ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

<   2016年 03月 ( 16 )   > この月の画像一覧

『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』(本)

仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン
横田増生著
小学館

いびつに歪んだ宅配便産業から
アマゾンの非道が照らし出される


b0189364_1943511.jpg 『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』(以下を参照)の著者による宅配便産業(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便など)の内部事情。
 著者によると、宅配便産業が2000年代になって低収益産業になってしまい、結果的に宅配便産業の労働者にそのしわ寄せが来ているだけでなく、各社による荷物の取り扱いもぞんざいになっているという。その一例が数年前にヤマト運輸で発覚した問題で、クール便がずさんな温度管理で取り扱われていたというあの事件(憶えておられる方がどれくらいいるかわからないが)。しかも今でも、荷物の仕分けセンターでは温度管理がずさんに行われているらしい。
 要するに現状では労働者に対する負担が重すぎるわけで、そのくせ労賃が安いと来ている。これは佐川急便でも同様であり、各社の内部事情がこの本で細かく報告されている。著者はかつて物流業界紙で編集長を勤めていた人であるため、物流関係には強いようで、その強みがこの本でもうまく発揮されていて、結果的に宅配便産業の問題点がうまくあぶり出されている。
 そのような傾向に拍車をかけたのが、ネット通販(特にアマゾン)の「送料無料」キャンペーンであり、これを実現するため各社が料金の値下げを余儀なくされた。結果的に各社の利益率が下がり、しかも再配達などでドライバーの手間も増えた。要するにアマゾンのシェア拡大には、宅配便産業およびその労働者の出血が必要だったということなのだ。佐川急便などは、そのあたりに気付いてアマゾンとの取引を止め、料金を健全な範囲に戻すということを行っている。ヤマトも現在アマゾンとの取引には慎重で、そのため日本郵便がアマゾンの仕事を受けているという。結果的に日本郵便はシェアについては大幅に拡大することができた。ただしシェアが増えても取引のうま味がないため、これがいつまで続くかは分からない。
 著者の主張は「送料無料」などというのは基本的にあり得ないシステムだというもの。「送料無料」と主張してもその送料を通販会社がすべて負担しているわけではなく、相応の負担を輸送会社にも強いているわけである。著者の主張はごもっともで、現在の通販業界の価格設定、特に無料送料システムは、普通に考えたら明らかにおかしく、あまりにいびつである。そのしわ寄せがどこに来ているかが明らかになったという点だけでもこの本に価値があると言える。
 なお、この著者の得意技である潜入ルポはこの本でも行われており、ヤマトと佐川の両方に潜入(といってもバイトだが)して内部事情を暴いている。ただし今回の本は「潜入」だけが目玉でなく、しっかり問題点を浮き彫りにしている点が評価できる(前の本の「アマゾン潜入」はあまりにチープだった)。また、各社のトラックに同乗して実際の宅配の現場の仕事を体験するということもやっているため、宅配便産業を多角的に照射することが可能になっている。
 いずれにしろ、アマゾンを利用する際は、送料無料サービスが宅配ドライバーの犠牲の上に成り立っていることを肝に銘じておかなければならない。アマゾンがアメリカ型の利己主義企業だということが改めてあぶり出されており、この本の価値もそこらあたりにあると言える。
★★★☆

参考:
竹林軒『百円ショップを巡りながらこう考えた』
竹林軒出張所『低価格時代の深層(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『模倣品社会 〜命を脅かすコピー商品〜(ドキュメンタリー)』

--------------------------

 以下、以前のブログで紹介した同じ著者の『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』に関する記事。

(2005年7月31日の記事より)
b0189364_19441520.jpg潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影
横田増生著
情報センター出版局

