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竹林軒出張所

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『若い人』(映画)

b0189364_8283761.jpg若い人(1952年・東宝)
監督:市川崑
原作:石坂洋次郎
脚本:内村直也、和田夏十、市川崑
出演:池部良、久慈あさみ、島崎雪子、杉村春子、小沢栄、伊藤雄之助

ヘンな感じばかりが残る

 ミッション系女子高校を舞台にした、若い男性教師と女子生徒、そして女性教師の関係を描いた映画。原作は石坂洋次郎の同名小説。
 今見ると、女子生徒や女性教師が男性教師のアパートに遊びに行ったり、男性教師が泣きじゃくる女生徒を(愛情からではなく)抱くという、(今なら)ちょっと違和感を感じるシーンが目白押しだが、それ以外にも、江波恵子という女子生徒(島崎雪子)の行動と、それに対応する男性教師、間崎慎太郎(池部良)の心情というのがよくくみ取れない。この女子生徒、家庭に問題をかかえていて問題行動が多く、ストーカーまがいの行動で間崎に迫っていくが、間崎の方もだんだん好意を持つようになっていく。まずこのあたりからしてよく理解できない。おかしな行動の生徒に感情移入して恋愛感情を持ってしまう教師がいても不思議ではないんだが、ここで言っているのはそういうレベルの話ではなく、普通の人間がおかしな(というかやや狂気がかった)行動の人間に惹かれるようなことは普通の感覚からいけばないんじゃないかということである。石坂洋次郎の原作自体にそういう部分があるのか、それともこの映画のせいなのかはよく分からないが、とにかく江波恵子の行動と間崎の心情がまったく噛み合っていないような気がして、まったくドラマに入っていけなかった。それからこのストーリー自体(女性教師を含めた)三角関係がモチーフなんだろうが、そのあたりもなんだかしっくりこない。ともかくヘンな感じばかりが残るのである。
 そういうわけだから、方々がずれまくっているような印象があって、全体としての整合性がまったく感じられないというのがこの映画の印象である。小説を読むのも面倒だから映画を見て原作を読んだつもりになろうと思っていたが、どうも原作をそのまま踏襲したようなものではなさそうである。石坂洋次郎の小説は、もう少し明朗で単純なんではないかと感じていたが、結局は本当のところが分からないままである。少なくともこんな奇妙な噛み合わない世界ではないような気がする。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『原作と映画の間』
竹林軒出張所『細雪(映画)』
竹林軒出張所『炎上(映画)』
竹林軒出張所『おとうと(映画)』
竹林軒出張所『鍵(映画)』
竹林軒出張所『野火(映画)』
竹林軒出張所『太平洋ひとりぼっち(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』
竹林軒出張所『夏目漱石のこころ(映画)』
竹林軒出張所『吾輩は猫である(映画)』
# by chikurinken | 2017-01-16 08:29 | 映画

『ロボットがもたらす“仕事”の未来』(ドキュメンタリー)

ロボットがもたらす“仕事”の未来(2016年・スウェーデンUR)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ロボットを取っかかりにして労働問題について考える

b0189364_9403074.jpg ロボットの導入によって、これまで人間が行っていた仕事がなくなっている現状を報告するドキュメンタリー。
 200年前の英国で、労働者たちが、自らの職を奪うものとして機械の打ち壊し運動を行っている(ラッダイト運動)が、ロボットの汎用性は、当時の機械と比べものにならないくらいで、相当量の労働がロボットに置き換えられてしまうと考えられる上、実際この状況は現時点でもかなり進んでいる。ただしそうなると、職にあぶれる人々の規模がかつての状況と違うくらい大きいため、引き起こされる混乱は桁外れになるのではないかという意見がある(この番組で紹介されている)。
 一方で、ロボットの導入により、人間が従来のような単調で面倒な仕事から解放されるというメリットを指摘する識者もいる。さらに、機械やロボットの出現が新しい雇用を生み出すような現状も実際にはある。
 だがしかしやはり短いスパンでは、多くの人々にとって、ロボットは失業をもたらす元凶になる。もちろん、失業してから自ら事業を始め、自ら雇用を生み出すような人々もいる(実際アメリカでは個人事業者の割合が増えているという現実がある)にはいるが、それでも、人々に行き渡るだけの仕事を社会が用意できていないのが現状である。
 そもそもロボットや機械には、それを導入することで、社会的な生産コストを節約できるというメリットがあるはずだ。問題はその節約分のコストを一部の人(ロボットを直接活用するいわば富裕層)が独り占めしている現状であり、そのことが失業問題という形で顕在化しているのが現在の労働問題の実像である。そこで、それをすべての人に均等に割り振るようなシステムが必要ではないかという考え方になる。たとえばベーシック・インカム(すべての市民に一定の給付金を提供するシステム)を導入して、仕事をしなくても生きていけるようなしくみを作るという考え方もある。だがこれにも大きな反対勢力があり、労働問題はなかなか一筋縄にはいかないというのが現状である。
 このドキュメンタリーでは、こういったことについてさまざまな関係者がさまざまな方向から語っていき、それを映像を交えて紹介していく。同時にロボットが現在どの程度の仕事までこなせるようになっているか、近い将来どのような仕事を担えるかまで紹介されていて、大変興味深い内容のドキュメンタリーになっている。ロボットを取っかかりにして労働問題を掘り下げていくというアプローチで、さまざまな視点を垂れ流しのように紹介していくという点で、さながらブレインストーミングのようでもある。労働問題について考えるための材料がいろいろと提供されているため、問題についてじっくり検討していくための恰好の素材になっている。何かを主張するドキュメンタリーも結構だが、こういったドキュメンタリーも味があって良い。それに何より大いに役に立つ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ロボット革命 人間を超えられるか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『癒やしロボットで認知症治療(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『貧者の兵器とロボット兵器(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『運命の一手 渡辺竜王 VS 人工知能・ボナンザ(ドキュメンタリー)』
# by chikurinken | 2017-01-14 09:41 | ドキュメンタリー

