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竹林軒出張所

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『あこがれの家電時代』(本)

b0189364_22483780.jpgあこがれの家電時代
清水慶一著
河出書房新社らんぷの本

博物館風に昭和の家電を紹介

 これも、ここのところ立て続けに読んでいる懐かし家電の本の1つだが、しかしこの本には他のカタログ本と違って非常にしっかりしたコンセプトがある。昭和の家電を単にカタログのように紹介していくだけでなく、その背景の時代を家電から読み解くという視点が明確になっている。そのため紹介される家電がエポックメイキングなものばかりで、そういう点でも資料的価値が高いと言える。紹介されるのがそういった画期的な商品であるため、現物がすべて手元にあるわけでなく、それがために松下電器、ソニー、シャープ、東芝科学館などから写真を提供してもらっている。この本自体が、他の類書のようにカタログ的ではなく、どちらかというと網羅的で博物館的なたたずまいになっているのはそのせいである。さまざまな製品についてのコメントや解説も当を得たものが多く、家電から時代を切り取るという試みも成功している。そのため、読んでいて非常に興味をそそられる。
 著者は国立科学博物館に勤務する専門家で、専門は産業技術史だそうな。興味本位で終わらない記述からも、専門家としての真摯さが窺われる。また、現代の日本の行政に、家電などの商品を文化財として保存するという視野が欠けている点についても批判している。もっとも著者が務める国立科学博物館も同様の活動をやっていないらしいが、しかし一方で著者はこういった本を書くことで、多くの読者に対し博物館的な体系的知識を与えるということを行っているわけで、それは十分評価に値する活動であると言える。いずれにしてもこの本は、そこいらのいい加減な(と言っては失礼だが)カタログ本とは一線を画す本である。それは間違いない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ドラえもんの時代性に関する一考察』
竹林軒出張所『70年代アナログ家電カタログ(本)』
竹林軒出張所『日本懐かしオーディオ大全(本)』
竹林軒出張所『ラジカセのデザイン!(本)』
竹林軒出張所『昭和のレトロパッケージ(本)』
竹林軒出張所『昭和ちびっこ広告手帳(本)』
竹林軒出張所『昭和子どもブーム(本)』
竹林軒出張所『ぼくらの60〜70年代宝箱(本)』
竹林軒出張所『キックの鬼』
by chikurinken | 2016-07-30 22:48 |

『ラジカセのデザイン!』(本)

b0189364_895452.jpgラジカセのデザイン!
松崎順一著
青幻舎MOGURA BOOKS

ラジカセのデザインが良い
という感覚に賛同できない


 これも懐かしい家電を紹介しようという本である。コンセプトは、デザインに注目して、過去発売されたラジカセ(ラジオカセット)の顔を見せていくというもの。そのためどのページにも、過去のラジカセが単色の背景の中に置かれた写真があふれている。純粋に著者の趣味に合うラジカセを並べているという感じで、必ずしもエポックメイキングなものがあるとは限らない。どの写真にも型番名、サイズ、発売年が添付されていて、資料的な価値もなくはない。ただしこの本も、『70年代アナログ家電カタログ』と同様、発売年は「不明」となっているものが著しく多い。発売年不明だと資料的価値は極端に低下する。これも少し調べたら分かりそうなんだが……と思って確認したところ、あの本とこの本、著者が一緒である。結局のところ、著者の性格のせいかと合点がいった。
 この本であるが、16.4cm×16.4cmという変わった判型になっているが、どんな意味があるのかは分からない。ラジカセが横型だから、縦長の本よりこの方が良いのかとも考えられるが、機種によっては見開き2ページに渡っているものがあったり(これがまた見づらい)、機械のごく一部だけが写真で掲載されているものもあったりするため(中には一部分のみが縦に配されているものまである)、本の判型と素材(つまりラジカセ)の関係はなさそうである。真意は皆目分からぬ。つまるところは趣味ということなのか。それから各ページに掲載された著者のコメントが、独特の文体で少々気持ち悪いということも付記しておきたい。
 掲載されているラジカセについては、特にデザインが優れているものばかりではなく、どういう基準で選び出したのかよく分からないが、著者自身の所有物ばかりのようである。何でも著者はあちこちから古い機種を集めて修理したりしているらしい(それが生業かどうかはわからない)。自分がかつて持っていた機種や憧れていた機種でもあれば少しは感慨深いのかも知れないが、売れ筋のものを中心に掲載しているわけではないため、多くの読者にしてみれば大した感慨が湧かない可能性がある。僕については以前持っていた日立のラジカセが載っていたんで、そのページ限定ではあるが多少テンションが上がった。個人的には、80年代のラジカセについてデザインが良かったとも思わないし、メカに対する愛着も持っていなかったので、特に思うところはない。
 なおこの本、その後増補版が出ていて(『ラジカセのデザイン! 増補改訂版』)、判型もA5判になった。掲載されているラジカセも増えたらしいが、わざわざ新版を買ったりする必要性はまったく感じない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『70年代アナログ家電カタログ(本)』
竹林軒出張所『日本懐かしオーディオ大全(本)』
竹林軒出張所『あこがれの家電時代(本)』
竹林軒出張所『昭和のレトロパッケージ(本)』
竹林軒出張所『昭和ちびっこ広告手帳(本)』
竹林軒出張所『昭和子どもブーム(本)』
竹林軒出張所『ぼくらの60〜70年代宝箱(本)』
竹林軒出張所『キックの鬼』
by chikurinken | 2016-07-29 08:10 |

