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竹林軒出張所

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『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄』(本)

b0189364_19043813.jpgビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄
後白河院著、植木朝子編
角川ソフィア文庫

梁塵秘抄の 入門書だが
この一冊でも 必要十分


 後白河上皇が大層好んだという今様(当時のはやり歌)。好きが高じて、和歌集ならぬ今様集を編纂してしまった。それが『梁塵秘抄』。
 『梁塵秘抄』自体は、本書によると元々全20巻構成だったらしいが、現存するのはそのうちわずかに2巻プラス・アルファということで、本来の姿は想像すべくもない。本書は、その中からさらに50首程度をピックアップしてその訳文と解説を載せたという『梁塵秘抄』入門書である。
 おそらく現代に生きる普通の人々にとって今様なんかまったく縁がなく、ほとんどの人に取っては生涯触れることのないものであるが、中にはどこかで聞いたことがあるというような割合有名なものもある。たとえば「遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけむ 遊ぶ子どもの声聞けば わが身さへこそ揺るがるれ(359)」などは比較的知られている。この一首でわかるように、今様は七五七五七五七五と続く形式の歌……だとばかり僕は思っていたのだが、この本を見る限り、必ずしもそうとばかりは言えず、形式はかなり多岐に渡る。はっきり言って決まった形式はないと言うことさえできる。七五調が日本人好みで実際現代に伝わる歌も七五調が多いのは確かで(たとえば「春のうららの隅田川」とか「酒は飲め飲め飲むならば」とか)、今様についても七五調が多いことは多いが、今様は七五七五七五七五であるとは断じて言えない。現代的な感覚から言うとリズムが悪いものもあり、一体どういう風に歌っていたのだろうかと思うものも多い。本書によると、独特の歌い方があったようで、後白河上皇などは、乙前という傀儡(芸能民)のお婆さんに弟子入りして歌い方を習っていたという。後白河院の今様へのめり込みようについては、『梁塵秘抄』の口伝集(本書でも紹介されている)でも記述されていて、実際かなりの(今様歌いの)腕前だったのではないかと推測されるらしい。
 『梁塵秘抄』で紹介されている今様自体はあまり僕の気を引くものはなかったが、解説がなかなか興味深く、書籍としては非常にできが良いと感じた。現存する『梁塵秘抄』全体を収録した本もあるようだが、僕を含む一般的な古文素人にはこの程度の本が適しているのではないかと思う。ものごとはどのあたりで見切るかということも大切で、少なくとも僕にとっては本書の内容は必要十分であった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 大鏡(本)』
竹林軒出張所『古典和歌入門(本)』
竹林軒出張所『和歌のルール(本)』
竹林軒出張所『短歌をよむ(本)』

# by chikurinken | 2017-11-11 07:05 |

『海に消えたプラスチック』(ドキュメンタリー)

海に消えたプラスチック(2015年・仏VIA DECOUVERTES)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

マイクロ・プラスチックは次の「温暖化」か?

b0189364_18161191.jpg 適性に処理されないプラスチック・ゴミが海に大量に流れ出ていることは周知の事実で、現実にゴミ・ベルトと呼ばれる海域には大量にゴミが流れ込んでいる。しかし、地上のプラスチック・ゴミの生成量から考えると、このゴミ・ベルトで見られるゴミは余りにも少なすぎる。では、あるはずだが目に映らないゴミはどこに行ったのか。そういう視点で作られたドキュメンタリーがこれである。
 まず考えられるのは、現時点で人間が容易にアクセスできない海底に大量に溜まっているという状況である。次に考えられるのは、プラスチック・ゴミが細かく砕けて(マイクロ・プラスチック)目に映りにくい形になって海中に漂っているという状況。どちらも可能性が高いが、特に後者については、ある程度状況が把握されるようになっている。つまりかなりの量のマイクロ・プラスチックがすでに存在し、またかなりの量のマイクロ・プラスチックが海洋生物の体内から検出されている。これが食物連鎖を通じて最終的にクジラやヒトの体内に蓄積されることになるのでは……というのがこのドキュメンタリーの主張である。
 なおこのマイクロ・プラスチック、生物の体にどのような影響を及ぼすかまだ完全に判明しているわけではない。したがって、(地球温暖化と同様)ある時点で突然問題化して、人間が右往左往するというような状況も十分起こりうるというわけである。また海底に溜まっていると考えられる大量のプラスチックが今後問題化する可能性だって十分ある。とりあえず無駄なプラスチックは使わないようにする、プラスチック・ゴミは適正に処理する、ぐらいしか対策がないのがじれったいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『廃棄家電の悲しき行く末(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-11-09 07:15 | ドキュメンタリー