『文化大革命50年 知られざる“負の連鎖”』(ドキュメンタリー)

文化大革命50年 知られざる“負の連鎖” 〜語り始めた在米中国人
(2016年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

止まっていた時計が少しだけ動いた……かな

b0189364_944066.jpg 1966年から約10年間、中国経済を停滞させ、しかも大勢の犠牲者を出したプロレタリア文化大革命であるが、75年に収束した後、中国政府が幕引きを図ったため、詳細は解明されないままで、しかも中国の若者たちに伝えられることさえない。事実上無かったことにされている。
 しかし歴史というものはそこから何かを学ぶためにある。無いことにすれば、何も教訓を得られないばかりか、犠牲者も浮かばれないというものである。現在の中国では、政府の力が絶対であるため、今後も文化大革命(文革)の詳細が明らかになることはなかなか望めないが、アメリカ在住の中国人には、文革の詳細を次世代に伝える必要があると考えている人もいる。彼らは紅衛兵や造反派としての自らの経験を語り始めており、それに伴って文革の経緯も明らかになり始めている。このドキュメンタリーは、彼らの話を聞くことで、文革の経緯を詳らかにしようという試みで、これまであまり語られなかった文革の経緯が少しだけ明らかになっている。
 1966年に始まった文革だが、当初は中高生を中心とした紅衛兵が主導していた。彼らは毛沢東の託宣を受け、若者らしい狭量の正義感で、文化財を含む既製の価値をことごとく破壊していった。革命の英雄であった毛沢東が彼らの正当性を裏付けたため、運動は全国に広がり、旧資本家や地主、かつての国民党のシンパなどの人々がつるし上げられ、しかも彼らの所有財産が強奪され中には殺された者も出てきた。学校の現場では、こういった人々の子弟がつるし上げの対象になり、言ってみれば暴力によるいじめが公然と行われるようになった。
 しかしこの状況は翌年、毛沢東が彼らの行き過ぎを非難したことが契機となって沈静化するが、今度はかつてつるし上げられていた人々が名誉回復とともに既製の指導者に対する反対運動を展開するようになる。彼らは自らを造反派と読んだが、その後はこの造反派が文革運動の中心になって、会社の上司や行政の責任者に敵対し、彼らを排除することになった。結果的に政治面、行政面、経済面で指導者がいなくなるという事態が起こり、その地位をめぐって今度は造反派同士が内部対立を起こし、被害者が大量に出る結果になった。一種の内戦状態である。
 こういった行き過ぎた状況に対処するため、毛沢東は各地に、行政関係者、軍関係者、一部の造反派で構成される革命委員会を設け、この革命委員会が治安の回復に当たることになるが、その過程で造反派のかなり多く(この番組で示された統計によると1カ月に数万人単位)が犠牲になったという。
 このドキュメンタリーではこういった経緯が紹介され、さまざまな文革経験者による経験(肉親が犠牲になった人もいる)も披露される。文革の霧が今後少しずつ晴れていくかどうか分からないが、一歩踏み出したと言えるのではないか、そう思えるドキュメンタリーである。これから経験者が少しずつ減っていくことが明らかなだけに、早い段階で解明してほしい問題である。本当は中国政府がやるべきことなんだろうけどね。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『シリーズ毛沢東(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『家族と側近が語る周恩来 (1)(2)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『家族と側近が語る周恩来 (3)(4)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『毛沢東の遺産 激論・二極化する中国(ドキュメンタリー)』
# by chikurinken | 2017-01-13 09:44 | ドキュメンタリー

『戦艦武蔵の最期』(ドキュメンタリー)

戦艦武蔵の最期 〜映像解析 知られざる“真実”〜(2016年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

