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竹林軒出張所

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『スターウォーズ レーガンのハッタリ』(ドキュメンタリー)

スターウォーズ レーガンのハッタリ(2016年・仏Sunset Presse)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

無能な指導者のハッタリは
予想以上にうまく機能した


b0189364_19023930.jpg 1980年にアメリカ大統領になったロナルド・レーガンは、徹底した反共主義者だったこともあり、ソ連を倒し強いアメリカを取り戻すことを政策の中心に置いていた。
 そのレーガン政権が1983年にぶち上げたのが戦略防衛構想(SDI)、俗に言うスターウォーズ計画である。これは大陸間弾道弾を宇宙空間でことごとく撃墜するというシステムで、これが実現すると、ソ連の核攻撃を無力化することができるという話だった。当時冷戦状態は続いており、核の均衡により平和が保たれていたため、これが実現した暁には、ソ連は一方的にアメリカの核攻撃の危機にさらされることになる。ソ連側も、現実的には不可能と疑いながらもそれに対する対策を行わなければならなくなる。国家予算の40%にまで達していた防衛費はますますかさむことになる。
 一方でレーガン政権はサウジアラビアと蜜月関係を築きあげ、原油を大量に市場に流すことで原油価格を大幅に引き下げることに成功する。これにより、ソ連の数少ない外貨獲得手段だった石油は、価格が暴落しソ連の収益も激減。これがソ連経済に致命的な打撃を与えた。
 さらにアフガニスタンに侵攻していたソ連に揺さぶりをかけるため、反ソ・ゲリラ勢力(イスラム原理主義勢力を含む)に莫大な支援を与えることで、間接的にソ連の経済を揺さぶるということも行っている。この3つの条件がソ連の崩壊に繋がったとするのが、このドキュメンタリーの主旨である。なおこの番組では、SDIについてはまったくのホラだったとしている。
 確かにこういったことがソ連崩壊の原因になったとは思うが、レーガンが意図的にやったかどうかは怪しいところで、もし意図的にやっていたとしたら(このドキュメンタリーでも否定的に扱っているが)これはレーガン政権の外交的な成果ということになる。ただレーガンにそれだけの能力があったとも思えず、あくまでも結果論だと僕などは考える。歴史が誰かの意図通り進んでいくなどということはあまりないものである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史 (8)〜(10)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『インサイド・ジョブ(映画)』

# by chikurinken | 2017-10-20 07:02 | ドキュメンタリー

『大魔神』、『大魔神怒る』、『大魔神逆襲』(映画)

大魔神(1966年・大映)
監督:安田公義
特技監督:黒田義之
脚本:吉田哲郎
美術:内藤昭
音楽:伊福部昭
出演:高田美和、青山良彦、藤巻潤、五味龍太郎、島田竜三、遠藤辰雄、伊達三郎、出口静宏、二宮秀樹

b0189364_20552151.jpg下克上と大魔神

 『大魔神』シリーズ第1作。善政を敷いている為政者(守護大名か)がクーデターで追われ、命からがら逃げた若君と姫が、元近臣の力を借りて、再び政権を奪回しようとする、というのがメインのストーリー。お約束通り、下克上のクーデターで政権を取った一派は、悪政を敷き領民は苦しめられ、しかも村人の守り神である魔神像まで破壊しようとする。そういう具合に、善と悪の争いに魔神が絡んできて、最後はお決まりの勧善懲悪で、現人神として現れた魔神が大暴れするという話である。
 基本的に子ども向けの特撮映画ということで、細かいところがご都合主義だったりするんで、そのあたりがガッカリなんだが、脚本は割合よくできている。題材は面白いのに演出が今イチなんで、この映画なんかまさにリメイクにふさわしいと思うんだが、いまだにリメイクはない。特撮シーンは非常に良くできていて、建物を破壊しまくる大魔神にヒヤヒヤする(NGを出したら取り返しがつかない)。いずれにしても破壊シーンは特筆ものである。また美術も大映作品らしく豪華である。なお若殿を演じる二宮秀樹は、第3作の主人公、鶴吉も演じている。『マグマ大使』でちびっ子ロケット、ガムを演じている子役である。
★★★

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大魔神怒る(1966年・大映)
監督:三隅研次
特撮監督:黒田義之
脚本:吉田哲郎
美術:内藤昭
音楽:伊福部昭
出演:本郷功次郎、藤村志保、丸井太郎、内田朝雄、北城寿太郎、藤山浩二、上野山功一、神田隆、橋本力、平泉征

b0189364_20552758.jpg戦国時代と大魔神

 『大魔神』シリーズ第2作。全3作の中で一番地味と言える。今までたびたび見ているはずなのに、『十戒』ばりに湖が割れるシーン以外はまったく憶えていなかった。
 ある領国が隣の領国に侵略されるという、戦国時代にはよく起こったであろう話が題材になっている。ただひとつ違っていたのは、農民を大切にしていた為政者が滅ぼされ、悪政を敷く悪人が支配者になったということ。また例によって、村人の守り神である魔神を破壊するのである。やがて、何とか逃げ延びた侵略された側の若君が見つけ出され処刑……という算段になって、魔神様がお怒りになるという具合に話が進んでいく。前作と舞台や設定は違うが、根本的には同じで、ワンパターンの展開になる。日本の子どもは子ども時分からこういった「ワンパターン」に慣らされるので、ワンパターンドラマが流行ったのかも知れない……などと考えてしまう。ただこういった映画を見ると逆に、ワンパターンの良い面がわかることもある。この映画など、善が悪に虐げられるというストレスを観客に与えまくり、最後の最後に「スカッとジャパン」になるという典型的な復讐劇である。あまりに模範的で、観客は少々アホらしいと思いながらも、最後の最後には安心するわけだ。悪が栄えて映画が終わるとなると、見ている方はストレスを抱えたまま家路につかなければならなくなる。見る側の心の中で収束しないで終わってしまい、いつまでもモヤモヤが残ることになってしまう。
 キャストは、特撮映画としては珍しく、本郷功次郎や藤村志保などの一線級俳優が登場。また、大魔神俳優(大魔神の着ぐるみを着ている人)の橋本力も、一般の役で出ていたそうな(全然気が付かなかった)。また若かりし日の平泉征も結構重要な役で出ていた。平泉征は『なんたって18歳』がデビューかと思っていたので意外だった。
★★★

