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竹林軒出張所

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『小野田元少尉の帰還』(ドキュメンタリー)

小野田元少尉の帰還 極秘文書が語る日比外交(2017年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

オノダさんは30人も殺害していた

b0189364_20291344.jpg 1974年、フィリピンのルバング島に潜んでいた旧大日本帝国軍人、小野田寛郎少尉が保護され、日本に帰国した。太平洋戦争終結後30年近く、戦争が終結したことも知らず、フィリピンのジャングルに潜伏していた軍人の帰還は、平和国家の戦後日本に暮らしていた多くの人々の度肝を抜いた。もちろんその数年前にグアム島に潜伏していた横井庄一が、同様に保護されて帰国した例があって日本人にも多少の免疫はあったが、それでもそれを上回る年月潜伏していたことは、僕にとっても大変な驚きだった。
 だが、この小野田少尉、戦争が継続中であると信じ、地元民をライフルで殺害したりしていたという。これは当時知らなかった事実である(あるいは意図的に隠されていたのかも知れない)。何でもその数、30人に上るということで、いくら戦争継続中と思い込んでいたとはいえ、殺害された方の関係者はたまったもんではない。そのため地元民の方も潜伏中の日本兵(小野田以外にも数人いた)を掃討する作戦を展開したらしいが、結局小野田だけは最後まで残っていた。
 しかしそういった事件が繰り返されていたため、(フィリピンに日本兵が潜伏しているという)この話は日本にも入ってきて、世論も何とか彼を救出すべきだという機運になった。当時日本の経済支援を欲しがっていたフィリピンのマルコス政権も協力を約束したため、事態は一挙に進展していく。ただし地元民の感情はそう簡単に割り切れるわけではなく(そりゃそうだろう、身内を殺されているんだから)、その辺が問題として浮上してくるが、日本政府は地元への経済支援という形で事実上の賠償をしようとする。太平洋戦争については賠償を一切行わない方針で当時の被害国に当たっていたため、直接の賠償ができないというのが日本政府のスタンスであった。
 政府により小野田救出活動は始まるが、かつて陸軍中野学校で「生き抜いて諜報活動を続けよ」という命令を受けていた小野田は、こういった活動が敵国側の作戦だと思い、なかなか出てくることがなく難航した。結局ある一人の日本人青年が小野田に接触したことから、やっと小野田をジャングルから引きずり出すことができた。その後もこの小野田の扱いをどうするかで問題になるが、フィリピンのマルコス大統領が特例の恩赦を与えることで決着が付き、無事日本政府に身柄が引き渡されることになった。ただし地元に対する賠償については、土壇場でマルコスが拒否したため、地元民にとって複雑な思いはそのまま残ることになった。
 こういった事情を明かしたのがこのドキュメンタリーで、当時子どもだった僕など「オノダさんがジャングルから戻ってきた」くらいの認識しか(当時からずっと)なかったため、僕にとっては新事実の連続で、大変興味深かった。もちろんこういった事実自体、今回新しく見つかった資料から明らかになったため、僕だけに限らず多くの人にとっても新事実ではある。
 なお帰国した小野田寛郎は、その後日本の教育問題なんかについてあれやこれやコメントする人になっていたが、さらにその後ブラジルに移住したらしい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『野火(映画)』
竹林軒出張所『俘虜記(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『敗走記(本)』
竹林軒出張所『総員玉砕せよ!(本)』
竹林軒出張所『ゆきゆきて、神軍(映画)』
竹林軒出張所『鬼太郎が見た玉砕(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-04-01 07:28 | ドキュメンタリー

『陥没』(ドキュメンタリー)

陥没(2015年・米Lawrence Klein Productions/WGBH)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ピンポイントに「陥没」を掘り下げる