フネのムサシは沈んだのさ

b0189364_2050760.jpg フィリピン、レイテ島沖の海底に沈んでいる戦艦武蔵。太平洋戦争のレイテ島沖海戦で、米航空機の集中砲火を浴びて沈没した大日本帝国海軍が誇った大戦艦である。当時主力艦は空母の時代に移っていたにもかかわらず、大日本帝国の主力は依然として大和や武蔵に代表される大戦艦であり、どちらも最後はなすすべなく華々しく散っていったのは歴史が語る通りである。
 さてその武蔵だが、先年、アメリカのプロジェクトチームが、海底に眠る武蔵の映像を捉えることに成功した。マイクロソフトの創立メンバーの1人であるポール・アレンが中心となったチームなんだが、NHKがそこから未公開の映像を(いくらはたいたか知らんが)入手して、それを元に武蔵がどのような過程で沈んでいったか明らかにしようというのがこのドキュメンタリーである。
 武蔵は、中心部が分厚い鉄の装甲で覆われており、製作者側はどのような攻撃に遭っても絶対に沈まないとうそぶいていたらしい。しかし実際は、航空機の魚雷攻撃に遭って、装甲を留めていたリベットが破損したせいで艦内に水が入り沈没することになった。そういう過程が、今回の調査チーム(ちょっと怪しげなチームだが)の推論によって見えてきた。また、艦橋が爆発した形跡もあり、航空機からの攻撃で艦橋が爆発したということも判明した。これは数々の元乗員の証言とも一致する。さらに、砲塔が丸ごと吹き飛んでいることが、残骸の映像からわかるため、沈没後に砲塔下にある大量の弾丸(実践ではほとんど使うことがなかった)が大爆発を起こし、それで船体がバラバラになったのではないかという結論を調査チームは出していた。
 こういうさまざまな仮説を基にして、武蔵が攻撃に遭い沈むまでの様子がCGで再現されるが、これがこの番組のハイライトである。もっともこのCG映像には犠牲になった乗員らはほとんど描かれていないため、リアルさも中位ではある。まあその点は致し方ない。だが乗員の被害については、元乗員のインタビューによって明らかにされ、被害のひどさはそこから窺われるようになっている。甲板上に犠牲者が山のようになっていたという体験談は非常にリアルで、CGを補うに十分な証言である。攻撃に参加したアメリカ人の証言もあり、武蔵の最期を多角的に知ることができる。総じてNHKの取材力が光るドキュメンタリーに仕上がっている。ただし武蔵の最期を知ったからと言って、正直僕にとって何かが変わるなどというものではない。このテーマ自体、(おそらく)高い費用を使ってドキュメンタリーに仕上げる必要があったのか、少々疑問に感じる部分もある。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『野火(映画)』
竹林軒出張所『俘虜記(本)』
# by chikurinken | 2017-01-11 07:49 | ドキュメンタリー

『シリーズ ウォルト・ディズニー』(2)〜(4)(ドキュメンタリー)

シリーズ ウォルト・ディズニー
(2015年・米SARAH COLT PRODUCTIONS/WGBH)
第2章 アニメーションのパイオニア
第3章 戦争と混乱の時代
第4章 “夢の国” ディズニーランド

NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ディズニーはいかにして暴君に成り下がったか

b0189364_2191961.jpg ウォルト・ディズニーの生涯を描くドキュメンタリーシリーズの第2回から第4回。
 第2回は『白雪姫』の成功から『ピノキオ』や『ファンタジア』の(興行的)失敗まで。第3回は社員のストライキにショックを受け、反動化し、赤狩りの時代に同業者を共産主義者として売ったあたりの話。第4回は、アニメ製作から離れて趣味の汽車模型に熱中し、それがディズニーランドとして結実するまでの話である。
 番組では、ウォルト・ディズニーがABCやNBCで作っていた番組も紹介していたが、テレビ番組を非常にうまく活用し、自社の利益に結びつけるあたり、メディアミックスの走りと言えるかも知れない。実際ディズニーランドの開園の際は、ウォルトが担当しているテレビ番組で毎回のように宣伝を繰り返し、人を大勢集めることに成功している。ただこういう話を聞くと、ウォルトは映画製作者というより実業家(あるいはペテン師)という色あいが強いように思う。実際現在のディズニーの作品は多くが取るに足りないものだし、話題にはなるが、見るだけの価値があるものはそれほどないように思う。今のディズニー社やディズニー作品自体が、ウォルト・ディズニーという人間を色濃く反映しているのかも知れない。
 ドキュメンタリー番組としては、非常にうまくまとめられていて、ウォルト・ディズニーのあれやこれやがよくわかる番組だった。ディズニーランドの登場のいきさつなども非常に興味深かった。ディズニーランドを含め、ディズニー作品が、アメリカの美化された理想主義を体現しているというコメントにも共感。ディズニーをうまくあぶり出すことに成功したドキュメンタリーと言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『シリーズ ウォルト・ディズニー (1)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ピノキオ(映画)』
竹林軒出張所『狼王ロボ(映画)』
竹林軒出張所『フラバー うっかり博士の大発明(映画)』
竹林軒出張所『アナと雪の女王(映画)』
# by chikurinken | 2017-01-10 07:08 | ドキュメンタリー

『シリーズ ウォルト・ディズニー』(1)(ドキュメンタリー)