『母と子 あの日から』(ドキュメンタリー)

母と子 あの日から 〜森永ヒ素ミルク中毒事件60年〜(2016年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

森永ヒ素ミルク事件について
もっと詳細に伝えてほしかった


b0189364_22591223.jpg 1955年、当時流通していた森永の粉ミルクに猛毒のヒ素が混入するという事件が起こった。その際、粉ミルクを摂取した子どもたちにヒ素中毒が発生し、死者130人を含む1万2千人以上の被害者が出た。森永側は、子どもたちに現れた障害について当初知らぬ存ぜぬを貫き、いったん事件は収束したかに思えたが、その14年後に関係者がもう一度事件を掘り起こして疫学調査を実施することで、子どもたちの障害がヒ素の影響であることを証明した。再び収束を図る森永に対して、被害者側は裁判や不買運動で対抗し、最終的に森永が被害者を生涯補償することで一応の決着がついた。これが世に言う森永ヒ素ミルク中毒事件である。
 僕が子どもの頃、ニュースで「森永ヒ素ミルク事件」という言葉を盛んに聞いていたが、それは発生14年後の事件再燃時の話であったことになる。元の事件が起こったのは僕が生まれる前の随分古い事件だったということを今回初めて知ったのだった。しかし古い事件ということになると、関係者は徐々に少なくなり、やがて事件は風化……ということになりかねない。このETV特集のシリーズは、先日の水俣病サリドマイドとあわせて、風化する前に少しでも映像として記録に残し、当時のことをよく知らない人々(僕も含まれるが)の中に記憶として残しておこうという意図が感じられて大変心持ちが良い。
 番組では、その時間の多くを被害者の現在を映し出すことに割いており、もちろんそれはそれで重要なことなんだが、僕としては当時の状況についてもっと詳しく知りたかったと思う。当時のニュース映像などももっとふんだんに使って当時の状況を我々に知らしめてほしかったというのが素直な感想である。もちろん被害者がヒ素によって精神障害や神経障害を負うことになったという事実は、今回被害者の映像を見るまでまったく知らなかった。一般的にはヒ素ミルク事件の被害の映像としては皮膚の変色が取り上げられるため、そういう被害が主なものかと思っていたが、はるかに重篤な被害があったことはまったく想像すらしていなかった。そういう点で彼らの今の苦しみを紹介するというのは歓迎なんだが、それにしても当時の状況があまりに大雑把にしか説明されていなかったため、このドキュメンタリーには少々物足りなさも残ったのだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日本人は何をめざしてきたのか (3)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『薬禍の歳月 〜サリドマイド事件・50年〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『水俣病 魂の声を聞く(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-07-27 22:59 | ドキュメンタリー

『水俣病 魂の声を聞く』(ドキュメンタリー)

