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竹林軒出張所

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『グローバリズム以後 アメリカ帝国の失墜と日本の運命』(本)

グローバリズム以後 アメリカ帝国の失墜と日本の運命
エマニュエル・トッド著
朝日新書

b0189364_20293183.jpg恰好のトッド入門書

 エマニュエル・トッドのインタビュー集。
 エマニュエル・トッドの著作はこれまで数冊紹介しているが、内容は非常に興味深いにもかかわらず、どれも翻訳がことごとくひどい。この本は、これまで朝日新聞がトッドに試みたインタビューをまとめただけの割合安直な編集本ではあるが、元が話し言葉であることから、翻訳文は割合平易で、トッドの和訳本の中ではもっともわかりやすいものと言える。しかも1998年から2016年までたびたび行われたインタビューが収録されているため、トッドの思想の概観書としてはこれ以上ないのではないかと思う。
 朝日新聞自体は権威主義的であまり好きではないが、しかし1998年からトッドに注目していたとはさすがの大新聞! それに聞き手(多くは朝日新聞編集委員の大野博人という記者)が積極的にトッドに対して問いかけを行っているため、内容が白熱しており、読んでいて面白い。特に「日本に核武装を勧めたい」(2006年10月30日付の記事)では、内容が刺激的なだけに、(筋は通っているが)多くの日本人が反発を持つであろうと思われる内容で、それを記者が代弁しているかのようにトッドに絡み、トッドもそれに対して堂々と論を展開するという点で非常に白熱した雰囲気が窺われ、記事自体も非常に刺激的になっている。少し引用しよう。

トッド 核兵器は偏在こそが怖い。広島、長崎の悲劇は米国だけが核を持っていたからで、米ソ冷戦期には使われなかった。インドとパキスタンは双方が核を持った時に和平のテーブルについた。中東が不安定なのはイスラエルだけに核があるからで、東アジアも中国だけでは安定しない。日本も持てばいい。
――日本が、ですか。
 イランも日本も脅威に見舞われている地域の大国であり、核武装していない点でも同じだ。一定の条件の下で日本やイランが核を持てば世界はより安定する。
――きわめて刺激的な意見ですね。広島の原爆ドームを世界遺産にしたのは核廃絶への願いからです。核の拒絶は国民的なアイデンティティーで、日本に核武装の選択肢はありません。
 私も日本ではまず広島を訪れた。国民感情は分かるが、世界の現実も直視すべきです。北朝鮮より大きな構造的難題は米国と中国という二つの不安定な巨大システム。著書『帝国以後』でも説明したが、米国は巨額の財政赤字を抱えて衰退しつつあるため、軍事力ですぐ戦争に訴えがちだ。それが日本の唯一の同盟国です。
――確かにイラク戦争は米国の問題を露呈しました。
 一方の中国は賃金の頭打ちや種々の社会的格差といった緊張を抱え、「反日」ナショナリズムで国民の不満を外に向ける。そんな国が日本の貿易パートナーなのですよ。
――だから核を持てとは短絡的でしょう。
 核兵器は安全のための避難所。核を持てば軍事同盟から解放され、戦争に巻き込まれる恐れはなくなる。ドゴール主義的な考えです。

 この箇所の聞き手は若宮啓文という人で、この本に参加している部分はこれが唯一。他はこれほど白熱しておらず、全体的に「お説拝聴」という印象が強い。この項は特殊である。
 なお、インタビューの順序は逆時系列、つまり最新のものが前で古いものが後に来ている。これはこれで意図が感じられて良いが、9・11やイラク戦争、リーマンショックあたりになると、こちらの記憶も怪しくなって、同じ時代に読めたらもっと別の感慨もあったかもと感じる。いずれにしてもこの本、恰好のトッド入門書ということができる。それに他のヤクザ出版社みたいに必要以上に「予言」を強調していないのも良い。「新しい予見に満ちた書」とは書いてあるが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』
竹林軒出張所『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告(本)』
竹林軒出張所『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧(本)』
竹林軒出張所『トッド 自身を語る(本)』
竹林軒出張所『エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-07-30 07:28 |

『“黒幕”バノンの戦い』(ドキュメンタリー)

