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竹林軒出張所

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『ショージ君の青春記』(本)

b0189364_20434062.jpgショージ君の青春記
東海林さだお著
文春文庫

イタさ爆発……だが
イタいも辛いも酸いも青春


 マンガ家、東海林さだおの自伝。
 女性とうまく行くことばかり夢想し現実がそれに追いついてこないという、かなり恥ずかしい過去を赤裸々に描いている。「かなり恥ずかしい」と言っても、もちろん自分自身も若い頃は似たようなもので、と言うよりかなり思い当たるフシがあることばかりで、思わず苦笑してしまうような内容である。したがって非常に共感できる。
 そういうちょっと痛い(「イタい」と書く方が適切か)高校生時代から、一浪した後何とか引っかかった早稲田の露文(ロシア文学)時代までが描かれる。主人公(つまり著者の分身であるが)の人生は結構場当たり的でしかも楽天的だが、これは若い者に共通の特性でもある。大学生になった後も痛いことだらけで、読んでいてこちらも少し痛ましさを感じる。露文自体、女の子にもてそうというような非常に安易かつ不純な動機できわめて場当たり的(直前まで美術史学専攻予定だった)に選んだため、入ったは良いがロシア文学にもなじめず、ロシア語がいつまで経っても記号にしか見えず「これをどうしろというのだ」と自問する日々。このような暗黒の日々をしばらく送るが、やがて漫画研究会という居場所を見つけ、そこで福地抱介や園山俊二に出会う。その後、マンガ家になる決心をするが、その後もかなり痛い話が続く。
 文体は東海林さだおらしく、ユーモア溢れる柔らかいタッチで、しかも他のショージ君シリーズみたいな、妙なこだわりを発揮するような箇所もあちこちにある。どんどん読み進めるので読むのは苦にならないが、自分自身の恥ずかしい青春時代をほじくられているような気分になることもあるためそのあたりが苦になる。だが青春ものとしては出色の作品ではないかと感じる。でもよくこんな若者がマンガ家としてやっていけるようになったなあとも思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『さらば東京タワー(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
竹林軒出張所『白土三平伝 カムイ伝の真実(本)』
竹林軒出張所『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘の青春(映画)』
竹林軒出張所『まんが トキワ荘物語(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘青春日記―いつも隣に仲間がいた…(本)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (7)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (2)〜(4)(本)』

by chikurinken | 2017-08-30 06:43 |

『さらば東京タワー』(本)

b0189364_20390178.jpgさらば東京タワー
東海林さだお著
文春文庫

ショージ節健在の一冊

 マンガ家、東海林さだおのエッセイ集。第何弾かはわからない。この人、40年ぐらい前からこのテのエッセイを書き続けており、単行本も相当な数になるんではないかと思う。僕も著者のエッセイを読んだのは30年ぶりくらい。本書のエッセイは初出が2010年であるため、初期のものから数えるとかれこれ40年ぐらいか。それのそのはず、著者はすでに79歳。中に老人の性についての対談があり、著者自身は老人の問題を第三者的に見ているフシがあるが、実はど真ん中である。
 お掃除ロボット、ルンバとの接し方や東京タワー訪問記と、ネタは例によってさまざまだが、内容は昔と変わっていない。あれやこれやに対してのコダワリや怒りがユーモラスに表現されていて、ショージ節の健在がうれしい。中でも面白かったのは「オノマトペ大研究」と「相田みつを大研究」の2編で、前者が日本語の擬態語についてこだわり抜いた一編、後者が相田みつをの詩の分析(といっても概ね茶化しているんだが)。
 つまらなかったのは平松洋子という人との対談で、面白味がない上、何が言いたいのかよくわからないと来ている。他の対談(老人の性欲に関するものと、社交ダンスに関するもの)が東海林さだおの特徴が出ていて非常に面白かっただけに、平松対談については数合わせで入れたのかと思わせるグレードの低さだった。それでもまあ、ほとんどは独特の世界観(?)で貫かれており、しかも(やはりというべきか)エンタテイメント的要素も存分に散りばめられているため、十分楽しむことができる。この人みたいに、文章自体で面白さを表現できるという人もそういないんじゃないかな。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『かつをぶしの時代なのだ(本)』
竹林軒出張所『山手線内回りのゲリラ(本)』
竹林軒出張所『日本語ぽこりぽこり(本)』
竹林軒出張所『娘と私の部屋(本)』
竹林軒出張所『小説より奇なり(本)』

by chikurinken | 2017-08-28 07:19 |

『成功する人は偶然を味方にする』(本)

