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竹林軒出張所

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2015年ベスト

 今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)

b0189364_8301514.jpg今年見た映画ベスト5(53本)
1. 『野火』
2. 『砂の女』
3. 『彼岸花』
4. 『ゆきゆきて、神軍』
5. 『愛の新世界』

 今年は映画もドラマも本も少なめで選択肢自体が少ないため、なかなかショボいラインナップになっているが、ご了承いただきたい。
 選んだ映画は全部邦画で、しかも再見映画ばかり。昨年、一昨年同様、過去見て感心した映画を生きている間にもう一度見ておこうという意識が働いているわけ。
 『野火』は、以前見たときはあまり印象に残っていなかったが、今回は随分感心した。短い映画の中に戦場が凝縮されていて一瞬たりとも目が離せない。しかもユーモアの要素も適度に盛り込まれていて、市川崑作品の良さが詰まっている映画と言える。
 安部公房・勅使河原宏コンビの作品は、『他人の顔』、『おとし穴』など秀作揃いであるが、『砂の女』はその中でも代表的な作品である。不条理な世界に展開される不思議な世界。こちらもどことなく乾いたおかしみが漂う。安部公房と勅使河原宏の天才的な共同作業であり、日本文学と日本映画の到達点と言って良い映画である。
 『彼岸花』は小津安二郎の作だが、リマスターされて画像が非常に美しくなった。シナリオや演出のおかしみに加え、画面作りで表現されているユーモアまで感じられる。あらためて小津作品の深さを感じることができる。
 『ゆきゆきて、神軍』も『愛の新世界』も、内容の衝撃性から公開当時かなり話題になった映画だが、見始めるとやめられなくなるような面白さがある。内容はかなりシリアスなんだが、この映画にも乾いたおかしみが漂っている。今回そういう映画ばかりで、乾いたおかしみこそが日本映画の特徴なのかなどと考えてしまう。
 見たことのある映画ばかり見るのもまあ結構ではあるが、来年はもう少し未見の新しめの映画も見ておきたいと考えてしまうようなラインナップであった、あらためて見ると。

b0189364_7563062.jpg今年見たドラマ・ベスト3(19本)
1. 『洞窟おじさん』
2. 『一番電車が走った』
3. 『ちゃんぽん食べたか』

 今年はドラマ自体あまり見ていないし、それにあまり面白い新作ドラマも実際のところないんで仕方がないんだが、とは言え今年は新作3本、しかもすべてNHKというラインナップである。
 『洞窟おじさん』は内容が奇想天外だったのと、リリー・フランキーのホームレスぶりがあまりに板に付いていたのが記憶に新しいところ。尾野真千子や生瀬勝久との掛け合いも楽しい。元々2時間で放送されたものだが、その後1時間×4回(計4時間)に分割された。個人的には2時間ものの方がよくまとまっていて良かったと思う。
 『一番電車が走った』は広島に原爆が落とされた日とその前後が描かれる実話をベースにしたドラマだが、主演の黒島結菜の好演が光る。また実体験者でなければ表せない表現が随所にあり、広島ならではのリアリティが目を引いた。
 『ちゃんぽん食べたか』は、さだまさしの自伝的小説をベースにしたドラマで、以前NHKで放送されたドラマ『精霊流し』のモチーフも出てくる(どちらも自伝的な話なんで重なるのは当然)。リアルな青春ストーリーが心地良い。
 3本とも、実話ベースのドラマで、しかもNHKがていねいに仕上げたという作品であるが、小粒な印象は否めない。民放のゴールデン枠のドラマは相変わらず迷走していて、内容も悲惨である。物語を作る能力に欠けている人々が作っているのかと感じるものも多い。そういう人たちが作るフィクションが見るに堪えないのは当然と言えば当然ではある。民放もとりあえず実話原作ものに取り組んだらどうだろう。

b0189364_848196.jpg今年読んだ本ベスト5(39冊)
1. 『日本人のための日本語文法入門』
2. 『ネイティブスピーカーの英文法』
3. 『イスラーム国の衝撃』

 本もショボいラインナップである。『日本人のための日本語文法入門』が日本語文法、『ネイティブスピーカーの英文法』が英文法を新しい視点で捉えた本である。どちらも目からウロコではあるが、万人にお奨めという類の本ではないかも知れない。
 『イスラーム国の衝撃』は、当時「イスラム国」に対してセンセーショナルで感情的な報道が多かったにもかかわらず、冷静にその特徴を捉えて分析していた点を評価したい。

