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竹林軒出張所

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『マルコヴィッチの穴』(映画)

マルコヴィッチの穴(1999年・米)
監督:スパイク・ジョーンズ
脚本:チャーリー・カウフマン
出演:ジョン・キューザック、キャメロン・ディアス、キャサリン・キーナー、ジョン・マルコヴィッチ、チャーリー・シーン、オーソン・ビーン、メアリー・ケイ・プレイス、ブラッド・ピット、ショーン・ペン

高い完成度で不条理を極めた映画

b0189364_18491558.jpg 実に不条理なストーリーで、その奇抜さに目を奪われる。
 主人公が人形遣いで、家にチンパンジーをはじめとするさまざまな動物たちを飼っている(妻がペットショップに勤めているため)という背景もかなり異色だが、あるビルに7 1/2階というものがあり、その階の壁に穴があいていて、その穴が俳優のジョン・マルコヴィッチの脳内に繋がっているというかなり奇天烈な設定がそれ以上に異色である。だがそのあたりの描写にまったく無理がないため、ごく自然にこの不条理な世界に引きずり込まれていく。こういう世界観を1本の映画として仕立てあげたスタッフに脱帽である。
 繋がっている先がなぜジョン・マルコヴィッチの脳内なのかよくわからないが、ジョン・マルコヴィッチは舞台を中心に活躍する性格俳優で、日本で言うと橋爪功とか故・戸浦六宏あたりが近いか。ちょっと悪ノリみたいなストーリーではあるが、ジョン・マルコヴィッチが淡々と本人役を演じていて、そのあたりがまず驚きである。しかもマルコヴィッチ周辺の人物(実際にそうなのかはわからないが)として、チャーリー・シーンなんかが実名で出てきたりもして、現実とフィクションの境界をかなり薄くする役割を果たしている。他にもブラッド・ピットやショーン・ペンが本人役でチラッと出てくる。内容もさることながら、こういう役者の使い方もやや不条理な感じがする。監督が役者もやっているスパイク・ジョーンズだから彼らの友情出演を実現できたのかはわからないが、とにかく映画としては、こういう(一見)訳のわからない世界がしっかりまとめ上げられていて、非常に完成度が高いと言える。
 今回、『レ・ミゼラブル』で爬虫類的なしつこさを持つ冷酷な登場人物を演じるマルコヴィッチに接したことがきっかけでこの映画を見たわけだが(今回で二度目)、あれだけの名優がよくもこんな類の映画に出たもんだと感心した次第。とにかくユニークな映画であった。
第56回ヴェネツィア国際映画祭国際批評家連盟賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『レ・ミゼラブル (1)〜(4)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-06-08 06:48 | 映画

『隊長ブーリバ』(映画)

隊長ブーリバ(1962年・米)
監督:J・リー・トンプソン
原作:ニコライ・ゴーゴリ
脚本:ウォルド・ソルト、カール・タンバーグ
出演:ユル・ブリンナー、トニー・カーティス、クリスティーネ・カウフマン、サム・ワナメイカー

b0189364_20554608.jpgちょっとオペラ的で
いたずらに壮大な映画


 16世紀の東ヨーロッパの話。ポーランドに領地を奪われたコサックが、臥薪嘗胆の思いでポーランドから領地を奪い返すことを誓う。コサックを率いるのはタラス・ブーリバ(ユル・ブリンナー)だが、コサック内部での対立、息子(トニー・カーティス)とポーランド人女性(クリスティーネ・カウフマン)との恋愛など、さまざまな要素が絡んで、壮大なストーリーへと発展していく……という、まあそんな映画である。
 ちなみに原作はゴーゴリで、『タラス・ブーリバ』というタイトルの楽曲もあり(ヤナーチェク作曲)、そちらも割合有名である(僕はそちらで「タラス・ブーリバ」の名前を聞いたことがあった)。
 ストーリーはやや荒唐無稽かつご都合主義的、浪漫主義的で、さらに言えば民族主義的でもあるが、ブーリバの息子たちが大勢のポーランド人に追跡されたり、あるいは壮大な合戦シーンがあったりと、それなりに楽しませる趣向になっているのはハリウッド映画的と言える。ただし甘ったるい恋愛シーンなどは、余計なように思えるし、後半特に、一気にクライマックスまで進みたいところで展開がやや停滞気味になってしまったのもあまりいただけない。見るのに飽きてしまった。もっとも飽きてしまうのは後半だけでなく、僕にとっては全般的にあまり熱中できないというタイプの映画だった。
 この映画の魅力はユル・ブリンナー演ずるブーリバのスケールの大きさで、野蛮人的な粗暴さがあるが、非常に魅力的でもある。息子とたわむれて格闘するシーンは(ハリウッド映画によく出てくる)西部の男を思わせるし、息子を侮辱した男と息子に命がけのチキンレースをさせるなど(『理由なき反抗』を彷彿させる)というのも、案外ハリウッド映画の理想的父親像を再現しているのかも知れない。そういうブーリバに魅力を感じ、ブーリバをもっと見たいと感じていたところで、息子のベタベタした恋愛シーンなどをダラダラと見せられると少々イラッとしたりするわけだ。いろんな人が楽しめるようにというサービス精神なんだろうが、シンプルに野卑な男たちの話で良かったんじゃないかとも思う。それからコサックが宴会に興じて唄ったり踊ったりというシーンも散りばめられていたが、これも不要だと感じる。MGM製の映画であるため、サービスのつもりでミュージカル的な要素を入れたんだろうが、むしろ進行の邪魔になっているとさえ感じた。何度も言うが男のドラマにしてほしかったところである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ナバロンの要塞(映画)』
竹林軒出張所『十戒(映画)』