『ダウン症のない世界?』(ドキュメンタリー)

ダウン症のない世界?(2016年・英Dragonfly Film & Television)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ダウン症胎児の中絶について考えさせられる

b0189364_18062411.jpg 現在、妊娠中に出生前診断を行うことで、胎児がダウン症かどうかが事前にわかるようになってきている。ダウン症であることがわかれば中絶して子どもを産まない選択ができるということなんだが、こうやってダウン症を100%この世から排除することが良いことなのか、今存在しているダウン症の人々は存在してはならない存在なのか、そういうことを問いかけるドキュメンタリー。
 番組の進行役は、ダウン症の息子を持つ女優のサリー。彼女は、ダウン症の息子、オリーについて、ネガティブな感情はまったくなく、この息子がいること自体、幸福なことだと感じている。そのため、出生前診断でダウン症の胎児を中絶するという傾向に対して違和感を感じている。
 こういう状況で、出生前診断の権威の医師や、ダウン症の診断が出た人たちの相談施設のトップなどに話を聞く。ダウン症(ひいてはダウン症患者)が存在すべきでないものであるかのように話す人々もおり、それは(ダウン症の子どもを持つ)彼女にとって、耐えがたく賛同できない話だったりする。本当にダウン症はなくすべき悪なのかという問いを発し、ダウン症の現実(一例ではあるが)も紹介していくという、興味深いが少々重い内容である。ダウン症児の現在の教育体制や、社会で活躍するダウン症の人々も紹介する。ダウン症についてほとんど知識がなかったため、目が見開かれたような気がする。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日本人は何をめざしてきたのか (6)(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-11-07 07:06 | ドキュメンタリー

『撮影監督ハリー三村のヒロシマ』(ドキュメンタリー)

撮影監督ハリー三村のヒロシマ カラーフィルムに残された復興への祈り
(2015年・WOWOW)
WOWOW ノンフィクションW

『人情紙風船』の撮影監督の秘話

b0189364_19213461.jpg 映画カメラマンの三村明が、敗戦直後、占領軍の依頼で広島の状況をカラー撮影していた。その映像、それから三村明の経歴にスポットを当てるドキュメンタリー。
 三村明は、映画黎明期、ハリー三村という名前で、ハリウッドで撮影助手を務めていた。やがてユニオン(組合)のストライキなどで仕事を失い、日本に戻って撮影監督の仕事に就く。山中貞雄監督の時代劇『人情紙風船』、黒澤明の監督デビュー作『姿三四郎』などが彼の代表作で、ハリウッドで仕入れた技術は、日本の映画人にも重宝されたという。
 その三村が、原爆投下後の広島を撮影していた。そしてその映像は、広島の惨状を生々しく伝えるだけでなく、人に対する優しさにあふれたものだった、というのがこのドキュメンタリーの趣旨である。
b0189364_19213881.jpg WOWWOW製作のドキュメンタリーで、数々の賞を受賞した、評価の高い作品ということである。あまり知られていない事情をドキュメンタリーにまとめたという点で評価に値するしなかなか面白い作品であったが、強烈なインパクトみたいなものはあまりない。
 『人情紙風船』については、全体的にぼやけたような映像が多いなと思った記憶があるが、あれがハリウッド仕込みだったというのが新しい発見か。とは言えあの映画については、スフマートというのかとにかくぼやかしが多かった印象がいまだにあり、個人的には少しやり過ぎだと思っている(映画は非常に良かったが)。三村明についてはその程度の思い入れしかないため、広島の秘蔵映像だと言われてもあまり感慨が湧かなかったというのが正直なところである。
2016年第44回国際エミー賞芸術番組部門、日本民間放送連盟賞最優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『きのこ雲の下で何が起きていたのか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『一番電車が走った(ドラマ)』
竹林軒出張所『銀座カンカン娘(映画)』

