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竹林軒出張所

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『神聖ローマ、運命の日』(映画)

神聖ローマ、運命の日 オスマン帝国の進撃(2012年・伊ポーランド)
監督:レンツォ・マルチネリ
脚本:レンツォ・マルチネリ、ヴァレリオ・マンフレディ
出演:F・マーレイ・エイブラハム、エンリコ・ロー・ヴェルソ、イエジー・スコリモフスキ、ピョートル・アダムチク

b0189364_8233992.jpgご都合主義の歴史

 第二次ウィーン包囲を描いた映画ってことだが、内容はご都合主義でいい加減である。
 第二次ウィーン包囲は、凋落が始まったオスマン・トルコがヨーロッパに軍を送り込み、ウィーンを包囲したが結局陥落させることができず、最終的にはヨーロッパの君主連合軍に破れ撤退したという事件。トルコ軍が約15万人、ウィーン軍が1万5千人、君主連合の救援軍が6万というもので、救援に駆けつけたポーランド軍のゲリラ戦が奏功したのと、トルコ軍の装備が古かったことや士気が低かったことなどが原因となって、トルコ軍が惨敗したんだという。
 ただしかし、映画でこういう戦い、つまり数万の兵で数十万の兵を打ち負かしたということを表現するんなら、その理由をきちんと示さなければならない。この映画のように、マルコ神父の奇跡で救われ、キリスト教の神のご加護のおかげ、奇跡のおかげみたいなところに落ち着くとアホらしくなってくる。もっともこの映画のテーマ自体はキリスト教の威光というようなものなんで、それもまあ筋が通っていると言えば言える。本当はきちんとなぜこういう結果になったかを示すのが筋だと思うし、そのためにはオスマン・トルコ側の政治的背景、国内事情なんかもきっちり描くべきだと思うんだが、そのあたりはまったくおざなりである。ヨーロッパ側およびキリスト教側の都合の良い歴史観で終始しているんで、薄っぺらさを感じる。それにキリスト教こそが正義みたいな描かれ方をされると、随分身勝手な宗教ですことと思ってしまうのは僕だけか。
b0189364_824544.jpg 主演のマルコ神父を演じるのは、『アマデウス』でサリエリを演じたF・マーレイ・エイブラハムだが、あの映画ほどの強烈な印象はない。イタリア、ポーランドの合作だが、トルコ側も神聖ローマ側もなぜか全編英語。
 戦闘シーンはそれなりだが、CGがチャチな上、アクション・シーンで時折使われるスローモーションも安っぽい印象しか残らない。またあらゆる場面の演出が陳腐なのも気になるところ。
 こういうダメな映画は最初の10分位見るだけで概ねわかるんで、どうでも良い映画だったら早々に見切りを付けるに限るんだが、今回は歴史の勉強のつもりも少しあったんで最後まで見た。他人にはまったくお奨めしない。オスマン・トルコ側からの歴史を知りたければ、やはりそういう類の本を読むしかないかなと思った(以前『オスマン帝国』って本を読んで、ヨーロッパ側以外の視点でオスマン・トルコに触れ、目からウロコだったことがある。こちらはまずまずお奨め)。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『キングダム・オブ・ヘブン(映画)』
by chikurinken | 2015-08-31 08:27 | 映画

『罪と罰』(映画)

罪と罰(1970年・ソ連)
監督:レフ・クリジャーノフ
原作:フョードル・ドストエフスキー
脚本:ニコライ・フィグロフスキー、レフ・クリジャーノフ
撮影:ビャチェスラフ・シュムスキー
出演:ゲオルギー・タラトルキン、タチアナ・ベードワ、ヴィクトリア・フョードロワ、アレクサンドル・パブロウ

