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竹林軒出張所

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『鯉昇れ、焦土の空へ』(ドラマ)

鯉昇れ、焦土の空へ(2014年・NHK広島)
演出:森義隆
脚本:ノゾエ征爾
出演:イッセー尾形、富田靖子、岡田義徳、大和田伸也

広島球団は創立当初からビンボーだった

b0189364_811053.jpg 被曝70年ということで広島の復興をテーマに作られたNHK広島放送局製作のドラマ。広島カープの創生期を描くドラマで、広島カープの初代監督、石本秀一をイッセー尾形が演じる。
 創生期から超貧乏球団で、選手の給料の遅配どころか、選手の食事さえままならない状態で、常時解散の危機に見舞われるが、市民の支援で存続したという話を、脚色を交えながらドラマにしたものがこれ。市民の支援といっても、中には借金をしながら球団に合宿所を提供する「御幸荘」の女将(富田靖子)などというケースまで出てきて、ホンマかいなと思うような話も結構ある。ドキュメンタリー・ドラマと名うっているんで、細かい部分はともかく大筋は事実なんだろうが、小説よりも奇なりという世界である。ドラマには恰好の素材で、なぜ今までこの手のドラマがなかったか不思議なくらいと言ったら大げさか。
 カープが広島の復興のシンボルとして市民をいかに勇気づけたか、いかに市民の身近なものとしてあり続けたかがよくわかり、カープに興味のない人でもカープに親近感を持つこと請け合い。市民ビンボー球団の模範と言えるカープ、今でもあまり金をかけられないようだが、金満球団と真正面から渡り合っている姿はなかなか良いものである。広島県以外にもファンがあちこちに散らばっているのも頷けるというものだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『一番電車が走った(ドラマ)』
竹林軒出張所『帽子(ドラマ)』
竹林軒出張所『火の魚(ドラマ) 』
竹林軒出張所『無垢の島(ドラマ)』
竹林軒出張所『命のあしあと(ドラマ)』
竹林軒出張所『“くたばれ” 坊っちゃん(ドラマ)』
竹林軒出張所『ラジカセ(ドラマ)』
竹林軒出張所『モチベーション下がる……』
by chikurinken | 2015-10-30 08:01 | ドラマ

『データに溺れて…』(ドキュメンタリー)

データに溺れて…(2015年・加Josh Freed Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

b0189364_22382823.jpgあふれるデータは薬か毒か

 「データに溺れて…(原題:Deluged by Data)」というタイトルから、必要以上にデータがあふれる現代社会に警鐘を鳴らすドキュメンタリーであることは容易に想像が付くが、「データをあふれさせること」に快感を持っている人や、将来性を感じている人なども結構登場する。
 そのため途中まで、製作者は「あふれるデータ」に肯定的な態度なのかと思ってしまうほど。たとえばウェアラブル端末で身体のいろいろなデータを収集して、これが自分の生活と未来を明るくすると主張する人々の集団なんかも出てくる。普通に考えれば悪い冗談なんだが、見ようによってはなんだかこれが真実であるかのように見えてくるんで恐ろしい。
 もちろん、データがあふれすぎて困っている人の事例も出てくるし、「デジタル・デトックス」(ネット断食道場)などというものまで紹介される。このデジタル・デトックスは、参加者(多くはIT関連企業に勤める人々)が数日間ネットを一切使わず、完全なアナログ生活を送ることでネット依存を解消しようとするというような集まりなんだが、これもなんだか随分極端な方に行っちゃったなという感じがする。ただ個人的には、ツイッターやSNSなどについては壮大な無駄なような気がしているわけで、そういう意味でも情報過多やネット依存は、その問題点をもっともっと追求してほしい素材ではある。
 僕自身も、少し自分とネットとの関わり合いを見直さなければなるまいと考えるきっかけになったんだが、その点で面白い問題提起だったと言うこともできる。ただし全体的には、雑誌的で内容の掘り下げが浅い印象もある。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『脱ネット・スマホ中毒(本)』
by chikurinken | 2015-10-28 07:00 | ドキュメンタリー

『チャスラフスカ もう一つの肖像』(ドキュメンタリー)

