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竹林軒出張所

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『日曜劇場 遅れてきたサンタ』(ドラマ)

日曜劇場 遅れてきたサンタ(1984年・北海道放送)
演出:長沼修
脚本:倉本聰
出演:いしだあゆみ、平田満、三木のり平、秋元博行

84年の水準から行くと並のドラマ

b0189364_217574.jpg 北海道放送製作、倉本聰作の日曜劇場作品。倉本作品の日曜劇場としては、最後期のドラマである。
 1984年と言えば、すでに『北の国から』で倉本聰ブームみたいなものが起こり、しかも『駅 station』みたいな重厚な映画も作った後で、倉本聰が一番調子が良かった時期である。そのせいか先日見た『スパイスの秋』と比べるとはるかにグレードが高い。『駅 station』を彷彿させるような北の飲み屋のシーンもある。
 北海道のとある貧しい漁師町に毎年12月24日に現れて子どもたちにプレゼントを配るサンタクロースの話を耳にした新聞記者(平田満)が、この話を新聞で公表したあたりから話が動いていく。この記事を通じてそのことを知ったテレビなどのマスコミがその町に殺到し、結果的にそのサンタクロースがその町に行くことができなくなるというようなストーリーである。
 ストーリーは割合自然に流れ、あまり作為的な部分を感じない。やはり絶頂期の作品である。ただし、途中少し澱むような部分(平田満と三木のり平が飲み屋で酔っ払うシーン)があって、そのあたりから流れが悪くなった。まるで『昨日、悲別で』の千秋実のシーンのようだった。また1時間ドラマだから仕方がないのかも知れないが、ドラマに膨らみがなく物足りない感じも残る。総じて、それなりに面白くはあるが、84年の倉本聰の水準から行くと並の部類のドラマである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 時計(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 りんりんと(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 幻の町(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ばんえい(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 風船のあがる時(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 田園交響楽(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 うちのホンカン(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 聖夜(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 スパイスの秋(ドラマ)』
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『前略おふくろ様(1)〜(26)(ドラマ)』
竹林軒出張所『前略おふくろ様II(1)〜(24)(ドラマ)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『昨日、悲別で (1)〜(13)(ドラマ)』
by chikurinken | 2016-11-29 06:58 | ドラマ

『日曜劇場 スパイスの秋』(ドラマ)

日曜劇場 スパイスの秋(1978年・北海道放送)
演出:長沼修
脚本:倉本聰
出演:大滝秀治、大空真弓、伊藤洋一、松井信子

作りすぎであざとさを感じる

b0189364_2312134.jpg 『東芝日曜劇場』で放送された倉本聰脚本のドラマ。70年代、倉本聰は北海道放送製作のドラマをたびたび書いているが、その後期の1本。その多くは『東芝日曜劇場』用の1時間ドラマで、『うちのホンカン』が代表作である。この頃、『勝海舟』降板問題で失意のまま北海道に移住した後で、当時北海道放送とよく仕事をしているのはその関係である。『前略おふくろ様』が75年作品だから、もうすでに名誉回復した後ではある。
 ドラマは、気象協会に勤める実直な男(大滝秀治)と、ハーブ愛好家にして「ハーブの会」の主宰の妻(大空真弓)、やけに大人びた彼らの子ども(伊藤洋一)の3人家族を軸に進められる。登場する俳優陣は素人みたいな人が多く、気象協会の同僚は多くが実際の北海道気象協会の人たちじゃないかと感じた。「ハーブの会」の奥様方も素人風である(本当の「ハーブの会」みたいな会のメンバーか)。子どもの伊藤洋一による小生意気なナレーションで話が進むが、そのナレーションも『北の国から』を彷彿とさせるようなもので、しかも子どもたちが妙に大人びているのも『北の国から』風。こういう部分に作為を感じてあまり楽しくない。
 ストーリーはさりげない日常風景に過ぎないが、エピソードの1つ1つに作りすぎの感がある。おそらく「当たらない天気予報で大衆に責められる気象官」と「自分で作った会の会長選挙で落選した前会長」というエピソードを軸に作ったドラマなんだろうが、ドラマを作り出すためにひねり出したストーリーという印象で、そのためもあり作為的な感じが至る部分に漂う。今回、過去の倉本作の日曜劇場が「日本映画専門チャンネル」で何本も放送されている(11月だけで10本以上)が、正直この程度のドラマだったら、ことさら見る必要はないと感じた。
 映像は、提供東芝のスーパーが入っていたため、もしかしたら放送時にどこかで録画されたものかも知れない。それを考えると非常に貴重な映像記録であるのは確かだが、内容がそれに伴っていないのは残念な点。他の数本も見てみるつもりだが(特に『ああ!新世界』、これは放送時に見てずっと印象に残っていたドラマなのだ)、この程度のグレードだったらあまり熱心に見る必要もないのかななどと感じてしまった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 時計(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 りんりんと(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 幻の町(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ばんえい(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 風船のあがる時(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 田園交響楽(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 うちのホンカン(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 聖夜(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遅れてきたサンタ(ドラマ)』
竹林軒出張所『前略おふくろ様(1)〜(26)(ドラマ)』
竹林軒出張所『前略おふくろ様II(1)〜(24)(ドラマ)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-11-27 07:11 | ドラマ