b0189364_8335333.jpg『罪と罰』の決定版

 ドストエフスキーの『罪と罰』の映画化作品。原作も長いが、この映画も前後編あわせて3時間40分という大作である。
 小説を読んでいるだけだとどうしても当時の風俗がわからなかったりするが、映画ではその点しっかり情景として表現されているのでそういう曖昧さはない。ただ原作が名作であるということになるとどの程度原作の内容が反映されているかどうしても気になるところで、なるべくなら原作に忠実に作っていただきたいと思う。内容が改変されていれば、映画経由でその原作に触れることにメリットはない。むしろ変な先入観が吹き込まれただけまずいということになる。
 その点、この映画は原作にかなり忠実に作られていて、原作の雰囲気もうまく再現されている。なんと言ってもキャスティングが絶妙で、ラスコーリニコフもソーニャも判事もこれ以上ないくらい原作のイメージと合っている。原作のまだるっこしさや暗さもよく再現されている。そのため映画を見ていると、原作と同じようないらだたしさや気分の悪さまで感じてくる。また一方で当時の風俗や街並みの再現も絶妙である。金もかかっているようで、70年代のソ連映画の力を感じることができる。
 なにしろ当時の下層階級の貧困がこれでもかというくらい描かれ、自然主義の作品かと見まがうばかりだが、それもこれも時代の再現性が高いためであると納得できる。おそらく『罪と罰』の決定版と言っても良い作品なのではないかと思う(他の映画は見ていないが)。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『原作と映画の間』
竹林軒出張所『カラマーゾフの兄弟(映画)』
竹林軒出張所『居酒屋(映画)』
竹林軒出張所『ゴリオ爺さん(映画)』
竹林軒出張所『令嬢ジュリー(映画)』
竹林軒出張所『赤と黒(映画)』
竹林軒出張所『プライドと偏見(映画)』
竹林軒出張所『ジェイン・エア(映画)』
by chikurinken | 2015-08-29 08:34 | 映画

『カラマーゾフの兄弟』(映画)

カラマーゾフの兄弟(1968年・ソ連)
監督:イワン・プイリエフ
原作:フョードル・ドストエフスキー
脚本:イワン・プイリエフ
出演:ミハイル・ウリヤーノフ、マルク・プルードキン、リオネラ・プイリエワ、キリール・ラウロフ、ワレンチン・ニクーリン

b0189364_836425.jpg重厚で無骨なソ連映画

 ドストエフスキーの名作の映画化。かなり忠実に再現されているという評判だが、結末が違うという話もある。
 全編232分、DVDにして3枚というなかなか重厚な作品で、ソビエト作品らしい無骨さもあるが、原作の雰囲気はかなり再現できているんではないかと思う。いずれにしても原作を読んでいないので再現度については評価できない。
 地主上がりの傲慢なろくでなし男、フョードル・カラマーゾフと、3人の息子との確執がこの壮大なストーリーの中心になるが、人間の強欲、傲慢、利己主義、侮蔑など、不快な要素がこれでもかというくらいに披露される。そういった人間の中の不快な部分が出てくる一方で、純真な登場人物(三男)も配置され、これが良い対比になっている。
 途中からだんだんミステリーみたいな要素が出てくるのはドストエフスキーらしいと言えば言えるが、エンタテイメントとしても楽しめる。なんでもこのDVDに収録されている解説によると、ドストエフスキー作品というのは根本的にエンタテイメント作品であって高邁な文芸作品ではないというんだが、確かにそうかもなーと思わせるストーリーではある。ただこの映画について言えば、演技が全体的にやや大ぶりで、それは舞台俳優を多数起用していることで致し方ない面はあるのかも知れないが、そういう点も少しばかり無骨さを感じさせるのだ。しかし当時の風俗や衣装が再現されているため、おそらく原作を読むよりよりリアルな雰囲気が味わえる。こういう部分は映像ならではで、もちろん文章でなければ堪能できない部分(特にセリフの面白さなど)もあるだろうが、最初に名作に触れる方法としては良いんじゃないかと思う。兄弟たちが少々老けすぎの印象もあるが、大きな破綻はない。
 なお、グルーシェンカ役で登場しているリオネラ・プイリエワは監督イワン・プイリエフの奥方だそうで、その監督のイワン・プイリエフは、この作品を完成させる直前に死去したそうだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『原作と映画の間』
竹林軒出張所『罪と罰(映画)』
竹林軒出張所『アンナ・カレーニナ(映画)』
竹林軒出張所『居酒屋(映画)』
竹林軒出張所『ゴリオ爺さん(映画)』
竹林軒出張所『令嬢ジュリー(映画)』
竹林軒出張所『赤と黒(映画)』
竹林軒出張所『プライドと偏見(映画)』
竹林軒出張所『ジェイン・エア(映画)』
竹林軒出張所『チャイコフスキー(映画)』


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 以下、以前のブログで紹介したソ連文芸大作映画『戦争と平和』に関する記事。