チャスラフスカ もう一つの肖像 〜知られざる激動の人生〜(2015年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

b0189364_8135469.jpg人に歴史あり

 東京オリンピックで活躍(金メダル3個を獲得)し、「東京オリンピックの花」と呼ばれたチェコの体操選手、ベラ・チャスラフスカの生涯を取り上げるドキュメンタリー。
 3つのオリンピックでメダルを獲得し、国民的英雄として迎えられたチャスラフスカ。彼女の故国チェコスロバキアはソビエト連邦の衛星国であり共産主義国だった。
 そんなチェコでは、メキシコ・オリンピックを前にした1968年に、ドゥプチェク第一書記の主導により民主化運動が広がった。「人間の顔をした社会主義」というキャッチフレーズで進められた改革は、国民の賛同を集め、民主化のうねりは大きく広がっていく。いわゆる「プラハの春」である。このとき民主化に賛同する市民による宣言文「二千語宣言」が出され、賛同する著名人がこれに署名していき、民主化運動は大きく拡大していく。
 しかし、このような運動が周辺国に広がること(ひいては共産圏から離脱すること)を懸念したソビエトは、首都プラハに戦車を含む陸軍部隊を派遣し、民主化運動を武力で鎮圧する。やがてドゥプチェクが解任され、プラハの春は終焉を迎える。
 このようなさなか、メキシコ・オリンピックが開催され、チャスラフスカは金メダルを3個獲得するが、床運動ではソビエト選手と同時優勝となる。このときにソ連の国旗から(消極的に)目を背けるという行動を行い、これがチェコの状態を国際社会に訴えることにつながるなど話題になった。
 プラハの春が終焉すると、体制はソビエトの傀儡となって反動的になり、チャスラフスカも「二千語宣言」への署名の撤回を求められる。これを拒否し続けた彼女は、体操関係の仕事も剥奪され、数年間掃除婦として働くことを余儀なくされるなど、社会的につらい時期を過ごすことになる。出版しようとした自伝も、当局から検閲を受け、最終的に2/3が削られてしまうという不幸な時代を送った。
b0189364_8142059.jpg 時代が流れ1989年になると、ソ連自身により民主化運動が進み、共産主義体制は一挙に崩壊に向かう。チェコスロバキアでもドゥプチェクが復権するなどして民主化が進み、共産主義体制は終わりを迎える。チャスラフスカも「独裁体制に抵抗し続けた英雄」として迎えられ、名誉回復が行われることになった。
 現在、73歳のチャスラフスカさん、5つの部位に癌を抱え治療を続けながらも、これまでの人生、そしてチェコの政治/社会状況を赤裸々に綴るべく「本物の」自伝を鋭意執筆中。町で見かけたらただのお婆さんにしか見えない女性だが、彼女自身にもそしてその背後にも大きな歴史があるのだった。「人に歴史あり」という言葉が身にしみるドキュメンタリーである。背後に何度も流れる「モルダウ」が悲しく響く。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『存在の耐えられない軽さ(映画)』
by chikurinken | 2015-10-26 08:15 | ドキュメンタリー

『マエストロ・オザワ 80歳コンサート』(ドキュメンタリー)