# by chikurinken | 2017-06-06 06:55 | 映画

『武満徹・音楽創造への旅』(本)

b0189364_22293568.jpg武満徹・音楽創造への旅
立花隆著
文藝春秋

死んだ作曲家の残したものは

 雑誌『文學界』に6年近く連載された「武満徹・音楽創造への旅」をまとめたもの。立花隆が作曲家、武満徹とその周囲の人にインタビューを敢行し、武満徹の人間、作品、哲学などに迫ろうという試みである。中でも武満本人には、連載前に30時間、連載開始後も30時間以上インタビューしているということで、かなりの力作であることがわかる。しかも、何と連載中に武満が逝去する(1996年2月)という「事件」まで起き、武満にとっては、このインタビューが自身について語る最後の機会になった可能性が高い。ちなみに武満逝去後も連載は続き、もちろん新しくインタビューすることはできないわけだが、過去のインタビューでそれまで使われていなかったものを取り上げるなどして、連載はその後2年以上も継続することになった。本書ではIの部分が逝去前、IIの部分が逝去後というふうな構成でまとめられている。
 僕自身、立花隆の著書は80年代によく読んでおり、『宇宙からの帰還』『中核VS革マル』は非常に印象深かった。その後の『脳死』あたりからだんだん面白さがなくなってきて、それ以降はあまり読まなくなった。立花隆の印象は、とにかくインタビューがうまい、またそれをまとめるのもうまいというもので、インタビューものは秀逸である。それを考えると、1人の作曲家に対して立花がこれだけ時間をかけてインタビューしたというだけで十分期待が持てる。事実、期待に違わない素晴らしい仕上がりで、それは一つには立花隆自体が武満徹に心酔していたということも原因として挙げられる。武満に対する興味が尽きないことが窺われるし、武満もそれに対して十二分に応えている。そのおかげで、一人の(魅力ある)人間の来し方、考え方などが一冊の本にまとめられ、その中でその人間が生き続けているかのような大著が生まれることになったわけだ。武満徹の本としては、あるいは1人の人間の伝記本としても、これ以上は望むべくもないという孤高の一冊に結実したと言える。
 何よりも武満徹の魅力が存分に描き出され、若い頃は無頼の生活を送っていたとか、想像を絶するほどの困窮を極めていたとか、これまでの武満像を打ち砕いてくれるようなエピソードも満載である。一番驚いたのは、武満が音楽家になることを決意した時点で楽譜をまったく読めなかったという話で、ほとんど独学で音楽の理論を勉強したというのも驚きである。ピアノも当然持っておらず、道を歩いていてピアノの音が聞こえてきたら、その家を訪ねピアノを弾かしてくれるようお願いしていたなどという話は、驚きを通り越して面白すぎるくらいである。しかも若い頃は病弱で、死ぬ前に1曲ぐらいちゃんとした楽曲を書いておきたいという熱意で曲を作るが、できあがった先から原稿をどんどん捨てていくという話も、あまりに意外すぎる。無頼にもほどがあるというものである。僕自身が、武満徹について、子どもの時分から音楽の英才教育を受けたようなブルジョア家庭の育ちだとばかり思い込んでいたので、その意外さたるや推して知るべしである。いやそれ以前に、音楽の基礎知識もなく作曲家になろうとした、そして実際になったというのがまず不思議だ。そんなことが現実に可能なのかと思う。これが本当であれば(本当なんだろうが)、人間には運命というものがあるのかとも感じる。武満徹はなるべくして作曲家になったということなのだ。そして実際に素晴らしい仕事をやってのけた。だが本人にしてみれば、ほとんどの作が恥ずかしいほどダメだという。このあたりもまことに意外で、とにかくものすごく不思議な人である。
 そうかと思えば、世界中のさまざまな分野の人と非常に広い交友関係があり、現代音楽のメシアン、ベリオ、ジョン・ケージ、現代美術のジャスパー・ジョーンズなどとかなり親密に付き合っていることがわかる。しかもイサム・ノグチから夢窓疎石のことを教わったりもしている。当然国内の美術界、音楽界にも実に広い交友関係があり、武満徹の魅力がそうさせているのかわからないが、どの人とも気負いなく付き合っていることが見えてくる。
 武満徹は、もちろん現代音楽で有名なんだが、その他の分野でも幅広く作曲活動を行っており、その範囲は映画音楽、雅楽、ポップスと非常に多岐に渡る。自身が聞く音楽も非常に多岐に渡っていたようで、ポップス、雅楽、民族音楽、歌謡曲などありとあらゆる音楽に関心を示していたらしい。その割にはブラームスやフォーレをあまり聞いていなかったりもしている(あらためて聴いてみて非常に感動した……という話。なんだか不思議だが)。また他のところで聞いた話だが、なんでもビートルズが大変好きで、ポール・マッカートニーにファンレターを書いたとかいう話もある。とにかく不思議な人なんである。
 音楽に対してもいろいろ突き詰めて考えており、特に西洋音楽と日本の音楽、東洋の音楽などについての彼なりのさまざまな哲学が展開される。中には本人の作品に直結しているものもあり、音楽を通じた思想家という表現もあてはまるかも知れない。そういうことがわかるのもこれだけのインタビューが行われたゆえであり、1冊の本が人物像を明確に浮かび上がらせる役割を果たしているというのが、この本に対する実感である。肉体がなくなった後でも、これだけの記録が残るのは一人の人間にとって光栄なことではないかと思う。もちろん武満徹の場合は音楽の作品が多数残されていて、今でも彼の評価は衰えることがないが、武満徹という魅力的な人間がこの一冊の中で蘇ることで、その生涯自体が一つの芸術作品のようにも思えるのである。それを実現した名著がこれで、立花隆にとっても最高傑作の一冊と言えるのではないかと思う。
★★★★

参考:
竹林軒『CDレビュー 武満徹の愛した小品』
竹林軒出張所『武満徹の「うた」』
竹林軒出張所『マエストロ・オザワ 80歳コンサート(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『さわり(本)』
竹林軒出張所『他人の顔(映画)』

# by chikurinken | 2017-06-04 07:29 |

『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧』(本)

シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧
エマニュエル・トッド著、 堀茂樹訳
文春新書

分析はトッドらしく興味深いが
例によってきわめて読みづらい翻訳文だ


b0189364_20285391.jpg 2015年1月のシャルリ・エブド襲撃事件(竹林軒出張所『パリ戦慄の3日間 シャルリ・エブド襲撃事件(ドキュメンタリー)』を参照)の後、エマニュエル・トッドがフランスで緊急出版した著書の翻訳本。
 あの事件の後、フランス中でシャルリ・エブドを擁護する論調がわき起こり、それはもはやヒステリックな状態にまで達した。パリをはじめ、フランス全土でシャルリ・エブド擁護のデモ行進(いわゆる「私はシャルリ」)が行われ、それはさながらイスラム教に対するヒステリックな拒絶であるかのようであった。そしてその後しばらく、これに反対する言論がこれもまたヒステリックに叩かれるという状態が続き、ちょっとした全体主義的雰囲気になっていたという。自由の国フランスで起こったこういう事態に違和感を抱いた人々もいたようだが、発言しにくい雰囲気ができあがってしまった。
 そういうさなかに出版されたのが、「私はシャルリ」に対して批判的な論調を持つこの本で、案の定、大バッシングを受けたらしい。それでも内容は非常に分析的で、トッドらしくなかなか鋭い。集団ヒステリー状態の人々には、痛いところを突かれたのが耐えがたかったのかどうかはわからないが、示唆に富んだ内容であるのは確かである。
 要するに本書では、今回の現象について、フランス国内(他の国々でもそうだが)で進行している脱宗教(フランスの場合脱カトリック)の傾向のために精神的な拠り所を失った人々が、生活の拠り所の喪失(格差の拡大)と相まって、その敵意を外部にある宗教的なもの(つまりイスラム教)に向けていることの現れであると分析する。その公式は「宗教的空白+格差の拡大=外国人恐怖症」というもの。またさらに興味深かったのが、現在ヨーロッパで頻発しているテロ行為、あるいはISの活動自体も、ヨーロッパの場合と同様、脱宗教(脱イスラム教)の結果発生したのだという分析である。したがってテロ行為をイスラム教のせいにするのはまったくのお門違いだと著者はいう。世界中で、脱宗教が進んだせいで起こっている混乱と、グローバリズムによって広がった格差が、現在の種々の問題を生み出す原因になっているとする。こういうことを統計を駆使して論証していくのがこの本で、内容は非常に濃い。だがしかし、例によって翻訳が非常に拙いため、読みづらくて仕方がない。おかげで内容については半分くらいしか理解できていない。とは言っても、本書の分析は決して浅はかなものではなく、さまざまな事象に対して別の角度から次々と新しい見方を提示してくるのはいかにもトッドらしい。決してないがしろにできない性質を持つ本である。だがやはり、翻訳がこれじゃあね……という感じを毎度持つのだ。もう少しだけでも、読みやすい日本語にできないものだろうかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『パリ戦慄の3日間 シャルリ・エブド襲撃事件(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』
竹林軒出張所『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告(本)』
竹林軒出張所『グローバリズム以後 アメリカ帝国の失墜と日本の運命(本)』
竹林軒出張所『トッド 自身を語る(本)』
竹林軒出張所『エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-06-02 07:28 |

『健康診断は受けてはいけない』(本)

b0189364_20284745.jpg健康診断は受けてはいけない
近藤誠著
文春新書

検診は「公共事業」だと

 今年の2月に発売された近藤誠の新刊。健康診断が役に立っていないどころか有害ですらあるということを繰り返し語る本。
 健康診断で「がん」が見つかり、手術などの治療をしたせいで結局死んでしまうというような事例がまま見受けられるが、そもそも症状が出ず健康診断でしか見つからないようなものは転移しない「がんもどき」であるため、そういう場合は基本的に治療は必要ないというのが著者の主張である。著者によると、実際、外科手術をして合併症が発生しそのために死期を早めるケースが多いという。これについては、海外の研究により、健康診断では寿命を延ばすことができない(むしろ死亡率を挙げる結果になっている)ことが示されており、そのあたりのデータについても、日本では意図的あるいは医師の無知から曲解されて、無理やり健康診断が有用であるという結論が導かれている。厚生労働省も企業に対して健康診断を押し付けているのは、非常に悪質で、犯罪的であると著者は主張する。
 内容については概ね今までの著書の焼き移しで、『成人病の真実』『これでもがん治療を続けますか』をミックスしたような内容である。斬新なのは第9章の「検診を宣伝する者たち」で、医学界の権威の皆さんを、実名を挙げてバッサバッサと切り捨てている点。ここで俎上に上っているのは、東大医学部放射線科准教授・中川恵一、産婦人科医・宋美玄、聖マリアンナ医科大学乳がん検診センター付属クリニック院長・福田護、京都大学名誉教授・小西郁生、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授・勝俣範之ら。日野原重明までがぶった切られている。大変痛快ではあるが、名誉毀損で訴訟みたいな話にもなりかねないところである。また多くの医者について、勉強不足かつ能力不足、中身が貧弱などとも書いていて、(エラそうな)医者嫌いの僕にとってはこちらも非常に痛快。国が推進している検診は「税金から資金を補助し、産業を保護・育成する」という点で「公共事業」と同じとする指摘はなかなか鋭い。
 近藤誠の他の著書と同じく、本書も非常に読みやすいし、理屈も非常に単純である。信じるか信じないかは読者次第だが、少なくとも医者に殺されるのはイヤだと感じるのは僕だけではあるまい。僕自身は、万一がんになったらジタバタしないで、天寿を全うする所存でいるが、もちろん実際にそういう立場になったらどうなるかわからない。これまで近藤誠の本を何冊か読んで、ある程度のカラクリがわかっているつもりなんで、その辺は存外うまく割り切れるのではないかとも思っている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『成人病の真実(本)』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
竹林軒出張所『これでもがん治療を続けますか(本)』
竹林軒出張所『日本は世界一の「医療被曝」大国(本)』
竹林軒『書籍レビュー:この本をすすめる本当の理由』
竹林軒出張所『どうせ死ぬなら「がん」がいい(本)』
竹林軒出張所『大往生したけりゃ医療とかかわるな(本)』

