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竹林軒出張所

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ヌード・クロッキー

b0189364_12181341.jpg 先日、ヌード・クロッキー会に参加してきた。クロッキーというのは速写という意味だそうで、短時間で対象を描画することである。「クロッキー」ということばを使ってネットで画像検索すると、いろいろな作品が表示される。やはりよくできたものは人に見せたいということか。
 かつてやたら人物デッサンをやりたくなった時期があって、あちこちでデッサン会みたいなものがないか探していたのだが、なかなか見つからなかった(東京や大阪だといくらでもあるんだろうが)。で、なかばあきらめていたんだが、いつも出入りしている美術館で、半年に1回ずつヌード・デッサン会(厳密にはクロッキーの会だが)が行われていることが分かって、前回から参加しているというわけだ。個人的にはヌードでなくても良いんだがね……いや、ホント。
 前回、たかだかヌードとたかをくくっていたこともあって、あえなく撃沈。あまりの口惜しさに、その後しばらくヌードばかり練習していた。今回は、その轍を踏むことのないよう、何度も練習を積んでからクロッキー会に臨んだのだった。
 今回は、10分のポーズを6回、その後40分のポーズ、20分のポーズを2回というメニューだった(間に適宜休憩が入る)。前回は10分と40分だけだったが、10分のクロッキーと言えばしょせん練習のための描画という感じで、なんだかもの足りない。というわけで、今回20分のポーズを入れてくれるよう僕からお願いしたんである。
 さて、いざモデルさんが入場してくると、室内に緊張が走る。やがて時間になり、ガウンのような簡素な服をはらりと脱ぐ。室内の緊張感がピークに達する瞬間である。いきなり公の場で女性が裸になる瞬間は通常であれば目にすることはなく、考えてみれば相当異様な光景である。初めてのときはさすがにビックリというか少し引いてしまったが、今回は余裕しゃくしゃくである。
 さて、いざ裸体が現れると、非常に恰幅の良いモデルさんであることがわかった。ルノワールがこの場にいればさぞかし喜んだだろう。今回が初めてであれば少しガッカリしていたかも知れないが、まあこういうのもアリかなと割り切ることができた。以前、銅版画の師匠に、ダンバラ・モデルのデッサン会の経験を聞いていたが、僕もついに同じレベルに達することができたわけだ(違うか)。
 ところがこのモデルさん、ポーズが非常に自然で、なかなか描きやすい。さすがプロ!という感じである。でもプロであるならば、もう少しスマートになるという選択肢もあるんじゃないか……などと考えながら、クロッキーに臨んだ。極力、このモデルさんの体からあふれ出るエネルギーを描きとろう(つまりはリアルに描こう)ということで、6+1+2枚のクロッキー(およびデッサン)ができあがった。あらかじめヌードの練習をしていたせいか、今回は前回のように惨敗ということはなく、そこそこのできかなと思えるようなものができた。そういうわけで、気分良く、美術館を後にすることができたのだった。
 そうそう、描画中、モデルさんがこちらを向く姿勢のときに、描き手を意識するかのような雰囲気が発生し、結果的に画家とモデルの葛藤といった状況が生み出された。まあ、僕の気持ちの上でそう感じただけだから、モデルさんはなんにも感じていない可能性が高い。だが、なかなかスリリングで面白い状況であった。そういう意味でも良いモデルさんだったんではないかと思う。またいつかこのモデルさんに対峙したいものだが、次回はもう少し細くなっていただけると大変ありがたい。あまりに太い方だと、人を描いているというより物体を描いているという感じになってしまうもので(その方が本来的には正しいのかも知れないが、僕は人を描きたいのだ)。ひとつよろしくお願いしたい。

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恰幅の良いモデルさん……20分、鉛筆


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変な位置からのクロッキー……10分、黒チョーク
# by chikurinken | 2009-07-16 12:12 | 美術