マエストロ・オザワ 80歳コンサート(2015年・NHK)
NHK-BSプレミアム

b0189364_7514948.jpg懐かしさが先に立つ

 指揮者の小澤征爾は、若い頃の僕にとってアイドルだった。
 1978年にボストン交響楽団を引き連れて中国凱旋公演をやったときも僕はしっかりテレビで見た記憶がある。著書の自伝『ボクの音楽武者修行』もその頃読んだし、武満徹との対談(『音楽』)も読んだ。この人は、当時世界的に活躍していたこともあるが、何より周りの人を引き付けるような明るさがあって、それがとても魅力的だった。映像を見ていても不快に感じるようなことがまったくなかったし、音楽に真剣に取り組んでいる様子も伝わってくる。
 サイトウ・キネン・オーケストラを結成したときも、このオーケストラでヨーロッパ公演をしたときもテレビで見ていた。ベルリンの聴衆をうならせたブラームスも印象深い。小澤自身がサイトウ・キネン・オーケストラを評して「いつも定食ばかり作っているオヤジが、豪華な食材を提供されて好きなものを作ってくださいと言われているようなものだ」と評した(これは『小澤征爾とその仲間たち―サイトウ・キネン・オーケストラ欧州を行く』に載っていたような記憶がある)のも、うまい表現だなと思った。もちろんウィーンのニューイヤーコンサートに登場したときも見たし、ウィーン・フィルの音楽監督に就任したときも素直に嬉しいと思った。ついに極めたかと思ったものだ。
 その小澤征爾も80歳になるという。そりゃこっちも年取るわけだ。で、その80歳の誕生日を記念して松本でコンサートが開かれることになったらしい。なぜかわからないがサイトウ・キネン・オーケストラは松本を本拠にしているのだ。その模様と小澤のインタビュー、後は小澤征爾のこれまでの歩みを1時間にまとめたのがこのドキュメンタリーということになる。
b0189364_7512161.jpg このコンサートでは、小澤自らが指揮するのはマルタ・アルゲリッチと共演した合唱幻想曲のみで、後は小澤の関係者(教え子や友人の音楽家たち)が演奏する。小澤自身は、ほとんどにおいて、演奏を聞く側として参加するという趣向である(演奏会の模様はその日の夜中に同じチャンネルで放送された)。
 個人的には、コンサートの模様はともかく、小澤征爾のこれまでを振り返った映像が興味深かった。上に書いた中国公演やサイトウ・キネン・オーケストラ関係の出来事、ウィーン・フィル音楽監督就任まで紹介されていた。僕としては、それぞれの時代が自分の若い頃とシンクロするため懐かしさも感じたというわけだ。カラヤンやバーンスタインとの関係についても触れられ、その映像も短めではあるが出ていた。ただしさすがにNHK交響楽団と揉めたいわゆる「N響事件」については一切触れられていなかった。NHKの放送だからしようがないのか。N響による若手指揮者(つまり小澤)に対するいじめみたいなものだったから、NHKとしては触れたくなかったんだろうが、でもNHKとしても一度は総括しておいた方が良いんじゃないかと思う。
 ま、そういう内容の1時間番組だったんだが、僕としては懐かしさを感じることが多くて、そちらの感慨の方が大きい。小澤氏も一時期より体力が回復したようで何よりである。今後の活躍を祈りたい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ナオズミ・フォーエバー』
竹林軒出張所『アルゲリッチ 私こそ、音楽(映画)』
竹林軒出張所『さわり(本)』
竹林軒出張所『他人の顔(映画)』
by chikurinken | 2015-10-24 07:54 | ドキュメンタリー

『私が愛する日本人へ』(ドキュメンタリー)

私が愛する日本人へ 〜ドナルド・キーン 文豪との70年〜(2015年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

ドナルド・キーンが見た日本文学の魅力

b0189364_74637.jpg 日本文学者のドナルド・キーンを特集したドキュメンタリー。半分くらいはドラマ仕立てになっており、キーンを川平慈英が演じる。脇役としてパトリック・ハーラン(パックン:こういう番組ではもはや常連)、元アイドルの南野陽子、斉藤由貴が登場する。
 テーマとなるのは、キーン氏が感じる日本文学/日本の魅力、キーン氏と文豪たちとの交流である。特に文豪たちとの交流については大変興味深く、実際、かなり多くの戦後日本文学はキーン氏が翻訳して海外に紹介しているわけで、日本文学界にとってその功績は計り知れない。川端康成がノーベル賞を受賞したときも、事前にノーベル財団から、ノーベル賞候補として適切な日本人作家を勧めてくれるよう依頼があったということらしい。これに対してキーン氏は「第1位、谷崎潤一郎、第2位、川端康成、第3位、三島由紀夫」というふうに推薦したという。ただしその後大谷崎が死去したために、川端康成がノーベル賞を受賞することになった。言ってみればキーン氏の意向がノーベル文学賞に直接反映したということになる。ただしそこはキーン氏、何でもこの順位は年功序列だったということで、いかにも日本的という選び方である。
 他にも、戦争中日本の兵士の手帖に書かれた日記風の記述に触れて感動した話や、朝日新聞での連載「百代の過客」での執筆時のいきさつについても紹介されていて、内容的に薄めではあるが網羅的であり、キーン氏について広く理解できるようになっている。キーン氏によると、日本人は、自分をしっかり持った上で周りにむやみに流されず、伝統を大切にしながら生きるべきということである。まったくお説ごもっとも。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ドナルド・キーン わたしの日本語修行(本)』
by chikurinken | 2015-10-23 07:46 | ドキュメンタリー

