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竹林軒出張所

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『脳から見たリハビリ治療』(本)

b0189364_7455868.jpg脳から見たリハビリ治療
脳卒中の麻痺を治す新しいリハビリの考え方

久保田競、宮井一郎編著
講談社ブルーバックス

脳障害とリハビリの科学

 脳障害とリハビリの科学。
 5章構成になっていて、4人の執筆者(久保田競、宮井一郎、ランドルフ・J・ヌード、畠中めぐみ)が1章から4章までを担当し、第5章「どんな病院で治療を受けるのがよいか」は久保田競が執筆している。ちなみに第1章は「リハビリのスーパーマン」、第2章は「脳卒中とリハビリテーション」、第3章は「リハビリで脳が変わる」、第4章は「治療の現場」というタイトルになっており、リハビリが脳障害に果たす機能が、さまざまなアプローチでかなり詳細に書かれている。
 リハビリの本は、いざ探そうとすると意外に少なく、あっても実際のリハビリ手技に関するもの(「自宅でのリハビリ」みたいなもの)ばかりで、科学的にアプローチするものは皆無に近い。僕自身はリハビリを通じて機能改善がどのように進むかを知りたかったため、この本も期待したものとは少々違っていたが、それでも障害で失われた脳の機能が本来とは違う脳部位で果たされるようになるとか、あるいは治療の現場の話とかは非常に興味深い部分であった。ブルーバックスらしい真摯なアプローチの本である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命(本)』
竹林軒出張所『新しいリハビリテーション(本)』
竹林軒出張所『リハビリの結果と責任(本)』
竹林軒出張所『よみがえる脳(本)』
竹林軒出張所『奇跡の脳(本)』
竹林軒出張所『壊れた脳 生存する知(本)』
竹林軒出張所『音楽好きな脳(本)』
by chikurinken | 2016-04-30 07:45 |

『再起する脳 脳梗塞が改善した日』(本)

b0189364_19521358.jpg再起する脳 脳梗塞が改善した日
渡辺一正著
幻冬舎ルネッサンス

医学界の「常識」を覆す体験

 大手銀行で遣り手社員として活躍していた著者は、ある日突然脳梗塞で倒れ、生活が大きく変わってしまう。急性期(1〜2カ月)を過ぎてから本格的にリハビリを行うが、結局右半身が麻痺した状態で退院を余儀なくされる。そのとき医師からは「いくらリハビリを続けても、元通りの身体には戻らない」と言われる。医学界の常識では、麻痺が改善するのは発病後6カ月までとされており、医師は患者の心情を考えずにそういうことを平気で言うのである。
 だが著者は、そういう固定概念に疑問を抱き、自らリハビリについて勉強し自主トレを続ける。会社にも復帰し、通勤時にもその自主トレを行うなどしたところ、3年後に右の親指が動き出した。その後他の指も徐々に動きだし、多くの作業ができるまでに回復する。入院前に好きだったゴルフまでできるようになり、走ることさえできるようになったと言うのだ(ただし著者の妻に言わせると、走っているように見えないらしいが)。
 「脳の可塑性」を信じて、執拗に機能回復にこだわった1人のサラリーマンの闘病と復活の過程が具体的に書かれていて、非常に読みやすく、いろいろと参考になる。特に「回復は6カ月まで」という「医学的常識」が必ずしも常識でないことを訴える姿は圧巻である。他の本(竹林軒出張所『奇跡の脳(本)』)でも8年かけて回復したなどという事例が紹介されている。自分の身体のことを他人に規定される必要もないし、改善を求めて努力することは必要であるということがよくわかる(現状の受容は必要であるが)。同じ病気になった人にとっては福音と言っても良い著書である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『奇跡の脳(本)』
竹林軒出張所『壊れた脳 生存する知(本)』
竹林軒出張所『脳は奇跡を起こす(本)』
竹林軒出張所『リハビリの結果と責任(本)』
竹林軒出張所『脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命(本)』
竹林軒出張所『よみがえる脳(本)』
by chikurinken | 2016-04-28 07:51 |