水俣病 魂の声を聞く 〜公式確認から60年〜(2016年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

ぬるま湯に浸かった現代人の皆さん
「魂の声」を聞くが良い


b0189364_22313295.jpg 今年は水俣病が認定されてから60年の節目の年になる。そこで、この水俣病を振り返るドキュメンタリーである。
 1950年代から、熊本県の水俣湾沿岸で、奇妙な症状を持つ子どもが現れた。それ以前もネコが突然おかしくなって死んだ事例はあったが、人間で同じような症状が出たのはこのときが初めてである。やがてこの病気は周辺地域に広がっていく。当初は原因が分からず奇病とされていたが、やがて熊本大学医学部によって、原因が有機水銀であり(この)水俣病の症状は有機水銀による神経障害によって引き起こされたものであることが判明する。そしてその有機水銀が、水俣で操業していたチッソの化学工場から垂れ流されたものであることが特定される。しかしチッソはこれを認めずその後も操業を続けたため、被害は一層拡大していった。
 チッソの組合員であった岡本達明氏は、こういったチッソの現状を憂い、自ら被害者から直接聴き取りを始めた。やがてその証言は本にまとめられることになるが、しかしこの岡本氏もすでに齢80を超え、被害者の方も高齢化し、水俣病が風化してしまう可能性が出ているのが現状である。
 この番組では、その聴き取りの際に録音された音声を紹介して、当時の水俣病の様子をあぶり出す。中でも衝撃的だったのは、当初水俣病が伝染病と思われていたため、患者と家族が周辺住民にひどい差別を受けていたことで、患者は避病院(隔離病院)に入れられ、しかもそこに見舞いに行く家族も交通機関の利用を拒否されたという話である。被害者家族にとっては二重苦で、まったく救われない話だ。
 一部の被害者については現在の状況も紹介され、水俣病がまだ終わっておらず、現在進行中であることが示される。被害者家族によって語られる内容は、タイトル通りまさに「魂の声」であり、心の中に重い澱みが残った。当時の水俣病患者の映像も衝撃的の一言である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日本人は何をめざしてきたのか (3)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『薬禍の歳月 〜サリドマイド事件・50年〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『母と子 あの日から(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-07-26 07:30 | ドキュメンタリー

『ヒトラー 最後の日々』(ドキュメンタリー)

ヒトラー 最後の日々(2015年・英Finestripe Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

