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竹林軒出張所

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『映像の世紀プレミアム 第4集』(ドキュメンタリー)

映像の世紀プレミアム 第4集 英雄たちの栄光と悲劇(2017年・NHK)
NHK-BS1 NHK-BSプレミアム

最後に残った素材を集めてみた?

b0189364_21534252.jpg 『映像の世紀』スピンオフの第4弾。この第4集では、時代を彩ったヒーローを取り上げ、その時代背景もあわせて紹介する。
 取り上げられるヒーローは、(大西洋横断飛行の)リンドバーグ、(南極探検の)スコットとアムンセン、ベーブ・ルース、チェ・ゲバラ、力道山、ケネディ、モハメド・アリ。なぜこんなところに力道山を入れるか理解に苦しむ(力道山は1つの現象である)が、スコットやチェ・ゲバラの映像はかなり貴重なもので、おそらく新旧『映像の世紀』シリーズには出てこなかったものが多かったんではないかと思われる。また、リンドバーグが当時世界中でどれだけ熱狂的に迎えられたか、つまり人気者だったかも紹介されていて、非常に新鮮であった。その人気はさながら現代のロックスターなみだが、時代が下がると、米国内でナチス・ドイツの協力者というレッテルを張られたことから(実際にドイツのシンパではあったようだ)戦中戦後はバッシングを受けたなどという話も今回初めて聞いた(と思っていたが、これについては前の『映像の世紀』でも取り上げられていたようだ)。
 モハメド・アリについても、華麗なボクシングスタイルで一躍人気を得たが、その後の徴兵拒否、イスラム教への改宗で一気に世間の「朝敵」になってしまう過程は非常にスリリングである。しかしその後は、反戦活動に力を入れ、それが反ベトナム戦争の世論喚起に役立ったということを考えると、当時(僕を含め)世間一般が持っていた「ただのビッグマウスのスポーツ選手」という見方は大きく変わる。
 こうやって人物単位で時代を切り取るという方法論は、ある人間とその時代との関わり方が照らし出されるなど、面白い側面もある。特に旧『映像の世紀』で時間軸に沿った表現、新シリーズでテーマ別の表現を行った上で、この人物単位の表現方法を採用したのは、シリーズごとに異なるアプローチ方法を採用したということであり、非常に意義深いと言える。考えてみれば、このシリーズでは第1集が芸術家、第2集が科学者、第3集が女性という具合にずっと人物単位のアプローチが続いていたわけだが、時代との関わりをもっとも強く感じたのがこの第4集である。そういう意味でもこの第4集は大変魅力的な回であった。もっとも第4集は英雄(あるいは人気者)というくくりだったため、スポーツ選手、冒険家、革命家、政治家と、そのラインナップはごちゃ混ぜである。先ほども言ったように力道山がチェ・ゲバラと同格に扱われているのは疑問符が付くし、ケネディもこんなところで取り上げる必要はないんじゃないかと感じた。こういう風に雑多な分野の映像が集められると、今まで使わなかった最後の残り素材を集めてみたというのがこの第4集なのかなどと感じてしまう。ってことは『映像の世紀プレミアム』シリーズもいよいよこれで終わりってことなんだろうか。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第2集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第3集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アメリカが見たカストロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『蘇る伝説の死闘 猪木vsアリ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(本)』

by chikurinken | 2017-04-29 06:53 | ドキュメンタリー

『足元の小宇宙Ⅱ』(ドキュメンタリー)

足元の小宇宙Ⅱ 絵本作家と見つける“雑草”生命のドラマ(2017年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

今ファーブル、甲斐信枝の目

b0189364_18142182.jpg 絵本作家の甲斐信枝さんは、山野に生える野草(いわゆる雑草)に大いに関心を示し、それをスケッチして絵本にしてきた。その甲斐さんの後ろにくっついていき、彼女の見ている世界を映像化したのがこの番組。
 ノゲシなどの野草類の種子の放出シーンが映像化されていたり、野草類の変わった形状や野草が互いに勢力を伸ばしあう様子などが映像で紹介されたりしていて、映像自体は非常に興味深い。
 この甲斐信枝という人、野原に寝そべってひたすら野草を見たり、おもむろにスケッチブックを取り出して野草の絵を描き始めたりして、端で見ている分には大変楽しい人である。さしずめ「今ファーブル」といったところだが、その彼女の視線に映像が非常に近づいていて、この人が感じる面白さ、心地よさなどが再現される。見ていて大変心持ちが良い。もっともこの甲斐さんって人、良い人そうだが、野草のことを「あいつ」とか「この人」とか呼んだりして、そういうあたり僕などはちょっと引いてしまう。実際こういう人がそばにいたら心情的にお近づきになれるかどうかわからない。とは言え、番組の映像は非常に良いもので、甲斐さんの世界観は実にうまく再現されていた。それは間違いない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『田んぼにトキが舞いおりる(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-04-27 07:13 | ドキュメンタリー

