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竹林軒出張所

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2016年ベスト

 今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)

b0189364_22315356.jpg今年見た映画ベスト3(43本)
1. 『素晴らしき哉、人生!』
2. 『ガス燈』
3. 『ハムレット』

 今年は個人的にいろいろあったため、映画もドラマも少なめで選択肢自体が少ない。映画のベストは古い名画ばかりで、「ベスト」とするには面白味がないかも知れない。ただ映画については特にここ数年個人的に古典指向であるため、こういうラインナップになったのも当然と言えば当然なのかも知れない。
 『素晴らしき哉、人生!』は、アメリカ的な非常に理想主義的というか楽天的というか脳天気というか、そういう映画であるが、善意や正義感に溢れていて気持ちの良い映画である。SF的な要素もあり、スリリングな展開もありで、なおかつ心温まる映画である。
 『ガス燈』は、打って変わって人の悪意に溢れたサスペンス映画で、全編非常にスリリング。イングリッド・バーグマン、シャルル・ボワイエ、ジョセフ・コットンらの演技も光る。
 『ハムレット』は、シェークスピアの有名な戯曲を映画化したものだが、シェークスピア劇の魅力を存分に伝える見事な映画化が光る。さすがに舞台人のローレンス・オリヴィエが手がけた映画と感じる。

今年見たドラマ・ベスト3(23本)
1. 『日曜劇場 ああ!新世界』
2. 『日曜劇場 ひとり』
3. 『星ひとつの夜』

b0189364_9384248.jpg 今年は倉本聰の日曜劇場がCS(日本映画専門チャンネル)で大量に放送されたため、今年見たドラマの半分が倉本版日曜劇場になった。新作ドラマは一部話題作もあったが、どれもパッとせず、ドラマとしてはグレードが低い。『漱石悶々』はデキは良かったが、それでも全盛期の倉本ドラマには及ばない。倉本作品の中でも『ああ!新世界』と『ひとり』は、どちらも同じような回想形式のドラマだが、主人公の心情があふれ出ていて、小品ではあるが非常にレベルが高い。埋もれさせておくのがもったいない作品で、どうしてこれまであまり再放送されていなかったのか不思議なくらいである(僕の知る限りでは再放送は皆無である)。今回それを発掘してまとめて放送した日本映画専門チャンネルの見識の高さには頭が下がる。(電波を独占している)他の大放送局にも見習ってほしいものである。
 『星ひとつの夜』も同じチャンネルで放送された山田太一作品で、完成度が非常に高く、山田作品らしいセリフの面白さ、キャストの面白さが随所にあふれる名品である。新しいドラマもこういうドラマの水準に少しでも近づいてほしいと思うが、残念ながら年々レベルが落ちているような気がしている。

今年読んだ本ベスト5(64冊)
1. 『成人病の真実』
2. 『大往生したけりゃ医療とかかわるな』
3. 『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法』
4. 『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年』
5. 『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔』
番外. 『三国志』