『壊れた脳 生存する知』(本)

b0189364_8301586.jpg壊れた脳 生存する知
山田規畝子著
角川ソフィア文庫

脳内出血を経験した医師が伝える
高次脳機能障害の世界


 もやもや病のために脳内出血を患った医師が、自分の障害について率直に綴ったエッセイ。
 著者、山田規畝子は、脳内出血をなんと三回経験しているが、中でも三度目の出血は大量(150グラム)で、そのために「一生植物状態になるかも知れない」(医師談)というひどいものだった。一度は意識がなくなるもその後取り戻し、徐々に身体の機能も回復していった。それでも脳には高次脳機能障害が残り、身体も麻痺している。高次脳機能障害は2回目の出血後もあり、見た目が普通であることから他人にその障害を理解されにくい。なぜこんなことができないのかという目で見られるため、本人の中でどういうことが起こっているかを他人に知らせるために書いたのがこの本だということである。
 また著者自身が、自分の障害自体を興味の対象として観察している様子も印象的で、さまざまな景色がどのように見えるか、健常だったときとどのように違うかについて記述しているのも非常に興味深い。それはまさに普通では経験できない世界で、ワンダーランドとも言える世界である。たとえば階段が線にしか見えない、新聞の記事をどのような順序で読めば良いか分からないなどという状況は、普通に暮らしていれば絶対に分からないし、そういう症状で困っている人がいても、その状況を知らなければ共感することすらできない。そういう意味では、こうやって高次脳機能障害の世界を本で知らせてくれるのはありがたいことである。著者が医者でありなおかつ好奇心旺盛という部分がうまい方に働いている。
 また、著者が入院していたときに、医師や看護師に暴言(「医者のくせに」など)を浴びせられたりひどい扱いを受けたことも綴られている。病院によっては確かにそういう部分が存在すると、大いに共感できる部分である。
 著者は退院後病院に復帰し、患者のサポートを行っていたらしいが、これは著者が恵まれた環境にいたことが大きい。普通の人は、障害を抱えたままではなかなか社会復帰できないものである。病気についても、家庭環境や金がものを言うというのは悲しいことではあるが、それが現実である。もちろんそういった恵まれた立場であるからこそ、こうして外部の人間に内的世界を知らせる伝道師の役割を果たせるわけで、我々にとってはありがたいことではある。医師が書いた脳卒中という点では、『奇跡の脳』とも共通しているが、それぞれ症状が違うためアプローチが異なり、どちらも稀少な世界を描くことに成功した貴重な本である。
 なおこの本だが、マンガ化されている他、ドラマ化もされている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『奇跡の脳(本)』
竹林軒出張所『脳は奇跡を起こす(本)』
竹林軒出張所『再起する脳 脳梗塞が改善した日(本)』
竹林軒出張所『脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命(本)』
竹林軒出張所『よみがえる脳(本)』
by chikurinken | 2016-04-27 08:31 |

『奇跡の脳 ― 脳科学者の脳が壊れたとき』(本)

