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竹林軒出張所

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『365日のシンプルライフ』(ドキュメンタリー)

365日のシンプルライフ(2013年・フィンランドUnikino)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ペトリの脱モノ日記

b0189364_20205940.jpg 周りにモノが多すぎる、それも不要なモノが、というのは現代人共通の感覚。捨てるに捨てられないものや、そもそも捨てる手続きが煩雑でなかなか簡単に捨てるわけにも行かない。少なくとも身の周りのモノのうち、半分以上は要らないんではないかとは思っているが、なかなか処分に踏み切れないでいる。
 そういう中で、同じように周りにモノがあふれて嫌気がさした、ペトリという名のフィンランド人(このドキュメンタリーの製作者)が面白い実験をした。自分の持ち物をすべてレンタル倉庫に預け、1年間に渡って1日に1品ずつ取り出し、何が本当に自分にとって必要か見極めるという実験である。
 1日目は本当に着るものすらなく、前を隠して素っ裸で(路上を通って)倉庫まで走っていくというところから始まる。途中ゴミ箱から拾った古新聞で前と後ろを隠すということはやった。1日目に獲得したモノはコートで、その日はこのコートにくるまって寝ることになった。
 その後、靴、シャツ、マットレスなどを手に入れる。当初は「モノが1つ増えるたびに生活レベルが上がる」と語っていたが、10日過ぎた頃からあまり倉庫に行かなくなる。その後は倉庫に行く頻度がめっきり少なくなり、何日かブランクが空いた後それまでの何日分かのモノをまとめて持ち出すような状態になる。結局必要なもの(カーテン、バッグ、自転車など)は100日ですべて揃うし、生活に潤いを与えるような贅沢品は200日ですべて揃うという結果になる。なかなか感心させられる「大いなる実験」であった。
 映像は、ペトリの自撮り映像が多く、祖母の入院や恋人との出会いと別れなど個人的な事情も描き出され、私小説的なプライベート映像になっている。テンポが良く、演出もうまいため、ドキュメンタリーというより映画に近い。ミニシアターで劇場公開されてもおかしくないくらいの秀作である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『パソコンを置いて森で暮らそう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『廃棄家電の悲しき行く末(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-01-23 07:19 | ドキュメンタリー

『反骨の外科医』(ドキュメンタリー)

反骨の外科医
(2016年・スウェーデンFasad Cine)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

エチオピアの地域医療に医療の本質を見た

b0189364_20213953.jpg スウェーデン人の医師、エリクセンは、スウェーデンの官僚的な医療に不満を持ち、エチオピアに赴任して、地域医療に携わっている。
 患者は入れ替わり立ち替わりやって来て、中には身体が異常に腫れたりなどの珍しい症例を持つ人たちもいて、それを次々に捌きながら同僚の医師や看護師に割り当てて指示を出していく。外科手術もどしどし行っているが、何しろ先進国のように物品が揃っていないため、ありあわせの道具、たとえば自転車のスポークや電動ドライバーなどを駆使して代用している。エリクセン医師は、エチオピア出身の看護師の妻と一緒に病院を切り盛りしており、非常に充実した日々を送っている。これこそが医療の原点だというわけである。
 彼によるとスウェーデンの病院では、書類書きなどの雑務ばかりで、医療行為にはろくろく携われず、医師たちもみんなうんざりしている。まるで官僚の仕事だと言う。その点、物資は乏しくとも、医療に携わっているという充実感を伴うエチオピアが肌に合っているということなのだろう。何より、身体が治った元患者がやって来て感謝してくれることが一番の喜びだそうだ。
 そんな彼も、やがて派遣任期の10年が終わり、スウェーデンに帰国することになる。スウェーデンの医療界に復帰することには嫌気がさし、結局医療現場から身を引くことになった。こうして先進国の官僚主義によって、僻地で必要とされる医師が一人、姿を消すことになったのだった。地域医療や医療のあり方についていろいろ考えさせられるドキュメンタリーである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『島の命を見つめて 豊島の看護師・うたさん(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『武器ではなく命の水を(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ディア・ドクター(映画)』

by chikurinken | 2018-01-22 07:20 | ドキュメンタリー

『映像の世紀プレミアム 第7集』(ドキュメンタリー)