今年見たドキュメンタリー・ベスト5(104本)
1. 『映像の世紀 第1集〜第8集』
2. 『あなたの中のミクロの世界 (1), (2)』
3. 『京都人の密かな愉しみ 夏』
4. 『過激派組織ISの闇』
5. 『戦後70年 ニッポンの肖像 政治の模索 (1)』

 ドキュメンタリーについては、例年になくかなり見ていて、5本選ぶのに苦労した。どれも秀逸な作品である。
 『映像の世紀』については今さら言うまでもないんだろうが、あらためて見ると非常に質が高い。特に第4集と第8集は出色で、続編シリーズの『新・映像の世紀』と比べて見ると、逆にその良さがよくわかる。テーマ(つまり「映像による世界史」)を1つに絞って見せていくという手法が、単純そうでありながら意外に工夫されている。
b0189364_8135928.jpg 『あなたの中のミクロの世界』も内容充実のドキュメンタリーである。人体をさまざまな微生物が住んでいる小宇宙であるとする定義も斬新で、その視点から、微生物たちと人体との関わりをさまざまに論じていく。寄生虫や細菌類が人体にいかに寄与しているかについてこれでもかと事例を出してくるんで、見る方がついていけないほどである。非常に示唆に富む新しい視点が良かった。
 『京都人の密かな愉しみ』はシリーズ化しそうな勢いだが、作り手が楽しみながら作っているようなそんなドキュメンタリーである。ドキュメンタリーといっても多くの部分がミニドラマで占められている上、バラエティ番組みたいな要素も入っている。紹介されるのはコアな京都で、普通に京都に住んでいても経験できないようなことが多い。あくまでも「フィクション、伝説としての京都」という見方をすると良いんではないかと思う。京都を扱った番組で、同じような構成のものが他にもあるので(たとえば『丸竹夷にない小路』)、同じスタッフが同じような企画、構成で何本か作っている(そして今後も作る)可能性がある。したがってこれからも似たような京都穴場番組が次々に出てくるんじゃないかという予感がする。
 『過激派組織ISの闇』は、世間でいろいろ取りざたされながらも内実が見えてこない「イスラム国」の実像を、映像を駆使しながら探っていくというもので、濃密でありながらわかりやすい優れた報道ドキュメンタリーであった。
 『戦後70年 ニッポンの肖像 政治の模索』は、今の政治状況が戦争当時の政治状況をそのまま引きずっているという視点が新しい(もしかしたら、僕が知らなかっただけかも知れないが)。今の日本の政治を歴史の中でマクロ的に捉えた点を評価したいと思う。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
竹林軒出張所『2012年ベスト』
竹林軒出張所『2013年ベスト』
竹林軒出張所『2014年ベスト』
by chikurinken | 2015-12-30 09:16 | ベスト

『蝶の山脈 〜安曇野を愛した男〜』(ドラマ)

蝶の山脈 〜安曇野を愛した男〜(2015年・NHK)
NHK-BS1 ドキュメンタリードラマ
出演:平岳大、奥貫薫、林泰文

『ウィークエンダー』の「再現ドラマ」みたいなドラマ

b0189364_8525671.jpg 山岳写真家の田淵行男という人を辿るドラマ。「ドラマ」と名うってはいるが、ドキュメンタリーに再現ドラマを加えたという趣で、ドラマとしては実につまらない。
 田淵行男という人は、戦中、勤めを辞めて信州・安曇野に家族ともども引っ越し、山岳写真と高山蝶の写真を撮り続けたという写真家で、その世界では有名な人らしい。この人がどれだけ一生懸命高山蝶の生態に取り組んだかをドラマとドキュメンタリーで紹介するのがこの番組。生物学者の福岡伸一も登場して、田淵氏の業績について語っていく。こういう構成・趣向であるため、ドラマはきわめて説明的で、エピソードが羅列的に紹介されるだけと言っても過言ではない。虫にのめり込むあまり家族を顧みなかったことや、それでも最初の著書『高山蝶』で妻への謝辞を書いていたことなどがエピソードとしては面白いが、あくまでもドキュメンタリーの補足として見るべきものである。
 したがってあくまでドキュメンタリータッチの番組として(田淵行男に興味ある人が)見れば楽しめるかも知れないが、ドラマとして接するとガッカリするかも知れない。常念岳や槍ヶ岳など、北アルプスの風景がたくさん出てくるので、山好きの人であれば楽しめると思う。もちろんこういう構成・趣向の番組があっても良いと思うが、なんだかドラマの地位が著しく貶められているような気にもなる。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ナンシー関のいた17年(ドラマ)』
竹林軒出張所『忌野清志郎 トランジスタ・ラジオ(ドラマ)』
竹林軒出張所『チェルノブイリの真相 ある科学者の告白(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ダンナ様はFBI(ドラマ)』
竹林軒出張所『未解決事件File. 02 オウム真理教(ドキュメンタリー』
竹林軒出張所『手塚×石ノ森 ニッポンマンガ創世記(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-12-28 08:53 | ドラマ