b0189364_22201733.jpg奇跡の脳 ― 脳科学者の脳が壊れたとき
ジル・ボルト・テイラー著、竹内薫訳
新潮文庫

右脳が潜在的に持つ
不思議な感覚を疑似体験


 脳科学者である著者自らが脳内出血で倒れ、それから復帰するまでを詳細に書いたのがこの本。
 著者は、能動静脈奇形(AVM)を生まれつき脳内に持っていたが、37歳のときにそれが破れ、左脳に出血を起こす。つまり脳卒中であり、そのまま病院に担ぎ込まれたが、出血箇所が大脳の言語野付近であったため、高次脳機能障害が残ることになった。
 しかし同時に、論理的な左脳がダメージを受けたため、感覚的で直感的な右脳の働きが相対的に強くなって、自分が宇宙と一体化したような不思議で平和的な感覚を得ることになる(これは発病時からあったらしい)。この感覚は、社会復帰を目指してリハビリを行う過程で徐々に失われていき、最終的には(左脳が持つ)元の論理的な要素が戻ってくることになる。もちろんこれは社会復帰に繋がるわけだが、一方で著者は、あの宇宙と一体化したような不思議な感覚にも懐かしさを覚える。その過程で右脳の働きに脳科学者として多大な関心を抱くと同時に、あらためて脳の偉大さにも気付くことになる。この本の面白いところは、このように、脳科学者が、脳の機能が失われる(そして取り戻される)過程を脳の専門家として内側から観察した点にある。
 その後、著者は8年間のリハビリを経て(周囲の人々の助けももちろんあり)、(大学の教員として)社会復帰を果たす。この本は、脳卒中の経験を記した本としても価値があるが、同時に、一人の脳科学者が知覚した右脳の持つ不思議な感覚、そしてそれがもたらす至福の感覚などについても記述されていて、そういう点が特に興味深い。著者が本書で記述している右脳の感覚は、瞑想とか無我の境地とかに通ずるものなんではないかと勝手に想像しているが、著者の報告が、右脳の潜在能力の解明につながる可能性もある。そういう意味でこの本自体にも潜在性を感じる。
 翻訳は少々行きすぎな気もしないではないが(あまりに子どもっぽい表現が多い)、読みやすく分かりやすいのは間違いない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『壊れた脳 生存する知(本)』
竹林軒出張所『脳は奇跡を起こす(本)』
竹林軒出張所『再起する脳 脳梗塞が改善した日(本)』
竹林軒出張所『脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命(本)』
竹林軒出張所『よみがえる脳(本)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『音楽好きな脳(本)』
by chikurinken | 2016-04-26 07:19 |

『重版出来』(2)(ドラマ)

重版出来 (2)(2016年・TBS)
演出:土井裕泰
原作:松田奈緒子
脚本:野木亜紀子
出演:黒木華、オダギリジョー、永岡佑、坂口健太郎、松重豊、中江有里、前野朋哉、荒川良々、安田顕

b0189364_856857.jpg少し新しさが見えてきた

 マンガ雑誌編集部を舞台とするマンガが原作のドラマ。
 第1回目はあまりに予定調和でガッカリだったが、第2回目は内幕ものとしてそれなりによくできていた。相変わらず主人公がハイパーな力を発揮するという点は変わりないが、この回は脳天気さが周囲に良い影響を与えるという、比較的リアリティのある展開で違和感がない。
 また今回は出版社の営業部がモチーフになっていたのも割合新鮮である。編集志望で出版社に入ったが営業部に回されやる気のない日々を過ごしている営業マン(坂口健太郎)が話の中心になっているが、これなんかは非常にリアリティのあるモチーフである。性格の違う主人公(黒木華)が(本人は意識せずに)この営業マンに仕事への取り組み方のヒントを与えるというストーリーも自然に流れる。比較的ありふれた展開ではあるがそれはまあご愛敬。
 次回以降は主人公がマンガ家の担当になるということで、再び編集部中心の話になりそうだが、もう少し見ても良いかなと思わせるような展開になってきた。
 生瀬勝久が営業部長を演じていたが、彼には異常な役が多いという印象があり(いまだに「槍魔栗三助」のイメージがあるし)いつもはそっちの方で好演しているわけだが、こういう普通の役も実にうまく演じていたのが僕としては意外だった。オダギリジョーも良い味が出てきた。黒木華は相変わらずオーバーアクトでいただけない。中江有里が書店員役でゲスト出演していたが、ドラマで見るのは随分久しぶりである。書店員(マンガ担当だが)役とはなかなか考えたもんだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『重版出来 (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (1)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (7)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『トキワ荘の青春(映画)』
竹林軒出張所『舟を編む(映画)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
by chikurinken | 2016-04-24 08:56 | ドラマ

『重版出来』(1)(ドラマ)

