも、一度まとめてドキュメンタリーにしてほしいとも考えている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“強欲時代”のスーパースター D・トランプ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“黒幕”バノンの戦い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧(本)』

by chikurinken | 2017-07-24 06:44 | ドキュメンタリー

『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄』(ドキュメンタリー)

罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄 息子を殺された父
(2009年・東海テレビ)
監督:齊藤潤一
撮影:板谷達男
ナレーション:藤原竜也

死刑制度について考える、その2

b0189364_19202681.jpg 死刑制度について問い直すドキュメンタリー。
 世界的に見ると、独裁国家を除き、死刑制度は明らかに廃止の方向に進んでいるが、今の日本では、八割の人が死刑存続を望んでいるらしい。死刑存続を望んでいるという人々に訊いてみると、多くは犯罪抑止力がある、被害者の心情を汲むべきなどと言い、そういった通説を論拠にしているらしい。しかし実際は、犯罪抑止力には関係ないということが判明している(らしい)し、被害者の心情も本当に「奴らを殺せ!」というものなのか、にわかに判断しがたい。そこらあたりを森達也が『死刑』で追究していたが、このドキュメンタリーの趣旨も同じところにある。副題を見てもわかるように、娘を奪われた母、弟を失った兄、息子を殺された父という3人の被害者家族が、加害者に対してどう考えているかを追っている。
 結論を言えば、1人は加害者の死刑に反対する立場、1人は加害者の極刑を望む立場、1人は極刑を望みはするが死刑に対して少しずつ疑問を感じ始めているという立場で、三者三様である。もちろんどの被害者家族も加害者に対して憎悪を持ち、決して許せないと感じている点は共通しているが、加害者を殺すことが必ずしもベストの解決策ではなく、一生贖罪させる方が良いのではと考え始める人もいるということである。したがって、まったく無関係の他人が、「被害者の心情を考えると断固死刑」などと言うのはまったくのお門違い、お節介、無節操ということになる。このドキュメンタリーに登場する3人の一人、娘を理不尽に殺された女性は、1人殺しただけでは死刑判決が出ないのが通例であることを不服に思い、加害者を死刑にするための署名を全国的に呼びかけた。結果、なんと30万人もの署名が集まったのだった。つまり事件とまったく関係ない30万の人間が、加害者を殺せと要求したわけである。赤の他人が、まったく関係ない人間に対して、たとえそれが凶悪殺人者であろうと、存在が気に食わないから殺せというのはいかがなものかと思うが、これが日本の現状である。おそらくここで署名した人々は、あいつが気に食わない、あの人がかわいそうという程度の気持ちから「殺す」ことを要求しているのだろうが、それならば少なくとも公権力が人を殺すということについて、少し考えをめぐらせるくらいのことはやっても良いんじゃないか。
 このドキュメンタリーの趣旨は、おそらくそういうことなのだろう。その点では『死刑』と非常によく似ている。また、死刑が執行される刑場の映像、刑死者の首の写真なども出てきて、リアルな死刑を少しだけ実感することができ、その点でもあの著作と非常に重なる。さらに元刑務官の坂本敏夫のインタビューまであり、どこまでもあの著書と重なる。ディレクターが森達也かと思うほどである(実際は違う)。
 死刑に賛成か反対か表明する前に、少なくとも死刑がどういうものであるか考えるべきで、そのための資料としても非常に有用な番組である。『死刑弁護士』『光と影 光市母子殺害事件 弁護団の300日』などを製作した東海テレビならではのアプローチで、東海テレビのドキュメンタリーはやはりすごいと感じてしまう。
第18回FNSドキュメンタリー大賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『死刑(本)』
竹林軒出張所『ぼくに死刑と言えるのか(本)』
竹林軒出張所『死刑弁護士(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『光と影 光市母子殺害事件 弁護団の300日(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『裁判長のお弁当(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『検事のふろしき(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『永山則夫 100時間の告白(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-06-23 07:19 | ドキュメンタリー

『光と影 光市母子殺害事件 弁護団の300日』(ドキュメンタリー)