b0189364_18020257.jpg 世界中で発生する陥没を取り上げたドキュメンタリー。テーマがピンポイントにもほどがあるドキュメンタリーだが、しかし世界中の陥没事故の映像が紹介される他、なぜ陥没が起きるかわかりやすく紹介されていて大変ためになる。『陥没』というタイトルもストレートで良い。
 陥没は、水に溶けやすい石灰岩質の岩盤が長時間に渡って浸食され(そのために地中に空洞ができ)、その上にある地表がある日突然崩壊することで引き起こされる(らしい)。石灰岩質の岩盤は世界中に広がっているため、地下で何が起こっているか知らないまま地上に構造物を建造すると、ある日突然ドン!ということになる。日本でもこの間博多で陥没事故が起こって他人事ではないし、自分の家の周辺でもいつこういったことが起こるかわからないわけで、それを考えるとおちおちドキュメンタリーを見ている場合ではない。しかしよそ事として見ている限りであれば、紹介される映像が非常に衝撃的なこともあり、なかなかにエキサイティングな番組である。もちろん本当であれば他人事ではまったくないのであるが、他人事だと考えながら見るのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『大地動乱の時代 地震学者は警告する(本)』
竹林軒出張所『MEGAQUAKE II(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ガスランド(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『土の文明史(本)』

# by chikurinken | 2017-03-30 07:01 | ドキュメンタリー

『ソビエト連邦のコマーシャル王』(ドキュメンタリー)

ソビエト連邦のコマーシャル王
(2014年・エストニア/フィンランドTraumfabrik)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

広告に政治体制の矛盾が見え隠れする

b0189364_23571884.jpg 旧ソ連に存在していた唯一のCM製作会社、ERF(エストニア広告フィルム)。ソ連のテレビで放送されるCMを一手に引き受け、繁栄を謳歌していた。しかしソ連崩壊とともに事業から撤退。そもそもこの会社、エストニアに存在していたため、バルト三国が旧ソ連と縁を切った時点で、事業が継続できなくなった。ただし彼らが作ったCMフィルムは、アーカイブに収められ今も見ることができる。このドキュメンタリーは、こういったコマーシャル・フィルムを紹介しながら、それを通じ広告からソ連の社会を照射していこうという試みである。
 そもそも、計画経済だったソ連、広告が必要あるのかという疑問が真っ先に生じる。実を言うと広告はまったく必要ないどころか、ソ連は常時商品不足、物資不足が続いていたため、テレビでCMを打ったところで、消費者に商品が手に入るとは限らない。ではなぜCMが存在するかというと、たとえばある国営企業がある商品を作ってはみたが、在庫の山を抱えていて商品を捌けないケース(CMの力でなんとかしてくれということらしい)とか、国営企業が予算を消化できないため予算を消化するためにCMを発注するケース(日本の役所仕事を彷彿させる)とかで、こういう話を聞くと、CMにもソ連型計画経済の矛盾みたいなものが露わになっているのがわかる。
 ただCM自体は、ERFが当時のアメリカやヨーロッパの広告手法を研究していたため、それなりの作品(?)に仕上がっていて、国際映画祭で受賞したCMフィルムもあるほどだ。もちろん今見ると気恥ずかしい演出が多い(これは同時代の日本の広告を見ても感じることだ)のは事実だが、それでも、こういったCMからは共産圏であることがにわかに信じられない。共産圏の臭いがあまりしないのは、広告自体が資本主義的であるせいかわからないが、興味深い映像であることは確かである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『こうしてソ連邦は崩壊した(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『フルシチョフ アメリカを行く(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ベラルーシ自由劇場の闘い(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-03-28 06:56 | ドキュメンタリー

『タッチ・ザ・ミュージック』(ドキュメンタリー)

タッチ・ザ・ミュージック 盲目のフルート奏者が“見る”世界
(2016年・スウェーデンDEEP SEA PRODUCTIONS/SVERIGES TELEVISION)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

目以外の器官で視覚を実現する

b0189364_07465118.jpg スウェーデン在住の中国人ウー・ジンは、視力はないが、かつてパラリンピックに出場したこともあるという異色のフルート奏者である。フルートは演奏できるが、目が見えない、つまり指揮者の動きが見えないため、オーケストラでの合奏ができず、オーケストラで演奏することが彼女の悲願である。
 そんな彼女の夢を叶えようと、ジャーナリスト、指揮者、技術者などが協力して一大プロジェクトを敢行。それがロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団とウー・ジンとの共演である。そのために、視覚映像、つまり指揮棒の動きを触覚に変換し、これでウーの視力の代わりを果たさせようとする。当初はあまり実用にならなかったが、さまざまな試みを経て実用レベルに到達。そうしていよいよ本番の日を迎える……という、そういうドキュメンタリーである。
 触覚を利用することで、視覚に限りなく近いイメージを脳の中に作り出せるという話は、脳の可塑性の実例として『脳は奇跡を起こす』でも紹介されていたが、それを地で行くような話で、多くの視覚障害者にとって朗報となるような話である。まだ始まったばかりの研究であるが、この先どのように展開するか目が離せない。
 それにしてもこの主人公のウー・ジンという人、経歴が異色すぎて、その経歴だけで1つの話になってしまいそうである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『脳は奇跡を起こす(本)』