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大魔神逆襲(1966年・大映)
監督:森一生
特撮監督:黒田義之
脚本:吉田哲郎
美術:内藤昭、加藤茂、西岡善信
音楽:伊福部昭
出演:二宮秀樹、堀井晋次、飯塚真英、長友宗之、山下洵一郎、仲村隆、安部徹、名和宏、北林谷栄

b0189364_20553242.jpg拉致・強制労働と大魔神

 『大魔神』シリーズ第3作。3作中、プロットがもっともしっかりしているのがこれ。だが演出が雑で、ディテールがいい加減なので、ツッコミどころが多くなってしまった。実際、かつて劇場で見たときはあちこちで失笑が起こっていた。こういうふうにシニカルな見方をされてしまうのは、作品として残念な結果と言える。
 ストーリーは、硫黄を採掘するために隣の国から拉致され強制労働させられている木こりたちの話。その木こりたちを救おうと、木こりの子どもや弟達4人が、決死の覚悟で魔神の山を通って隣国まで向かうというのがメインのプロットである。この山越えの過程では、野を越え山を越え、崖まで上っていく。(見た目では)かなりの崖を子ども達が実際に登っており、今こんな撮影をしたら児童福祉法で引っかかるんじゃないかというような大変そうなロケである。どこでロケをしたかはよくわからないが、劔岳に似た山が映っていたのでもしかしたら立山あたりで撮影したのかも知れない。また、他にもいろいろなエピソードが盛り込まれ、冒険譚としてなかなかよくできている。残念なのは、さっきも言ったようにディテールが適当な点で、これが致命的になっている。美術も相変わらずすごいし、映像も美しい。特撮もよくできていて申し分ないのに、いい加減な演出のせいで台無しである。結果的に子ども向け映画でとどまってしまうのだ。
 主演の子どもは、第1作でちょい役で出た二宮秀樹(『マグマ大使』のガム役で有名)。他は、あまり知らない俳優ばかりだった。唯一の例外は、山の老婆を演じていた北林谷栄ぐらいか。このとき55歳だから老婆役にはまだ早いが、この人、若い頃から老婆になるまで老婆ばかりを演じている。そのため結果的に息の長い老婆女優になった。アニメ(トトロのお婆ちゃん)でも老婆を演じていたから、こうなると国宝クラスである。
 この『大魔神』シリーズで取り上げられているプロットのように、拉致され強制労働させられて虐げられる(あげくに殺される)などというような不快な事例、あるいは為政者が自分の私腹を肥やすために民衆を段圧するという事例は今でもあるわけで、そういう連中は、願わくば魔神様が現れて滅ぼしてほしいと思うが、なかなかそうは行かず、悪が栄えることがあるのも現実である。せめて、こういった映画を見てスカッとしたらいかがだろうか(スカッとできるかどうかわからないが)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『大魔神甦る』
竹林軒出張所『ドラゴン怒りの鉄拳(映画)』

# by chikurinken | 2017-10-18 07:00 | 映画

『天地明察』(映画)

天地明察(2012年・角川、松竹)
監督:滝田洋二郎
原作:冲方丁
脚本:加藤正人、滝田洋二郎
音楽:久石譲
出演:岡田准一、宮崎あおい、佐藤隆太、市川猿之助、横山裕、笹野高史、岸部一徳、中井貴一、松本幸四郎、渡辺大、白井晃、市川染五郎、きたろう

アク抜きしたら風味もなくなった

b0189364_20555141.jpg 映画は原作とは別物であり、それは重々わかっているつもりだが、気に入った原作本の映画化となるとやはりかなり不満が残る。
 原作は冲方丁(「うぶかたとう」と読むらしいが、読めない)の同名歴史小説で、非常に完成度の高い作品であり、特にキャラクターの描き方が非常にうまい。渋川春海の貞享暦をモチーフにした(一種の)青春成長小説で、史実を割合忠実に辿りながらも、劇的な要素をそれなりに盛り込んでいる。渋川春海をはじめとする登場人物が魅力的で、関孝和、保科正之、水戸光圀、本因坊道策らが(どれも奇抜な性格ではあるが)活き活きと目の前に現れる。キャラクターだけでなく、この小説全体について言えるのだが、非常に映像的であり、情景が視覚的に描かれている。それを考えると、そのまま忠実に映像化したらそれなりの傑作になるのではと思うのだが、映画の作り手は、そうは思わなかったようで、随所に改変が行われてしまった。
 もちろん時間の制約や、映像化にまつわる制約があっただろうし、映画的な演出も必要だったことは想像できるが、だがたとえば忍者の集団が測量隊を襲ったりする戦いのシーンが果たして必要と言えるのかはなはだ疑問。まったく必然性を感じない。それにもしこういうエピソードを入れたいのであれば、もう少し後に入れなければ、話のつじつまが合わないような気もする。
 キャスティングについても、春海の妻の「えん」は原作では気丈な人で、だからこそ春海との関わりに面白さが出るんだが、映画の宮崎あおいの「えん」にはそういう要素がなく、「えん」関連の面白い部分はそっくり落としましたという結果になっている。おかげで単なる恋物語で終わってしまって面白さ半減。実にもったいない。他のキャストは概ね原作に合わせて選ばれているようだが、うまくいっているものはあまりない。保科正之がぎりぎりOKという感じである。本因坊道策は横山裕の雰囲気が非常に良かったが、こちらも一部キャラが殺されてしまった。この映画化全般について言えるが、濃い部分(つまり面白い味のある部分)をことごとくそぎ落として、アク抜きしたような作品になってしまっている。
 音楽も付け方があまりにありきたりで、一体誰が今どきこういった陳腐な音楽付けをするのかと思っていたら、久石譲だった。原曲はともかく、音楽監督の資質としては疑問符が付く。あるいは監督の意向かもしれないので何とも言えないが。
 この原作を映像化するのであれば、今流行りのドキュメンタリー・ドラマみたいな形を取るかなんかして随所に解説を入れる必要があると思う。やはり当時の暦や和算の状況、江戸幕府が文治主義に転換した背景、囲碁界の状況などをセリフだけで説明するのは無理がある。それに、そもそもが数十年に渡る物語であるため、これを2時間に凝縮するとなると根本的に足りない。最低6時間くらいは必要ではないかと思う。NHKで1時間×10回シリーズぐらいで作り直したら良いものができるかも知れない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『天地明察 (上)(下)(本)』

