ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

<   2017年 02月 ( 20 )   > この月の画像一覧

『フランスで育った“アラーの兵士”』(ドキュメンタリー)

フランスで育った“アラーの兵士”(2016年・仏Takia Prod)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

問題の根源はイスラム教ではなく
社会に対する不満である


b0189364_7471862.jpg イスラム系フランス人のあるジャーナリスト(イスラム教徒)が、フランス国内のイスラム原理主義に凝り固まった若者に近づき、彼らがどのようにテロに走って行くかを側面から捉えたドキュメンタリー。
 このジャーナリスト(身の危険があるため素顔と名前は明かされていない)は、イスラム原理主義者が集まるというSNSに登録し、さまざまな若者と知り合う。警戒心を持つものもいるが、中には平気で近づいてくるような若者もいて、彼らを経由することでテロ活動家たちとも接するようになる。そうこうしているうちに、フランス国内でのテロの計画が持ち上がってきて、それに参加するよう促される。周りの若者は、大勢の異教徒を殺して自分も死ぬことこそアラーの意志とばかりに、テロへの参加を表明する。実際、彼らにはあまり現実感がないようにも見える。番組によると、彼らの多くは現状の生活に不満を持っているだけで、イスラム教とは本当の意味であまり関係がなく、多くのイスラム教徒はこういった過激思想に反感を持っているらしい。従って彼らはモスクでも宗教指導者と対立しているという。
 いずれにしても、大した現実感がないまま、現状の不満を周りにぶつけるというのが彼らの動機であり、テロリストのボスに良いようにコマとして利用されるというのがオチなのである。
 実際には、彼らが行動に移す前に、フランス国内で(別件の)ナイトクラブの乱射事件が起こったことから当局の締め付けが厳しくなり、大勢のテロリスト予備軍が逮捕された。そして彼らもその時点ですでにマークされており、一網打尽にされたらしい。この様子を内部から追っていたこの番組の主人公であるジャーナリストは、逮捕を免れたことからボスに正体がばれ、殺害予告をされるようになる。
 現状不満型の若者が、極端な考え方に凝り固まり、やがて悪の組織に利用される過程がよく分かるドキュメンタリーで、しかも主人公のジャーナリストも正体がばれる危険性が常に漂っていてかなりスリリングな展開になる。問題の根源はイスラム教ではなく社会に対する不満であるという主張も明確である。同様のドキュメンタリーは他にもあるが、その中でもっとも優れたもののひとつと言えるのではないか。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『そして、兄はテロリストになった(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『T(ERROR) FBIおとり捜査の現実(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『追跡「イスラム国」(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“イスラミック ステート”はなぜ台頭したのか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イスラーム国の衝撃(本)』
by chikurinken | 2017-02-28 07:47 | ドキュメンタリー

『巨龍中国大気汚染 超大国の苦闘』(ドキュメンタリー)

巨龍中国大気汚染 超大国の苦闘 〜PM2.5 沈黙を破る人々〜(2017年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

目新しさはほとんどない

b0189364_212496.jpg 全土で深刻な大気汚染が進んでいる中国で、今抗議の声を上げている住民達の話。
 中国では、3年前に政府が公害対策を進めることを発表したものの、現実には一向に環境は改善されない。その有様は、映像から十分に伝わってくるほどで、人がまともに住める状態ではないということもよくわかる。このあまりにひどい状況に対して多くの住民が声を上げている(2016年には公害関連の訴状が8万件裁判所に提出されたという)が、地方行政は動かず、企業側も動こうとしない。政府の音頭で少しずつ変化の兆しは見られるが、遅々とした状態は相変わらず……というのが現状。この番組ではそういった状況が報告される。
 これまでもNHKスペシャルなどでさんざん報告されてきたような内容で特に目新しさがない番組ではあるが、唯一目新しい情報だったのが、経済状態の悪化のためにある鉄鋼工場が操業停止に追い込まれたところ、とたんに青空が蘇ったというケース。中国経済はこれから低迷に向かうことが考えられるため、結果的にこういうケースは増えていくだろうが、しかしこういった地域でもすでに土壌汚染が進んでおり、工場が停止しても即解決とはならない。何しろ中国はスケールがでかいので、影響も大きい。解決にも長い年月がかかりそうであると実感するドキュメンタリーであった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『日本人は何をめざしてきたのか (3)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『安全な“食”を求めて』(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『廃棄家電の悲しき行く末(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ガスランド(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2017-02-27 07:02 | ドキュメンタリー