光と影 〜光市母子殺害事件 弁護団の300日〜(2008年・東海テレビ)
監督:齊藤潤一
撮影:岩井彰彦
ナレーション:寺島しのぶ

学校や会社でのいじめに通じる
日本人の集団ヒステリー状態について考える


b0189364_18345595.jpg 光市母子殺害事件について、弁護団の視点から見てみようというドキュメンタリー。
 被害者側が積極的にマスコミに登場して加害者の死刑を訴えたり、被害者を愚弄するかのような加害者の手紙が公開されたりしたこともあり、社会が集団ヒステリー状態になって「加害者を殺せ」の大合唱になった、あの事件である。あげくに(人権感覚が著しく欠如した)ある弁護士が、担当弁護士たちの懲戒請求を要求するようテレビで訴えるなど(しかもこれに応える形の愚かな懲戒請求書が7500通以上届いたらしい)、周囲でもいろいろ「事件」が起こった。おかげで担当弁護士たちは、皆責任感から手弁当で弁護を買って出ていたにもかかわらず、脅迫やバッシングに遭い、結構ひどい目に遭ったらしい。
 一方でその弁護士たちがなぜこの事件にあれほどコミットしたかも、このドキュメンタリーで明らかにされている。このドキュメンタリーは、言ってみれば、あのときの異常な集団ヒステリーを(バッシングされる側という)逆側からの視点で照射するもので、当時こういった類の報道が皆無であったことを考えると、非常に価値の高いドキュメンタリーと言える。オウム騒動を扱った『A』などと同様、こういうマスコミが存在していたことがまだ救いである。
 少年に対して死刑を適用すること、死罪として処理することで真相がわからないままになり加害者による贖罪がおこなわれなくなること、「被害者側の心情」という発想で報復的な罰を施すことなどについても、本来であれば熟考すべきであり、マスコミにはそれをリードする役割があるはずなのに、そういった一切を放棄し言ってみれば集団リンチに加担したこと(毎度のことではあるが)は、日本のマスコミの汚点の1つである。事件が決着した後、そういったことを冷静に振り返るのは非常に大切で、わずかに残されたマスコミの良心がこのドキュメンタリーに結実したと考えることもできる。
 ネット社会になってから、思考を欠いて自分の情緒(それも乏しい経験に基づいた非常に素朴な感情)だけで行動する愚者が増えているのは世界的に共通のようだが、そのような社会であるからこそ、さまざまな視点が呈示されるべきである。そういう意味でも価値の高いドキュメンタリーである。死刑弁護人、安田好弘も登場。
日本民間放送連盟賞最優秀賞、芸術祭優秀賞、ギャラクシー賞優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑(本)』
竹林軒出張所『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホットコーヒー裁判の真相(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『裁判長のお弁当(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『検事のふろしき(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『A(映画)』
竹林軒出張所『A2(映画)』
竹林軒出張所『FAKE(映画)』

by chikurinken | 2017-06-22 07:34 | ドキュメンタリー

『検事のふろしき』(ドキュメンタリー)

検事のふろしき(2009年・東海テレビ)
監督:齊藤潤一
撮影:塩屋久夫
ナレーション:宮本信子

他の東海テレビ司法番組と違って
検察官には親近感を持てなかった


b0189364_20533466.jpg 日本の裁判のあり方を問い続ける東海テレビが、今度は検察官の日常のドキュメンタリーを作った。『裁判長のお弁当』の続編みたいな位置付けのドキュメンタリーである。
 普段はその日常を一切カメラの前に曝すことがない検察官だが、おそらく2009年に裁判員制度が導入されることがきっかけで、検察庁もこういった形で広報することになったのではないかと思われる。数人の検事に密着してその仕事にスポットを当てるんだが、なぜかわからないがあまり目新しさを感じない。今まで覗いたことがないようなシーンのはずだが、どれも想定内なのか、その辺りはよくわからない。
 こういう司法ドキュメンタリーで一番物足りないのが、司法関係者の一番の仕事、つまり実際の裁判の状況が紹介されないということで、法廷内の様子がテレビで公開されることがないため仕方がないといえば仕方がないのであるが、このドキュメンタリーではなんと、ある刑事事件の法廷で検事が有罪を主張する(生々しい)シーンが出てきて、実際の検事の仕事を垣間見ることができる。実はこれは、裁判員裁判を前に全国で行われた模擬裁判の一環であり、今回の取材対象である名古屋地裁でも同様の模擬裁判が行われ、その風景が撮影されたものである。この模擬裁判、全国で同じ事案について行われたらしく、模擬裁判員の立ち会いの下、実際の司法関係者が有罪、無罪を争うというものだったらしい。ちなみにこの事案、圧倒的に証拠が不十分で、推定無罪の原則から行くと無罪になるのが当然な案件なんだが、全国の多くの裁判所で有罪判決が出ていたらしい。これはちょっと驚き。
 また、若い女性検察官が、人が殺されたんだから容疑者を有罪にしなければならないと語っていたのも少々驚き。容疑者が実際の犯人かどうかはどちらでも良いと言わんばかりの態度に幼稚さを感じたが、これが検察官の一般的な考え方なんだろうかなどと考えてしまった。もちろん検察官は容疑者を起訴するのが仕事ではあるが、日本の有罪率99.9%という恐るべき数字もあるいはこういった意識から来ているのかと感じた。
 検察官に親近感を持たせるような、一見検察の宣伝であるかのような番組ではあったが、その実、検察官の歪んだ意識みたいなものが見て取れ、そのあたりが実は東海テレビの狙いだったのではないかと、見終わった今になって感じている。検察官おそるべし。東海テレビもおそるべし。
ギャラクシー賞奨励賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『裁判長のお弁当(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『光と影 光市母子殺害事件 弁護団の300日(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-06-21 06:53 | ドキュメンタリー