(2005年12月22日の記事より)
戦争と平和 第1部:アンドレイ・ボルコンスキー(1965〜67年・ソ)
監督:セルゲイ・ボンダルチュク
原作:L. N. トルストイ
音楽:ヴァチェスラフ・オフチンニコフ
出演:セルゲイ・ボンダルチュク、リュドミラ・サベリーエワ、ヴァチェスラフ・チーホノフ、イリーナ・スコブツェワ、アナスタシャ・ヴェルティンスカヤ

b0189364_8363040.jpg 壮大なスケールで描かれる『戦争と平和』。ソビエト時代に、巨費を投じて作ったらしい。
 ハリウッド版の『戦争と平和』がみすぼらしく安っぽかったのと好対照を示している。堅牢であまりけれんのない演出だが、カメラがあちこちを大きく移動するのはなかなか爽快。金がかかってるなと思わせる贅沢さである。衣装や大道具も贅沢で、戦場シーンもものすごい(相当なエキストラを動員したのだろう)。
 話の進展は、大河のようにゆったりしており(文字通り大河ドラマ!)、途中眠くなる。のんびりしているときに落ち着いてゆっくり見たい映画だ。
★★★☆

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(2005年12月26日の記事より)
戦争と平和 第2部:ナターシャ・ロスコワ(1965〜67年・ソ)
監督:セルゲイ・ボンダルチュク
原作:L. N. トルストイ
音楽:ヴァチェスラフ・オフチンニコフ
出演:セルゲイ・ボンダルチュク、リュドミラ・サベリーエワ、ヴァチェスラフ・チーホノフ、イリーナ・スコブツェワ、アナスタシャ・ヴェルティンスカヤ

 第1部のような派手さはないが、舞踏会シーンは華麗で素晴らしい。ヴィスコンティの『山猫』を彷彿とさせる絢爛さだ。第2部になって、やっと話が動き出してきたという感じである。
 人物関係が複雑でもう一つ飲み込めない箇所が結構あるが(見覚えのない人物が主要人物のようにしれっと現れるのだ)、それはそれ、流して見ることにする。
 ともかく、全編ぜいたくに作られており、映画はかくありたいと思わせるものがある。無骨ではあるが、映画的なあまりに映画的な映画である。
★★★

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(2006年3月24日の記事より)
戦争と平和 第3部:1812年(1965〜67年・ソ)
監督:セルゲイ・ボンダルチュク
原作:L. N. トルストイ
音楽:ヴァチェスラフ・オフチンニコフ
出演:セルゲイ・ボンダルチュク、リュドミラ・サベリーエワ、ヴァチェスラフ・チーホノフ、イリーナ・スコブツェワ、アナスタシャ・ヴェルティンスカヤ

 いよいよナポレオン戦争も佳境に入ってきた。フランス軍がモスクワ近郊まで迫ってボロディノの戦いが始まる。登場人物たちも否応なしに戦争に巻き込まれていく。
 豪華絢爛で贅沢な映画なんだが、眠いったらありゃしない。2回見ようとして、2回とも途中で眠りそうになった。3回目にしてやっと最後までたどり着いたという有様(劇場で見たらまた違うんだろうが)。
 途中からボロディノの戦闘が始まると眠くなることはないんだが、それまでの話にあまり緊張感がないんで退屈する。実際戦争が始まるときというのはそういうものなのかも知れないが。
★★★

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(2006年3月24日の記事より)
戦争と平和 第4部:ピエール・ベズーホフ(1965〜67年・ソ)
監督:セルゲイ・ボンダルチュク
原作:L. N. トルストイ
音楽:ヴァチェスラフ・オフチンニコフ
出演:セルゲイ・ボンダルチュク、リュドミラ・サベリーエワ、ヴァチェスラフ・チーホノフ、イリーナ・スコブツェワ、アナスタシャ・ヴェルティンスカヤ

 長い長〜い大河映画もこれで完結。
 第4部は、ボロディノの戦いからモスクワ入城、ナポレオン軍の暴虐、ナポレオン軍の撤退と歴史が動き、登場人物たちの人生もそれに合わせて揺れ動く。第4部は、まったく眠くなることもなく、相当な緊迫感がある。なるほど、第1部から第3部はすべてこのための導入部だったのだと納得させられる出来映えである。演出はやや粗く、拙いオーバーラップなどの効果もあるが、それでも、戦争や暴虐が身近にひたひたと迫る様子の表現は秀逸である。
 ナポレオン戦争といえば、歴史の一出来事というマクロ的な感覚しかないが、こういう形で戦争の悲惨さを突きつけられると、歴史上の事件であるナポレオン戦争に対する認識も変わるというものだ。ゴヤがナポレオン戦争を告発するために描いた『1808年5月3日』が、非常に身近な感覚で思い出された(同じようなシーンがあったし、犠牲者がイエスのように描かれるシーンもあった)。
 戦闘シーンは第1部から第4部まで力が入っており、ロマン派の絵画のような豪華さ(?)である。ものすごく金がかかっているのがよくわかる。「ソ連の威信をかけた」映画だったんだなとあらためて納得する。
 全体的に、登場人物たちにあまり入れ込まない演出で、人間の営みを俯瞰するような映像、ナレーションであり、戦争(人間)の愚かさを訴えるメッセージは十分に伝わってきた。無骨ではあるが、贅沢で高級な良い映画である。
★★★☆
by chikurinken | 2015-08-28 08:37 | 映画

