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竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『ゲームの規則』(映画)

ゲームの規則(1939年・仏)
監督:ジャン・ルノワール
脚本:ジャン・ルノワール
出演:マルセル・ダリオ、ジャン・ルノワール、ノラ・グレゴール、ローラン・トゥータン

面白いんだかどうなんだかよくわからない

b0189364_18522079.jpg ジャン・ルノワールの代表作みたいに言われている作品。
 上流階級の人々が、それぞれ配偶者の浮気を承知の上で自ら浮気しているという状況で、そういった人々がある貴族の館にパーティで集まるとどうなるかという話を戯画的に描いたもの。なお浮気しているのは上流階級だけに限らず、この館で働いている使用人たちにも及んで、ドタバタするという展開になる。全編ドタバタして、非常に喜劇的ではあるが、正直笑えるものなのかどうかもよくわからない。完全に作り物の芝居として接するのであればともかく、話の展開自体かなり無理があることから、リアリティはあまり感じられない。舞台ならいざ知らず、映画の素材として適していないんではないか。
 この話の元になった事件があってそれを風刺的に描いたものかそういうこともわからないし、なにぶん情報がほとんどないので細かいことについてはコメントできないが、少なくとも僕自身は面白さを感じなかった。唯一の見所と言えば、監督のジャン・ルノワール自身が重要な役で登場していることぐらいで、それにしても格別印象に残りそうにもない。実はこの映画、30年くらい前に自主上映会で見ているが、内容をまったく憶えていなかったという代物である。なるほどそれも頷ける……という、そういう種類の映画であった。もう二度と見ることはないだろう。
★★★

参考:
竹林軒出張所『大いなる幻影(映画)』
竹林軒出張所『ピクニック(映画)』

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 以下、以前のブログで紹介したジャン・ルノワール作品に関する記事。この2本の映画については、見たことすら憶えていなかった。

(2005年9月27日の記事より)
b0189364_18522350.jpgどん底(1936年・仏)
監督:ジャン・ルノワール
原作:マキシム・ゴーリキー
脚本:ジャン・ルノワール、シャルル・スパーク
出演:ジャン・ギャバン、ルイ・ジューヴェ、シュジ・プリム、、ジュニー・アストール

 ゴーリキー原作の戯曲をジャン・ルノワールが映画化したもの。原作を大幅に変えているという(原作読んだことがないからよくわからない)。
 ただ全体的に戯曲調(舞台風)であったのは確か。タイトルからネオリアリズム風の暗い映画かとも思ったが、救いのある映画になっていた。ルノワールゆえか。
 個人的には、屋外レストランのパーティめいたシーンが、印象派絵画を連想させて良かった。やはりルノワール……。
★★★
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(2005年11月30日の記事より)
b0189364_18522628.jpg南部の人(1945年・米)
監督:ジャン・ルノワール
原作:ジョージ・セッション・ペリー
脚本:ヒューゴ・バトラー
出演:ザカリー・スコット、ベティ・フィールド

 ジャン・ルノワールがアメリカに渡って撮った代表作(らしい)。
 米国南部の貧しくて厳しくも人情深い生活を扱っているが、ジョン・フォードの『怒りの葡萄』のような、社会の矛盾をついた告発ものではない。もう少しおおらかでのんびりしたところがある。『大草原の小さな家』に近いか……。主人公は確かにいろいろな苦難を突きつけられるが、どこか牧歌的である。それだけに、見ていて少し物足りなさを感じた。芝居として完結しているような感じで、わき出すものがないというか……。ちょっと退屈した。
 動物を狩って、家族全員でむしゃぶりつくように食うシーンは、空恐ろしくもあった(喜びに満ちたシーンのようだが)。アメリカ人ってのは野蛮だなと素直に感じた。
★★★

# by chikurinken | 2017-10-03 06:51 | 映画

『ヘッドライト』(映画)

ヘッドライト(1955年・仏)
監督:アンリ・ヴェルヌイユ
原作:セルジュ・グルッサール
脚本:フランソワ・ボワイエ、アンリ・ヴェルヌイユ
音楽:ジョセフ・コズマ
出演:ジャン・ギャバン、フランソワーズ・アルヌール、ピエール・モンディ、ポール・フランクール、ダニー・カレル、リラ・ケドロヴァ