成功する人は偶然を味方にする 運と成功の経済学
ロバート・H・フランク著、月沢李歌子訳
日本経済新聞出版社

運良く得られた金は
運を与えてくれた社会に還元すべきである


b0189364_20555576.jpg タイトルが示す通り、「成功者」と言われる人は運が良かっただけであるということを示す本。もちろん成功者が、才能があり努力をしてきたのは確かかも知れないが、同じだけ才能があって同じように努力した人が必ずしも社会的に成功しているとは限らない。これは『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』の主張と同じで、取り立てて珍しい主張ではない。
 この本の目玉は、だから富豪からはしっかり税金をとるべきという主張であり、そのための具体的な方策が示されている点である。具体的な方策とは「累進消費税」というもので、消費額に対して累進的な税金をかけるというものである。著者によると、これを実現すれば無駄に高騰した世の中の贅沢品が適正な料金レベルに落ち着く上、現在なおざりになっている公共事業にも金が回るようになり、しかも投資が増えるらしい。この程度の改革でそううまく行くのかははなはだ疑問だが、ましかし(たまたま運が良かっただけの)金持ちからしっかり税金をとらない今みたいな一人勝ちシステムがいつまでも続くとは思えない。彼らからしっかり累進税をとるための理論的根拠にはなりそうな本である。
 惜しむらくは翻訳で、誤訳ではないかと思える意味不明の箇所が数カ所あった。もしかしたら誤訳ではないかも知れないが、少なくとも一度読んで頭にスーッと入るような文章ではなく、何度か読んだが結局意味不明という箇所が散見される。同じ箇所を何度も読まされる(しかもそれでもわからない)のはあまり気持ちの良いものではない。内容が単純で簡潔なんだから、もう少し読みやすい文章を心がけていただきたいと思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する(本)』
竹林軒出張所『パーク・アベニュー 格差社会アメリカ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『"新富裕層" vs. 国家 〜富をめぐる攻防〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『EU 租税回避1兆ユーロとの闘い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『銃・病原菌・鉄 (上)(本)』

by chikurinken | 2017-08-26 06:55 |

『役者なんかおやめなさい』(本)

役者なんかおやめなさい
84歳、日本を代表する名優が語る、60年余の舞台人生

仲代達矢著
サンポスト

b0189364_18430571.jpg仲代達矢の魅力が伝わるが
少々物足りない


 この数カ月間、「日本映画専門チャンネル」で仲代達矢のインタビュー番組を1カ月に1本のペースで都合5回放送されたが(『仲代達矢の日本映画遺産』)、どれも内容が興味深かった上、仲代達矢の魅力が炸裂していた。あの番組を一冊にしましたというような本がこれで、内容は一部あの番組とかぶっている。中村錦之介と殴り合いの喧嘩をした話などはなかなか興味深い。もちろんあの番組のインタビューが全部盛り込まれているわけではなく(そもそもあの番組の書籍化ではないため)、あちらの番組でしか聞けないような話も多い(たとえば『切腹』の撮影中、夜飲み歩いていて明け方旅館に戻ったところ宿に入れてもらえず、路上で寝て一夜を過ごした話とか)。そのあたりをもっと引き出せたらもっと面白い本になっていただろうと思うが、それでも抑えるべきところは抑えている。
 幼少のみぎりから始まり、俳優座養成所時代、出演映画、無名塾について、そして現在と、これまでの半生を語る。仲代達矢の魅力もしっかり伝わってくる。ただ少しインタビュアー(坂梨直子って人)が前に出すぎである。仲代達矢の魅力を伝えるべき本であるにもかかわらず、坂梨直子の魅力も伝えたいという意向なのか。聞き手と話し手の発言が同じ並びで、しかも同じカッコ書きで紹介されているために、ところどころどちらの発言かわからなくなったりする。もう少し工夫があっても良かったのではないかと思う。
 仲代達矢の魅力を本で伝えようという意志は評価するし、内容もまずまずだが、作りについてはいろいろと問題が残った本と言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『切腹(映画)』
竹林軒出張所『肉弾(映画)』
竹林軒出張所『鍵(映画)』
竹林軒出張所『他人の顔(映画)』
竹林軒出張所『殺人狂時代(映画)』
竹林軒出張所『華麗なる一族(映画)』
竹林軒出張所『金環蝕(映画)』
竹林軒出張所『不毛地帯(映画)』
竹林軒出張所『吾輩は猫である(映画)』
竹林軒出張所『姿三四郎(映画)』
竹林軒出張所『二百三高地(映画)』
竹林軒出張所『上意討ち 拝領妻始末(映画)』

by chikurinken | 2017-08-24 07:25 |

『プーチンの道』(ドキュメンタリー)