“黒幕”バノンの戦い(2017年・米WGBH)
NHK-BS1

トランプ政権のダースベイダーという見方もある

b0189364_18451287.jpg トランプ政権の影の大統領とまで言われている黒幕、スティーブン・バノン。そのバノンの経歴と野望に迫るドキュメンタリー。
 ブライトバートという右翼系新聞の経営、編集に乗り出し、自分の右翼的指向を表現する手段を得たバノンは、やがて政界への野望を持つようになる。自らが直接表に出るのではなく、政界に打って出たいと思っている人間を探し出し、そこに自分の思想や政策を注ぎ込む。まるで寄生生物のようだが、寄生される側として現れたのが、大統領への野心を持った実業家、ドナルド・トランプ。トランプ自体も差別主義者で、バノンと似たような思考の持ち主である。こうして共依存関係ができてくる。
 このドキュメンタリーによると、トランプが訴えるラティーノの排斥や反イスラム政策もバノンがその筋書きを書いたものである。トランプが注目を集め出したのは、バノンのトランプ陣営参加以降で、バノンの力はまったく侮れない。またトランプが女性差別的な言動で窮地に追い込まれたときも、対立候補クリントンに攻撃を集中することで事なきを得たのもバノンの手腕ということである。
 そんなバノンの存在がマスコミに知られるようになったのは最近だが、それ以来マスコミで影の大統領などと囁かれるようになる。トランプがバノンの操り人形であるかのように描くメディアも現れ、それにいらだったトランプがバノンを遠ざけるのではないかという憶測が出て来たこともある。
 だが残念ながら、現時点では相変わらずバノンとトランプは蜜月のよう。この番組を作った人々もバノンがトランプから離れるのを期待しているフシがあるが、先行きがどうなるかはなかなか見えてこない。
 バノン自体については今回初めて知ったんだが、いずれにしてもトランプ政権はそんなに長くは持たないだろうと思う。公約も当初発表した大統領令以外ほとんど手つかずだし、何よりも敵が多すぎる。今後も強硬路線を貫くだろうし、何もできないまま(そもそもスタッフも足りていないというじゃないか)、スキャンダルまみれでいずれ消え去る運命にあるのではないか。憎悪と不正だけで大統領職を得たは良いが、大統領は名誉職ではない。目下の焦点は1期まっとうできるかどうかと、やけを起こして妙なことをしでかさないかの2点。なんと言っても莫大な量の大量破壊兵器を抱えている国だからね。
★★★

参考:
竹林軒出張所『“強欲時代”のスーパースター D・トランプ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“フェイクニュース”を阻止せよ(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-07-28 07:11 | ドキュメンタリー

『“強欲時代”のスーパースター D・トランプ』(ドキュメンタリー)

“強欲時代”のスーパースター 〜ドナルド・トランプ 1980s-1990s〜
(1991年・米The Press and the Public Project)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

史上最悪の大統領の行状

b0189364_19085671.jpg アメリカ大統領にまで上り詰めたドナルド・トランプが、若い頃、どのようにしてのし上がったかを描いた1990年のドキュメンタリー。
 80年代は、その毒舌と自信でマスコミから盛んに取り上げられていたが、80年代の終わり頃になると、トランプの法律違反や悪辣な手法が明るみにあり、しかもデリバティブを地で行くような詐欺的な取引まで明らかになっていき、マスコミの扱いも冷ややかになっていく。詐欺的で無理な経営手法のせいで破産も間近……そういった折(1991年)に作られたのがこのドキュメンタリーである。この後いったんは破産寸前まで行ったが、ロスチャイルドなどの支援のおかげで立ち直ったらしい。そのあたりは当然のことながらこのドキュメンタリーでは描かれていない。
 このドキュメンタリーで紹介されるトランプの手法は、裏切り、企業乗っ取り、補助金詐取、詐欺、地上げに伴う住民への脅迫など、経済に関係するありとあらゆるあくどい所業が登場する。マフィアとの取引も噂されているとも。実際このドキュメンタリーは、トランプ側の圧力によりお蔵入りになっていたらしいが、ここに来て日の目を見ることになった。
 ここに登場するドナルド・トランプという人物、とにかく人との繋がりを重視するという感覚に著しく欠けており、言ってみれば、自分さえ良ければ良い、他人は自分に奉仕する存在くらいの考え方を持っているように見受けられる。この男の言動から判断すると間違いなく反社会性人格障害(サイコパス)だろうということがわかる。なぜこのような男を最高権力者に選んだのかわからないが、こちらの国もあちらの国も愚か者を権力者に戴いている国は、国民の知性レベルが窺われるというもの。だが一方でこういった人間に武器を自由にする権限を与えておくことの危険性についてはわきまえておかなければならない。幸い今のところ、大したことを実行できていないが(この男の価値観があまりに周囲と違うため)、いずれは消えるであろうことは目に見えているが、それまでに世界の状況に致命的なダメージを与えないでくれることのみを願う。
 トランプがこれまでどのような悪辣なことを重ねてきたかが紹介されているドキュメンタリーは貴重で、このドキュメンタリー自体が悪意に満ちていると見る向きもあるかも知れないが、この男の所業はそれを上回る邪悪さである。彼の法律違反を集めて法廷に出したら、終身刑になってもおかしくない。だがそういうことになったとしても決して反省するようなことはなく、周りの人間を恨むだけだろう。まさにサイコパスの本領発揮。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“黒幕”バノンの戦い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
竹林軒出張所『良心をもたない人たち(本)』

# by chikurinken | 2017-07-26 07:08 | ドキュメンタリー

『“フェイクニュース”を阻止せよ』(ドキュメンタリー)