捨てられた女よりもっと哀れなのは
よるべない女です


b0189364_08084347.jpg 中年男が若いウェイトレスと不倫関係になるという恋愛ドラマ。主演は国民俳優ジャン・ギャバンで、今回は『恐怖の報酬』ばりのトラック野郎を演じる。このジャン・ギャバン、どの映画でも積極的に演技をしているという感じはないが、どの役もよくはまっているから不思議。暗黒街のボスを演じた『望郷』の印象が今まで強かったが、『港のマリー』の冷静な実業家もよく合っていたし、この若い女に溺れるトラック野郎もなかなか良い。相手役はフランソワーズ・アルヌールで、ギャバン-アルヌール・コンビは前年の『フレンチ・カンカン』以来ということになる。
 ストーリーは割合ありきたりだが、中年男の家族、仕事、恋愛がよく描かれている。冒頭のトラックのカットも意外性があり面白い。ヘッドライトを多用した映像も印象的で、そのために『ヘッドライト』という邦題が付けられたのだろうと思われる(原題は『とるに足りない人々』という意味だそうだ)。また、この時代のフランスの労働者階級の様子もしっかり描かれていて、風俗という点でも興味深い。
 これまで未見の名画であり、期待が大きかった分多少物足りなさはあったが、しかし破綻もなくよくできた映画である。ちょっと女の子が憐れで、マリー・ローランサンの詩「鎮静剤」の一節、
  悲しい女よりもっと哀れなのは不幸な女です。
  不幸な女よりもっと哀れなのは病気の女です。

を思い出す。このあたりは『浮雲』と共通。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『地下室のメロディー(映画)』
竹林軒出張所『ダンケルク(映画)』
竹林軒出張所『望郷(映画)』
竹林軒出張所『大いなる幻影(映画)』
竹林軒出張所『港のマリー(映画)』
竹林軒出張所『霧の波止場(映画)』
竹林軒出張所『暗黒街のふたり(映画)』

# by chikurinken | 2017-10-02 08:10 | 映画

『本当と嘘とテキーラ』(ドラマ)

本当と嘘とテキーラ(2008年・テレビ東京)
演出:松原信吾
脚本:山田太一
出演:佐藤浩市、夏未エレナ、柄本明、樋口可南子、山崎努、塩見三省、戸田菜穂、益岡徹、六平直政

山田太一の教育論が反映されたドラマ

b0189364_06412175.jpg テレビ東京最後の山田ドラマ。同時に山田作品としては最後の花火みたいな作品でもある。翌年の『ありふれた奇跡』以降は迷走状態である。
 企業の研修や不祥事の後始末などのコンサルタント業を行っている男(佐藤浩市)は、常に本音を隠して顧客に接するよう指導している。合い言葉が「テキーラ」で、これを口にすると口角が上がって笑顔になるため、接客のキーワードとして常にこの言葉を意識するよう指導する。企業の不祥事についても、不都合な部分を隠し通して建前だけで通すのが彼のやり方である。
 そんな折、自分の娘の同級生が自殺し、それに娘が絡んでいることがわかってくる。娘や遺族との関わりの中で、本音を隠して建前だけで生きていく「テキーラ」主義で良いのかという疑問が沸いてくるという流れで話が進んでいく。
 このドラマも芸術祭参加作品であること(同時に受賞作品であること)を考えると、賞狙いの作品と言える。内容は娯楽性を持っていて面白い作品ではあるが、芸術指向が強いのは確かで、この頃の他の軽薄なドラマとは明らかに違う。テレビ東京の山田作品は概ねそういう傾向がある。ただしそのためかかなり力が入っている作品で、テレビ東京には今後もこういった重厚な作品に取り組んでほしいと感じる。松原信吾の演出も手堅くて良い。
 キャストは、今回は常連組で固められている。柄本明は、『せつない春』『小さな駅で降りる』と同じく、騒いで周囲に波風を立てるちょっと不気味な(その後好人物に好転する)存在を好演している。山崎努もテレビ東京版山田ドラマにはよく出てくるが、今回も(セリフは多いが)特別出演くらいの短めの登場。樋口可南子は、『小さな駅で降りる』と違い、これも周囲に波風を立てる存在。ひどく取り乱す演技が素晴らしい。夏未エレナという女優は今回初めて見たが、落ち着いた良い演技をしている。
 作者の主張が随所に出てくるのも、このドラマを良いものにする要因である。山田太一の教育論は、『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと』でもわかるが、まったく押しつけがましくなく、しかも納得する部分が多いんだが、このドラマにも同様の主張が出てきて、ドラマに味を添えている(「学校での多少の問題は、子どもにとってむしろ乗り越えるべき課題になる」などというセリフが出てくる)。全体的に少々小ぶりではあるが、見る者をグイグイ引っぱっていくような部分は山田ドラマ健在と言えるもので、よくまとまった良いドラマと言える。
2008年日本民間放送連盟賞最優秀受賞、文化庁2008年度芸術祭優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『せつない春(ドラマ)』
竹林軒出張所『奈良へ行くまで(ドラマ)』
竹林軒出張所『小さな駅で降りる(ドラマ)』
竹林軒出張所『香港明星迷(ドラマ)』
竹林軒出張所『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと(本)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-10-01 06:41 | ドラマ

『香港明星迷』(ドラマ)

香港明星迷(2002年・テレビ東京)
演出:松原信吾
脚本:山田太一
出演:薬師丸ひろ子、室井滋、山本未來、山崎努、イーキン・チェン、堺雅人、岡田眞澄、徳井優、クリステル・チアリ