# by chikurinken | 2017-03-26 23:46 | ドキュメンタリー

『殷周伝説 太公望伝奇 (1)〜(22)』(本)

b0189364_21041610.jpg殷周伝説 太公望伝奇 (1)(22)
横山光輝著
希望コミックス

伝説的な軍師、太公望の一代記

 横山光輝の遺作。古代中国の王朝、殷が、紂(ちゅう)王の暴政により、周の武王によって倒される過程を描く。原作は、明代に書かれた『封神演義』と『史記』。『封神演義』自体、妖怪とか仙人とか出てくる話である(らしい)ため、このマンガも歴史物語風でありながら、随所にオカルト的な要素が出てくる。『史記』や『三国志』のような話を期待していると少し当てが外れるかも知れない。
 ストーリーは、元々が伝説的な話であるため少々荒唐無稽だったり、後半は戦闘シーンばかりが延々と続き、さながら水島新司の甲子園マンガみたいで少し辟易するが、太公望呂尚が登場するあたりはなかなか見応えがあった。なんせ、長年仙人修行を続けて娑婆に戻ったばかりの呂尚が、嫁さんから仕事をしろなどと迫られて商売を始めたりする(しかも商売はあまりうまく行かない)。もちろんその後、呂尚は周の国で作戦参謀として頭角を現すんだが、その辺の落差は、よくあるエピソードとはいえ、なかなか面白い。
b0189364_21045301.jpg また登場人物がやけに多くなるのも、他の中国文学ものの横山マンガと共通で、まるで『水滸伝』である。おかげで主要登場人物以外ほとんど頭に入ってこなかった。登場人物の描き分けは割合されていたとは思うが、いかんせん、味方も敵も次から次へと登場してくるんで、こちらの頭がついていかない。
 作品のレベルとしては、たとえば途中かなり絵が荒れていたりして(これでも単行本化前にかなり加筆訂正が行われたらしい)、『三国志』『史記』には遠く及ばない。だがこのマンガの完結後、横山氏が事故死したため、結局これが遺作になった。編集者によると、横山氏はこの後『孫子』のマンガ化に意欲を示していたということで、そういう点でも非常に残念である。横山版の『孫子』にも興味があるところだが、ないものはしようがない。少なくとも殷と周の関係や、太公望呂尚などについてかなり知ることができた点、このマンガも十分評価に値する。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『史記 (横山光輝版)(本)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』
竹林軒出張所『項羽と劉邦 (1)〜(3)(本)』
竹林軒出張所『水滸伝 (1)〜(6)(本)』
竹林軒出張所『平家物語 (上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『元禄御畳奉行の日記 (上)(下) (横山光輝版)(本)』

# by chikurinken | 2017-03-24 07:02 |

『本当はちがうんだ日記』(本)

b0189364_07380204.jpg本当はちがうんだ日記
穂村弘著
集英社

飲み屋での会話…みたいな

 歌人、穂村弘のエッセイ集。といっても僕はこの人のことをまったく知らなかった。今もあまり知らない。
 このエッセイ集は、2003年から2005年にあちこちの雑誌に書いたエッセイをまとめたもので、半分くらいは『小説すばる』に連載したもの。他は『本の雑誌』や『讀賣新聞』など。媒体によって内容も違っており、『小説すばる』に連載したもの(本書の第I部)は、自分がいかにダメな人間か書いたものが多く、癒やし系あるいは脱力系のエッセイということになるか。たとえば、40歳にして独身とか、友だちがいないとか、あだ名で呼ばれたことがないとか書かれているが、ちゃんと勤めて稼いでいるようだし、趣味も多いし、しかも歌人としても有名らしいし、どこがダメ人間だというツッコミはともかく、こういった些細なことへのこだわりというかコンプレックスがこの第I部の味である。
 『本の雑誌』の連載をはじめとする第II部はそういうダメさ加減は身を潜め、特有のこだわりが顔をもたげ、こちらも味わいになっている。ただ、この著者の歌や人物に特別な関心を寄せているのでなければ、あまりどうと言うことのないエッセイで、軽く読めるんで今回読んでみたんだが、正直あまり感じるところがなかったというのが本音の部分である。よほど特異な見方でも披露されないと、こうした飲み屋での会話みたいな内容ではあまり満足できないし、ことさらに時間をかけて読む必要があったのか疑問を感じている。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ちいさな言葉(本)』
竹林軒出張所『生まれてバンザイ(本)』
竹林軒出張所『たんぽぽの日々(本)』
竹林軒出張所『日本語ぽこりぽこり(本)』
竹林軒出張所『娘と私の部屋(本)』
竹林軒出張所『小説より奇なり(本)』
竹林軒出張所『さわの文具店(本)』
竹林軒出張所『かつをぶしの時代なのだ(本)』
竹林軒出張所『山手線内回りのゲリラ(本)』

