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竹林軒出張所

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『特集 山中貞雄生誕100年「チトサビシイ 残された3本に輝く天才」』(ドキュメンタリー)

山中貞雄生誕100年「チトサビシイ 残された3本に輝く天才」
(2009年・NHK)
NHK BS2

 29歳で夭折した映画監督、山中貞雄のオマージュ・ドキュメンタリー。来週から山中映画をBS2で放送するにあたり、その紹介として作成されたもののようだ。
 山中貞雄といえば、知る人ぞ知る戦前の映画監督で、生涯に20数本の映画を撮っているが、現在はそのうち3本(『丹下左膳余話 百萬両の壺』『河内山宗俊』『人情紙風船』)しか残っていない。この3本、見ればわかるがどれも傑作で、戦前の日本にこんな男がいたのか!と思うほどである。生きていたら黒澤明や小津安二郎を超える存在になっていたかも知れない。
 その山中貞雄は、1937年に召集され、従軍中に中国で病死した。こんな芸術家まで軍隊に引っぱっていかなければならなかったのかとつくづく思う。おかげで、山中貞雄という天才映画人を若くして失うことになったのだ、日本は。
 このドキュメンタリーのタイトルの「チトサビシイ」は、山中が戦地で記した手記に書かれている「人情紙風船が山中貞雄の遺作ではチトサビシイ」という言葉からとったもの。山中ファンなら思わずニヤッとするような、なかなか凝ったタイトルである。だが、タイトルはともかく内容的には、紹介ビデオの域を超えるようなものではなかった。
 ただ、山中が学生時代に辞書の片隅に描いたというパラパラマンガを映像化したもの(京都文化博物館所蔵)や、『鼠小僧次郎吉』の断片フィルムが紹介されていたのは、大変貴重で収穫であった。パラパラマンガは、一般的に目にするようなものと趣が違って、カット割りなどが非常に映画的で特徴がある。ちょっとしたコンテみたいなもので、山中の映画人としての才能がすでにこの頃から芽生えていたんだろうと思わせるものがあった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『山中貞雄のこと……追記』

山中貞雄……アゴが長いことからロングロングアゴーと呼ばれていた
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# by chikurinken | 2009-11-08 18:04 | ドキュメンタリー

『アニメ青春時代 夢に挑んだ男たち』(ドキュメンタリー)

アニメ青春時代 夢に挑んだ男たち
(2009年・NHK、テレコムスタッフ)
NHK-Hi ハイビジョン特集

 1962年、マンガ家、吉田竜夫によって始められたアニメ製作会社、竜の子プロダクション(通称タツノコプロ)。『宇宙エース』、『マッハGoGoGo』、『みなしごハッチ』、『ガッチャマン』、『タイムボカン』など、ヒット作を次々に世に出し、同時に数々のスタッフを育てたことでも有名。画家の天野喜孝、映画監督の押井守、メカニックデザイナーの大河原邦男など、その後、さまざまな分野で活躍する人々がタツノコ出身である。彼らが育った土壌には、吉田竜夫が培った、人を発掘し大事に育てる風土があった。創業から、吉田竜夫の死、そして現在に至るタツノコプロの歴史を、関係者の証言で追うドキュメント。
 子ども時代『マッハGoGoGo』に異常にはまった時代があり、特にあのマッハ号のデザインは今でも秀逸だと思っている。タツノコプロについては、もちろん名前は知っていたが詳しいことは知らず、いろいろと画期的な試みをしていたこともまったく意識していなかった。また、タツノコ出身の人々についても、作品は目にしたことがあっても詳しくは知らない。というわけで、いろいろと勉強になったドキュメンタリーでした……。

★★★

『マッハGoGoGo』より
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# by chikurinken | 2009-11-07 11:33 | ドキュメンタリー

昨日のつづき……そしてYouTube画像のダウンロード方法

 昨日紹介した森田つぐみの映像がもうYouTubeに登場していた。これをアップした人もきっと、CSで放送された「ヒットスタジオ」から取り込んだんだろう。

森田つぐみ  少女期(YouTubeより)

 このビデオを見てもらえばわかるが、最初と途中に、出演歌手による寸劇が入っていて、歌の部分を浸食している。製作担当者め、せっかくの貴重な映像なのになんてことをしてくれるんだ……などと言っても仕方がない。製作者たちも、この映像が30年後に貴重映像になっているなどとは想像もしてなかっただろう。しかも貴重映像と言っても、その対象はごく一部の層に限られるわけだし。だがなんと、この部分だけを適当につなげて編集した映像も、YouTubeにアップロードされていたのだった。知らない人が見たら編集したことさえ気が付かないだろう。