“フェイクニュース”を阻止せよ(2017年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

ネットが人の思考力を削いでいる現状

b0189364_21443067.jpg 昨年のアメリカ大統領選挙で、ライバル候補者を攻撃する「フェイクニュース」(ほとんどはクリントン候補に対するものだが)が出回り、トランプ候補の躍進に拍車をかけたらしい。実際のところ、インターネットが重要なメディアになっている今、真偽が怪しいニュースは多い。中でも「フェイクニュース」については内容がデタラメで、多くは特定の個人を攻撃するための材料にしか過ぎず、確信犯的で、大衆をある一定の方向に導こうとするデマゴーグ的な意図が見える。こういったもので騙される人がどの程度いるかわからないが……というのは、そもそもこういった類のニュースを信じる人は、こういったニュースを信じたいと思っている人じゃないかと感じているためである。しかしこの種類の人々に攻撃材料を与えるという点では由々しき問題であるため、こういった「情報」が実は嘘であることを示す情報も必要になってくる。
 今年フランスでも大統領選挙があり、極右勢力FN(人民戦線)の党首、ルペンが躍進するなどという現象が起こった。インターネットの普及とともに世界的に右翼が跋扈しているのはご承知の通りで、そのための推進力として、ライバルを攻撃するフェイクニュースの類が活用されるという状況が起こっているのだ。右翼連中は力を得るためには手段を選ばないというのか、あることないこと垂れ流し続ける。これも世界共通の現象である。
 さて、ここからが本題だが、フランスの大手新聞社は、フェイクニュースが嘘であることを積極的に暴いて、こういった攻撃が大統領選挙の結果に影響しないよう尽力しているらしい。で、このドキュメンタリーに登場する新聞社リベラシオンは、大統領選挙を前に、フェイクを暴き、その出所を突き止めるという業務を行っていたが、最終的にその出所がアメリカであることを知る。しかもそれが、先のアメリカ大統領選挙でも大量のフェイクニュースを流したトランプに近い人物であることが判明。アメリカ大統領選挙のロシアのケースと同じように、特定の国の選挙に他国が影響を及ぼせる状況が実現しているのがネット社会の現状ということである。こうして民主主義を守ることが難しくなっていることが明らかにされる……そういうドキュメンタリーである。
 なお内容は、『クローズアップ現代』で以前放送されたものと似ており、おそらく使い回しではないかと思う。使い回しだと引け目があるかも知れないが、こういった「啓蒙」番組は、地上波でも何度か放送したらどうだと感じる。大衆に周知させる価値が十分にある情報だと思う。また、世界的な右傾化の状況というのも、一度まとめてドキュメンタリーにしてほしいとも考えている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“強欲時代”のスーパースター D・トランプ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“黒幕”バノンの戦い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧(本)』

# by chikurinken | 2017-07-24 06:44 | ドキュメンタリー

『コン・ティキ』(映画)

コン・ティキ(2012年・英/スウェーデン/デンマーク/独)
監督:ヨアヒム・ローニング、エスペン・サンドベリ
脚本:ペッテル・スカヴラン
出演:ポール・スヴェーレ・ヴァルハイム・ハーゲン、アンドレス・バースモ・クリスティアンセン、ヤーコブ・オフテブロ、トビアス・ザンテルマン

教養バラエティの延長みたいな映画

b0189364_08385903.jpg 1947年に南米ペルーからポリネシアまで筏(コン・ティキ号)で航海し、過去に南米からポリネシアへの人の移動が存在したことを「証明」したトール・ヘイエルダールのコン・ティキ号での冒険を描いた映画。
 伝記映画であるため、どうしても教育映画あるいは『知ってるつもり』などの教養バラエティみたいな内容になってしまう。また航海成功という結末がわかっていることもあり、スリルやサスペンスも中途半端である。致し方ないが。
 『太平洋ひとりぼっち』などでも同様たが、ある場所からある場所への移動をプロットの中心に据えてしまうと、その間に何が起こったかという話になってしまい、ともすれば退屈になりがちである。この映画も案の定、やはり見ていると飽きてくる。ただそれでもサメとの戦いや嵐のすさまじさなどが描かれていて、ハラハラドキドキの要素はある。また海洋の美しさも描かれているため、それなりに楽しめる内容にはなっている。ヘイエルダールの冒険を追体験できるのは確かである。とは言え、やはり教養のために見る映画になるかな。
 僕自身は、この映画のおかげでヘイエルダールやコン・ティキ号に興味を持ったため、先日、図書館で『コン・ティキ号探検記』を借りてきた。面白ければ全部読むかも知れないが、とりあえずは拾い読みのつもり。なおコン・ティキ号の顛末については、乗員が撮影したフィルムを基に作られた映画があるらしい。しかもアカデミー賞を受賞したという。こちらも少し興味のあるところだ。
★★★

補足:
 コン・ティキ号にはヘイエルダール以外に5人の乗員がいたが、映画ではこれがほとんど区別できなかった。見終わってからたった5人だったっけと感じたぐらいだ。外見に特徴のある俳優を選んでたら良かったのに。