# by chikurinken | 2017-05-31 07:28 |

『ライスカレー』(1)〜(13)(ドラマ)

ライスカレー (1)〜(13)(1986年・フジテレビ)
演出:杉田成道、河毛俊作
脚本:倉本聰
音楽:宇崎竜童
出演:時任三郎、陣内孝則、中井貴一、藤谷美和子、布施博、ガッツ石松、北島三郎、風吹ジュン、室田日出男、田中邦衛、佐藤慶、三木のり平

b0189364_20471328.jpg青春、出会い、別れ

 倉本聰が『北の国から』で大ヒットを飛ばし一番名前が売れていた頃の作品。『北の国から』と同じフジテレビ作品で、フジテレビも『北の国から』以来の倉本作品ということで、カナダで8カ月間ロケを敢行するという力の入れようだった。残念ながら視聴率は奮わず、フジテレビとしては誤算だったかも知れない。しかし内容は『北の国から』に迫る、あるいは超えると言って良いほどのグレードである。再放送もあまりなかったようで、永らくDVD化されることもなく、なんでこれほどの作品を眠らせておくのか僕には皆目見当が付かなかった。僕は古本のシナリオを買ったりしたが、ともかく世間的にはずっと評価が低かったようである。そういう状況が変わったのが2011年で、DVDがとうとうフルセットで販売された。僕は速攻で入手したが、結局見ることもなく、そのまま野積み状態で今日まで至ったのだった。手に入ってしまうとすっかりそれで満足してしまって見なくなるということはよくあることである。
 放送時に見たときは非常に心に残って、先ほども言ったように倉本聰の最高傑作だと思ったほどだが、今回通しで見てみてその思いを新たにした。主役は時任三郎、陣内孝則、中井貴一で、時任三郎と中井貴一は『ふぞろいの林檎たち』の主役2人だが、まったく異なるキャラクター、まったく異なる関係性を巧みに演じている。陣内孝則はほぼドラマ初登場だが、非常に個性的な役柄を演じていて会心の演技である。初めて見たときは「これ誰?」と思ったほどの存在感。後は概ね倉本ドラマの常連が脇を固めている。北島三郎は特別出演という枠で初回と最終回のみの登場である(回想シーンでたびたび出てくるが)。
 ケン(時任)、アキラ(陣内)という2人の若者が、地元の先輩、次郎(北島)の(カナダでライスカレーの店を始めるから手伝いに来いという)大風呂敷に乗ってカナダまで行ってしまうが、その先輩が失踪していなくなっていたというのが振り出し。このケンとアキラ、高校では野球に明け暮れ英語はからっきし、コミュニケーションにも困る有様で、とりあえず次郎を探したりするが、見つからず、方々をさまようことになる。その後、いろいろな人々と出会い、そして別れを迎える。まさに青春の1ページである。出会いや別れは、彼らの地元、銚子の人々との間でも起こり、カナダ、銚子の二層構造がドラマに重厚さを与えている。
 あちこちに倉本作品らしい恥ずかしい表現も一部あるし、悪ノリのシーンも結構多いが、いろいろな細かい部分にリアリティがあり、それぞれの登場人物に魅力があって、ストーリーに無理がない。そのため、自分を登場人物と同じ境遇に置くという見方ができる。こういう点は、最近のドラマに著しく欠けている部分である。それに最近のドラマみたいにやけに人が死んだりということもない。人の死は、言うまでもなく現実世界では重いものである。ドラマの中であっても軽々しく扱ってしまうと、極端にリアリティがなくなってしまう。人の死はやはり重いものでなければならない。その辺の表現も実に良い。決して完璧なドラマではないが、(特に若い頃の)人との出会いや別れについて思いを馳せることができる作品である。見た後は、良い作品に接した後の爽快感が残る。
★★★★

追記:
 今見ると、当時の日本人のガイジン・コンプレックスが発揮されていて、見ていて痛々しい感じがする。特に時任演じるケンが、英語がわからず終始愛想笑いしているのがはなはだ痛ましい。ただし演技という視点で見れば最高である。

参考:
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(ドラマ)』
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『冬の華(映画)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 りんりんと(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 聖夜(ドラマ)』
竹林軒出張所『前略おふくろ様 (1)〜(26)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-05-29 06:46 | ドラマ

『玩具の神様』(1)〜(3)(ドラマ)

玩具の神様 (1)〜(3)(1999年・NHK)
演出:石橋冠
脚本:倉本聰
出演:舘ひろし、中井貴一、永作博美、かたせ梨乃、小林桂樹、根津甚八、佐藤B作、美保純、きたろう、ミッキー・カーチス