『小さなさかな屋奮戦記』(本)

b0189364_13204579.jpg小さなさかな屋奮戦記 松下竜一 その仕事29
松下竜一著
河出書房新社

 松下竜一の盟友である梶原得三郎氏夫妻をモデルにした小説。
 曲がったことの嫌いな梶原氏が小さな魚屋を開店し奮闘する姿、それを支える妻とのふれあいなどを淡々と、ときにユーモラスに記述している。松下竜一の、盟友に対する優しい視線が心地良い。
 『5000匹のホタル』や『ケンとカンともうひとり』などの松下童話に通じる作品で、語り口もそれに近い。正直なところ、インパクトに欠け少し退屈した部分もある。おそらく語り口がその原因ではないかと思う。面白い要素もあり、よくできてはいるんだが、松下竜一の著作ということでどうしても期待が高くなってしまう。とは言え、梶原氏の実直さは非常に気持ち良く爽快でさえある。世の中がこういう人ばかりになれば、さぞかし暮らしやすくなるんだろうが。
★★★

参考:
竹林軒出張所『暗闇の思想を(本)』
竹林軒出張所『明神の小さな海岸にて(本)』
竹林軒出張所『ルイズ 父にもらいし名は(本)』
竹林軒出張所『あぶらげと恋文(本)』
竹林軒出張所『五分の虫、一寸の魂(本)』
竹林軒出張所『潮風の町(本)』
竹林軒出張所『仕掛けてびっくり 反核パビリオン繁盛記(本)』
竹林軒出張所『ケンとカンともうひとり(本)』
# by chikurinken | 2009-07-15 13:22 |

関ヶ原参戦の記(後編)

 『徳川家康』の方は、DVDが出ていないものとずっと思っていたんだが、こちらもTSUTAYAにあることが分かり、早速借りてきた。関ヶ原の戦いでは、間諜の役でちょっとだけ映っているシーンがある(これも絶対に本人しかわからないが)。そのシーンは是非見てみたい。
 こちらのDVDでも、例によってドラマ部分は飛ばし合戦シーンをスキャンしながら見た。このドラマでもいろいろなことが甦ってきて懐かしくなる。三方ヶ原の戦いは出たことすら憶えてなかったが、このDVDを見て思い出した。京都近郊の河原(宇治川だったと思うが)で撮影されており、主役の人達も来てたよなあなどと思いながらね。そうそう、こういうドラマにありがちだと思うがほとんどのシーンは、京都近郊で撮影されております。浜辺のシーンは琵琶湖で、川辺のシーンは宇治川で撮影します(場所もほぼ決まっているようだ)。城が出てくるシーンは彦根城ですね。『徳川家康』では、彦根城がいろいろな城として登場しています。しれっと「……城」というテロップまで付いている。どれも一緒だっつーの。
 こちらは、ドラマ部分が割に面白くて、合戦シーンのみを見るつもりだったにもかかわらず、下巻に至ってはほとんど見てしまった。女好きの家康(松方弘樹)という設定も面白い。豊臣秀吉を緒形拳が演っているのもなかなかである。緒形拳の豊臣秀吉は、NHK大河ドラマでも再三再四演じられていて「ザ定番」である。真田広之の石田三成も実務家として表現されており、これも「ザ定番」になるんじゃないかというようなデキである。ちなみに監督は降旗康男で、『駅 station』や『鉄道員』を撮った人である。
b0189364_15384520.jpg そうそう、関ヶ原でした。間諜のシーンは申し訳程度に出演していた。「本人しかわからない」というより「本人にもわからない」というレベルであった。
 関ヶ原では、他にもいろいろな陣営の足軽として参加しているはずなんだが、どこの陣営で出ていたかほとんど憶えていない。というより、出ていたときからわからなかったのか……。この衣装を着けてくれと言われるままに走り回っているわけだから、関ヶ原マニアでなければわかるまい。ただ、石田三成の部下になったことはぼんやりと記憶している。関ヶ原の最後のシーンで、石田三成が劣勢を感じながら突進を命じるんだが(これがハイライトになっている)、そのシーンを見ながら思い出した。
 そうだそうだ、この中に俺はいたんだ……俺も討ち死にしたんだ……
 なにやらあの世からの回想のようだが、そういった中でドラマは終了し、家康様が天下を取ったのだった。なかなか面白いドラマだった。正月にゴロゴロ見るドラマとしてはなかなか良いんじゃないかと思った。

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この後、撃たれて手前に落下するのはプロのJACの人。僕はなんとか逃げおおせた……(笑)