プライベート・ビエラ -- ユニークな製品だが使い方を選ぶ

 ビデオ周りにいろいろと問題が起こったため、プライベート・ビエラという製品を買った。非常にユニークな製品で、一見ただのDVDレコーダーとモニターのセットでありながら、その実、レコーダーからモニターに映像を無線で送ることができるというスゴ技がある。レコーダー自体は普通のDVDレコーダー同様普通のテレビにつなぐことができるため、普通のレコーダーとしても使えるが、電波を飛ばして子機(モニター)でも内容物を見ることができるというところがミソである。
b0189364_8315471.jpg
 コンセプトとしてはかなり面白く、これが額面通り機能すれば言うことはないんだが、問題が一つあった。つまり送信される電波が少々弱めということで、隣の部屋であれば普通に見ることができるが、少し離れた部屋となると、電波が途切れがちで、テレビ放送を見た日にゃ、たびたび放送が途切れて、画面が停止してしまうという想定外のことが起こってしまう。メーカー(つまりパナソニックだが)のホームページやカタログを見ると、かなり広い家でもコンテンツを普通に見ることができるように書かれているが、間に2部屋入るとかなり厳しいというのが現実。間に1部屋空いていてもたまに途切れる。うちの場合、レコーダーを置いているリビングから少し離れたところで見る予定だったため、これにはかなり参った。
 ただ間に無線中継器を入れることで電波の到達範囲を延ばすという手段もあり、パナソニックからも無線LAN中継機が販売されている。だがこれも結構なお値段で、追加の出費としてはちょっと痛い。そこで別のメーカーの無線LAN中継機を買うことにした。値段は半分以下であるが、これが使えるのかどうかは微妙なところ。ともあれ、アマゾンのレビューにこの製品を同じような用途で使用したという書き込みがあり、それを信用することにして結局これを買った。使えなければ文字通り余分で無駄な出費になるが、得をしたければ多少のリスクは仕方がない。
b0189364_8323974.jpg ところが実際使ってみようとしたところ、親機のDVDレコーダーがこれを認識せず、これはゴミを買ってしまったかと泣きそうな気持ちになっていたが、執念深くあれやこれや試してみたら、意外にあっさり接続できた。「WPSボタンを押す」というごく基本的な方法で、最初にこれを試したときはウンともスンとも言わなかったが、時間をおいてやってみたらきっちり接続できたわけ。原因はわからないが、ともかく使えるようになった。
 で、めでたく機能するようになったかというと、電波は、前よりは強力になったがそれでも弱めで、テレビ放送を見ていると途切れることが多い。録画したビデオについては、ほぼ途切れずに何とか見終わることができる。コンセプトが非常に面白い製品なので、せめて通常の家の中であれば電波が届くくらいの仕様にしてほしいところだが、まだまだ発展途上の製品ということなのか。また、リモコンもテレビ接続用のケーブルも付いていないため、必要であればこれも別途購入しなければならない。おかげで当初の目論見よりも大分予算がオーバーした。
 使う環境次第では非常に良い製品なんだろうと思う。それに防水になっているということなんでお風呂でも使えるらしい。風呂でテレビを見る必然性があるのか疑問ではあるが。ただ、ウチのような環境、使用目的では微妙な製品と言わざるを得ない。この製品を検討している方は、使用目的を十分考慮した方がよろしいでしょう。

参考:
竹林軒出張所『DVDレコーダー、動作を停止す』
竹林軒出張所『ポータブルWiFiルーターの設定……難儀した……』
by chikurinken | 2017-02-25 08:33 | モノ

『土と内臓 微生物がつくる世界』(本)

土と内臓 微生物がつくる世界
デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー著、片岡夏実訳
築地書館