面白いものが書けていた頃の倉本作品

b0189364_21072968.jpeg 倉本聰がシナリオを書いたNHKのドラマ。
 『安らぎの郷』同様、主人公は脚本家(二谷:舘ひろし)。視聴率競争にばかり明け暮れる昨今のテレビ・ドラマに疑問を感じ始めていて、ドラマ・シナリオを書くことも以前ほどうち込めず、そのせいか締切も遅れがち。そんなとき、ニセモノの二谷が現れ、方々で詐欺行為を働いているという情報が、本物の二谷の元に入る。同時に二谷には妻の不倫騒動まであり、シナリオが書けない二谷はそのエピソードまでドラマ化するなど、なんだかしっちゃかめっちゃかな状態。一方、ニセ二谷(中井貴一)はよろしくやっていて、しかも弟子までとっているという有様。本物の方が何となく冴えないが、このあたりは倉本聰の自虐ネタも入っているのか。そうそう、当然のことながら、この二谷は、脚本家自分が(ある程度)モデルになっている。この頃、実際にニセ倉本聰が現れ、倉本になりすまして詐欺行為を働いていたということで、そのエピソードをシナリオ化したのがこの作品なんである。
b0189364_21073315.jpeg ドラマは主人公周辺、詐欺師周辺が並列で進行し、しかもそれぞれの周辺にいろいろなエピソードが盛り込まれているため、結構長いドラマではあるが、非常に面白く見ていてまったく飽きない。倉本聰もこの頃は、これだけ面白いドラマが書けていたということがわかる。しかもドラマの低レベル化を随所で嘆いていたり、視聴率至上主義のテレビ界を批判していたり、いろいろな主張も盛り込まれている。こういう部分は、ある程度時間が自由になるテレビ・ドラマだからできることで、実にドラマ的な部分とも言える。あまりにいろいろなものが盛り込まれているため、少々雑多な印象もあるが、これもテレビ的で、さほど気にならない。いかにもテレビらしい、ドラマらしいドラマと言えるかも知れない。
 ただし、山田ドラマのような強烈なテーマはなく、見た後で肩すかしを喰らわされたような印象は残る。とは言え、人間の善意や信頼などが最後まで貫かれているため、見た後は気分の良さが残る。そういう点でも「良いドラマ」だと思う。
 キャストはどれも非常に好演で、演出もなかなか見事に決まっている。堺雅人がエキストラ並みのチョイ役で出ていたようだ(おそらくAD役)が、はっきりとは確認できなかった。
第17回ATP賞2000優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『安らぎの郷(ドラマ)』
竹林軒出張所『川は泣いている (1)〜(4)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-05-27 07:05 | ドラマ

『旅立つ人と』(ドラマ)

旅立つ人と(1999年・フジテレビ)
演出:深町幸男
脚本:山田太一
出演:市原悦子、渡瀬恒彦、吉岡秀隆、大路恵美、井川比佐志、下條正巳

b0189364_19350596.jpg逝く人、見送る人

 『大丈夫です、友よ』の翌年、同じ製作局(東北新社クリエイツ、フジテレビ)で、似たようなスタッフ(プロデューサー、演出など)、似たようなキャストで作られた山田ドラマ。主役夫婦は前作同様、市原悦子と井川比佐志。井川比佐志は、『大丈夫です、友よ』や『友だち』同様、嫁に少しやきもちを焼く普通の頑固親父を好演。市原悦子も、それから他のキャスト(吉岡秀隆、大路恵美、下條正巳)も皆ものすごく良い味を出している。魅力的な登場人部は、山田ドラマらしいと言える。
 余命わずかの男(渡瀬恒彦)が街で見かけた見知らぬ女性(市原悦子)、普通のおばさんなんだが男にとっては当時魅力的に映ったらしいその女性に、死ぬ前にもう一度逢いたいと思うところがストーリーの発端である。妙な申し出を受けて最初はきっぱり断っていたが、次のシーンで見舞いに行っているという、いわゆる「ドラマチック・アイロニー」が使われていたりして、演出も楽しい。息子役の吉岡秀隆と井川比佐志の掛け合いなんかも実に良い。会話や雰囲気が楽しいこういったドラマは今はほとんどないが、良質の作品にはこういう生きた味わいがある。ドラマのスタンダードはやはりこのあたりに置いておきたいものである。
b0189364_19351023.jpg それはさておき、ストーリーは、山田ドラマらしく賑やかに進んでいくが、やがてその中にテーマが明確に現れてくる。つまり、逝く人とその周辺、そして送る人の有り様などが問われる展開になってくる。さすがの山田ドラマである。自分が死んでも生きているうちに誰かに話しておけばその人の記憶の中にその事実が残るというような気の効いたセリフが飛び出してくるのも山田ドラマらしい。そういう意味でも見所満載である。
 同じ山田作品の『ふぞろいの林檎たち』のIIかIIIで、看護師の陽子が死にゆく患者を愛してしまうというモチーフがあったが、このドラマはあそこからピックアップして、仕立て直したのではないかというようなストーリーである。また、『今朝の秋』『早春スケッチブック』でも、死に関する強烈な問いかけがある。こういう痛切な問いかけないしは明確なテーマがあると、ドラマ、あるいは映画でもそうだが、重厚さが増して、その価値が一段と上がるというものである。もっともそれは書く方にそれ相応の思想なり哲学なりがなければ無理で、ちょっとやそっとの書き手ではやはりなかなか良いものは書けない。それを考えると、今のドラマにこれだけのグレードを期待するのはやはり無理なのか……と考えてしまう。
ギャラクシー賞月間賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『やがて来る日のために(ドラマ)』
竹林軒出張所『大丈夫です、友よ(ドラマ)』
竹林軒出張所『友だち (1)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『今朝の秋(ドラマ)』
竹林軒出張所『「早春スケッチブック」、「夕暮れて」など(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』

# by chikurinken | 2017-05-25 07:34 | ドラマ

『大丈夫です、友よ』(ドラマ)