# by chikurinken | 2017-10-17 07:00 | 映画

『植木等とのぼせもん』(1)〜(7)(ドラマ)

植木等とのぼせもん (1)〜(7)(2017年・NHK)
演出:西谷真一、榎戸崇泰
原作:小松政夫
脚本:向井康介
出演:山本耕史、志尊淳、山内圭哉、浜野謙太、武田玲奈、中島歩、でんでん、坂井真紀、富田靖子、山本彩、中川翔子、鈴木愛理、高橋和也、勝村政信、優香、伊東四朗

植木等、いい人過ぎ

b0189364_20385325.jpg 先頃放送された『トットてれび』の二番煎じみたいなどラマ。植木等とその周辺の人々を描いたもので、『トットてれび』同様、あちこちに当時の再現映像が出てくる。『シャボン玉ホリデー』でやった有名なコントまで再現している(今見るとまったく面白くないが)。
 ただ、このドラマは、再現だけに終始して内容がまったくなかった『トットてれび』と違って、ドラマとしての体裁はしっかりできているためそれなりに見ることができる。原作が、植木等の付き人だった小松政夫の小説(『のぼせもんやけん』)であるということもあるが、人間・植木等が等身大で描かれていて、その植木等がまた感動を呼ぶくらい非常にいい人なんである。小松政夫の目に映った植木はこういう人だったんだろうが、そういう意味でもまさに「等身大」の人物像と言うことができる。
b0189364_20385975.jpg 劇中で小松政夫を演じるのは、志尊淳というジャニーズ風の優男で、小松政夫には全然似ていないが、それなりにがんばって新人付き人を演じている。植木等やクレージーキャッツの面々も、山本耕史や山内圭哉(ハナ肇役)、浜野謙太(谷啓役)らが演じているが、ほとんどの役者については、僕は今回初めて見た。ただ全員雰囲気や声色を似せており、それらしい雰囲気を醸し出している。しかも谷啓役の浜野謙太という人は実際にトロンボーンを吹く人だそうな(谷啓はトロンボーン奏者として当時から非常に有名)。なかなかの徹底ぶりである。山本耕史は「スーダラ節」や「ハイそれまでよ」なんかも劇中で歌っているが、こちらも声色が非常に似ていて植木自身の歌と聞き分けできないほどである。
 小松政夫から見た当時のクレージー周辺を再現したというのがこのドラマで、小松政夫自身の人生がドラマの中心になっていくが、そういう視点がはっきりしているためドラマとして破綻がない。人に見せるドラマを作るのであれば、最低限このくらいのドラマを作ってほしいものだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『のぼせもんやけん、のぼせもんやけん2(本)』
竹林軒出張所『トットてれび (1)〜(5)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ニッポン無責任時代(映画)』
竹林軒出張所『本日ただいま誕生(映画)』
竹林軒出張所『馬鹿まるだし(映画)』

# by chikurinken | 2017-10-16 07:38 | ドラマ

『大河ドラマ 平清盛 総集編』(ドラマ)

大河ドラマ 平清盛 総集編(2012年・NHK)
演出:柴田岳志他
脚本:藤本有紀
出演:松山ケンイチ、玉木宏、松田翔太、深田恭子、伊東四朗、三上博史、井浦新

院政期の上皇同士の確執がミソ

b0189364_20052672.jpg NHKの大河ドラマなんぞはもう20年以上ろくに見ていないが、院政期の勉強のためと思い、『平清盛』の総集編を見てみた。放送時につまらんなーと思いつつたまに目にしていたが、少なくとも白河法皇、鳥羽法皇、崇徳上皇あたりの描写がなかなか良かったため、このあたりに興味を持ったわけである。
 ドラマ自体は、以前の印象と同じく、実につまらないもので、特筆すべき部分もない。そもそもこのドラマの根底になっている歴史観に疑問を感じる。たとえば清盛や義朝の口から「武士の世の中を作るのじゃ」などというセリフが語られるが、こういう考え方はきわめて現代風で到底あの時代の考え方とは思えないため、根本からリアリティを欠いているように思える。また運命論的なセリフも結構あって、「後の時代から見た歴史」観から抜け出ておらず、言ってみれば古いタイプの歴史ドラマである。
 演技も特筆すべきことはなく、しかも年相応のメークもないため、年老いた清盛と息子たちとの掛け合いがあっても、彼らが親子なんだか兄弟なんだかわからないようなシーンが多い。こうなってくると学芸会というそしりを受けることも免れまい。ただし美術面はなかなか優れており、セット(あるいはCGかも知れないが)や衣装は実に良くできていた。また院政期の勉強にはなったので、それだけで良しとする。でもやっぱり大河はつまらんという考えに変わりはない。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『平家物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『新・平家物語(映画)』
竹林軒出張所『花の生涯 (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『坂の上の雲 (1)〜(13)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-10-15 07:04 | ドラマ