神のように振る舞った独裁者も
最後はみじめな一人の小心者になる


b0189364_2220202.jpg ヨーロッパで第二次大戦が事実上終結したのは、1945年5月2日のベルリン陥落をもってである。ソ連軍がベルリンに迫ったとき、首相官邸の地下に潜伏していたヒトラーは、自らの遺骸が連合軍に曝されるのをおそれ自殺を遂げた上、遺体を部下にガソリンで焼かせた。
 このドキュメンタリーは、ヒトラーの最後の数日間を描くもので、戦後ニュルンベルグ裁判の際に集められた証言を基にしている。ヒトラーと共に地下に潜伏していたのは、ヒトラー以外に当時のドイツ軍の司令官や高官(ゲッベルスも家族とともに潜伏)、それから事務方など雑務をこなす人々である。彼らのうちの生き残りが、戦後連合軍により聴き取り調査を受け、その証言が映像として残されている。これはニュルンベルグ裁判で利用される予定だったが結果的に表に出ることはなかった。その映像が近年明るみに出て、それに基づいて当時の様子を再現したのがこのドキュメンタリーで、一部再現ドラマで構成されている。
 証言によると、地下壕でのヒトラーは鬱状態になっており、部屋の中をウロウロするだけで、ほとんど政務を執ることができなかったという。生前の神のような振る舞いは身を潜め、恐怖に支配されたみじめな一人の人間がそこにはあった。これからソ連軍が攻めてきて自分が生きたまま掴まることを極度に恐れていたという証言もある。実際イタリアのムッソリーニも同じ頃殺され、その死体が逆さづりにされて人々の目の前に曝されている(この情報も生前のヒトラーの元に入った)。そのためヒトラーは、自殺することを決意し、部下に自分の遺体をガソリンで焼かせることを命令する。最後まで自分の名誉を守ろうとしたんだろう。その後、地下壕で愛人のエヴァ・ブラウンと正式に結婚した後、自室にこもってブラウンと共に銃と毒を使い自殺した(ゲッベルスの家族や高官たちも彼らの後を追って自殺)。ヒトラーの遺体は、遺言通り部下によって焼却された。
 この過程が、時系列で順にドラマを交えて描かれる。中心になるのは証言映像とドキュメンタリー映像で、オーソドックスな作りの非常にわかりやすいドキュメンタリーと言える。なお、ドキュメンタリー映像はカラー化されたものがふんだんに出て来て、こちらも良い効果を与えている。
 とにかく、このドキュメンタリーでも強調されていた部分だが、人々の前で尊大に振る舞い反対者を虫けらのように殺していった独裁者であっても、追いつめられれば恐怖に怯えるみじめな一人の人間になりさがってしまうということに留意すべきである。チャウシェスクしかりカダフィしかりで、彼らも無残な死体を曝すことになった。彼らの最後のみじめな姿が人前に曝されることで、かれらの無限に見えた力が幻想であったことが周知される。権力を振り回していた人間も、その力の拠り所がなくなると、とたんに一人の小心な人間に戻ってしまう。独裁政治というのも突き詰めると、所詮は人間の所業に過ぎないということがよく分かる。したがって、独裁者のみじめな最期は公開されるべきであると個人的には思う。それは、独裁者を美化する勢力の抑止にもなる。
 史上最大の独裁者であるヒトラーの最期のみじめな姿を広く知らしめたという点で、このドキュメンタリーは評価に値する。小心な独裁者の最期は、潔いものでは決してないということも理解できる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道 前後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー暗殺計画』(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー「わが闘争」封印を解かれた禁断の書(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第1集〜第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第3集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第5集〜第8集(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-07-25 07:19 | ドキュメンタリー

『汚れた金メダル 国家ドーピング計画』(ドキュメンタリー)