『映像の世紀 第9集』(ドキュメンタリー)

デジタルリマスター版 映像の世紀 第9集(1995年・NHK)
NHK-BS1 NHKスペシャル

b0189364_9135374.jpgほぼ近代アメリカ史

 前回のBSでの放送時に見逃していたデジタルリマスター『映像の世紀』第9集。今回、再放送されたので、めでたく見ることができた。もっとも前の非リマスター版は2、3回見ているし、ベトナム戦争関連のドキュメンタリーもかなり見ているので、目新しさはそれほどない。とは言っても切り口は鋭く、ベトナム戦争について、戦場の様子がテレビ映像として初めて家庭に届けられたエポックとして捉えている。歴史を「映像」面から捉える視点はさすがである。
 ベトナムでの独立戦争にアメリカが反共戦争として介入していきやがて泥沼下していった様子が時系列で描かれるわけだが、同時にアメリカ国内の状況、たとえば公民権運動やベトナム反戦運動、さらにはJ.F. ケネディ、キング牧師、ロバート・ケネディの暗殺までが映像で紹介される。冷静に見るとすべてがアメリカの歴史である。もちろん60〜70年代、アメリカが世界に対して大きな影響力を持っていたのは確かだが、こんなにアメリカ、アメリカでやらなくても良かったんじゃないとも思う。だがそれでも、キングやマルコムX、JFKの演説などは歴史的なものであり、紹介される価値は大いにある。したがって映像紹介番組としては十分役割を果たしている。ウッドストックの映像やベトナムでの衝撃映像も非常にインパクトがある。
b0189364_9143442.jpg それからデジタルリマスターされた点も評価に値すると思う。どこが良くなったかは比べて見ていないのでよくわからなかったが、『映像の世紀』のホームページで紹介されている写真を見るとその違いは一目瞭然。少なくとも見づらく感じるような部分は、全体を通じてなかったような気がする。「歴史を映像で俯瞰する」というコンセプトがしっかりしているのもこのシリーズの長所である。その点、『新・映像の世紀』がちょっと物足りなく感じる部分である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『パリ秘密交渉の内幕(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『サイゴン陥落 緊迫の脱出(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ベトナム戦争関連のドキュメンタリー3本』
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史 (5)〜(7)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『フルメタル・ジャケット(映画)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第1集〜第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第5集〜第8集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第10集〜第11集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第2集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第5集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学(本)』
by chikurinken | 2015-12-26 09:15 | ドキュメンタリー

『新・映像の世紀 第3集』(ドキュメンタリー)

新・映像の世紀 第3集 時代は独裁者を求めた(2015年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

もう少し見せ方を工夫したい

b0189364_8311311.jpg 『新・映像の世紀』もいよいよ第3集、ヒトラーやムッソリーニの時代に焦点を当てる。ヒトラーの時代は、さまざまなドキュメンタリーで語り尽くされていて、しかもかなり珍しい映像もこれまでいろいろと紹介されている。そのためか、この番組では、あまり目新しい映像は出てこず、取り立てて目を奪うような要素はない。
 強いて挙げれば、アメリカの大資本、フォードやスタンダードオイルなどがナチス・ドイツに多額の出資、物資供給を行っていて親ナチスだったとか、ココ・シャネルやチャールズ・リンドバーグもナチスのシンパだったとかが新しいと言えば言える。このような例を見るとわかるように、米国内では第二次大戦開始時は、親独反共という理念の方が一般的だったという。それが変わったのは真珠湾攻撃で、それ以降アメリカの世論が参戦に積極的になったという説明である。
 ヒトラーの台頭の過程をていねいに追うなど一通り歴史を辿ってはいるんだが、比較的ありきたりなことが多く、今回も途中でうたた寝してしまった。旧シリーズ(『映像の世紀』)ではこういうことは一度もなかったにもかかわらず、新シリーズではすべての回で途中で居眠りしてしまっている。要は途中で退屈するわけで、もう少し見せ方を工夫したらどうだとおもう。
b0189364_8313682.jpg このシリーズはアメリカの大資本と歴史との関係を柱に据えていこうというスタンスのようだが、そういうことに無理にこだわる必要もないんじゃないかと感じる。それをやりたいんだったら、もっとテーマを絞った別の企画でやったら良いことで、映像を見せながら歴史を辿るという旧シリーズのような単純なアプローチの方が融通が利いて、幅広く見せることができる。良いことは良い、悪いことは悪いとするのは結構なんだが、単調になってしまってつまらなくなったら元も子もない。旧シリーズでは、ヒトラーが登場する第4集は出色のデキだったため、余計そういうことを感じてしまう。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『映像の世紀 第1集〜第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道 前後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー暗殺計画』(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー 最後の日々(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーで見る 独裁者スターリン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第2集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第5集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第6集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第5集〜第8集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第10集〜第11集(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-12-25 08:32 | ドキュメンタリー