# by chikurinken | 2017-11-06 07:20 | ドキュメンタリー

『クロムウェル』(映画)

クロムウェル(1970年・英)
監督:ケン・ヒューズ
脚本:ケン・ヒューズ
出演:リチャード・ハリス、アレック・ギネス、ロバート・モーレイ、ドロシー・テューティン、フランク・フィンレイ

b0189364_18101281.jpg歴史物はかくありたい

 1649年のピューリタン革命を描く歴史映画。タイトルからわかるように、主人公はオリバー・クロムウェルである。
 歴史ドラマとしてしっかり描かれている映画で、大体の歴史の流れがよくわかる。国王チャールズ1世の暴政を議会勢力が糾弾して両勢力が決裂、やがて内戦になり、その戦闘で勢力を伸ばしたクロムウェルが議会派のリーダーになって、チャールズを処刑するという動きである。
 チャールズ1世に扮するのは名優アレック・ギネスで、リチャード・ハリスのクロムウェルより存在感があった。特に外連味もなくきわめて真面目に、宮廷や議会、当時の風俗などがよく描かれていて、歴史ドラマとして見る分には最適である。前見た『クロムウェル 英国王への挑戦』はなんだかよくわからない内容で、こういう作品は歴史物として見る分には少々困る。生に近い歴史に接したいという僕みたいな視聴者にとっては、本作みたいな実直な描き方が望ましいわけだ。合戦シーンもよく再現されていて、衣装などの色が映えて美しく見える。アカデミー賞の衣装デザイン賞を取ったというのも大いに頷けるところである。
1970年アカデミー賞衣装デザイン賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『クロムウェル 英国王への挑戦(映画)』
竹林軒出張所『わが命つきるとも(映画)』
竹林軒出張所『冬のライオン(映画)』
竹林軒出張所『ブーリン家の姉妹(映画)』
竹林軒出張所『エリザベス(映画)』

# by chikurinken | 2017-11-04 07:09 | 映画

『ブーベの恋人』(映画)

ブーベの恋人(1963年・伊仏)
監督:ルイジ・コメンチーニ
原作:カルロ・カッソーラ
脚本:ルイジ・コメンチーニ、マルチェロ・フォンダート
出演:クラウディア・カルディナーレ、ジョージ・チャキリス、マルク・ミシェル、ダニー・パリス

カルディナーレのプロモーションビデオか

b0189364_19014834.jpg 1944年のイタリアが舞台。パルチザンの闘志、ブーベに恋した若い娘、マーラの話。クラウディア・カルディナーレが、悪女ではなく、普通の(純真な)娘を演じる。ブーベ役は、『ウェスト・サイド物語』のジョージ・チャキリス。
 当時のイタリアの世相が描かれていて興味深い部分はあるが、基本的にはクラウディア・カルディナーレの映画ということになるのか。実際カメラはカルディナーレの姿を執拗に追うし、実際に魅力的な姿が映し出される。結局のところストーリーは「ダメ男を選んでしまった女の話」と言ってしまって良いのかも知れない。しっかり作られていて映画自体は決してダメではないが、これはこれはというような部分もあまりない。そのため、何度かに分けてぶつ切りにして見ることになった。見る途中、結構退屈していたのもまた事実である。
★★★