# by chikurinken | 2009-07-14 15:41 | 映像

関ヶ原参戦の記(前編)

b0189364_9234550.jpg 僕は、関ヶ原の戦いに参加したことがある。他にも桶狭間、三方ヶ原、小牧・長久手に参加し、長篠は少し曖昧だがたぶん出たんじゃないかと思う。さらに時代を下って、幕末の戊申戦争や西南戦争、神風連の乱にも参加している。
 何をほざいているのだと思われるかも知れないが、つまりテレビ映画のロケの話で、エキストラとして出ていたというわけ。
 かつて京都に住んでいたとき、金欠のためバイトに明け暮れていたのだが、秋から冬にかけて東映京都で大々的にエキストラを募集していたことがあって、これに応募した。撮影が終わるまで拘束されるが(逆に早く終わったらその時点で解放→報酬減)大半が待ち時間で、しかもいざ仕事といっても走り回ってるだけなので、大変楽で割の良い仕事である。特に始めたばかりの頃は、目新しいことばかりで結構楽しい。当時、民間キー放送局が年末年始に長時間ドラマを始めた頃で、ほとんどのキー局がこういった類のドラマを放送していたんじゃないかと思う。そのうちの多くが東映京都で製作されていた。そのとき製作されていた二大大作が『田原坂』(日本テレビ系)と『徳川家康』(TBS系)で、この撮影が当時の東映京都でメインになっていたため、僕も関ヶ原や桶狭間に従軍(参加)することになったわけである。
 画面に映るようなエキストラはプロがやるので、われわれバイトは足軽として後ろの方をワーワー言いながら走り回っている。足軽だから、脚絆や股引、簡単な鎧を着けて笠をかぶるという出で立ちで、髷なんかは当然付けない。撮影中に笠が取れたら現代風の髪型が登場してぶちこわしになるので、それだけは気をつけなければならない。桶狭間では大雨が降っていた(人工的に降らせていた)ので疲労が蓄積して大変だったものだ(遠い目……)。
 参加したドラマをもう一度見てみたいとは思っていたんだが、どのレンタル店にもDVDが置かれていないようで半分あきらめていたところ、先日、近所のTSUTAYAで『田原坂』を発見した。というわけで『田原坂』のDVDを借りて見てみた。もちろん、ドラマ部分は飛ばしながら、合戦シーンのみに集中するのである。だから6時間くらいのドラマだが、40分くらいで見終わった。撮影中、本格的な鎧甲を着けて参戦(参加)したシーンが1つだけあって、神風連の乱なんだが、そこにしっかり僕が映っていた(ような気がする)。家人に教えても、はぁ?ってなもんで、まったく感動はないようだ。そういえば、実際の放送時にもビデオに撮って友人に見せたんだが、似たような反応だった。「これ俺!」などといっても、大笑いされて「絶対本人じゃなきゃわからない」と言われた。
 とは言っても久々にこの合戦シーンを見ると、いろいろな記憶が甦ってくる。なんだか懐かしくなった。
(つづく)

# by chikurinken | 2009-07-13 09:28 | 映像

『崖の上のポニョ』(映画)

b0189364_15265038.jpg崖の上のポニョ(2008年・東宝)
監督:宮崎駿
脚本:宮崎駿
出演:山口智子、長嶋一茂、天海祐希、所ジョージ、奈良柚莉愛、土井洋輝、柊瑠美

 宮崎駿の映画はほとんど見ているし、テレビアニメの『未来少年コナン』もリアルタイムで全部見た。そういうわけで宮崎アニメは一部を除いておおむねシンパシーを感じている。だが今回の『崖の上のポニョ』はもの足りなかった。
 今作は、純粋に子供向けであると感じた。もっとも制作側は子供向けのつもりで作っているんであろうが、これまでの作品、『天空の城ラピュタ』、『魔女の宅急便』、『千と千尋の神隠し』などは、大人(つまり僕ですが)をうならせるような要素があったように思う。
 エヴァンゲリオンを思わせるような破滅テーマだが、風呂敷を広げた割には適当かつ予定調和的に収束したという印象を持った。破滅的な割にみんなやけに明るいし。破滅テーマであればもう少し血なまぐささが必要だと思うが、そういうのはそもそも宮崎駿の守備範囲ではない。たとえ荒唐無稽な話でもリアリティは必要である。リアリティがなければ、子供の作り話と同じである。
 背景も、色鉛筆かパステルか判然としないが、少し浮いており、違和感がある。奇をてらいすぎのような気がする。いつもの宮崎アニメの、目を見張るような背景表現ではなくこちらも残念。ただ、全編通して色彩は非常に美しい。次回作に期待(もう作らないって言ってるらしいが)。