映像の世紀プレミアム 第7集 極限への挑戦者たち(2017年・NHK)
NHK-BS1 NHK-BSプレミアム

やっと新しい素材が出てきた

b0189364_09095827.jpg 『映像の世紀』スピンオフの第7弾。この第7集では、冒険家や革新者たちを取り上げ、その時代背景もあわせて紹介する。登場するのはマロリー(エベレスト初登頂を目指した冒険家)、ピカール(深海探査)、オーエンス(ベルリン・オリンピックの黒人ランナー)、円谷幸吉(東京オリンピックのマラソン選手で銅メダリスト)と君原健二(メキシコ・オリンピックの銀メダリスト)、ユーリ・ガガーリンとアームストロング(米ソの宇宙飛行士)など。
 今回の放送は、今までのシリーズで放送されなかった映像が多かったこともあり、十分楽しめた。目玉は宇宙開発競争の映像だと思うが、かなり充実しており、見所は多かったと思う。ただ、オーエンス、円谷、君原らのスポーツ選手については、第4集で取り上げるべき素材のような気もするが……。これだけ、細かい部分をピックアップするのなら、いっそのことオリンピックはオリンピックで、サッカーはサッカーでというふうに切り取るべきではないかとも感じる。まあ雑多であっても珍しい映像であれば歓迎するところではある。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第2集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第4集(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-01-21 09:10 | ドキュメンタリー

『カラーでよみがえるアメリカ 3、4、5』(ドキュメンタリー)

カラーでよみがえるアメリカ 1940年代1950年代1960年代
(2017年・米SNI / SI Networks / Arrow International Media)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

「カラー化」がやっぱり目玉!

b0189364_10045466.jpg 『カラーでよみがえるアメリカ』シリーズの1940年代、1950年代、1960年代。
 構成や演出方法は、当然ながら1920年代、1930年代と同じ。したがってどのような出来事が取り上げられるかというのが争点になる。
 1940年代は、4選したルーズベルト大統領の政策と第二次大戦が柱になる。日系米人の隔離強制移住というアメリカ史の恥部も紹介される。お馴染みの真珠湾攻撃の映像もカラー化されているが、映像自体はあまり目新しい映像ではない。何より一番感じたのは、アメリカ人の海外情勢に対する無関心さと無知さで、戦前の日本国内の状態とは大分違うという印象を受ける。基本的にアメリカ人は、他人のことなどどうでも良く自分たちのことだけ考える人々なのかと感じてしまう。それを思うと昨今の「アメリカ・ファースト」というスローガンもまったく目新しいことではないことがわかる。
 1950年代は、ベビーブームに続き、家電や自動車、住宅が普及するという成長の時代になる。一方で赤狩り、核の恐怖による不安の時代が始まる。また不人気のトルーマン大統領が、人気者のマッカーサー元帥を解任するなどの話題が取り上げられる(マッカーサーは「中国に原爆を落とせ」などと言っていたので解任は当然だと思われるが)。またエルヴィス・プレスリーが登場したのも50年代。南部での黒人差別の実態も広く報道され、全国的に知られるようになってくる。
b0189364_10045837.jpg 次の1960年代は、若き大統領ケネディの登場と暗殺、キューバ危機、公民権運動、アポロ計画、ベトナム戦争、反戦運動が中心になる。公民権運動では、フリーダム・ライダーズの運動、ワシントン大行進などが紹介されるが、多くの映像はこれまで見たことがあるもので、カラー化されたとは言え、目新しさはない。結局のところ、この番組の目玉は「カラー化」であったということを思い知らされる。したがってカラー映像を楽しめばそれで良いんだろうが、それ以上のものを期待してしまうところが畜生の浅ましさ。いずれにしろ、映像的にはそれなりに楽しめたドキュメンタリー・シリーズであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『カラーでよみがえるアメリカ 1、2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第5集〜第8集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第9集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(1)〜(4)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(5)〜(7)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『キング牧師とワシントン大行進(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『人種隔離バスへの抵抗(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『クー・クラックス・クラン 白人至上主義結社KKKの正体(本)』

by chikurinken | 2018-01-20 10:05 | ドキュメンタリー

『カラーでよみがえるアメリカ 1、2』(ドキュメンタリー)