参考:
竹林軒出張所『山猫(映画)』
竹林軒出張所『刑事(映画)』
竹林軒出張所『若者のすべて(映画)』

# by chikurinken | 2017-11-02 07:01 | 映画

『ロボット』(本)

b0189364_17283774.jpgロボット
カレル・チャペック著、千野栄一訳
岩波文庫

ロボットの元祖
反乱ネタもこれが元祖


 これも、『山椒魚戦争』同様、SFの古典である。そもそも「ロボット」という言葉は、この作品から派生したものである。アシモフだとばかり思っていたが、思い違いだった。こっちが元祖で、生みの親はチャペックである。
 4幕ものの戯曲で、本当のタイトルは『R.U.R. ロッスムのユニバーサルロボット』というらしい。R.U.R.社が製造した人造人間(我々が一般的に想像する機械式のロボットではない)が、やがて人間に対して反乱を起こすというストーリーである。
 戯曲であるため、すべて会話で話が進み、反乱もセリフで語られる。そのためかなり地味な作品である。また登場人物が比較的多く(ほとんどはR.U.R.社の重役)、本当に全員必要なのか疑問に感じたりもする。なんせほとんどが会話なので、4人+ロボットで十分な気もするが、著者は必要だと感じたのだろう。ストーリー自体はモダンであるが、セリフには魅力を感じない。これは翻訳のせいでもあると思うが。
 本書の中には、舞台の美術と、初演時の俳優による登場人物の写真が何枚か載っている。イメージが湧きやすくなるため非常にありがたい配慮ではあるが、どうせなら全員の分を(なるべく一箇所に)載せてほしかったところで、編集自体がどうも中途半端な気がする。
 読了するにはしたが、結局のところ、古典を読んだという達成感のみになってしまった。そのあたりが少々残念。
★★★

参考:
竹林軒出張所『山椒魚戦争(本)』
竹林軒出張所『ブレードランナー ファイナル・カット(映画)』
竹林軒出張所『ロボット革命 人間を超えられるか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ロボットがもたらす“仕事”の未来(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-10-31 07:28 |

『倍賞千恵子の現場』(本)

倍賞千恵子の現場
倍賞千恵子著
PHP新書

倍賞千恵子のように
素朴なたたずまいで好感が持てる本


b0189364_18030099.jpg 女優、倍賞千恵子の経験的映画論。
 副題が「出会った素敵な人たち」になっているように、第1章では渥美清、第2章では山田洋次をはじめとする監督たち、第3章では高倉健について語る。第4章は自身の映画での経験と自分の演技、第5章は歌手としての活動についてで、倍賞千恵子の来し方が本人の口から語られるといった内容。『男はつらいよ』や『駅 STATION』『遙かなる山の呼び声』などの撮影裏話が満載である。もちろん渥美清や高倉健らの人となりも紹介される。渥美清が役柄同様、本当の妹に対するかのような思いやりを見せた話や、普段は気さくな高倉健が次のシーンの役作りのために人を寄せ付けない雰囲気を発するなどの話が興味深い。
 映画ファンとしては、撮影裏話が一番面白い。『駅 STATION』や『遙かなる山の呼び声』に、倍賞千恵子をはじめスタッフ、キャストがこれだけ入れ込んでいたのかというのがよくわかる。やはり名作となるとそれだけの背景があると感じる。
 本自体は取り立てて特筆するような箇所はあまりないが、倍賞千恵子の人柄が出ているような素朴なたたずまいの本であり、大変読みやすく、好感が持てる本である。
★★★

参考:
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『遙かなる山の呼び声(映画)』
竹林軒出張所『男はつらいよ 純情篇(映画)』
竹林軒出張所『家族(映画)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『友だち (1)〜(6)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-10-29 07:02 |

『のぼせもんやけん』、『のぼせもんやけん2』(本)