# by chikurinken | 2017-03-22 07:07 |

『クー・クラックス・クラン 白人至上主義結社KKKの正体』(本)

b0189364_17133161.jpgクー・クラックス・クラン
白人至上主義結社KKKの正体

浜本隆三著
平凡社新書

KKKの出自と現代

 アメリカの秘密結社、クー・クラックス・クランについて書かれた「日本ではじめての新書」。
 クー・クラックス・クラン(KKK)は、アメリカの古いドラマでときどき目にする白装束の一団で、ドラマでは黒人や黒人に理解がある白人を拉致して暴行を加える(場合によっては殺人)集団として描かれ、アメリカ史の暗部を示す素材として取り上げられる。視聴者の方も、概ね恐怖の対象としてKKKを捉える。だがその実態は意外に知られていない。そこでそれを掘り下げて、彼らの真の姿に迫ろうという試み、それがこの本である。
 KKKの活動時期は大きく、南北戦争直後(1860年代)、移民が増加した20世紀初頭(1920年代)、公民権運動が盛んだった時期(1960年代)の3期に分けられる。それぞれの時代に共通しているのが、それまで利益を受けていた多数派だった人々が既得権益が失われることをもっとも恐れた時期だということで、そのはけ口として、KKKのような活動が盛んになったというのが著者の分析である。一方でKKKは、集団として福祉活動を行っていたこともある(第二期)というんだから意外。また1920年代の第二期には、会員数が数百万単位まで増えていたらしいが、その裏にはネズミ講まがいの会員獲得作戦があったという(その後会員数は激減)。こういうことを考えるとKKKは単なるテロリスト集団とも言えない側面もあるが、それはどこの暴力集団でも共通かも知れない。
 今の時代も「それまで利益を受けていた多数派だった人々が既得権益が失われ」つつある時代で、そのためか排外主義や保守主義が世界中に蔓延してきている。そういう意味ではKKKが台頭してきた時代と共通性がある(日本でも差別的な言動が多くなっている)。KKKとアメリカの歴史を振り返ることで、この時代の社会の動きを予想しそれに対処できるようにしたいというのが本書の目的らしいが、そのあたりはうまく達成できていると思う。しかしやはりKKKは遠い世界の話であり、読んでいてあまり熱くなれずむしろ醒めてしまう自分がいる。どことなく学術論文的な記述のようにも感じるが、それも物足りなさに拍車をかけているのか。読みやすくはあるが、さして満足感を感じない本というのが僕の印象であった(あくまでも個人的な感想です)。
★★★

参考:
竹林軒出張所『人種隔離バスへの抵抗(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『グローリー 明日への行進(映画)』
竹林軒出張所『キング牧師とワシントン大行進(ドキュメンタリー)』
# by chikurinken | 2017-03-20 17:14 |

『FAKE』(映画)

b0189364_2151755.jpgFAKE(2016年・「Fake」製作委員会)
監督:森達也
撮影:森達也、山崎裕
編集:鈴尾啓太
出演:佐村河内守、森達也