汚れた金メダル 国家ドーピング計画(2016年・NHK)
NHK-BS1 フランケンシュタインの誘惑

b0189364_22235469.jpg内容は非常に興味深いが
無駄な演出が多い


 ドイツ民主共和国、つまり旧東ドイツで、国家ぐるみでドーピングが行われていたことを告発する番組。
 ナビゲーターを途中で登場させたり、数人の「有識者」をスタジオに呼んでアナウンサーと対話させたりという演出が施されていてバラエティ風に仕立て上げられていたが、そういう「バラエティ風」以外の部分が割合かっちりしたドキュメンタリー構成になっていたため、てっきりどこかの国(おそらくドイツ)で作られた本格的ドキュメンタリーを換骨奪胎して1本に仕立て直したものかなどと思ったりしたが、どうやら最初からNHKサイドで作られたもののようである。
 内容は非常にしっかりしていて、ドイツの研究者らのインタビューや当時の映像を交えて構成されている。むしろこういう部分だけで1本のドキュメンタリーにした方が密度が濃くインパクトも大きい番組になったんではないかと思うが、NHKは往々にしてこういった無駄な演出を盛り込んで、結果的に冗長になって台無しになるということが多い。視聴者にこびるようなこういう軽薄な演出はいい加減止めにしてもらいたいものだ。
 さて、その内容だが、先ほども言ったように東ドイツのドーピングの実態である。僕が子どもの頃、確かに東ドイツはオリンピックでやたらメダルを獲得していて、ソ連、東ドイツ、アメリカがオリンピックの3強というようなイメージがあった。しかし冷静に考えると、東ドイツはソ連やアメリカに比べて人口が圧倒的に少ない上(1600万人程度)、経済力だってたかだか知れていた。そういう国がオリンピックでやたら活躍する状況については子どもながらに不思議に思っていたんだが、要するにズルをやっていたということらしい。そしてそれが国威発揚のため、国ぐるみで行われていたというのだ。このプロジェクトには「国家計画14.25」という名前が付けられており、その指揮を執るのはマンフレッド・ヒュップナーという医師。彼のリードの下でさまざまな薬剤について研究が行われた。その後、筋肉増強剤トリナボールを女子砲丸投げの選手に服用させ、実績を上げることに成功した(結果的にメキシコ・オリンピックで金メダルを獲得)。ヒュップナーは目標を実現させ面目を上げ、東ドイツ政府も、共産主義ドイツの威信を国の内外に向けてアピールすることに成功する。
 その後もヒュップナーの下、ドーピングの研究が進められ、オリンピックのメダル数という点で大きな実績を残すようになる(金メダル数は、東京大会で3個、メキシコ大会で9個、ミュンヘン大会で20個、モントリオール大会で40個(!)、モスクワ大会で47個)。だがドーピングに対する疑惑が方々から出ることになり、結果的にドーピングの管理が厳格化して、選手に対する検査も厳しく行われるようになる。それに対して、東ドイツ側はドーピングの痕跡を隠すマスキングという技術で対抗したのだった。
 このような東ドイツの実態が明らかになったのは、ドイツ統一後である。かつて薬剤を服用した選手たちにも後に健康被害が現れて、それが社会問題化するようになった。選手の多くはドーピングについて知らされていなかったということで、彼らを救済する措置が現在のドイツ政府によってとられることになったが、それでも彼らが受けた傷は大きい……というような内容である、このドキュメンタリーは。
 そういったいきさつが非常にわかりやすく詳細に語られていき、まことに興味深い内容なんだが、先ほども言ったように、ところどころ無駄な演出のために内容が散漫になってしまう。実にもったいない。このシリーズ、来月も放送されるようで、「スタンフォード監獄実験」が取り上げられる(7月28日放送予定)。こちらも面白そうなネタではある。何度も言うが無駄な演出がなければもっと良い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ドーピング ロシア陸上チーム・暴かれた実態(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『五輪考』
竹林軒出張所『FIFA腐敗の全貌に迫る(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『人が悪魔に変わる時 史上最悪の心理学実験(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『激闘! 美食のワールドカップ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ザ・プレミアム よみがえる江戸城(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『病の起源 第1集 がん(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『里海 SATOUMI 瀬戸内海(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『完全解凍!アイスマン(ドキュメンタリー』
by chikurinken | 2016-07-23 06:39 | ドキュメンタリー

『ドーピング ロシア陸上チーム 暴かれた実態』(ドキュメンタリー)

ドーピング 〜ロシア陸上チーム・暴かれた実態〜(2014年・独WDR)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ロシア陸連のドーピング問題は
ここから始まった


b0189364_21265291.jpg ロシアで国ぐるみで行われているドーピングの実態を告発するドキュメンタリー。ロシア陸上界の組織的ドーピング疑惑が明るみに出て、ロシア陸連が資格停止処分になったのはつい先日のことだが、そのきっかけになったのがこのドキュメンタリーということである。
 ハヨー・ゼッペルトというジャーナリストがこのドキュメンタリーの案内役で、このゼッペルト氏がかつてロシアのドーピング問題を取り上げた後(媒体は不明)、彼の元に匿名を含む数々の告発メール(もちろんロシアのドーピング問題に関するもの)が舞い込むようになったという。その中に、ロシアのアンチドーピング機関の職員からのものがあり、その職員に話を聞くところからこのドキュメンタリーは始まる。彼の妻はロシアの元トップ陸上選手で実際にドーピングに手を出していた。ドーピングに手を出すこと自体、ロシアでは日常茶飯事で、薬剤も通信販売で購入できるほどである。しかもトップ選手に付く有名コーチが、選手に薬剤を与えその使用法を指導するという。そしてそれは、ソビエト時代から延々と、ロシアのスポーツ界全体で組織ぐるみで行われていることであり(組織のトップ、ひいてはプーチンまで関与している)その根は相当深い。検査担当官には賄賂を送って見逃してもらう他、トップ選手がドーピング検査の対象にならないよう計らったりもするらしい。また偽のサンプルを用意するなどということも行われている。ドーピング検査は世界中で厳格に行われていると思っていたが、こうして話を聞くと割合いい加減である。万一ドーピング検査に引っかかるような選手が出た場合は、その選手の育成を止め他の選手に乗り換えるという、選手の使い捨てのようなことも行われているという。
 このような現状については、内部の関係者も警鐘を鳴らそうとしてきたが、ドーピングの実態を外に漏らした場合、脅迫や制裁が待っていると内部告発者は一様に言う。「交通事故に遭うぞ」という脅しもあるようで、生命の危険にさらされることになる。ロシアなら十分あり得そうな話である。
 今回ゼッペルト氏に告発した職員とその妻の元選手は、非常に勇気ある行動に出たわけだが、身の危険を感じたこともあり、ロシアにいられなくなって他国に移住したという。
 今回のロシア陸連の処分で、すべてが明らかにされ、関係者およびプーチンにもそれ相当の制裁が加えられれば良いがと思うが、なかなかそう思うようには進みそうもない。問題の根は思った以上に深い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『汚れた金メダル 国家ドーピング計画(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『五輪考』
竹林軒出張所『FIFA腐敗の全貌に迫る(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-07-22 07:07 | ドキュメンタリー