大丈夫です、友よ(1998年・フジテレビ)
演出:深町幸男
脚本:山田太一
出演:市原悦子、藤竜也、深津絵里、柳葉敏郎、井川比佐志、坊屋三郎

魅力的なキャラが山田作品らしい

b0189364_20591644.jpg ある中規模アパレルメーカーが、関連会社の倒産で危機に陥ってしまう。その社長である浩司(藤竜也)が失踪したため、社員の洋子(深津絵里)と取引銀行の銀行マン、智之(柳葉敏郎)が心当たりを探しに行く。彼らの憶測通り、浩司は命を絶つことを考えており、死ぬ前の最後に一目ということで自分の故郷に帰っていた。そこでたまたま昔の同級生、良子(市原悦子)に会うところから話が展開していく。この後、かなりいろいろな偶然が重なって、浩司、良子組と洋子、智之組が長崎のハウステンボスに行き、また良子の夫、昭夫(井川比佐志、彼も浩司と良子の元同級生だが)までハウステンボスに行き、そこで全員が出会うというかなり強引な展開になる。しかも実は洋子が昭夫と良子の、家出した娘だったと来る。この辺かなり無理がある強引な設定で、ともかく安いドラマ風に話が進んでいく。
 このようにストーリーはいささかご都合主義ではあるが、そこは山田ドラマ、ディテールは非常に巧みに描かれていて、どの登場人物も非常に魅力的である。昭夫の立場からは、東京で出世している同級生と、地元で失業しているみじめな境遇の自分とを比べてしまう。世の中は随分不公平にできていると思うわけだが、東京で出世している(と思っていた)同級生、つまり浩司がそれほどうまく行っておらず、実際はどん底で死を考えているという有様で、それを思うと、何が幸せかわからないということになる。浩司の「結局人生トータルでならしたら大体公平にできている」というセリフがなかなか味わい深い。
 こういう古い世代に対峙する若い世代、つまり洋子たちがまた魅力的で、古い世代が持っているひがみとかきしみとかいったものと別次元で存在しているのが実に気持ち良い。特に洋子が、ちょっと天然っぽいにもかかわらず実は結構したたかで、そういう手の内を智之に明かして驚かすなど、はなはだインパクトが強いキャラである。深津絵里の演技が良いのか、あるいはキャラクターがよく描けているのかわからないが(おそらく両方なんだろう)、非常に魅力的である。
b0189364_20592367.jpg 妻の不倫疑惑に憤る夫は、これも山田ドラマの常連、井川比佐志が演じているが、役回りは『友だち』と同じである(性格描写は少し違う)。妻の良子役は、この頃よく山田ドラマに出ていた市原悦子で、この2人、2005年の『やがて来る日のために』『旅立つ人と』でも主演夫婦役を演じている。演出は、これも過去の山田ドラマを何度も演出した、元NHKの深町幸男。山田太一にとっては、馴染みの人々に囲まれ、安定した力を発揮できた作品と言えるのではないか。
 ただ先ほども言ったが、あまりに偶然に頼りすぎなのが、らしくない。骨の部分にあまりにリアリティを欠いているとやはり見ている方は白けてしまう。また、登場人部の名前がいちいちテロップで表示されるという演出も珍妙で疑問である。ドキュメンタリーじゃないんだ。こんな演出、バカバカしいので二度とやらない方が良い。
第53回芸術祭優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『やがて来る日のために(ドラマ)』
竹林軒出張所『旅立つ人と(ドラマ)』
竹林軒出張所『友だち (1)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『「早春スケッチブック」、「夕暮れて」など(ドラマ)』
竹林軒出張所『今朝の秋(ドラマ)』
竹林軒出張所『ながらえば(ドラマ)』
竹林軒出張所『冬構え(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』

# by chikurinken | 2017-05-23 06:58 | ドラマ

『電流戦争! エジソン VS テスラ』(ドキュメンタリー)

電流戦争! エジソン VS テスラ
(2015年・米Stephen David Entertainment)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

b0189364_08341824.jpg「電流戦争」概論

 19世紀末のアメリカ、電球の発明と電気系統の普及で一躍時代の寵児になったエジソンだが、電気系統については直流電力を使っていたことから送電系統が数百メートルまでしか拡大できず、電気の普及の上でこれが大きな足枷になっていた。
 かねてより交流電力網の可能性を主張していたオーストリア人、テスラは、エジソンの研究所で働きながらも、交流システムの利点をエジソンに説いていたが、結局エジソンとは物別れになる。エジソンの研究所から独立した後は、自ら交流システムを開発し、ウェスティングハウスと協力して、交流システムを実用化させる。エジソン側はあくまでも直流電力にこだわり、交流電力に対して(ウェスティングハウスとテスラに対して)「交流電力は危険」というあからさまなネガティブ・キャンペーンを行っていた(重犯罪者を処刑するための、交流電力を使った電気椅子を提供したりしている)。
 その後、ナイアガラの滝に作られた発電所から電気を送るための送電網に交流電力が使われるようになった(つまりテスラ、ウェスティングハウス勢が受注した)ため、交流電力が爆発的に普及し、現在の交流電力網が定着した。そのいわゆる「電流戦争」について紹介するのが、このドキュメンタリー。番組は、多くの部分がドラマ仕立てになっていて内容が非常にわかりやすい。
 交流電力網の拡大に伴って、テスラはウェスティングハウスからかなりの金額を手にすることになっていたが、契約金額が法外だったことからウェスティングハウス自体の経営が立ちゆかなくなり、結局テスラは利用料収入の大半を放棄することになる。そのため晩年はみじめな生活を送り、貧困のうちに死んでいったという。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『発明はいかに始まるか(本)』
竹林軒出張所『世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史(本)』
竹林軒出張所『人類初飛行の光と影(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『iPadの衝撃 その1』

# by chikurinken | 2017-05-21 08:35 | ドキュメンタリー

『人類初飛行の光と影』(ドキュメンタリー)

人類初飛行の光と影 〜ライト兄弟とホワイトヘッド〜
(2016年・豪仏独ARTEMIS INTERNATIONAL他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ライト兄弟はビル・ゲイツなみ