参考:
竹林軒出張所『太平洋ひとりぼっち(映画)』
竹林軒出張所『ココ・シャネル 閉ざされた時代に自由の翼を(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-07-22 08:40 | 映画

『黄色いリボン』(映画)

黄色いリボン(1949年・米)
監督:ジョン・フォード
原作:ジェームズ・ワーナー・ベラ
脚本:フランク・ニュージェント、ローレンス・スターリングス
出演:ジョン・ウェイン、ジョーン・ドルー、ジョン・エイガー、ベン・ジョンソン、ミルドレッド・ナトウィック

b0189364_20342785.jpg悪いが達成感のみだった

 小学生のときに合唱で隣のクラスが歌っていた「あ〜のこ〜のきっいろいリボン」という歌のせいで、僕の記憶にしっかりと根を下ろしていたのがこの映画。といっても見るのはおそらく今回が初。もしかしたら深夜テレビで見たかなーという記憶もなくはないが、内容についてはまったく憶えていないので「初」と言っても間違いない。
 監督ジョン・フォード、主演ジョン・ウェインのテッパン西部劇で、退役を間近に控えた軍人が退役前にアメリカ人とインディアン(先住民)の戦闘に関わるというストーリー。スーパーヒーローによるできすぎな話であまり琴線に触れるところもないが、馬の疾走シーンや行軍シーンはジョン・フォード作品らしくそれなりに迫力がある。だが、このできすぎなストーリー自体がそもそも面白いのかという疑問は最後まで残る。結局のところ、有名な映画を見たという達成感以外何も残らなかった。多分ストーリーも早々に忘れることだろう。
★★★

参考:
竹林軒出張所『荒野の決闘(映画)』
竹林軒出張所『リオ・グランデの砦(映画)』
竹林軒出張所『タバコ・ロード(映画)』

# by chikurinken | 2017-07-20 07:34 | 映画

『大病人』(映画)

b0189364_21032163.jpg大病人(1993年・伊丹プロ)
監督:伊丹十三
脚本:伊丹十三
撮影:前田米造
出演:三國連太郎、津川雅彦、宮本信子、木内みどり、高瀬春奈、熊谷真実、田中明夫、三谷昇、高橋長英

ドラマとしては薄っぺらだが
医療に対する問いかけは厳しい


 伊丹十三が医療の問題を問う野心作。『病院で死ぬということ』が参考文献として挙がっていたことからもわかるように、誰のための医療か、誰のための治療か、誰のための病院かという問題提起がこの映画の基調である。テーマ自体は、近藤誠が主張しているような内容で、今となってはそれほど珍しくないが、時代が93年であることを考えると、かなり先進的と言える。しかも医者が看護師に対して「看護婦のくせに医者が決めた治療方針に口を出すな」などという差別的な言動をしたりして、当時の医療の状況を適確に反映しているような気がする。ただこの映画では、看護師が「看護婦のくせに」という一言に烈火の如く怒り、結局医者が折れるという顛末になる。そういうディテールも面白いし「患者が医者に殺される」と言わんばかりの表現も面白い。
 とは言っても、伊丹映画らしく、ドラマ的な重厚さは欠けている。伊丹映画の多くにはサブプロットめいたものがないため、製作者が面白いと思っていることを紹介していくだけで終始してしまう傾向がある。こういう映画を「一本道」とでも名付けたら良いかも知れないが、どこかバラエティ番組的で、そういう部分が物足りなさに繋がる。この映画も例外ではないが、ただし死後の世界を表現した映像などが出てくるなど、見所が多いのも確か。登場人物が割合ステレオタイプなこともありドラマとしては物足りないが、バラエティとして見ればなかなか見所が多い。また演出にも破綻がないため、見て楽しんでいろいろ考えるための素材と考えればこれ以上のものはないかも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『病院で死ぬということ(映画)』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
竹林軒出張所『どうせ死ぬなら「がん」がいい(本)』
竹林軒出張所『タンポポ(映画)』
竹林軒出張所『マルタイの女(映画)』
竹林軒出張所『ミンボーの女(映画)』
竹林軒出張所『スーパーの女(映画)』
竹林軒出張所『小説より奇なり(本)』

# by chikurinken | 2017-07-18 07:00 | 映画

『アンナ・カレーニナ』(映画)

アンナ・カレーニナ(1997年・英米)
監督:バーナード・ローズ
原作:レオ・トルストイ
脚本:バーナード・ローズ
音楽:ゲオルク・ショルティ
出演:ソフィー・マルソー、ショーン・ビーン、アルフレッド・モリナ、ミア・カーシュナー、ジェームズ・フォックス