『月へ、夢を 人類初の月面探査レースに挑む』(ドキュメンタリー)

月へ、夢を 人類初の月面探査レースに挑む(2017年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

核心部分がないじゃない

b0189364_18492713.jpeg 「月面探査レースに挑む」などというタイトルなんで、てっきり例の「グレートレース」シリーズかと思った。「ついに月までが舞台になった」ってなもんである。だが残念ながら、まだ月面到達レースは始まっていなかった。なんでもGoogle主催により、2017年までに月面を車両で500メートル走るというレースが行われているそうで、それに参加する日本のチームの準備の顛末記という、そんな内容である。「グレートレース」の準備部分だけ取り上げたというか、ロボコンシリーズの準備部分だけを切り取ったというか、とにかく何とも物足りない内容である。日本から参加する唯一のチームは、チームHAKUTOという名前で、このプロジェクトのために日本に留まっているアメリカ人の元留学生がいたり、族あがりみたいなメンバーがいたり、ユニークさを強調しようという試みは見受けられるが、早い話、見ているこっちにとってみればどうでも良い話ばかりで、そもそも月に車を送って500メートル走らせるということにまったく魅力を感じない。ましてや月に送る手段は(つまりロケットだが)自分で用意できず別のチームに頼るというのも、そういうので良いのかという疑問が消し去れない。
 番組としてはそれなりに構成されているが、まったく心を動かされる部分がなく、最低限ホンちゃんのレースを入れなきゃ番組として成立しないだろうと思う。もっともレースまで引っぱった場合、HAKUTOの車が月まで到達できないという可能性も十分あるわけで、それをメインに据えることにはリスクがあったのかも知れない。
 ただ『YOUは何しに日本へ』でときどき何かの大会に参加する外国人が来て、1回戦で負けて「チーン」で終わることがあるが、現実はそんなもので、テレビの世界でもそれはそれで良いんじゃないかと思うが、「グレートレース」みたいにむだに大げさな番組にしてしまうと、そういうわけにも行かないんだろうか、などとつらつら考えるのである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『雲上の超人たち(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『激走! 富士山一周156キロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死闘!コスタリカ横断850キロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『密着! アタカマ砂漠マラソン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『灼熱の大地を疾走せよ!(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『絶景アルプスを飛べ!(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-04-25 06:48 | ドキュメンタリー

『あなたの体は9割が細菌』(本)