山田ドラマらしく題材がユニーク

b0189364_08020920.jpg 『せつない春』『奈良へ行くまで』『小さな駅で降りる』に続くテレビ東京製作の山田ドラマ第4弾。これも放送時見たんだが、あまり良い印象を持っていなかったドラマである。今回見たら、それなりにインパクトのある作品で、やはり山田作品は侮れないと感じた次第。
 フランスの有名靴ブランドの日本支店で、営業部長をやっている女性(薬師丸ひろ子)が主人公。この主人公、イーキン・チェンという香港の歌手に入れ込んでおり、たびたび香港に行っている。ところが実は彼女自身、会社のマーケティング方針を変える(どうしても変わらなければ自ら新ブランドを立ち上げる)という野望を持っていて、そのために香港に渡ってあれこれと画策していたのだった。しかしこのことが明るみに出て、しかもこれは本社の意向に反することであり、両者の間に確執が生まれるというストーリー。他に、香港で知り合うイーキン・チェン・ファンの女性(山本未來、室井滋)との関係(友情や裏切り)もサブプロットになっており、プロットは重層的である。見た後もそれなりに心地よさが残る。
 キャストは山田ドラマとしては珍しい俳優が多い。常連の山崎努は特別出演扱いである。遣り手営業部長役の薬師丸ひろ子は当時38歳で、なかなか魅力的である。また1999年製作の『玩具の神様』ではチョイ役だった堺雅人は割合重要な役で出ている。このあたりから顔が売れるようになったのではないかと思われる。
 受賞歴もなく比較的地味な作品ではあるが、テレビ東京作の前3作にひけをとらない快作で、2時間飽きさせないのはさすがと言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『せつない春(ドラマ)』
竹林軒出張所『奈良へ行くまで(ドラマ)』
竹林軒出張所『小さな駅で降りる(ドラマ)』
竹林軒出張所『本当と嘘とテキーラ(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-09-30 08:02 | ドラマ

『小さな駅で降りる』(ドラマ)

小さな駅で降りる(2000年・テレビ東京)
演出:松原信吾
脚本:山田太一
音楽:久石譲
出演:中村雅俊、樋口可南子、堤真一、牧瀬里穂、奥貫薫、根岸季衣、柄本明、佐藤慶、山崎努、前田亜季

仕事が大変なら辞めたら?というメッセージが新鮮

b0189364_08132373.jpg 『せつない春』『奈良へ行くまで』に続くテレビ東京製作の山田ドラマ第3弾。これもテレビ東京らしくビジネスに関わる話で、テレビ東京製山田ドラマのひとつの特徴が確立されているようで大変よろしい。
 社長直属の新しい部署に起用され、仕事に忙殺される管理職(中村雅俊)とその部下(堤真一)の話。この部署、若社長が単独で行ったリストラの責任を負わされるなど、負の役割を負って社内でうとまわれはじめているだけでなく、立ち上がってから何の実績も上げていないため、メンバーたちは何とか実績を上げようと躍起になっている。そのために彼らは残業も厭わず、仕事に追われまくる日々を送っている。そこにこの2人の妻たち(樋口可南子、牧瀬里穂)が動き出し、彼らを激務から解放させるために仕事を辞めさせようと画策するという展開になっていく。過労で潰れるくらいならさっぱり辞めてしまえという山田太一のメッセージが強く打ち出されたドラマである。内容を考えると、逆にテレビ東京らしくないとも言えるか。
 もちろん現実的にそうは簡単に行かないもので、このドラマでもそのあたりで一悶着あるわけだが、会社人間にならずに人間らしく生きよう、「小さな駅で降り」たらどうだというメッセージは新鮮である。
 このドラマも放送時見ているが、内容についてはほとんど憶えていなかった。ただ、男が牛に追われまくるスペインの祭りの映像に対して、樋口可南子が「こういうことをやるのは男だけよねぇ」とコメントするシーンははっきりと明確に憶えていた。お説ごもっともで、このドラマのテーマにも重なる部分である。
2000年日本民間放送連盟賞優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『せつない春(ドラマ)』
竹林軒出張所『奈良へ行くまで(ドラマ)』
竹林軒出張所『香港明星迷(ドラマ)』
竹林軒出張所『本当と嘘とテキーラ(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-09-29 08:14 | ドラマ

『奈良へ行くまで』(ドラマ)

奈良へ行くまで(1998年・テレビ東京)
演出:松原信吾
脚本:山田太一
音楽:本多俊之
出演:奥田瑛二、安田成美、村上弘明、佐藤慶、山崎努、石橋蓮司、篠井英介、石丸謙二郎、小倉一郎、平泉成