のぼせもんやけん 昭和30年代横浜 セールスマン時代のこと。
のぼせもんやけん2 植木等の付き人時代のこと。
小松政夫著
竹書房

植木等、やっぱりいい人過ぎ

b0189364_19130680.jpg コメディアン、小松政夫の自伝的青春記。
 『のぼせもんやけん』は高卒後上京してから自動車のセールスマンをしていた頃までの話。続編の『のぼせもんやけん2』では植木等の付き人になってからデビューするまでを描いている。小松政夫著の小説という体になっているが、小松政夫が語った内容を清水東というゴーストライターが書いたものらしい(『のぼせもんやけん2』のあとがきに書いてある)。とは言え、内容は充実していて、非常に面白い。それに恐ろしく読みやすい。
 さまざまなバイトを転々とした後、横浜トヨペットでセールスマンとしてスカウトされ、トップ・セールスマンになるあたりが『のぼせもんやけん』の内容だが、ストーリーは一種のサクセスストーリーになっていて、エンタテイメントとしても楽しめる。なんといっても著者を取り巻く周りの人々が魅力的で、主人公(つまり著者)に対して思いやりに溢れた行動をしてくれる。それにきわめてユニーク。著者は「ブル部長」や「アリクイ係長」などのニックネームで通しているが、実在の人物らしい。ただし著者によると、脚色も入っているらしい(これもあとがきに書いてある)。小説という体だからそれはそれでかまわない。
b0189364_19131109.jpg 『のぼせもんやけん2』では、植木等のボーヤ(バンドマンの付き人)になって目にする芸能界の姿が描かれる。特に師匠である植木等、クレージーキャッツの面々との付き合いが中心になるが、彼らも、トヨペットの人々と同様、非常に人情家である。植木等に至っては、当時、超売れっ子であったにもかかわらず、ボーヤである著者にまで気を配る思いやりの人という描かれ方で、どんだけいい人なんだと思う。芸能人として独り立ちする算段まで、知らない間に全部やってくれていたらしいんだ、これが。
 思うに、著者自身が、いろいろな部分に目を配ることのできる心優しい人間であったために、周りの人々にも愛されたんではないかと推察する。つまり周囲が著者自身の姿を反映しているというわけである。
 なお、この本で描かれている数々のエピソードは、若干形が変わったものもあるが、ドラマ『植木等とのぼせもん』でも数多く採用されている。ただし、ドラマの性格上、適当に味付けを変えたりしているし、時間の制約もあるため、薄味になっていたり、元々の味が失われているものもある。あのドラマも面白く心温まるエピソードに溢れていたが、こちらの原作の方がお奨めである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『植木等とのぼせもん (1)〜(7)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-10-27 07:12 |

『あわわのあはは 徳島タウン誌風雲録』(本)

b0189364_19034950.jpgあわわのあはは 徳島タウン誌風雲録
住友達也著
西日本出版社

ハイパーな行動力に脱帽

 移動スーパー「とくし丸」の創業者、住友達也氏の半生。
 地元徳島で高専を卒業して、フリーター生活、1年間の米国生活を経て、再び徳島に戻り、資金もないのにタウン誌を作ることを決意。自身の四畳半の安アパートで『あわわ』という名のタウン誌を創刊する。その後この『あわわ』がヒットを飛ばし、数年後には自社ビルを建設、第2、第3の雑誌(『ASA』、『SALALA』など)を創刊するまでになる。
 そんな折、地元徳島の吉井川に可動堰建設の話が持ち上がり、行政によって一方的かつ高圧的に進められていくその計画に疑問を持つ。地元民の意向を住民投票で問うべきと考え、同じような考えを持つ人々と手弁当で住民投票の実施を目論む。行政による嫌がらせを受けながらも、結局住民投票を実現し、しかも過半数の可動堰反対票を得ることに成功。その後、住民投票でこのような結果が出たにもかかわらずその結果をないがしろにして計画を進める県知事に対し、今度は知事選で対立候補をぶつけるなどという住民運動を展開して、最終的に可動堰計画の撤回を勝ち取ることになる。
 ただし著者はその過程で、『SALALA』の経営から追われることになる(可動堰住民投票運動への参加がスポンサーの意向に添わなかったため)。また、運動とは直接関連していないようだが、『あわわ』の運営からもきれいに引退する。
 ド素人であるにもかかわらず雑誌を作ることを決意し、しかもそれを成功させ、その上住民運動まで展開してこちらも成功させた。著者の向こう見ずさ、熱意、バイタリティにはまったく恐れ入るが、本人にとってはやりたいことに手を染めてきただけということらしい。変に老成した我々のような人間にはなかなかできない。若気の至りとも言えなくはないが、このような「若気の至り」であれば、多くの若者にぜひやっていただきたいものである。
 その後著者は「とくし丸」を事業として始めるに至るんだが、これについては本書では扱われていない。その後の「とくし丸」奮戦記みたいな本もいずれ書いてほしいものである。
 本書は、このように一種のサクセス・ストーリーではあるが、何をやるのも部活の延長みたいな雰囲気が漂っていて、どの活動も実に楽しそうである。著者の人間的な魅力も随所に現れていて、読んでいて心持ちが良い。読後、快い疲労感みたいなもの(読むこちらは何もしていないわけだが)が漂ってくるのも良い。本の作りが丁寧なのは『ねてもさめてもとくし丸』と共通である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ねてもさめてもとくし丸(本)』