 Web書籍・CD販売業のアマゾンに、出荷担当(ピッキングという作業)として下働きし、ベールに包まれているアマゾンの秘密を白日の下にさらそうと奮闘したルポ。タイトルでは「潜入」となっているが、どちらかといえば「体験」に近い。
 アマゾンは秘密主義を貫いているようだが、Amazon USAのピッキング現場は、テレビでも取り上げられているし、正直なところそれほど目新しくない。「光と影」というタイトルから想像できるように、アマゾンの暗部を照らし出すのが著者の目的のようだが、「下働きが時給900円でストレスの多い作業をさせられている」というだけでは、あまり(告発としての)説得力はないと思うが。ストレスは多いかも知れないが、比較的楽な仕事のようにも思えるし、時給900円ってそんなにひどいかな? 職場が近くならやっても良いなと思ったぞ。
 最後の方で山田昌弘著の『希望格差社会』を取り上げて、アマゾンの労働システムと日本社会の弱肉強食化(またはグローバリズム)を結びつけようとしているが、これもどうかと思う(そもそも『希望格差社会』の主張自体が眉唾だ)。今から20年ほど前、私もアルバイターをやっていてあちこちの職場を渡り歩いたが、アマゾンのピッキング現場くらいの条件はいくらでもあった(「オレは機械じゃねえや」と思ったことなんかしょっちゅうだ)し、賃金だってもっと安かったよ。
 アマゾンがろくでもない企業で本当にあくどいことをやっているんだったら今後利用するのをやめようと思っていたが、そういう期待には、残念ながらこの本は応えていない。もっとも読み物としてはそこそこ楽しめる。あくまでもアマゾン・バイト体験記としてね。
★★★
by chikurinken | 2016-03-31 07:43 |

『名前を失くした父』(ドキュメンタリー)

名前を失くした父 〜人間爆弾“桜花”発案者の素顔〜(2016年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

「桜花」は散らずに禍根を残した

b0189364_8134035.jpg 太平洋戦争末期、大日本帝国海軍は人間が乗って操作するロケット弾(要は人間爆弾)「桜花」を開発し、敵の軍艦を殲滅させるためこの「桜花」を戦場に投入することを決定した。これはカミカゼ特攻隊が登場する前で、自爆を前提に徴集された兵士には複雑な思いがあった。
 この「桜花」による攻撃を提案したとされるのが太田正一という海軍中尉で、この人は元々時分も操縦席につくつもりだったと伝えられるが、結局は終戦まで搭乗することはなかった。もっともそれ以前に、桜花には2トンもの重さがあったため、これを搭載した飛行機の小回りが利かなくなり、敵艦に近づく前に敵の戦闘機に打ち落とされたという現実がある。作戦は勇ましいものであったが、現実性には乏しかった。犠牲者は200人以上に上り、作戦は完全な失敗に終わった。
 だがこの太田正一、終戦後は、生き残った特攻兵らから突き上げを喰らったり、あるいは本人にも罪の意識があったりしたせいか、戦後すぐ零戦に乗って自殺を図ったりしている(結局漁船に助け出される)。その後は、杳として行方が分からなくなり、世間の表舞台に出ることはなくなった。
 しかし太田は、偽名を使って別人になり生きのびていた。ただし偽名で戸籍がないため、まともな職に就くことができず、随分苦労したらしい。その後結婚するも、妻や子どもにも永らく正体を隠していた。
b0189364_81428.jpg 太田の子息である大屋隆司さんは、その後太田が偽名を使っていたことや彼のかつての仕事のことを知り、それに対して割り切れなさを感じ、同時に罪悪感も感じていた。すでに死去している太田が生前何を考えていたかも彼にとって謎であった。そこで、戦時中太田を知っていた生き残りの人々に会って、太田の周囲について明らかにしたいと考える。その後を追いかけたのがこのドキュメンタリーである。
 その取材過程では、桜花に乗せられることになっていた兵士から恨まれていたことなどが分かる。同時に太田は単なる犠牲者だと考える人もいる。軍が上から自爆攻撃の作戦を下達することはできないため、下(つまり太田)から提案された形にしたというのである。さらに太田が死の直前、高野山で自爆攻撃の犠牲者に参拝していたことやその直後に自殺未遂を起こし保護されていたことなどもわかり、太田が持つ贖罪の意識が明らかにされる。
 このドキュメンタリーでは、一つの罪がある人の人生に落とす影、そしてその子孫までもがその影響を受けることなどが明らかになっていく。「桜花」については昔松本零士のマンガで見て知っていたが、その開発にこんな陰があったことはまったく知らなかった。いろいろ感じるところが多かった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『特攻 〜なぜ拡大したのか〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでみる太平洋戦争(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『遺族(ドラマ)』
by chikurinken | 2016-03-29 08:14 | ドキュメンタリー

『新・映像の世紀 第6集』(ドキュメンタリー)