なぜ奈良なのかは最後までわからなかった

b0189364_18511052.jpg 『せつない春』に続くテレビ東京製作の山田ドラマ第2弾。これも経済のテレビ東京らしくビジネスに関わる話で、建設会社の談合をあぶり出した意欲作。副題に「夫が汚職に踏み切る時」というタイトルが付いていてセンセーショナルだが、結果的に見てられないほどの悲惨な状況には陥らない。建築談合については非常に面白い扱い方で、素材がはなはだ新鮮である。もっともそれだけで終わるとドラマとしては奥行きがない浅いものになってしまうが、そこはやはり山田太一、しっかり夫婦のあり方、友人との関係なども描かれて、重層的で奥行きを感じさせるものに仕上がっている。不倫を匂わせる『岸辺のアルバム』みたいな要素まで出てくるし、途中、夫が美人妻を自分の仕事のために妻に言い寄っている友人の元に行かせるなど、AVみたいなストーリー展開もあって(エロシーンはありません)、人間の関係性を描かせたら山田太一の右に出る者はないなとつい感じてしまう。ただし、なぜ最後に奈良が出てくるのかはわからない。なぜ奈良なのか、なぜタイトルにまで使われるのか、俳句みたいに直接関係のない別物を並べてそこに味を出したのではないかと推測するが、それでもなぜ奈良なのかはわからない。別に奈良でも良いし実のところそれほど気になるわけではないが、こういう使い方については随分思い切ったなーとは思う。
 今回見るのは二度目だが、内容についてはまったく憶えていなかった(この後のテレビ東京版山田ドラマ『小さな駅で降りる』『香港明星迷』『本当と嘘とテキーラ』については部分的に憶えている)。しかし内容はかなり濃密で決して侮れない作品である。なんと言っても、政治家役の山崎努、怪しいジャーナリスト役の石橋蓮司のタヌキぶりがすごい。タヌキぶりと言えば、主人公に汚職をそそのかす同僚役の佐藤慶は、これはもう放送史に残るような名演で、数ある佐藤慶出演作品の中でも屈指のタヌキキャラクターではないかと思う。また安田成美の美しさも群を抜いている。主人公のエリート同級生(村上弘明)が参ってしまうのも仕方がないという見事なキャスティングである。山田ドラマの常連が揃っている上、うまい役者が勢揃いしていて、ストーリーと言いキャスティングと言い、申し分のない贅沢なドラマである。
1997年度ギャラクシー賞奨励賞、1998年日本民間放送連盟賞最優秀賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『せつない春(ドラマ)』
竹林軒出張所『小さな駅で降りる(ドラマ)』
竹林軒出張所『香港明星迷(ドラマ)』
竹林軒出張所『本当と嘘とテキーラ(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-09-28 06:50 | ドラマ

『ねてもさめてもとくし丸』(本)

ねてもさめてもとくし丸 移動スーパーここにあり
水口美穂著
西日本出版社

丁寧な作りと著者の人間性が魅力

b0189364_07381503.jpg 「とくし丸」という名前の、ド派手な移動販売車がうちの近所にも来るんだが、「とくとくとーく とくしまる」という妙に明るい音楽が流れて、なかなか鮮烈な印象がある。僕は田舎で育ったのであの手の移動販売車には馴染みがあるが、今の時代はまた、かつてと異なる需要があるらしい。というのも、今の時代、地域の小規模の商店がコンビニチェーンによって駆逐されてしまったため、限界集落に住まうお年寄りは買物すらままならなくなっているというのだ。このような地域では移動販売車が人々に買物の機会を提供することになるため、こういった移動商店は福祉の立場からも重要性が出てくる。
 で、あの「とくし丸」も実は一種のチェーン事業で、近所の大手スーパーと提携しながら、そのスーパーの商品を預かる形で販売するというシステムになっているらしい。名前から想像できるように徳島出身の人(住友達也って人)が始めた事業で、とくし丸本部と地域のスーパーがロイヤリティ契約を結び、さらに地域のスーパーと、販売を担当する個人事業者が契約を結ぶという形態で運用される。スーパー側は商品の販路を拡大できるというメリットがあり、その見返りとしてとくし丸にロイヤリティ料を支払う(3万円/月)。個人事業者は、朝、スーパーで必要な分だけ仕入れを行い(買い取りではないため商品はスーパーに返却可能)、それを一定のルートに従って販売し、売上の17%を収益として得られるという仕組みになっている。がっぽり儲けをさらっていくコンビニチェーンに比べるときわめて良心的なシステムであるが、これはとくし丸本部の考え方に福祉事業という発想があるためで、だがしかしこんなんで本部はやっていけるんだろうかとも思う。ちなみにこの本の執筆時点で全国にあるとくし丸の事業者は200人(つまり200台の移動販売車)ということらしい(単純計算すると600万円/月の収益ということになる)。なお個人がこの事業を始めるにあたり、とくし丸仕様の車両を用意しなければならず、それに350万円かかるらしい。個人事業者としてはこのあたりが最大のハードルで、しかも仕事も結構激務のようだが、販売や営業に向いた人であれば、それなりに良い仕事なのではないかとこの本を読んで思う。なおこの本では、ここまで述べたロイヤリティ関連のシステムや費用が詳しく書かれているので、諸々の事情は非常によくわかる。少なくともコンビニ事業に見られるような、事業者がエラい目を見るというシステムではなさそうなのは確かである。
 このようなシステムで個人事業者としての活動を始めた京都の女性が、ブログで綴った「とくし丸奮戦記」がこの本の元になっており、客との触れあいや家族、スーパー担当者、とくし丸本部などのサポートが率直に書かれている。この著者、販売業が天職であるかのような人で、客との触れあいが楽しくてしようがないらしい。そのウキウキ感は率直な文章を介して読者にも伝わってくる。同時にそういうような環境で商売できるとくし丸のシステムも評価に値すると感じる。地域の人々にも歓迎されているらしく、ものをもらったりトイレを借りたりとか人と人との交流が、読んでいて大変心持ちが良い。元々はブログの文章であるが読んでいて気持ちの良い本に仕上がっている。
 またこの本で一番感心したのが本の作りが非常に丁寧であるという点である。校正がしっかりしているのは当然だが、本のたたずまいが非常に良い。「ねてもさめてもとくし丸」というタイトルも秀逸で、イラストがまた良い。装丁については、とくし丸の販売車のデザインをした人がやったらしいが、(当然だが)とくし丸の雰囲気が再現されていてこちらも良い味を出している。昨今雑に作られた本がやけに多いが、この本については丁寧さがとても目を引く。それがまた著者の人柄を反映しているようにも映るわけで、こういう丁寧さは出版事業には大切である。
★★★☆