カラーでよみがえるアメリカ 1920年代1930年代
(2017年・米SNI / SI Networks / Arrow International Media)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

現代アメリカ史のカラー映像

b0189364_20042059.jpg 『カラーでよみがえる第一次世界大戦』『ヒトラー 権力掌握への道』『カラーでよみがえる東京』と同じような企画で、要するに過去のモノクロ映像をカラー化して、現代的なリアリティを持たせようという試みである。今回カラー化されたのは、20世紀のアメリカ合衆国の映像。20世紀はアメリカの世紀であり、しかもアメリカの場合、かなり初期からモノクロ映像が大量に残されていることを考えると、登場するべくして登場した企画と言って良かろう。
 豊富な映像が残っているせいか、1920年代から60年代まで、10年単位で5回シリーズに分けられている。さすが大国アメリカ。1970年代以降はカラー映像が日常的に現れてきたため、60年代までで区切るというのは良い選択かも知れない。
 さて1920年代は、自動車が普及して、摩天楼も並び立ち、アメリカが好景気に沸いた時代。ところが1929年10月にウォール街で株式が大暴落して、そのバブルが一挙に崩壊するという過程を辿る。この間の様子を、カラー化したモノクロ映像で再現する。画像は非常に美しく、禁酒法の時代やバブルの時代がリアルに浮かび上がってくる。b0189364_20042479.jpg1930年代は、恐慌時の映像からルーズベルトのニューディール政策へと流れる。またオーソン・ウェルズの『宇宙戦争』(ラジオ・ドラマであまりにリアルな演出をしたため、多くのリスナーが本物だと信じて、全米に大混乱が起こった事件)や『オズの魔法使い』の製作現場など、文化的な部分の映像も紹介されている。ひときわ印象的だったのが、30年代に米中部で発生したダストボール(巨大な砂埃の塊)の映像で、これはカラー化することで大いに迫力を増した好例である。
 映像を見ているだけでも面白いが、ただしモノクロ映像としてよく目にしたような映像も結構あり、「カラー」という以外の新鮮さはあまりない。しかも(一定のテーマ性はあるにはあるが)基本的に時系列で並べていくだけのアプローチであり、編集もきわめてオーソドックスであるため、NHKがかつて製作した『映像の世紀』シリーズのような面白味は感じなかった。見せ方にもう一工夫が欲しかったところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『カラーでよみがえるアメリカ 3、4、5(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえる東京(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえる第一次世界大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでみる太平洋戦争(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーで見る 独裁者スターリン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『よみがえる“ワルシャワ蜂起”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『色づくQ』
竹林軒出張所『地獄門 デジタル・リマスター版(映画)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第1集〜第4集(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-01-19 07:24 | ドキュメンタリー

『ダンケルク (2017年版)』(映画)

ダンケルク(2017年・英米仏)
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン
出演:フィオン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデン、ハリー・スタイルズ、アナイリン・バーナード、ジェームズ・ダーシー