あなたの体は9割が細菌
アランナ・コリン著、矢野真千子訳
河出書房新社

主張に1本筋が通っている良書

b0189364_08122145.jpg 人間の体内に棲む微生物(本書では「マイクロバイオータ」と呼ぶ)と人間の共生関係について説いた本。
 20世紀になって抗生物質が乱用されるようになりマイクロバイオータが大量に殺されたことから、この共生関係が壊され、I型糖尿病、アレルギーなどの21世紀病(免疫疾患)が発生したというのが著者の主張。
 著者はマイクロバイオータの重大性から説く。人間の体内には100兆を超えるマイクロバイオータが棲んでおり、消化吸収に関わる多くの重要な仕事はマイクロバイオータが担当している。微生物はライフサイクルが短いため、環境に適用しやすいという特質がある。この特質を利用することで、人間を含む大きな生物は(本来であれば進化のために何百年何千年もかけなければ適用できない)食生活に容易に適用できるようになっているらしい。
 しかしその関係は、抗生物質によって大きく変わった。抗生物質は感染症に対して大きな効果を発揮したことは言うまでもないが、あまりに不必要に乱用されているため、人間の体内のマイクロバイオータが相当量殺され、人によっては、マイクロバイオータの組成が大きく変わった。また肉中心の食生活もその組成を変える助けになっている。これが21世紀病の原因ではないかというのが本書のキモの部分である。しかも肥満や自閉症まで、マイクロバイオータの組成変動が原因ではないかとする(これについては十分な考察がある)。
 また同時に、本来であれば出産時に母から子に伝えられるマイクロバイオータが子に伝わりにくくなっていることも指摘する。帝王切開が増えていることがその原因で、帝王切開の場合、産道を通るときに浴びせられる母親のマイクロバイオータが子に浴びせられる、つまり取り込まれる機会が損なわれる(通常であれば母から子へマイクロバイオータが継承される)。さらに、母乳の代わりに人工乳を使うことも、マイクロバイオータの子への伝搬を阻害するという。こういう話はちょっと聞いただけではにわかに信じがたいが、これについても何度も繰り返し論証している。論証がどのくらいできているかは即断できないが、少なくとも論証しようとしている。そのため全体的にはかなりくどさを感じる記述になっている。もちろんこれは著者の良心とも言えるわけで、必ずしもマイナスポイントではない。
 ともかく治療が難しい21世紀病を克服するには、マイクロバイオータを正常化(抗生物質登場以前の段階まで戻す)することが重要で、そのために抗生物質の使用は極力少なくする、出産、育児についてもマイクロバイオータの観点から見直すべきというのが著者の主張である。また21世紀病に対しては、糞便移植が効果を発揮していることも紹介している(竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』を参照)。これも腸内のマイクロバイオータを正常化させるための治療である。
 マイクロバイオータについて非常に詳細に解説し、なおかつ今後の我々のあり方についても示唆する良書で、内容は『失われてゆく、我々の内なる細菌』と重複する部分も多いが、あの本ほどの読みにくさもない。
 『あなたの中のミクロの世界 (1)(2)』もこの本と同じような内容が紹介されていたため、あのドキュメンタリーの補足(あるいは理論的な拠り所)として読むのもありだ。とにかく主張が明解で結論がはっきりしているので、読後感は非常に良い。
 微生物の専門的な名前が多出するのが少々難だが、一方でしっかりした索引が付けられているため、それを十分補っている。値段もまあ手頃だし、この手の本を買うならまずこの本ということになる。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『失われてゆく、我々の内なる細菌(本)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (1)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『わたしたちの体は寄生虫を欲している(本)』
竹林軒出張所『土と内臓 微生物がつくる世界(本)』

by chikurinken | 2017-04-23 08:13 |

『短歌をよむ』(本)

b0189364_18542516.jpg短歌をよむ
俵万智著
岩波新書

読もうが詠もうが短歌は短歌

 歌人、俵万智の短歌論。出版されたのが1993年で、第二歌集が出た後ということになる。『サラダ記念日』で一世を風靡したとは言え、短歌の世界ではまだ新人に入る時代に短歌について書いてみた、しかも岩波新書にということで、著者にとってはかなり思い切った本ではないかと思うが、なかなかよくできている。あるいは渾身の作と言っても良いかも知れない。
 「短歌を読む」、「短歌を詠む」、「短歌を考える」の三部構成になっており、本書のタイトルが『短歌をよむ』であることから「短歌を考える」は蛇足のようにも感じられるが(実際当初は2部構成の予定だったらしい)、執筆の段階で急遽この章の追加が決まったという。「短歌を考える」の項では、短歌の世界から身を引いた現代歌人について論じているんだが、結果的に著者による決意表明みたいになっており、読んでいて何やら少し気恥ずかしさも感じる。
 第1章の「短歌を読む」は、和歌や短歌の鑑賞教室、第2章の「短歌を詠む」は、自作の例から、どのような推敲を経て短歌が作られていくかが示される。第2章も種明かしみたいで面白かった(たとえばサラダ記念日の歌<「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日>は、本当のところはサラダではなくカレー味の唐揚げだったとか、日付も7月6日ではなかったとか)が、個人的には第1章の鑑賞教室が一番のお気に入りである。伊勢物語の解説本などでもそうだったが、著者の古典文学に対する洞察が僕には新鮮で、しかも語り口もなかなかうまいため、あの本同様、非常に興味深く感じる。
 全体として見るとそれなりにまとまっていて、しかも熱意も感じられるなど、総じて良書ではあるが、僕としてはやはり第1章だけでも良かったかなという感じがする。
★★★