『天地明察 (上)(下)』(本)

b0189364_17062389.jpg天地明察 上
冲方丁著
角川文庫

抜群に面白い! お奨め

 昨今あまりフィクションは読まないが、ましてや最近書かれた(古典ではない)小説など滅多に読まないんだが、この小説は、碁打ちでありながら日本に新しい暦を導入した安井算哲こと渋川春海(しぶかわはるみ)が題材ということで興味が沸いたため読んでみた。そして久しぶりに感心した。非常に面白い!
 まずキャラクターが非常にうまく描かれている。本因坊道策が晴海に対局を迫り、それに晴海が応じないとムスッとするなど、キャラクター同士の関係性の表現も実に見事。また、晴海の上司に当たる建部昌明、伊藤重孝が子どものように喜ぶ姿も新鮮で微笑ましく感じる。保科正之や水戸光国、酒井忠清、それから関孝和などの有名人についても、描写がうまいため、眼前に活き活きと現れてくるように感じる。場面場面も映像が目に浮かぶように描写されており、そのまま映画化できるのではないかと思うほどである。
 渋川春海は、江戸時代前期、貞享暦を作成したというぐらいしか学校では教わらない(もっともほとんどの学校では時間の都合および教師の好みのために文化史にはほとんど触れないため、学校で教わることはないに等しい)が、この小説では、暦の改訂がどのような意味を持つか、また当時の日本でどれくらいの難題であったか、それを実現したことがどれほどの偉業であったかというのがよくわかるようになっている。内容が内容だけに、随所に細かい説明が出てきて、話の流れが中断するように感じられる部分もあるが、しかしこれがなければ登場人物の行動自体の意味がわからないので、致し方ない。説明の分量は必要十分であると思う。ただし僕個人、暦の問題については石川英輔の本でこれまで何度か読んでいたため、ある程度の知識があった。まったく知識がないと難解さが少し増すかも知れない。
 巻末に参考文献が取り上げられているのも、小説らしくはないが非常に良いと思う。特に和算と暦についてはかなりの知識がなければこれだけの小説をものすことはできないだろう。著者がどこからこの知識を仕入れたかは興味深いところで、僕自身も今後何冊か当たってみたいと思う。著者、冲方丁(「うぶかたとう」と読むらしい。読めないよ)は、SFやファンタジーをもっぱら書いていたそうで、本作あたりが時代小説の最初だったらしい。この後、この小説のスピンオフなんだかどうだかわからないが『光圀伝』という水戸光国(光圀)を題材にした小説を書いていて、こちらも人気が高いようである。『光圀伝』については少し興味が湧くところだ。また本作は映画化もされているが、内容から考えると、メディアとしては小説の方が合っていると思う。映画版は滝田洋二郎が監督し、渋川春海を岡田准一、延(えん、春海の相手役の女性)を宮崎あおいが演じているらしい。僕が小説で抱いていたイメージとは大分違うが、もちろんそういった感想は映画化につきものではある。問題なのは、原作というか史実を一部改変している(垂加神道の山崎闇斎が暗殺されるなど)点で、こういう改変が必要だったのかははなはだ疑問である。
第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『光圀伝 (上)(下)(本)』
竹林軒出張所『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法(本)』
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『ヒカルの碁 (1)〜(23)(本)』
竹林軒出張所『天地明察(映画)』

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 以下、以前のブログで紹介した本、『囲碁の世界』に関する記事。江戸時代の囲碁界の状況が紹介されている。

(2006年10月14日の記事より)
b0189364_17062784.jpg囲碁の世界
中山典之著
岩波新書

 ずいぶん前に買った本だが、最近TVアニメの『ヒカルの碁』を見たこともあって再読してみた。前に読んだときは、囲碁のルールも知らず、囲碁界の状況も知らずという状態だったこともあるのか、それほどの感激はなかった。たしかに読みやすく、囲碁にも興味を持ったが(この本を読んでから囲碁のルールを憶えたのだ)。だが、今回読んでみてなんて面白い本なんだと思った。
 おそらく『ヒカルの碁』で扱われている囲碁界の事情は、『ヒカルの碁』を見なくてもこの本を読めば一通り知ることができる。しかも、当時の海外囲碁事情や、江戸の囲碁史、囲碁よもやま話なども満載で、内容も非常に面白い。囲碁の世界を俯瞰できる優れ本である。
 ただし現在絶版のようで、古本を入手するか図書館で借りるかしか読む方法はない。
★★★★

# by chikurinken | 2017-10-13 07:05 |

『応仁の乱』(本)