♪少女期♪ 森田つぐみ(YouTubeより)

 ところで、今回YouTubeから別の映像をダウンロードしようとして、いつものようにGetter1というソフトを使ってみたが、ダウンロードできなくなっていた。YouTubeは始終仕様を変えており(たぶんダウンロード防止のためだろう)、ダウンローダーの方がどうしても後手後手にまわってしまって、ダウンロードできない状態が続くことが多い。今回、Getter1以外にも、さまざまなソフト、ダウンロードサイト(YouTubeの映像をダウンロードするサービスを行っているホームページ)をいろいろ試したが、どれも満足にダウンロードできない。
 結局いろいろ試した結果、FireFox(WindowsにもMacにも対応したブラウザ)に1-Click YouTubeというアドオンソフト(拡張機能)をインストールすると、正常にダウンロードできるということがわかった。これだとブラウザで普通にYouTubeの映像を表示した状態でダウンロードできるので、非常に便利。興味のある方は使ってみてはいかがでしょうか。

次世代ブラウザFireFox

1-Click YouTubeダウンロード

1-Click YouTubeの使い方

1-Click YouTubeの表示画面

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検索エンジン経由でこちらにたどり着いた方へ(2013.6.16)
 現在、1-Click YouTubeもGetter1も当方の環境では使用できていません。当方の環境でYouTubeダウンロードに使用しているソフトは、以下のリンクで紹介しているFastestTubeです。ぜひこちらをお試しください。20013年6月現在でYouTubeから映像ファイルをダウンロードできています。

参考:竹林軒出張所『続・YouTube映像のダウンロード方法(Tooble→トラブル)』
# by chikurinken | 2009-11-06 21:08 | パソコン

森田つぐみ登場!

 以前「おとこごころをくすぐる歌」という記事で、「少女期を歌う森田つぐみの映像も見てみたいものである」と書いたんだが、なんと、先日フジテレビのCSチャンネル(フジテレビTWO)で放送された『夜のヒットスタジオ』に登場したのだ、森田つぐみが。というわけで、「少女期を歌う森田つぐみの映像」は、意外と簡単に見ることができたのだった(あの記事からわずか3カ月)。
 このときの放送は1976年4月26日放送分の映像で、森田つぐみはこの前日にデビューしたらしい(テロップに書いてあった)。当時17歳だということで何とも初々しい。「書道3段、珠算3段」という経歴がテロップで出たところを見ると、やはり「優等生タイプの女の子をイメージしている」のだろう。いかにも賢くて真面目そうなお嬢さんという印象である。
 だがしかし、今回映像を目にしてわかったんだが、やはり芸能界の中では非常に地味である。この番組の中でもあまり目立っていない。今ならば「癒し系」などというカテゴリーもあるが、この当時だとちょっと難しいかなと思った。歌もとっても地味だし。なんと言ってもピンクレディーが出てきた頃だ。派手派手な世界に移行しつつある歌謡界。もはや清純派では売れない……そんな時代背景である(たぶん)。事実あまりヒットしなかったようだし。芸能界を通り過ぎた1つの風景にしかならなかったようだ。今だと別の評価もあるだろうが、いたしかたあるまい。
 しかしデビュー2日目の映像が残っているとは、本人が今これを目にすればさぞかし喜び懐かしんでいることだろう(本人が今何をしているかは知らないが)。
 次は是非、讃岐裕子の映像を見てみたいものだ……とここで書いておけば、ネット上をまわりまわって関係者の目に入り、今回みたいにどこかで実現するかも知れない。あ、それから讃岐裕子のCDの復刻も! もーよくばりっ!