b0189364_21275820.jpg 今年は個人的な事情から医療関係の本を多く読むことになった。中でも近藤誠の本はどれも素晴らしいものだった。視点が新しい上、どれも説得力があり、しかも読みやすい。ほとんどハズレがないと言って良い。中でも『成人病の真実』は、目からウロコの事実が目白押しで、近藤誠の著書の中でもピカイチと言って良いんじゃないかと思う。この本で紹介されている事実は、少なくとも成人病検診を受けるすべての日本人が知っておくべきことである。残念ながら、ほとんどの日本人はまったく知らないまま、無駄で有害な検診を受け続けている。そこのあなた、是非、この本をお読みください! 同じ著者の『日本は世界一の「医療被曝」大国』も非常に面白かった。
 『大往生したけりゃ医療とかかわるな』もなかなか痛烈な医療本。著者の中村仁一も近藤誠と非常に近い考え方をする人で、医学界では異端である。しかし彼の主張もきわめて明解ではなはだユニーク。死について考えることで生を見つめ直すという態度に大きな共感を覚える。
 『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法』は、石川英輔の大江戸シリーズの1冊。石川英輔の大江戸シリーズはその初期から読み続けており、もはや僕にとっては珍しくないかと思っていたが、まだまだ江戸ネタは出てくる。江戸の伝統が測定単位という形で現代にも生きていて、伝統的な測定単位に意外な合理性があるということもよくわかる。江戸時代はまったく侮りがたいということが身にしみる。ここでは取り上げなかったが、同じ著者の『実見 江戸の暮らし』も非常に面白い本で、特に江戸の時刻と貨幣について非常に勉強になった。
b0189364_8122249.jpg 『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年』は山田太一のエッセイだが、著者の自作に関する見方が、種明かし的で面白いだけでなく、テレビ創生期の有り様というものも伝わってくる。この時代を経験した人間にしか書けないことが多数紹介されて非常に新鮮である。
 『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔』は、映画『A』の撮影過程を書いた本で、映画と重なる部分も多いが、撮影側の心の葛藤まで描かれていて、映画以上にいろいろ考えさせられる。ただし映画を見てから読んだ方が一層面白かったのではないかとは思う。映画『A』を当面見ることができないのではないかと思って(実際『A』はなかなか出回っていない)本を先に読んだんだが、あに図らんや意外にも身近な図書館にあって見ることができたのは今考えると良かったのか悪かったのかよくわからない(良かったんだろうけど)。
 番外は、今年全編読み切った横山光輝のマンガ版『三国志』。今さら評価するようなものでもないし、大変な労作であることは疑いない。前にも書いたが「日本遺産」と呼んでも良いほどの作品である。

今年見たドキュメンタリー・ベスト5(88本)
1. 『ワイルドジャパン 魔法にかけられた島々』
2. 『日本人は何をめざしてきたのか (6)』
3. 『武器ではなく命の水を』
4. 『新・映像の世紀 第4集』
5. 『パナマ文書 “史上最大のリーク” 追跡の記録』

b0189364_738498.jpg 今年も、見たドキュメンタリーは比較的多かった。何を選ぶかいろいろ悩むくらいだが、なかなか良いラインナップではないかと自負している。
 『ワイルドジャパン 魔法にかけられた島々』は、BBCが製作した自然ドキュメンタリーで、日本の自然が題材になっている。そのため割とよく見かける映像が多いが、少し引いた位置からあらためて見てみると、日本の自然はかなり面白い。人間と動物との関係もユニークである。そういう部分には普段はなかなか気が付かないが、日本の自然美も含めて、こういう風にあらためて提示されると、意外な発見があって面白い。見せ方も非常にうまく、これが見られたのは収穫だったと思わせる1本。
 『日本人は何をめざしてきたのか (6)』は、日本の障害者福祉の戦後史を紹介するETV特集である。このシリーズは、さまざまな視点から戦後史を切り取るもので、女性環境の視点で作られたものも非常に面白かったが、この障害者福祉史は特に考えさせられる部分が多かった。高度成長期の、一般人の障害者に対する差別的な姿勢にも驚かされたほどで、それを考えると日本での社会的弱者に対する感覚も少しずつではあるが改善しているのかと感じたのだった。
b0189364_8401646.jpg 『武器ではなく命の水を』は、アフガニスタンで活動する医師、中村哲の来し方を紹介するETV特集。ちょっとした劇映画みたいな話で非常に感動的である。
 『新・映像の世紀 第4集』は、昨年から今年にかけて放送された『新・映像の世紀』シリーズの1本で、戦後冷戦期に米ソ政府が何をしてきたかが明らかにされていて、このシリーズの中では出色であった。同じシリーズの第6集もよくできた1本で、タイトルの「新・映像の世紀」が何を意味するかがよくわかる、1本主張が通ったドキュメンタリーだった。
 『パナマ文書 “史上最大のリーク” 追跡の記録』は、タックスヘイブンの現状を赤裸々に伝える告発ドキュメンタリー。ペーパーカンパニーの簡単な作り方まで紹介されていて、タックスヘイブンを取り巻く状況がよくわかる、実に明解なドキュメンタリーである。
 他にも、『人種隔離バスへの抵抗』『暴かれる王国 サウジアラビア』などが秀作で大変勉強になった。また『もうひとつのショパンコンクール』も非常にユニークなドキュメンタリーで、もしかしたらNHK、これからシリーズ化するのかという予感がある。いずれにしても今年のドキュメンタリーは非常に豊作であった。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
竹林軒出張所『2012年ベスト』
竹林軒出張所『2013年ベスト』
竹林軒出張所『2014年ベスト』
竹林軒出張所『2015年ベスト』
by chikurinken | 2016-12-31 09:02 | ベスト