重版出来 (1)(2016年・TBS)
演出:土井裕泰
原作:松田奈緒子
脚本:野木亜紀子
出演:黒木華、オダギリジョー、松重豊、永岡佑、荒川良々、高田純次、安田顕、滝藤賢一、ムロツヨシ

b0189364_822217.jpgなるようにしかならない
予定調和なドラマ


 マンガ雑誌編集部が舞台のマンガが原作ということで、内幕ものとしてかなり期待して見始めたが、正直あまり見所がなかった。素材が部外者でも想像できるようなものばかりで目新しさがない上、第1回目は、新入社員が難題を解決するという、あり得ない予定調和で終わってしまった。むしろ手も足も出せずにことの成り行きを見守る新人という展開が自然で、そうなるのかと思って少し期待していた僕がバカだった。
 昨今のテレビドラマにそういうまっとうな演出を期待すること自体無理があったと後で気が付いた。だがこんなに単純な予定調和な終わり方で良いのかとも思う。なるようにしかならないドラマなんて面白くもなんともないんじゃないか。
 主人公は、体育大学柔道部出身でしかも元オリンピック強化選手という設定。膝のケガでオリンピックを断念し、新卒で出版社に入り、マンガ編集部に回される。その彼女が、持ち前の明るさとバイタリティで編集部に新風を巻き起こすという(かなり)ありきたりなストーリー。演じるのは黒木華という、あまり華のない女優(当初は能年玲奈や有村架純がやる予定だったとかいう噂もある)。かなりのオーバーアクトが鼻に付く。周りには結構面白い役者を集めているが、演出がありきたりであまりキャスティングの面白さは感じられなかった。今回の新番組も一応チェックして、唯一期待できそうな番組だったんで見てみたが、残念ながら期待外れだった。もう1回くらい見るかも知れないが今のところあまり興味は沸いていない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『重版出来 (2)(ドラマ)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (1)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (7)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『トキワ荘の青春(映画)』
竹林軒出張所『舟を編む(映画)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
by chikurinken | 2016-04-23 08:03 | ドラマ

『よみがえる脳』(本)

b0189364_22473720.jpgよみがえる脳
生田哲著
ソフトバンク・サイエンス・アイ新書

「脳神経の再生」の話はあるが
焦点は随分ずれている


 「脳は環境の変化に対応し、何歳になっても、絶えず変わりつづける」という長い副題が付いているので、脳神経の再生についての本だとばかり思っていたが、脳神経の再生の話は序盤で終わってしまった。それに、「脳神経の再生」というよりもむしろ「脳神経の再生をめぐる学界内での争い」みたいな部分に焦点が当てられ、知りたいのはそういうことじゃないんだと思いながら読んでいた。
 ましてや後半に至っては「欝病治療にエクササイズが効果あり」みたいな話が延々と続いて、すっかり飽きてしまう。そういう話は他の本でも随分紹介されていて、今さら感が強い。おかげで読み終わるまで随分時間がかかった。
 総じて脳科学に関する読みものを適当に集めたという雑誌的な作りになっていて、読みやすくはあるが面白味に欠ける。新書にしては(内容や分量から考えても)高価なのもマイナス点である。
★★★

参考:
竹林軒出張所『脳は奇跡を起こす(本)』
竹林軒出張所『脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命(本)』
竹林軒出張所『奇跡の脳(本)』
竹林軒出張所『壊れた脳 生存する知(本)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『音楽好きな脳(本)』
by chikurinken | 2016-04-21 06:33 |

『脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命』(本)