シリーズ ウォルト・ディズニー
(2015年・米SARAH COLT PRODUCTIONS/WGBH)
第1章 ミッキーマウスの誕生
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ウォルト・ディズニーはいかにして成り上がったか

b0189364_20454525.jpg ウォルト・ディズニーの生涯を描くドキュメンタリー。第1回は、アニメ制作を始めていったんは挫折するも、兄ロイの協力でディズニー・ブラザーズ社を設立して、トーキー映画『蒸気船ウィリー』でミッキーマウスが大当たりし、やがて同社の名前をウォルト・ディズニー社に変更して(実質的にロイを格下げ)大成功を収めるまでを描く。ウォルトが、周りにとってうるさく煩わしい人間ではあったが、持ち前の楽観主義で成功を収めていったいきさつが、時系列で描かれる。一種の学習ドキュメンタリーで、ウォルト・ディズニーやアメリカン・ドリームに関心がなければ、あまりどうということのない番組である。
 僕自身は、ウォルト・ディズニーが赤狩りのときに同業者を当局に売った右翼野郎ということも聞いたことがあるんで、人間としてのディスニーにはまったく興味がない。それにディズニー社が、アメリカ政府に盛んにロビー活動して著作権の年限をどんどん自分たちの都合の良いように延ばしているという事実も知っているので、ディズニーに対してまったくシンパシーはない。ディズニーランドなどというものにも行ったことはないし、行く気もない。ディズニーなんか消えてほしいと思っているような人間なんだが、それでもそれなりに楽しめる面白いドキュメンタリーであった。20世紀初頭のアメリカの社会が見えてくるし、ウォルト・ディズニーの人間性みたいなものも(良いか悪いかは別にして)垣間見えてくるんでドキュメンタリーとしては質が高い。全4回シリーズということで、これからディズニーの悪事が暴かれることを期待したいが、それについてはどうなるか分からない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『シリーズ ウォルト・ディズニー (2)〜(4)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ピノキオ(映画)』
竹林軒出張所『狼王ロボ(映画)』
竹林軒出張所『フラバー うっかり博士の大発明(映画)』
竹林軒出張所『アナと雪の女王(映画)』
# by chikurinken | 2017-01-09 07:44 | ドキュメンタリー

『吾輩はガイジンである。 ジブリを世界に売った男』(本)

吾輩はガイジンである。 ジブリを世界に売った男
スティーブン・アルパート著、桜内篤子訳
岩波書店

第三者的な目で見たアニメの国際市場

b0189364_8453927.jpg ジブリ作品の海外への輸出を担当したアメリカ人の体験記。
 著者は、ディズニー・ジャパンやスタジオジブリに在籍し、『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』などをアメリカをはじめとする諸外国に輸出する仕事に携わった人だが、本書ではその辺の経験談が披露されている。たとえばアメリカ向けの吹き替え版作成の際に勝手に音やセリフを追加されたりして(契約で手を加えないことを明記していたにもかかわらず)それを直させたりとか、宮崎駿がプロモーション活動で海外に行くのを非常に嫌がるとか(本書を読むとそれも無理もないことだと思う)、あまり知られていないエンタテインメントビジネスの内側の世界を垣間見ることができる。
 ジブリの宮崎駿や鈴木敏夫、徳間書店の徳間康快、あるいはウォルト・ディズニー・カンパニー関係者の人物評も面白い。日本とアメリカの交渉術や仕事の仕方の違いも率直かつ第三者的な目で書かれており、共感できる。著者の視点が、客観的というか野次馬的であるため、読む側の視点に近いことも共感できる理由である。
 著者がジブリの代表として出席したベルリン映画祭やアカデミー賞授賞式についても同じような野次馬的な視点が貫かれているため、部外者の我々でも共感しやすいし、覗き見的な興味も湧く。
 少し惜しいのは、ところどころ文章が抜けているように感じる部分が、特に序盤多かったことである。原文のせいか翻訳のせいかわからないが、そういった部分が読みづらさに繋がっていたのが残念。とは言うものの、興味深い話が最後まで持続的に展開されるため、十分に楽しめる本であるのは間違いない。タイトルは少々安直に過ぎる(同じタイトルの本が他にもあるし)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『「ニッポン社会」入門―英国人記者の抱腹レポート(本)』
竹林軒出張所『英国一家、日本を食べる(本)』
# by chikurinken | 2017-01-07 08:45 |

『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(本)