『英国人写真家の見た明治日本』(本)

b0189364_9442927.jpg英国人写真家の見た明治日本
ハーバート・G・ポンティング著、長岡祥三訳
講談社学術文庫

憬れの江戸日本

 明治期(1902〜1910年頃)に来日したイギリス人写真家の日本紀行。著者のポンティングは、スコットの南極探検に同行して南極の写真撮影を行っており、そちらでも有名らしい。ちなみに日本に滞在したのは、計3回延べ3年に渡り、原著のタイトル(『In Lotus-Land Japan(桃源郷の日本)』)からわかるように当時の日本に非常に思い入れがある。
 この本は言ってみれば旅行記なんだが、とにかくあちらこちらに赴いていて、しかも描写が写真家らしく微に入り細を穿っているため、当時の様子が非常によく伝わってくる。たとえば明治の工芸家の工房も数多く訪ねている他、富士登山、浅間山(当時活火山)登山、保津川下りなど、旅行者として一通りのことは体験していて、しかも江戸期、明治期の日本人庶民の楽しみを堪能しているため、現代人の我々が読んでも非常に新鮮である。ただしこの本で描写されている「江戸」日本は、現代日本とは少々異なり、今の日本ではあまり見受けられない要素が多い。まさに「逝きし世の面影」であり、現代日本人から見ても非常に魅力的である。
 この本でなんと言ってもすばらしいのは、さまざまな場所で撮影された写真が紹介されている点で、どの写真もこの時代のものとしては最上級である。東海道を撮影した写真は広重の浮世絵そのものであり、写真の方々に江戸情緒が残っている。中には富士山頂や浅間山頂、阿蘇山頂の写真なんてものもある。富士山の写真が多いのは著者の富士山に対する入れ込みようを示している。また著者が1章割いて記述している箇所(第八章「日本の婦人について」)では、日本女性を撮影した写真(しかも自然な表情のもの)も多く紹介されており、こちらも非常に貴重なものである。
 もちろん旅行記としても優れていて、浅間山登山時に噴火に遭った描写や富士登山時に山頂で4日間閉じ込められた描写などは読んでいて面白い。真面目に仕事をこなす善人の日本人が多く紹介されているのも読者としては心地良く、著者が当時の日本に入れ込んだのもよくわかろうというもの。江戸・明治初期の日本というのは、当時のヨーロッパ世界(ひいては現代社会)とは異質であり、今の僕にとっても憬れの存在である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ビゴーが見た日本人』
竹林軒出張所『ワーグマン日本素描集(本)』
竹林軒出張所『過ぎし江戸の面影(本)』
竹林軒『映画レビュー:「ラスト・サムライ」に見る「逝きし世の面影」』
竹林軒出張所『にっぽん 微笑みの国の物語 前編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『にっぽん 微笑みの国の物語 後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『美しき日本の面影 小泉八雲のアルバム(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『100年前の世界一周(本)』
by chikurinken | 2015-12-23 09:44 |

『ワーグマン日本素描集』(本)