『ブーリン家の姉妹』(映画)

ブーリン家の姉妹(2008年・英米)
監督:ジャスティン・チャドウィック
原作:フィリッパ・グレゴリー
脚本:ピーター・モーガン
出演:ナタリー・ポートマン、スカーレット・ヨハンソン、エリック・バナ、デヴィッド・モリッシー、クリスティン・スコット・トーマス、マーク・ライランス、ジム・スタージェス、アナ・トレント

アナ・トレントが大人になっていた

b0189364_8415123.jpg 英国のテューダー朝の時代、国王ヘンリー8世に離婚を迫りその後皇后の座に就いた(いわば元祖略奪婚の)アン・ブーリンとその妹(姉という説もある)のメアリー・ブーリンの数奇な運命を描いた映画。原作もあり、2003年にはテレビドラマが作られている。したがってこの作品は二度目の映像化である。
 『スターウォーズ エピソード3』のナタリー・ポートマンと『ロスト・イン・トランスレーション』、『真珠の耳飾りの少女』のスカーレット・ヨハンソンがブーリン姉妹を演じる。他に、ヘンリー王の前妻、キャサリン・オブ・アラゴンを演じたのが『ミツバチのささやき』の少女、アナ・トレントだということを知ってビックリ。キャサリン・オブ・アラゴンもなかなか存在感があって良かった。
 ストーリーは、歴史劇ということもあり割合普通ではあるが、アン・ブーリンの手練手管ぶりやヘンリー王の奔放ぶりがしっかり描かれていて非常に見応えがあった。願わくばヘンリー王がもっとゲスに描かれていればとも思うが、歴史劇なんであまりに冒険的な演出も問題があるのかも知れぬ。ちなみにこのヘンリー王、『わが命つきるとも』でもわがまま王として描かれるが、一般的なイメージも概ねこちらに近く、この映画のヘンリー像は上品すぎるような気もしないではない。
 『わが命つきるとも』ではヘンリー王の周辺、つまり宮廷内からのイメージが描かれていたが、この映画では宮廷に入ったばかりの新参者(つまりブーリン一族)からのイメージが描かれていて、それもなかなかユニークな切り口ではある。衣装やセットなども手が込んでいて(ヘンリー8世の衣装はあの有名な肖像画を彷彿させる)、しかもスリルとサスペンスの要素も盛り込まれていて、良質の映画に仕上がっていた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『わが命つきるとも(映画)』
竹林軒出張所『冬のライオン(映画)』
竹林軒出張所『エリザベス(映画)』
竹林軒出張所『クロムウェル 英国王への挑戦(映画)』
竹林軒出張所『宮廷画家ゴヤは見た(映画)』
竹林軒出張所『ロスト・イン・トランスレーション(映画)』

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 以下、以前のブログで紹介した『真珠の耳飾りの少女』と『スターウォーズ エピソード3』に関する記事。

(2006年3月27日の記事より)
b0189364_8421971.jpg真珠の耳飾りの少女
(2003年・英ルクセンブルグ)
監督:ピーター・ウェーバー
原作:トレイシー・シュヴァリエ
撮影:エドゥアルド・セラ
出演:スカーレット・ヨハンソン、コリン・ファース、トム・ウィルキンソン、キリアン・マーフィ、エシー・デイヴィス

 オランダの画家、ヤン・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女)」を題材にしたトレイシー・シュヴァリエの原作の映画化。だが、原作ものを単に映像化したというレベルではなく、作り手がフェルメールの絵画に直に接近しているのがよくわかる。
 この映画の一番の魅力はやはり映像である。フェルメールの世界を映像でことごとく再現しており、フェルメール好きの人ならばあちこちでニンマリしてしまうだろう。構図やインテリアだけでなく(これだけでもなかなかなんだが)、光の具合も再現されている。特に驚くのは、フェルメールの絵のタッチ(マチエールというのかな)まで似ているということ。どうやって再現しているのかわからないが、輪郭を少しぼかして若干ハレーションを起こさせるような撮り方をしているが、これがフェルメールのタッチによく似ている。全編でこういう効果を出しているわけではなく、フェルメールの絵に似た構図の箇所でのみやっているので意図的なものだと思うが、正直これはすごい! 掃除のシーンでさえも、フェルメール絵画の再現になっている。また、バルビゾン派のフェルメール風とか、横長の印象派(浮世絵)構図のフェルメール風というようなものも出てきて、なかなか面白い。
 もちろん映像だけでなく、ドラマとしても人間の機微が描かれていて、スリリングな展開もあり、まったく最後まで飽きることがない。でもやっぱり、西洋美術好きにはたまらん映画だろうなと思う。
 余談だが、この映画に登場するフェルメールの奥方が、同じオランダのヤン・ファン・エイクの絵(「アルノルフィニ夫妻の肖像」)に出てくる人物によく似ており、こういうのも意図的だったんだろうかと気になった。
★★★★