この世でいちばん大事な「カネ」の話
西原理恵子著
角川文庫

金について忌憚なく本音で語る良書

b0189364_1915681.jpg マンガ家の西原理恵子が、(ジョン・レノンの「イマジン」のように)子どもたちに語るような口調でカネのあれこれについて語る本。
 全5章構成で、第1章「どん底で息をし、どん底で眠っていた。「カネ」がないって、つまりはそういうことだった。」、第2章「自分で「カネ」を稼ぐということは、自由を手に入れるということだった。」、第3章「ギャンブル、為替、そして借金。「カネ」を失うことで見えてくるもの。」、第4章「自分探しの迷路は、「カネ」という視点を持てばぶっちぎれる。」、第5章「外に出て行くこと。「カネ」の向こう側へ行こうとすること。」という編成である。タイトルが内容を見事に反映しているため、内容が分かりやすいと言えば分かりやすい。
 第1章では「カネ」がないことが暴力や荒んだ生活を生み出すということを、幼児期のどん底生活を紹介しながら説いていく。これは経験を基にしているだけに非常に説得力がある。確かに著者の言う通り、金はそれなりにあればさして意識することはないが、一端なくなるとその大切さは身にしみるし、心が著しく荒んでしまう。僕自身の子ども時代も貧しい時代だったし家も貧しかったんで、共感できる。この第1章は、この本の中でも出色の部分と言える。
 第2章では、ひどく貧しい環境から抜け出て自分で金を稼ぐようになった頃の話。金が手元にあることで自由が手に入ったという感覚も自身が感じたものと共通するんで、このあたりも共感できる。その後のギャンブルの章については、面白くはあるが共感はしない。金のありがたみを知っている人間は普通ギャンブルに手を染めないと思うが、著者によると、失った金額が大きい人間はギャンブルで一挙に挽回しようとするらしい。著者自身もギャンブルで大金を失うような生活をしていたというんで、そのあたりはあまり理解できない。だがギャンブルが本人や家族を不幸にすることは、自身の経験を交えて語っており、ギャンブルに免疫のない若者たちには是非読ませたい内容だとは思う。
 第4章、第5章は、自分の手で稼ぎ、自分の足で外の世界に出ていくことを勧めており、このあたりも若者に読ませたいと思う内容である。金の話となると、自分も含めて卑しいことのように考える傾向があるが、しかし実際には今の社会ではきわめて大事なもので、自分の寄って立つ基盤でもある。著者の主張通り、本音で語ることがもっとも大切な部分である。また、若い世代に伝えるべき事柄で、本来であれば、大人が自身の経験に基づいて子どもに語ってあげなければならないことである。それができないと、負の連鎖が次世代に伝わる、あるいは若い世代が暗黒世界に陥ってしまうことになりかねない。そういう意味でも、その役割を負っている本書は、非常に価値が高い。是非若い世代に読んでほしい本である。マジで、自分の子どもにも読ませたいと思う。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『実録! あるこーる白書(本)』
# by chikurinken | 2017-01-06 08:21 |

『マンガ 孔子の思想』(本)

マンガ 孔子の思想
蔡志忠著、和田武司訳、野末陳平監修
講談社+α文庫

『挿絵付き 孔子入門』というタイトルが適切

b0189364_814641.jpg 孔子の思想をマンガで表現しようという本。「孔子の一生」、「孔子の弟子」、「論語」の3部構成になっている。このうちマンガとして機能しているのは「孔子の一生」だけ(と言っても絵の動きはほとんどないと言って良い)で、後はマンガというより挿絵にしかなっていない。そのため、マンガで手っ取り早く論語の内容を知りたいという目的には適わない。行ってみれば論語のごく一部を日本語訳しているというレベルである、「論語」については。「孔子の弟子」については、なぜこのような章立てが必要なのかもよく分からない。内容もまったく面白味がない。
 マンガを描いている蔡志忠という人は台湾のマンガ家ということだが、絵はそれなりにうまいが、マンガというものをあまり理解していないんじゃないかと感じる。もちろん「論語」をマンガ化するのが難しいのは重々承知だが、この程度で「論語」をマンガにしたと思っているのであれば、お門違いである。
 実はこの本、大分前に買っていて読まないまま処分したという代物で、今回再び(無駄とは知りながら)古本を買って読んでみたわけであるが、前の判断が正しかったことを再確認できた。著者の労は買うが、面白いとか役に立つとかいうレベルにはまったく達していない。何でもマンガ風にすれば良いってもんじゃない。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『史記 (横山光輝版)(本)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』
竹林軒出張所『項羽と劉邦 (1)〜(3)(本)』
# by chikurinken | 2017-01-05 08:02 |

『腸内細菌が家出する日』(本)

腸内細菌が家出する日
藤田紘一郎著
三五館

寄生虫から腸内細菌、ひいては抗生物質の害まで
腸内フローラの入門書としては良さそう


b0189364_19432525.jpg 人間の内臓の中に棲んでいる微生物に関するあれこれを雑学的に書き綴った本。また筆者の専門の寄生虫についても紹介されている。
 人間の腸管の中には、3万種類、1000兆個もの細菌が棲んでいて、こういった生物によってヒトは大いに恩恵を受けている。ただし食生活の乱れや抗生物質などによってこのような微生物の構成が変わり、それが宿主であるヒトの健康面にさまざまな害を及ぼしているという。このあたりの主張は、『失われてゆく、我々の内なる細菌』と同じ。おそらく情報の出所はそこではないかと思われるほど、記述内容は似ている。他にも『あなたの中のミクロの世界 (1)』で紹介されていたトキソプラズマの寄宿主に対する作用も書かれていたし、『あなたの中のミクロの世界 (2)』で紹介された腸内細菌と免疫病との関連についても書かれている。かなりいろいろな所から情報を集めてきて、分かりやすくまとめたという種類の本である。
 記述は読みやすく、新しい知見も紹介されているが、中には真偽が定かでないようなものもあって、しかもそれが断定的に書かれていたりしているため、話半分で読む必要がある。あくまでも一般の素人向けの本というスタンスで、そのためもあり細かいことにあまりこだわらず、それぞれの実験結果についてもあまり検証することもなく載せたのだろう。この辺は『失われてゆく、我々の内なる細菌』と正反対のアプローチである。あげくに玉ねぎの酢漬けが腸内細菌に良いという記述まで出てきて(しかもその作り方まで紹介されている)、確かにそうかも知れないが、そこまで話を広げる必要があるのか疑問に感じた。
 腸内細菌についてのさまざまな知見が簡単にまとめられている点は評価したいが、先ほども言ったように真偽が定かでないような知見もあり、しかもそれがさも事実であるかのように書かれているのが少々引っかかる。
 この本で一番興味深かったのは、第2章の「宿主をコントロールする寄生生物」で、著者の専門的な知識が披露されると俄然興味が惹かれるようになる。やはり著者の専門分野を前面に出していただく方が読む方としてはありがたい(腸内の微生物も著者の専門と言えば言えなくはないし、それなりに説得力はあるが)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『腸内フローラ 医者いらずの驚異の力(本)』
竹林軒出張所『血液型の科学(本)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (1)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『わたしたちの体は寄生虫を欲している(本)』
竹林軒出張所『失われてゆく、我々の内なる細菌(本)』
# by chikurinken | 2017-01-03 07:42 |

