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竹林軒出張所

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『魂に響くピアノを』(ドキュメンタリー)

魂に響くピアノを 中村紘子さんの残したもの(2016年・NHK)
NHK-Eテレ

b0189364_2248138.jpg地味な追悼番組だが
故人の人柄は見えてきた


 先頃亡くなったピアニスト、中村紘子の追悼番組。ドキュメンタリータッチだが、半分ぐらいは演奏会のシーンである。
 1944年に生まれた中村紘子、戦後斎藤秀雄の弟子になってピアノ奏法を学んだ。なんと小澤征爾も同期だという(中村は小澤のことを「小澤君」と呼んでいたらしい)。その後、音楽コンクールに次々に入選するなどして、ピアニストとして名前が知られてくる。また、NHK交響楽団の海外ツアーにソリストとして参加するなどして、それなりの評価を受けることになる。
 プロになった後ジュリアード音楽院に留学したりもしたが、日本式の激しくタッチするピアノ奏法を批判され、カルチャーショックに陥ったという話も紹介され、なかなか新鮮。
 僕自身は中村紘子については、ピアノ奏者としてというよりもカレーのCMなどTVで目にする人という印象で、彼女の音楽自体にはあまり関心はなかった。だが1989年に発表されたエッセイ、『チャイコフスキーコンクール』を読んで中村に対する印象が大きく変わり、なんちゅう面白い文章を書く人だと感心した記憶がある。続編の『ピアニストという蛮族がいる』も買って読んだが、こちらも非常に面白かった。そう言えばどちらかのエッセイに、日本独自の指を立てて弾くピアノ奏法についての記述があったような気がする。ただし中村紘子自身の話ではなく、戦前(明治期だったような……)のピアニストの話だったような記憶があるが、定かではない。
 番組では最後に、中村紘子によるチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番のフル演奏が流される。ただしどちらかというと、途中流されたNHK教育の講座番組『ピアノとともに』の方が興味深かった。この中で生徒にピアノのテクニックを教えるんだが、方法を押し付けるのではなく私の意見と断った上で奏法を紹介する方法論が、斬新で見ていて気分が良かった。中村紘子の人柄を示しているようなシーンであった。また『チャイコフスキーコンクール』読んでみようかな……などという気分になった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『バイオリンの聖地クレモナへ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのショパンコンクール(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-08-30 06:48 | ドキュメンタリー

『明治開化 安吾捕物帖』(本)

b0189364_13563671.jpg明治開化 安吾捕物帖
坂口安吾著
角川文庫

『快刀乱麻』の原作

 あの坂口安吾がミステリーを書いていたというのも意外な話。しかも舞台が明治時代と来ているからミステリーとしても異色中の異色である。
 『明治開化 安吾捕物帖』は、坂口安吾が昭和25年から2年間『小説新潮』に全23回に渡って連載した短編小説集で(本書解説より)、そのうちの半分が本書に、残りの半分が『続 明治開化 安吾捕物帖』に収録されている。それぞれの話は非常によく練り込まれていて、その中で明治日本の下層社会、上流社会のおどろおどろしい人間模様が繰り広げられる。不気味さを感じるような話もあり、個人的にはあまり趣味ではない。横溝正史みたいな世界と言ったら良いか……。ただし横溝正史のおどろおどろしい諸作とこの『安吾捕物帖』のどちらがオリジナルであるかは定かではない(『八つ墓村』は昭和24〜26年発表、『犬神家の一族』は昭和25〜26年発表)。
 登場人物は名探偵の結城新十郎をはじめとしてユニークな面々が登場するが、なんと言っても毎回推理を外す勝海舟が出色。それぞれの話は、概ね同じパターンで進んでいく。言ってみればテレビドラマみたいな構成である。そのせいかかつて70年代に『快刀乱麻』というタイトルで朝日放送によってドラマ化されていた(竹林軒出張所『内田喜郎と快刀乱麻』を参照)。今回原作を読んでわかったが、結城新十郎のイメージがドラマとかなり異なっていて、ドラマでは侠客のようだったが原作ではむしろ洋行帰りのハイカラ青年というイメージである。登場人物の花逎家因果(植木等)や泉山虎之介(花紀京)も僕がドラマを見たときに持っていたイメージとこの原作では少し印象が違っていて、勝海舟以外は原作とドラマの間であまり接点がないという印象である。ストーリーや設定のみを原作から拝借したというドラマだったのだろう。しかしそれでも十分面白いドラマだったことは間違いない。それはこの原作本もしかりである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『内田喜郎と快刀乱麻』
竹林軒出張所『「快刀乱麻」を聴く』
by chikurinken | 2016-08-28 13:56 |