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(2006年10月2日の記事より)
b0189364_8424399.jpgスター・ウォーズ エピソード3 シスの復讐
(2005年・米)
監督:ジョージ・ルーカス
出演:ユアン・マクレガー、ナタリー・ポートマン、ヘイデン・クリステンセン

 アナキン・スカイウォーカーがいかにしてダース・ベイダーになるかというのがポイントだと思うが、そこらへんが非常に甘いというかリアルさがない。少し無理がある。それに背景も非常に薄っぺらで、大きな素材を扱った割には小さな世界しか描けていないと思った。悪くいえば中学生程度の想像力という感じ。こんなのがおもしろいですかと問いかけたくなる1本。
 スターウォーズは最初のシリーズだけで良かったなと思わせてくれた。
★★☆
by chikurinken | 2015-08-26 08:43 | 映画

『ピクニック』(映画)

ピクニック(1936年・仏)
監督:ジャン・ルノワール
原作:ギイ・ド・モーパッサン
脚本:ジャン・ルノワール
撮影:クロード・ルノワール
出演:シルヴィア・バタイユ、ジョルジュ・ダルヌー、ジャヌ・マルカン、ジャック・ボレル

金を取るんならせめて
できあがったものを見せてくれ


b0189364_8192714.jpg モーパッサンの短編小説『ピクニック』をジャン・ルノワールが監督した作品。助監督としてジャック・ベッケル、アンリ・カルティエ=ブレッソン、ルキノ・ヴィスコンティらが名を連ねる、超豪華スタッフの映画。だが、映画自体は物足りない……というか未完成だ。極端な話、冒頭のシーンとラスト・シーンだけしかないため、序盤のダラダラしたシーンでウトウトしていたら、アレアレという間に終わってしまった。今回劇場で金を払って見たんだが、おかげで何だかとても損した気分になった。公開するに当たって「未完成」であるということをもっと強調してほしかったところである。もっとも「未完成」と言うのも少し言い過ぎなくらいで、厳密に言えば撮影断片にしか過ぎず、本当のところ資料的な価値以上のものはない。ただしこれが完成品だったとしても、物足りない印象を持っていた可能性は高い(演出に疑問符が付く箇所が結構あった)。
 主役はシルヴィア・バタイユという美しい女優(?)で、彼女実はあのジョルジュ・バタイユの奥方らしい。しかも当のバタイユまで映画に飛び入り参加しているというのだからこちらも豪華絢爛(どこに出ているかは不明)。
 映像などは結構凝ったもので印象派の絵画を思わせる部分もあるが、なにぶんモノクロなので印象派的な色彩は表現されようがない。もちろんモノクロなりに美しくはある。今回、デジタル・リマスターされたということで期待はあったが、前回見たときとあまり印象は違わなかった。それよりも今回はパリ近郊の川遊びが持つ意味などを知っていたため(竹林軒出張所『誰も知らない印象派 娼婦の美術史(本)』を参照)、そういう点で印象が多少異なった。まあしかしいずれにしても、非常に中途半端な公開作品であったことには変わりない。
★★☆

追記:
 その後、モーパッサンの原作小説を読んでみたが、驚いたことに、この映画の内容と大して変わらない。つまり原作と照らし合わせて「足りない」と思われる部分がほとんどない。ということは、この映画、「未完成」かも知れないが、決して「撮影断片」などではなかった。原作をほぼ忠実に再現していると言っても良い。とは言え、やはり原作のストーリー部分を十分に演出できているとは言えないので、完成版を見ていたとしても一抹の物足りなさは残ったんじゃないかと思う。

参考:
竹林軒出張所『誰も知らない印象派 娼婦の美術史(本)』
竹林軒出張所『大いなる幻影(映画)』
by chikurinken | 2015-08-25 08:20 | 映画

『紙屋悦子の青春』(映画)