『日本語の教室』(本)

b0189364_7522991.jpg日本語の教室
大野晋著
岩波新書

いろいろな意味で
大野晋を俯瞰する


 国語学者、大野晋が、編集者から出された国語学関連の質問に答えていくという体裁の本。結果的に、大野のこれまでの研究を網羅的に紹介する内容になっている。質問に対する回答という形式になっているため、読みやすさにも配慮されているのか、話し言葉に近く読みやすい。
 二部構成になっており、第一部が「さまざまな質問に答えて」、第二部が「日本語と日本の文明、その過去と将来」というタイトルでまとめられている。前半部は日本語文法についての解説や、著者のライフワークであるタミル語研究(日本語の源流がタミル語であるとする説)が紹介されていて、僕にとってはタミル語研究が目新しく興味深かった。こちらについては『日本語の起源』という本で紹介されているが、いずれ読んでみるつもり。かなり異色の説であるため「トンデモ」であるみたいな言説もあるようだが、面白そうではある。検討に値すると思う。
 後半部は打って変わって文明論に終始する。太平洋戦争敗戦直後、日本で漢字撤廃運動が起こったなどの話は興味深いが、現在の知性低下の源流がこのあたりにある(当用漢字の数の制限)とする説はちょっと同意できない。ほとんどが決めつけであり、どれも根拠が薄い。都合の良い素材ばかり集めて作り上げた独断的な言説で、飲み屋の席で保守派オヤジが一説ぶっているような印象がある。とうてい学者の説とは思えないような話で、少なくともこういった学術的な本で披露すべきではなかったと思う。大野晋氏は、実際に接した歴史家の古田武彦によると「下町のべらんめぇオヤジ」だということだったが、その辺が窺われるような内容で、こういう部分は話半分、話三分の一で読み飛ばせばよろしい。ただ、著者の価値を下げる結果になるのではないかと老婆心ながら危惧してしまうのである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『日本語の文法を考える(本)』
竹林軒出張所『古典文法質問箱(本)』
by chikurinken | 2015-10-21 07:53 |

『血液型の科学』(本)

b0189364_8265768.jpg血液型の科学
藤田紘一郎著
祥伝社新書

面白いが話半分で読むのが吉

 寄生虫博士、藤田紘一郎による血液型の話。タイトル通り血液型について科学的にアプローチして、血液型のあれやこれやを紹介する。
 ABO式の血液型というのは、赤血球の表面についている糖の分子(糖鎖)の形式で区別される区分であるが、この糖鎖自身は赤血球に限定されるわけではなく、腸内にも多数分布していて、人の成長・生活に多大に影響するという。したがって「赤血球の形だけで人の性格が判断できるという考え方は非科学的である」などという言い分は逆に非常に非科学的だというわけ。しかもこれは人間に限らず、種ごとに異なる血液型物質を持っている上(たとえばダイコンやカブはO型、スモモやソバがAB型など。A型の植物は食用にならないらしい)、細菌類にも動物にも種ごとに特異な血液型がある。その中でも特に病原菌を含む細菌類のこういった糖鎖型が人間の進化に影響を与え、それに応じて(遺伝子移入が発生して)人間の中にも血液型ができたというのが本書の主張である。
 また、病原体によって人間がどのように影響を受けたかについて人類史的に考察し、そのために世界中の血液型分布ができたというところまで考察する。たとえばインド人にO型が少ないのはO型の人間がコレラ菌(コレラ菌に対してはO型の人が弱く、AB型が強いらしい)によってかなり死んだためで、天然痘、ペスト、梅毒なども人の血液型分布に影響を与えたとしている。ちなみに血液型分布は世界中で大きく異なっており、南米では圧倒的にO型が多く(国によっては9割以上)、インド西北部ではB型が4割以上などインド周辺部ではB型が多いらしい。日本の場合は4つの血液型が割合まんべんなく分布している。日本で血液型が占いや性格判断にしきりに利用されるのはそのためではないかと著者は言っているが、これについては説得力がある。
 僕自身は、藤田紘一郎氏を高く評価しているし、血液型についても性格に一定の傾向があると感じているが、この本で書かれていることについては正直100%信頼できないと感じた。確かに当たっている部分はあるとは思うが、こんなに断定しちゃって良いのと思う箇所が実に多い。藤田先生、一応科学者なんだから、どこまでの議論が確度が高く、どこが仮説であるかしっかり書いといた方が良いんじゃないかと感じながら読んだことを断っておく。あるいは別の本でそういうしっかりした議論を行った上で、一般向けにこの本を上梓したのかも知れないが、この本で展開されている話はかなり乱暴な議論であるという印象を受ける。面白いには面白いが。また、専門的な用語なども結構出てくるため、内容がわかりにくい箇所が多いことも付記しておく。
★★★