b0189364_20061824.jpg ライト兄弟が人類史上初めて飛行機を飛ばしたとされるのは1903年。しかし実際は、ドイツ生まれのグスターヴ・ホワイトヘッドという人物が、1901年にアメリカで初飛行を経験していた、しかも何度も数百メートル飛んでいたという事実を紹介するドキュメンタリー。
 発明は一人の天才によっていきなり生み出されるものではなく、同時代のいろいろな技術の集積の結果生まれるということは重々知っており、ライト兄弟以前にも大勢の人間が空を飛んだことも知っているが(竹林軒出張所『発明はいかに始まるか(本)』を参照)、しかしこのホワイトヘッドの件、ことはそれほど簡単ではないようだ。このドキュメンタリーによると、すでに実用飛行を成功させたホワイトヘッドの元をライト兄弟が訪れ、投資を匂わせながらその飛行機の秘密を丹念に調べていったという事実があるらしい。つまり今でいう産業スパイということになる。その後ホワイトヘッドは、資産を差し押さえられたりしたため、飛行実験を続けられなくなったが、一方のライト兄弟は1903年に飛行に成功したと世間に発表する。ただしこの時点では、本当に飛行に成功したか疑わしいというのもこのドキュメンタリーの主張である。ライト兄弟はその後、飛行機の技術に対する特許を取ったため、飛行機が作られるたびに特許料を得られるようになって、富を築いていった。一方のホワイトヘッドは不遇の晩年を送り、初飛行の功績もライト兄弟のものとなった。
b0189364_20101329.jpg こういう事実が最近明るみに出たため、ライト兄弟ではなく、ホワイトヘッドが人類史上初めて飛行機を飛ばしたという事実を認める団体も増えているという。だがスミソニアン博物館は、頑なにこの事実を受け入れようとしない。今でも、最初に飛行に成功したとされるライト兄弟の飛行機(ライト・フライヤー号)が展示されているわけだが、実はこれ、スミソニアン博物館とオーヴィル・ライト(ライト兄弟の弟の方)との間に交わされた契約のためだということがここで明かされる。つまりライト兄弟の子孫がその展示に協力する代わりに、ライト兄弟の初飛行という「事実」を絶対に覆さないという契約があり、それが今も効力をもっているらしいのだ。
 どこまでが真実かにわかに判断できないが、こういういきさつを聞くと、ライト兄弟、まるでビル・ゲイツである。エジソンも似たようなものだったという話を聞くが、要するに要領の良いやつが一番得をするという良い証左なのかも知れない。やはり常識だと思っていることは疑ってかかる必要がある……とあらためて思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『発明はいかに始まるか(本)』
竹林軒出張所『世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史(本)』
竹林軒出張所『iPadの衝撃 その1』

# by chikurinken | 2017-05-19 07:04 | ドキュメンタリー

『京都人の密かな愉しみ 桜散る』(ドキュメンタリー)

京都人の密かな愉しみ 桜散る(2017年・NHK)
NHK-BSプレミアム ザ・プレミアム

これで密かな愉しみも終わり

b0189364_20435353.jpg 前回の放送のレビューで予想したように(竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 月夜の告白(ドキュメンタリー)』を参照)、『京都人の密かな愉しみ』シリーズは今回の春版で完結ということらしい。メインのストーリーが妙な方向に迷走していたんで、この辺で収束させるのも良かろうと思う。それから予想的中ついでにもう一つ、なんと阿部海太郎が作曲したこのドキュメンタリーの音楽集も発売になった。武田カオリの「京都慕情」もこれに収録されているということで、こちらも予想的中と言える。もちろん大した予想ではないが、文春新書ふうに盛って言うならば「予言していた!」ということになる(竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』を参照)。
 閑話休題。今回の最終回『桜散る』だが、間に挿入されるミニドラマが1本、料理コーナーや桜にまつわるエピソードなど、これまでのシリーズとほぼ同じ形式で展開される。「ごきんとはん」という京言葉のミニ講座なんかも挿入されていてなかなか楽しい。メイン・ドラマの方は、主人公の三八子(常盤貴子)に結婚相手が現れ、ヒースロー教授も無事に我が家に帰還するという展開で、ええとこに落ち着かはったということになる。エミリー(シャーロット・ケイト・フォックス)も落ち着くべきところに落ち着いた。冒頭、エミリーがヒースローに吐いた「よういわんわ!」というセリフがちょっと意外で、なかなか面白かった。なお、フォックス自身、この「よういわんわ」という言葉が好きだそうな(『シャーロット・ケイト・フォックスのスペシャルインタビュー』を参照)。相変わらずこの人の日本語のイントネーションは美しい。ただし京都弁はやっぱり変。
 これまでのシリーズ同様、全体的によくまとまっている番組で、2時間という長い枠でありながらまったく見飽きることがないのは、演出の源孝志の力量だと思うが、しかしドラマについては、ちょっとリアリティを欠いているし、設定も少しばかり陳腐ではないかと感じた。演出は正攻法で破綻はないが、ドラマの中では気になることがいろいろ出てくる。ちっちゃいことを気にしない人であれば問題ない程度ではあるが、源孝志自体がそういう人なんだろうかとも思ってしまう。
b0189364_20435867.jpg まあでも、このシリーズはそれなりに充実していて見所も多かったんで、これで最終回ということになると何やら一抹の寂しさも感じられる。そういうあなたに……というわけではないんだろうが、何と最初のバージョンのDVDも発売になっている。さすがにDVD発売までは予想できなかったんで、こちらは少し驚いた。存外このドキュメンタリー(ドラマ?)、人気があったのかも知れない。個人的には、DVDはともかく、武田カオリの「京都慕情」はぜひ入手したい!ということで、実はすでにAmazonでデジタルミュージックをダウンロード購入しているのだった。ちなみにこの曲、タイトルは「Reflections in a palace lake」となっていて、一見するとわかりにくいが試聴できるので、欲しい人は確認してから買っていただきたい。フルコーラスで2分40秒ある。情緒的な表現がいかにもという感じで京都のイメージに大変合っており、オリジナルより断然こちらの方が良い……と僕は思う。この歌を聴くと、この武田カオリという人、非常に表現力のある歌手だとあらためて感じる。このドラマの一番の魅力はこの歌と言っても過言ではないほどである。この歌については、これからも密かな愉しみになりそう。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 夏(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 冬(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 月夜の告白(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』


# by chikurinken | 2017-05-17 06:43 | ドキュメンタリー

『E・トッドが語るトランプショック』(ドキュメンタリー)