『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔』(本)

「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔
森達也著
角川文庫

ドキュメンタリー作家に必要なのは
立ち位置をしっかり決めることだ


b0189364_652542.jpg 著者の森達也は、1996年のオウム騒動渦中に、オウム真理教本部にドキュメンタリー取材を申し込み、その後1年に渡ってオウム真理教の広報担当、荒木浩に密着して映画を製作した。この映画『A』はその後、あちこちで高い評価を受けたが、この本はその撮影経過を記録した『「A」撮影日誌』の文庫版。
 映画『A』は、オウムの中から世間を見るというコンセプトだったらしく、そのために著者は、当然オウムの側にも外の世界にも一切与しないという姿勢を貫いた。ところが世間の側にいる人間から見ると、オウムの味方をしているということになるらしく、そういった心ない中傷も浴びせられたという。しかし著者の姿勢には、逡巡しながらもその立場を貫こうという姿勢が終始垣間見える。そういう部分が映画の成功に繋がったのではないかと思う。
 僕はまだ『A』を見ていないので断定できない部分も多いが、本書から窺えるのは世間の異常な狂騒と、マスコミの画一的な切り口、本質を見ようとしないで空気に流される一般人という図式である。もちろんオウム真理教の一連の事件は、僕自身も薄気味悪さを感じたし恐怖感も感じたが、当時のマスコミ報道の異常さには正直辟易させられた。特に江川紹子や有田芳生がテレビで敵意をむき出しにして教団批判を繰り返しているのに違和感を感じたのも事実。
 著者は、安易な情報を無批判で吸収して、感情だけで考えなしに行動することの危険性を再三指摘する。他の著書とも一貫しているが、自分の目で確かめ自分の頭で考えた上で行動すべきであることを主張し、世間に糾弾される側のオウム真理教の目線で外の世界を見ることで、世間の異常なヒステリー状態をあぶり出していく。実に明解である。もちろんオウム側に対しても、批判的視線を向ける。ただそれは、一般的なマスコミが祭りのようにはしゃいで弱い立場のものを攻撃していく姿勢とは一線を画している。中立性を保ちながら、普通の目で周辺を見ていこうという意図が見えてくるため、1人の表現者として著者には信頼が置けるような気がする。もちろん詳細については『A』を見なければ何とも言えない。しかし少なくとも、この本を読んで無性に『A』を見たくなったのは確かである。金銭的支援がどこからも得られず、ほとんど自主映画のような状態で作り上げた映画、しかも技巧的な編集は極力排除したという映画がどのようなものか是非見てみたいと感じた。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『A(映画)』
竹林軒出張所『A2(映画)』
竹林軒出張所『未解決事件File. 02 オウム真理教(ドキュメンタリー』
竹林軒出張所『FAKE(映画)』
竹林軒出張所『アは「愛国」のア(本)』
竹林軒出張所『死刑(本)』
竹林軒出張所『ぼくに死刑と言えるのか(本)』
by chikurinken | 2016-07-20 06:53 |