参考:
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-10-20 08:27 |

『わたしたちの体は寄生虫を欲している』(本)

b0189364_836441.jpgわたしたちの体は寄生虫を欲している
ロブ・ダン著、野中香方子訳
飛鳥新社

いろいろなことを語っているが
とりとめがない


 これも看板に偽りありの本。『ハチはなぜ大量死したのか』のときもそうだったが翻訳本にどうしてこういうタイトルを付けるかなと思う。てっきり寄生虫の本だと思って読んだんだが、寄生虫について語られているのは6章構成のうち1章だけである。そもそも原題が『The Wild Life of Our Bodies(身体の中の野生)』なんだからことさら寄生虫を強調することもあるまい。ええ加減にせえよと思う。日本の出版関係者の見識のなさを疑う。
 さてボヤキはこれぐらいにして、この本は人間の身体の中に野性時代の痕跡が残っていて、それが今の我々の生活の中にもいろいろな形で顔を見せているというそういうテーマの本である。たとえばヒトは捕食(他の生物に喰われること)や毒害から逃れるために視覚が発達したとか、捕食者の幻影から逃れるためにいまだに未知の恐怖に怯える(それが不安、ストレス、恐怖症などを生み出す)とか、そういった類のことが書かれている。寄生虫については、かつて寄生虫と共生していたヒトであるが、ここ数十年の過剰な衛生状態と抗生物質のせいで、体内から寄生虫や微生物を追い出したことによって、そのことがさまざまな病気の病因になっているという主張が紹介されている。また人間が体毛を無くしたのは、ノミやダニなどの外部寄生虫対策だという説が紹介されている他、都市型農業建築(ビルの中で作物を作ろうという試み)についても1章割かれている。
 「ヒトは他の生物との関わりの中で現在の形に進化してきた」というのが本書のテーマで、それを忘れて自己中心的な世界を作ろうとするとしっぺ返しを受けるよというのが全体をつらぬく主張である。そのために自然との共生を取り戻すための試みがいろいろと紹介されているわけだが、書かれている内容が全体的に散漫で、何が言いたいのか途中で見失ってしまう。そのために構成が雑という印象も受ける。内容自体は興味深い事例が多いため最後まで読むには読めるが、あまり残るものがない。
 翻訳は素直な文章で読みやすく好感が持てるが、誤植が非常に多いのが困りものである。市販の本としてはかなり多い方だ。担当者はしっかり校正しておくように。それから瀬名秀明という人が序文を書いているがこんなものも不要である。こんなところに金をかけるなら較正に金をかけろと言いたい。商品として考えた場合、かなりグレードの低い本になってしまった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (1)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの体は9割が細菌(本)』
竹林軒出張所『ハチはなぜ大量死したのか(本)』
竹林軒出張所『ティッピング・ポイント(本)』

by chikurinken | 2015-10-19 08:36 |

『大空へ アメリカ自作飛行機物語』(ドキュメンタリー)

大空へ 〜アメリカ自作飛行機物語〜(2003年・NHK)
NHK-BSプレミアム ハイビジョンスペシャル

b0189364_1021816.jpg命がけの趣味
趣味が悪い? それとも?