『やがて来る日のために』(ドラマ)

やがて来る日のために(2005年・フジテレビ)
演出:堀川とんこう
脚本:山田太一
出演:市原悦子、星野真里、井川比佐志、森下愛子、上野樹里、堺雅人、柄本明、吉田日出子、神山繁、中原ひとみ

家族っていろいろあるよねーと感じるドラマ

b0189364_20583368.jpg 訪問看護師が主人公で、さまざまな患者家族の人間模様を描くドラマ。
 このドラマで扱われる訪問対象の家族は3つで、余命短い18歳の女子(上野樹里)の家族、弁当屋の事業を初めて会社を大きくしたが末期の病に冒された女性経営者(吉田日出子)の家族(夫はかなり年下で子どもはない)、それから余命2カ月の夫とその妻の家族(神山繁と中原ひとみ)。どのエピソードも概ね想像の範囲内で特に目新しさは感じないが、しかしおそらく綿密に取材したであろうことは窺われ、どの話もリアリティがある。したがってそれぞれに考えさせられる部分がある。
 この時代の山田ドラマを見ていると、最近放送されている一般的な(なおかつ陳腐な)テレビドラマとの違いが明らかになってくる。早い話が最近のドラマの特徴として、取り上げるテーマが浅い上掘り下げ方も浅く、しかもありきたりの表現あるいは月並みな表現ばかりということが浮かび上がってくる。こういう点で非常にインスタントな印象を受けるわけだが、そういう事実が、質の高いドラマを見ると逆に照らし出されてくる。(この山田作品のような)優れたドラマに見受けられる真摯さや真面目さを欠いており、結果的に重厚さも欠くことになるのである。
 このドラマはと言えば、上記の3つのエピソード以外にも未婚の母や定年退職後の夫婦のあり方までサブプロットとして盛り込まれており、いろいろなテーマ、問いかけがてんこ盛りで非常に贅沢である。中でも一番印象に残ったのが、18歳の余命短いほぼ寝たきりの少女が自分の通っていた高校とその周辺を見たいと言い出すエピソードで、これはグッと来るものがあった。上野樹里の表情による演技が非常に良かったせいでもある。
 その気になれば(市原悦子の『家政婦』シリーズみたいに)シリーズ化できるようなモチーフではあるが、シリーズ化して陳腐化させないのも作り手の良心というものなのかも知れない。思いが伝わる良いドラマである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年(本)』
竹林軒出張所『星ひとつの夜(ドラマ)』
竹林軒出張所『この冬の恋(ドラマ)』
by chikurinken | 2016-11-25 06:57 | ドラマ

『この冬の恋』(ドラマ)