プーチンの道 〜その権力の秘密に迫る〜(2015年・米WGBH)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

怪物プーチンの来し方、行く末

b0189364_18324779.jpg ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がどのように成り上がって、どのような方法で政治を行っているかを紹介、というか告発するドキュメンタリー。
 KGBの職員だったプーチンは、ソビエト連邦崩壊により職を失うが、サンクトペテルブルクで懇意のサプチャーク市長に拾われ、市長が直接手を下せない汚い仕事を引き受けることで頭角を現していく。その後、サプチャークの中央政界進出に伴いプーチンも中央政界に進出。エリツィン大統領の汚い仕事の処理を引き受けたことから、エリツィンにも可愛がられる。
 エリツィンが大統領を退任するにあたり、大統領時代の自身の犯罪行為を追求しない後継大統領としてプーチンを指名するに及んで、プーチン時代が始まる。その後首相に就任したプーチンは、世間的にも認知度が低かったが、ロシア高層アパート連続爆破事件の際にチェチェンの過激派による仕業と決めつけ、チェチェンに対して攻撃を強行したあたりから保守層を中心に支持を集めるようになる。
 このドキュメンタリーでは、この連続爆破事件はFSB(KGBの後継組織)の自作自演で、プーチンが知名度を上げるために仕掛けたものと断定していたが、真相はわからないにしてもかなり怪しいのは確かである。しかもそれを告発した記者や元職員が不当逮捕されたり謎の死を遂げたりしているという事実もある。少なくともこの連続爆破事件とチェチェン紛争で結果的に一番得をしたのは、その後大統領選挙を勝ち抜いたプーチンであるのは確かである。しかも連続爆破事件についての調査も打ち切りにしているなど、怪しさ満載である。
 このドキュメンタリーで描かれるプーチンは、利己主義的な第三世界型の独裁者で、先進国の指導者では断じてない。もっとも先進国とされている米国でも似たようなサイコパスが大統領になっているわけで、先進国の指導者が民主的な存在かというと必ずしもそうではないところが悩ましいところである。米ロの首脳、それから我が国の首相も含め、互いに親近感を感じているように聞くが、そういうのもなんだかわかるような気がする。
インパクトメディア歴史アーカイブ映像部門インパクト賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『混沌のウクライナ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『暴かれる王国 サウジアラビア(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『こうしてソ連邦は崩壊した(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『スターリンの亡霊(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドーピング ロシア陸上チーム 暴かれた実態(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『バシャール・アサド 独裁と冷血の処世術(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーで見る 独裁者スターリン(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-08-22 08:08 | ドキュメンタリー

『カメラマン・サワダの戦争』(ドキュメンタリー)