『レナードの朝』(映画)

レナードの朝(1990年・米)
監督:ペニー・マーシャル
原作:オリヴァー・サックス
脚本:スティーヴン・ザイリアン
出演:ロビン・ウィリアムズ、ロバート・デ・ニーロ、ジュリー・カヴナー、ルース・ネルソン、ジョン・ハード、ペネロープ・アン・ミラー、デクスター・ゴードン

ハリウッド映画の良い部分が出た映画

b0189364_952459.jpg 実話を基に再構築した映画。セイヤー(ロビン・ウィリアムズ)という医師が赴任した精神病院で、脳炎の後遺症のために寝たきりで周囲の刺激に対する反応がなくなっている患者、レナード(ロバート・デ・ニーロ)に対して、パーキンソン病の治療薬を投与して人格を取り戻そうとするというストーリー。
 非常にわかりやすく、エンタテインメント的な起伏も感動もあって、しかもテンポが非常に良いというハリウッド映画の良い部分が存分に発揮されている映画である。何より主演の2人の芸達者ぶりが目を引き、そのためもあって非常に質の高い映画に仕上がっている。中でもロバート・デ・ニーロの演技には凄みを感じる(今さらながらではあるが)。
 実話が基になってはいるが、実際には本当の話と大分異なるあくまで「フィクション」の映画ということで、すべてが実話と考えるのは無理があるらしい。ただ、そのあたりを割り切って思い切りよく脚色しているせいか、感動的な要素も十分盛り込まれており、しかも医師の人生、患者の人生、患者の家族の人生などが適度に絡んでストーリーに厚みを出している。もっともこの話が事実でないのなら感動も半減することになるが、それはそれとして楽しんだら良い。
 ジャズのサックス奏者、デクスター・ゴードンが患者役として登場していたのが新鮮な驚きではあったが、よくよく考えるとこの人、映画『ラウンド・ミッドナイト』で主役をはったりもしているんで、役者としてど素人というわけではないのだった。映画の中ではピアノを披露しているが、エキストラのような立ち位置でセリフはほとんどない。なお、デクスター・ゴードン、この映画の撮影直後に亡くなっている。この映画が遺作ということになる。
第63回アカデミー賞作品賞、主演男優賞、脚色賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『いまを生きる(映画)』
竹林軒出張所『ディア・ハンター(映画)』
by chikurinken | 2016-12-29 09:53 | 映画

『アルゲリッチ 私こそ、音楽』(映画)

アルゲリッチ 私こそ、音楽(2012年・仏スイス)
監督:ステファニー・アルゲリッチ
撮影:ステファニー・アルゲリッチ、リュック・ピーター
出演:(ドキュメンタリー)マルタ・アルゲリッチ、シャルル・デュトワ、スティーヴン・コヴァセヴィチ

アルゲリッチの母の顔とピアニストの顔

b0189364_8352031.jpg ピアニストのマルタ・アルゲリッチを捉えたドキュメンタリー。監督と撮影はマルタの三女、ステファニーであるため、ホームビデオの延長みたいな映像ではあるが、マルタ・アルゲリッチがマスコミ嫌いである(と言われている)ことを考えると、このような身近な映像が公開されるのは貴重であるとも言える。
 演奏会、演奏旅行、あるいはプライベートなシーンが現れ、同時にアルゲリッチの来し方、親子関係なども率直に語られる。2回の結婚と離婚、長女と同居したことがなかったこと、元夫たちとの関係など、微に入り細を穿つというと誇張しすぎだが、かなり細かくプライバシーが語られ、アルゲリッチの素顔が見えてくる。一説には頑固な変人というふうに伝えられている彼女だが、こうして映像を通して見ると、割合普通の人で、特に奇妙な点はない。子どもたちにも優しく接しているし、周囲の人にも概ね丁重に対応している。(おそらく別府での)演奏会直前に、演奏したくないとごねだしたこと以外(ステファニーによるといつものことのようだ)、まったくおかしな点はない。
 このドキュメンタリーでは、確かにアルゲリッチの人となりや半生が表現されてはいるが、それでもホームビデオを見せられているかのような退屈さというのが常についてまわる。90分少しの映画ではあるが、クラシック音楽好き以外にはちょっと厳しいかも知れない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『マエストロ・オザワ 80歳コンサート(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カルロス・クライバーのドキュメンタリー2本』
竹林軒出張所『カラヤン 〜ザ・セカンド・ライフ〜(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-12-28 08:36 | 映画