『アンナ・カレーニナ』の決定版かも……

b0189364_22081212.jpg アメリカ製の『アンナ・カレーニナ』。そのためほとんどのシーンでは英語が話される。ただしところどころ(身分の低い人が語る場面など)ロシア語になる箇所がある。なぜだかわからない。ロシア語にするんなら全部ロシア語にしたら良いし、全編英語ならそれでも良いと思うが。
 主演はフランス人女優、ソフィー・マルソーで、ソフィーも英語をしゃべる。ソフィー・マルソーと言えば僕とも近い世代で、『ラ・ブーム』でデビューした頃もテレビで予告映像が流されていたりしたため、個人的には長い間興味の対象であった。ただ映画を見るのは今回が初めてである。若い頃はアイドル扱いであまりいい映画に出ていなかったため、僕の食指が動くような映画がなかったことが原因と思われる。この映画については、世評が割に高く、ソフィー・マルソーが演じるアンナ・カレーニナに興味があったため、今回見てみた。
 『アンナ・カレーニナ』は以前、ヴィヴィアン・リーが主演したもの(監督はジュリアン・デュヴィヴィエ)を見たが、あまり印象に残っていない。ストーリーも概ね忘れていて、ただの不倫話程度の記憶しかなかった。今回久々に『アンナ・カレーニナ』に接して、「ただの不倫話」ではないことは重々わかった。すまなかった、トルストイ。
 映画は、ロシアでロケが行われており、原作のイメージはかなり再現されているのではないかと思う。やたら登場人物が多いのはトルストイらしいが、メインのストーリーとあまり関係ないレヴィンとキティをさも主役であるような立ち位置に登場させていることには多少違和感を感じた。もっとも長編小説であれば、登場人物が多いことはむしろ有利に働くし、彼らの平凡な幸福が主題の柱であることは容易に想像できるんで、小説レベルではそれで良かったんだろうとは思う。逆に言えば、この映画、割合原作に忠実に作っていると言えるのかも知れない。
 ちょっとがっかりだったのは音楽で、チャイコフスキーやラフマニノフの音楽が全編使われていたこと。ロシアと言えばチャイコフスキーやラフマニノフというあまりにありきたりな発想がいただけない。恋愛で盛り上がるシーンが『悲愴』交響曲の第1楽章で、エンディング・ロールはヴァイオリン協奏曲と来る。月並みにも程があるってもんだ。ちなみに音楽担当は、指揮者のゲオルク・ショルティである。ショルティであることを考え合わせると、なるほどの選曲と言えなくもない。
 演出などは隅から隅まできっちり行われており、ソフィー・マルソーの演技もなかなか迫真的であった。ただ「アンナ・カレーニナ」という登場人物については、なんだか見通しが効かない。こういう行動をする人間がいても全然不自然ではないが、そうなっちゃいます?というような行動が多かったのも事実。でもまあ、全編通して退屈することなく見ることができるし、当時の風俗などもうまく再現されていて、よくできた映画と言えるんじゃないかと思う。『アンナ・カレーニナ』の決定版と言っても良いかも(他の映画をあまり見ていないので本当のところはよくわからないが)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『トルストイの家出(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『原作と映画の間』
竹林軒出張所『カラマーゾフの兄弟(映画)』
竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(1993年ドラマ版)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-07-16 07:07 | 映画

『秋の駅』(ドラマ)

秋の駅(1993年・フジテレビ、福島テレビ)
演出:河毛俊作
脚本:山田太一
出演:田中好子、布施博、益岡徹、村田雄浩、小倉久寛、金山一彦、大森博、中原ひとみ、丹阿弥谷津子、千秋実

ストーリーの使い回しか

b0189364_20354651.jpg 山田太一のドラマだが、随分小粒な印象がある。プロットも割合単純である。
 田舎の駅を舞台に、嫁が来ない男たちが、ちょっとマドンナ的な女性(離婚経験はあるが)にアプローチしていくという、『幸福駅周辺』みたいなストーリーである。もしかして山田センセイ、使い回しですかと聞きたくなるくらい、設定が似ている。また将来に絶望した老夫婦が死に場所を探すというストーリーも『冬構え』を思わせる。そういうわけで、このドラマについてはあまり目新しさがない。もちろん、ドラマには起伏がありそれなりにうまく作られているが、山田ドラマとしては少し肩すかしを食った印象。
 キャストも山田ドラマとしては比較的珍しいラインアップであるが、活躍している俳優ばかりで違和感はまったくない。また、どの役者もそつなく演技していて申し分ない。ただしキャストの方言(おそらく福島弁)が少し聞き取りづらく、セリフがわかりにくいという部分が難点であった。福島テレビの記念番組だったらしく、そのせいでリアルな福島方言をキャストに話させたのかも知れないが、聞き取れなければしようがない。そういう点も、僕にとってはマイナスポイントだった。期待が大きかっただけに失望感も大きかったが、山田ドラマらしくドラマのクオリティはそれなりに高い。
第19回放送文化基金賞優秀賞受賞作品、第30回ギャラクシー賞奨励賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『幸福駅周辺・上野駅周辺(本)』
竹林軒出張所『冬構え(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-07-14 07:35 | ドラマ

『夏の一族』(1)〜(3)(ドラマ)

夏の一族 (1)〜(3)(1995年・NHK)
演出:深町幸男
脚本:山田太一
出演:渡哲也、竹下景子、宮沢りえ、加藤治子、藤岡琢也、柄本明、永島敏行、大野雄一、森本レオ、柳沢慎吾