めくるめくジェットコースター映画

b0189364_18564312.jpg 「ダンケルクの戦い」は、英国人にとって格別な思い入れがあるらしい。1940年、大陸に渡ったイギリス軍がドイツ軍に迎撃され、ダンケルクから命からがら海路でブリテン島に引き上げたときに起こったのがこの「ダンケルクの戦い」である。この撤退作戦自体はダイナモ作戦というらしい。言ってみれば屈辱的な撤退であり、これ以後連合軍は臥薪嘗胆の境地で、ドイツへの反撃を誓ったのではないかと想像する。
 そのためか、今を去ること50年前の1964年にも、これを題材にした映画が作られている(竹林軒出張所『ダンケルク (1964年版)(映画)』を参照)。この2017年版『ダンケルク』も基本的なアプローチは前作と同様で、ダイナモ作戦に参加した兵士の視点でダンケルクの戦いを体感するというコンセプトである。この映画では特に戦場の描写が生々しく、映画が始まると同時に戦場に放り込まれる。兵士たちがダンケルクから脱出するまでが描かれるわけで、100分にわたって、その過程をヒヤヒヤしながら見てくれという、言ってみればジェットコースター・タイプのアトラクション映画である。
 主役級のキャラクターが何人かいて、映画は同時進行でカットバックしながらこれらのキャラクターを追っていく。有名な役者なのか知らんが、僕自身はどの役者もまったく知らなかったため、他の登場人物との区別が付かなかった。
 戦場の描写は素晴らしいし、終始ハラハラドキドキではあるが、戦場の再現以上のものはまったく感じられない。これはドラマなのか、あるいは単なるアトラクションなのか判然としないような映画で、映画の再定義が必要になるのではないかという類の作品であった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ダンケルク (1964年版)(映画)』
竹林軒出張所『炎628(映画)』
竹林軒出張所『プライベート・ライアン(映画)』
竹林軒出張所『フルメタル・ジャケット(映画)』
竹林軒出張所『スターリングラード(映画)』

by chikurinken | 2018-01-17 06:56 | 映画

『グラディエーター』(映画)

グラディエーター(2000年・米)
監督:リドリー・スコット
原作:デヴィッド・フランゾーニ
脚本:デヴィッド・フランゾーニ、ジョン・ローガン、ウィリアム・ニコルソン
出演:ラッセル・クロウ、ホアキン・フェニックス、コニー・ニールセン、オリヴァー・リード、リチャード・ハリス、デレク・ジャコビ、ジャイモン・フンスー

b0189364_17224396.jpg史実とは大分違う

 古代ローマ時代を舞台にした映画。主人公は、マルクス・アウレリウス帝から次の帝位を口頭で譲られた北方将軍マキシマス(ラッセル・クロウ)。このマキシマスが、マルクス・アウレリウス帝の息子で本来であれば世継ぎであるはずのコモドゥスから陥れられ、命からがら逃げ出したは良いものの奴隷に身を落とし剣闘士になって、コモドゥスに対する復讐を誓うというストーリー。端的に言ってしまえばスーパーマンが悪を倒すという話である。マルクス・アウレリウスやコモドゥスなど、実在の人物が登場してくるが、史実とはかなり食い違っている(というより、かなりねじ曲げられている)。森鴎外の「歴史そのままと歴史離れ」の議論に関わりそうなストーリーである。それに元将軍が、処刑され家を失ったために奴隷に身を落とすというのも、ちょっと無理があると感じる。もっともこれを否定してしまうとストーリーが成り立たない。
 作品自体は、古代ローマの風俗や景観は大変見事に再現されており、しかもスペクタクルに溢れていて、よくできたハリウッドらしい映画である。『ベン・ハー』を思わせるようなシーンもあり、エンタテイメント歴史映画として非常に優れている。戦闘シーンも大変迫力があり、カタパルトやバリスタが登場するなど、古代ローマ・ファンならば(そういうのがいるかどうかはわからないが)大喜びしそうな作品である。ただし話ができすぎで、見終わった後でよく考えてみるとそうはうまく行かないでしょと感じてしまう。とは言え、見ている間は、先がなかなか読めないため、そういう意識は働かない。映画として見せる分にはこういったやや予定調和的なストーリーでもOKかなと思える。
 本作は、『ベン・ハー』や『スパルタカス』などと並ぶ、歴史を感じさせるハリウッド・エンタテイメントと位置付けることができるだろうが、この2作に引けを取らない出来栄えの作品に仕上がっていて、存分に楽しむことができる。もちろん先ほど言ったようなことが気になりはするんだが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ベン・ハー(映画)』
竹林軒出張所『スパルタカス(映画)』
竹林軒出張所『アレクサンドリア(映画)』
竹林軒出張所『キングダム・オブ・ヘブン(映画)』
竹林軒出張所『デュエリスト - 決闘者(映画)』
竹林軒出張所『ブレードランナー ファイナル・カット(映画)』
竹林軒出張所『クレオパトラ(映画)』
竹林軒出張所『サテリコン(映画)』
竹林軒出張所『エジプト人(映画)』

by chikurinken | 2018-01-16 07:22 | 映画

『破戒』(映画)