参考:
竹林軒出張所『恋する伊勢物語(本)』
竹林軒出張所『たんぽぽの日々(本)』
竹林軒出張所『生まれてバンザイ(本)』
竹林軒出張所『ちいさな言葉(本)』
竹林軒出張所『オバカ記念日』
竹林軒出張所『古典和歌入門(本)』

by chikurinken | 2017-04-21 06:54 |

『レ・ミゼラブル』(1)〜(4)(ドラマ)

レ・ミゼラブル (1)〜(4)(2000年・仏)
演出:ジョゼ・ダヤン
原作:ヴィクトル・ユーゴー
脚本:ディディエ・ドゥコワン
撮影:ウィリー・スタッセン
音楽:ジャン=クロード・プティ
出演:ジェラール・ドパルデュー、ジョン・マルコヴィッチ、クリスチャン・クラヴィエ、ヴェロニカ・フェレ、シャルロット・ゲンズブール、ヴィルジニー・ルドワイヤン、エンリコ・ロー・ヴェルソ、ジャンヌ・モロー

『レ・ミゼラブル』のほぼ完璧なドラマ化

b0189364_19100159.jpg ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』を約6時間のドラマにしたもの。『レ・ミゼラブル』は、これまでたびたび映画化やドラマ化、あげくはミュージカル化されているほどの名作だが、このドラマは決定版と言えるほどのできである。原作にもかなり忠実で、主役を演じたジェラール・ドパルデューが「時間の制約から原作の改変・短絡が避けられない映画化に対し、時間をかけて忠実に描写出来る長編ドラマのメリットを認め、プロデューサーも兼任した」(Wikipediaより)という作品である。原作の『レ・ミゼラブル』を堪能するにはこれ以上ないドラマである。
 このドラマ、非常に丁寧に作られている上、しかもキャストが素晴らしい。ジェラール・ドパルデューのジャン・ヴァルジャン、ジョン・マルコヴィッチのジャヴェール、ヴィルジニー・ルドワイヤンのコゼットは秀逸で、これ以外のキャストは考えられないと思わせるほどである。美術や衣装も素晴らしく、原作本を読む代わりに映像を見ることの利点を十分に感じることができる。
 このドラマ、各回1時間半×4回分で構成されているが、第1回は特にフランスの救いようのない下層社会が描かれ、そのひどさは見るに堪えないほどで、おかげで途中何度も中断を余儀なくされた。つまりそれくらいよくできたドラマということを言いたいわけだが、第2回以降も、ジャヴェールに追われるヴァルジャンの構図を中心に、それを取り巻く人々のさまざまな人生模様が絡んでくる。一方でフランス革命や7月革命が背景として描写されるなど、時代とそれに翻弄される人間の描写が素晴らしい。
 序盤は徹底したリアリズムで描かれていくが、真ん中にどっしりと置かれるのは理想主義的人間像で、それをジャン・バルジャンが体現していく。バルジャンとジャヴェールの絡みは、さしずめ性善説的な人間観と性悪説的な人間観のぶつかり合いのようにも見え、善であろうとするバルジャンと、悪の道にどっぷり嵌まり込んだテナルディエの絡みも、性善説と性悪説とのぶつかり合いのように見える。ドラマチックなストーリーでありながら、明解なテーマが随所に顔を覗かせる。見る者を引っ張り込んで離さないストーリー展開はさすがである。ただこのドラマ版、ちょっと偶然に頼りすぎな面があって(原作については詳しくは知らない)、そこら辺がちょっと引っかかるところではある。とは言えこれだけのドラマはちょっとやそっとでは作れないだろうし、優れたフランス文学を映像で堪能できるというのも、このような上質のドラマがあるゆえである。僕自身は、19世紀フランス文学の偉大さに触れたような気がしている。随所で流れるテーマ音楽もロマン派的で良い。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『原作と映画の間』
竹林軒出張所『隣の女(映画)』
竹林軒出張所『カミーユ・クローデル(映画)』
竹林軒出張所『マルコヴィッチの穴(映画)』

by chikurinken | 2017-04-19 07:09 | ドラマ

『さらば国分寺書店のオババ』(1)〜(10)(ラジオドラマ)