この冬の恋(2002年・フジテレビ)
演出:宮本理江子
脚本:山田太一
出演:田中美佐子、要潤、渡辺えり子、小林稔侍、平岩紙

田中美佐子が魅力的なドラマ

b0189364_21324818.jpg 2002年に放送された山田太一のドラマ。これも放送時に見ているが、恋愛ものでちょっと気恥ずかしいという印象がある。ただしストーリーはよく作り込まれており、ごく自然に流れていく。田中美佐子、要潤、小林稔侍が良い演技をしている(要潤を見たのはこのドラマが最初だった)。
 もう若くないというコンプレックスを持つ主人公の女性が、結果的に好きな男につらく当たってしまうんだが、この辺のやりとりは自然でドラマとしてはよくできたシーンである。ただ見ていて少し痛ましく、あまり良い気持ちはしなかった。ま、そういうのも含めてドラマである。周囲の人々が遠慮しながらもやたらお節介なのは山田作品らしい。ドラマについては、恋愛に終始しているという印象で、あまり山田作品らしい問いかけはなかった。
 演出は、山田太一の娘の宮本理江子で、親子共作ということになるが、どうやら共作はこれ1本きりのようだ。ときおりちょっと恥ずかしい演出が入るのは、当時のフジテレビのドラマらしい。田中美佐子が非常に魅力的に映っていたのも印象的で、38歳独身女性の役がすっかり板についていた(ちなみにこのドラマ当時すでに43歳)。彼女の代表作と言える1本なんじゃないかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年(本)』
竹林軒出張所『星ひとつの夜(ドラマ)』
竹林軒出張所『やがて来る日のために(ドラマ)』
by chikurinken | 2016-11-23 07:31 | ドラマ

『星ひとつの夜』(ドラマ)

b0189364_7213100.jpg星ひとつの夜(2007年・フジテレビ)
演出:田島大輔
脚本:山田太一
出演:渡辺謙、玉木宏、国仲涼子、井川比佐志、赤座美代子、笹野高史、福田沙紀、いしだあゆみ

映画を凌駕したドラマ

 放送時に見て「面白い」とは思ったが、今回見直してみて改めてその完成度の高さに驚いた。
 冒頭から自然にドラマの世界に誘導されて、そのままズッポリ嵌まり込んでしまった。登場人物が恐怖を感じればそれがそのまま伝わってくるし、焦燥感や屈辱感、緊張感も直に伝わってくる。展開が自然で、テーマもしっかりしている上、さまざまな問題提起もある。
 僕自身はなんとなく、2000年代から山田太一の筆力が衰えてきたんではないかと思っていたが、この作品については、有無を言わせないほどの絶品である。登場人物も魅力的で、ワケありの渡辺謙がやけに良い。これは前にも感じた記憶があるが、そのままデッサンしたくなるような良い顔をしている。笹野高史も相変わらず飄々として存在感を示している。渡辺謙が笹野に絡むシーンがまた秀逸で、このシーンは前に見たときからはっきり記憶していたため、今回も楽しみにしていたシーンではあったが、期待に違わず十分堪能できた。このシーンだけでもこのドラマを見る価値がある。
 テレビドラマではあるが、質的に映画のレベルを越えていて、簡単にドラマと切り捨ててしまうのはもったいない作品である。見終わった後も余韻が残る傑作で、脚本家の豪腕が輝きまくっている。シナリオの教科書に載せたいようなドラマである。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年(本)』
竹林軒出張所『この冬の恋(ドラマ)』
竹林軒出張所『やがて来る日のために(ドラマ)』
by chikurinken | 2016-11-21 07:02 | ドラマ

『ザ・ヤクザ』(映画)

ザ・ヤクザ(1974年・米)
監督:シドニー・ポラック
原作:レナード・シュレイダー
脚本:ポール・シュレイダー、ロバート・タウン
出演:ロバート・ミッチャム、高倉健、ブライアン・キース、岸恵子、ハーブ・エデルマン、岡田英次