『マダムと泥棒』(映画)

マダムと泥棒(1955年・英)
監督:アレクサンダー・マッケンドリック
脚本:ウィリアム・ローズ
出演:アレック・ギネス、ケティ・ジョンソン、ピーター・セラーズ、セシル・パーカー、ダニー・グリーン

アレック・ギネスとピーター・セラーズの出世作

b0189364_18351730.jpg 英国のイーリング撮影所で撮られた「コメディ」映画。ややブラックであまり笑えないが、あちこちに皮肉を効かせた映画である。
 現金輸送車を狙う強盗団が、ある一人暮らしの老婆の家に下宿するところから話が始まる。この下宿先を強盗のためのアジトとして使おうという魂胆で、しかもこの強盗団のリーダーは、この老婆も巻き込んで(利用して)仕事を完遂させようとするというストーリー。かなり作り込まれたストーリーで、凝りまくった舞台劇みたいな印象である。
 キャストには、後に『戦場にかける橋』で名前を馳せるアレック・ギネスの他、『博士の異常な愛情』や『ピンク・パンサー』のピーター・セラーズまで端役で参加していたりして、今見るとなかなか興味深い。
 よくできた面白い映画ではあるが、見方を変えると、小さくまとまった作品とも言え、いささか古さも感じさせる。タイトルは邦画『マダムと女房』(国産初トーキー作品)を意識したものだと思うが、ストーリーをきちんと反映しているんで、うまい命名と言って良かろう。原題の『Lady Killers』(元々は「女たらし」の意)も面白いタイトルである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『博士の異常な愛情(映画)』
竹林軒出張所『ロリータ(映画)』
by chikurinken | 2016-12-27 06:34 | 映画

『ワーテルロー』(映画)

ワーテルロー(1969年・伊ソ)
監督:セルゲイ・ボンダルチュク
脚本:セルゲイ・ボンダルチュク、H・A・L・クレイグ、ヴィットリオ・ボニチェリ
音楽:ニーノ・ロータ
出演:ロッド・スタイガー、クリストファー・プラマー、オーソン・ウェルズ、ジャック・ホーキンス

b0189364_812613.jpg再現ドラマで終始した

 一度は失脚したフランス皇帝ナポレオンが、エルバ島から脱出して再び皇帝の座に付き再び連合国に戦いを挑んだのが、世に言う「ワーテルローの戦い」である。結果は、劣勢だったイギリス軍にプロイセン軍が合流したことで戦局が変わり、結果的にフランス軍が大敗するというもので、その後ナポレオンはセントヘレナ島に流されてそこで一生を終える。
 映画では、ナポレオンが退位しエルバ島に流されるところから話が始まる。その後、ダイジェスト的に話が進んで、ハイライトであるワーテルローの戦いになだれ込むという流れである。全体的にダイジェスト風に話が進められるため、人物像がなかなか伝わりにくく、しかも演技は大ぶりときていて、あまり見るべき部分はない。再現ドラマというレベルを超えておらず、見続けるのがかなり苦痛である。また(ナポレオンとウェリントン以外の)登場人物の区別がまったく付かず、誰が誰だかわからない上、戦場でもどれがフランス軍でどれがイギリス軍かも分からず、一大スペクタクルでワーテルローの戦いが描かれるにもかかわらず、なんだかよく分からない。予備知識があればいざ知らず、戦況がどういう風に進んでいったかもあまり掴めないという有様で、茫洋としたまま終戦、もとい終映を迎えたのだった。
 歴史的な事件が映画で再現されると、マクロ的でしかなかった出来事にミクロ的な視点が加わって、そういう部分が歴史映画の醍醐味で、この映画でもナポレオンが1人の人間として登場し、周りの人間と関わっていく様子がよく分かる。そういう部分は確かに良いんだが、なんだかナポレオンがやたら怒ってばかりで、あまり魅力が伝わってこない。そのためなぜ彼がそれまで成功していたか、なぜ人々に受け入れられてきたかがよく見えてこない。人物像が伝わりにくいというのはこういうことで、ウェリントンにしてもやけに楽観的でリアリティが感じられない。総じて作り物にしか見えない映画に成り下がってしまったのは残念な部分である。相当数のエキストラを動員し、それなりのスケール感を実現しているのは確かだが、面白味がないのは、映画として致命的である。見ていて非常に眠い映画だった。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『カラマーゾフの兄弟(映画)』
by chikurinken | 2016-12-26 08:12 | 映画