# by chikurinken | 2017-10-26 07:03 |

『ニューヨークで考え中』(本)

b0189364_23431414.jpgニューヨークで考え中
近藤聡乃著
亜紀書房

癒やし系ニューヨーク滞在記

 マンガ家であり画家でもある近藤聡乃のエッセイ・マンガ。
 ニューヨーク在住6年の著者が、のんびりしたニューヨーク生活をのんびりした画風で描くというもの。基本的に見開き2ページで1本、計70本プラス最初と最後にそれより長い2本(「未踏の地」と「続・未踏の地」)が収録されている。70本の見開きマンガは、元々Webマガジンおよび本人のWebサイトで公開されていたもので、最初と最後の2本は書き下ろしである。
 ニューヨークでの生活がネタであり、ニューヨークで感じた文化ギャップなどが紹介される。絵は「癒やし系」、セリフなどの文字もすべて手書きでこちらも「癒やし系」と言える。ネタ自体は概ね面白いが、大爆笑などというものはない。要するに「癒やし系」である。
 面白かったネタは、日本語を勉強し始めたアメリカ人の彼が、ひらがなとカタカナを憶えたばかりで、練習でいろいろな日本語を読もうとするというエピソード。彼「ビ……ジ……ネ……ス……」、私「ビジネスね」、彼「ビジネス?」、私「?……ああ……businessね」、彼「businessか!! OH!」となる。そうして、私「「日本人の英語」が通じないわけだよなぁ」と納得するという話。逆バージョンの話は英語を学習するときにもあるから妙に納得してしまった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『谷崎万華鏡(本)』

# by chikurinken | 2017-10-25 07:42 |

『谷崎万華鏡』(本)

谷崎万華鏡
山口晃、高野文子、榎本俊二、今日マチ子、山田参助、近藤聡乃、古屋兎丸他著
中央公論新社

山口晃、高野文子、近藤聡乃が目玉

b0189364_17530365.jpg 谷崎潤一郎の小説をマンガ化した一種のアンソロジー。内容は、久世番子「谷崎ガールズ」、古屋兎丸「少年」、西村ツチカ「人間が猿になった話」、近藤聡乃「夢の浮橋」、山田参助「飈風」、今日マチ子「痴人の愛」、中村明日美子「続続蘿洞先生」、榎本俊二「青塚氏の話」、高野文子「陰影礼賛」、しりあがり寿「瘋癲老人日記」、山口晃「台所太平記」。
 高野文子としりあがり寿以外の作家はほとんど知らなかったが、まず彼らの画力と表現力に驚いた。今のマンガ界はこんなに才能が集まっているのかと感心する。特に「台所太平記」の山口晃はその画力に驚いた。こんな画力のあるマンガ家が存在していたとはまったく知らなかったが、その後調べたところ、若手画家の山口晃であることが判明。この人の絵は前から画力と飄逸さが面白いと思っていたので、このマンガについても、さもありなんである。それよりこの人がマンガを描くということ自体が驚きであった。この作品は特に質が高いが、紙面の都合もあり、26ページのダイジェスト的なものになっている。こういったダイジェストではなく、全編を翻案したものをぜひ描いてほしいものである。
 高野文子にも(ファンである身としては)当然触れておくべきだが、なんせ随筆(「陰影礼賛」)をマンガ化しており、それだけで本書の中で異色な存在なんだが、できあがった作品はほとんど挿絵と言っていいもので、原文の隣に絵が入っているという内容である。ただしそれでも詩的な情緒が現れているのがやはり高野文子作品で、これはこれで味わい深い。
 前半は、特に谷崎の変態的な作品ばかりが出てきて、古屋兎丸の「少年」や榎本俊二の「青塚氏の話」はちょっと辟易してしまうが、漫画としては両者とも質が高い。古屋兎丸は丸尾末広の作品をきれいにしたような絵で、線が非常に美しい。今日マチ子の「痴人の愛」は解釈が新しいが、原作の味はよく再現されていてうまくまとまっていると思う。近藤聡乃の「夢の浮橋」も印象的で、セリフがすべて手書き文字で、幻想的な内容とマッチしている。
 谷崎作品のアンソロジーとしては微妙ではあるが、今の若いマンガ作家のハイレベルな作品を目にあたりにすることができるという点で大いに価値のある本である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ニューヨークで考え中(本)』
竹林軒出張所『瘋癲老人日記(映画)』
竹林軒出張所『痴人の愛(映画)』
竹林軒出張所『鍵(映画)』
竹林軒出張所『細雪(映画)』
竹林軒出張所『刺青(映画)』
竹林軒出張所『卍(映画)』
竹林軒出張所『春琴抄(映画)』
竹林軒出張所『つれなかりせばなかなかに(本)』
竹林軒出張所『蓼喰う虫(本)』