b0189364_819176.jpgワーグマン日本素描集
清水勲編
岩波文庫

江戸・明治の事件、風俗を
今に伝える資料


 ビゴー(竹林軒出張所『ビゴーが見た日本人』参照)より前(1861年)に来日し、日本の幕末、明治事情を絵で英国に発信し続けたチャールズ・ワーグマンのスケッチ集。
 このワーグマン、当初は『The Illustrated London News』という雑誌に寄稿していたんだが、その後自身で『ジャパン・パンチ』という雑誌を日本で創刊し、在日外国人や在中国外国人向けに日本の事情を紹介していく。幕末から日本にとどまっていたため、生麦事件や戊辰戦争の様子まで絵画やイラストで活写しており、当時の状況を生々しく伝えている。そもそもこのワーグマン、1961年の東禅寺襲撃事件に立ち会った、というか襲われた当事者だった(何とか縁の下に逃れて命拾いした)というんだからその生々しさといったらただものではないだろう。
 また同じく貴重なのが当時の日本国内の風俗などの描写で、この時代写真がまだあまり普及していなかったため、当時の風俗をリアルに表す素材として資料価値が非常に高い。
 このワーグマンだが、五姓田義松、高橋由一らが弟子入りし、小林清親も弟子入り志願した(靴で蹴られて弟子入りを断念)というから、日本の近代美術の祖と言っても良いほどである。その割にはこの本で紹介されている絵は(絵画として見れば)どれも平凡で、「日本スケッチ帳」で描かれているスケッチもあまりうまいものではない。ジョルジュ・ビゴーの方がはるかにうまいという印象である。
 ただし、ワーグマンが始めた『ジャパン・パンチ』は、カートゥーンと呼ばれる政治風刺漫画を日本に定着させることになったわけ(これがいわゆるポンチ絵)で、日本のマンガの祖と言うこともできる。実際、『日本まんが 第壱巻』では、本書の編者である清水勲がそのように表現していた。なお、『ジャパン・パンチ』は1887年に廃刊になり、それ以降はビゴーが『トバエ』などでその役割を引き継ぐことになる。ワーグマン自身はずっと日本にとどまり続け、1891年に横浜で死去することになる。
 本書では、そのワーグマンの作品を「日本スケッチ帳」、「ジャパン・パンチ」、「特派美術通信員の目」の3部で紹介していき、その後に、編者が著した「ワーグマン小伝」、「ワーグマンがもたらしたもの」、「ワーグマン年譜」という項が続く。ワーグマンの仕事を俯瞰できるようになっており、岩波文庫らしい真摯な作りになっている。作品自体にはあまり面白味がないものの、江戸末期から明治初期の風俗を今に伝える資料として非常に有用な素材と言うことができる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日本まんが 第壱巻(本)』
竹林軒出張所『ビゴーが見た日本人』
竹林軒出張所『英国人写真家の見た明治日本(本)』
竹林軒出張所『過ぎし江戸の面影(本)』
竹林軒『映画レビュー:「ラスト・サムライ」に見る「逝きし世の面影」』
竹林軒出張所『にっぽん 微笑みの国の物語 前編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『にっぽん 微笑みの国の物語 後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『美しき日本の面影 小泉八雲のアルバム(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『100年前の世界一周(本)』
by chikurinken | 2015-12-22 08:20 |

『ビゴーが見た日本人』(本)

b0189364_8275068.jpgビゴーが見た日本人
清水勲著
講談社学術文庫

ビゴーによる明治日本論

 明治期に日本に住んでいたフランス人の絵描き、ジョルジュ・ビゴーの版画や素描作品を100点集めてコメントを加えた本。著者はマンガ研究家で、ビゴーの名を日本で広めた人でもある。
 ビゴーの絵といえば、日清戦争を風刺した絵(「漁夫の利」)が学校の社会の教科書に載っていたりすることで知られているが、あの絵についてはこの本に掲載されていない。出典は自局風刺雑誌『トバエ』や画集『国会議員之本』、雑誌『日本人の生活』などで、当時の日本の生活や政治状況がよくわかるような絵が集められている。
 著者は当時の風俗が非常にリアルに描かれている点が貴重だと述べているが、それはまさに言い得て妙で、映像が残されていない当時の風俗が生々しく描かれている。たとえば上半身は立派な洋装を身につけている紳士が、ズボンを脱いでふんどし姿で歩いている図は、風俗の一級資料として重要度が高い。当時外の世界から明治日本の独特の社会風俗に触れたビゴーの目は現代人の我々に近い。おそらくこういった風俗がビゴーの目に奇妙に映ったので活写したんだろうが、今の我々の目から見ても珍奇である。しかしユーモラスで面白くもある。また、遊郭でことが終わった後ふんどしを身につけようとしている男の絵も生々しくて驚く。風呂屋の場面や宴会の場面も描かれていて、こういうのは記録に残りにくい風俗であることを考えると、価値は非常に高いと言える。
b0189364_8281865.jpg 全般的にゲスで醜く描かれている日本人の絵が多く、差別的なニュアンスも感じられて、被差別側としては少々不快な気分になる部分もあるが、しかしデッサンや絵は非常にうまく、表情も見事に捉えている。ビゴー自身は、浮世絵に魅せられて日本に来たらしく、その後も17年間滞在していたということで、日本には愛着があったらしい。ただし不平等条約改正交渉については反対の立場で、条約改正を機に本国に戻ったということだ。自分を含むヨーロッパ人の既得権を守ってほしいということだったようだが、こちらについても、日本人としてはあまり良い気持ちはしない。ましかしそういう日本人としての心情は置いといて、美術、風俗資料という視点から見ると、何度も言うが非常に価値が高いものばかりで、明治の日本人、明治政府に向けられた批判精神についても概ね受け入れられる。
 著者によるとビゴーの絵は日本のマンガにも多大な影響を与えているということらしく、浮世絵の影響を受けたビゴーが日本のマンガに影響を及ぼすというのも流れとしては自然なのかも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日本まんが 第壱巻(本)』
竹林軒出張所『英国人写真家の見た明治日本(本)』
竹林軒出張所『ワーグマン日本素描集(本)』
竹林軒出張所『過ぎし江戸の面影(本)』
竹林軒『映画レビュー:「ラスト・サムライ」に見る「逝きし世の面影」』
竹林軒出張所『にっぽん 微笑みの国の物語 前編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『にっぽん 微笑みの国の物語 後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『美しき日本の面影 小泉八雲のアルバム(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『100年前の世界一周(本)』
by chikurinken | 2015-12-21 08:29 |