バッシングされる側の論理

 ゴーストライター問題で大バッシングを受けた「作曲家」、佐村河内守のその後(バッシング後)を追うドキュメンタリー。
 かつては「現代のベートーヴェン」などと持ち上げられるだけ持ち上げられた佐村河内、その後、当の「ゴーストライター」であった新垣隆が『週刊文春』のインタビューに答え、そのときの『週刊文春』の記事が佐村河内が詐欺師であるかのように告発するものであったため、とたんに佐村河内は世間からペテン師みたいに言われ始めた。マスコミの豹変ぶりは毎度のことながら呆れるばかり。
 佐村河内があの記事のように、本当は耳が聞こえ、音楽作品もほとんどが新垣隆作であるのかは正確にはわからないが、確かなことは佐村河内が世間に徹底的に叩かれたということである。日本の場合、マスコミもネット社会も、弱っている者を見るとここぞとばかり徹底的にいじめ抜く点で共通しているが、真相がどうであるかに関係なく、叩かれた者は「悪者」のレッテルを張られてしまう。そうするとその人のことや事件のことを知らない人間までが「悪者」という目でその人を見ることになって、「悪者」になったものは居場所がまったくなくなる。空恐ろしいもんである。
 そういう「悪者」に対して真実はどうなのか問いかけるのが、この映画の監督、森達也のいつものアプローチで、マスコミで徹底的に叩かれていた佐村河内を取り上げたというのも森達也らしい選択と言える。この人の基本姿勢はどちらの側にも与しない、自分に見えたままを映像化するというもので、そういう点ではドキュメンタリー作品として信頼できるのではないかと思う。少なくともこの作品を見ると、見たなりにいろいろと感じることはある。たとえば、佐村河内側の主張がほとんどマスコミに取り上げられないこと、反論の機会がほとんど与えられないこと、大衆にとって何が真実かはあまり関係ないこと(要するに情緒的な部分で気に入るかどうかが問題)、その結果バッシングの対象となる人間の生活が著しく制限されることなど、映像を見ながら膚で感じることができる。脅迫まがいの嫌がらせをする人間も例によって現れる。こういう点はバッシング問題の共通項であり、真実を知ろうとせず情緒に流されるのが危険である、ということが暗に示されていく。これはこの映画のテーマでもある。
 ちなみに監督の森は、文春の記事を書いた記者と新垣隆にもインタビューを申し入れたらしいが、断られたらしい。彼らのスタンスをこのように描くことで彼らを悪者にしようとしているという見方もありうるだろうが、僕はこの映画を見ているときに彼ら側の言い分も聞きたいと感じていた。結果的に今回のこの騒動で一番得をしたのは彼らであるようにも思えるし、そもそもが最初から一方的に(佐村河内の悪を)断罪するというアプローチを取ってきたわけで、そうすると彼らも(この映画で提示されている彼らに対する)反論に対して自分の口でいろいろと語る、少なくとも正当性を主張するだけの責任はあるんじゃないかと思う。もちろんこの映画を通じてでなくてもかまわないが。だが攻撃の種をまいてそれでおさらばでは、バッシングされた側から見れば納得いかないんじゃないか……などとつらつら考えたのであった。
 いずれにしても、報道のあり方についていろいろ考えさせられるドキュメンタリーであることは間違いない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『A(映画)』
竹林軒出張所『A2(映画)』
竹林軒出張所『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔(本)』
竹林軒出張所『アは「愛国」のア(本)』
竹林軒出張所『死刑(本)』
# by chikurinken | 2017-03-18 07:04 | 映画

『クロムウェル 英国王への挑戦』(映画)

クロムウェル 英国王への挑戦(2003年・英)
監督:マイク・バーカー
脚本:ジェレミー・メイヒュー
出演:ティム・ロス、ダグレイ・スコット、オリヴィア・ウィリアムズ、ルパート・エヴェレット、ジェームズ・ボラム

歴史の流れがあまり見えてこない歴史映画

b0189364_20245591.jpg 1649年の英国ピューリタン革命を指導し、国王を処刑してその後護国卿の地位に就いたオリバー・クロムウェルとその同志であるトーマス・フェアファクスの関係を中心に、ピューリタン革命を描く歴史映画。
 この映画のハイライトになっているのが国王の処刑とクロムウェル暗殺未遂あたりだが、全体的に焦点がぼやけ気味で、何となく歴史を辿りましたというような大河ドラマ的な作品になっている。なぜクロムウェルが台頭したかとか、議会派と王党派間の戦闘の推移とかも入っていればもう少し面白味も増したのかも知れないが、フェアファクスの家族の葛藤が映画の焦点になっていることもあって、そういう歴史的な流れはあまり見えてこなかった。邦題は「クロムウェル」だが「フェアファクス」とする方が内容的には正しいような気もする(オリジナルタイトルは『To Kill a King』)。当時の風俗が描かれていた部分が魅力と言えば言えるが、映画としては平凡な印象である。
 クロムウェル関連の映画には他にも『クロムウェル』というタイトルの映画があって、本当はこちらの方を見たかったのだが、これはまた別の機会にということになる。
★★★