NHKスペシャル 脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命
市川衛著
主婦と生活社

b0189364_7384618.jpg脳卒中による機能不全に対する
新療法の紹介


 2011年にNHKスペシャルで放送された『脳がよみがえる 〜脳卒中・リハビリ革命〜』の書籍版。脳卒中で身体機能が不全になったとき、発症後6カ月を過ぎれば機能回復が望めないとされてきた従来の一般論を覆すさまざまな(当時)最新の知見を紹介するもの。紹介されている(最新)療法は川平法、電気療法、褒めることなどで、内容的にはテレビ版とほぼ同じ。ただしどの項目もテレビ版より詳しい。これはある意味当然だが、一方で具体的な事例、たとえばある患者の機能がどの程度進歩したかは映像でないためよくわからない。テレビ版の補完として読んでくれということなんだろう。
 そのためテレビ版を見ることができないと片手落ちになるわけだが、良くしたもので、ネットを検索すると無料配信されているサイトがあった(dailymotion『脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命』)。興味のある方は是非参照されたい(著作権を顧みずに投稿されたものらしいので、いずれ削除される可能性が高い)。
 テレビ版では、本書で紹介されている患者が実際にどのように改善していくかがよく分かる。また、構成もよく練られていてまとまりがある。キャスターに脳卒中経験者のNHKアナウンサーを起用したのも良い効果を上げている。
 一方の本についてだが、各章の最後にその章のまとめのページがあり、大変わかりやすい。ただし一方で素人向けの体裁になっていて、見てきたものをそのまま野次馬的に紹介しているという印象であるため、物足りなさは残る。読みやすく分かりやすいのは確かであるが。テレビ番組だとそういう部分は気にならないんだが、そのまま本にしてしまうと軽さばかりが目立ってしまう。これは難点である。
★★★☆

参考:
dailymotion『脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命』
竹林軒出張所『奇跡の脳(本)』
竹林軒出張所『壊れた脳 生存する知(本)』
竹林軒出張所『よみがえる脳(本)』
竹林軒出張所『ヒマラヤ8000m峰 全山登頂に挑む(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-04-20 07:39 |

『T(ERROR) FBIおとり捜査の現実』(ドキュメンタリー)

テラー / T(ERROR) FBIおとり捜査の現実 前後編
(2015年・米Lyric R. Cabral& David Felix Sutcliffe)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

(別の意味で)怖いアメリカ社会

b0189364_852622.jpg テロの恐怖に支配されている現代アメリカ。在米のイスラム教徒にちょっとでも怪しげな動きがあれば、冤罪だろうが何だろうが片っ端から逮捕し収監する。そういったテロリスト容疑者は、FBIが情報提供者(Informant)と呼ばれる人々を使って罠にはめる。たとえば情報提供者がテロリスト・キャンプへの参加を容疑者に呼びかけてそれに乗ってきたら即逮捕。その際、その状況の記録(録音や録画)が証拠になる。
 このドキュメンタリーは、FBIが情報提供者をどのように利用して容疑者を逮捕しているかその実態を明らかにする100分の映像で、『BS世界のドキュメンタリー』では前編・後編に分けて放送された。
 FBIの情報提供者は現在全米に1万5千人を数える。FBIは、かつて何らかの罪で有罪になった人々に持ちかけて、罪の軽減と引き換えに情報提供者になるよう説得する。この番組で密着する情報提供者は、60年代からブラック・パンサー党のメンバーとして活動していたサイードという男で、この男も収監中に情報提供者になることに決めた。普段は一般社会の中で生活しているが、ひとたびFBIからミッションが出れば、容疑者に近づいて友人になり、犯罪の証拠を引き出すことでFBIの逮捕に協力するという、いわゆる「おとり捜査」に関わる。報酬はかなりの額が出るようだが、危険な仕事であることには変わりない。本人は「民間の刑事」だと自称しているが、FBI側にしてみれば使い捨てである。つまり容疑者に面が割れたりして使い物にならなくなれば即解雇だ。
 今回、そのサイードがピッツバーグでの任務を与えられた。そのターゲットが怪しいムスリム、カリファ。サイードはカリファに接近することに成功し、少しずつ関係を強化していくが、FBI側のミスがきっかけになり、カリファがサイードに疑いを持ち始める。
b0189364_854313.jpg そんな折(ここからは後編になるんだが)、取材班は今度はカリファ側にインタビューを申し込む。自分の身辺がFBIに狙われていることに感づき始めたカリファはインタビューに応じ、サイードがあまりにテロのことを煽動するなど、少し妙な部分を感じていることや、FBIが身辺に迫っていること、自分がテロにまったく関与していないことなどを訴える。カリファ自身も、FBIから自分の身を守るため、ムスリムの人権擁護組織や弁護士などに接触しようとする。一方でサイードの方もFBIにカリファはシロだと伝え、自分の正体もばれていることを訴えるが、FBIは接触を継続するよう要求する。
 やがてカリファは自分の身を守るために記者会見を開くことにするが、その記者会見の前にとうとうFBIに拘束され、収監されてしまう。容疑はなんと銃の不法所持! それもSNSの写真が証拠として採用される。
 このドキュメンタリーでは、カリファが逮捕される瞬間もしっかり映像に収められ、非常に臨場感、緊迫感がある。結局カリファには禁固8年の刑が下った。彼が実際にやったことといえば、アメリカ政府に対する不満を語ったことと、軍事関係やイスラム関係の本を大量に所持していたことぐらいのもので、これだけで逮捕されるのに恐怖を感じる(銃の所持は手続きさえしっかりしていれば合法)。現代アメリカで人権(特にムスリムの人権)がいかに軽視されているかが、このドキュメンタリーからあぶり出される。もう「冤罪」などというレベルでなく、危なそうだったら罪をでっち上げて排除するという構造が見えてくる。今のアメリカは、70年代の中南米軍事政権あるいは旧共産圏並みの後進性を露わにしている。アメリカで一番危ないのは、テロリストではなく政府である……ということがよく分かるドキュメンタリーだった。
サンダンス映画祭審査員特別賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『そして、兄はテロリストになった(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『フランスで育った“アラーの兵士”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
竹林軒出張所『報道の自由と巨大メディア企業(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ウォール街の“アンタッチャブル”(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-04-19 08:06 | ドキュメンタリー