参考:
竹林軒出張所『おとこごころをくすぐる歌』

森田つぐみ登場!(以下『夜のヒットスタジオ』より (c)フジテレビ)
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プロフィールが出る
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カメラが寄ってきた……
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うーん初々しい……
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# by chikurinken | 2009-11-05 22:38 | 映像

ナオズミ・フォーエバー

b0189364_14328100.jpg 『ブロードキャスト・トラックス TBS編』というCDに『オーケストラがやって来た』のテーマ曲が収録されている。
 『オーケストラがやって来た』というのは、今から30〜40年ほど前(正確には「1972年10月から1983年3月まで」だそうだ - Wikipediaより)に放送されていた公開クラシック音楽入門テレビ番組で、今もテレビ朝日系でやっている『題名のない音楽会』のTBS版だと思っていただいて結構(だと思う)。
 僕が見ていた当時は山本直純が司会をやっていたが、山本直純といえば派手なパフォーマンスで有名で、僕の周辺のクラシック・ファンの間では眉をひそめる向きもあった。だが実のところ、彼は斎藤秀雄門下で、かの小澤征爾の兄弟子だったのである。小澤征爾とも仲が良かったらしく、この番組にも小澤征爾はたびたび出ていた。僕が見ていた頃は、すでにボストン交響楽団の指揮者をやっていて小澤の名前も上がっていたが、それでも普通に出ていたのだ。そういった関係で、小澤ファンの僕もこの番組をよく見るようになったのだった。
b0189364_1452746.jpg 山本直純は、世間ではバッタものと思われていたフシがあるが、やはり斎藤秀雄の弟子というだけあって、作曲面では非凡な面を見せている。大河ドラマ(『風と雲と虹と』など)をはじめとするテレビ・テーマ曲でもその非凡さを発揮している。あの『男はつらいよ』のテーマ曲も山本直純作曲である。
 で、『オーケストラがやって来た』のテーマ曲も当然のごとく山本直純の手にかかっているわけだが、ご存じない方のために説明しておくと、管楽器をはじめとするいろいろな楽器が特色を活かしていて、なかなか小じゃれた音楽なのである。途中でファゴットとピッコロが掛け合いをしたり、トライアングルがさわやかな味を出したりしてなかなか面白い。それに続いて、管楽器と弦楽器が同じテーマを順に演奏していって、やがて直純の指揮の下、お客さん全員でテーマに合わせて「お〜けすとらが〜やって〜きた〜」と合唱し、最後にドラ、ピッコロとなって終わる。それぞれの楽器の特色が出ていて、よく言えばブリテンの「青少年のための管弦楽入門」のようでさえある。
 だがしかーし、『オーケストラがやって来た』のテーマ曲は、実は原曲があったのだった。ヨハン・シュトラウス2世の「常動曲」という曲がそれで、僕は大分後になってからこの事実を知った。初めてラジオで「常動曲」を聴いたときは、思わず「お〜けすとらが〜やって〜きた〜」と歌いそうになったくらいだ。山本直純が「常動曲」を適当に編曲して、「オーケストラがやって来た」という合唱部分を追加したというのがどうやら真相のようであるが、ただこの部分があまりにハマっているのでてっきりオリジナルかと思っていたのだ。だが考えてみれば、ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」だってパーセルが作曲した旋律をテーマにしているんで、意図としては別に問題ないんじゃないだろうか。それより、ここまで直純色に染め上げた点に山本直純の非凡さを見ることができるとも言える。そういうわけで僕はますます直純のシンパになったのであった。

付記:小澤征爾が2002年のニューイヤー・コンサートで「常動曲」を指揮しており、このときの演奏がCD化されている(『ニューイヤー・コンサート・ベスト・オブ・ベスト』)。直純バージョンと聞き比べても面白い……わけないか。
# by chikurinken | 2009-11-03 14:07 | 音楽

『ドキュメント 高校中退』(本)