★★★
# by chikurinken | 2009-07-12 15:22 | 映画

『漢字の相談室』(本)

b0189364_1302136.jpg漢字の相談室
阿辻哲次著
文春新書

 漢字に関する雑学本だろうってことでとばし読みするつもりで借りたんだが、全部読んでしまった。
 漢字に関連する設問(質問)に対して著者が答えるという方式で、漢字にまつわるあれこれが紹介される。たとえば、「私の知人の「たかはし」さんは普通の「高橋」ではなく、あまり見かけない字形で書くことになっています。普通に「高橋」と書くと機嫌が悪くなることすらあるのですが、なぜそんな書き方があるのでしょうか?」(この質問自体少し人を喰っていて面白いが)とか「新常用漢字の試案の中に「しんにょう」の形を含んだ漢字が三つありますが(「遜」「遡」「謎」)、いずれもしんにょうの点がふたつになっています。これまでの常用漢字では「道」とか「進」のように点がひとつだったのが、これからは点ひとつとふたつが混在することになるのでしょうか」などといった質問がそれぞれの章の最初に書かれていて、それを軸に漢字の話が進められる。
 前者の答えは、「明治の戸籍作成時に担当者が書いたものがそのまま残っているため」だという。要は癖や間違いが発端ということのようだ。後者の答えは、戦後の占領軍による政策と清代の漢字辞典である『康煕字典』との矛盾の結果こういう事態が発生したということだ(わかりにくいでしょうが、非常に複雑な事情があります。詳細を知りたい方は本書を読んでください)。回答は明快で、その背景についても詳しくかつ面白く解説されていて、語り口も楽しい。大学の教養過程の講義のようで、気楽に読み進められる。テレビ業界に対するボヤキなんかも入っている。
 どの章でも、漢字の深遠な歴史が語られていて、漢字の奥深さを実感することができる。また、漢字を取り巻く環境の複雑さ(特に日本において)も思い知らされる。単なる雑学本にくくることができない本で、非常に奥深い好著である。

★★★☆
# by chikurinken | 2009-07-11 13:02 |

『たましいの場所』(本)

b0189364_14302271.jpgたましいの場所
早川義夫著
晶文社

 昨日の「早川義夫氏のこと」の項で、おおむね書き尽くしたんだが、本日読み終わったので、記録のためにここに記しておく。
 ミュージシャン、早川義夫のエッセイ集で、自身の歌、家族、身辺などがテーマになっている。本屋(早川書店)を閉める顛末を書いた「閉店」が特に良かった。少しホロリとした。前にも書いたように、全体に上品なユーモアが漂っている。非常に後ろ向きで自分がダメ人間のような書き方をしていることが多いが、僕は相当な文才だと思う。ご本人に届くかどうかわからないが、エールでもあります。

★★★
# by chikurinken | 2009-07-10 14:34 |

今日も、Hな歌

b0189364_141266.jpgオリーブの実
(アルバム『会話』 に収録)

歌:柴草玲
作詞・作曲:柴草玲

地中海の吐息みたいなうるわしいオリーブの実
ふくよかなその丸さは私の舌の上で
もて遊ばれて うっとりしながら
私の中へ 中へ 中へ

外は雨夕方から降り続きまだ止まぬ
行きすぎる車止まる車似ている音だけれど
あなたじゃなくって 間が持たなくって
オリーブをひとつ ひとつ ふたつ またひとつ

私の身体の片隅で小さく
ひざを抱えて今夜も待ちわびる
待ち人を待ちわびる オリーブの実

手に入れたいのはかぐわしいかぐわしいあなたの肌
なめらかなその弱さは私の指の先で
責められて 涙浮かべて
私の中へ 中へ 深く 中へ

できることなら
私も無邪気なオリーブの実になって
あの人の中を駆けめぐる駆けめぐる ラララ

できることなら
私も無邪気なオリーブの実になって
あの人の中に奥深く入りたい ラララ

待ってばかりはもう嫌だとだだをこねるオリーブの実
グラナダの空が懐かしいとさめざめと泣くから
旅に出ましょう
折り畳みの日傘と赤い口紅持って
日傘と赤い口紅持って
日傘と赤い ラララ