カメラマン・サワダの戦争 〜5万カットのネガは何を語るか〜(1982年・NHK)
NHK総合 NHK特集

人生を駆け抜けた一人の男の軌跡

b0189364_21181994.jpg ベトナム戦争の報道写真で有名になったカメラマン、沢田教一のドキュメンタリー。1982年にNHK特集で放送されたもの。
 学生時代、個人的に報道カメラマンに興味を持ったことから、ロバート・キャパや一ノ瀬泰造などの本を読んでおり、沢田教一についても写真集(『泥まみれの死』)や青木富美子が書いた伝記(『ライカでグッドバイ』)を読んでいる。このドキュメンタリーもどこかで見たというよう記憶があるが、1982年の時点ではまだ沢田教一について僕は知らなかったはず。あるいは再放送を見たのかも知れない。
 この番組は、沢田の13回忌に、奥方の沢田サタさんが教一が戦死した場所(カンボジアの田舎)を訪れるというエピソードをメインに据え、沢田教一の生涯と仕事を追っていくというもの。
 沢田教一は、ベトナム時代、戦場で撮った写真をUPIベトナム支局に売りながら自分の写真を発表していた。報道写真は数年したらネガが処分されるらしいが、沢田は処分前に自らが引き取り、それをサタに送っていた。そのため、当時の他の報道写真家と比べ、ネガがかなり残っていて、サタの手元には5万カットあるらしい。そのネガを追うことで、沢田教一の戦場における足跡や、どのようなものに関心を示したか探る。そして彼の最大の関心事が、戦場における家族や子どもだったということで、実際こういった写真が非常に多いらしい。もっとも彼がピューリッツァー賞を受賞した『安全への逃避』にしても、戦争における家族を描いたもので、こういった点が沢田を他の報道カメラマンと違った存在に押し上げる要因にもなっている。
 沢田の生涯や沢田の写真の特徴を非常にうまくまとめたドキュメンタリーで、古典的な秀作として現在に残っている。DVDは出ていないが、今でもNHKアーカイブスであるいは見られるかも知れない(未確認。一部は見られる)。僕が今回見たのは、今年の6月に『あの日 あのとき あの番組〜NHKアーカイブス〜』という番組枠で再放送されたものである。報道写真家の石川文洋がゲストで、しかも沢田サタさんの今の姿まで映像で登場して(現在92歳!)、サービス精神満点の再放送であった。久々に沢田教一に興味が沸いたんで『泥まみれの死』と『ライカでグッドバイ』をもう一度読もうと思ったが書棚にはなかった。どうやら処分したようだ。僕自身、あの当時から随分日和ったものである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ベトナム戦争関連のドキュメンタリー3本』
竹林軒出張所『フルメタル・ジャケット(映画)』
竹林軒出張所『運命の一枚〜“戦場”写真 最大の謎に挑む(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『それでもなぜ戦場に行くのですか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イラク戦争関連の本』
竹林軒出張所『サルバドル 遥かなる日々(映画)』

by chikurinken | 2017-08-20 07:17 | ドキュメンタリー

『中国映画を支えた日本人』(ドキュメンタリー)

中国映画を支えた日本人 〜 “満映”映画人 秘められた戦後(2006年・NHK)
NHK-BS1 BSプレミアム プレミアムカフェ

中国映画のもう一つの歴史

b0189364_21042266.jpg 太平洋戦争中、中国大陸に建国された満州国は、日本の傀儡国家であったことから日本人が大勢入植し、その日本人向けに満州映画協会という映画会社(いわゆる「満映」)まで設立された。この映画会社、満州人の美人が日本人に恋するという、日本人にとって非常に都合の良いストーリーの映画をたくさん作ったが、同時に李香蘭(山口淑子)というスターまで生み出した。「満映=李香蘭」という図式まである。というか、僕自身はそういう図式でしか満映を知らなかったのだ。
 さてその満映だが、大日本帝国の無条件降伏で戦争が終結すると、当時満映に乗り込んでいた大勢の日本人映画人は、一部帰国したが、その後も当地に大勢残っている。満映自体は、その後乗り込んできた中国共産党が接収し、共産党のプロパガンダ映画を作り始めた。その際、残った日本人映画人は、現地の中国人映画人の指導に当たったり、その後の共産党製作の映画のスタッフとして協力したりしたらしい。この中には内田吐夢などもいたそうだ。当時の中国の映画レベルがあまり高くなかったこともあり、こういった日本人技術者は非常に重宝され、その技術が中国内の映画人に引き継がれる役割を果たしたというのがこのドキュメンタリーの趣旨である。
 僕自身は1980年初期から中国映画を目にしていたが、たまに目にしていた文革時代のプロパガンダ映画の質の低さに辟易していた一方で、1987年の『古井戸』は、そういった映画と異なるレベルの高さを感じてかなり驚いた記憶がある。戦後中国に(特に文化大革命による)映画技術の断絶があったと感じていたため、こういった作品が作れるのかと思い意外性を感じたわけである。なんでもこの映画の主役と撮影を担当したチャン・イーモウ(その後偉大な映画人になるが)は、満映で技術を受け継いだ中国人技術者の弟子筋にあたるらしく、満映の技術を引き継いだ一人ということになる。技術には継承が重要であるということを考えると、これは十分納得のいく話ではある。
 僕にとって、中国映画には韓国映画と違って魅力を感じるものが多いのは事実で、戦前に日本にあった映画技術が継承されたことがその要因なのかどうかはわからないが、もし継承されているのであればそれは中国文化にとってラッキーなことであった。結果的には日本人技術者を引き留めた中国共産党の勝利ということになるのか。なお、その後日本人技術者たちは、中国に種をまいた後、無事帰国を果たしたようである。このドキュメンタリーによると、多くの技術者たちが、満映時代、その後の共産中国時代について、映画人としての彼らにとって素晴らしい時代だったと感じている模様である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『証言 日中映画人交流(本)』
竹林軒出張所『中国10億人の日本映画熱愛史(本)』
竹林軒出張所『単騎、千里を走る。(映画)』

by chikurinken | 2017-08-18 07:02 | ドキュメンタリー

『ブレードランナー ファイナル・カット』(映画)