NHK-FMふたりの部屋
さらば国分寺書店のオババ (1)〜(10)
(1981年・NHK)
原作:椎名誠
脚本:津川泉
出演:伊武雅刀、佐々木允、武知杜代子

椎名誠と伊武雅刀の黄金タッグ

b0189364_19024079.jpg ここでラジオドラマを取り上げるのは珍しいが、かつてはよくラジオドラマなどというものを聞いたものである。僕自身も今と違って時間に余裕があったせいかも知れないが、そもそもラジオドラマ自体が今より多かったような気がする……そうでもないのかな。僕自身がラジオをよく聞いていたせいかも知れない。今回紹介する『さらば国分寺書店のオババ』は81年の放送時に聞いたもので、椎名誠が同作でエッセイストとしてデビューして2年後の放送である。そのため椎名誠もまだそれほどメジャーではなく、一部のマニアに受けていたというような時代である。僕自身もこの放送を聞いた時点ではまだ椎名作品を読んだことがなかったんだが、この放送のインパクトが強かったため、その後『本の雑誌』を買って読むようになった。あ、この『本の雑誌』というのは椎名誠が編集していた雑誌なのね。
 さて、この放送であるが、15分×全10回という代物で、月曜日から金曜日の夜11時頃に放送された。ドラマのほとんどの部分、つまり原作の地の文は伊武雅刀が読む……というか演じる。伊武雅刀も当時まだそれほどメジャーではなく、僕はこのドラマで初めて「いぶまさとう」という名前を聞いたのであった。そして、この伊武雅刀のナレーションがもう、すごくいい。椎名誠の初期のスーパーエッセイは、世の中のいろいろなことに怒ったり考察したりというものなんだが、その怒り具合の表現、妙ちきりんな考察の表現などが、これ以上ないくらいはまっている。「椎名役は伊武雅刀」という定番になっていたとしてもおかしくない。実際この後同じ枠で放送されたラジオドラマ『気分はだぼだぼソース 日本の異様な結婚式について』(椎名誠原作)でも伊武雅刀が怒って絶叫しており、僕なんぞ聞いていて大笑いしたのだった。
 このラジオドラマは『さらば国分寺書店のオババ』というタイトルになっているが、半分以上は『かつをぶしの時代なのだ』のネタである。もちろん『さらば国分寺書店のオババ』のネタも入っていて、それぞれが非常にうまくブレンドされていて、知らなければ原作は元々1冊の本なのではないかと勘違いするほどである。毎回最後に「オババの部屋」などというコーナーもあって、聴取者を楽しませる工夫もある。また第9回、第10回には椎名誠本人が登場し、伊武雅刀と対話するというスペシャル企画もあって、本来であれば音源をアーカイブしていてほしいほどの傑作であったわけだが、残念ながら現在この音源が発売されているなどということはまったくない。ところがそれがYouTubeに登場していたのである。投稿した方によると「掃除してたら懐かしいカセットテープが出てきました。」ということらしいが、ありがたきこと限りなしである。そういうわけでYouTube経由で、全10回分存分に堪能し尽くした。『日本の異様な結婚式について』の方ももう一回聞いてみたいが、現状ではYouTubeにはない。もっとも残っているかどうかもわからない。奇跡的に残っていて、それを奇跡的に公開してくれる人がいたらなーと思うが、たとえ登場したところですぐに当局が消したりするんだろう。著作権を主張するのは当然だと思うが、それなら別の形で提供しろよと思う。ブツはないくせに、俺のだから勝手に人に見せたらいけんよなどというのは少々虫が良すぎるのではないか。何らかの手段で音源を集めるなりして、有料でもかまわないから公開するのが筋ってもんじゃないかなと思う。元々無料で公開していた作品なんだからあんまりうるさいことを言うなとも思う。
 この間の『快刀乱麻』のケース(竹林軒出張所『「快刀乱麻」を聴く』を参照)もそうだったが、こういった草の根的、ゲリラ的な一般公開は(本当なら権利がないにしてもだ)、やはりインターネットの一番の魅力と言える。そしてそれがYouTubeの魅力でもある。(著作権の観点から考えると)不謹慎かも知れないが。
★★★★

参考:
YouTube『NHK-FM ふたりの部屋 さらば国分寺書店のオババ 1』
竹林軒出張所『かつをぶしの時代なのだ(本)』
竹林軒出張所『「快刀乱麻」を聴く』

by chikurinken | 2017-04-17 07:01 | ドラマ

『幕末グルメ ブシメシ!』(1)〜(6)(ドラマ)