『お早よう』(映画)

b0189364_823676.jpgお早よう(1959年・松竹)
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
美術:浜田辰雄
音楽:黛敏郎
出演:佐田啓二、久我美子、笠智衆、三宅邦子、杉村春子、設楽幸嗣、島津雅彦、泉京子、高橋とよ、沢村貞子、東野英治郎、長岡輝子、殿山泰司

小津映画の小ネタ集

 小津安二郎の映画だが、嫁入り映画ではない。この頃の小津は、少なくとも松竹ではほとんど嫁入り映画ばかり撮っていたため、子どもの世界を中心に描いた本作は少々異質と言える。とは言っても小津調は健在で、キャストも他の映画と共通である。
 舞台は堤下の文化住宅地で、そこに住む人々の日常が描かれる。小津映画らしく大した事件もなく、庶民の日常が淡々と進んでいく。近所の人々の間でちょっとした波風が立ったりするが、破壊的な結末になったりすることはもちろんなく、それなりの日常が繰り返される。ある意味で非常にリアルであり、言葉通りの「リアリズム」である。(家電としての)洗濯機やテレビなど、当時の世相を反映した内容も小津映画としてはちょっと異色の部類に入る。
 先ほど書いたように子どもたちが話の中心であり、子どもの世界から見た大人たちという構図が『生れてはみたけれど』と共通している。子どもたちにあまり可愛げがないのも共通。総じて小津映画に出てくる子どもたちはあまり可愛げがない。
 あくまでも日常風景といった感じの映画なので、取り立ててどうということもないんだが、シナリオはよく練られてている。小津映画の小ネタ集みたいな内容ではあるが、最後の佐田啓二と久我美子の会話は、この映画の「お早よう」のモチーフとつながっていてなかなか面白い(ちょっとやり過ぎの感はある)。
 今回見たのはNHKで放送されたデジタルリマスター版であるが、画像は非常にきれいで、この頃の映画によく見られる細かく揺れるようなブレもない。どの画面にも概ね赤が入っているのは『彼岸花』と共通で、画面がきれいになったことで赤がよく映えている。リマスターされた小津映画は映像自体が魅力的で、さすがの職人芸と感心する。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『彼岸花(映画)』
竹林軒出張所『秋日和(映画)』
竹林軒出張所『秋刀魚の味(映画)』
竹林軒出張所『小津安二郎・没後50年 隠された視線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえる名作(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『絢爛たる影絵 小津安二郎(本)』
竹林軒出張所『青春放課後(ドラマ)』
by chikurinken | 2015-12-19 08:02 | 映画

『秋日和』(映画)

b0189364_8164245.jpg秋日和(1960年・松竹)
監督:小津安二郎
原作:里見弴
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
美術:浜田辰雄
音楽:斎藤高順
出演:原節子、司葉子、岡田茉莉子、佐分利信、北竜二、中村伸郎、佐田啓二、笠智衆、沢村貞子、三宅邦子、桑野みゆき、三上真一郎