『映像の世紀プレミアム 第2集』(ドキュメンタリー)

映像の世紀プレミアム 第2集 戦争 科学者たちの罪と勇気(2016年・NHK)
NHK-BSプレミアム

b0189364_23114940.jpg歴史と科学者

 『映像の世紀』スピンオフの第2弾。この第2集では、核に支配された恐怖の20世紀を生み出した科学者たちの功罪を映像で取り上げる。化学兵器の父フリッツ・ハーバー、原子爆弾の製造をルーズベルトに進言したアインシュタイン、実際に原爆を作り出したオッペンハイマー、大陸間弾道ミサイルを作り出したフォン・ブラウンらが俎上に上がる。
 フリッツ・ハーバーはユダヤ人であったが彼の化学兵器は、その後ナチスによるユダヤ人虐殺に利用された。またアインシュタインやオッペンハイマーは核兵器に関わった後反核に転じ、オッペンハイマーは晩年に至るまでFBIの監視下に置かれるなど、彼らの皮肉な人生も取り上げられる。元々科学者たちが発見し利用した技術が、悪意のある人々によって大量破壊兵器に転用されたという点でどれも共通しているが、そもそも科学者たちの無邪気さ、先見性のなさが問題になるわけだ。もっとも中には、フォン・ブラウンのように一切悪びれない者もいる。戦争中はナチスのために弾道弾を作り、戦後はアメリカに渡って大陸間弾道ミサイルを作って、やがてはアポロ計画に参加して月ロケットを作る。こうして彼は栄光を勝ち取ったが、かつての黒い経歴は彼にとっては成功のためのステップでしかなかったようだ。
 こういった人々のせいで、その後科学者の倫理が問われるようになったわけだが、残念ながらいまだに科学者の未熟さというか素朴さはあまり改善されていないようで、いまだに勝手な思い込みで人々に災厄をもたらしている。少なくとも彼らの仕事に対して一方的に称賛するのではなく、批判的な目を向けたいものである。ノーベル賞がそんなにエラいのかよく考えたいものだ。
 その他にも、飛行機の発展を含む、第一次大戦での武器の進歩についても言及される。これは『映像の世紀 第2集』で取り上げられたもので、『映像の世紀』シリーズの目玉と言ってよいテーマである。
 テクノロジーを全面的に礼賛するのではなく、その影響も鑑みなければならんよとする、このドキュメンタリーのメッセージは十分に伝わってきた。その点は評価に値するが、やはりほとんどが使い回しの映像で、今さら感が強いのもまた事実である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第1集〜第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第5集〜第8集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第9集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第10集〜第11集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第2集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第3集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第5集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第6集(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-08-26 07:10 | ドキュメンタリー

『へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』(本)

へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々
鹿子裕文著
ナナロク社

ユニークな老人介護施設とユニークな人々

b0189364_21241337.jpg 福岡市にあるユニークな老人介護施設「宅老所よりあい」の設立のいきさつと、それに関わるユニークな介護者たちの人間模様が描かれる本。語り部は「よりあい」で雑誌『ヨレヨレ』をつくっている編集者、鹿子裕文である。この鹿子自身、「よりあい」の世話人、早い話がボランティアで、編集者の仕事がなくなってどん底の生活を送っているときに「よりあい」と関わり始め、そのせいもあって食えない生活が続いていた。彼の不遇の人生も「よりあい」の歴史とあわせて紡ぎ出されていて、このあたりの個人史も本書の魅力である。
 著者の文章は躍動していてそれ自体が面白く、登場する「よりあい」の関係者(下村恵美子や村瀬孝生)も魅力的に描かれる(かなり誇張されているようだが)。「よりあい」自体も魅力的だし、関係者の志も痛快である。老人を狭い環境に押し込め世間と隔絶させるのではなく、環境の中で当たり前に存在し周囲と溶け合うようにするという発想も、人間的で気持ちが良い。この介護施設が、ある一人の老人の面倒を見るところから始まったというのも実にユニークである。
 本文は全編読みやすく、どんどん読み進められるし、この介護施設に興味を惹かれること間違いなしだが、「バカ」や「アホ」などの罵りの言葉が頻出するのが興を削がれる。せっかく良い話で心地良くなっているのに、こういう配慮のない表現が続出すると少し気分が悪くなる。著者の個性と言えばそれまでだが、少なくとも僕はこの人の文章をまた読みたいとは思わなかった。下村恵美子や村瀬孝生には興味を持ったが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『いま助けてほしい 〜息子介護の時代〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『老人漂流社会(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『野田明宏先生のファンの皆様へ』
by chikurinken | 2016-08-24 07:23 |

『これでもがん治療を続けますか』(本)

b0189364_21224030.jpgこれでもがん治療を続けますか
近藤誠著
文春新書

近藤節健在、その集大成

 『がん放置療法のすすめ』の近藤誠によるがん医療の最新知見で、『患者よ、がんと闘うな』の最新版というような位置付けの本。
 内容は非常にショッキングで、間違った外科手術、放射線治療でどのような結果が生じるかかなり具体的に書かれている。特に著者の専門である乳がんについては写真もふんだんに紹介されており、10cm以上もあるがんが体外に飛び出している写真なんかもあってぶったまげる。こう言うのを見ると、人間はがんになってもそう簡単に死なない(死ねない)という著者の主張も納得ができる。ちなみにこの患者のがんは放射線治療後著しく縮小している(その写真もある)。
 一方で放射線治療の危険性も指摘していて、むやみに使いすぎると、後遺症を生み出すことにも繋がると言う。外科手術同様、適した患者に正しい方法で処方することが重要であると主張する(ごもっともだが)。がんよりもがん治療が死因になることが多く、したがって医者の言うままにむやみに「最新治療」を受けるのは危険であると主張するのは、他の著書と同様である。抗癌剤の治験データが恣意的で信憑性がないということも具体的に示している点や、現代医療に対しても痛烈に批判している点も他の著書と共通している。がんの転移のしくみについてもページ数を割いて詳細に説明していて、こちらは少々読みづらさがあるが、非常に示唆に富む話である。
 近藤誠の著書に対しては、医療界からいろいろな批判が寄せられているが、いろいろと比較検討してみても、近藤説の方がはるかに説得力がある。批判するに当たっては、少なくとも近藤氏くらい丁寧に解説する必要があるんじゃないかと思うが、そういうことはできていないで「読者が近藤に洗脳されている」みたいな言動を繰り返すのは筋違いというものである。総合的に考えると、従来の日本のがん治療に問題があったのは明白で、近藤氏はベールの下に隠された医療のブラックボックスを白日の下にさらしたわけである。近藤氏が20年以上続けているがん医療批判は、多くの日本人に光をもたらしたはずで、その功績は小さくない。僕自身もがんになったら最後まで様子を見るという方針で行くつもりである。もっとも今でも病院には極力近づかないようにしているし、ほとんどの医者は信用できないと思っているが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
竹林軒出張所『成人病の真実(本)』
竹林軒出張所『健康診断は受けてはいけない(本)』
竹林軒出張所『日本は世界一の「医療被曝」大国(本)』
竹林軒『書籍レビュー:この本をすすめる本当の理由』
竹林軒出張所『大往生したけりゃ医療とかかわるな(本)』
by chikurinken | 2016-08-22 06:22 |

『成人病の真実』(本)

b0189364_21275820.jpg成人病の真実
近藤誠著
文春文庫

成人病治療も日本の医療界も
ぶった斬る!