紙屋悦子の青春(2006・パル企画)
監督:黒木和雄
原作:松田正隆
脚本:黒木和雄、山田英樹
出演:原田知世、永瀬正敏、松岡俊介、本上まなみ、小林薫

地味な、あまりに地味な映画

b0189364_8273491.jpg 戯曲が原作の映画。元々の戯曲は、松田正隆が自分の母親の話を劇化したものだという。まあいかにもそういう話ではある。
 太平洋戦争末期、生活が不自由になっていく中、人の死を身近に感じるというストーリーで、空襲シーンなどは一切ない。したがって、戦争経験者から話を聞いている状況に近いと言える。映画も会話中心に進行していく。いかにも戯曲が原作です、それも聞いた話をそのまま映画にしましたという感じの話である。
 映画ではかなり長回しのシーンがあり、俳優陣は大変だっただろうと思うが、見ているこちらも長回しは結構疲れる。いかにも舞台みたいな効果を出したかったのか、それともリアルな生活感を出したかったのかはわからないが、どの程度効果が上がっているのかはにわかにはわからない。とにかくストーリーにあまり起伏がない上、語り口も淡々としているため、2時間見続けるのは少々シンドイかなと感じるような映画である。
第31回報知映画賞特別賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『わが愛 北海道(映画)』
竹林軒出張所『原子力戦争(映画)』
竹林軒出張所『サヨナラCOLOR(映画)』
竹林軒出張所『しあわせのパン(映画)』
竹林軒出張所『早春物語(映画)』
by chikurinken | 2015-08-24 08:28 | 映画

『京都人の密かな愉しみ 夏』(ドキュメンタリー)

京都人の密かな愉しみ 夏(2015年・NHK)
NHK-BSプレミアム ザ・プレミアム

よそ者には知り得ないディープな京都

b0189364_8401499.jpg 今年の正月に放送された『京都人の密かな愉しみ』の第二弾が登場した。その名も『京都人の密かな愉しみ 夏』。
 番組の構成は前回と同様、「洛志社大学」のヒースロー教授(団時朗)と老舗和菓子屋の若女将(常盤貴子)を中心に据えたドラマ仕立ての部分がメインで、それに20分程度の別のショートドラマが織り込まれる。また前回同様、京都の料理研究家による京都料理のコーナーもある。こういうふうに語るとなんだか実にとりとめのない番組のように思われるかも知れないが、実際はうまくまとめられていて、ショートドラマの部分も、メインドラマとうまいことつなげられている(多少とってつけた感じはあるが)。ここではドキュメンタリーに分類したが、ほとんどの部分はドラマであり、演出と脚本は映画監督の源孝志が担当している。
 今回は、京都の市中を流れる地下水がテーマになっていて、そのために鉄輪の井戸や冷泉家の井戸、地下水を利用している錦市場などが紹介される。当然ドラマにも井戸が絡んでいて、テーマに統一感があり、良くまとめ上げられているという印象である。
 ショートドラマ部分のキャストは、1本目が柄本佑、中越典子、川島海荷、2本目が柄本明、眞島秀和、中村倫也ら。柄本親子が別々に登場していて好演している他、1本目の川島海荷という女優が非常に良い味を出していた。中越典子も十分怖さを発揮していて○(ちなみに1本目は少し怪談が入っています)。
 この番組で紹介されるのはかなりディープな京都で、普通に京都に住んでいても知らないようなことばかりである。そうとはわかっていても、この番組を見ていると京都に行ってみたいと感じてしまう。これはひとえに、製作者側の見事な手腕のせいと言って良く、実際に京都を訪れても、この番組で紹介されているような部分まで踏み込むことはできないと思う。観光客は概ね表層だけを辿ることになるが、それは致し方ないことである。
b0189364_8403667.jpg エンドロールでは前回同様、武田カオリが歌う「京都慕情」が流れるが、相変わらずこの曲のCD化の予定はないようだ(おそらくいずれ出てくるとは思う)。なお現在武田カオリのアルバム(TICA名義)は2枚出ていて、1枚目のアルバム『Magalog -Kaori Takeda CM Song Book-』にカバー曲が何曲か収録されている(2枚目のCD『東京のシンフォニー』は、カバー曲は「Mr. サマータイム」のみで後はオリジナル)。コマーシャルソングをたくさん歌っている歌手のようで、『Magalog』はその類の曲が収録されたものだが、カバーをうまく歌える歌手が実力者であるのは言うまでもない。全曲聴いてみたが、カバーの中で一番良かったのは「Mr. サマータイム」だと個人的には思っている。この番組で使われた「京都慕情」はプチブレークのきっかけになるかもしれない。
b0189364_8492460.jpg それから「京都慕情」についてだが、この曲は元々ベンチャーズが作って発表したもので、その後、1970年に渚ゆう子が歌ったものがヒットした。ヒット曲であるためカバーは結構出ていて、オリジナルに近いものだとO'sというデュオのもの(『COVER’s』に収録)、スローテンポでしっとりしたものだとおおたか静流のもの(『恋文』に収録)、パンチの効いたものだと小山ルミのもの(『ベンチャーズ・ヒットを歌う!』に収録)と、僕が知っているだけでもいろいろなバージョンがある。変わったところではダイヤオ・リウジエ・チャンチェンが歌う「北京慕情」(メロディと一部歌詞は「京都慕情」と同じだが、伴奏部分に胡弓が使われていてそれらしい雰囲気になっている)なんてものもあって(『ベンチャーズ歌謡大全』に収録)多彩で面白い。武田カオリのものはスローテンポで、オリジナルとも雰囲気が違い、ちょっと独特な感じがする。
 なお、この『京都人の密かな愉しみ 夏』だが、最後、ヒースロー教授の前に謎の女性(シャーロット・ケイト・フォックス)が登場したところで終わっていたので、間違いなく続編(正確には続々編)が作られるだろう。次は『冬』かな。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 冬(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 月夜の告白(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『京都人の密かな愉しみ 桜散る(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『漱石悶々(ドラマ)』
竹林軒出張所『京都 冷泉家の八百年(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『いねむり先生(ドラマ)』
by chikurinken | 2015-08-22 08:41 | ドキュメンタリー