# by chikurinken | 2017-10-24 06:52 |

『五色の舟』(本)

五色の舟
津原泰水原作、近藤ようこ著
KADOKAWA/エンターブレイン

近藤ようこによって完成された
幻想的な世界観


b0189364_20492768.jpg 津原泰水という作家の同名短編小説をマンガ化したもの。元々SFやホラーを書いている作家らしいが、この小説は幻想小説という分類に入るのか。SF的でもあるが、かなり不可思議な世界である。
 太平洋戦争下の日本(広島をはじめとする中国地方)で、各地を巡業している見世物小屋一座の話。足のない男(父親的な位置付け)、小人症の少年(長男的な位置付け)、シャム双生児の生き残りの娘、そして腕のない少年(主人公)という構成の一座で、その後、膝が逆向きに付いている若い女性(母親的な位置付け)も入ってくるが、彼らは「家族」として互いに信頼を寄せて船上で暮らしている。
 そこに牛の体と人間の顔を持ち未来を予言する謎の生き物「くだん」の噂を聞きつけた父親が、その「くだん」を仲間として自分の一座に引き入れようと、くだんを求めて巡業の旅を続ける。最終的にくだんに辿り着くが、そこで意外な秘密が明かされ、意外な結末で終わるというストーリー。一種のパラレルワールドものと言えるかも知れないが、非常に特異な世界が描かれている。それが近藤ようこによって、独特の不思議な世界が構築されているというのがこの本である。
 素材自体は、映画『泥の河』やシャム双生児のベトちゃんドクちゃんあたりから持ち寄ったんだろうと思われる。『典子は、今』に出てきたようなシーンもあり、おそらくあの作品の影響もあることが考えられる。そもそも主人公の少年が辻典子さんとよく似た障害を持っている。津原泰水と近藤ようこは僕と近い世代で、社会的な体験を共有しているためか、こういった素材についてはあまり意外性は感じないが、若い世代がこの作品に触れたらさぞかし驚くんじゃないかという気もする。
 近藤ようこの作品は、絵があまり好きではなかったため、今まで接することはなかったが、(この作品については)醸し出される世界観が独特で、決してないがしろにできない作家であると感じた。以前、大友克洋と近藤ようこの作品を採用した雑誌は潰れるなどというジンクスというか噂(出所は不明)を聞いたことがあるが、大友克洋は言うまでもないが、近藤ようこも要注目である。それは間違いない。
第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『典子は、今(映画)』