 『がん放置療法のすすめ』の近藤誠が、日本の医療を斬りに斬りまくった快著。著者は、これまでがんの外科手術についてその無用さを訴えてきたが、この本ではがん治療だけでなく成人病の検診と治療全般について詳細に取り上げて分析し、その問題性を指摘して斬っていく。返す刀で日本の医療界の異常さにも斬り込み、名のあるエラい権威のセンセイたちまで実名を挙げて批判していく。まことに痛快ではあるが、こんな本を出した日にゃ近藤センセイ、医学界にいられなくなるのは想像に難くない(ちなみにこの本、元のハードカバーは2002年に刊行されている)。逆に言えば、医学界の外にいる我々にとっては非常に価値の高い本である。
 先ほども言ったように、本書で中心になっているのが成人病の問題で、成人病検診によって「病人」が作り出され、それに対して本当であれば行われるべきでない治療が行われていると訴える。成人病検診では、恣意的な基準値が使用されており、それに収まらない人は「病人」とされる。本来であればまったく問題にならない部分が問題とされ、患者側の不安を煽って、不要な薬物投与や「治療」が実施される。こうして何も知らない庶民は、自らの健康な生活が医療によって削られていき、健康が損なわれることになる。要するに、成人病検診自体が無駄どころか有害だというのが著者の主張である。
 他にも医療ミスの問題、インフルエンザワクチンの問題に加え、がん検診や腫瘍マーカーの問題まで切り刻んでいく。「インフルエンザ脳症が薬害」とする議論は一読の価値がある。医療界にとっては暴論以外の何ものでもないだろうが。とにかくその切れ味は鋭く、こんなことまで言っちゃって大丈夫かと思わず目を疑うような記述が後を絶たない。極論だという批判もあるかも知れないが、こういった大胆な批判が、医療界が抱えている多くの問題を照らし出す結果になっているわけで、この著書のような主張は決して無下に扱うことはできないと思う。近藤誠のもう1つの代表作と言える快作である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『これでもがん治療を続けますか(本)』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
竹林軒出張所『日本は世界一の「医療被曝」大国(本)』
竹林軒出張所『健康診断は受けてはいけない(本)』
竹林軒『書籍レビュー:この本をすすめる本当の理由』
竹林軒出張所『大往生したけりゃ医療とかかわるな(本)』
by chikurinken | 2016-08-20 07:21 |

『思い通りの死に方』(本)

b0189364_21283885.jpg思い通りの死に方
中村仁一、久坂部羊著
幻冬舎新書

これも対談

 先日紹介した『どうせ死ぬなら「がん」がいい』と非常によく似た体裁の本だが、発行所は違う(あちらは宝島新書)。両方の本がほぼ同じ頃に発売されているため、どちらかがどちらかをまねたということはないのかも知れないが、同じような企画でしかも全編対談という作りは安易だというそしりを免れないところである。しかもどちらにも中村仁一氏が参加しているということであれば、出版社の発想の貧困さばかりが際立ってくる。両書で少し違うのは、『どうせ死ぬなら』の方が中村仁一が近藤誠に話を聞くというような流れだったが、こちらの本ではむしろ久坂部羊が中村仁一に話を聞くという流れになっている点である。そうは言っても非常に似ている本であるのは確かである。同じシリーズと言っても通る。
 さて出版社へのボヤキはこのぐらいにして、こちらの本、『大往生したけりゃ医療とかかわるな』の中村仁一と『日本人の死に時』の久坂部羊の対談である。先ほども書いたが、久坂部羊が中村仁一の話を聞くというような体裁になっているため、内容は中村仁一の医療観、死生観が大いに反映されており、『大往生したけりゃ』とかなり近いものになっている。あの本を読んでいなければ驚きと目からウロコの連続かも知れないが、重複する部分がきわめて多いため、あの本を読んだ人には不要である。こちらの本から入って『大往生したけりゃ』に進むという流れが正しい。対談で非常に読みやすくほとんど雑誌感覚なので、あの本にハードルの高さを感じている向きには勧められるかなと思う。ただ久坂部羊は、聞き役に徹するんじゃなくて、もう少し自分を出しても良かったんじゃないかと感じた。
★★★