 僕はHな歌だと思っているんだが、お前の思い過ごしだと言われればまあそれでもかまわない。そういうふうに考える僕がHなだけだ。比喩的な表現が多く、手がかりみたいなものも盛り込まれているが、あるいは考えすぎかも知れない。たとえHな歌であるとしても、下品さがなく、エレガントですらある。これが軽快な調子でさらりと歌われる。
 この曲が収められているアルバム『会話』には、他にも、情事を歌った(と思われる)「靴の詩」とか、情事の後を歌った(と思われる)「アクアリウム」といった曲もあるので、この曲がHな歌であってもまったくおかしくない(と思われる)。「靴の詩」なんかは、詞の中にそれらしい言葉すら出てこないにもかかわらず艶っぽくて、どことなくマンガの高野文子のような詩的な要素が漂っており、非常に気に入っている。かと思えば、1933年の「長野県教員赤化事件」を扱った「会話」という歌もある。非常に多彩であるが、それでいて音楽的に一貫性があり、どれも上品で非常に心地良い。
 僕は、柴草玲は天才的な音楽家だと思っているが、その彼女のアルバムの中でも屈指のものである。
# by chikurinken | 2009-07-10 14:06 | 音楽

早川義夫氏のこと

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(アルバム『この世で一番キレイなもの』 に収録)

歌:早川義夫
作詞・作曲:早川義夫

すごく可愛い 女の子
性格が良くて 話がはずんで
笑顔がステキで いい匂い
すこしHで かなりHで

愛しい気持ちを お口に含んで
広げてごらん よく見えるように
僕を元気に させてくれる
君をいっぱい 愛したい

そんな恋人が 僕の眼の前に
現れるなんて 夢のようなこと
鏡に映る 僕の姿
思いっきり 棚に上げて

君のベッドと 僕のベッドを
支えているのは ふたりの孤独
君のあそこは 僕のものだよ
いやらしさは 美しさ

 この歌を歌っているのは早川義夫という人で、知っている人は知っているが知らない人は全然知らないという(当たり前か)ミュージシャンである。かつてジャックスというバンドで「サルビアの花」を歌っていた人で、その後レコード・プロデューサーを経てから、本屋さん(早川書店、ハヤカワ書房ではない)を開業し、二十数年後、再びミュージシャンとして甦った方である。経歴も異色だが、歌も結構異色である。
 この「H」という歌を聴いて、一体どういう人なんだろうかとあらためて興味を持ち、『たましいの場所』という本を図書館で借りた。実は、これまでに『ぼくは本屋のおやじさん』という早川氏の著書を読んでおり、しかもホームページの日記も頻繁に読んでいるので、この人のことを知らないわけでは全然ないのだ。それに『ジャックスの世界』『かっこいいとはなんてかっこ悪いんだろう』『恥ずかしい僕の人生』などのCDも聴いたことがある(『かっこいいとは……』は買った、他はレンタル)ので、どちらかというとファンに近い……のですかね。
 この人は、日記などでも「恋人が欲しい」ことを公言しているので、奥さんとの関係はどうなっているんだろうかと常々気になっていた(他人である僕が気にすることはないんだが)。そういう状態で、この「H」が収録されているアルバム、『この世で一番キレイなもの』を聴いたんである。この歌からもわかるように、内容が結構刺激的である。奥さんとの関係がこれまで以上に気になるようになった。しかも奥さんとも円満なようなんだ、日記から判断すると。そういうわけで著書『たましいの場所』を借りたんである。
 この本では、奥さんとの関係についても(もちろん)触れられており、家族として仲は良いんだが、どうも男女という感覚がなく(年配の夫婦は大体そうかも)、奥さんの方も、外に子供を作りさえしなければご自由におやりくださいということらしいんだな、これが。そういういきさつで「恋人募集中」を公言するということにつながったようだ。僕のような常識的な感覚では理解しがたいというかうらやましいというか……しかし、早川氏の音楽面から見ると非常にプラスになっているようだ。こういう刺激的なアルバムにつながってるわけだから。このエッチな「H」は、他の曲と同様、早川氏が声を絞り出すようにして歌っている。僕の感覚から行くと、もう少しサラリとやってほしいところだ。
 著書『たましいの場所』は、早川氏の内省的な面がよく出ており、しかも思考を巡らせる過程が文章になっているようで、つい口が緩んでしまう。内容がシリアスだったりするんで、本当のところ笑っていいものかどうか難しいんだが、太宰治の晩年の作を思わせるような上品なユーモアが漂っている。自己否定とかボヤキみたいなのも多いんだが、そのあたりも太宰を彷彿とさせる。ついでに言えばアルバムの『恥ずかしい僕の人生』というタイトルも。
# by chikurinken | 2009-07-09 20:07 | 音楽