破戒(1962年・大映)
監督:市川崑
原作:島崎藤村
脚本:和田夏十
撮影:宮川一夫
音楽:芥川也寸志
出演:市川雷蔵、長門裕之、船越英二、藤村志保、三国連太郎、中村鴈治郎、岸田今日子、宮口精二、杉村春子、加藤嘉、浜村純

日本の自然主義の夜明け

b0189364_16205495.jpg 島崎藤村原作の同名タイトルの小説を映画化したもの。被差別部落出身の主人公の葛藤と逡巡を描いた野心作である。主人公以外にも、社会の底辺で蠢く人々が登場し、自然主義の面目躍如である。日本の自然主義文学の先駆けと言われるのも納得。
 ストーリーは、特に終わりの部分が原作と若干異なるようだが、ほぼ原作を踏襲していると見て間違いあるまい。なんと言っても主演の市川雷蔵が名演で、表情の変化が見事である。猪子蓮太郎役の三國連太郎も凄みと存在感がある。中村鴈治郎、岸田今日子あたりは市川崑作品の常連で、鴈治郎は『炎上』『雁の寺』の住職と同じような役回りである。こういうような役柄があれば、では鴈治郎さんというような話になっていたんだろうか。もちろん、やけに嵌まってはいるが。
 撮影の宮川一夫と音楽の芥川也寸志もそれぞれ「らしい」表現があり、安定感がある。この2人、『おとうと』『ぼんち』などでもそうだが、この頃、市川崑とよく仕事をしているようだ。
 途中まで緊迫感が持続していたが、終わりの方がやや停滞気味になりまだるっこしくなってしまった。そのあたりが惜しい部分ではあるが、文芸作品の映画化としてはできの良い作品と言えるのではないかと思う。当時こういった文芸作品を立て続けに映画化した大映という会社に対しては、その功績に対して大いに敬意を払いたいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『炎上(映画)』
竹林軒出張所『雁の寺(映画)』
竹林軒出張所『おとうと(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』

by chikurinken | 2018-01-14 07:20 | 映画

『天国と地獄』(映画)

天国と地獄(1963年・東宝)
監督:黒澤明
原作:エド・マクベイン
脚本:小国英雄、菊島隆三、久板栄二郎、黒澤明
出演:三船敏郎、仲代達矢、山崎努、木村功、加藤武、三橋達也、香川京子、江木俊夫、佐田豊、島津雅彦、石山健二郎

よくできたエンタテイメント作品

b0189364_20421403.jpg 黒澤明のミステリー映画。エド・マクベインの『キングの身代金』が原作で、背景や事件を借用しているらしい。そのため、株の買い占めによる企業乗っ取りが出てきたりして、おそらく当時の日本ではかなり目新しい話題ではなかったかと思う。また、身代金の受け渡しシーンにも緊迫感があり、また受け渡しのトリックや犯人発覚のトリックもよくできていて、エンタテイメントとして楽しむことができる。途中『戦艦ポチョムキン』風の演出が出てきたりするのもご愛敬。
 僕がかなり気になったのは、根幹の部分だが、イイモンとワルモンが非常に明確に分かれていて、イイモンは徹底的に良い人、ワルモンは意味もなく徹底的に悪い人で、超勧善懲悪だった点である。そんな単純な割り切り方をしてしまったら、話に奥行きも何もなくなるだろうと思うがどうだろう。ヘロイン中毒者の貧民窟の描写も何だかありきたりで、見ていて少々バカバカしくなる。医学生のインターンが非常に貧しいというのも今ではなかなか考えられない設定で、時代だなと感じてしまう。
 キャストは、その多くが黒澤映画の常連で、それまで黒澤映画で主演クラスを務めている志村喬、藤田進、千秋実、東野英治郎、伊藤雄之助あたりがチョイ役で出ているのは、黒澤明らしい無駄使いと言える。俳優たちに対して敬意を欠いているのではないかという感覚を持つのは僕だけか知らんが、そう言えば『赤ひげ』でも笠智衆がチョイ役出ていて、小津映画のファンだった当時の僕はかなり不快に感じたものだ。セリフも「これで良い、これで良い。さ、杯じゃ」だけだったと思う。役者をコマぐらいにしか感じていないのだろうかと思ってしまう。
 なお、この映画では、三船敏郎が例によって好演。大変魅力的な重役を演じている。山崎努も存在感があって良い。仲代達矢は、感情を表に出さないのっぺりした演技に終始していた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『デルス・ウザーラ(映画)』
竹林軒出張所『蜘蛛巣城(映画)』
竹林軒出張所『椿三十郎(映画)』
竹林軒出張所『用心棒(映画)』
竹林軒出張所『幸福(映画)』