b0189364_5404859.jpgハリウッド版昭和残侠伝

 東映ヤクザ映画がハリウッドに進出したような映画。高倉健がワルモンのところに1人で殴り込みに行こうとして、そこにもう一人の主人公が合流するという設定も、ロバート・ミッチャムを池辺良に置き換えたら『昭和残侠伝』になるわけで、面白いほど東映ヤクザ映画のパターンが踏襲されている。原作のレナード・シュレイダーは、日本の映画にも精通している(というより日本の映画人でもある)ために、意図的にこういうふうにしたんだろうと思われるが、しかし翻案の仕方については見事というほどよくできている。
 この映画のほとんどは日本が舞台であるが、この頃の他のハリウッド映画と違って、日本の描き方に奇天烈さはなく、日本の映画会社が製作した映画と言ってもまったく違和感はない。あちこちに過剰にオリエンタルな演出(バックに琴の音が鳴ったり……しかも五木の子守歌だったりして)もあるにはあるが、スタッフがきちんと取り組んでいるのが見えてくる。ただしストーリー自体は荒唐無稽でどこかご都合主義的である。その辺は東映ヤクザ映画と同じ。高倉健の派手な立ち回りが魅力的なのも共通で、そのあたりが見所である。
 なお高倉健の役名はタナカ・ケン、岸恵子の役名はエイコで、わかりやすいっちゃあわかりやすい。ただ高倉健や岸恵子をよく知っている人が見たら、健がケンで恵子がエイコなんで逆に相当違和感がある。
 見ていて気が付かなかったが「この木なんの木」(日立のCM)のヒデ夕樹がナイトクラブの歌手として出ていたらしい。もっとも元々顔を知らないんで、目にしたところで気が付かなかっただろうが。
★★★

参考:
竹林軒出張所『昭和残侠伝 唐獅子牡丹(映画)』
竹林軒出張所『昭和残侠伝 死んで貰います(映画)』
竹林軒出張所『冬の華(映画)』
竹林軒出張所『追悼 高倉健』
by chikurinken | 2016-11-19 05:41 | 映画

『中国女』(映画)

中国女(1967年・仏)
監督:ジャン=リュック・ゴダール
脚本:ジャン=リュック・ゴダール
出演:アンヌ・ヴィアゼムスキー、ジャン=ピエール・レオ、ジュリエット・ベルト、フランシス・ジャンソン

「ひたむきな12カ月」の間に撮られた映画

b0189364_21551373.jpg アンヌ・ヴィアゼムスキーが主演したゴダール作品。彼女の自伝小説がきっかけでこの映画を見た(竹林軒出張所『彼女のひたむきな12カ月(本)』を参照)。
 ゴダール作品らしく、わけのわからないカットがふんだんに出てきて、ストーリーもわかりにくいが、この映画については徐々に骨組みの部分が見えてくる。中華人民共和国の文化大革命にかぶれた女子学生(ヴィアゼムスキー)が主人公で、同志が集まって革命運動を起こそうとするという筋書きである。当時、フランスだけでなく日本でも同じような動きがあり、日本の場合は安田講堂攻防戦、連合赤軍事件というふうに進んでいったし、フランスでも1968年に五月革命と呼ばれる学生運動に発展した。この映画はそういう意味で当時の時代を反映していると言える。
 先述のヴィアゼムスキーの本によると、ゴダールは中国共産党のシンパで、この映画も中国本国での上映を目指して中国大使館で試写してもらったらしいが、この映画はむしろ逆に、ごっこ遊びのような学生運動、ひいては文化大革命を皮肉ったようなものに見える。事実、中国大使館からは、中国での上映などもってのほかと怒られたらしい。随所に毛沢東語録からの引用が出てくるが、結局のところ思考力を欠いた若者がお経を唱えているかのようにも映る。ゴダールの真意が何だったのか分からないが、本人の意図と違うものができてしまった可能性もある。だがそういう結果になったことで、この映画に普遍的な価値が生まれた(かも知れない)のは皮肉である。
 途中、ヴィアゼムスキーとフランスの哲学者フランシス・ジャンソンとの議論のシーンがあるが、先の本によるとこのシーンも多くはアドリブだったらしい。しかもヴィアゼムスキーは実際にジャンソンの個人授業を受けていて親しかったという関係である。また撮影に使われたアパルトマン(アパート)は、ヴィアゼムスキーとゴダールが実際に住んでいた部屋。このようにゴダールは、プライベートなあれやこれやを映画の中でいろいろと使っており、内輪受けみたいな要素も多いようだ。ゴダールの映画のわかりにくさというのはそのあたりから出てくるんじゃないかと思うが、それはヴィアゼムスキーの著作とこの映画を見比べるような作業をして初めてわかるわけだ。少なくともゴダール作品のセリフの1つ1つに大層な意味付けを行うような評論家的な見方は、的外れであることが明らかである。昔からゴダール作品というのはそういう扱いをされることが多いが、多くの一般の映画ファンが感じていたように、そういう批評は鈍感な人間の自慰的な所産に過ぎなかったわけだ。(すべてのとは言わないが)観客が見て分からないような表現は芸術としては失敗である。そういうものを深読みすることに意味がないということをあらためて確認しておきたいと思う。
 映画自体は、動きが少ない一方でよく分からないシーンが多いため、非常に退屈で、途中で居眠りしてしまった。劇場で1時間半この映画を見せられるのは少々きつい。家で(途中で止めたりしながら)見られる今だからこそ何とか見られるというものである。
1967年ヴェネチア映画祭審査員特別賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『彼女のひたむきな12カ月(本)』
竹林軒出張所『軽蔑(映画)』
竹林軒出張所『シリーズ毛沢東(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-11-18 06:54 | 映画