b0189364_20082744.jpg応仁の乱
呉座勇一著
中公新書

ベストセラーに良書はない

 やけによく売れている本らしい。西暦1467年(応仁元年)に京都で起こった応仁の乱前後の歴史をまとめた本で、内容自体にあまり目新しさは感じない。なぜ売れているのか見当が付かないが「勝ちに不思議の勝ちあり」ということなんだろうか。
 さて内容だが、興福寺の別当だった経覚(きょうがく)と尋尊(じんそん)が残した日記を素材にして、同時代を辿っていくというもので、アプローチもありきたりで特に目新しさはない。で、足利義教が征夷大将軍に就任した時代(1428年 -- 応永35年)あたりから話が始まる。奇しくもこの年は正長の土一揆が起こった年で画期としては申し分ない。
 続いて、この頃の大和盆地周辺が、利権争いのために戦乱がいつ起こってもおかしくない状態だったと語り始める。著者はこれを「畿内の火薬庫」と表現している。この紛争に関わってくるのが河内の有力守護大名、畠山持国だが、その後、この畠山氏に後継争いが起こり、畠山義就と畠山政長が戦闘状態になる。それぞれの勢力に利害関係を持っている守護大名が、それぞれを支援することになり、また、八代将軍足利義政の後継争いも絡んできて、それが拡大し、京都での戦乱になったというのが、世に言う応仁の乱。このあたりのいきさつがかなり細かく時系列で紹介される。
 ただし登場人物が非常に多く、とてもじゃないがわかりやすい記述とは言いがたい。しかもそこに、著者と異なる考え方を持っている学者たちの名前まで引用してきたりしてややこしさもひとしおである。学者の名前をうっかり武将の名前と誤解してしまったりさえする。ただでさえ人物が多すぎるのになんでわざわざ増やすかなと思う。そもそも一般大衆に向けて書くべきこの手の新書で、他人の学説を引用したり反対したりする必然性があるのか。必要性があっても注をつけて巻末で紹介しておけば十分である。そういう点を鑑みると、この本は学術論文の延長として書かれていることがわかる。内容から考えると修士論文程度のものと考えられるが、そもそもが顔を向ける相手が間違っている。あくまでも新書であり学術論文ではないのだから、研究者群ではなく一般読者に語りかけるように書くのが、この手の本の筋ってものだと思うが如何。そのあたりは本来であれば編集者が指摘すべきではないかと思う。
 ともかく、これを一般人でも面白く読めるものにするためには、もっともっと話を切り詰めないといけない。とにかく不要な記述があまりに多く、また不要な登場人物も多い。特に興福寺関連の記述は、経覚と尋尊の関連で入れたんだろうが、ほとんどは応仁の乱の性格付けの上では不要である。第4章「応仁の乱と興福寺」、第5章「衆徒・国民の苦闘」はほとんどカットできる。内容から考えると、半分ぐらいに切り詰めるべきではないかと思う。また登場人物同士の関係性もわかりにくい。随時、図でまとめるなどの工夫が欲しい。
 内容については比較的目新しい内容も紹介されている(たとえば明応の政変など)が、なにぶん整理されていないため、非常に読みづらいことには変わりない。わかったことを書き連ねてそれに少々論考を加えていますという内容では、一般人の目にさらすには少々恥ずかしい代物であると老婆心ながら書いておこう。
★★★

参考:
竹林軒出張所『源頼朝像 沈黙の肖像画(本)』
竹林軒出張所『太平記 (上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『偉大なる旅人 鄭和(ドキュメンタリー)』

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 以下、以前のブログで紹介した『二人の天魔王』に関する記事。足利義教関連ということで。

(2006年11月18日の記事より)
b0189364_20083147.jpg二人の天魔王
明石散人著
講談社文庫

 現在の織田信長のイメージは戦後の映画で作られたイメージであって、それ以前は「秀吉の主君」という以上の脈絡で語られることはなかったというのが、本書の趣旨。同時に、織田信長がモデルとしていたのが、室町幕府六代将軍で天魔王と呼ばれていた足利義教だという。足利義教は、今では、どうしようもないマヌケ将軍というイメージが強いが、その生き様や業績は歴史上破格で、さまざまな武将がその方法論を踏襲したという。
 実は、この本を読んでもっともビックリしたのは(本書の大部分が割かれている)信長のことではなく、義教のまったく新しいイメージであった。その後、義教関連の本を探したのだが、非常に少ないことがわかった。ましてやこういう(現代人にとって)斬新なイメージで書かれているものは皆無といって良い(小説では一冊あった)。『籤引き将軍足利義教』という本も読んでみたが、こちらは従来の説を踏襲していて面白味に欠ける。
 正直、この本に書いていることが本当かどうかはよくわからない。斬新な説であるのは確かだが、以上のような理由で確かめようがない。本書全体にちょっと胡散臭さも漂うのだが、説得力もあるにはある。非常に評価が難しいところである。
★★★☆

# by chikurinken | 2017-10-12 07:08 |

『天才! 成功する人々の法則』(本)

天才! 成功する人々の法則
マルコム・グラッドウェル著、勝間和代訳
講談社

多くの人に均等に機会を与えることが
社会のためになるという主張
お説ごもっとも


b0189364_19043122.jpg アメリカで話題になっているマルコム・グラッドウェルの第3作目。マルコム・グラッドウェルは、元々『ワシントン・ポスト』の記者で、その後フリーのライターになったという経歴を持つライター。
 前著『ティッピング・ポイント』『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』と同様、こちらもさまざまな実験データを引用して、著者の論を展開していく。要は、成功した人々(本書では「アウトライアー」(際立った人)という言葉を使っている)は、特異な天賦の才能のせいでその地位を掴んだんではなく、文化的背景や数々の偶然が作用して、たまたま成功を勝ち取ったのだという主張である。ビル・ゲイツしかりオッペンハイマーしかりで、知性レベルが高いことや才能があることが必ずしもプラスに作用するわけではないということを、さまざまな例を挙げながら紹介していく。
 中でも、プロスポーツ選手の多くが、年度の早い時期に生まれているという話は説得力があって面白い。たとえば日本の場合で言うと4月1日生まれと翌年の3月31日生まれは同じ学年になるが、子ども時代のこの364日の成長の差(ほぼ1学年分)はかなり大きいため、さまざまなケースで4月1日生まれの方が良い成果を出す。結果的に選抜チームなどにも選ばれやすくなって、練習や試合などの機会も増える。どんな分野でも一流になるには10,000時間の修養が必要で、それを達成しやすいのは当然さまざまな機会が与えられやすい選抜された方になる。こうして、生まれた日時だけでも大きな差が生じてくるという。
 また、文化的背景も大きな要因で、地道にがんばることが美徳とされる社会(東アジア)の方が、10,000時間の修養を達成しやすいというような論もある。そしてそういった利点を有利に活用できた人々が、たまたま適切な時代に適切な機会を与えられた(これは偶然の要素が大きい)場合に成功を勝ち取るのだというのが、この本の主題である。
 多くはお説ごもっともで、今となっては取り立てて目新しい説はないが、事例が豊富に紹介されることもあって説得力がある。ただしどうも、自分の説に都合の良いデータばかり集めているんじゃないかという疑念は常につきまとう。これは他のグラッドウェルの本と共通である。とは言え、前2著よりもよくまとまっていて内容的にも面白いため、グラッドウェルの中では一番お奨めできる本かなとは思う。
 翻訳は勝間和代がやっていて、勝間和代ということで最初からあまり良い印象はなかったが、翻訳自体は割合よくできており、非常に読みやすくなっている(ところどころ意味が取りにくい箇所はあったが)。ただタイトルの「天才!」というのはちょっと違うんじゃないかという気はする。ちなみに原題は「Outlier」である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ティッピング・ポイント(本)』
竹林軒出張所『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい(本)』
竹林軒出張所『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する(本)』
竹林軒出張所『成功する人は偶然を味方にする(本)』
竹林軒出張所『パーク・アベニュー 格差社会アメリカ(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-10-11 07:04 |