by chikurinken | 2018-01-13 07:41 | 映画

『果し合い』(ドラマ)

果し合い(2015年・時代劇専門チャンネル、スカパー!、松竹)
監督:杉田成道
原作:藤沢周平
脚本:小林政広
音楽:加古隆
出演:仲代達矢、桜庭ななみ、徳永えり、進藤健太郎、柳下大、高橋龍輝、益岡徹、原田美枝子、小倉一郎

時代考証が行われていないせいか
ストーリー自体が嘘っぽい


b0189364_20221870.jpg 部屋住み(分家、独立できず親や兄の家に留まっている武士の子弟)の身分で、身内から邪魔者扱いされている庄司左之助(仲代達矢)が、甥の娘(桜庭ななみ)の危機に立ち上がるというドラマ。元々CS放送のために作られたものらしい。このくらいの規模のドラマを作る媒体が地上波テレビ以外にも出てきているのは喜ばしいことで、しかも海外でそれなりの評価を受けたというんだから、今後こういった製作パターンが増えるのではないかと期待できる。
 ただし内容は少々荒唐無稽で、時代考証をやっていないんじゃないかと感じてしまう。もっとも全盛時の地上波時代劇にしても時代考証は無茶苦茶だったんでこれで良いという見方もできるが、この作品については武家社会の矛盾みたいなものを描いているわけで、そのあたりがデタラメだともうストーリー自体が台無しになってしまう。
 いろいろな事物の扱いがことごとく現代的な発想なのが特に気になる。「駆け落ちするしかないだろう」などという庄司左之助のセリフが出てくるが、現代でも江戸でも(あるいはどんな社会でも)そんなことでは済まないだろと思ってしまうんだが如何。
 演出についても、『水戸黄門』風の「旅立つときに心から感謝してお辞儀する」という安直なシーンが出てきたりして、全体的にかなりありきたりである。また音楽も随所にグリーンスリーブスが使われていたりして、安直な感じが否めない。音楽から構成やストーリー、演出まで、何もかもが安直な感じが漂うんだが、それは「映画」でなく「ドラマ」であることを考えるとしようがないことなのか。もう少し力を入れて作っても良いんじゃないかと感じる。
 藤沢周平原作の多くの映画では、割合社会の背景がしっかり描かれていて、時代考証が気になるものが比較的少ないのだが、この映画に限ってはかなりデタラメさを感じた。製作段階で大幅に手が加えられたのか原作がそうだったのかわからないが、そういう点がかなり気になったので、ここで表明した。ただ先ほども言ったようにいろいろなところでドラマや映画が作られるのは歓迎である。今後もこういった方向で取り組んでいただけることを期待する。
New York Festivals World's Best TV & Films 2017 Drama Special部門金賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『武士の一分(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『釣忍(ドラマ)』
竹林軒出張所『樅ノ木は残った 乱心(ドラマ)』
竹林軒出張所『闇の歯車(ドラマ)』

by chikurinken | 2018-01-11 07:21 | ドラマ