幕末グルメ ブシメシ! (1)〜(6)(2017年・NHK)
演出:山内宗信、金澤友也、雫石瑞穂
原作:土山しげる
脚本:櫻井剛
出演:瀬戸康史、草刈正雄、田中圭、酒井若菜、三吉彩花、平田満、徳井優、クロちゃん

カラスミをわざわざまた煮てダメにしたようなドラマ

b0189364_06573560.jpg 『勤番グルメ ブシメシ!』というマンガが原作のドラマ。といっても内容は全然違うような……。原作は読んでいないが、基になっているネタが酒井伴四郎の日記だそうで(竹林軒出張所『幕末単身赴任 下級武士の食日記(本)』を参照)、原作にはまったくドラマチックな要素はなさそうである。
 ドラマでは、主人公の藩の殿さまが中間(下級武士)の恰好でお忍びで町に出て主人公と絡んだり、あるいは料理合戦をやったり、いかにもな筋立てになっている。あまりにやり過ぎでちょっとあほくさい感じさえするが、ドラマとしてはそれなりに面白く、きちんと成立している。
 主人公の名前は酒井伴四郎ではなく「酒田伴四郎」で、叔父貴は宇治田平三ではなく「宇治井平三」になっている。基本的な人間関係は原作に従っているが、かなりデフォルメした人物像になっている。原作とはまったく別物のドラマと考える方が良い。
 先ほども言ったようにそれなりに面白くできてはいるが、元々の酒井伴四郎の日記の内容がかなり興味深いものなので、取り立てて大げさなストーリーにせず、元の話を活かしたものにした方が良かったのではないかと感じながら見ていた。製作者側が、今の視聴者はこのくらい濃い味にしないと見向きもしないと思ったのか。薄味の上品なドラマも見てみたい昨今である。
★★★

参考:
竹林軒出張所『江戸古地図の旅 〜江戸東京 迷宮の道しるべ〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『幕末単身赴任 下級武士の食日記(本)』

by chikurinken | 2017-04-15 06:58 | ドラマ

『母をたずねて三千里 完結版』(アニメ)

母をたずねて三千里 完結版(1976年・日本アニメーション)
演出:高畑勲
原作:エドモンド・デ・アミーチス
脚本:深沢一夫
場面設定・レイアウト:宮崎駿
キャラクターデザイン・作画監督:小田部羊一
音楽:坂田晃一
出演:松尾佳子、二階堂有希子、信沢三恵子、永井一郎、東美江(アニメーション)

「完結版」じゃなくて「簡潔版」でしょ

b0189364_19190304.jpg 1976年、『フランダースの犬』の後に放送された『カルピスまんが劇場』の1本。なお次の年に放送されたのは『あらいぐまラスカル』。
 監督は『アルプスの少女ハイジ』の高畑勲、場面設定・レイアウトに宮崎駿が参加している。絵のタッチは『ハイジ』に似ている。今回見たものは、元々52話だったものをなんと1時間半に凝縮しているものであるため、ダイジェストも良いところというような作品になっていて、あまりに端折っているため途中わかりにくい箇所も結構あった。もちろん全部あわせて20時間以上のものを1.5時間にするんだから重々承知ではあるが、ホントだったら全部見た方が良いんだろなーとは感じた。
 原作はエドモンド・デ・アミーチスという人のごく短い話だそうで、それを山あり谷ありの冒険談に仕上げたのはアニメスタッフの功績である。ストーリーは波瀾万丈で、もし最初の放送時に目にしていればきっと毎週見続けるだろうと思う。放送時、僕は『カルピスまんが劇場』を一切見ていないんだが、質の高い作品が揃っていて、これについては同時代に生きた者として大変もったいなかったと感じている。
 『カルピスまんが劇場』(今では『世界名作劇場』というらしい)は、その後、自分の子どもが小さいときに何本か再放送されたものを見せ、そのときに僕も一緒に見たため『ハイジ』と『ラスカル』は概ね見ており、『フランダースの犬』もちょっとだけ見ているが、この『母をたずねて三千里』はまったく見ていなかった。タイトルから内容を想像できるということもあるかも知れないが、他の作と比べると知名度が落ちるということも手伝ったような気がする。だが最近、このアニメの音楽担当が坂田晃一だったことを知ってから俄然関心が湧き、それで見ることにしたといういきさつである。とは言ってもさすがに52話全部見るというのはなかなか踏ん切りが付かず、そうこうしているうちにダイジェスト版があることを知ったため、この完結版に手を出したというわけ。
 音楽については、テーマ曲からしてフォルクローレ風にまとめられていて、南米の雰囲気が醸し出される。テーマ曲は、坂田晃一らしくリリカルで魅力的な曲調で、坂田の才能が遺憾なく発揮された見事な作品である。
 映像の方も南米大陸の壮大さ、美しさが表現されていて、大変魅力的。優しい人たちが(不自然でない形で)支援してくれたり、一方で冷たい人たちに主人公があしらわれたりするなど、ストーリーにダイナミズムがあって目が離せない。人の優しさをありがたく感じる良い話が目白押しで、『ハイジ』同様、派手さはあまりないが、心に染みいる良く練り上げられたストーリー。少年少女に見せたくなるようなアニメである。時間があれば通しで全部見たいところであるが、やはり踏ん切りが付かない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『さよならの夏 〜それはルフラン 頭の中で響くの〜』
竹林軒出張所『朝倉理恵ファンがいるかは知らんがやっぱり「ひとさし指」が出た』
竹林軒出張所『昨日、悲別で (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『風の谷のナウシカ (1)、(2)(本)』
竹林軒出張所『風の谷のナウシカ (3)〜(7)(本)』