『お伽草紙・新釈諸国噺』(本)

b0189364_7345395.jpgお伽草紙・新釈諸国噺
太宰治著
岩波文庫

太宰と西鶴のコラボ

 太宰治が昭和19年から20年にかけて発表した2作品、『新釈諸国噺』と『お伽草紙』を1冊にまとめた本。『お伽草紙』は昔話を、『新釈諸国噺』は井原西鶴の作品を現代小説風にアレンジした短編集である。
 『お伽草紙』は「瘤取り」、「浦島さん」、「カチカチ山」、「舌切雀」の4編で、たとえば「カチカチ山」では、ストーリー自体はオリジナルを踏襲しているが、ウサギがコケティッシュな若い女で、タヌキがそれに翻弄される愚直な男という描き方をする。どれもそれなりに面白くは書かれているが、悪ノリが過ぎるというような印象も受け、あまり趣味が良いとは思えない。
 一方の『新釈諸国噺』は、どれも非常に洗練された話で、ストーリーの奇抜さ、語り口のうまさは絶品である。ストーリーは西鶴のものだが、語り口は太宰の真骨頂というべきもので、話が流れるように進む。太宰は名文家というような評はあまり受けないようだが、小説の神様である志賀直哉より上を行くと個人的には思っている。出典は『日本永代蔵』、『世間胸算用』、『武家義理物語』などで、太宰が西鶴を高く評価していることから広い範囲の西鶴作品からピックアップされている。西鶴の原作に当たってみると分かるが、どの作品も非常にシンプルで、基本的にストーリーを辿るだけという感じである。そこからこの『新釈諸国噺』のような迫真の表現が生み出されたのは、誰あろう太宰の筆力によるところである。エンターテイメントとして非常に優れた短編集ができあがっているが、太宰本人によると「出来栄(できばえ)はもとより大いに不満」ということらしい。
 この岩波文庫版については、巻末に安藤宏による「翻案とパロディのあいだ」と題する解説と高橋源一郎の「母親の文学」というタイトルのはしがき(?)が付いている。安藤の解説は、各作品の成立事情や原作との比較などがあって非常に興味深かったが、高橋の方は正直言ってまったく不要。一般的な文庫本の最後に付いている「解説」と同様の駄文である。2本並べた意味が分からない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『富嶽百景・走れメロス 他八篇(本)』
竹林軒出張所『青空文庫の「ヴィヨンの妻」を読む』
竹林軒出張所『冬の花火 わたしの太宰治 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『女性操縦法 “グッドバイ”より(映画)』
竹林軒出張所『ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ(映画)』
by chikurinken | 2016-07-19 07:35 |

『和解』(本)

b0189364_7353180.jpg和解
志賀直哉著
新潮文庫

自分には好ましく思われなかった

 志賀直哉の中編小説。タイトル通り、父との間の不和が解消するまでの過程を描く私小説である。この間、著者の身辺には、1人目の子どもが死に2人目が生まれるという出来事が起こる。また、尾道、京都、我孫子と引っ越しを重ねており、実家に足が向きにくい状況も語られる。といっても割合頻繁に実家を訪ねてはいる。もちろん実家にいる不和中の父とは会わないわけで、会うのは祖母や義理の母、妹たちとだけである。義理の母は2人の関係に気をもみ、祖母もずっと気にかけている。その一方で自分の妻や、死んだ子ども、生まれた子どもに対する実家の対応に不満を持ったりもする。心情も私小説らしく細かく書き綴られていくが、どことなく日記の域を出ないような印象を受ける。本文中には友人のM、Yなどが出てくるが、Mは武者小路実篤、Yは柳宗悦であると推測できる。「画家のSK」は誰だか分からない(調べたところ九里四郎という人らしい)。
 文章は短いものを重ねていくという志賀直哉らしいもので、世間では彼の文章を名文と褒め称えているが、文章がうまいという印象はそれほどない。むしろ短い文章が拙さを感じさせるような部分もある。「自分は」が多用されるのも下卑た印象をもたらす。
 志賀直哉の人生を知るには良いが、小説としての面白さはあまりない。ただ他の作品(『大津順吉』や『好人物の夫婦』)が書かれたいきさつなども触れられていて、そこらあたりは資料的な価値があるかも知れない。ただしそれも志賀直哉ファンにとってはということだが。
★★★

参考:
竹林軒出張所『わたしの渡世日記 (下)(本)』
by chikurinken | 2016-07-18 07:36 |