『働く子供たちは守れるのか』(ドキュメンタリー)

働く子供たちは守れるのか 〜ボリビア 新・児童法の挑戦〜
(2015年・NHK)
NHK-BS1 ドキュメンタリーWAVE

何が正しいかは
現場を見ないとわからない


b0189364_8123577.jpg 南米のボリビアで、10歳以上の子どもたちが労働力として認められるという法が制定された。すべての子どもたちが学校に通えるようにするため児童労働を排除し、労働者の最低年齢を引き上げるというのが世界の潮流で、それに真っ向から反対するかのような法律であるため、ILO(国際労働機関)でもこれが問題視される。
 だがこれについて詳細に検討してみると、何も「子どもも学校に通わずに働け」というような法律でないことがわかる。ボリビア国内でも元々最低年齢を引き上げる方向で政策を進めていたが、現実に存在する児童労働者がむしろ正規労働者として認められず不当な扱いを受けているという現状があり、それに対する処置として現実的な政策を取ったというのが実情であった。
 このようなボリビア政府の政策を反映するかのように、ボリビア国内では、児童から搾取する企業に対して行政が圧力をかけ、児童に正当な賃金を支払い、学校に行かせるよう迫っている。同時に、児童労働者たちがユニオンを作って不当な雇い主と渡り合う手助けもしているというのだからその先進性には驚かされる。むしろ建前を捨て、こういう現実路線を取ったボリビア政府にこそ、児童労働について語る資格があるというものだが、そんな実情に一向に配慮しないILO総会の場では、ボリビア政府に対する非難決議が採択されるのだった。ボリビアの児童労働者たちは一方で、このようなILO決議に反対するデモを行うという、まことに歪んだ構造がある。
 国際機関の建前と現実の政策が対照的で、現場を知らない企業トップの独断専行と同じような構造がここにあって、そういう点で非常に興味深い。誰のための何のためのスローガン、政策なのか、常に注視していかなければならないことを思い知らされる事例であった。今後もボリビアの(先進的な)児童労働政策に注目していきたいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『瓦と砂金 働く子供たちの13年後(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『甘いチョコレート 苦い現実(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『スラムのオーケストラ(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-08-21 08:13 | ドキュメンタリー

『あの日、僕らは戦場で』(ドキュメンタリー)

アニメドキュメント あの日、僕らは戦場で 〜少年兵の告白〜
(2015年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