by chikurinken | 2017-04-13 07:18 | ドラマ

『タイガーマスクW』(アニメ)

タイガーマスクW(2016年・東映アニメーション)
演出:小村敏明
原作:梶原一騎、辻なおき
出演:八代拓、梅原裕一郎、三森すずこ(アニメーション)

b0189364_22215895.jpgこれも一種の懐かしグッズ

 夜中に『タイガーマスク』が復活していると聞いて、タイガーマスク世代である僕は早速見てみたのであった。
 主人公がナオトで、その恋人がルリコ。その上「虎の穴」が存在していて、ミスXという女性が虎の穴の代理人をやっているなど、前作との繋がりを示唆させる部分が多いのはポイントが高い。しかも僕が見始めた回ではなんと「覆面ワールドリーグ」などという大会が開催されていて、タイガーマスク世代にとっては感涙ものである。その上、ミスタークエスチョンまで出てきた日にゃ感動を通り越して苦笑である。もっともこんなことを書き連ねたところで、昔の『タイガーマスク』を見たことのない人にとってはちんぷんかんぷんだろうが、要は旧『タイガーマスク』の設定およびキャラクターをかなり意識的に踏襲しているということである。何よりかつての『タイガーマスク』に登場していた、主人公伊達直人の弟分である高岡拳太郎(ケン高岡)が、そのまま老人化して出ていて、しかも新タイガーマスクを育てていたというのだから、まさに『その後のタイガーマスク』である。このケン高岡によって、昔のタイガーマスク周辺のあれやこれやの事情が語られたりするのも良い。
 とは言うものの、このアニメ、かつての『タイガーマスク』のような重さというか救いようのなさがまったくなく、全体を通して結構軽い。お笑い要素もあちこちにあり、しかも現在の新日本プロレスのキャラが出てきて、どこか新日本プロレスの宣伝材料みたいな臭いも漂う。それに(今でも存在している)「虎の穴」が主宰する(のかよくわからないんだが)新しいプロレス団体GWMも、なんだか存在自体がエンタテインメント的で、一方で「虎の穴」は厳しい掟で縛られているなど暗い要素があって、その辺りがどうも整合性が取れていないと感じる。やっぱりあの50年前の世界を現在に持ち込もうとすることに無理があるんじゃないかという気がする。そうはいっても、我々旧世代が見ると、先ほど言ったような要素以外に、懐かしのレッドデスマスクやブラックバイソンがさりげなく登場したりするとちょっとテンションが上がるのである。要するに、一種の懐かしグッズになっているわけだ、このアニメ自体が。
★★★

参考:
竹林軒出張所『虎だ! お前は虎になるのだ!』
竹林軒出張所『ちびっ子レミと名犬カピ(映画)』
竹林軒出張所『追われる日々』

by chikurinken | 2017-04-11 06:28 | ドラマ