新・映像の世紀 第6集 あなたのワンカットが世界を変える(2016年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

21世紀……それは「新」しい「映像の世紀」

b0189364_2134577.jpg 『新・映像の世紀』シリーズのスタッフがもっとも訴えたかったことはこれだな……というのがわかる。それがこの第6集である。誰もが撮影し、そしてそれを公開できる時代。そしてその映像が、世界中の多くの人々に影響を及ぼすこともある。映像という観点で見ると、21世紀はまったく新しい時代であり、つまり「新」しい「映像の世紀」なのである。
 たとえば、アラブ諸国で起こったいわゆる「アラブの春」では、1本の映像が人々の怒りの感情を呼び起こしてそれが革命にまで繋がった(チュニジアのジャスミン革命)他、政府の弾圧の様子が映像として公開されることで反政府運動が進展している(エジプトやシリア)。
 実際今ニュースで流されている映像の多くは一般人が撮影した映像で、もはや一般人の映像が持つ影響力は侮れなくなっている。考えようによっては、歴史を変える力さえ持っている。
b0189364_2134257.jpg 一方で9・11では、ワールド・トレード・センターが崩壊する映像が米国のテレビで何度も何度も流され、それが米国民の怒りの感情を煽ってきて、結果的にアフガニスタンやイラクでの戦闘を生み出すことに繋がっている。こういう状況を鑑みると、まさに歴史を作る原動力が映像になっていると言っても過言ではないわけだ。
 このドキュメンタリーでは、そういう新しい現状を訴えており、確かにその通りだと思う。この番組を見ることで、改めて現代という時代を見直すきっかけになると同時に、情緒的な映像にむやみに踊らされないことが重要だと認識し直すきっかけにもなった。主張が非常に明快なドキュメンタリーで、これまでのシリーズはちょっと物足りなかったが、この第6集は1本のシリーズの締めにふさわしい充実した内容になっていた。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第2集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第3集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第5集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ネットが革命を起こした(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『報道の自由と巨大メディア企業(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-03-27 07:33 | ドキュメンタリー

『京都人の密かな愉しみ 冬』(ドキュメンタリー)

京都人の密かな愉しみ 冬(2016年・NHK)
NHK-BSプレミアム ザ・プレミアム

あらぬ方向に進み始めた

b0189364_18518100.jpg 前のところ(竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 夏(ドキュメンタリー)』)で書いたが、やはり予想どおり、続々編の冬版が登場した。前回最後に登場した謎の女性(シャーロット・ケイト・フォックス)の正体が明らかになる。ヒースロー教授(団時朗)のフィアンセ(と言っても女性の方が一方的にそう思っているんだが)、エミリー・コッツフィールドで、イングランドから京都まで追いかけてきた言語学者という設定である。ま、ちょっと無理があるが。
 シャーロット・ケイト・フォックスが京都弁を使うのはかなり違和感があるが、日本語のリズムは非常にこなれていて感心した。これはNHKの朝の連続テレビで見たときも感じたことで、よく勉強する人なんだろうなと思う。要は日本語のリズムにまったく違和感がないのだな。たとえば『キル・ビル』のユマ・サーマンの日本語を聞くと、日本語を知らないアメリカ人が話す日本語がどれほどのものかよく分かる。そういう思わず苦笑してしまうような変なリズムがシャーロットにないのは、今回も同様なんである。京都弁については無理に話させる必要があったのか疑問。
 一方エミリーのモノローグ(多くは京都人や京都の習慣に対する不信感だが)については友近が語っているが、相当シニカルな見方が展開され、あまりのことにエミリーが非常に意地の悪い人のように映る。
 例によって、ほとんどの部分はドラマで構成されていて、ところどころ料理コーナーやドキュメンタリー的な部分が挟まれるという構成である。またこれまでと同じように、ミニドラマが2本挟まれている。ただし前回よりも内容は浅目。
 本編ドラマもまあそれなりに面白いが、なんと言っても一番目を引くのがエンドロールで、番組に登場してきたシーンが、武田カオリの『京都慕情』を背景にして流れる。これが情緒的でとても良い。
 ドラマはまだ続きそうなので、次が秋、その次が春という感じで続いて、最終的にそこで終わるのかなと思ったりする。ドラマのストーリー自体は、なんだかちょっと変な方向に進んで、先ほども言ったが無理が生じてきている。適当なところで収束させるんだろうが、せっかくなんでうまいことやってほしいなとは思う。今回も脚本、演出は映画監督の源孝志であった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 夏(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 月夜の告白(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 桜散る(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ blue 修行中(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『漱石悶々(ドラマ)』