参考:
竹林軒出張所『大往生したけりゃ医療とかかわるな(本)』
竹林軒出張所『どうせ死ぬなら「がん」がいい(本)』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
竹林軒『書籍レビュー:この本をすすめる本当の理由』
by chikurinken | 2016-08-18 06:38 |

『どうせ死ぬなら「がん」がいい』(本)

b0189364_234121.jpgどうせ死ぬなら「がん」がいい
中村仁一、近藤誠著
宝島社新書

現代日本医療の反逆者による
医事放談


 『大往生したけりゃ医療とかかわるな』の中村仁一と『がん放置療法のすすめ』の近藤誠との対談をまとめた本。内容は、当然のことながら、彼らの過去の著書の焼き直しになるわけで、そのため何が書かれているかは概ね想像できる。そしてその想像の通りだった。また上記の2冊の著書についても、本書の出版時と時期的に近いせいか、随時言及されている。
 両者の対談の中では、ガン治療の多くが無駄であること(外科手術や抗癌剤治療はほとんどの場合身体に害をなすだけで効果がない)や、年を取ったらいつまでも生に執着しないで死を覚悟して生きるべきという考え方が紹介される。また現在の医療のあり方の問題点、つまり医療業界が自らの利益のために患者を食い物にしているという話が披露され、なかなか小気味良い。彼らの視点が一般的な医療の常識と異なって独特であるため、当たり前だと思われていることが実はおかしいことなのだというようなことに気付く。それがこの両著者の魅力なんであるが、そういう新しい気付きを与えてくれるという点で、この本も良書と言えるわけだ。
 すべて対談で話し言葉であるため、非常に読みやすく、2時間もあれば読み終えられる。考えようによっては両著者のエッセンスが凝縮されていると捉えることもできる。全体的に中村氏が近藤氏の聞き手役という位置付けのように感じるが、後半は中村氏も積極的に自身の死生観を披露して中村節も健在である。現代にとって新しい医療観(ちょっと前までは当たり前だったものだが)に触れる入門書として恰好の素材ではないかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『大往生したけりゃ医療とかかわるな(本)』
竹林軒出張所『成人病の真実(本)』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
竹林軒出張所『健康診断は受けてはいけない(本)』
竹林軒出張所『これでもがん治療を続けますか(本)』
竹林軒『書籍レビュー:この本をすすめる本当の理由』
竹林軒出張所『思い通りの死に方(本)』
竹林軒出張所『大病人(映画)』

by chikurinken | 2016-08-16 06:40 |

『実見 江戸の暮らし』(本)