ドキュメント 高校中退 -- いま、貧困がうまれる場所
青砥恭著
ちくま新書

b0189364_20502333.jpg 高校の学費が払えない子ども達や、親の貧困が原因で高校を中退していく子ども達が増えているという話は、ドキュメンタリーやニュースで聞いたことがあったが、現状がこんなにひどいとは思わなかった。
 (誰でも入れるといわれる)「底辺校」と呼ばれる高校には、貧困家庭の子女や問題を抱える家庭の子女が多く入学してくる。なぜならかれらの学力が(貧困が原因で)劣っており、「底辺校」がその受け皿になっているためである。だが、かれらの多くには向上心もなく、ただなんとなく入学しており、しかも親の方でも学校をやめてほしいと思っているため、必然的に中退者があふれることになる。入学者の半分以上が卒業せずに中退していくような底辺校もあるらしい。
 しかも、意欲の問題だけではなく、親にひどい育てられ方をして、帰る場所さえないという子どもも多いという。だが親の方にしても、高校を出ておらず、きちんとした仕事に就くことができないで、ストレスをため込んだりしている。何より子どもの育て方を知らないまま親になったというケースもある。十代で(子どものままで)子どもを産み早々に離婚するなど、潜在的に貧困をかかえているわけだ。子どもも同じように育ち、結果的に貧困が次の世代に継承されることになる。2、30年前に、アメリカで貧困のためにティーンエージャーの親が生産されそれが次世代に継承されているというレポートをテレビで見たとき、なんちゅうひどい国だと思っていたが、今の日本はあの時代のアメリカと同じ状況である。ひどい国になったものだ。
 ともかく本書で紹介されている子ども達の現実があまりにひどく、思わず目を背けたくなるようなありさまが次々に示されてくる。読み進むうちに気が重くなり、同時にあまりにひどい現実にうちひしがれそうになる。
 著者の取材や統計も丁寧ですばらしく、表やグラフを使って現状をわかりやすく示している。この現状を広く訴えたいという心意気が伝わってくるような渾身の作である。また、具体的な問題点や現実的な対策などもはっきりと示されており、非常に建設的でもある。
 現在の民主党政権が訴えている「子ども手当て」と「高校学費無料化」などの政策が実行され、すこしでも現状が解決されんことを願う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『高校中退(本)』
竹林軒出張所『子どもの未来を救え(ドキュメンタリー)』
# by chikurinken | 2009-11-02 20:54 |

三遊亭円楽の肖像

b0189364_9213210.jpg 25年ほど前にスケッチした三遊亭円楽の肖像。高座に出ているのを見ながらいたずら書きしたもの(裏には小文枝師匠の絵がある)だが、良くできていたので今でも手元に置いている。
 落語を聴き始めた初期の頃(35年ほど前)、円楽の「死神」を聴いて大変感銘を受けた記憶がある。その後この「死神」が(円楽の師匠の)三遊亭円生ゆずりであることがわかったので、もっぱらそれ以降は円生のものしか聴いていないが、ともかく僕の落語の入口になった人である。その後何度か高座をテレビで見ているが、最初のような感動はなくなってきた。こちらの目が肥えてきたこともあるのかも知れないが、やはり、(落語については)この25年前くらいが絶頂ではなかったかと思う。どうも笑点の人になってしまったふしがある。笑点の大喜利はつまらないので一切見ないが、ともかく僕の落語の入口になった人なんである、円楽という人は。

 この肖像も、銅版画を始めた頃に版画にしてみようと思っていたがそのままになっている。三遊亭円楽の訃報を聞いてこのことを思い出し、引っ張り出してきた次第。

 三遊亭円楽師匠のご冥福をお祈りいたします。合掌。
# by chikurinken | 2009-10-31 09:25 | 美術

『僕は人生を巻き戻す』を巻き戻す……アンビリバボー

b0189364_20323647.jpg 昨日、フジテレビの『奇跡体験! アンビリバボー』という番組で、強迫性障害のエド・ザインを扱った番組をやっていた。エド・ザインというのは、先日ここで紹介した『僕は人生を巻き戻す』という本の主人公だ。この本はノンフィクションなんで、むろん実在の人物である。
 この1冊で詳細に扱っていた事例が30分枠でまとめられていたので、予想に違わず通り一遍の話になっており、核心部分には触れられていなかった。もの足りないなんてものじゃないが、初めて見る方には、その事実だけで衝撃的だったかも知れない。そういう意味では、価値があると言えなくもない。『僕は人生を巻き戻す』の本も、わずか1、2秒ではあったが一応紹介されていたことだし(興味のある方は是非読んでください。昨日の番組より面白いと思います)。ただ、エド・ザインやマイケル・ジュナイクなど、さまざまな人々を映像で見られたのは良かった。この番組を見たのもそれが目的だったんだがね。

 僕は小説をあまり読まないんで、カフカの小説なんかも興味はあるんだが読もうという気がしない、なかなか。で、「小説を忠実に映画化した」などというキャッチフレーズが付いた映画があれば、つい食指が動いてしまう。『カフカの「城」』というDVDを見たのもそういういきさつだったんだが、これを見ただけで僕なんかはカフカの『城』を読んだような気になっているんだ。あるドイツ文学者にこの映画の話をしたら、映画を見るくらいだったら原作を読むと言っていた。僕とは発想がまるで逆である。もっともノンフィクションであれば、僕も同じように考えるかも知れない。だから、昨日の『アンビリバボー』を見てそれで感心し納得している人がいても、基本的には僕と変わらないわけだ。だから、たまたま『僕は人生を巻き戻す』を読んでいたからと言って、上から目線でしゃべってはならないのだ、本当はね。
 でも、あえて言います。あれは、ポイントだけを取り上げたもので、その間のつながりが描かれていない。そこが一番重要だと思うんだがそこがなかったのだ。つまり、あくまでダイジェストに過ぎないということ。だから、原作を読んだら良いと思いますよ。あ、カフカも原作で読んだ方が良いですか……うーん、考えておきます。
# by chikurinken | 2009-10-30 20:34 | 放送