悪い大人は子どもを利用する

b0189364_1293518.jpg 太平洋戦争末期、沖縄決戦を迎えるにあたり、日本軍は「護郷隊」というゲリラ組織を作り米軍上陸に備えた。この作戦を計画したのは、陸軍中野学校の将校だが、この組織、その構成員は13歳から17歳の少年少女たち、つまり少年兵である。
 沖縄の子どもたちのところにある日突然名護に来いという呼び出しがかかり、作業の徴用か(この頃滑走路を作る作業などに駆り出されていた)などと思って行ってみるといきなり過酷な訓練を強いられる。殴る蹴るは言うまでもなく、中には日本刀で脅迫されることまである。あげくに帰りたければ帰って良いが、帰ったらハガキ一枚だ(死刑宣告)などと脅しをかけられる。毎日訓練をこなすうちに、ものごとの分別つかなくなり、殺戮マシンとして仕立て上げられていく。
 いよいよ米軍が沖縄に上陸してくると、ゲリラ部隊として戦場に投入される。少年兵たちは、地元の子どもだと思って親切にしてくれた米兵に攻撃を加えたり、自分の故郷が戦場になったため故郷を焼き払うように命令されたり、あるいは戦友が死んだりなどという、異常な経験をしていく。
 この番組では、かつてこういう経験をした元少年兵から話を聞き、それを元に当時の状況をアニメで再現する。アニメ化しているので当時の状況がわかりやすい。上官の目が描かれておらず恐ろしげなのも子ども目線が表現されていて良い。
 内戦状態のアフリカや原理主義がはびこる中東で、少年を兵士として使うという話はよく聞くが、70年前に日本でもやっていたということは、実は今回初めて知った。しかもゲリラ戦で駒のように良いように使われていたという点では、アフリカの少年兵士や中東の自爆テロリストと同じである。この護郷隊の少年たちも強制的にかり集められ(これも一部の右翼連中は「強制」ではなく「自分の意志」だなどと言い張るのかも知れないが)、人格を無視して非道なことが行われ、強制的に殺戮の場に投入されたわけだ。身勝手な人間が、弱い立場の人間を好き勝手に利用するというのは、戦争、戦闘のあらゆる場面で見受けられる。身勝手な連中をのさばらせる(同時に彼らの身勝手な行動が正当化される)世の中というものが、どれだけ一般人に苦しみと不幸をもたらすかがよくわかるというものである。こういう悲劇を自分のこととして考え、しっかり反省することこそ、平和な世界を生きる我々に求められているのではないかと考える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『少年テロリストたちの“夜明け”(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-08-19 12:10 | ドキュメンタリー

『カラーでみる太平洋戦争』(ドキュメンタリー)

カラーでみる太平洋戦争 〜3年8か月・日本人の記録〜(2005年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

太平洋戦争限定のカラー化企画

b0189364_8245384.jpg 『カラーでよみがえる東京』『カラーでよみがえる第一次世界大戦』と同じような企画で、要するに過去のモノクロ映像をカラー化して、現代的なリアリティを持たせようという試みである。今回カラー化されたのは、太平洋戦争中の日本全国の映像で、特攻で飛び立つ人々、米軍に焼き払われる沖縄、焼け野原にたたずむ日本人などの映像が、カラー化でよりリアルな質感に生まれ変わる。
 モノクロ映像だとどうしても時代的に疎遠な印象がつきまとうのだがカラー化するとこの時間的な隔たりが一挙に縮まるような感覚になる。それが映像カラー化の大きなメリットなんだが、特に戦時中の日本の映像ということになると、当時の空気もより一層身近に感じられるようになる。
 この番組では開戦から時系列で紹介されていくんだが、1943年頃まで比較的平穏だった銃後(要するに国内情勢)が、学徒動員あたりからだんだん不穏になってきて、44年になると少しずつ米軍から爆撃を喰らうようになり平穏さを欠いていく。45年の東京無差別爆撃に至っては、まさに戦場の様相を呈してきて、もはや銃後と言って済ますことができなくなる。
 このように比較的平穏な国内の映像から焼け野原の映像までが紹介され、そこに当時の人々が書いた手記が挿入されるという演出で、これもなかなか良い効果を出している。手記は、一般の人々以外に、あの水木しげるセンセイや愛川欽也のものまで含まれている。このあたりの演出は『カラーでよみがえる東京』とも共通で、マンネリと見る向きもあるかも知れないが、映像自体に説得力と価値があるため、たとえワンパターンであっても、このような企画には大きな価値があるというものである。これからも是非続けていってほしいと切に思う。
 特に印象的だったのは敗戦後の日本各地の映像で、方々の大都市が廃墟になっているのに、空襲を受けなかった京都の街並みが従来どおりだったという部分である(市民が平常どおりの生活を送っていた)。これを見ると、空襲さえなければ全国の文化財も今以上に残っていたはずと考えてしまう。実際、空襲で国宝の建物も燃えているわけで、あの戦争で失ったものの大きさにあらためて気付くのである。もっともこの戦争では100万人以上の日本人の生命も失っているわけで、こちらの方が大きいのには違いない。戦争は大変な散在であるということをあらためて実感するのだった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『カラーでよみがえる東京(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドラマ 東京裁判 (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえる第一次世界大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第1巻、第3巻、第4巻(本)』
竹林軒出張所『総員玉砕せよ!(本)』
by chikurinken | 2015-08-18 08:25 | ドキュメンタリー