『ルーブル美術館を救った男』(ドキュメンタリー)

ルーブル美術館を救った男(2014年・仏Ladybirds Films)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ルーブル美術館の陰の歴史

b0189364_19395239.jpg 第二次大戦中、パリを占領したナチスからルーブル美術館の数々の至宝を守った男の話。
 第二次大戦が始まりナチスが快進撃を始めたとき、ルーブル美術館の館長ジャック・ジョジャールは、ナチスがやがてパリに迫ってくることを懸念して、ルーブルの数多の名品をいち早く地方の美術館などに分散疎開させる。やがてジョジャールの予想どおり、ナチスはパリを占領し、ルーブルも支配下に収める。ナチスはルーブルの美術作品に野心を抱くが、ドイツから派遣されたフランスの占領美術担当フランツ・ヴォルフ・メッテルニヒ伯爵は、むしろジョジャールの疎開方針に対して好意的で、ナチスの(美術品を差し出せという)圧力に対し、ジョジャールと協力しながら抵抗していく。
 しかしナチスの圧力はとどまるところを知らず、疎開できなかったルーブル在の美術品は略奪されていく。また、フランス南部に成立した親ナチスのヴィシー政権は疎開された美術品を懸命に探し出してドイツに拠出しようとしていた。こういった作品群についてもルーブルに残っていた元職員ローズ・ヴァランが丹念に流出先の記録を残すなどする。
 やがてナチスが敗北すると、ルーブル美術館に数々の名作が戻ってきて、略奪されたものについてもヴァランの丹念な記録を辿ってほとんどは復活した。のちにジョジャールは、その功績もあり文化相事務局長にまで上り詰めるが、(かつてカンボジアから美術品を略奪した)アンドレ・マルローが文化相になる(竹林軒出張所『盗まれたクメール石像(ドキュメンタリー)』を参照)と、反りが合わなかったのか1966年役職を解任される。そしてその後ジョジャールは生涯ルーブルに戻ることはなかった。
 こういったルーブルの陰の歴史を紹介するドキュメンタリーがこれで、途中、アニメを混ぜながら再現していく。ルーブルや美術に興味のある向きには面白いかも知れないが、僕なんかは正直あまり感慨はなく「あ、そうですか」というぐらいの感じであった。分かったことは、敵国人にもものごとに対して理解のある人がいるし、自国人にもそういう感覚に鈍い人がいるということだ。『大いなる幻影』を少しイメージさせるような話である。
2015年国際エミー賞芸術番組部門賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『盗まれたクメール石像(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『大いなる幻影(映画)』
by chikurinken | 2016-04-17 19:41 | ドキュメンタリー