『銀座ミツバチ物語』(本)

b0189364_1123070.jpg銀座ミツバチ物語 美味しい景観づくりのススメ
田中淳夫著
時事通信社

 銀座のビルの屋上で養蜂を始めた人のお話。以前、テレビで紹介されていたのを見た(『宇宙船地球号』だったと思う)が、その当事者によるレポートである。単なる思いつきで養蜂を始めるが、採れた蜂蜜を銀座の店に使ってもらうという方向に進んで、やがてコミュニティ全体に養蜂の波が広がっていく。養蜂を通じた街づくりに発展していく過程がわかりやすくレポートされている。
 働き蜂の寿命が30日程度で蜜を集めるのは最後の10日間とか、ミツバチの巣箱がスズメバチに襲われたときにハタラキバチが飼い主に知らせに来たとか、そういったミツバチの生態やエピソードが非常に面白かった。やはり、マニアが好きなことを語るのは、はたで聞いていて非常に楽しい。この人はホントにミツバチが好きなんだなあと思う。ミツバチの生態以外に(特に銀座の)街づくりについてもページが割かれているが、その部分は僕にとって少し退屈だった。
 これを読むと、ミツバチを飼ってみたくなる。

★★★
# by chikurinken | 2009-07-08 11:05 |

『ルイズ 父にもらいし名は』(本)

b0189364_10325226.jpgルイズ 父にもらいし名は
松下竜一著
講談社文庫

 20年以上前から探していて10年ほど前に入手できた本。松下竜一の本はすぐに品切れになるのでなかなか手に入らないのだ。これだけの作家をないがしろにする出版状況にも憤りを感じるが、僕としても10年来読んでなかったんで大きなことは言えない。
 松下竜一の本を読むといつも感じる(不正には厳しいが)人に優しい視線や真摯な態度は、本書からも伝わってくる。内容以前に、そういった著者の人間性に触れられるのが大変心地良い。
 本書は、講談社ノンフィクション賞を受賞した、いわば著者にとっての出世作である。内容的には、他の著書よりも地味な印象があるが、それでも丹念に書き込まれていて、いい加減な読み方はできないなと思わせる迫力がある。
 本書では、伊藤ルイという一女性の半生を追うことで時代を照射している。取り上げられている伊藤ルイは、関東大震災直後の甘粕事件で虐殺された大杉栄と伊藤野枝の四女だが、それ以外は、特に変わった経歴もない普通の女性である。もちろん、彼女にとって「大杉の子、野枝の娘」であることは(マイナス作用として)大きかったのであって、生きる上でいろいろな障害になってはいるのだ。その彼女が、「大杉の子、野枝の娘」であることを肯定的に捉えられるようになっていく過程、つまり人間的成長が本書のテーマということになるんだろうか。
 内容的にはこのように地味だが、時代がよく捉えられている上、描写が非常にうまいので、映像が目の前に現れてくるように感じる。これは他の松下作品にも共通する特徴である。名工が、よく吟味した材料を使い、時間をかけて作り上げた工芸作品のような重量感、高級感があって、読後も爽快だ。松下竜一の面目躍如である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『暗闇の思想を(本)』
竹林軒出張所『明神の小さな海岸にて(本)』
竹林軒出張所『あぶらげと恋文(本)』
竹林軒出張所『五分の虫、一寸の魂(本)』
竹林軒出張所『潮風の町(本)』
竹林軒出張所『小さなさかな屋奮戦記(本)』
竹林軒出張所『仕掛けてびっくり 反核パビリオン繁盛記(本)』
竹林軒出張所『ケンとカンともうひとり(本)』
# by chikurinken | 2009-07-07 10:33 |