植物の根と人間の内臓の中は同じらしい

b0189364_8125331.jpg 土壌の細菌が自然の中で果たす役割は非常に大きく、植物や菌類はこういった細菌を根の部分で利用しながら生長する。中には植物を攻撃する細菌もあるが、それはむしろ少数派で、植物は他の細菌を利用しながらこういったいわゆる「悪玉菌」を撃退しているという。一方で、我々の内臓(特に小腸と大腸)の中にも非常に多くの微生物が棲息しており、人間や動物の身体はこういった微生物を利用しながら(あるいは助けられながら)生きている。その関係は植物の根と同じであり、人間の内臓はいわば植物の根をひっくり返したような構造になっているというのが著者の主張。農薬が大地に棲む微生物を十把一絡げに殺してしまい大地を不毛の地にするように、人間の体内では抗生物質が有用な微生物まで虐殺し腸内を不毛にしてしまう。結果的に、免疫関連の(現在原因不明の)病気が発生するという。その過程もミクロ的に詳細に描かれていて、わかりやすい。ただし著者のデイビッド・モントゴメリー(前も書いたが本来であれば「モンゴメリー」だろうと思う)は土壌の専門家で、大地の微生物についてはともかく、体内の微生物については門外漢であり、説得力はあるがどこまで信用して良いものかちょっとわからない。
 共著者はデイビッドの妻のアンであり、こちらは生物学者。おそらく第6章、第7章あたりを書いたのではないかと思うが、ここらあたりは学術というよりむしろ体験記みたいなもので、学術書みたいな本を期待している向きは失望するかも知れない(わかりやすくはなっているが)。
 このように本書は学術書ではないが、人間と微生物との関わりの歴史や、大地での微生物の働き、腸内での微生物の働きや免疫システムの機能など、非常に網羅的に紹介しており、微生物のあれやこれやについて知るには恰好の書物になっている。また、人間にとって食生活がいかに大切か、何を摂取すべきかについても、説得力のある見解が披露される。これについては僕自身少し感じるところがあり、現在少し乱れている食生活を変えてみようかと考えたりするきっかけになった。
 難点は、同じ著者の『土の文明史』にも当てはまるが、翻訳がものすごく読みにくい点で、『土の文明史』のときと同様もう少しこなれた日本語にできなかったのかと思う。そもそも「モントゴメリー」から直せよと思う。ちなみにこの著者、デイビッド・モントゴメリー名義の訳書については『土の文明史』と本書の2冊が刊行されているが、実は「デイヴィッド・R. モンゴメリー」名義の訳書もある(『岩は嘘をつかない 地質学が読み解くノアの洪水と地球の歴史』)。同一人物である。Amazonで検索すると別人扱いになり紛らわしいったらない。この著者の本については洞察力が鋭く、僕自身大変興味があるんで、次からはもう少ししっかりした翻訳で読めたら良いなと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『土の文明史(本)』
竹林軒出張所『あなたの体は9割が細菌(本)』
竹林軒出張所『失われてゆく、我々の内なる細菌(本)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (1)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ 医者いらずの驚異の力(本)』
竹林軒出張所『食について思いを馳せる本』
by chikurinken | 2017-02-24 08:13 |

『問題は英国ではない、EUなのだ』(本)

問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論
エマニュエル・トッド著、堀茂樹訳
文春新書

b0189364_7234474.jpgトッド概論といったところ

 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』同様、文春新書によるエマニュエル・トッドの講演、インタビュー集。文春新書らしい非常にお手軽な作りの本ではあるが、トッドが語る世界観が凝縮されていて、この本もまったくないがしろにできない。
 この本で語られているのは、英国のEU離脱(いわゆるブレグジット)、そしてその原因(それをグローバリゼーション・ファティーグとする)、トッドの方法論、近未来の世界情勢、中国の不安定性、そしてパリ同時多発テロについてで、非常に雑多であるが、中身の濃さはすごい。この本を読んでいる間、何かとてつもない「事実」にアプローチできているのではないかと感じるのは、『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊』と同じ感覚で、トッドの著作ならではある。
 中でも注目に値するのは、英国と米国で進められてきたグローバリゼーションに対し、その過酷さに英国と米国自身が耐えられなくなったという考え方で、それがブレグジットと大統領選でのトランプ勝利という形で表面化してきたという分析である。今後グローバリゼーションの流れは収束し、保護主義へと傾いていくというのがトッドの「予言」である。一方でこの流れはトッドにとってはある程度理想的な形ではある。トッドは以前から、EUなどに代表されるグローバリゼーションはかなり無理があるシステムと規定していた。
 また中国の産業が先進国主導のもので、先進国側の経済停滞の影響をまともに喰らう性質のものであるため、破綻する可能性が高いというのも斬新な見方である。中国の家族制度から考えると格差を許容できない社会であるにもかかわらず、中国の格差が甚だしいということも社会不安の原因になり、不安定性の要因とする。
 一番興味深かったのが、トッドが自身の経歴を披露した章で(第3章:トッドの歴史の方法)、トッドの立ち位置や彼がなぜ現在のような人口学的アプローチを取るようになったかがわかり、非常に面白い。トッドの著書を読む上で知っておくと非常に役に立つ。
 一番不満なのが、トッドを「予言者」扱いする出版社の態度で、この本も帯に「トランプ勝利も予言していた!」などと書かれているが、これはデタラメである。トッドはどの本でも、来たるべき世界像を示すことはしているが「予言」など一切していない。ただしその世界像が適確で、割合その通りに推移している、要するにトッドの分析の多くが正しいということである。こういう売り方は非常に不快で、文春新書みたいな怪しげなところからはトッドの本を出してほしくないという気もしているが、一方でトッドの本が安価で提供されているという側面もあり、無下にはできないところが悩ましい。まあ最低限、嫌らしい売り方だけはやめてほしいものである。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
竹林軒出張所『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告(本)』
竹林軒出張所『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧(本)』
竹林軒出張所『エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-02-22 07:24 |