ダム建設中止問題の実在に関する考察

b0189364_10233882.jpg カヌー業(椎名誠が命名したと思う)をやっている野田知佑の『日本の川を旅する』という著書を読んだのは、25年くらい前、まだ学生のときだった。淡々とした記述の中に、日本の環境が行政の手によってひどく破壊されていくさまが描かれ、それについて(声高ではないが)一撃を喰わせるのが痛快ではあったが、同時にあまりのひどい現実に打ちのめされそうになった。そういう意味でもまさに名著である。
 この本では、必要なダムなどすでになくなっているにもかかわらず、国政により、無駄な労力と金がつぎ込まれて無駄なダムがあいかわらず作られ続けていることがことが示されている。推進している当事者も地元の人間もダムが不要なことを知っていながら誰も止めようとせず、いたずらに環境だけが破壊されていく現実が、読者に突きつけられる。世界中の川をカヌーで旅してきた著者にとっては、日本の川は、景観的に美しく、他の国の川と違ったユニークさがあって面白いらしい。それにもかかわらず、ほとんどの川が不要なダムでズタズタにされてきたことを、著者は淡々と語る。語り口もすばらしいが、その現実をまったく知らなかった当時の僕は、目からウロコが落ちるような感覚で、大変な衝撃を受けた。
 その後、僕自身もあちこちでダムを目にするたびに、野田氏の言っていたことは本当だなとあらためて感じていた。そして、それが普通の感覚だと思っていたので、日本人の(ほぼ全体に渡る)総意として「新規ダム建設中止」という概念があると思っていた。だから、田中康夫が脱ダム宣言を政策として推進したときも、今回のハツ場ダム建設中止についても、ダムで利益を得る人を除けば、諸手を挙げて歓迎されるものだとばかり思っていた(現実はそうなのかも知れないが)。
 ところが、テレビでは、建設中止の反対派側に立った言動がやけに目立つ。放送業界はこれが反体制の報道だとでも思っているのだろうか。各県知事を含め反対派は、要するに利益を失うことに意義を唱えているわけで、結局は補償を求めているに過ぎない。最終的には国が補償して終わるんだろうが、テレビの報道でそういう議論に持って行こうとしないのがどうにも腑に落ちない。
 ダムが不要なのは明らかだ。そもそもハツ場ダムなんて建造目的自体がころころ変わっている。ってことは、そもそもが必要のないものなのだ。雇用創出とか建築利権とかそういった都合で始めたに過ぎない。しかも多大な税金を投じているわけだ。今の状況では、どう考えてもやめるのが当然である。地元住民だって、本音では喜んでいる人が多いんじゃないか(テレビには一切出てこないが……危ないからね)。
 今やっている(大臣と知事との)折衝なんてのは形式的なもので、補償金をどれだけ増やすか減らすかの駆け引きに過ぎないんだから、ダム建設を中止すると困るなどという地元住民のインタビューなんか放送してもしようがない。本当のところ、ダム建設を中止したところでいっこうに困らないはずだ。あてにしてた仕事がなくなるのが困るとか、今まで住民をミスリードしてきたことがばれるのが困るとかいうことなんだ、本音は。だから、最終的にはかれらの顔を立てて、ある程度補償すれば済むことである。報道でその辺のことをすっぱ抜いてやれよと思う。こんな建前の儀式の後追いするより、核心を突くような報道したらどうだいと言ってやりたいものだ。政治が変わりつつあるんだから、放送業界もいいかげん変わるべきではないか。

参考:
竹林軒出張所『ダムはいらない! 新・日本の川を旅する(本)』
竹林軒出張所『世界の川を旅する(本)』
竹林軒出張所『風に吹かれてカヌー旅(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『非常識な建築業界 「どや建築」という病(本)』
# by chikurinken | 2009-10-29 10:27 | 社会