結局『冬の一族』はなかった

b0189364_20295294.jpg 山田太一の『一族』三部作(『春の一族』、『秋の一族』、『夏の一族』)の最後の作品。このドラマはこれまで3回くらい見ていて、何度見てもセリフのうまさに感心する。それに複数のプロットを巧みに組み合わせた重厚な構成にも感心する。山田太一の最高傑作の1本と言える。
 自動車会社の設計部門で長年設計に関わっていた中年男(渡哲也)が、ある日突然販売店に出向になった。名目的には出向ではあるが、実質的には肩たたきということで、それでも仕事にしがみついて、上司(藤岡琢也)のいじめにも負けずに真面目に取り組む……というのが1つのプロット。この男の家族は一見したところ割合平穏に過ごしているが、娘(宮沢りえ)は妻子持ちの男と付き合っているし、妻(竹下景子)は夫に多少不信感を持ちながら昔の恋人にしきりに誘われたりしていて、こちらも少々危ない感じ。さらにまた主人公がかかわる不登校の中学生、主人公を育てた血のつながりのない「姉」(加藤治子)などとの間にもサブプロットが発生して、かなりいろいろなストーリーが盛り込まれているが、これがまた実にうまいこと調和している。それぞれの人間関係に強い繋がりがあってそれが不自然ではないため、現実性があり、人間関係にリアルな安定感がある。そのためか構成に隙がないように感じる。
b0189364_20374490.jpg 先ほども少し触れたが、このドラマは特にセリフが優れていて、全3回のドラマのあちらこちらに名ゼリフが散らばっている。またそれぞれのキャラクターがもれなく非常に魅力的で、利害が絡んで嫌な面を見せたりしはするが、それでも人間らしさが出ていて、大変気持ちがよい。それぞれのキャストが良い仕事をしているのは今さら言うまでもない。
 ただ難がないわけではなく、特に第3回は、途中からオカルトが入って『異人たちとの夏』みたいになるのは、あくまでも嗜好の問題ではあるが、いただけないと思う。必然性があると言えばいえるし、これも「ブラザー軒」みたいな1つのエピソードと考えればよいのではあるが、そっち方向には持っていってほしくなかったと感じる。また第3回は、セリフで語るシーンが非常に多かった。ただそのセリフの内容にはインパクトがあるので、まったく飽きたりすることはないが、第1回、第2回がドラマとしてあまりによくできていたため、第3回はやや平凡な感じがしたのが残念。
 とは言うものの、これだけの作品は、いかに山田太一といえど、そう何作も書けるものではないと思う。『今朝の秋』同様、日本のテレビドラマの最高到達点と言えるような作品であることは間違いない。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『春の一族 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『秋の一族 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと(本)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『今朝の秋(ドラマ)』
竹林軒出張所『異人たちとの夏(映画)』

# by chikurinken | 2017-07-12 07:29 | ドラマ

『秋の一族』(1)〜(3)(ドラマ)

秋の一族(1994年・NHK)
演出:深町幸男
脚本:山田太一
音楽:福井崚
出演:緒形拳、岸恵子、大鶴義丹、原田知世、川原和久、藤岡琢也、平田満

b0189364_20335371.jpg原田知世の代表作

 山田太一の『一族』三部作(『春の一族』、『秋の一族』、『夏の一族』)の1本。3本の中では一番地味と言えるか。過去2回見ているが、内容をほとんど覚えていなかった。だが逆に何度見ても楽しめて良いとも言える。
 かつてみずからの自立のために夫(緒形拳)と中学生の子どもを置いて出ていった中年女性(岸恵子)が、仕事先のシンガポールから日本に戻ってきて、彼らに再会するというところから話が始まる。このあたり2001年作の『再会』を彷彿させる展開である。同時にその息子夫婦(大鶴義丹、原田知世)周辺に起こる事件と、元家族の関係が話の中心部分になる。結果的にいろいろなことが、端から見ると逆説的に映ったりして、世の中ってのはわからないなというような話になる。派手さはないが、人間がよく描かれており、またとぼけた楽しい会話も散りばめられているし、何より魅力的なキャラクターたちは山田ドラマの面目躍如である。
b0189364_20340027.jpg 中でも原田知世が演じる美保が、ちょっと「不思議ちゃん」であるが非常にキュートである。原田知世が素晴らしい演技をしていて、彼女の代表作と言える作品、それがこのドラマである。思えば原田知世、素材は素晴らしいのに大した映画に恵まれなかった、女優としては少々寂しい存在である。しかしこのドラマを見ると、やはり素晴らしいポテンシャルを秘めていることが分かる。また藤岡琢也、平田満らの脇役が面白い存在感を放っているのも山田ドラマならではである。派手さはあまりないが、山田太一の職人芸が存分に発揮された佳作と言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『春の一族 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『夏の一族 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『再会(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『サヨナラCOLOR(映画)』

# by chikurinken | 2017-07-10 07:33 | ドラマ

『春の一族』(1)〜(3)(ドラマ)