参考:
竹林軒『百円ショップを巡りながらこう考えた』
竹林軒出張所『低価格時代の深層(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『地方発ドキュメンタリー(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あわわのあはは 徳島タウン誌風雲録(本)』

# by chikurinken | 2017-09-26 07:38 |

『漱石の印税帖 娘婿がみた素顔の文豪』(本)

b0189364_07590375.jpg漱石の印税帖 娘婿がみた素顔の文豪
松岡譲著
文春文庫

文豪たちが活き活きと蘇る

 漱石の弟子の1人で新思潮派のメンバーでもある松岡譲が、漱石と新思潮派の同人たちとの想い出を語る短編集。
 著者の松岡譲、漱石の弟子ではあるが、同時に漱石の長女、筆子の夫、つまり娘婿でもある。もっとも2人が結婚したのは漱石没後である。しかも結婚に際して、久米正雄が筆子に必死にアプローチしていたにもかかわらず筆子の方で松岡を選んだといういきさつがあって、このあたりちょっと『こころ』を彷彿させる話である。このいきさつについては本書収録の「回想の久米・菊池」という一編に詳しい。久米正雄は当時かなりの遊び人で、漱石の兄弟子たちからは筆子に近づくなとしきりに警告されていたという存在で、しかも筆子に振られた後は、筆子と松岡をひどい人間であるかのように自身の小説で取り上げ続けたという、ちょっとしたろくでなし人間である。だが久米は、こういったスキャンダラスな小説で名前を挙げていき、一方の松岡はこの事件後、小説執筆を断つなどということをやった(このあたりも漱石の小説のようだ)ため、小説家としての名声は久米の方が上がっていくというんだから人生はわからないものだ。またこの一編には、若き日の(全然売れていない頃の)菊池寛が出てきて、これがまたすごいいい人で、久米、菊池についてはこれまで持っていた印象と大分違う上、この小説では、彼らの人間像が活写されていて、内容的にも大変興味深い作になっている。
 他に、新思潮同人の芥川龍之介について書かれた「二十代の芥川」もよくできた小説で、こちらも芥川が活き活きと現れてくる。最後の方の「彼の死ぬ前年の十二月九日、漱石の十三回忌の時雑司ヶ谷の墓前で久々で逢った時には、その顔に死相といってもよさそうな、まるでポオの小説の挿絵みたいなものが現れていてびっくりした。岡本かの子が「鶴は病みき」で書いた、電車の中の子供が「オバケッ」と泣き出したというあの顔なのだ。」という記述は迫力がある。
 漱石について書かれた「宗教的問答」や「『明暗』の頃」でも、人間・漱石が活写されている。著者の小説に出てくる文豪たちは、どれも友人だったり先輩だったり師匠だったりで、読者も彼らを一人の人間として身近に感じられるのは、著者の筆力のせいか。鈴木三重吉について書かれた「三重吉挿話」も良い。
 本書は、基本的には漱石について書いたものの方が数が多いが、タイトルにもなっている「漱石の印税帖」などは小説というよりレポートみたいなもので、漱石作品の出版歴をまとめたという類の話で面白味はまったくない。なぜこれをメインに持ってきたのかよくわからない。「贋漱石」と「漱石の万年筆」は、漱石死後の遺物についての話でこちらはエッセイみたいな内容。
 やはり本書の目玉は、直接の知人である若き日の文豪たちの有様を描いたものであり、これも一種の青春記と言えるのかも知れない。ただ、エライ人の娘婿になるということも結構つらいことだということがわかった。なお、作家の半藤一利は、この松岡譲の娘婿で、漱石の義理の孫ということになる。この人もつらかったのかね。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『こころ(本)』
竹林軒出張所『夏目漱石の妻 (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『夏目漱石の妻』(2)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『漱石悶々(ドラマ)』
竹林軒出張所『吾輩は猫である(映画)』
竹林軒出張所『三四郎(本)』
竹林軒出張所『草枕(本)』
竹林軒出張所『昭和史 1926-1945(本)』