『戦場から女優へ』(本)

b0189364_1858221.jpg戦場から女優へ
サヘル・ローズ著
文藝春秋

 以前、お笑い番組の『あらびき団』に滝川クリサヘルという女性が出て、滝川クリステルの物まねをしながら自らの悲惨な生い立ちを語るという芸(!)をやっていた。
 イランで生まれ、幼い頃イラクの空爆で家族全員を亡くして、その後縁があって育ての母と来日したという話を、例の斜め45度のカメラ目線で語りながら「このあと日本で壮絶ないじめを経験しますが、続きはまた来週のこの時間で」などと言いながら終わったのだった。内容がリアルで、とても笑えない話だ。その続きが気になるんでその後も『あらびき団』を見ていたが、滝川クリサヘルは二度と出てくることはなかった。出るのは、妙ちくりんな芸人ばかり。
 その後、滝川クリサヘルが、テレビでサヘル・ローズという名前で出ているのを何度か見かけたが「その後のいじめ」について多くが語られることはなかった。
 で、今回のこの本である。「その後のいじめ」のことも極貧生活のことも、それからもちろん生い立ちについてもすべてあますところなく書かれている。
 これだけの経験をして生きてきた人が今の日本にどれだけいるかというくらい、さまざまな不幸な経験をしている。日本も戦後すぐの時期は、こういう人々が多かったのかも知れない。こうして考えてみると、戦争がどれほど市民レベルで不幸をもたらすかがわかろうというもの。
 彼女の場合、肉親の喪失、(父親代わりの男による)虐待、学校でのいじめ、貧困(ホームレスまで経験している)など、今の日本で経験できる不幸をことごとく経験しているかのようである。
 今は、女優の仕事もこなしながら、育ての母(この人もすごい人なんだが)と一緒に、前向きに目標に向かって生きているようだ。彼女の前向きで謙虚な考え方、ものの見方は、生きる上での教訓にもなり、人生の指針として読むこともできる。これだけの不幸を積んできたんだから、今後は幸せを掴んでほしいと切に願う。まあ、まったくの他人ではあるが。
★★★☆

参考:
NHK『旅のチカラ「失われた故郷の記憶を求めて〜サヘル・ローズ イラン〜」』
竹林軒出張所『アフガニスタンの少女、日本に生きる(本)』
# by chikurinken | 2009-10-27 18:59 |

『強いられる死 自殺者三万人超の実相』(本)

b0189364_1013699.jpg強いられる死 自殺者三万人超の実相
斎藤貴男著
角川学芸出版

 年間の自殺者数が3万人を超えて久しい。政府自民党の構造改革路線により、弱者に対し過酷な生活が強いられるようになってから、自ら死を選ぶ人が増えたのだ。
 本書では、パワハラや過重労働、多重債務、いじめなどで自死した人々の足跡を追い、彼らが自死を選ぶまでの過程を追っている。であるから、内容は非常に重い(自分の周囲に不安材料がある人が読んだら、立ち直れないかも知れない。書く方も重かったという記述が最後にあった)。
 こういった事象(事件、事故)が、間違った社会システムによって誘発されていることを解き明かし、追い込まれてる人々が救済されるようなシステムを早急に作り出すべきだと解く。至極ごもっともだが、読んでいるうちに、救いのない(ように見える)現実に押しつぶされそうな気がして、絶望的な気分になった。これが日本の現実なのか!
 (自己チュー人間のせいで)追い込まれる人間が少なくとも自分の周辺で出てこないよう(万一そういうことがあれば早期に発見できるよう)自己防衛するしかないなと思った。

★★★
# by chikurinken | 2009-10-26 10:16 |

『カナダ いじめ撲滅プロジェクトの1年』(ドキュメンタリー)