『なぜ蚊は人を襲うのか』(本)

なぜ蚊は人を襲うのか
嘉糠洋陸著
岩波科学ライブラリー

蚊の本を読んだら蚊に寛大になれる……か

b0189364_18205972.jpg 蚊の研究者が書いた、蚊についてのあれこれを紹介する本。蚊の生態の他、蚊が媒介する病原体や、遺伝子操作などの方法で蚊を駆逐している状況などが紹介される。
 蚊が媒介する病原体を駆逐する方法の1つとして『あなたの中のミクロの世界』で紹介されていたボルバキア方式の記述もある。確かにあの方法は自然界にあまり影響を与えない方法だと思うが、病原体を駆逐するためとは言え、遺伝子組み換えで蚊を撲滅させるなどというのは、自然への影響を考えると大いに疑問を感じる。こういう方法を使うといずれ人間界にしっぺ返しが来るのではないかと思うがどうだろうか。
 著者がこういう方法に賛成かどうかはこの本からはよくわからないが、蚊に対してはかなりの愛情をお持ちのようで、部屋にいる蚊に自分の血を吸わせたりもするらしい。蚊を見つければ自分の手で速やかに殺すことを心がけている僕にとっては考えられないことである。今回少しは蚊に対する見方が変わるかなと思ってこの本を手に取ってみたわけだが、実際のところ蚊の生態を知ったところで、著者のようには寛大になれなかった。殺生をするのは嫌だが、攻撃してくる生き物については致し方ないと思っているわけだ(もっとも蚊としてみれば産卵のために必要なだけで「攻撃」の意図はまったくないわけだが)。蚊は、依然として僕が積極的に殺生する唯一の生き物であり、それはこの本を読んでも結局変わることはなかった。蚊に多少の愛着は湧いたとは言えるが。
★★★

参考:
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『迫りくる蚊の脅威(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『虫の歳時記』

# by chikurinken | 2017-10-10 07:20 |

『京都人の密かな愉しみ blue 修行中』(ドキュメンタリー)

京都人の密かな愉しみ blue 修行中(2017年・NHK)
NHK-BSプレミアム ザ・プレミアム

どっこい生きてた『密かな愉しみ』
新シリーズは遊び心に溢れていた


b0189364_18284883.jpg 完結したはずの『京都人の密かな愉しみ』が、物語の背景を変えて装いも新たに蘇った。メインストーリーの主役だった老舗和菓子店の三八子(常盤貴子)は出てこない(話が完結したんで当然だが)。その代わりに職人(庭師、和食の調理師、パン職人、陶芸家、有機野菜農家)を目指す5人の若者の話がメインになる。野菜農家を職人として扱っていいのかとも思うが、番組ではいかにも職人風の扱い方をする。
 演出はこれまでと同じ源孝志で、ドラマ部分はよくできている。前のシリーズで見られたような「無理から」な展開は(今のところ)少ない。京都の風習にスポットが当てられるのも前シリーズと同様で、今回は五山の送り火が取り上げられる。扱い方はオーソドックスで、前のシリーズと違ってあまり奇抜過ぎないのも良い。例によって大原千鶴のお料理のコーナーもある。しかも試食のゲストとして呼ばれた(という設定の)京都市在住の2人の女性が、ドラマ部分の登場人物になっており、ドラマとドキュメンタリーが妙に混ざり合って、独特の面白味を醸し出している。遊び心に溢れた、斬新で実験的な試みと言って良い。
b0189364_18285123.jpg 前のシリーズみたいなツッコミどころはあまりなく、安心して見ていられる1時間半番組で、おそらくこれからも続くのは間違いない。バラエティ感覚でくつろぎながら見れば良いという類の番組である。もちろんドキュメンタリー、ドラマとしても良質である。なお前シリーズで登場したヒースロー先生(団時朗)が脇役として登場するのも、少し遊び心を感じる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 夏(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 冬(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 月夜の告白(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 桜散る(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-10-09 07:28 | ドキュメンタリー

『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』(ドキュメンタリー)

戦後ゼロ年 東京ブラックホール 1945-1946(2016年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