『彼女のひたむきな12カ月』(本)

b0189364_6294343.jpg彼女のひたむきな12カ月
アンヌ・ヴィアゼムスキー著、原正人訳
DU BOOKS

アンヌの日記

 ジャン=リュック・ゴダールの映画『中国女』に主演した女優、アンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝的小説……ということになっているが、実質的には日記レベルの文章である。
 1966年、ロベール・ブレッソンの映画(『バルタザールどこへ行く』)に主演した著者であるが、その後スタジオなどでゴダールと何度か顔を合わせた後、著者がゴダールに出したファンレターがきっかけとなり、ゴダールが猛然と著者にアプローチするようになる。時に著者19歳、ゴダール、バツイチの36歳!
 なんやかんやあって二人は付き合うようになり(ほとんど淫行)、その後ゴダールが監督した『中国女』でアンヌが主演するという「監督-女優」の関係を間に挟んで、やがて結婚する。この間約1年で、その過程を時系列で書いたものがこの小説。先ほども言ったが、出来事をそのまま並べて、自分がどう思ったとかそういったことを書いているため、日記の範疇を出ない。書かれている内容は、映画ファンにはたまらないものかも知れないが、小説として読むとさして面白くない。そういうわけで史料的価値だけかな、と感じた。
 ただし「あとがき」みたいな部分で山内マリコって人が本書について解説しているものを読むと、もう少し別の視点もあるようで、結局のところ何が得られるかは読む人に委ねられるということになるのかも知れない。僕自身はさして面白さを感じなかったと書くのが正確だろう。
★★★

参考:
竹林軒出張所『中国女(映画)』
竹林軒出張所『軽蔑(映画)』
竹林軒出張所『華氏451(映画)』
by chikurinken | 2016-11-16 06:30 |

『失われてゆく、我々の内なる細菌』(本)