『アンジェイ・ワイダ 祖国ポーランドを撮り続けた男』(ドキュメンタリー)

アンジェイ・ワイダ 祖国ポーランドを撮り続けた男
(2008年・NHKエンタープライズ・ドキュメンタリー・ジャパン)
NHK教育 ETV特集


b0189364_14341899.jpg 『地下水道』や『灰とダイヤモンド』で有名な、ポーランドの映画監督、アンジェイ・ワイダの半生を追うドキュメンタリー。
 政府当局の検閲と戦いながら意欲作を製作し続けたワイダ監督が、このたび「カティンの森」事件を扱った新作(『カティン』)を発表した。
 「カティンの森」事件というのは、1940年、ソ連軍がポーランドの将校数千人を虐殺した事件で、ワイダ監督の父がこのときの被害者の1人だった。虐殺事件が明るみに出たときの母の行動を目にしていたワイダは、今回の映画でもそのあたり、つまり女性の側からの視点も、自らの実体験に基づいて描いているという。ワイダにとっては、ポーランドの歴史であると同時に個人的な歴史なのだろう。この出来事は、永らく彼のライフワークだったとも思われるが、内容的にソ連が崩壊した今でなければ撮れない映画である。すでに82歳という高齢で、今後映画を撮る機会がどれくらいあるかわからないが、土壇場になって、ライフワークを果たすことができたというところなのだろう。
 このドキュメンタリーでは、検閲と戦い続けたアンジェイ・ワイダの不屈の精神、検閲を受けることなく挑んだ大作(『カティン』)の2つが柱になっており、アンジェイ・ワイダの偉さがあらためてわかった。これまでワイダの映画は何本か見ているが、僕自身、ほとんど古典を読むような感覚で見ておりあまり感慨がない。今回のドキュメンタリーでわかったのだが、ワイダ作品は、ポーランドの現代史を知らなければわからない部分が非常に多い(ドキュメンタリーの中で解説があった)。いわばポーランド人向けに作られているような部分が結構ある。結果的にその辺が、僕のワイダ作品の印象につながっているんだろうと思う。誰もが感じられる普遍性はもちろんあり、その点が世界中で評価されている部分なのだろうが、ポーランド現代史とポーランド人のメンタリティを知れば、ワイダ作品の面白さがなお一層わかるのではないかと感じた。もう一度ワイダ作品を見てみたいと思わせるドキュメンタリーだった。
 第25回ATP賞テレビグランプリ受賞。

★★★☆
# by chikurinken | 2009-07-06 14:35 | ドキュメンタリー

七月のCD

 今月買ったCD。浜田真理子の『夜も昼も』

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 浜田真理子は島根県在住のシンガー・ソングライター。ネットで検索すると、女性と思われる人々の共感の声が嵐のように……。女性受けする歌詞なのだろうか。僕にはもう一つピンと来ない。最初「教訓I」とか「アカシアの雨がやむとき」とかのカバー曲から入って、その後オリジナルもまとめて聞いてみたんだが、大絶賛するほどのものなのかいまだによくわからない。面白い歌もあるにはあるが。
 この『夜も昼も』は、Amazonのレビューによると、浜田真理子の最高傑作だということで、今回思い切って購入に踏み切った。全体的に落ち着いており、秋の夜みたいな雰囲気のしっとりとしたアルバムである。ジャケットも非常に良い。写真のジャケットは帯が付いた状態であって、右側の「浜田真理子 夜も昼も」と書いている白い部分が帯。これを取ると、左側の絵の続きがある。ネコもシルエットではなく、しっかりと描かれている。「小梅」でお馴染み(古い?)の林静一の絵だが、いやらしくなく、個としての女を感じさせる絵で、そういう意味では浜田真理子の歌によく合っているような気がする。
 2曲目の「スプーン」という曲がちょっと面白かったので、ここでご紹介。

スプーン
(アルバム『夜も昼も』 に収録)

歌:浜田真理子
作詞・作曲:浜田真理子

スプーンを ふたつ 重ねたみたいに
あなたに抱かれて眠りたい

胸の鼓動を 背中に感じたら
なんにも おそれはしない

今夜ふたりで 夢をすくうの

月の光が しのびこむ部屋で
吐息を髪にくぐらせて

低く静かに 歌ってよあの歌
ほかには何もいらない

今夜あなたと 夢をすくうの
今夜ふたりで 夢をすくうの

参考:
浜田真理子 Official Website(曲を試聴できます)
浜田真理子オフィシャルブログ
# by chikurinken | 2009-07-05 18:29 | 音楽