--------------------------

 以下、以前のブログで紹介した『キル・ビル』についての評(再録)。

(旧ブログ2005年1月22日の記事より)
キル・ビル vol.1(2003年・米)
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:ユマ・サーマン、ルーシー・リュー、ダリル・ハンナ、千葉真一、風祭ゆき、栗山千明、ジュリー・ドレフュス

b0189364_9495437.jpg 「深作欣二に捧げる」という字幕が冒頭に出る。なるぼど深作欽二ね。確かにそういう映画です。
 30代以上の日本人が見たらいっそう楽しめるかも知れない。かつてのアニメやB級時代劇のパロディというかオマージュというか、とにかくそういうのが満載。音楽や効果音、映像なども凝っていて、いろいろ発見する楽しみがある。
 こういう殺伐とした映画は好みがあると思う。はっきり言って私は嫌いだが、それでも随所に楽しめる要素がちりばめられており、思わずニヤッとしてしまう。
 端役で出ている風祭ゆきの名前が、冒頭のテロップで主役級の役者と同等に並べられていた。日活ロマンポルノでものすごい演技をしていた女優であるが、タランティーノも日活ロマンポルノを見たのだろうか。何となく、タランティーノが同世代の日本人映画ファンであるかのような錯覚を持ってしまう。
 蛇足であるが、主役級のアメリカ人がしゃべる奇怪な日本語はいただけない。あのトツトツとした日本語を聞くと興が冷める。そもそも、こんな(外国人がしゃべるには)無理のある台詞を、日本語がしゃべれない役者にしゃべらす方が問題だ。日本向け上映については、その部分だけ日本人の声優に吹き替えてもらった方が良いんじゃないかと思った。
★★★
by chikurinken | 2016-03-25 07:49 | ドキュメンタリー

『冬の華』(映画)

b0189364_8123966.jpg冬の華(1978年・東映)
監督:降旗康男
脚本:倉本聰
音楽:クロード・チアリ
出演:高倉健、池上季実子、北大路欣也、池部良、田中邦衛、藤田進、三浦洋一、倍賞美津子、夏八木勲、小池朝雄、寺田農、峰岸徹、小林亜星、小林稔侍、岡田眞澄、大滝秀治

モダンな昭和残侠伝

 監督降旗康男、脚本倉本聰、主演高倉健と、『駅 STATION』と共通のメンツ。キャストもかなり共通している。ある意味、『駅 STATION』の序章と言えなくもない。ただし内容は『駅』と違ってヤクザ映画。ヤクザ映画と言えば東映、そして高倉健。この映画も東映製作である。とは言うものの、かつての東映ヤクザ映画とは少し趣が異なる。なんせ「東映ヤクザ映画の見過ぎだ」というセリフまで出てくる。このセリフから分かるように、前半は東映ヤクザ映画のパロディみたいなシーンが多い。登場するヤクザの親分衆も、子どもの大学入試を心配したりマイクを持ったら離さない人だったりなど非常に身近な感じである。かつてのような画一的なヤクザ像ではなく、人間味があるというのか、リアルな人間という印象である。
 後半になると、あくまで前半の流れを踏襲しながらだが、がぜんヤクザ映画風の展開になり殺伐としてくる。とは言え、サブプロットの「あしながおじさん」の部分もうまくストーリーに絡められていて、シナリオがよく練られていると感じる。冒頭のシーンを途中でそのまま踏襲するなど、なかなか凝った展開にしており、そのあたりも面白い(なおこのシーンのセリフは『ゴッドファーザー』から取られたものらしい、脚本家によると)。総じて「モダンな昭和残侠伝」といった趣の映画で、やっぱりパロディなのかなーとも思う。いずれにしろ脚本家の豪腕が発揮された作品であるのは間違いない。また全編流れるクロード・チアリのギターが哀愁を帯びていて非常に良い味を出しているのも特筆に値する。
 この映画、以前も一度見ていてレビューを書いているが、そのときとはまた違った印象を持ったような気がしているが、どうだろう。以下に前のレビューを掲載。今、比べてみたが、やっぱりと言うべきか、おおむね同じようなことが書いてあった。
★★★☆