『裁判長のお弁当』(ドキュメンタリー)

裁判長のお弁当(2007年・東海テレビ)
監督:齊藤潤一
撮影:板谷達男
ナレーション:宮本信子

一裁判官の仕事から
日本の司法制度の構造的な問題点をあぶり出す


b0189364_19243675.jpg 名古屋地裁の裁判長に密着して、世間にあまり知られていない裁判官の仕事や働きぶりなどにスポットを当てるドキュメンタリー。
 これまで裁判官の日常が映像で紹介されるようなことはほとんどなかったらしいが、さすが東海テレビ、裁判所に取材を申し込んでみたということらしい。裁判所側も、開かれた司法を目指していたためかどうかわからないが、条件付きでOKを出したということで、この辺は放送局側にとっても予想外だったようだ。条件というのは、裁判官の家庭での様子は撮影しない(妻子に危害が及ぶ可能性があるため)、パソコンのモニターに映っている判決書の草稿は撮影しない(事前に判決が漏れる可能性があるためだろう)、裁判官同士の合議(判決をどうするかの話し合い)は撮影しないなど。どれもまあ筋が通っているが、合議の様子は見てみたいところではある。
 さて、今回撮影対象になったのは、天野裁判長という人で、何でもくじで外れて選ばれてしまったということらしい。この裁判官、早朝から夜遅くまで勤務していて、そのために昼食用と夕食用の2種類の弁当を持っているのだ。一般的に裁判官は、年間400くらいの事案に対して判決を書かなければならないらしく(しかもその数は増えている)、相当な激務であることは間違いない。
 このドキュメンタリーでは、退官した別の裁判官にも取材していたが、その裁判官は家に帰ってからも数時間仕事をしていたという。何でも過労死した場合に備えて証拠を残すため、仕事時間をメモしていたらしい(幸い過労死せずに退官できた)。背景として、判決の量をこなすのが裁判官の評価につながるという現状があるらしい。
 また一方で裁判官は、人付き合いも非常に限定されたものになる。家族は官舎に住み、官舎の家族とのつきあい以外、近所づきあいはほとんどないという。これはたとえば知人ができた場合、その知人を裁判で裁く可能性が出てくるためで、意図的に接触を避けているということなんだそうだ。このことが、裁判官が世間を知らないというようなことにも繋がり、世間の常識とかけ離れた判決が出される原因にもなっている(らしい)。
 この作品を製作している東海テレビは、これまで冤罪を取り上げたドキュメンタリーを数々作っていることもあり、なぜ間違った判決が出され冤罪が生み出されるのかという問題に真剣に取り組んでいる。そのせいか、このドキュメンタリーでは、問題意識が明確で、その原因まではっきりと指摘している。つまり仕事量に比べ裁判官の数が少なすぎること、(最高裁判所を頂点とするヒエラルキーのせいで)裁判官の独立性が保たれていないこと、そのために斬新な判決を出すことが左遷につながることなどが、諸悪の根源、冤罪がなくならない原因であると指摘しているわけだ。
 1人の平均的な裁判官の仕事姿を追うことによって、日本の司法制度の構造的な問題点を明らかにすることができているわけで、これはもうドキュメンタリーの鑑である。演出は淡々としていて、一見するとほとんど『はたらくおじさん』であるが、その実、非常に強力なメッセージ性を秘めている。大変貴重なドキュメントと言って良い。東海テレビのドキュメンタリーはやはりすごい。
第45回ギャラクシー賞大賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『光と影 光市母子殺害事件 弁護団の300日(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『検事のふろしき(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-06-20 07:24 | ドキュメンタリー