 アメリカの自作飛行機マニアを追ったドキュメンタリー。
 アメリカでは、何でも飛行機を自作して自ら飛行するという趣味が流行っているらしい。ライトプレーンと呼ばれる小型飛行機についてはキットもあるが、通常は設計図を買い、後は部品の調達、機体の製作などすべて自分でやってしまうというのだから驚く。同好の士が集まる同好会みたいなものも全土にあり、自作飛行機を飛ばすための空港も全米に展開されているらしい。
 飛行機の発明者であるライト兄弟も元々アメリカ人であるし、その流れが今も続いているということなのか。この番組ではそのあたりも意識してか、ライト兄弟の業績も紹介される。何でも今の飛行技術の多くはライト兄弟が発明したものだということで、これも目からウロコである。
 アメリカにそういう歴史があるのはわかるし、自作飛行機も面白そうであるが、しかしそうは言っても実際に飛ばす際には墜落の危険もあるし、ちょっと実験してみますというレベルのものではない気もする。言ってみれば自作の飛行機を命がけで飛ばすわけで、相当なリスクがあるように思える。実際、このドキュメンタリーに出てきた自作飛行機マニアの1人は実験飛行中墜落して大けがを負っていた。それにもかかわらず本人はもう一度挑戦したいと言っていた。まあ僕には理解できない世界だ。確かに命がけの趣味というのもアメリカらしいと言えば言える。
 番組の内容としては、個人的にはライト兄弟の紹介部分が一番興味深かったが、しかし彼らのフロンティア・スピリットが自作飛行機として今に脈々と受け継がれているというふうに考えると、自作飛行機マニアのエピソードとも一貫した内容になっていたと言える。いずれにしてもまとまりがあってなかなか面白い番組に仕上がっていたのは間違いない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『独立時計師たちの小宇宙(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『田宮模型の仕事(本)』
竹林軒出張所『盆栽の誕生(本)』
by chikurinken | 2015-10-17 10:21 | ドキュメンタリー

『新島誕生 西之島 大地創成の謎に迫る』(ドキュメンタリー)

新島誕生 西之島 〜大地創成の謎に迫る〜(2015年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

撮影テクノロジーの進歩に感心

b0189364_7485741.jpg 先頃、噴火してどんどん大きくなっている小笠原諸島の西之島はいまだに噴火活動を続けており、溶岩流が流れ続けて島の形も少しずつ変化している。火山活動が続いているために今でも近づくことはできないが、この島が今どうなっているかは気になるところである……少なくとも一部の学者にとっては。
 ということで、さまざまな分野の学者が集まって合同調査が行われることになった。火山学者や生物学者が参加して、無人ヘリコプターや無人潜水艇を使い、現在の姿を調べた。なにしろ、島の周囲4kmには近寄れないので、無人機を活用しなければならない。今では無人機や小型カメラも発達しているため、撮影された映像はどれも優れもので、臨場感がある。番組ではそういった映像が流され、同時に専門家たちが映像からどのような結論を導いたかも紹介される。
 全体的に「史上初」など大げさな表現が多く、それは研究者たちが興奮してそういうことを言ったのかも知れないが、話半分で聞いた方が良いという気がする。このあたりは超巨大イカの番組でも同様で、あの番組でも研究者たちが非常にはしゃぎまくっていて、端で見ていて痛々しいほどだった。そもそもオタク研究者は研究対象に思い入れが強いため、表現も一々大げさである。したがって彼らの言うことなど、話半分で聞くくらいがちょうど良いのである。
 とは言え、番組の映像はどれもすばらしく、迫力があるものだった。この番組に出て来た火山の噴火口の映像などはこれまであまり撮影ができなかったような代物である。間近の映像で噴火口が見られるだけでも十分価値があると言える。というわけで、この番組を見て、一番感心したのは撮影テクノロジーの進化なのであった。今後、さまざまな事象において、撮影対象が間違いなく拡大するんじゃないか……と思わせるような強烈な映像があふれていて、思わずうなってしまった。西之島のことについては何も知らなかったが、いろいろなことがわかったような気になった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『大海原の決闘! クジラ対シャチ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『深海の超巨大イカ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ジパングの海 〜深海に眠る巨大資源〜(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-10-16 07:49 | ドキュメンタリー