参考:
竹林軒出張所『わが命つきるとも(映画)』
竹林軒出張所『ブーリン家の姉妹(映画)』
竹林軒出張所『冬のライオン(映画)』
竹林軒出張所『エリザベス(映画)』
# by chikurinken | 2017-03-16 07:19 | 映画

『プロミスト・ランド』(映画)

プロミスト・ランド(2012年・米)
監督:ガス・ヴァン・サント
原案:デイヴ・エガーズ
脚本:ジョン・クラシンスキー、マット・デイモン
出演:マット・デイモン、ジョン・クラシンスキー、フランシス・マクドーマンド、ローズマリー・デウィット、ハル・ホルブルック

『ガスランド』を劇化したような映画

b0189364_20581734.jpg シェール・ガス開発会社で、地権者から掘削権を得る仕事をしている遣り手のビジネスマンが、やがて自分の仕事に疑問を感じるというストーリーの映画。
 以前放送されたドキュメンタリー、『ガスランド』を地で行くようなストーリーで、『ガスランド』で紹介されたような事例(水道水に火が付く、水を飲んだ家畜が謎の死を遂げるなど)が、登場人物によって語られる。内容は、シェール・ガスに対して非常にネガティブなもので、環境保護運動の一環として作られた映画かと錯覚するほど。そうは言うもののハリウッド映画であるため、映画として完成度が高いのは言うまでもなく、ドラマとしてもよくできている。ただし字幕のせいかも知れないが、終わりの方の種明かしがなんだかよくわからず、最後は非常にモヤモヤした。そこまでストーリー展開がうまく進行していたため、かえすがえすも残念である。
 主演のマット・デイモンと助演のジョン・クラシンスキーが製作、脚本を行った映画であるため、基本的には彼らが主導で作った映画と見なすことができる。彼らの演技はもちろん一級だが、それだけにとどまらず、こういった類の映画を製作できるという点を考えあわせると、彼ら演技者とハリウッドの懐の深さは計り知れないと言わざるを得ない。大したもんである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ガスランド(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『岐路に立つタールサンド(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『シェールガス開発がもたらすもの(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『脱原発。天然ガス発電へ(本)』
竹林軒出張所『プライベート・ライアン(映画)』
# by chikurinken | 2017-03-14 06:57 | 映画

『ロンゲスト・ヤード』(映画)

ロンゲスト・ヤード(1975年・米)
監督:ロバート・アルドリッチ
原案:アルバート・S・ラディ
脚本:トレイシー・キーナン・ウィン
出演:バート・レイノルズ、エディ・アルバート、マイケル・コンラッド、ジム・ハンプトン、エド・ローター

後半は試合を楽しんでください

b0189364_854763.jpg アメリカンフットボールの元花形プロ選手が、とある罪状で刑務所に入れられ、そこで囚人チームを編成して看守チームと闘うことになるという、かなり荒唐無稽なストーリーの映画。
 2時間の映画で後半はほとんどフットボールの試合になる。友情とか正義とか、いろいろな要素は盛り込んでいるが所詮は作り話という、どこかハリウッド的な映画である。アメリカンフットボールが好きならば試合のシーンは結構楽しめるが、時代が70年代ということで現在のフットボールに慣れた目からはコスチュームに多少違和感がある。それでも試合のシーンは、いろいろな(ギリギリの)プレーを非常にうまく再現しているためリアリティがある。どこかの大学のチームが協力して撮影しているのだろうなどと考えるが、それでも質が高いので驚く。スポーツ好きにはそれなりに楽しめる映画にはなっているが、ストーリーのリアリティは皆無で、しかもストーリーが予定調和的なのはいかにもハリウッド映画といった感じである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『天国から来たチャンピオン(映画)』
# by chikurinken | 2017-03-12 08:06 | 映画

『マルタイの女』(映画)

マルタイの女(1997年・伊丹プロダクション)
監督:伊丹十三
脚本:伊丹十三
音楽:本多俊之
出演:宮本信子、西村雅彦、村田雄浩、高橋和也、津川雅彦、江守徹、名古屋章、山本太郎、近藤芳正、あき竹城、伊集院光