b0189364_751518.jpg失われてゆく、我々の内なる細菌
マーティン・J・ブレイザー著、山本太郎訳
みすず書房

論文調で読みづらいが
中身は充実


 抗生物質のせいで、人間の消化管内にある細菌叢の生態系が壊れつつあり、これがアレルギー症、肥満、糖尿病、あげくには自閉症の原因になっているのではないかと主張する本。
 学者が書いた本らしく、注が詳細でさながら論文のようである。実際、著者の主張を裏付けるための実験も非常に細かく紹介されるなど、内容も論文を思わせる。ただあまりに論文調なので非常に読みづらい。実験を紹介してからその結論を紹介するような演繹的な記述が多いため、わかりにくい(ひいては読みにくい)箇所も多かった。おかげで読了するのに非常に時間がかかった。また翻訳文も流れが悪く、日本語の文章として読むには読みづらい。著者も訳者も学者であるため、正確性を期すためあまりに慎重になりすぎたのかも知れないが、これだけ読みづらいと我々一般人はなかなか最後までたどり着くことができない。
 本書の内容はかなり斬新で、従来の一般的な医学や生理学とは相容れない独創性がある。記述がかなりくどくなっているのは、新規な議論に説得力を持たせるためだろうとも思う。人間の体内の細菌をことごとく(まとめて)死滅させる抗生物質の問題点に加え、母親から子どもへの細菌の伝達を阻む帝王切開についても問題性を指摘している。あげくにピロリ菌も、胃潰瘍や胃がんの原因という捉え方ではなく、むしろピロリ菌がなくなったことがさまざまな病気の原因ではないかという見解である。
 抗生物質自体や、ヒトの中での微生物の役割にもページが割かれる(むしろこちらの方が面白かったが)など、入門書的な要素も持っていて、よく読者に配慮されたきわめて真摯でまじめな本であると感じる。人間の身体には、100兆個の微生物が棲んでいて、人間1人の体重のうち1.5kg分が微生物の重さという記述にも驚かされる。
 酪農や畜産業で、家畜の身体を大きくする目的で抗生物質が使われているという事実も紹介されている(これも驚き)。これは結果的に耐性菌を生み出すことにもつながる上、人間の体内の微生物を殺すことにつながっているとして強烈に異議を唱えている。そしてこういった細菌叢生態系(体内の微生物の集まり)の破壊をいかにして食い止めるかというそのロードマップまで示している。
 僕自身は、こういった体内の細菌の大切さを描いたドキュメンタリーをこれまで何度か見ているので新鮮さは比較的少なかったが、(僕を含む)一般人には珍しい情報が満載で、構成をしっかり練り上げた上で読みやすい文章にしていれば、一層良い本になったのではないかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『あなたの体は9割が細菌(本)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (1)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『わたしたちの体は寄生虫を欲している(本)』
竹林軒出張所『土と内臓 微生物がつくる世界(本)』
by chikurinken | 2016-11-15 07:51 |

『最高に楽しい文房具の歴史雑学』(本)

最高に楽しい文房具の歴史雑学
ジェームズ・ウォード著、関根光宏、池田千波訳
エクスナレッジ

何かがもの足りない……
少なくとも「最高に楽しい」ということはない


b0189364_8243669.jpg イギリス在住の文房具愛好家のブロガーが書いた文房具のウンチク本。
 ゼムクリップ、ホチキス、ボールペンなどの歴史が紹介されているが、残念ながらほとんどの箇所であまり面白味を感じない。なぜ面白くないかはよくわからないが、おそらく意外性に乏しいからではないかと思う。著者のジョークもあちこちに散りばめられているがこちらも面白くなく、記述自体は(個人的には)割合鼻につくようなものである。したがってあまり良い印象はない。
 もちろんこの本で初めて知ったこともあり、たとえばスコッチテープやテープディスペンサー、ポストイットなどが3Mの発明品というのはさもありなんとも思うが、1社でこれだけの文房具を発明(再定義)したことを考えると3Mは偉大な企業だということがわかる。またフェルトペンがぺんてる社の発明というのも初耳である。このように耳新しいこともあるにはあるんだが、先ほども言ったように読んでいてあまり面白くない。もう少し見せ方、つまり提示の仕方を工夫すれば面白い本になったんではないかという気もしないではない。
 また紹介される文房具に、名前を知らない文房具名(あるいはメーカー名)が結構あり(モレスキンやティペックスなど:イギリス人なら普通に知っているのかも知れない)、こういったところに訳者の注なり写真やイラストなりを入れるなどの工夫が欲しかったとも思う。
 結局、時間をかけて読んだ割にはあまり残るものがなかったという類の本で、読んだことを少々後悔している。
★★★

参考:
竹林軒出張所『古き良きアンティーク文房具の世界(本)』
竹林軒出張所『日本懐かし文房具大全(本)』
竹林軒出張所『さわの文具店(本)』
竹林軒出張所『ボールペン反見える化計画』
by chikurinken | 2016-11-14 08:25 |