『日曜劇場 幻の町』(ドラマ)

日曜劇場 幻の町(1976年・北海道放送)
演出:守分寿男
脚本:倉本聰
出演:笠智衆、田中絹代、桃井かおり、北島三郎、室田日出男

b0189364_8315139.jpg「幻」尽くしのドラマ

 東芝日曜劇場1000回記念ドラマで、同時に評価も高いある意味「幻」のドラマである。田中絹代にとっても最後の主演作で、本人がこの脚本をいたく気に入って、出演に消極的な笠智衆を自ら説得したというエピソードもある。
 戦前樺太の真岡という都市に住んでいた老夫婦(笠智衆、田中絹代)が、記憶を頼りに真岡の地図を作ることをライフワークにしていて、その地図を完成させるため、かつて樺太在住だった知人を訪ね歩く旅をしているという、かなりユニークな背景を持つストーリーである。老夫婦は、小樽にかつての知人の話を聞きにやって来たが、その知人はすでに亡くなり、その肉親の若い女性(桃井かおり)にそのあたりの事情を聞くというシーンから話が動き出す。老夫婦の過去や、若い女性の今の生活、それぞれの思いが絡み合い1本のドラマになるという寸法である。
b0189364_8321636.jpg 老夫婦の人生がテーマなんだろうが、老夫婦がキスするなど話がちょっと妙な方向に進んで、このあたりからあまり共感できなくなっていった。むしろ小樽の若いカップル(桃井かおりと北島三郎)のエピソードの方が、ちょっと『前略おふくろ様』を連想させるようなもので、リアルで面白かった。旅をする老人が若いカップルと関わり合うドラマといえば、山田太一の『冬構え』を思い出すが、テーマのリアルさという点では『冬構え』に軍配が上がる。この『幻の町』は、詩的なというか抽象的な方向に流れすぎて、なんだか訳がわからなくなってくる。ちょっと「幻」みたいなストーリーになっているのは作者の意図だかどうだかわからないが、世評は高くとも、どちらかと言うと(倉本作品にありがちな)やり過ぎで企画倒れの部類に入るドラマのような気がする。
第31回芸術祭優秀賞、1976年度芸術選奨文部大臣賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 りんりんと(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ばんえい(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 風船のあがる時(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 田園交響楽(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 聖夜(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 時計(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 うちのホンカン(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遅れてきたサンタ(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 スパイスの秋(ドラマ)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『前略おふくろ様(1)〜(26)(ドラマ)』
竹林軒出張所『冬構え(ドラマ)』
by chikurinken | 2016-12-24 08:33 | ドラマ

『日曜劇場 りんりんと』(ドラマ)