追記:
 『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生』によると、池上季実子が演じたヒロインは山口百恵が想定されていたそうだ(このキャスティングはあまりにそれらしくて面白味がないが)。また人間味あふれる親分衆は、ホンモノの親分たちがモデルだそうだ。そりゃあリアルだわな。

参考:
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『昭和残侠伝 唐獅子牡丹(映画)』
竹林軒出張所『昭和残侠伝 死んで貰います(映画)』
竹林軒出張所『ザ・ヤクザ(映画)』
竹林軒出張所『追悼 高倉健』
竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』
竹林軒出張所『証言 日中映画人交流(本)』

--------------------------

(旧ブログ2006年8月19日の記事より)
冬の華(1978年・東映)
監督:降旗康男
脚本:倉本聰
音楽:クロード・チアリ
出演:高倉健、池上季実子、田中邦衛、藤田進、三浦洋一、北大路欣也、倍賞美津子、池辺良、小林亜星、小沢昭一、大滝秀治

 東映のヤクザ映画なんだが、殺伐とした部分だけでなく、心温まる要素や生活感なんかも盛り込まれていて、非常に良くできたシナリオに感心する。70年代から80年代前半といったら、倉本聰の絶頂期である。
 メインとなるストーリーは、悪に挑むヒーローといった感じで、60年〜70年代の東映ヤクザ映画(特に『昭和残侠伝』!)のオマージュみたいなものである。だが、池辺良が高倉健に早々に刺されるなんざ、ちょっとしたパロディみたいにも感じられる。
 基本的に高倉健をいかに活かすかというコンセプトなんだろうが(この後の『駅 STATION』でも同様)、十二分に活かしきっているのはさすがである。意図的だかどうだか知らないが『幸福の黄色いハンカチ』(こちらも高倉健の魅力の映画)を彷彿とさせるようなシーンもあった。
 登場人物もそれぞれに魅力的である。キャスティングも豪華で、それこそ「華」がある。
 クロード・チアリの音楽が、また良い雰囲気を出しているんだな、これが。
★★★☆
by chikurinken | 2016-03-23 06:58 | 映画

『第三の男』(映画)

b0189364_7195049.jpg第三の男(1949年・英)
監督:キャロル・リード
原作:グレアム・グリーン
脚本:グレアム・グリーン
撮影:ロバート・クラスカー
出演:ジョセフ・コットン、オーソン・ウェルズ、アリダ・ヴァリ、トレヴァー・ハワード、バーナード・リー

映像表現の見本市

 言わずと知れた名作映画。戦後映画の代表作と言っても良い。歴代映画のベストテンなんかをやると必ず上位に来る作品である。僕もこれまで2回見ているが、最初はあまり感慨がなかったにもかかわらず、見るたびに新しい発見があり、面白さが分かる。今回は特に映像面に目が行った。影を効果的に使ったシーンや光と陰のコントラストを強調したシーンは有名であるが、他にも傾いた映像がやたら出てくるのも今回かなり目に付いた。映画の文法書によると、こういった映像は見ている側を落ち着かなくさせることからサスペンスの表現でよく使われるという話を聞いたことがあるが、そういう効果があるのかはよく分からない(少なくとも僕は感じなかった)。
 またリズミカルに展開するスピード感も心地よい。ストーリーがどんどん展開していくめくるめく感覚は、編集の素晴らしさを実感させる。
 サスペンスを煽ってストンと落とすようなシナリオも実に良い。謎の男の実態がなかなか見えてこないプロットも実にうまい。また、アントン・カラスのチターの音楽も素晴らしい。最初に見たときはあまり合っていないんじゃないかと思っていたが、ぴったり合っているわけではないが、随所に主張が感じられる。音楽には監督のキャロル・リードが積極的に関わっているという話を聞いたことがある(『滅びのチター師』が原作のNHKのラジオドラマが元ネタ。ちなみにこのドラマではリードを小池朝雄、カラスを西村晃が演じていた)が、音楽で映像を活かそうという作り手の意図が伺われる。ホントに映像表現の見本市みたいな映画で、もう一度見るとおそらくまた新しい面白さが見つかるんじゃないかと思わせる映画である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『滅びのチター師(本)』
竹林軒出張所『黒い罠(映画)』
竹林軒出張所『わが命つきるとも(映画)』
竹林軒出張所『独立時計師たちの小宇宙(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『模倣品社会 〜命を脅かすコピー商品〜(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-03-21 07:20 | 映画