実見 江戸の暮らし
石川英輔著
講談社文庫

江戸の複雑だが合理的なシステムに感嘆

b0189364_8484320.jpg 講談社文庫から出ている石川英輔の本であることを考えると、この本も『大江戸』シリーズの1冊と考えることができる。この本の主眼は、江戸での生活を、数々の絵図を参照することで再現してみようというもので、そのために図版が非常に多い構成になっている。
 例によって過去の石川本の焼き直しが多く、今回もあまり得るところがないかなどと思って読み進めていたが、後半の「江戸時代のお金」、「明六ツ、暮六ツの世界」、「旧暦の世界」は非常に充実していて、感じるところが多かった。それぞれ江戸時代の貨幣制度、時刻、暦について書かれたものだが、その説明が網羅的かつ詳細で、目からウロコ状態である。著者の過去の本でも扱われている題材であり、僕自身も概ね「知ってるつもり」ではあったが、それをはるかに超える充実ぶりで、内容については専門書並みと言えるほどである。しかも石川英輔独特のうまい語り口でそれが語られる。江戸の時代考証という点で自分にとっての教科書になるんではないかという内容であり、この本は僕にとって保存版である。
 それにしても江戸の通貨制度と暦は、現代人の我々から見るとはなはだわかりにくくなかなか憶えられない。しかしそういうものでありながら、その底辺に合理性が横たわっているということを知るにつけ、江戸という世界の複雑さ、奥深さをあらためて感じるのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法(本)』
竹林軒『書籍レビュー:江戸の新発想』
竹林軒出張所『江戸時代はエコ時代(本)』
竹林軒出張所『大江戸庶民いろいろ事情(本)』
竹林軒出張所『ニッポンの旅 江戸達人と歩く東海道(本)』
by chikurinken | 2016-08-14 08:49 |

『決断なき原爆投下 米大統領71年目の真実』(ドキュメンタリー)

決断なき原爆投下 〜米大統領71年目の真実〜(2016年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

b0189364_21203871.jpg原爆投下の責任は藪の中

 広島・長崎への原子爆弾投下から71年経つが、当時の状況はいまだに明らかにされていない。以前見たドキュメンタリー(竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史 (1)〜(4)(ドキュメンタリー)』参照)では、当時大統領だったトルーマンが反共主義者でなおかつ無能だったため、ソ連への威嚇のために、もはや必要性がなかった原爆投下を軍に指令したという話だったが、今回NHKスペシャルで明らかにされたものはもう少し話が複雑である。
 つまり当時大統領に就任したばかりのトルーマンには原爆を日本に投下する意図はなかったが、軍が勝手に暴走して作戦に踏み切ったというのである。(原爆開発のための)マンハッタン計画には多額の予算が投入されていたため、結局原爆を使いませんでしたでは済まない(議会にその責任を追求されかねない)と考えた軍の担当者、レスリー・グローブス准将が、強引に作戦を推し進めたというのがこの番組の趣旨である。このグローブス、当初は京都への原爆投下を主張していたが、この提案については、トルーマンの側近が、無差別殺戮について世界から糾弾されることを恐れて断固拒否し、軍事施設に限ると主張したため立ち消えになる。だが代わりに広島、長崎、小倉、新潟などが候補地になり、結局広島の軍事施設を標的にするという名目になり、大統領側も譲歩したという。この番組では、このあたりの事情をグローブス自身の談話(テープに残されたもの)やトルーマンの日記などから読み解いていく。トルーマンにとっては二度に渡る原爆投下ははなはだ不本意であったらしく、その後「多くのアメリカ軍人(と日本の民間人)の犠牲を少なくするためにやむを得ない措置だった」というような言い訳を語るようになった。この理屈が一般的なアメリカ人に受け入れられ、自分たちの良心に恥じない行動として是認されるようになったというわけだ。こういった行動は、言ってみれば認知的不協和の解消であり(竹林軒出張所『なぜあの人はあやまちを認めないのか(本)』参照)、外部から見ると片腹痛いことこの上ない。
 ただ、今回この番組で提供された情報については、まったくデタラメだとは思わないが、どこまで信じてよいかわからない部分もある。先代の大統領、ルーズベルトの意向なんかも当然働いているだろうし、誰が良いとか悪いとかなかなか簡単に言えないところが難しい。結局核兵器が使用されて大勢の人々が殺されたという事実だけが残るわけだ。
★★★

参考:
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史 (1)〜(4)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『きのこ雲の下で何が起きていたのか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『なぜあの人はあやまちを認めないのか(本)』
by chikurinken | 2016-08-12 07:19 | ドキュメンタリー