# by chikurinken | 2017-09-25 07:59 |

『平安京はいらなかった 古代の夢を喰らう中世』(本)

b0189364_08495275.jpg平安京はいらなかった
古代の夢を喰らう中世

桃崎有一郎著
吉川弘文館

歴史の虚像と実像

 京都の立命館大学で「京都学」を教えていた著者が、京都を離れるに当たって、その成果を「卒業論文」としてまとめたのがこの本。参考文献などにも詳細に言及しており、学術論文のようなたたずまいである。
 平安京は、元々外交儀礼のために(つまり諸外国に対する見栄で)作られており、行政機能を遂行する上で必要である以上の大きさと規模を持っていたため、結局初期のプラン通り完成することはなく、後にはその領域の多くが本来の役割で使われなくなっていったというのが本書の内容。実際、現在の京都の市街域は旧「左京」に著しく偏っており、現在の京都御所も、かつての内裏の位置とはまったく違っていて、かなり「左京」よりである。そのあたりのいきさつも、背景の政治史と交えながら詳細に説明されており、大変わかりやすい。内容はかなり専門的だが、説明が丁寧であるため、わかりにくいということはない。ある程度の日本史の知識があれば十分楽しめる。また、おそらく平安研究者の間では常識であると考えられる位階制度(正一位から従初位下まで)の詳細や平安京の基本構造である条坊制などについても非常に丁寧に説明されているのも好感が持てる。この時代の歴史や文学に興味があれば、かなり食いついてしまう内容ではないかと思う。大内裏の門の名前の由来(119ページ)や、朱雀大路が畑として使われていたという話も興味深い。またわかりやすい図版が多用されており、しかもその言及箇所も正確で、しっかり作られた本であることがわかる。校正もきっちり行われているようで本としての完成度も高い。本を出すならこのくらいのレベルのものを出してほしいものである。良い本だ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『京都御所 〜秘められた千年の美〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『丸竹夷にない小路(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都 冷泉家の八百年(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『六国史 ― 日本書紀に始まる古代の「正史」(本)』

# by chikurinken | 2017-09-23 08:51 |

『和歌のルール』(本)

b0189364_18282908.jpg和歌のルール
渡部泰明編
笠間書院

和歌の修辞の基礎

 タイトル通り、和歌のルール、修辞法について解説する本。編者は『古典和歌入門』の著者である渡部泰明。
 枕詞、序詞、見立て、掛詞、縁語、本歌取り、物名、折句・靴冠、長歌、題詠の10章立てになっており、章ごとに異なる和歌研究者が解説していく。どれも非常にわかりやすく、著者たちが感じているであろう、和歌の面白さが十分に伝わってくる。掛詞の章で、「立ち別れいなばの山の峰におふる」の歌を二段構成で図式化していたりするのも面白い表現である。
 とは言え、ほとんどが高校で教わるような比較的基本的な事項であるため、目新しさはあまりない。この本の特徴は、あくまでも和歌の技巧に対するアプローチの方法であり、和歌入門という位置付けから出ることはない。だが良い本であるのは確かで、手元に一冊置いておきたいと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『古典和歌入門(本)』
竹林軒出張所『恋する伊勢物語(本)』
竹林軒出張所『短歌をよむ(本)』

# by chikurinken | 2017-09-22 07:28 |

『アフガニスタン 山の学校の記録』(ドキュメンタリー)