『世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史』(本)

世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史
スティーブン・ジョンソン著、大田直子訳
朝日新聞出版

人気コラムニストによる技術革新概論

b0189364_2015884.jpg 何かのきっかけで思いもかけない技術が生まれ、それが登場することでまた別の技術の登場が誘発される。こういったことの連鎖が発明を作り出す。したがって発明は、偉大な1人の天才がもたらしたものではありえず、時代背景があって初めて成立するものである。それは『発明はいかに始まるか』でも繰り返し主張されていたことである。
 この本では、「ガラス」、「冷たさ」、「音」、「清潔」、「時間」、「光」などをテーマに、どういった時代背景でどういったきっかけが起こり、それが周りをどう触発していったか、そしてそれがその後の技術革新にどのように影響を与えていったかについて紹介していく。
 たとえば「ガラス」の場合、透明ガラスが発明されてからそれが眼鏡を生み出し、そのことが、活版印刷術の発明でもたらされた本の普及に拍車をかけた。また同時にレンズの改良により顕微鏡や望遠鏡が生み出され、それが生物学、医学、天文学、物理学などの発展を促す結果になった……などという一連の流れが紹介されている。実はこれ、以前ここで紹介したドキュメンタリー、『いまに至る道 ガラス』と内容がほぼ一致している。あちらの番組も、この本の作者、スティーブン・ジョンソンが関わっており、要するにこの本、あのドキュメンタリーの書籍版という立場である。そのためあのドキュメンタリー・シリーズと内容は重複している。僕自身、あのシリーズでは「ガラス」、「冷たさ」、「清潔」、「光」の回を見ているので、この本にあまり目新しさは感じなかったが、内容自体は実のところかなりエキサイティングで、言ってみれば大学教養課程の「技術革新概論」というような内容である。買っても損はない良書だと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『いまに至る道 灯り(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『いまに至る道 ガラス(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『発明はいかに始まるか(本)』
竹林軒出張所『人類初飛行の光と影(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『電流戦争! エジソン VS テスラ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-02-21 07:14 |

『黄昏のビギンの物語』(本)

黄昏のビギンの物語
奇跡のジャパニーズ・スタンダードはいかにして生まれたか

佐藤剛著
小学館新書

「黄昏のビギン」にまつわるあれやこれや

b0189364_7501154.jpg 1990年代にちあきなおみが発表した「黄昏のビギン」は、今や日本のスタンダードとして歌い継がれているが、なぜそれが広く歌い継がれるようになったかという視点で、この歌の秘密、ひいては作者の中村八大にアプローチしようという試みの本である。
 「黄昏のビギン」は元々、水原弘のシングルレコード『黒い落葉』のB面に収録された曲で、表舞台では永らく演奏されることがなかったが、1991年にちあきなおみが発表したアルバム『すたんだーど・なんばー』にカバー曲として収録され、その後このちあきなおみ版がCMで流されるに至って広く認知されるようになり、それがさまざまな歌手にカバーされたことから徐々にスタンダード曲として定着し始めた。だが実際は、この曲、日本のスタンダードを作りたいと考えていた中村八大のもっともお気に入りの曲であり、キャバレーなどでも昔から歌い継がれていて、スタンダード曲になる素養は最初からあったというのが著者の主張である。
 内容は雑誌で発表されるような実に軽いものであるが、それなりに面白い話である。もっとも一冊の本にするには中身が少なすぎるためか、中村八大のバックグラウンドなどが非常に細かく記述されていて、むしろこちらがメインになっていると考えることもできる。
 「黄昏のビギン」については、個人的にはやはりちあきなおみのバージョンのできが良かったことと、その後のカバーブームがスタンダード化の原因ではないかと思っている。ちあきなおみ版は、ちあきなおみの歌唱と服部隆之の編曲が抜群で、元歌の魅力を150%アップしていると感じる。その後発表された数々のカバー版も聴いたが、大きく分けて、水原弘風とちあきなおみ風に分かれる。多くはちあきなおみの歌唱に似せたもので、こちらが標準になっていることがわかる。中森明菜、岩崎宏美薬師丸ひろ子由紀さおり小野リサなどがそうで、さだまさし長谷川きよしが水原弘風と言えるんじゃないかなと思う(井上陽水についてはその中間みたいな感じ)。ともかく今カバーCDが非常に多く、過去のいろいろな曲が頻繁にカバーされているという現状があり(『京都慕情』や『夢で逢えたら』もカバーがかなり多い)、それが著者の言う「スタンダード化」に繋がっているというのが僕なりの解釈である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ちあきなおみ ふたたび』
竹林軒出張所『「ちあきなおみ ふたたび」ふたたび』
竹林軒出張所『それぞれのテーブル』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 夏(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2017-02-20 07:51 |