日曜劇場 りんりんと(1974年・北海道放送)
演出:守分寿男
脚本:倉本聰
音楽:冨田勲
出演:田中絹代、渡瀬恒彦、原知佐子、黒木進、大滝秀治

b0189364_847113.jpg現代版楢山節考

 倉本聰脚本、北海道放送製作の日曜劇場。
 東京で同居していた(と思われる)老いた母(田中絹代)をフェリーで北海道の老人ホームに送り届ける息子(渡瀬恒彦)の話。母は、少しばかり認知症の症状も出ているようだが、基本的にこの息子、およびその兄弟姉妹は母を老人ホームに入れることには反対で、ずっと同居したいと思っている。ただ母の方が自ら知り合いの老人ホームへの入居を勝手に決めたため、しようがなく母を送ることになったという設定である。
 こういうストーリーから容易に『楢山節考』との類似点が思い付くが、テーマもほぼ一緒で、年老いた親を持つ身としてはものすごく身につまされる。
 この作品を書いた頃は倉本聰自身も若く、主人公の方に近いし、また母親に対して似たような経験を持っているという話なので、あくまでも親を送る側の視点だが、老いに対して非常に厳しい見方をしていると言える。たとえば母親が息子に「私が生きていて良いの?」などとサラリと言うセリフなど、これはやはり子供側の視点としか思えない。子供側にとっては、言われると恐ろしいリアリティのあるセリフかも知れないが、老人側にとっては、思考がそういう方向に行くことは(自分自身が年を取ってきた今となっては)あり得ないように思える。このあたりは山田太一が書いた「老い」三部作(竹林軒出張所『冬構え(ドラマ)』を参照)と同様、老いに対して見方がシビアすぎるように感じる。まだまだ自らの老いを現実的に捉えていない者の見方であるように思う。もちろんだからと言って作品の価値を損なうことはなく、特に送る側のいろいろな思いが濃密に表現されていて、そのあたりは共感できる部分である。このドラマも佳作と言って良い。
 音楽は冨田勲で、『田園交響楽』と同じく、『惑星』風のシンセサイザーを駆使していて、効果を上げている。序盤のシーンは、セリフもなく周囲の雑音だけが流れる(少々うるさく感じるが)というなかなか斬新な音使いも見られる。小野武彦が黒木進という役で登場しているのも別の見所かな(細かったため、気が付かなかったけど)。なおタイトルの「りんりんと」は、三好達治の「乳母車」という詩の一節「轔々と私の乳母車を押せ」から取ったもの(ドラマの冒頭で紹介される)。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『冬構え(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 田園交響楽(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 幻の町(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ばんえい(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 風船のあがる時(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 時計(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 聖夜(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 うちのホンカン(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遅れてきたサンタ(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 スパイスの秋(ドラマ)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-12-23 08:47 | ドラマ

『日曜劇場 田園交響楽』(ドラマ)

日曜劇場 田園交響楽(1972年・北海道放送)
演出:守分寿男
原作:アンドレ・ジッド
脚本:倉本聰
音楽:冨田勲
出演:木村功、仁科明子、山本亘、久我美子、下条正巳

音楽が特に目を引くドラマ

b0189364_853117.jpg アンドレ・ジッドの『田園交響楽』を翻案したドラマらしい。『田園交響楽』自体読んだことがないのでよく分からないが、原作にかなり近い話のようだ。
 盲目の少女(仁科明子)が手術を受けて、視力を取り戻すところから話が始まる。彼女の育ての親である牧師(木村功)と妻(久我美子)、息子(山本亘)は、視力を回復した少女を温かく迎えるはずだったが、牧師が少女に抱いていた恋愛感情が視力回復をきっかけとして家族の間で明らかになったため、嫉妬やなんやかんやで家族の間にややこしい問題が起こるというストーリー。
 ストーリー自体はやや大げさで芝居がかっていて、個人的にはあまり好みではないが、1時間ドラマとして考えるとなかなか意欲的な作品ではある。音楽は冨田勲が担当しており、後の同氏の作品『シンセサイザー 惑星』を思わせるようなシンセサイザー音楽が随所に散りばめられていて、こちらも非常に意欲的である。当時冨田はシンセサイザーを購入したばかりで、(このドラマの製作年である)1972年という年はおそらく実際に音楽製作にシンセサイザーを使用できるようになって間もない頃ではないかと思う。冨田勲がシンセサイザー音楽の第一人者であり、彼のごく初期のシンセサイザー作品が使用されたドラマであることを考えると、このドラマは現代音楽史の視点から見ても貴重である。また他に岡林信康の「私たちの望むものは」が随所に流されていて、こちらも目を引く。地味だが、あちこちに見所があるドラマである。ただしやはりストーリー展開は作りすぎの感じがして、あまりいただけない。もっともこれは原作に由来するもののようだが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ナマ冨田勲が出た!』
竹林軒出張所『日曜劇場 りんりんと(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 幻の町(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ばんえい(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 風船のあがる時(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 時計(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 聖夜(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 うちのホンカン(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遅れてきたサンタ(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 スパイスの秋(ドラマ)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-12-22 08:07 | ドラマ