少し下品な小津映画

 『秋日和』も見るのは今回3回目だが、今回はリマスター版ということで少々期待があった。実際はリマスターして良くなったという印象は、この映画についてはあまりなかった。
 そもそもこの話自体、お節介が過ぎるという印象が強く、しかも少し前に作られた『彼岸花』によく似た嫁入り話で、1949年の『晩春』をそのまま焼き直したという印象さえある。もちろん、岡田茉莉子演ずる「佐々木百合子」という強烈なキャラクターが出たり、あるいは司葉子がバカに美しかったりするという特徴はあるんだが、マンネリのイメージがこの映画については特に強い。小津自身、前年にはちょっと毛色の違った『お早よう』を撮ったり、あるいは大映や東宝でも撮ったりしているんでマンネリ打破を望んでいたのかも知れないが、結局のところ、松竹ではマンネリを踏襲して「豆腐屋は豆腐屋に」徹底しようとしたということだろうか。そのあたりの詳細はよくわからないが、この映画については、単にマンネリであるだけでなく、デキが良くないとも感じる。
 それに加えて、小津映画常連の悪友たちが未亡人の品定めをしたり、いつものおふざけが少々品がなかったりする点もマイナスである。小津映画らしい上品さに欠けているため、登場人物たちのブルジョアの嫌らしさみたいなものが鼻につく。それに、特に前半なんだが、セリフとセリフの間が悪いという感じもした。悪友3人(佐分利信、北竜二、中村伸郎)の家庭がすべて出てきたのもこの映画が初めてなんじゃないかと思う。そのため過剰に説明的になってしまい、戦後の小津映画が持つ詩的な味わいみたいなものが欠けている。小津の信奉者が小津映画をまねて作った駄作みたいな印象すら漂う。小津映画らしい良い部分もあるにはあるんだが、小津映画としては駄作の部類に入るんじゃないかと思う。残念。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『彼岸花(映画)』
竹林軒出張所『お早よう(映画)』
竹林軒出張所『秋刀魚の味(映画)』
竹林軒出張所『小津安二郎・没後50年 隠された視線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえる名作(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『絢爛たる影絵 小津安二郎(本)』
竹林軒出張所『青春放課後(ドラマ)』

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 以下、以前のブログで紹介した『秋日和』のレビュー記事。

(2005年12月2日の記事より)
b0189364_8161082.jpg秋日和(1960年・松竹)
監督:小津安二郎
原作:里見弴
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
出演:原節子、司葉子、岡田茉莉子、佐田啓二、佐分利信、中村伸郎、北竜二、笠智衆、沢村貞子、三宅邦子、渡辺文雄、三上真一郎、高橋とよ

 小津安二郎おなじみの嫁入りばなし。原作ものであるせいか、猥談ひとつ取ってみても下品でいただけない(「ヘッドシザースはないだろ」と思ったよ)。大道具や調度、衣装などは、相変わらず素晴らしいが……。全体的に「作り物」の感じが非常に強くわざとらしさを少し感じた(小津映画は大体「作り物」の感じが強いが、わざとらしさを感じることはあまりない)。場面展開も少しわざとらしいような……。まとまりに欠けていたせいか?
 岡田茉莉子演じる「佐々木百合子」は、なかなか面白い突き抜けたキャラクターで、この話に花を添えていた。
★★★
by chikurinken | 2015-12-18 08:17 | 映画

『彼岸花』(映画)

b0189364_88328.jpg彼岸花(1958年・松竹)
監督:小津安二郎
原作:里見弴
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
美術:浜田辰雄
衣裳:長島勇治
音楽:斎藤高順
出演:佐分利信、田中絹代、有馬稲子、山本富士子、浪花千栄子、久我美子、佐田啓二、高橋貞二、桑野みゆき、笠智衆、中村伸郎、北龍二、高橋とよ、渡辺文雄