『山猫』(映画)

山猫(1963年・伊仏)
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
原作:ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサ
脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ、パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ、エンリコ・メディオーリ、マッシモ・フランチオーザ、ルキノ・ヴィスコンティ
撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ
音楽:ニーノ・ロータ
出演:バート・ランカスター、アラン・ドロン、クラウディア・カルディナーレ、リナ・モレリ、パオロ・ストッパ、ジュリアーノ・ジェンマ

老貴族は死なず、ただ消え去るのみ

b0189364_1839212.jpg 全編3時間を越すルキノ・ヴィスコンティの大作。おそらく彼の最高傑作と呼んで良い映画。
 1960年、イタリアに革命が起こり、それに伴って旧来の貴族はかつてのような地位を保てなくなる。貴族である主人公、サリーナ公爵(バート・ランカスター)はその時代のうねりの中で自らの運命を悟っていく、というような話である。
 このような話であるためストーリー自体に大した起伏はなく、悠々と貴族の日常が流れていく。そしてそこで描かれるのが(おそらく)本物のイタリア貴族の日常であり、それは非常に豪奢でありながら、一方で無駄が多く、このような贅沢が許されて良いのかと思わされるような部分もある。元貴族ヴィスコンティが描く貴族の生活はリアリティに溢れ、そのリアルな生活を覗くことができるという意味でも十分価値のある作品である。
 この映画の圧巻はなんと言っても終盤1時間近く展開される舞踏会のシーンで、華やかでありながらある種のバカバカしさも感じさせる、なかなかユニークなシーンである。なんと言っても、主役の3人、バート・ランカスター、アラン・ドロン、クラウディア・カルディナーレの魅力が炸裂するのがこのシーンで、非常に見応えがある。
 映像も非常に凝ったものが次から次に現れ、泰西名画を見るような映像美が続く。家宝にしたい映画の1本である。
第16回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『若者のすべて(映画)』
竹林軒出張所『ルートヴィヒ(映画)』
竹林軒出張所『白夜(映画)』
by chikurinken | 2017-02-18 07:38 | 映画

『若者のすべて』(映画)

若者のすべて(1960年・伊仏)
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
原作:ジョヴァンニ・テストーリ
脚本:ルキノ・ヴィスコンティ、スーゾ・チェッキ・ダミーコ、パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ、マッシモ・フランチオーザ、エンリコ・メディオーリ
撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ
音楽:ニーノ・ロータ
出演:アラン・ドロン、アニー・ジラルド、レナート・サルヴァトーリ、クラウディア・カルディナーレ、カティーナ・パクシヌー

b0189364_1844851.jpg人間の性が悲しい

 長男を頼って南イタリアから大都市ミラノへ出てきた母親と4人の息子たちの物語。
 ミラノでは貧しい生活が続くが、やがてそれぞれ都市生活に慣れていって、堅気の職を得る者、プロボクサーになる者など出てくるが、道を踏み外す者が出てきて、それがために家族の試練が続くという、いかにもネオリアリズモ的なストーリー。
 モノクロ映像が非常に美しく、全編重厚な印象で貫かれる格調高い作品である。家族の中に不義理な者が出てくるという普遍性の高いテーマを扱っており、途中見続けるのがつらくなる。こういう点もいかにもネオリアリズモ的ではあるが、しかしこの映画は、イタリア・ネオリアリズモ映画の中でも最高レベルに到達した1本で、映画の魅力が凝縮されていると言ってよい。俳優達も皆魅力的で、どの役者にとっても代表作と言えるのではないか。特にアラン・ドロンとクラウディア・カルディナーレには目を瞠る。
 人間の性(さが)の悲しさにうちひしがれながらも、最後まで目を離すことができない、そういう類の非常に立派な映画である。この映画を見るのは今回で二度目だが(前に見たのは30年ぐらい前)、あらためてこの作品の魅力がわかった。非常に良い映画で、ヴィスコンティの代表作と言って良い。
1960年ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『山猫(映画)』
竹林軒出張所『ルートヴィヒ(映画)』
竹林軒出張所『白夜(映画)』