2017年お年賀

あけましておめでとうございます
b0189364_18485121.jpg
分け入っても 分け入っても 泥の沼
                     竹林軒
# by chikurinken | 2017-01-01 07:45 | 歳時記

2016年ベスト

 今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)

b0189364_22315356.jpg今年見た映画ベスト3(43本)
1. 『素晴らしき哉、人生!』
2. 『ガス燈』
3. 『ハムレット』

 今年は個人的にいろいろあったため、映画もドラマも少なめで選択肢自体が少ない。映画のベストは古い名画ばかりで、「ベスト」とするには面白味がないかも知れない。ただ映画については特にここ数年個人的に古典指向であるため、こういうラインナップになったのも当然と言えば当然なのかも知れない。
 『素晴らしき哉、人生!』は、アメリカ的な非常に理想主義的というか楽天的というか脳天気というか、そういう映画であるが、善意や正義感に溢れていて気持ちの良い映画である。SF的な要素もあり、スリリングな展開もありで、なおかつ心温まる映画である。
 『ガス燈』は、打って変わって人の悪意に溢れたサスペンス映画で、全編非常にスリリング。イングリッド・バーグマン、シャルル・ボワイエ、ジョセフ・コットンらの演技も光る。
 『ハムレット』は、シェークスピアの有名な戯曲を映画化したものだが、シェークスピア劇の魅力を存分に伝える見事な映画化が光る。さすがに舞台人のローレンス・オリヴィエが手がけた映画と感じる。

今年見たドラマ・ベスト3(23本)
1. 『日曜劇場 ああ!新世界』
2. 『日曜劇場 ひとり』
3. 『星ひとつの夜』

b0189364_9384248.jpg 今年は倉本聰の日曜劇場がCS(日本映画専門チャンネル)で大量に放送されたため、今年見たドラマの半分が倉本版日曜劇場になった。新作ドラマは一部話題作もあったが、どれもパッとせず、ドラマとしてはグレードが低い。『漱石悶々』はデキは良かったが、それでも全盛期の倉本ドラマには及ばない。倉本作品の中でも『ああ!新世界』と『ひとり』は、どちらも同じような回想形式のドラマだが、主人公の心情があふれ出ていて、小品ではあるが非常にレベルが高い。埋もれさせておくのがもったいない作品で、どうしてこれまであまり再放送されていなかったのか不思議なくらいである(僕の知る限りでは再放送は皆無である)。今回それを発掘してまとめて放送した日本映画専門チャンネルの見識の高さには頭が下がる。(電波を独占している)他の大放送局にも見習ってほしいものである。
 『星ひとつの夜』も同じチャンネルで放送された山田太一作品で、完成度が非常に高く、山田作品らしいセリフの面白さ、キャストの面白さが随所にあふれる名品である。新しいドラマもこういうドラマの水準に少しでも近づいてほしいと思うが、残念ながら年々レベルが落ちているような気がしている。

今年読んだ本ベスト5(64冊)
1. 『成人病の真実』
2. 『大往生したけりゃ医療とかかわるな』
3. 『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法』
4. 『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年』
5. 『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔』
番外. 『三国志』

b0189364_21275820.jpg 今年は個人的な事情から医療関係の本を多く読むことになった。中でも近藤誠の本はどれも素晴らしいものだった。視点が新しい上、どれも説得力があり、しかも読みやすい。ほとんどハズレがないと言って良い。中でも『成人病の真実』は、目からウロコの事実が目白押しで、近藤誠の著書の中でもピカイチと言って良いんじゃないかと思う。この本で紹介されている事実は、少なくとも成人病検診を受けるすべての日本人が知っておくべきことである。残念ながら、ほとんどの日本人はまったく知らないまま、無駄で有害な検診を受け続けている。そこのあなた、是非、この本をお読みください! 同じ著者の『日本は世界一の「医療被曝」大国』も非常に面白かった。
 『大往生したけりゃ医療とかかわるな』もなかなか痛烈な医療本。著者の中村仁一も近藤誠と非常に近い考え方をする人で、医学界では異端である。しかし彼の主張もきわめて明解ではなはだユニーク。死について考えることで生を見つめ直すという態度に大きな共感を覚える。
 『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法』は、石川英輔の大江戸シリーズの1冊。石川英輔の大江戸シリーズはその初期から読み続けており、もはや僕にとっては珍しくないかと思っていたが、まだまだ江戸ネタは出てくる。江戸の伝統が測定単位という形で現代にも生きていて、伝統的な測定単位に意外な合理性があるということもよくわかる。江戸時代はまったく侮りがたいということが身にしみる。ここでは取り上げなかったが、同じ著者の『実見 江戸の暮らし』も非常に面白い本で、特に江戸の時刻と貨幣について非常に勉強になった。
b0189364_8122249.jpg 『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年』は山田太一のエッセイだが、著者の自作に関する見方が、種明かし的で面白いだけでなく、テレビ創生期の有り様というものも伝わってくる。この時代を経験した人間にしか書けないことが多数紹介されて非常に新鮮である。
 『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔』は、映画『A』の撮影過程を書いた本で、映画と重なる部分も多いが、撮影側の心の葛藤まで描かれていて、映画以上にいろいろ考えさせられる。ただし映画を見てから読んだ方が一層面白かったのではないかとは思う。映画『A』を当面見ることができないのではないかと思って(実際『A』はなかなか出回っていない)本を先に読んだんだが、あに図らんや意外にも身近な図書館にあって見ることができたのは今考えると良かったのか悪かったのかよくわからない(良かったんだろうけど)。
 番外は、今年全編読み切った横山光輝のマンガ版『三国志』。今さら評価するようなものでもないし、大変な労作であることは疑いない。前にも書いたが「日本遺産」と呼んでも良いほどの作品である。