名工が作った逸品みたいな映画

 小津安二郎の初カラー作品。この映画、今回で見るのは3回目か4回目だが、今回見たものは新しくリマスターされたもので、それまでと映像の印象が全然違う。ものすごく美しく、これが小津の美学かというのがわかる。今回はNHK-BSの放送で見たんだが、おそらく上記リンクのブルーレイ版と同じではないかと思われる。ただ赤みが少々強く多少人工的な印象も受けるが、これが旧小津組スタッフの意向(小津安二郎の嗜好を汲んだらしい)だという。実際小津安二郎は、この映画のほとんどの画面の中に赤いものを配置しており(タイトルバックのスタッフ名やキャスト名にも赤が入っている)、赤への好みは方々で見受けられる。少々無意味なくらい赤いケトルが出てくるのもなんだかユーモラスに感じる(この赤いケトルはブルーレイ版のジャケットにも描かれている)。
 映像以外にも、今回はシナリオが非常に良くできていることに感心した。所々出てくる会話的な楽しみが別のシーンで布石として使われるのも実に自然で、きちんと意図が伝わってくる。「若松」の女将(高橋とよ)に「みんな息子だろ」などとカマをかけるシーンも、いたずらっ子のような悪乗り具合が心地良い。このシーン、主人公(佐分利信)と元同級生たち(中村伸郎、北龍二)が割烹で馬鹿話をする場面で、『秋刀魚の味』など小津の他の映画でも見受けられるシーンである(役者も概ね同じ)。
 『秋刀魚の味』と言えば、この映画のテーマの娘の嫁入りも『秋刀魚の味』と共通で、ストーリーは半分くらいは同じと言って良い。ただテーマは多少違うし、いろいろな味付けも違うんで、どちらもそれなりに楽しむことができる。
 以前も別の箇所で書いたが(以下のレビュー記事参照)、キャストがどれも秀逸で、特に浪花千栄子と山本富士子の(大阪のおばちゃん風の)京都の親娘は小津映画最高のキャラクターである。高橋貞二のコンちゃんも秀逸。隅々までしっかり作られているのは他の小津映画と共通で、さながら名工が作った工芸の逸品みたいな風格がある映画である。何度も何度も手にとって眺めていたくなるような桐箱入りの名品という趣で、前に見たときより年を取ったせいか(あるいは目が肥えてきたせいか)そういう部分が以前よりわかるようになってきた。
 登場する人々はほとんどがプチブルみたいな人たちで、下々の者に対するリアリズム的な視点は一切ない。そのため、かつて松竹の若手映画監督(いわゆる松竹ヌーベルバーグの監督たち)がこのことを上げ連ねて、小津に噛みついたという話も聞く。それは確かに一理あるが、しかしリアリズムが芸術のすべてではない。小津映画には、高雅な気品、優雅さ、上品さといったものが随所に漂っている(これは松竹ヌーベルバーグの映画には一切見られない)。一種の芸術至高主義とも言えるが、「時代を超えた芸術」というのはそういうものではないかとこの映画を見て思うのである。見ること自体が快感になるようなそんな至高の映画である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『小津安二郎・没後50年 隠された視線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『秋日和(映画)』
竹林軒出張所『お早よう(映画)』
竹林軒出張所『秋刀魚の味(映画)』
竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえる名作(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『絢爛たる影絵 小津安二郎(本)』
竹林軒出張所『青春放課後(ドラマ)』

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 以下、以前のブログで紹介した『彼岸花』のレビュー記事。

(2005年11月25日の記事より)
b0189364_882432.jpg彼岸花(1958年・松竹)
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
出演:佐分利信、田中絹代、有馬稲子、久我美子、佐田啓二、浪花千栄子、山本富士子、笠智衆、渡辺文雄、中村伸郎、北竜二、高橋とよ

 小津安二郎初のカラー作品。
 『秋刀魚の味』のモチーフになる素材が詰まっている。たとえば主人公を中心とする悪友3人(佐分利信、中村伸郎、北竜二)が飲み屋の女将(高橋とよ)をからかう場面。佐分利信が笠智衆に変わったら『秋刀魚の味』のシーンになる。座敷での中村伸郎、北竜二の座る場所まで一緒で、もちろん飲み屋のつくりも一緒(飲み屋の名前も一緒だったような(注))。嫁入りのモチーフ自体も似ている(扱い方は多少異なるが)。『秋刀魚の味』は『彼岸花』の焼き直しということなのだろう。
 前に見たときはあまり感じるところがなかったが、今回はかなり楽しめた。調度や演出に凝りまくっているというのがよくわかるし、映像も安定しているため、見ていて心地良い。人同士のつながりも不快さがまったくなく(頑固オヤジの佐分利信にしたってそうだ)、楽しくなる。
 この映画でもっとも目立ったのは、浪花千栄子と山本富士子が演ずる、京都の旅館の女将親子で、浪花千栄子の「大阪のおばはん」ぶり(京都人の設定だが)に大変リアリティがあり、しかも映画をぶちこわしにするほど下品ではなく、絶品である。山本富士子演ずる娘も、いずれはこういう「大阪のおばはん」になるだろうと思わせるキャラクターで、ユーモラスで、魅力的だ。
 小津映画は贅沢だ……とあらためて感じながら見ていた。

注:調べてみたらやはり一緒でした……「若松」。『秋日和』にも出てくるそうです > 「若松」と高橋とよ。ただし『秋日和』では、高橋とよは 「若松」の女将ではありません。
★★★☆
by chikurinken | 2015-12-16 08:08 | 映画