植民地政策に屈辱を感じる

b0189364_18130017.jpg 1945年、太平洋戦争が終わってから1年間の東京がどんなふうだったか、未公開映像や発掘映像を使って再現するというドキュメンタリー。
 現代人(山田孝之)が唐突に当時にタイムスリップするという趣向のドラマが混ぜられていて、当時の映像の中に合成ではめ込まれて使われたりしている。こういう演出が必要かどうかはともかく、山田孝之が良い味を出していてそれなりの効果は出ている。
 当時の状況は、まさに戦勝国(実質アメリカ)による占領下であり、しかもその(「進駐軍」という名の)占領軍の費用は日本が負担していた(国家財政の1/3に相当)ということで、事実上植民地状態である。東京はほとんど焼け野原で、焼け残った有力な建造物は「接収」という名で奪われ、占領軍の将校などに分け与えられる。その上、日本人が出入りできない場所が多数設けられるなど(東京租界)、多分に差別的である。植民地というものがどういうものか身をもって体験したのがあの時代である。
b0189364_18125501.jpg また女たちは兵隊(ほとんどが米兵)たちに取り入り、中には兵隊専用売春婦なるものも現れてくる。日本政府の国策として連合軍向け売春宿が経営されたこともこういう状況に拍車をかけていたわけだが、しかしそれを思うと、当時の日本政府にはまったく恐れ入る。なんでも普通の婦女子を米兵から守るための現実的な政策だったといういうことらしい。しかしこういったことは、当時の日本人(特に男たち)には屈辱的に映ったに違いない。
 一方で、当時の日本人は食うものもなく、いつも腹を空かせた状態と来ている。配給はままならず、どうしても闇市みたいなものに頼らざるを得ない。ただしこの闇市にしても当局が取り締まりの対象にしていたため、こういうところで商売をしていても突然すべてを没収されるというようなこともありうる(今の中国でもこういう状況があるようだが)。治安も悪く、平穏な現代日本とは大きな違いである。しかもこういった中で、占領軍に取り入って成り上がるヤクザ者も出てくるし、モラルハザードどころではない。貧しい社会というのは、力のあるものが力のないものをどこまでも収奪する弱肉強食の世界であることがよくわかる。
 タイトルの「東京ブラックホール」というのは、当時の東京がヒト、モノ、カネをブラックホールのように飲み込んでいったというところからつけられたものであるが、ちょっとスカしていてどうかと思う。戦後すぐの混乱期については、いろいろな本や映画で描かれており「今さら」感もあるが、「今」との隔たりの大きさにあらためて驚くという点で、ときどきこういう特集番組をやるのもありかなと思う。「今」の生活のありがたみがよくわかるというものだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『昭和史 戦後篇(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえる東京(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『日本テレビとCIA(本)』
竹林軒出張所『ドイツ零年(映画)』

# by chikurinken | 2017-10-08 07:12 | ドキュメンタリー

『華族 最後の戦い』(ドキュメンタリー)

華族 最後の戦い(2017年・NHK)
NHK-BS1 ドキュメンタリードラマ

b0189364_18162790.jpg木戸くんと近衛くん

 元内相の木戸幸一、元首相の近衛文麿、元内相秘書官の松平康昌が、戦中・戦後にどのような活動を行って、天皇制、華族制度などを含む「国体」を守ろうとしたかを描く。ちなみに木戸は侯爵、近衛は公爵、松平は侯爵(いわゆる華族)で、彼らは天皇制を守ることこそが自分たちの地位を守ることであるというコンセンサスの下で行動していたという。
 ドキュメンタリードラマという体裁になっており、木戸幸一は佐野史郎が演じる。演じると言っても、NHKの松平定知のインタビューを受けるシーン(これがこのドキュメンタリーのメイン)と東京裁判の尋問を受けるシーン以外にはない。よって、ドラマ仕立てにする必然性があったのかははなはだ疑問。
b0189364_18163114.jpg このドキュメンタリー番組の価値としては、木戸幸一と近衛文麿の立場やスタンスがわかるという点が挙げられるが、それ以上ではない。実際のところ、2時間という長い放送枠の割には内容が乏しかったというのが率直な印象である。少し前に放送された『ドラマ 東京裁判』と雰囲気が似ていたため、あの番組のスピンオフか、あるいは同じスタッフだったのか判然としないが、まあそんなことはどちらでも良い。結局、大した見所はなかったというところに落ち着くのである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ドラマ 東京裁判 (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『昭和史 1926-1945(本)』
竹林軒出張所『昭和史 戦後篇(本)』

# by chikurinken | 2017-10-07 07:16 | ドキュメンタリー

『幻の色 よみがえる浮世絵』(ドキュメンタリー)

幻の色 よみがえる浮世絵(2009年・NHK)
NHK-BSプレミアム プレミアムカフェ

浮世絵は決して「渋い」絵ではなかった

b0189364_20373692.jpg 少し前に富山の農家で382枚の版木(浮世絵を刷るときに使用する木版)が見つかった。江戸時代に実際に浮世絵印刷のために使われた版木で、それぞれの版木には、当時使われた絵の具が付いている。見つかった版木の多くは歌川国芳の浮世絵を刷るためのもので、これらの版木で刷られた作品は現存しているものが多いが、現存作品と版木を比べると色が微妙に異なる。つまり刷られた浮世絵では、顔料によっては経年に伴い色落ちしているというわけで、それがこの版木の発見によって明らかになった。
 そこで、元々使われていた顔料を使って、発表当時の色彩でこの浮世絵を復刻してみようというプロジェクトが始まる。この浮世絵復刻プロジェクトで実作業を担当するのが、現代の浮世絵師、立原位貫(竹林軒出張所『一刀一絵 江戸の色彩を現代に甦らせた男(本)』を参照)である。立原氏は、江戸時代の彫りと刷りを(独学で)自ら再現し、しかも当時使われていた紙や道具まで復刻したという猛者で、このプロジェクトにはうってつけの人材と言える。
 作業は、元の版木から刷り用の版木を複製するところから始まるが、番組ではこのあたりにも密着していて、なかなか興味深い部分である。髪の生え際の微妙な表現がミソ、というか彫り師の腕の見せ所だったという事実も紹介される。もちろん立原氏による生え際の彫りについてもたっぷり見ることができる。
 彫りが終わると刷りの過程に移るが、そこで明らかになったのが、一部の顔料(紅)がすでに市場にないという事実で、このあたりは芸術作品の復刻のあるあるネタであるが、そこは立原氏、例によって、復刻できそうな業者に頼み込んで、何とか再現してもらう。こうしてすべての顔料が揃ったところで、いよいよ刷り作業に当たる。実際に刷ってみると、現存する渋い刷りからは想像できないほどのハデハデな絵が現れた。浮世絵があくまで庶民の楽しみであり(そば一杯程度の値段で売られていたらしい)、それに当時隆盛だった歌舞伎などの色合いを考えると、浮世絵がハデハデな絵であっても何ら不思議はなく、むしろこれが浮世絵の真の姿であることが窺われる。考えようによってはケバケバしいということもできるが、しかし色の使い方は割合合理的で、汚さは一切感じない。こうして、版木の新発見から始まった一連のプロジェクトで、浮世絵に対する新しい視点が生み出されることになった……という、そういうドキュメンタリーである。
 なお番組中に、浮世絵が好きという人々が集まってきて、歌川国芳やこの復刻版画についていろいろコメントするコーナーがあるが、毎度ながらこういう部分はいらないと感じる。この時間があったら立原氏の技術をもっと見せてほしいところである。なお、この浮世絵好きの人々の中に『日本語ぽこりぽこり』のアーサー・ビナードも入っていて、鋭い視点を披露していたのは、このコーナーの唯一の救いであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『一刀一絵 江戸の色彩を現代に甦らせた男(本)』
竹林軒出張所『日本語ぽこりぽこり(本)』