『わるいやつら』(映画)

b0189364_18453589.jpgわるいやつら(1980年・松竹、霧プロ)
監督:野村芳太郎
原作:松本清張
脚本:井手雅人
出演:片岡孝夫、松坂慶子、梶芽衣子、藤真利子、宮下順子、藤田まこと、緒形拳、渡瀬恒彦

 タイトル通り、わるいやつばかり出てくる映画。狐とたぬきのだまし合いで、見るも不快、辟易してくる。ただし映画自体のできが悪いというわけではない。ストーリーもプロットもよくできていて、なるほどと思う。演出や俳優陣も良い。松本-野村コンビらしく、そつのないできばえである。
 『わるいやつら』は何度もドラマ化されているらしいが、見たのは今回が初めてである。原作も読んでいない。松嶋屋(片岡孝夫)つながりで見たんだが、(舞台だけでなく)映画でも好演していて、やはり芸達者だなと思った。以前、大河ドラマで後醍醐天皇を演じていたときはもう一つだっただけに、要は演出なんだなとあらためて認識した。
 何となく感じたことだが、片岡孝夫演じる主演の医師の動機付けや性格付けがもう一つのようで、もの足りないというかリアリティを感じない。つまり、なんとなくプロットをいじってストーリーを作ってみましたという感じが伝わってくる。要するに、こういう話があるんだけどさあ、悪い医者がいてね、こいつが女たらしでね……というような作者の言葉が聞こえてくるような……何というか非常に作為的な印象がしたのだ。原作を読んでいないので、原作自体がそうなのか、映画化する時点でそうなったのかはわからないが、リアリティがない分平面的で、こういうレベルであれば、映画をしまいまで見なくてもストーリーだけ教えてもらえば十分かなという感じもする。ただ、あらためて言うが、この映画自体がダメだということではないのだ。丹念に作り込まれているのはわかるんだが、少しポイントを外しているんではないかなということ。推理ものが好きな人やストーリー展開自体が目的の人であれば、十分満足できる出来映えではないかと思う。
 出演者が豪華であることも書き添えておきたい。主演クラスの役者がちょい役で出ていたりして、その辺も見所の1つである(当時無名の小林稔侍も端役で登場)。歌舞伎の『忠臣蔵』みたいなもので、なかなかぜいたくでよろしい。

付記:映画や小説を紹介するときはなるべくネタ割れしないよう配慮しており、その辺については今回も同様。本項が奥歯に物の挟まったような印象を与えたとすれば、そのあたりが原因であると思われます。

★★★☆
# by chikurinken | 2009-07-04 18:50 | 映画

松嶋屋からの教訓

b0189364_10343241.jpg 一昨日紹介した本で、15代目片岡仁左衛門(松嶋屋)が、舞台をいくら務めても「今日は良くできたな」と満足することがないと(いうようなことを)言っていた。片岡仁左衛門といえば、「同時代に生きてて良かった」と思わせるほどの名人と僕は思っているのだが、その名人にしてこれである(僕はかつて、この人の舞台を生で見ていて「同時代に生きてて良かった」と本当に思った。先述の本で著者が同じようなことをあとがきに書いていてヘーッと思ったものだ)。
 人間国宝クラスの職人(いわゆる匠ですな)も、やはり同じようなことを言う。いくら作ってもアラが見えて満足するものができない、と。それも口を揃えて。はたから見ていると、こんなにすごいものなのに?と思うにもかかわらず。
 かれらに共通して言えるのは、求めている理想が高いということだ。あまりに理想が高いため、どれだけのものを作り出したとしても満足できないのだろう。
 一方で、平気で大風呂敷を広げたり、大口を叩いたりする人もいる。こちらは大変見苦しい。自分と周囲に対する認識が正しくできていないことを広報しているようなものだ。
 などと言いながら、僕自身、自分の絵に結構満足していたりするのだから、始末に負えない。理想を高く持ち、その理想に対して謙虚に邁進していきたいものだ。自戒です……。
# by chikurinken | 2009-07-03 10:39 | 日常雑記