--------------------------

 以下、以前のブログで紹介した、同じヴィスコンティ監督のネオリアリズモ映画『郵便配達は二度ベルを鳴らす』のレビュー記事。

(2006年12月7日の記事より)

b0189364_18442511.jpg郵便配達は二度ベルを鳴らす(1942年・伊)
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
原作:ジェームズ・M・ケイン
出演:マッシモ・ジロッティ、クララ・カラマーイ、フアン・デ・ランダ、エリオ・マルクッツォ

 見るのは二度目だが、内容をほとんど憶えていなかった。なにせ前回はヴィスコンティ3本立ての最後の1本だったので、見る前からすでに疲れ果てているという有様だった。
 前回は、遅い展開にいらついたという印象があるのだが、今回はそういうことはあまり感じなかった。前回よりも濃密な印象を受けたためか。以降のヴィスコンティ映画とは少し様相が異なり、どちらかというとネオリアリズモ風である。こういった男女の愛憎劇もなかなか面白い。
 主役の男はなかなかいい男だった。さすがはヴィスコンティ。
★★★☆
by chikurinken | 2017-02-17 07:13 | 映画

『ルートヴィヒ』(映画)

ルートヴィヒ(1972年・伊独仏)
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
脚本:ルキノ・ヴィスコンティ、エンリコ・メディオーリ、スーゾ・チェッキ・ダミーコ
音楽:フランコ・マンニーノ
出演:ヘルムート・バーガー、ロミー・シュナイダー、トレヴァー・ハワード、シルヴァーナ・マンガーノ、アドリアーナ・アスティ

b0189364_19512080.jpgヘルムート・バーガーの魅力

 バイエルン国王「狂王」ルートヴィヒ2世の半生を描く映画。ヴィスコンティが監督しているだけに映像は絢爛豪華で、随所にワーグナーの音楽が流れる。
 ルートヴィヒ2世は、ドイツ帝国成立直前の1864年にバイエルン王国(後にドイツ帝国に編入)の国王になったが、ワーグナーを庇護したり城の建設に没頭したりして国費を浪費し、そのためもあってか最終的に「発狂した」とされて廃位される。この映画でも「発狂」の事実は廃位のための口実であるとされている。一方でワーグナーの音楽に没頭する姿も描かれ、王の美意識の高さが随所に表現される。
 ルートヴィヒが憧れるオーストリア王妃、エリーザベトを「シシー」女優、ロミー・シュナイダーが演じ(竹林軒出張所『プリンセス・シシー(映画)』を参照)好演。また、ルートヴィヒ2世を演じた主演のヘルムート・バーガーの魅力が光る。ヴィスコンティの愛人だったせいか、ヴィスコンティの映画(『地獄に堕ちた勇者ども』、『ルートヴィヒ』、『家族の肖像』)でのヘルムート・バーガーは、どの映画でも異彩を放っている。中でもこの映画はその最たるもので、まさにヘルムート・バーガーとヴィスコンティの映画である。
 この映画は過去、京都と銀座の劇場で見ており、銀座の劇場では途中から最後まで1時間半以上眠っていた。さすがに上映中1時間以上眠った映画は後にも先にもこの映画をおいてないが、とにかく長時間眠ってしまうようなゆったりと流れる映画である。今回見たのは復元完全版ということで4時間のバージョンであったが、4時間連続で見るのは劇場でない限り僕には無理ということで、3部くらいに区切って見た。おかげで途中も眠くならず最後まで見ることができたが、4時間連続で見続けさせられるということになるとやはり苦痛だと思う。「完全版」などというものはビデオ時代の産物であるということを痛感する。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『プリンセス・シシー(映画)』
竹林軒出張所『若き皇后 シシー、シシー ある皇后の運命の歳月(映画)』
竹林軒出張所『山猫(映画)』
竹林軒出張所『若者のすべて(映画)』
竹林軒出張所『白夜(映画)』
by chikurinken | 2017-02-16 06:50 | 映画