『ペーパー・ムーン』(映画)

b0189364_21205369.jpgペーパー・ムーン(1973年・米)
監督:ピーター・ボグダノヴィッチ
原作:ジョー・デヴィッド・ブラウン
脚本:アルヴィン・サージェント
撮影:ラズロ・コヴァックス
出演:ライアン・オニール、テイタム・オニール、マデリーン・カーン、ジョン・ヒラーマン、P・J・ジョンソン

詩的なモノクロ映像が魅力

 けちな詐欺師と少女(彼女によると彼らは実の親子ということになっている)が一緒に旅をすることになるという設定の映画で、その道中を辿るロード・ムービーである。カップルのロード・ムービーと言えば『俺たちに明日はない』を思い出すが、あの映画を彷彿させるようなシーンもある。
 途中、ハラハラドキドキのシーンがある他、あちこちにコメディの要素も入っていて、全編飽きることなく楽しめる展開になっている。また主人公の詐欺師と少女は、ライアン・オニールとテイタム・オニールの実の親子が演じており、彼らの演技も見逃せない。実際、テイタム・オニールはこの映画の演技で、アカデミー賞の助演女優賞を受賞している。
 映像は、ボグダノヴィッチの出世作『ラストショー』同様、コントラストが効いたモノクロ映像で、詩的である。映像だけでなく間が非常に良いため、そういった点も味わいがある。非常に完成度が高い映画である。
1973年アカデミー賞助演女優賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『俺たちに明日はない(映画)』
竹林軒出張所『橋の上の娘(映画)』
by chikurinken | 2016-03-19 07:20 | 映画

『天国から来たチャンピオン』(映画)

天国から来たチャンピオン(1978年・米)
監督:ウォーレン・ベイティ、バック・ヘンリー
原作:ハリー・シーガル
脚本:エレイン・メイ、ウォーレン・ベイティ
出演:ウォーレン・ベイティ、ジュリー・クリスティ、ジェームズ・メイソン、ジャック・ウォーデン

b0189364_18581542.jpg天然ベイティの魅力

 元々は舞台劇(『天国は待ってくれる』)がオリジナルで、その後1941年に一度映画化され(『幽霊紐育を歩く』)、それがさらに78年にウォーレン・ベイティによってリメイクされたのがこの映画(だそうだ)。
 死んだフットボール選手が甦って現世で活動し直すという実にありきたりで使い古されたストーリーではあるが、ディテールがしっかり作られているため、陳腐な印象はない。またさまざまなエピソードが面白く、主演のウォーレン・ベイティがちょっと天然なのも良い味になっている。80年代以降のアメリカ映画みたいに殺伐とした雰囲気もないため、家族でゆっくり楽しんで見るというような楽しみ方もできる。視聴後の感覚も爽やかで、そういう意味では往年のハリウッド映画らしい映画と言える。
 ウォーレン・ベイティは主演の他、監督や製作、脚本にも関わっており、監督としてはこれが初作品になる。この3年後『レッズ』を監督して、オスカー監督になるが、その彼の才能があちこちに垣間見えるなかなかの秀作である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『俺たちに明日はない(映画)』
竹林軒出張所『華氏451(映画)』
by chikurinken | 2016-03-17 07:57 | 映画

『安全な“食”を求めて』(ドキュメンタリー)

安全な“食”を求めて(2015年・NHK/CNEX/DR)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