# by chikurinken | 2017-10-06 07:37 | ドキュメンタリー

『幸せはパリで』(映画)

幸せはパリで(1969年・米)
監督:スチュアート・ローゼンバーグ
脚本:ハル・ドレスナー
音楽:マーヴィン・ハムリッシュ、バート・バカラック
出演:ジャック・レモン、カトリーヌ・ドヌーヴ、ピーター・ローフォード、マーナ・ロイ、シャルル・ボワイエ

消えるには消えるだけの理由がある

b0189364_18252310.jpg ジャック・レモン主演のロマンティック・コメディと聞いていたため、ビリー・ワイルダーの『アパートの鍵貸します』みたいな作品を想像していたが、大変な思い違いだった。
 ストーリーも荒唐無稽だし演出もありきたりなものばかりで、しかも笑わせようとしている箇所すらさして笑えない。情けなくなるような映画である。カトリーヌ・ドヌーヴも少し年がいっていて魅力半減だし、あまり見るところのない作品で、見ているうち、終わるのだけが楽しみになってしまった。
 ストーリーを簡単に紹介しておくと、投資会社の部長に昇格した男(ジャック・レモン)が社長の妻(カトリーヌ・ドヌーヴ)と、それと知らずに恋仲になり、翌日パリに駆け落ちするという話。その間に馬鹿みたいなコミカルなエピソードが出てくるという代物で、これを1本のハッピーエンドの映画にしている。この題材では面白いものができるとは到底思えず、エラい思い違いと言わざるを得ない。そもそも不倫で駆け落ちしてハッピーエンドと言えるのだろうか。前途多難な2人の状況しか見えてこない。
 この作品、永らくDVD化されていなかったらしいが、それも合点がいく。むしろこのまま消えてしまっても良かったかも知れないと思う。この映画で唯一の見所だったのがバート・バカラックの挿入歌で、ときどき耳にするバカラック作の「April Fools」はこの映画で使われたものであるということを今回初めて知った。だからと言ってどうということはないのだが。
★★

参考:
竹林軒出張所『アパートの鍵貸します(映画)』

# by chikurinken | 2017-10-05 07:24 | 映画

『男と女』(映画)

男と女(1966年・仏)
監督:クロード・ルルーシュ
脚本:ピエール・ユイッテルヘーベン、クロード・ルルーシュ
音楽:フランシス・レイ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、アヌーク・エーメ、ピエール・バルー、ヴァレリー・ラグランジェ

内容が乏しい! 30分で十分収まる内容

b0189364_19150003.jpg カンヌでもオスカーでも賞を取っている名画ではあるが、失望したというのが素直な感想。見たのは今回が初。
 レーサーの男(ジャン=ルイ・トランティニャン)と映画のスクリプターをやっている女性(アヌーク・エーメ)が出会い恋に落ちるというたわいもないストーリー。映像は全編詩的ではあるが、なんせ内容が薄いのではなはだ退屈。しかもモノクロ映像とカラー映像が交互に出てきたりするが、その意図がまったくわからない。最初回想シーンにモノクロを使っているのかとも考えたがそうでもない。で、見終わった後、DVDに収録されていたクロード・ルルーシュのインタビューを見てわかったんだが、当初すべてモノクロで撮る予定だったが、スポンサーが現れてカラー撮影が可能になった。ただしカラー撮影用の機材が爆音をたてるため、屋外での撮影、それもロングショットでの撮影に限定したということらしい。驚くほどの行き当たりばったりの理由だった。
 そもそもこの映画、失敗作続きで赤字を抱えていたルルーシュが、配給先も決まらないまま撮影を始めた作品だったということで、撮影動機は自主映画的なものと言える。つまり自主映画まがいの作品が高評価を得てしまったという類の作品である。道理で作りが雑で奥行きがないわけである。実際今見ると、当時の評価は少々過大だったんではないかと思う。唯一の救いはフランシス・レイの音楽で、あのテーマ音楽のけだるさが全編を包んで独特の雰囲気を作り出した、それが評価される原因だったというのが案外正しいのではないかと思ったりした。
1966年カンヌ国際映画祭パルム・ドール、アカデミー賞外国語映画賞受賞
★★☆

参考:
竹林軒出張所『甘い生活(映画)』
竹林軒出張所『モンパルナスの灯(映画)』
竹林軒出張所『ローラ(映画)』

# by chikurinken | 2017-10-04 07:14 | 映画