アフガニスタン 山の学校の記録 マスードと写真家長倉洋海の夢
(2017年・NHK)
NHK-ETV ETV特集

再建は草の根から

b0189364_20004417.jpg ソビエト連邦がアフガニスタンに突然侵攻したのは1978年。ソビエト連邦が事実上敗北して撤退した後は、今度は狂気のタリバンが権力を奪い、そのために永らくアフガニスタンは暗黒時代を迎えることになった。
 ソビエトに対するレジスタンスの中に、アフマド・シャー・マスードという男がいた。勇敢であり人望があったことから、アフガンのチェゲバラと呼ばれた。ソ連撤退後は暫定政府の要人にもなり、タリバンとの戦闘にも参加した。だが、2001年9月9日(9・11の2日前)に暗殺されてしまう。
 そのマスードだが、生前、アフガンの再建にとって必要なのは教育であるという理念の下、山間部に小さな小学校を作った。当時マスードに接近していた報道写真家、長倉洋海もマスードの理念に共感し、支援活動を始めた。もちろん、この小学校と生徒をずっと撮影し続けた。その後マスードの死、アメリカの軍事介入、タリバン政権の崩壊を経て現在に至るが、この学校はその後も存続を続け、地域からの支援も受けるようになった。卒業生には大学に進学する者まで現れ、中にはこの学校で教える者までいる。将来を担う人材が育成されているわけで、まさにマスードの理念が生き続けている。
b0189364_20004848.jpg このドキュメンタリーは、この過程を長倉洋海の視点から紹介するもので、長倉が撮影したかつての子ども達の今の姿、この学校への思いなどが紹介されていく。アフガン再生のモデルになってほしい事例で、中村哲氏の活動(竹林軒出張所『武器ではなく命の水を(ドキュメンタリー)』を参照)ともども、闇夜の中の光明のように映る。アフガンが再生して発展し、第2、第3のマスードが現れて国の建設に携わることが望まれる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『武器ではなく命の水を(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アフガン秘宝の半世紀(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『バーミヤンの少年(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『祖国に幸せを(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『タリバンに売られた娘(ドキュメンタリー)』
竹林軒『圧倒的な迫力、アフガン版ネオリアリズモ』

# by chikurinken | 2017-09-20 07:00 | ドキュメンタリー

『プリズン・シスターズ』(ドキュメンタリー)

プリズン・シスターズ
(2016年・スウェーデンNima Film他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

その後の『塀の中の自由』

b0189364_20325256.jpg 『塀の中の自由 アフガニスタンの女性刑務所』のその後。
 あのドキュメンタリーの主人公サラが、スウェーデンに亡命する。例の女性刑務所を出所した後別の男と結婚していたが、同作品のスウェーデンでの上映会の際にスウェーデンに赴き、その際に難民申請をすることになったというわけである。
 いつ殺されるかわからない(恥さらしの人間ということで親戚から命を狙われていた)アフガニスタンでの日々に比べると、スウェーデンでの日々は自由で平和である。女であるために虐げられてきたアフガンとは大違い。難民申請をしたのはそういういきさつである。
 一方で、刑務所の中で一緒だったナジベのその後も気になる。出所後石で撲殺されたという噂も聞く。真相を確かめるためにこのドキュメンタリーのディレクターがアフガンに赴き、方々を訪ねまわった結果、ついに生きている彼女を突き止めることができる。しかし彼女は娼婦に身を落としていた。そしてその後連絡を断った。
b0189364_20325732.jpg サラの方は難民申請が認められ、夫をスウェーデンに呼び寄せることになる。夫はアフガン式の女性の扱いをスウェーデンでも継続しようとし、ブルカ(女性の姿を隠すベール)の着用をサラに求める。サラは断固反対していたが、やがて夫がやってきて同居が始まるに及んで、ブルカを着ることになったらしい。そしてその後、ディレクターとも連絡が取れなくなったということである。
 アフガンの女性解放がはるか遠くにあることを思い知らされる、少々暗くなるドキュメンタリーである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『塀の中の自由 アフガニスタンの女性刑務所(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『タリバンに売られた娘(ドキュメンタリー)』
竹林軒『圧倒的な迫力、アフガン版ネオリアリズモ』
竹林軒出張所『祖国に幸せを(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-09-19 07:32 | ドキュメンタリー

『“肉”は健康の敵?』(ドキュメンタリー)

“肉”は健康の敵? meatの真実(2016年・英BBC)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

エセ「科学」に騙されてはならない

b0189364_11532405.jpg タイトルから肉食についての問題点を追求するドキュメンタリーかと思ったら、あに図らんや肉食を全面肯定する番組だった。しかもそれを「科学的」に証明するなどといいながら、どれも「栄養学」に基づいたいい加減な実験と結論で、肉は完全な栄養食で取り過ぎに注意し取り方を工夫すれば良いという面白味のない結論を引き出す。そんな番組いりますかと言いたくなるようなチープなドキュメンタリーである。
 たとえばさまざまな値段の鶏肉(オーガニックのものやケージ外のもの、特別な飼料を与えたものなど)を比較し、どれも変わらないという結論を出したりする。実際番組で比較したのは脂肪の量に過ぎず、しかも飽和脂肪酸に至っては放し飼いのものの方がかなり少ないという結論だったにもかかわらず、「どれもさして変わらない」という結論を出すムチャクチャぶり。
 また、食肉処理の現場を取材しながら、屠殺の現場を完全に省略して、しかも「こうして見るとその辺の肉屋と変わらない」などとヌケヌケと言うなど、ここまでなると意図的な捏造である。内容が退屈でチープな結論を出しているだけでなく、むしろ間違った情報を流すという意味で有害である。消費者は『チョコレートで痩せる?』の教訓に従って、こういったエセ「科学」に騙されないよう気をつけなければならない。
★★