# by chikurinken | 2017-10-23 06:49 |

『行 比叡山 千日回峰』(ドキュメンタリー)

b0189364_20494870.jpg行 比叡山 千日回峰(1979年・NHK)
NHK総合 NHK特集

超人阿闍梨ができるまで

 京都の比叡山に千日回峰という修行がある。1日40km(〜84km)の距離を1000日間に渡って踏破するというもので、途中、9日間飲まず食わず眠らずに過ごす「堂入り」という行まである。鉄人レースどころではない過酷さで、しかも途中で行を続けられなくなったら死ね!と言われているらしく、誰にでも挑戦できる代物ではない。実際に、比叡山でもそれなりの実績を持っている人でなければこの行を行うことができないのであるが、酒井雄哉という高僧が1973年にこの行を達成している。そして、その様子を紹介するのがこのドキュメンタリーである。
 ただしこのドキュメンタリーでは、堂入りまでは紹介されるが、この行が完了する最後の最後まで追っているわけではない。そういう点はやや中途半端で、どうなったかが大変気になるところだが、実際にはこの後無事に行を完遂させ、しかもなんとその後さらにもう一度この行を達成しているという。この(千日×2回の)二千日回峰を達成したのは過去に2人しかおらず、まさに歴史的な快挙だったのである(行われていたことすら知らなかったが)。このあたりは、今回このドキュメンタリーを再放送した「NHKアーカイブス」でしっかりと紹介されていた(僕はこちらを見た)。
 この酒井雄哉氏、堂入りを完遂した時点で阿闍梨になったわけだが、実は出家するまで結構複雑な人生を送っている。戦時中は予科練におり、戦後は事業に失敗して借金に追われる生活を送る。しかも妻が自殺するという憂き目にも遭っている。そういういきさつがあって39歳のときに得度して叡山に入ったのである。親鸞しかり西行しかりで、大きなことを成し遂げる人には、やはりそれを導き出すための動機が必要ということか。
 ともあれ、こういった現場はなかなか目にすることはできず(なにしろ天台宗は密教だし)、これが映像に収められたのは貴重である。なんせ「堂入り」中の堂の中の様子まで小型カメラで収録されている。このきわめて貴重な映像が、今でもDVDで見られる状態になっている(要するにこのドキュメンタリーのDVDが発売されている)というのも素晴らしいことではないか。超人が誕生する瞬間に立ち会えるというものである。こういったまったく知らない世界を紹介してくれたNHK特集に拍手パチパチである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『大峯千日回峰行 修験道の荒行(本)』
竹林軒出張所『NHK特集 永平寺(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『外国人が見た禁断の京都(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『親鸞 (1)〜(3)(本)』

# by chikurinken | 2017-10-22 07:49 | ドキュメンタリー

『人生フルーツ』(ドキュメンタリー)

b0189364_16581126.jpg人生フルーツ(2016年・東海テレビ)
監督:伏原健之
撮影:村田敦崇
ナレーション:樹木希林

ロハスな夫婦の贅沢な老後

 建築家夫婦(津端修一氏、90歳、妻、津端英子さん、87歳)のロハスな生活を追うドキュメンタリー。
 2人が住む家は夫の修一氏が設計したもので、家の目の前には、自ら広葉樹を植えて作った雑木林と庭がある。またそのそばには畑もあり、その畑で取れた作物を自ら料理したり加工したりして、のんびりした生活を送る老夫婦。見ていて大変好ましい感じだが、夫の修一氏は少しわがままなように見え、それに合わせている妻の英子さんの方がかえって魅力的に映る。
 彼らの家は修一氏が設計した団地の一郭にあるが、敷地はなんと300坪、生計は月36万円の年金でたてている。彼らの生活自体は楽しそうで、うらやましさもあるが、ましかし、こちらには300坪の土地も月36万円の年金もないので、雑木林を作る余裕もないし、それどころか必死に働かなければならない。こういうロハスな生活を送る余裕は、僕みたいな庶民にはないのであった。
 このドキュメンタリー、東海テレビ作で、今年あちこちの映画館で劇場公開された作品である。その際僕は見逃したが、今回NHK-BSの『ザ・ベストテレビ』で放送されたため、それを見ることができた。優れたドキュメンタリーを作る東海テレビの作品ではあるが、今回見た感じだと、劇場で金を出して見るほどではなかったなと思う。テレビで見ることができて(金を払わずに済んで)満足である。
文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門大賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『裁判長のお弁当(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-10-21 06:57 | ドキュメンタリー