ブレードランナー ファイナル・カット(1982年・米)
監督:リドリー・スコット
原作:フィリップ・K・ディック
脚本:ハンプトン・ファンチャー、デヴィッド・ピープルズ
デザイン:シド・ミード
音楽:ヴァンゲリス
出演:ハリソン・フォード、ルトガー・ハウアー、ショーン・ヤング、エドワード・ジェームズ・オルモス、ダリル・ハンナ、ブライオン・ジェームズ

ブレードランナーは一角獣の夢を見た

b0189364_20263258.jpg フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が原作。舞台は2019年のロサンゼルス。怪しげな外国語が飛びかう多国籍の街。日本語が飛びかう屋台、巨大スクリーンに映される芸者の広告(なぜか「強力わかもと」)が新鮮である。LAでありながらずっと雨が降っている。
 この時代、人間そっくりのアンドロイド(レプリカント)が普及しており、知性も腕力も持っていて他の星での肉体労働などに従事しているが、中には地球に紛れ込む者がいる。そういうレプリカントを破壊するのがブレードランナーで、主人公もその1人。地球に紛れ込んだ数人のレプリカントを追うというのがこの映画のメインストリームである。
 ストーリー自体は比較的平凡だが、この映画の特徴は美術で、とにかく舞台の描写がリアルですごい。この映画が作られたときはまだCGがなかったため、一般的な合成による特撮で作られているが、非常に質が高い。それに世界観が独特で、たとえば主人公のハリソン・フォードが日本人の経営する屋台で麺を食べているシーンは、妙にユーモラスで最初見たとき思わず笑いがこみ上げてきた。ちなみにこの映画、僕自身は1984年ぐらいに初めて見ており、そのときは美術はすごいと思ったがストーリーがよく把握できず、なんだか曖昧な印象しか残らなかった。この映画、公開当初はあまり人気が出ず、時代を経るうちにカルト的な人気を集めて今に至っているんだが、当初は製作側でもストーリーがわかりにくいといわれていたようで、それでも見切り発車みたいな形で公開されたらしい。監督のリドリー・スコットにとってはそれが不本意だったようで、その後人気が高まるにつれて、カットされたシーンを活かし監督自身が再編集したディレクターズカット版が発表された。そしてさらにその後編集が加えられて「ファイナル・カット」版が作られ、それが今回見た作品ということになる。今回は、ストーリー自身にはわかりにくさを感じなかった。鳩のシーンも非常に魅力的だった。
 撮影時からいろいろスタッフの間で対立があったりとか、演出上もいろいろとゴタゴタがあったことがメイキングビデオ(『デンジャラス・デイズ メイキング・オブ・ブレードランナー』)で紹介されていたが、(アメリカの事情は知らないが)そんな状態でもこれだけの完成度を持つ作品ができあがったということに驚く。リドリー・スコットの前作『エイリアン』同様、ともかくデザインを含め美術が際立った映画で、リドリー・スコットとシド・ミードの才能のたまものなんだろうと思う。世界観を堪能してくださいというそういう映画である(と思う)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ポアンカレ予想 100年の格闘(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-08-16 07:27 | 映画

『陸軍中野学校』(映画)

陸軍中野学校(1966年・大映)
監督:増村保造
脚本:星川清司
出演:市川雷蔵、小川真由美、待田京介、E・H・エリック、加東大介、村瀬幸子、早川雄三

暗くて暗くてとてもやりきれない

b0189364_20445900.jpg 太平洋戦争中に実在した「陸軍中野学校」を舞台にしたスパイ映画。
 陸軍中野学校というのは、諜報活動のプロを養成すべく陸軍内に作られた機関で、この映画でその名が世間に知られるようになったのではないかと推測される。
 内容は陸軍中野学校がどういう学校か、どういう性格かという説明が多く、特に序盤は多分に説明的であるが、その後主人公の三好陸軍少尉(市川雷蔵)が関係者を殺害しなければならなくなるという展開は想定外で、ドラマとしてなかなかうまく練り上げられている。主演の市川雷蔵は、この映画が初の現代劇ということで、雷蔵が新境地を見せた映画としても知られている。興行的にも当たったようで、その後シリーズ化された。
 総じてよくできた映画ではあるが、ただやはりフィルムノワール(「虚無的・悲観的・退廃的な指向性を持つ犯罪映画」- Wikipediaによる)風で、しかも殺伐としており、あまり気分が良い作品ではない。この気分の悪さというのは、作り手による反戦のメッセージだろうとは思う。そういう点で、この時代に多数作られた戦争ヒロイズム映画とは一線を画す作品ではある。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『間諜X27(映画)』
竹林軒出張所『兵隊やくざ(映画)』
竹林軒出張所『巨人と玩具(映画)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』
竹林軒出張所『炎上(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』
竹林軒出張所『小野田元少尉の帰還(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第5集〜第8集(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-08-14 06:44 | 映画