エマニュエル・トッドが語るトランプショック 〜揺れる米中関係〜
(2017年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

b0189364_18360847.jpg米中は表裏一体らしい

 『帝国以後』の著者、エマニュエル・トッドのインタビュー番組。この手の番組、NHKでは『エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く』に続いて二度目ということになる。
 今回は、トランプの大統領就任とその後の米中関係について、トッドが語るというもの。トランプが大統領選で勝利したのは、中間層がグローバリズムによって疲弊していることが原因とする。また、今後米国は保護主義の方向に進むという持論を展開する。一方中国の立場についても、中国の活況というのはあくまでも先進国が下請工場として利用しているためであって、現在経済が低迷しているのは、(中国の最大の貿易相手国である)米国の経済低迷の影響であるとする。言ってみれば、米国と中国は表裏一体の関係にあり、中国の再生は、米国経済が立ち直るかどうかにかかっていると言う。そして米国が立ち直るための方策こそが保護主義である、というのがトッドの主張である。
 トッドによると、保護主義は、世間で喧伝されているように必ずしも悪いものではなく、関税などを使って適正なレベルで自国の産業を守るのは、その国の経済、ひいてはその国以外の経済にも役に立つ。(米英の主導により)過剰なグローバリズムが進んだせいで、世界中の経済が疲弊している現在、適切な保護主義に移行するというのが今後の世界の経済の流れになるということである。
 内容は、近年トッドが本やメディアで発言していることばかりで、特に目新しいものはないが、初めてトッドの話を聞く人にとっては斬新な論だろうと思う。ただそのトッドをしても、トランプがなぜシリアを攻撃したり、日本海に空母を派遣したりしているかはよくわからないという。そもそも国内向けの政策か国外向けの政策かが判然としないらしい。少なくとも国内の軍部勢力とは距離を縮められたということで国内的には利点があったと考えられるが、筋の通った説明は見つからないようだ。個人的にはあまり深い考えもなく突発的にやったんじゃないかという気がするが、いずれにしてもあの人、(グローバリズムから保護主義へという)時流に乗ったせいで最高権力者になったは良いが、何をしでかすかわからない人間であることに変わりない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』
竹林軒出張所『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告(本)』
竹林軒出張所『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧(本)』
竹林軒出張所『グローバリズム以後 アメリカ帝国の失墜と日本の運命(本)』
竹林軒出張所『トッド 自身を語る(本)』

# by chikurinken | 2017-05-15 07:35 | ドキュメンタリー

『ストラディバリウスをこの手に!』(ドキュメンタリー)

ストラディバリウスをこの手に!
(2010年・カナダROTATING PLANET Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

コンテストものだが
あまり興味は湧かなかった


b0189364_20175812.jpg カナダでは、若き演奏家に、ストラディバリウスなどの弦楽器の名器10数台を3年間(最長で6年間)貸し出す制度がある。ただし、そのためのコンテストがあり、そのコンテストで勝ち抜いたらという条件が付く。とは言え、普通であれば触ることすらできない高価な楽器を使うチャンスが得られるということで、演奏家の卵は入賞目指してがんばることになる。ちなみに上位入賞者から好きな楽器を選んでいけるらしく、人気のある楽器を使うためには上位入賞が必須条件である。このコンテストの様子に密着するのがこのドキュメンタリー。
 なかなか興味深い話ではあるが、こういうコンテストものは(グレート・レースもそうだが)参加者にどれだけ肩入れできるかで見ている側の面白さが違ってくる。残念ながらこのドキュメンタリーについては、参加者に対する思い入れはまったくないし、誰かが勝利してストラディバリウスをゲットしたところで、その演奏家の演奏を聴くこともおそらくないだろうし、そういう点ではまったく興味が湧かなかった。単に、中国系、韓国系の演奏家が多いなと感じたくらいで、それ以上の感慨はない。
 おそらく、日本でもこういったシステムがあるのではないか(現に日本の若い演奏家も名楽器を借りたりしているようだ)と思うが、そういうところに日を当てるドキュメンタリーであれば、我々の身近であることもあり、あるいはより親近感が湧くかも知れないと感じる。NHKあたりが日本版を作ってNHKスペシャルあたりで放送したら良いかも知れないなどと考えるが、僕自身がその番組を見るかどうかはわからない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『バイオリンの聖地クレモナへ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『至高のバイオリン ストラディヴァリウスの謎(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのショパンコンクール(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-05-13 07:17 | ドキュメンタリー

『裸の太陽』(映画)

裸の太陽(1958年・東映)
監督:家城巳代治
原作:氷室和敏
脚本:新藤兼人
音楽:芥川也寸志
出演:江原真二郎、丘さとみ、中原ひとみ、仲代達矢、高原駿雄、山形勲

b0189364_20592037.jpg平凡な明朗青春ドラマ

 仲代達矢繋がりで見たが、映画自体はきわめて平凡。鉄道労働者たちがみんなで「竈焚きの歌」を歌うなど、見ていて気恥ずかしくなるような演出もあり、あまり感心しない。貧困問題も顔を覗かせるが、全般的に明朗青春ドラマで終始している。例によって仲代達矢は存在感があるが、なんだかはっきりしないよくわからないキャラクターではある。
 江原真二郎が主人公で、その後実生活で彼と結婚する中原ひとみも出ているが、2人の絡みは一切ない。
 主人公が機関車に石炭をくべる乗務員(「竈焚き」)であるため、途中、蒸気機関車が大地を疾走する映像がふんだんに出てくる。『ある機関助士』を思い出させるシーンもありなかなか迫力があったが、思えばこのシーンが唯一の見せ場であった。映画としては総じて平凡という印象である。
 余談ではあるが、作詞家の山口洋子が端役(丘さとみの同僚役)で出ていた。なんでも山口洋子、作詞家になる前は東映ニューフェイスとして女優デビューしていたらしい。
ベルリン国際映画祭青少年向映画賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『ある機関助士(映画)』
竹林軒出張所『姉妹(映画)』
竹林軒出張所『路傍の石(映画)』

# by chikurinken | 2017-05-11 06:58 | 映画