春の一族 (1)〜(3)(1993年・NHK)
演出:深町幸男
脚本:山田太一
音楽:福井崚
出演:緒形拳、十朱幸代、国生さゆり、中島唱子、浅野忠信、藤岡琢也、丘みつ子、天宮良、江戸家猫八、内海桂子、江口ともみ

お節介なキャラが巻き起こす波風

b0189364_20250369.jpg NHKの土曜ドラマの枠で放送された山田太一脚本のドラマ。演出は山田作品でお馴染みの深町幸男、出演も緒形拳、藤岡琢也、『ふぞろい』の中島唱子と常連組が中心。十朱幸代は珍しい感じがするが『あめりか物語』に出演経験あり。国生さゆりは、山田作品はこの1本だけだが、なかなか快演。浅野忠信は本格デビュー間もない頃で、不登校の高校生役。
 ストーリーは、よそよそしい他人同士が集まる環境に、1人の男が入っていって波風を立てていくという、山田ドラマでは割とよくあるパターンである。またその男が謎めいていて、しかも実は元々は相当な実力者だったというのも、山田ドラマの鉄板ネタである。山田ドラマにしては割合ありきたりなネタではあるが、もちろんドラマとしてはまったくありきたりではない。また登場人物たちが抱えているものも多様であるため、見ていても決してワンパターンというような印象は起こらない。毎度ながらよくできたドラマと感じるし、笑ったりいらだったりしながらドラマにのめり込んでしまう。
b0189364_20245839.jpg 東京、本郷にあるある古いアパートに、中年男、中井(緒形拳)が入居するところから話が始まる。このアパートには何人か住人がいるが、当然のごとく顔を合わせても話をしたりすることはない。登場人物たちが語るように「東京のアパートってそういうもの」だ。だが中井は積極的に他人に関わろうとし、考えようによってはお節介が過ぎるんだが、おかげで周囲に波風が立っていくというように展開していく。
 1回1時間半で全3話構成。第3話でかなりのどんでん返しがあるが、ストーリーの軸が変わることはない。そういう点でも、安定感があるよくできたストーリーである。この後タイトルに「一族」がつく作品が同じ枠で2本放送されるんで(『秋の一族』、『夏の一族』)この作品も放送当時評判が良かったことが推測される。どれも秀作ドラマだが「一族」というタイトルには少々違和感がある。個人的には『夏の一族』が一番のお奨めである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『秋の一族 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『夏の一族 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『春の惑星(ドラマ)』
竹林軒出張所『タクシー・サンバ (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『「早春スケッチブック」、「夕暮れて」など(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』

(ちなみに)謎めいた登場人物が周囲に波風を起こす山田ドラマ
竹林軒出張所『深夜にようこそ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『星ひとつの夜(ドラマ)』
竹林軒出張所『五年目のひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『ナイフの行方(ドラマ)』

お節介が過ぎるタイプの山田ドラマ
竹林軒出張所『鳥帰る(ドラマ)』
竹林軒出張所『この冬の恋(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-07-08 07:24 | ドラマ

『よその歌 わたしの唄』(ドラマ)

よその歌 わたしの唄(2013年・フジテレビ)
演出:田島大輔
脚本:山田太一
出演:渡瀬恒彦、いしだあゆみ、柄本明、鳳蘭、小倉一郎、瀬戸康史、キムラ緑子、中越典子、山崎樹範、阿南健治

痛ましささえ感じる山田ドラマ

b0189364_20130292.jpg 退官した人類学の元大学教授(渡瀬恒彦)が、「1人カラオケ」している人たちをスカウトして合唱団を作ろうとするという話。と言っても、よくある映画みたいに、本格的な合唱団ができあがるというふうに話が進むわけではない。主人公がちょっと気まぐれでそう思ったという程度で、実際に何人かに声をかけて練習場に来てもらうんだが、全然合唱が行われる気配がないという按配。そこからストーリーが二転三転はするが、話にあまりリアリティがない上に、ドラマの進行がなんだかまどろっこしくて、全盛期の山田ドラマとは大分雰囲気が違う。エピソードもとってつけたようなものばかりで、ドラマにまったくのめり込めなかった。
 しかも最後の方に安っぽい回想形式が使われたりして、演出についてもかなり疑問符が付く。山田太一は演出にも結構口を出しているはずで、そのためこれまでどのドラマも一定の水準が保たれていたが、2010年代のドラマについては、脚本面でも演出面でも往年のキレがないと感じることが多い。そういう意味でもこのドラマは失望の部類に入る。少し痛ましささえ感じる。濡れ衣を着せられる大学教授というネタは、『家へおいでよ』の使い回しか。
 キャストはそれなりだが、いしだあゆみの老い方が痛ましい。彼女が歌うシーンがあるが、歌の方も「ブルーライトヨコハマ」の頃と比べるとかなり痛ましかった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『家へおいでよ (1)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『キルトの家(ドラマ)』
竹林軒出張所『時は立ちどまらない(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-07-06 07:12 | ドラマ