今年見たドキュメンタリー・ベスト5(88本)
1. 『ワイルドジャパン 魔法にかけられた島々』
2. 『日本人は何をめざしてきたのか (6)』
3. 『武器ではなく命の水を』
4. 『新・映像の世紀 第4集』
5. 『パナマ文書 “史上最大のリーク” 追跡の記録』

b0189364_738498.jpg 今年も、見たドキュメンタリーは比較的多かった。何を選ぶかいろいろ悩むくらいだが、なかなか良いラインナップではないかと自負している。
 『ワイルドジャパン 魔法にかけられた島々』は、BBCが製作した自然ドキュメンタリーで、日本の自然が題材になっている。そのため割とよく見かける映像が多いが、少し引いた位置からあらためて見てみると、日本の自然はかなり面白い。人間と動物との関係もユニークである。そういう部分には普段はなかなか気が付かないが、日本の自然美も含めて、こういう風にあらためて提示されると、意外な発見があって面白い。見せ方も非常にうまく、これが見られたのは収穫だったと思わせる1本。
 『日本人は何をめざしてきたのか (6)』は、日本の障害者福祉の戦後史を紹介するETV特集である。このシリーズは、さまざまな視点から戦後史を切り取るもので、女性環境の視点で作られたものも非常に面白かったが、この障害者福祉史は特に考えさせられる部分が多かった。高度成長期の、一般人の障害者に対する差別的な姿勢にも驚かされたほどで、それを考えると日本での社会的弱者に対する感覚も少しずつではあるが改善しているのかと感じたのだった。
b0189364_8401646.jpg 『武器ではなく命の水を』は、アフガニスタンで活動する医師、中村哲の来し方を紹介するETV特集。ちょっとした劇映画みたいな話で非常に感動的である。
 『新・映像の世紀 第4集』は、昨年から今年にかけて放送された『新・映像の世紀』シリーズの1本で、戦後冷戦期に米ソ政府が何をしてきたかが明らかにされていて、このシリーズの中では出色であった。同じシリーズの第6集もよくできた1本で、タイトルの「新・映像の世紀」が何を意味するかがよくわかる、1本主張が通ったドキュメンタリーだった。
 『パナマ文書 “史上最大のリーク” 追跡の記録』は、タックスヘイブンの現状を赤裸々に伝える告発ドキュメンタリー。ペーパーカンパニーの簡単な作り方まで紹介されていて、タックスヘイブンを取り巻く状況がよくわかる、実に明解なドキュメンタリーである。
 他にも、『人種隔離バスへの抵抗』『暴かれる王国 サウジアラビア』などが秀作で大変勉強になった。また『もうひとつのショパンコンクール』も非常にユニークなドキュメンタリーで、もしかしたらNHK、これからシリーズ化するのかという予感がある。いずれにしても今年のドキュメンタリーは非常に豊作であった。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
竹林軒出張所『2012年ベスト』
竹林軒出張所『2013年ベスト』
竹林軒出張所『2014年ベスト』
竹林軒出張所『2015年ベスト』
# by chikurinken | 2016-12-31 09:02 | ベスト

『レナードの朝』(映画)

レナードの朝(1990年・米)
監督:ペニー・マーシャル
原作:オリヴァー・サックス
脚本:スティーヴン・ザイリアン
出演:ロビン・ウィリアムズ、ロバート・デ・ニーロ、ジュリー・カヴナー、ルース・ネルソン、ジョン・ハード、ペネロープ・アン・ミラー、デクスター・ゴードン