参考:
竹林軒出張所『Love MEATender(ラブ ミートエンダー)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『食について思いを馳せる本』
竹林軒出張所『いのちの食べかた(映画)』
竹林軒出張所『フード・インク(映画)』
竹林軒出張所『ありあまるごちそう(映画)』
竹林軒出張所『100マイルチャレンジ 地元の食材で暮らす(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『チョコレートで痩せる?(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-09-17 11:53 | ドキュメンタリー

『チョコレートで痩せる?』(ドキュメンタリー)

チョコレートで痩せる? 〜ドイツ ダイエット商法のからくり〜
(2015年・独k22 Film & Entertainment)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

あくまでも個人の感想です

b0189364_07332930.jpg 世の中に出回っているさまざまな「贋の」ダイエット方法に異議を唱えるドキュメンタリー。
 リンゴで痩せるとか、納豆で痩せるとか、世間ではいろいろなダイエット方法が紹介され、また一部の消費者がそれを真に受けて、そのダイエット法に果敢に挑戦し案の定失敗に終わる。世の中にはこの手のエセ情報が大量に出回るわけだが、中には科学的な裏付けがあるかのごとく紹介されるものもある。たとえば有名科学雑誌で証明されたなどの権威付けが行われるのも日常茶飯である。しかしこのような権威付けを行うのは、意外に簡単だというのがこの番組の主張である。この番組では実際に、「チョコレートでダイエットができる」というデタラメな説を素材にして、そのことを実証してみせるのである。
 たとえデタラメな説でも、さまざまな恣意的な方法を利用することで、実験結果で裏付けされた(かのような印象を与える)結論を導き出すことができる。このドキュメンタリーでは、ある命題(この場合は「チョコレートでダイエットができる」)を証明するために、実験環境を恣意的に操る、実験データを(嘘にならないように)都合の良いように編集する、それを論文にして科学雑誌に発表するという手順を実行する。これが首尾良く行けば、その説を科学雑誌の権威で裏付けることができるため、たとえデタラメな命題であろうと、世間では事実であるかのように扱われるという具合である。そもそも、ほとんどの人は論文になど目を通さないで、結果だけを見るため、過程がどうだということは知らないままである。いくらインチキな論文であっても、有名雑誌に紹介された時点で「事実」になってしまうという按配である。
 実際、怪しげな命題が事実であるかのように世間に喧伝されているのは我々の目にするところで、ネットだけでなく新聞などでも、ツッコミどころ満載の珍説が真実であるかのようによく発表されている。医学界でも同じようなことが起こっていて、結局患者がその被害を被るのだということを近藤誠が著者(『成人病の真実』『健康診断は受けてはいけない』)で告発していたが、この番組で紹介されている状況もあのケースと重なる。何も考えずに情報を鵜呑みにすると、知らない間にだまされちゃうよということ。それがこのドキュメンタリーのテーマである。みんな気をつけよう。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『成人病の真実(本)』
竹林軒出張所『健康診断は受けてはいけない(本)』
竹林軒出張所『史上空前の論文捏造(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『調査報告 STAP細胞 不正の深層(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-09-16 07:34 | ドキュメンタリー

『メモリー・ハッカー』(ドキュメンタリー)

メモリー・ハッカー 〜あなたの記憶が塗りかえられる〜
(2016年・米Little Bay Pictures/WBGH)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

期待を持たせるタイトルだったが物足りない
こっちの期待が塗りかえられてしまった


b0189364_19161165.jpg 人間の記憶についてのあれこれを紹介するドキュメンタリー。
 過去のことをやたら詳細に憶えている人々が登場したり、記憶のしくみが解明されたときの過程が紹介されたりする。ただし全体的に非常に散漫な構成なのが残念。目玉トピックは、タイトルにもなっているように、記憶が第三者によって恣意的に塗り替えられるということを実験で示しているあたりだが、むしろこういう点に絞って1本の番組にするとかした方が良かったかなと思う。この事実は冤罪に繋がったり、あるいは一時期アメリカでブームになった「心理療法」(その結果、子供から親に対して性的虐待の訴えが行われた事例)などとも関連して、深く掘り下げるだけの価値があると思うが、掘り下げ方が浅く、ごく簡単に紹介しましたという程度の内容だったのが実に不満である。ともかく、全体的に少し雑多でテーマが絞り込めていないような印象を受けたのは事実で、そのためか知らんが、終わりの方は眠くなってしまった。期待が大きかっただけに失望感が残るドキュメンタリーだった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『なぜあの人はあやまちを認めないのか(本)』
竹林軒出張所『「金縛り」の謎を解く(本)』
竹林軒出張所『脳は眠らない 夢を生みだす脳のしくみ(本)』
竹林軒出張所『ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?(本)』

# by chikurinken | 2017-09-15 07:15 | ドキュメンタリー