『日曜劇場 ばんえい』(ドラマ)

日曜劇場 ばんえい(1973年・北海道放送)
演出:守分寿男
脚本:倉本聰
音楽:冨田勲
出演:小林桂樹、八千草薫、大滝秀治、中村たつ、中村まなぶ

回想を交えた、とある1日の風景

b0189364_737874.jpg タイトルの「ばんえい」とは、輓曳競馬(サラブレッドではない作業馬が1トン近くの荷橇をひいて、砂地の直線200メートルを走る、北海道独特の競馬)を表す。年老いた作業馬が若い馬たちと競って走る姿に主人公の中年男(小林桂樹)が自身を投影するなど、これがドラマの重要なモチーフとして活用されている。
 主人公は、役所勤めを長年続ける不器用な男で、家庭をないがしろにすることや家族に当たり散らすことを家族から暗に責められ、しかもその後高校生の息子に組み敷かれて、その上妻(八千草薫)に助けてもらうという(本人にとって屈辱的な)経験をして自身の衰えを感じるようになる。その一方で自分の来し方にそれなりの思い入れがあり、それを簡単にないがしろにすることはできない。「まだまだ俺だって」という気持ちが強いのである。そんな男のある1日の話がこのドラマのストーリーで、役所をずる休みして妻と輓曳競馬を見に行くというのがストーリーの柱になる。例によって間にさまざまな回想が挿入されるという、倉本日曜劇場の常套手段が使われる。テーマが明瞭であり、これも佳作と言って良い。
 出演は小林桂樹、八千草薫の他、倉本作品常連の大滝秀治が登場。息子役は中村まなぶという少年である。この少年であるが、どこかで見た顔だと思っていたら、後の中村梅雀であることが判明した。道理でね。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 りんりんと(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 幻の町(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 風船のあがる時(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 田園交響楽(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 時計(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 聖夜(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 うちのホンカン(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遅れてきたサンタ(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 スパイスの秋(ドラマ)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-12-21 07:37 | ドラマ

『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部』(ドラマ)

日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(1979年・北海道放送)
演出:守分寿男
脚本:倉本聰
出演:八千草薫、池部良、下元勉、桜むつ子、大竹しのぶ、佐々木すみ江、三田村邦彦

女は無神経な言葉で男を傷つける

b0189364_18334371.jpg アラスカのアンカレッジに住んでいる中年女性、サエコ(八千草薫)が、アンカレッジ空港でかつての恋人、ゴロウ(池辺良)を見かけ、それをきっかけに再び交流が始まるというストーリー。ただの恋愛ドラマかと思っていたら、2人の過去に確執があったという話。
 第一部、第二部の二部構成になっていて両方合わせると2時間枠になるため、ちょっとした映画と考えることもできる。第一部はほとんどアンカレッジが舞台、第二部はほとんど小樽が舞台になるなど、同じ倉本作品の『ライスカレー』を思わせるような構成である。
 第二部では舞台が小樽に移り、ゴロウがサエコに傷つけられた過去が明らかになる。同時にゴロウの娘(大竹しのぶ)と恋人との関係にも似たような関係性が出てきて、つまるところ女の気安い無神経な言葉がどれほど男を傷つけるかというテーマ(だと思う)に収束していくという仕掛けである。他にも仕事仕事で家族を顧みない、しかも上司の目ばかりを気にする当時の日本人サラリーマンの姿があぶり出されたりもする。
 かつてのメロドラマにつきもののすれ違いもあちこちにあって、恋愛ドラマとしてもそれなりによくできている。バックに流れるブラームスの交響曲3番第3楽章(映画『さよならをもう一度』で使用されたもの)も雰囲気を盛り上げている。偶然に頼り過ぎているのがドラマとしては少々難。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 聖夜(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 りんりんと(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 幻の町(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ばんえい(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 風船のあがる時(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 田園交響楽(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 時計(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 うちのホンカン(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遅れてきたサンタ(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 スパイスの秋(ドラマ)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-12-20 06:32 | ドラマ