ハリウッド映画の良い部分が出た映画

b0189364_952459.jpg 実話を基に再構築した映画。セイヤー(ロビン・ウィリアムズ)という医師が赴任した精神病院で、脳炎の後遺症のために寝たきりで周囲の刺激に対する反応がなくなっている患者、レナード(ロバート・デ・ニーロ)に対して、パーキンソン病の治療薬を投与して人格を取り戻そうとするというストーリー。
 非常にわかりやすく、エンタテインメント的な起伏も感動もあって、しかもテンポが非常に良いというハリウッド映画の良い部分が存分に発揮されている映画である。何より主演の2人の芸達者ぶりが目を引き、そのためもあって非常に質の高い映画に仕上がっている。中でもロバート・デ・ニーロの演技には凄みを感じる(今さらながらではあるが)。
 実話が基になってはいるが、実際には本当の話と大分異なるあくまで「フィクション」の映画ということで、すべてが実話と考えるのは無理があるらしい。ただ、そのあたりを割り切って思い切りよく脚色しているせいか、感動的な要素も十分盛り込まれており、しかも医師の人生、患者の人生、患者の家族の人生などが適度に絡んでストーリーに厚みを出している。もっともこの話が事実でないのなら感動も半減することになるが、それはそれとして楽しんだら良い。
 ジャズのサックス奏者、デクスター・ゴードンが患者役として登場していたのが新鮮な驚きではあったが、よくよく考えるとこの人、映画『ラウンド・ミッドナイト』で主役をはったりもしているんで、役者としてど素人というわけではないのだった。映画の中ではピアノを披露しているが、エキストラのような立ち位置でセリフはほとんどない。なお、デクスター・ゴードン、この映画の撮影直後に亡くなっている。この映画が遺作ということになる。
第63回アカデミー賞作品賞、主演男優賞、脚色賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『いまを生きる(映画)』
竹林軒出張所『ディア・ハンター(映画)』
# by chikurinken | 2016-12-29 09:53 | 映画

『アルゲリッチ 私こそ、音楽』(映画)

アルゲリッチ 私こそ、音楽(2012年・仏スイス)
監督:ステファニー・アルゲリッチ
撮影:ステファニー・アルゲリッチ、リュック・ピーター
出演:(ドキュメンタリー)マルタ・アルゲリッチ、シャルル・デュトワ、スティーヴン・コヴァセヴィチ

アルゲリッチの母の顔とピアニストの顔

b0189364_8352031.jpg ピアニストのマルタ・アルゲリッチを捉えたドキュメンタリー。監督と撮影はマルタの三女、ステファニーであるため、ホームビデオの延長みたいな映像ではあるが、マルタ・アルゲリッチがマスコミ嫌いである(と言われている)ことを考えると、このような身近な映像が公開されるのは貴重であるとも言える。
 演奏会、演奏旅行、あるいはプライベートなシーンが現れ、同時にアルゲリッチの来し方、親子関係なども率直に語られる。2回の結婚と離婚、長女と同居したことがなかったこと、元夫たちとの関係など、微に入り細を穿つというと誇張しすぎだが、かなり細かくプライバシーが語られ、アルゲリッチの素顔が見えてくる。一説には頑固な変人というふうに伝えられている彼女だが、こうして映像を通して見ると、割合普通の人で、特に奇妙な点はない。子どもたちにも優しく接しているし、周囲の人にも概ね丁重に対応している。(おそらく別府での)演奏会直前に、演奏したくないとごねだしたこと以外(ステファニーによるといつものことのようだ)、まったくおかしな点はない。
 このドキュメンタリーでは、確かにアルゲリッチの人となりや半生が表現されてはいるが、それでもホームビデオを見せられているかのような退屈さというのが常についてまわる。90分少しの映画ではあるが、クラシック音楽好き以外にはちょっと厳しいかも知れない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『マエストロ・オザワ 80歳コンサート(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カルロス・クライバーのドキュメンタリー2本』
竹林軒出張所『カラヤン 〜ザ・セカンド・ライフ〜(ドキュメンタリー)』
# by chikurinken | 2016-12-28 08:36 | 映画

『マダムと泥棒』(映画)

マダムと泥棒(1955年・英)
監督:アレクサンダー・マッケンドリック
脚本:ウィリアム・ローズ
出演:アレック・ギネス、ケティ・ジョンソン、ピーター・セラーズ、セシル・パーカー、ダニー・グリーン

アレック・ギネスとピーター・セラーズの出世作

b0189364_18351730.jpg 英国のイーリング撮影所で撮られた「コメディ」映画。ややブラックであまり笑えないが、あちこちに皮肉を効かせた映画である。
 現金輸送車を狙う強盗団が、ある一人暮らしの老婆の家に下宿するところから話が始まる。この下宿先を強盗のためのアジトとして使おうという魂胆で、しかもこの強盗団のリーダーは、この老婆も巻き込んで(利用して)仕事を完遂させようとするというストーリー。かなり作り込まれたストーリーで、凝りまくった舞台劇みたいな印象である。
 キャストには、後に『戦場にかける橋』で名前を馳せるアレック・ギネスの他、『博士の異常な愛情』や『ピンク・パンサー』のピーター・セラーズまで端役で参加していたりして、今見るとなかなか興味深い。
 よくできた面白い映画ではあるが、見方を変えると、小さくまとまった作品とも言え、いささか古さも感じさせる。タイトルは邦画『マダムと女房』(国産初トーキー作品)を意識したものだと思うが、ストーリーをきちんと反映しているんで、うまい命名と言って良かろう。原題の『Lady Killers』(元々は「女たらし」の意)も面白いタイトルである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『博士の異常な愛情(映画)』
竹林軒出張所『ロリータ(映画)』
# by chikurinken | 2016-12-27 06:34 | 映画