カナダ いじめ撲滅プロジェクトの1年
(2002年・カナダ The National Film Board of Canada)
NHK-BS1

b0189364_20192390.jpg カナダのミドルトンにあるアナポリスイースト小学校におけるいじめ撲滅の取り組みを1年に渡って追ったドキュメンタリー。
 アナポリスイースト小学校は、教職員生徒を合わせると800人を超すマンモス校で、顕在化したいじめに対抗するため、教師、地域をあげて、これに対処するプログラムを取り入れた。怒りをコントロールする方法を子どもに教えたり、荒れる子どもを一時的に隔離して話をしたりするなどの取り組みにより、いじめを年々減らすことができた。とは言え、やはり子供間の暴力は依然として存在する上(減少を続けていたが撮影の年に増加に転じた)、地域とも摩擦が生じたりするなど、問題が100%解決したわけではない。それでも、学校と地域が本気で取り組むことによって、こうした問題のコントロールにある程度成功している。
 いじめに対する処方箋がここにある……とは言えないが、いじめに対する一つの取り組みがここに示されている。ここから何を学習するかは、見る側の意識次第ということになるだろう。
 このドキュメンタリーでは、学校の日常がカメラで淡々と追いかけられるためこういう問題を身近なものとして感じることができるが、ドキュメンタリーとしては少しインパクトに欠けるきらいもある。
★★★

参考:
竹林軒出張所『いじめを語ろう 〜カナダ ある学校の試み〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『いじめの果てに(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『追いつめられて 〜アメリカ いじめの実態〜(ドキュメンタリー)』
# by chikurinken | 2009-10-25 20:22 | ドキュメンタリー

胴上げは……ヨイ

b0189364_18275678.jpg 引き際っていうのは大事だね……胴上げを見ながら思ったよ。両チームの選手達が最後に胴上げしてくれるなんて、これ以上ない終わり方ではないか。
 岩隈は、第2戦の汚名をそそぐことはできなかったが、まだまだ現役生活は続くので、この口惜しさを糧にすれば、いずれこれをはらす日がくるだろう。
 このシリーズについて言えば、初戦の9回裏の攻撃がすべてだった。あんな大逆転劇は、どのチームでも1年に1回あるかないかで、それがいきなりってんだから、あちらにツキがあったんだろう。実力があったことは言うまでもないが、なにしろ、楽天球団はゴタゴタが多すぎた。土壇場でこんなにゴタゴタしてるようでは、ちょっとね……。というわけで、野村監督の引退とともに、僕のプロ野球観戦は無期限休止ということになりました。今後、なんか面白いネタが出てきたら、また見始めるかも知れない。Jリーグのヴェルディみたいに、傲慢な企業が経営から手を引くとかになれば面白くなるかな〜などとも思う。
 まあ、野球ばかり見てると時間ばかりやけに無駄遣いするんで、長い目で見れば助かるんだが。
(写真はnikkansports.comより勝手に拝借)

# by chikurinken | 2009-10-24 18:31 | 社会

ホームページ更新しました

 ホームページを模様替えして、更新しました。おかげで今日は濃密な一日を送ることができました。
 お時間がある方はお立ち寄りくださいませ。

 竹林軒ネット
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# by chikurinken | 2009-10-23 20:08 | 日常雑記

『太宰治物語』(ドラマ)

b0189364_19565632.jpg太宰治物語(2005年・ドリマックス・テレビジョン、TBS)
監督:平野俊一
脚本:田中晶子
出演:豊川悦司、寺島しのぶ、菅野美穂、池内博之、伊藤歩、橋爪功

 『冬の花火』と同じTBSが、『冬の花火』から25年後に同じ題材で作ったドラマなんで、当然両者を比較することになるが、正直言って比較の対象にならない。同じ題材であってもこうもつまらないと、やはり要は見せ方ということになるんだろう。
 太宰の扱い方ひとつ取っても、単に「女たらし」、「女の敵」というレベルの解釈ではまったくもって新鮮味もなければリアリティもない。『冬の花火』では、太宰は「誰かに頼らなければ生きていけない弱い人間」という解釈で、新鮮味もリアリティもある上、ドラマの展開とも整合性がとれていた。そういう点でも優れたドラマだったと言える。
 また、セットなども嘘臭くて安っぽくまったくリアリティがない。キャスティングも問題外、演技も光るところはまったくない。
 ドラマ単体としても展開がダラダラとしており、最初の10分で飽きが来た。この企画は実質的にはリメイクの類だったんだろうが、こういうリメイクだったらやらない方がいいんじゃないかと思う。残念ながら昨今のドラマのリメイクはこんなレベルなんだが。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『富嶽百景・走れメロス 他八篇(本)』
竹林軒出張所『冬の花火 わたしの太宰治 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『青空文庫の「ヴィヨンの妻」を読む』
竹林軒出張所『女性操縦法 “グッドバイ”より(映画)』
竹林軒出張所『ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ(映画)』
竹林軒出張所『漱石悶々(ドラマ)』
# by chikurinken | 2009-10-22 19:58 | ドラマ