『川は泣いている』(1)〜(4)(ドラマ)

シリーズ・街 川は泣いている (1)〜(4)(1990年・テレビ朝日)
演出:雨宮望
脚本:倉本聰
出演:東幹久、岩城滉一、横山めぐみ、いしだあゆみ、築山万有美、円浄順子、三木のり平、堀内孝雄、森本レオ

「泣いている川」とストーリーの本流には
関係があったのだろうか


b0189364_22484640.jpg 1990年にテレビ朝日で放送された倉本聰作の全4回のドラマ。テレビ朝日と倉本聰というと少し珍しい組み合わせのように感じる。それにテレビ朝日が「シリーズ・街」などというNHK風のタイトルを付けているのも奇異な感じがする。時代か?
 ストーリーの中心となるのは、葬儀屋の息子(東幹久)の青春ターニングポイントで、出会いと別れ、生と死などがテーマになる。途中『愛と死をみつめて』みたいな話も出てきて、いろいろなものがてんこ盛りされた、サービス精神溢れるドラマと言える。ただし取って付けたようなエピソードもありそのためにリアリティを少々欠いてしまった部分もある。
 堀内孝雄が伝説の歌手みたいな役で登場し、彼が劇中で歌う「川は泣いている」という歌がこのドラマのテーマ曲にもなっているが、この歌が演歌調で少々辛気くさい。エンドロールで流されるんだが、サスペンスドラマみたいな雰囲気を醸し出して(しまって)いる。ここだけ見ると、いかにも(かつての)テレビ朝日という感じになる。倉本ドラマとしては少し異色な演出と言える。
 主人公の独白がしきりに入る「北の国から」スタイルは倉本ドラマらしいが、このナレーションが必要以上に説明的であるためかなりうるさく感じる。ドラマの流れを少しぶちこわしている部分もある。説明のために入れているのであればセリフの半分以上は不要である。
 総じてそれなりのドラマという感じもするが、それでも昨今のドラマと比べると内容の密度、テーマ性などは段違いである。多少の古めかしさはあるものの、今見ても十分楽しめる作品である。
 なお「川は泣いている」というタイトルは、主人公の趣味であるカヌーとの関連だが(カヌーに乗っていると日本の川の破壊され具合が身にしみ、川が泣いていると感じるということ)、このテーマはストーリーとは直截結びつかず、なんのためのカヌーの設定かわからない。単に作者が川のことを主張したかっただけなのかと感じる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ダム建設中止問題の実在に関する考察』
竹林軒出張所『ダムはいらない! 新・日本の川を旅する(本)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『玩具の神様 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(ドラマ)』
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『冬の華(映画)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『ライスカレー (1)〜(13)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-07-04 06:47 | ドラマ

『娘と私の部屋』(本)

b0189364_17592713.jpg娘と私の部屋
佐藤愛子著
集英社文庫

実に軽ーいエッセイ

 『九十歳。何がめでたい』で今話題の佐藤愛子が40年前に書いた実に軽ーいエッセイ。僕が高校生くらいのときに読んだもので、当時結構人気が出ていた作品である。元々、雑誌『ノンノ』に連載していたものらしく、その後マンガ化もされ、ドラマ化もされた。ドラマでは確か河内桃子が佐藤愛子役を演じていた。
 このエッセイに出てくる「ママ」(つまり著者)は大変な豪傑おばさんで、気に食わないことがあったら、かなりはっきりしかも大きな声でその旨を述べるらしい。娘の前では特に……らしい。ただ言っていることは概ね正論で、ごもっともであるため、どちらかと言えば読んでいて痛快ではある。ただしこんな人が近くにいたら疲れるのは目に見えている。
 当初雑誌連載だったこともあり、当時の世相が反映されているが、なにぶんその対象が今となっては古い。『イレブンPM』のテーマミュージックを娘と歌い合うとか殿さまキングスがどうだとか、今読むと若干の懐かしさもあるが、今の若い人が読んだらよくわからないだろうと思う。こういう楽しい本は気軽に読み継がれてほしいところだが、時代性の濃いものは時代を超えていかないんだろうねェ。
 僕が今回読んだのは集英社文庫版だが、解説を書いているのが今公恵という人で、この人、なんと佐藤愛子の秘書で、佐藤家に出入りしていた人だという。したがって著者とも「娘」の方とも非常に親しい間柄であり、第三者的に見た佐藤家の風景が紹介されていたりして、非常に新鮮。解説にこういう人選をした集英社に拍手パチパチである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『わたしの渡世日記 (上)(本)』
竹林軒出張所『子どもはみんな問題児。(本)』
竹林軒出張所『快楽なくして何が人生(本)』
竹林軒出張所『かつをぶしの時代なのだ(本)』
竹林軒出張所『小説より奇なり(本)』
竹林軒出張所『さわの文具店(本)』
竹林軒出張所『山手線内回りのゲリラ(本)』

# by chikurinken | 2017-07-02 06:59 |