『兵隊やくざ』(映画)

兵隊やくざ(1965年・大映)
監督:増村保造
原作:有馬頼義
脚本:菊島隆三
撮影:小林節雄
出演:田村高廣、勝新太郎、淡路恵子、北城寿太郎、早川雄三

人間的な魅力に富む二人の超人の話

b0189364_06581856.jpg 『兵隊やくざ』はシリーズになっていて、途中の作品はたびたび見る機会があったものの、シリーズ第1作目、つまり本作についてはなかなか見る機会がなく、今回とうとう見ることができたということになる。シリーズの途中から見るというのははなはだ不本意で、だから実際には見てはいない。そもそもシリーズ化した作品というのは第1作が当たったためにシリーズになったというのが普通である。ならばとりあえず第1作を見れば良いではないかというのが僕の考え方である。まあ普通の人はそうだろうが。
 もっともこの『兵隊やくざ』、シリーズ化されているといっても、比較的地味な作品群で、映画ファンでなければ知らないようなシリーズである。勝進のシリーズ作品と言えば『座頭市』の方がはるかに有名だし。ただし僕は『座頭市』も勝進もあまり好きではない。したがって『兵隊やくざ』にしても、とりあえず第1作目を見れば良いかなという程度の考えしかなかった。
 で、今回まあ見たわけだが、予想に反して、これが非常に良くできた面白い映画に仕上がっていたのだった。型破りの元やくざ、大宮(勝新太郎)が、関東軍に二等兵として入隊してくるが、関東軍といえば苛烈な初年兵いじめで有名。でもって、当然この初年兵、目を付けられて散々な目に遭わされる。しかしこの大宮、そんじょそこいらのやわな人間と違って、腕力と破天荒さにかけては天下一品。徐々に自分の居場所を作っていく。この大宮の目付役が三年兵の有田(田村高廣)だが、大宮に共感を覚えたか、窮地を救ったり上官に対してかばったりする。大宮の方も有田をボスと認め、この恩義をいつか返すと誓うというそういった流れになる。
 軍隊内、特に大日本帝国陸軍のいじめや暴力というのはいろいろな映画で描かれていて、見ていていつも辟易する。『真空地帯』しかり、『人間の條件』しかりであるが、『真空地帯』ではそんな中で実力でのし上がる男、『人間の條件』ではあくまでも正義を貫こうとする男が出てきて、それがドラマの中心になる。この映画も同様で、(身分)秩序がしっかりあってしかも暴力によってその秩序が維持されている集団内に、破天荒な人間が入ってきて一悶着起こすというドラマになる。ただその入ってくるよそ者が、「人物」でありながら腕力も持っている魅力的な存在というのがこの映画のミソである。この人物、どこか無法松を思わせるが、無法松→阪妻→田村高廣というふうにこの映画にも繋がっているのはたまたまか。この魅力的な男が異常な集団の中で、人間性を見失わずに自分を貫いていく。またもう一人の主人公、有田の正義感も気持ち良い要素である。彼も異常な集団の中で、まともな思考とまともな感情を見失わない。そういう意味では、二人ともややスーパーマン的ではあるが、基本的に娯楽映画だからそれで良い。
 駐屯地のセットは野っ原の中にしっかりと作られていて、舞台が満州と言われてもまったく違和感はない(実際の撮影地は北海道あたりか)。大映映画らしい豪華さである。
 先ほども言ったが、この映画かなり当たったようで、その後シリーズ化され、結局第9作まで作られた。ただし増村保造が監督したのはこの一作のみで、後はプログラムピクチャーの監督が担当している。見ていないし見る予定もないのでどの程度の作品になったかはわからない。やはりこの一作だけで終わらせても良かったんじゃないかというのが実感である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『真空地帯(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『無法松の一生(映画)』
竹林軒出張所『陸軍中野学校(映画)』
竹林軒出張所『巨人と玩具(映画)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』

by chikurinken | 2017-08-12 06:59 | 映画