笑いとサスペンスがほどよくブレンド

b0189364_75425.jpg 伊丹十三の「〜の女」シリーズの一作にして伊丹の遺作。「マルタイ」とは護衛対象者を表す警察用語で、主人公が殺人事件を目撃したことから犯人につけ狙われることになったために、警察によって護衛されることになるというストーリーの映画である。
 製作段階から三谷幸喜が関わっていたためか、あちこちにコメディの要素が散りばめられていて、隅から隅まで楽しめる。映画の内容自体はかなり殺伐としており、殺人も辞さない謎の宗教団体(オウム真理教を意識したもの)が不気味な影を落としていたりするが、コメディ要素が散りばめられているために、途中で滅入ってしまうようなことはない。
 伊丹十三自身がかつてヤクザに襲われマルタイになった経験が活かされているらしく、方々に経験者でなければわからないようなリアルな表現があるのも好ましい。マルタイだった伊丹は、この後、次回作のために某宗教団体と暴力団との関わりを追っていて、それが原因で殺されたようだが(公式には自殺になっているが)、死んだことが非常に悔やまれるくらい、この映画はよくできている。『マルサの女』や『スーパーの女』みたいに、珍しいものをお見せしますというレベルを超えた映画的な映画で、伊丹作品ではもっとも良いものの1つである。
 何よりキャストがどれもはまっていて、120%活用できている点に伊丹の才能を感じる。三谷幸喜が関わっているせいで、東京サンシャインボーイズのお馴染みのメンバーが多いが、中でも西村雅彦の快演は光る。村田雄浩とのコンビも絶妙で、名古屋章の刑事(管理官)は『刑事くん』を彷彿させるキャスティングで、これはもしかしたら三谷の嗜好なのか。
 伊丹十三の作品に三谷風コントを散りばめたような映画で、伊丹と三谷のコラボレーションがうまくいった作品と言える。過剰に(くだらない)笑いを取ることに走るのでもなく、非常に良い塩梅で仕上がっていて、笑いとサスペンスがほどよくブレンドした良い味わいの映画であった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ミンボーの女(映画)』
竹林軒出張所『スーパーの女(映画)』
竹林軒出張所『タンポポ(映画)』
竹林軒出張所『大病人(映画)』
竹林軒出張所『小説より奇なり(本)』

# by chikurinken | 2017-03-10 07:54 | 映画

『ミンボーの女』(映画)

ミンボーの女(1992年・伊丹プロダクション)
監督:伊丹十三
脚本:伊丹十三
撮影:前田米造
音楽:本多俊之
出演:宮本信子、宝田明、大地康雄、村田雄浩、大滝秀治、三谷昇、伊東四朗、中尾彬、小松方正、柳葉敏郎

b0189364_20185646.jpg革新的「ヤクザ映画」

 伊丹十三の「ヤクザ映画」。といってもそこいらのヤクザ映画とはひと味もふた味も違うのは伊丹十三らしい。ヤクザ組織による民事介入暴力(民暴)を扱っており、その手口や撃退方法を紹介する(もちろん)ドラマ仕立ての映画である。内容からは、警察庁が民暴関連の講習会で上映する教材みたいにも思えるが、ドラマとしてもよくできていて、特に民間人がヤクザと関わるシーンは非常に緊迫感がある。
 伊丹の「〜の女」シリーズはどれもあまりにできすぎで、言ってみれが先が見えてしまうという難点を抱えているが、この映画については予定調和的な要素があまり目立たず、良い具合に収束している。
 実際この映画が社会的にヤクザ組織に与えた影響は、公開直前に施行された暴力団対策法と相まって小さくなかったように思う。日本の大企業などの組織は、街宣車を使ったゆすりや恫喝の被害にかなり遭っていたようだが、昨今はそういう話も少なくなってきたように感じる。だがこの映画の直後に、伊丹十三自身がヤクザ者に襲われ大けがを負うという事件が起こったし、その後結局伊丹は謎の死を遂げることになった。こういったきな臭いエピソードがつきまとうため、この映画にはこれまで、あまりお近づきになりたくない雰囲気があった。だがこういう題材の映画ができたことは、日本の映画界および社会にとって画期的であり、社会に大きな影響を与えたという点でも十分評価に値する。映画自体も、先ほども言ったように非常にデキが良いもので、90年代を代表する映画と言って良いと思う。ただしそれが芸術面でなく社会面の意味あいが強いという点が少々残念な部分である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『タンポポ(映画)』
竹林軒出張所『マルタイの女(映画)』
竹林軒出張所『スーパーの女(映画)』
竹林軒出張所『大病人(映画)』
竹林軒出張所『小説より奇なり(本)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『冬の華(映画)』
# by chikurinken | 2017-03-08 07:18 | 映画