b0189364_2218312.jpg中国有機農業事情

 中国で有機農業を営む女性とそれを手伝う農民、ファーマーズ・マーケットを開いてかれらの生産物を販売する女性、ファーマーズ・マーケットを渡り歩き生産物を購入し続ける女性などを追って、中国の有機農業の現在を紹介するドキュメンタリー。
 中国の野菜や食品がさまざまな毒で汚染されていて危険であることは有名で、中国人でさえ中国産の食品は危険だという認識を持っていると聞く。実際食べた人が不調を訴えたというようなニュースもときどき耳にする。だからといって、中国の農業生産物がすべて農薬に汚染されているかというとさにあらず、やはり食の状況を憂えて有機農業を始める人が出てくる。この番組に出てくる張さんは元外交官という異色の肩書きを持ちながらも、現在は有機農業に精を出す。一方で有機農業は手間がかかるため、どうしても価格を高くしないと割にあわない。また売るための販路がないという問題点もある。販路については別の女性(元OL)がファーマーズ・マーケットを主催し、毎週北京のあちこちでこういった即席市場を設けて、有機野菜の販売を手伝っている。彼らはそれぞれ、中国で安全な食を実現したいという高邁な理想に基づいて行動しており、ファーマーズ・マーケットの様子は、日本で開かれるこの種のイベントと大して違わない。
 こういう状況で、張さんが長年かけて作り上げた有機農場が住宅建設などの用地として行政によって接収される危険性が出てきた。中国政府は、農業での化学肥料の使いすぎを憂えているようで化学肥料を減らすための数値目標まで設定しているが、一方で行政機関によって有機農業が破壊される可能性があるというんだから、かの国の構造はどうもどこかが歪んでいる。高い志を持って世のため人のために仕事をしている人を守らなくてどうするんだと思うが、だがこういう問題は日本でもアメリカでも起こりうることで、なかなかうまいこと行かないのが世の常なのか。
★★★

参考:
竹林軒出張所『フード・インク(映画)』
竹林軒出張所『食について思いを馳せる本』
竹林軒出張所『モンサントの世界戦略(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『100マイルチャレンジ 地元の食材で暮らす(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『土の文明史(本)』
竹林軒出張所『遺伝子組み換え戦争(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-03-15 07:17 | ドキュメンタリー

『新・映像の世紀 第5集』(ドキュメンタリー)

新・映像の世紀 第5集 若者の反乱が世界に連鎖した(2016年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

反乱の時代、その原動力はテレビだった

b0189364_21274094.jpg 『新・映像の世紀』第5回目は、1960年代以降の若者の反乱の時代を取り上げる。
 1960年代後半になると、ベトナム戦争の惨状が連日テレビで伝えられるようになり、結果的に、若者に既成の価値に対する疑問を持たせることになる。これがアメリカ国内での若者の反乱を引き起こし、またその映像が他の国で若者の反乱を連鎖的に引き起こしたのがこの時代である、というのがこのドキュメンタリーの主張。
 また、このような若者の反乱が世界中に広がったのは放送の影響が大きいのは確かだが、同時に戦後のベビーブーム世代の数的なパワーが大きな要因となっているとする。またチェ・ゲバラや毛沢東ら革命家が与える影響も大きかったとする。しかしこのような若者の反乱も、ベトナム戦争が1975年に終結すると、反乱の拠り所がなくなりやがて下火になる。
b0189364_2128456.jpg 一方、東側世界の反乱の例として、プラハの春や東ベルリンでの抗議行動などが取り上げられていた。ただしかし、これらは西側で起こった若者の反乱とは状況が違うというのが僕の率直な印象である(世間のほとんどの人もそうだろうが)。この番組では、1960年以降に起こった各国の既成政府への反乱が一様に同レベルで取り上げられているため、こういった西側の反乱も東側の反体制運動も同一線上のものとして扱われているが、そういう部分は最後まで違和感が残った。
 放送の普及がこういった運動に大きな影響を及ぼしたとする見方は鋭かったが、映像については、割合あちこちで見たことのある映像ばかりが取り上げられていて、あまり面白味がない。この『新・映像の世紀』シリーズではテーマ中心に責めていくというスタンスを貫いているが、こういうアプローチだとやはりどこか無理矢理にまとめざるを得ない部分が出てきて、テーマ別にすることと時代ごとに歴史を追うことの間でジレンマが生じているようにも思える。無理に1つの主張に集約させず、前のシリーズみたいに、映像を使って時代を追いかけていくという手法の方が良いんじゃないかと、このシリーズを見るたびに思う。次回の第6集がいよいよ最終回だが、期待できるかどうかは微妙なところだと感じている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第2集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第3集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第6集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第9集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史 (5)〜(7)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『シリーズ毛沢東(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『チャスラフスカ もう一つの肖像(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-03-13 07:26 | ドキュメンタリー