『スーパーの女』(映画)

スーパーの女(1996年・伊丹プロダクション)
監督:伊丹十三
原作:安土敏
脚本:伊丹十三
出演:宮本信子、津川雅彦、金田龍之介、矢野宣、六平直政、高橋長英、三宅裕司、あき竹城、松本明子、小堺一機、伊東四朗

b0189364_745539.jpg「それなり」の映画……

 近所にできた安売りスーパーの安売り攻勢で疲弊したスーパー、正直屋を、主婦が立て直すというストーリーの映画。伊丹十三の映画らしく、スーパーマーケットの裏側が暴かれて興味深い上、映画としてもよくまとまっていて、お気楽に楽しめる作品に仕上がっている。とは言え、なんだかいかにも予定調和的なのも、同じ監督の『マルサの女』と共通する特徴で、見た後少々物足りなく感じる。公開当時結構話題になったが、個人的にはこの頃の伊丹映画にはあまり期待していなかったし、こんなもんだろうという印象もある。「それなり」の映画……などと言ったら製作者たちに失礼かも知れないが、お気楽で「予定調和的」という言葉がピッタリ合う映画ではある。
第20回日本アカデミー賞優秀作品賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『タンポポ(映画)』
竹林軒出張所『マルタイの女(映画)』
竹林軒出張所『ミンボーの女(映画)』
竹林軒出張所『大病人(映画)』
竹林軒出張所『小説より奇なり(本)』

# by chikurinken | 2017-03-06 07:46 | 映画

『赤ひげ』(19)(ドラマ)

赤ひげ 第19回「ひとり」(1973年・NHK)
演出:中山三雄
原作:山本周五郎
脚本:倉本聰
出演:小林桂樹、あおい輝彦、仁科明子、黒沢年男、浜木綿子、小鹿敦、柳生博

落ち着きのある『赤ひげ』

b0189364_20364455.jpg 山本周五郎の『赤ひげ診療譚』のドラマ化作品。『赤ひげ』は過去何度も映画化、ドラマ化されているが、これは72年から73年にNHKで全49回に渡って放送されたドラマで、おそらく『赤ひげ』のドラマ化では最高のものと言えるのではないかと思う。「赤ひげ先生」に小林桂樹、「安本」にあおい輝彦という配役で、奇を衒ったところもなく端正に仕上げられたドラマである。小林桂樹の「赤ひげ先生」もなかなか良いものであるが、どことなく同時期に製作された映画(およびドラマ)『日本沈没』の田所博士を思い出させるような人物像であった。
 脚本は倉本聰だが、ドラマの内容自体は、時代劇でありながら結構現代風。「権利」などという言葉が出てきたりして、思わずツッコミを入れたくなるような部分があちこちにあるが、時代考証を脇に置いて純粋にドラマとして見れば、割合よくまとまっている。『赤ひげ』と言えば黒澤明の映画が思い出されるが、あの映画みたいに気恥ずかしい演出があるわけではないので、安心して見ていられる。
 なおこのNHK版『赤ひげ』だが、実はほとんど映像が残っておらず、唯一公式に残っていたのがこの第19回である。患者が求める限り医者は自分の生活より患者を最優先すべきというテーマの1本で、芸術祭に参加したせいかこの1本だけが残されている。他の作品が残っていないのは、当時カラービデオが貴重だったために消去して繰り返し使ったためだろうと推察されるが、ただ放送された映像を録画したものが一部で残っているらしいので、他の回もそのうち出回るかも知れない。この第19回についてはDVD化もされており、割合目に触れやすいんではないかと思う。
第5回テレビ大賞優秀番組賞、第28回芸術祭優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『それぞれの秋 (1)-(15)(ドラマ)』
竹林軒出張所『「3人家族」と「二人の世界」(ドラマ)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』
# by chikurinken | 2017-03-04 07:36 | ドラマ