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竹林軒出張所

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『日本人は何をめざしてきたのか (3)』(ドキュメンタリー)

日本人は何をめざしてきたのか
第3回 公害先進国から環境保護へ

(2015年・NHK)
NHK-Eテレ 2015年度「未来への選択」

b0189364_821834.jpg日本戦後環境史

 戦後日本を振り返るシリーズ『日本人は何をめざしてきたのか』の第3回。1960年代から明るみに出始めた公害問題、拡大する被害、それへの対策、政府レベルでの環境問題への取り組みという流れで戦後環境史を辿る。
 日本政府は、高度成長に伴い重化学工業を重視するという政策に乗り出し、各地にコンビナートをはじめとする重化学工業施設を建設していく。だがその過程で、さまざまな重金属、硫化物が環境に放出されたため、人の生活や周辺環境に多大な悪影響が現れ始める。三重県四日市の喘息被害や田子の浦のヘドロ、水俣病やイタイイタイ病などが頻発するのが50年代から70年代にかけてで、こういった環境汚染は「公害」という言葉で表現されるようになる。企業にも政府にも対応が求められるようになり、ようやく政府の重い腰が上がったのが1971年。ときの佐藤栄作政権は環境庁を設立し、公害対策にも積極的に取り組むようになる。
 このような尽力もあり公害対策はある程度改善されるが、一方で市民の側も積極的に行政の政策に対して意見を表明するようになる。そのため各地で環境破壊をもたらす施設に対して反対運動が起こり、その際提唱されたのが「環境権」という概念で、こういうこともあり、日本は徐々に環境保護を是とする方向にシフトしていった。
 やがて深刻な公害を経験した国として、世界の環境問題に積極的に関わることが政府の政策の1つになり、1997年には温室効果ガスの排出規制のための京都会議を開催するまでになる。もちろんまだまだ日本の環境問題には大きな問題が残されているが、これまでの国内の歩みを眺めることで、少なくとも50年前から環境意識が進んでいるということは実感できる。今後も行政、民間を問わず積極的に取り組んでいってほしい(取り組みたい)ものだと思う。温室効果ガスについてはすでに待ったなしの状態である。個人レベルでは、とりあえず自家用車の利用を少なくするところから始めるのはいかがでしょう?
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『水俣病 魂の声を聞く(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『CO2と温暖化の正体(本)』
竹林軒出張所『原発と日本の未来 原子力は温暖化対策の切り札か(本)』
竹林軒出張所『暗闇の思想を(本)』
竹林軒出張所『明神の小さな海岸にて(本)』
竹林軒出張所『母と子 あの日から(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-07-31 08:21 | ドキュメンタリー

『日本人は何をめざしてきたのか (2)』(ドキュメンタリー)

日本人は何をめざしてきたのか
第2回 男女共同参画社会 女たちは平等をめざす

(2015年・NHK)
NHK-Eテレ 2015年度「未来への選択」

b0189364_8145394.jpg日本戦後女性運動史

 戦後日本を振り返るシリーズ『日本人は何をめざしてきたのか』の第2回。今回は戦後ずっと虐げられてきた女性たちの歴史。もっとも女性が差別的な待遇を受けてきたのは明治からずっとで戦後に限らないが、この番組で扱うのは戦後の女性史。
 戦後、男女普通選挙法が導入され女性に対する差別的待遇が名目上撤廃されたが、日本の一般的な企業では、女子労働者は「お茶くみ担当で結婚退職が前提」みたいな扱いを受けてきた。また待遇面でもあからさまな差別が続いてきて、それに不満を抱える人々も出てくる。しかし政府がなかなか重い腰をあげようとしないのは、日本の政治の常。
 女性の扱いに後進性を見せてきた日本であるが、国連の女子差別撤廃条約を批准することが決まると(これについても日本政府は当初批准の意図がなかったらしい)、当時の女性差別的な状況を改善する義務を負うことになるため、しぶしぶという感じで、1985年に男女雇用機会均等法が制定されることになった。もっともこの法律、違反した企業に対する罰則規定がないなどザル法で、それについても当時一悶着があったのだ。要するに企業側はあくまでもお茶くみを必要としていたということなんだろう。とは言え、この法律が日本国内の人々の意識を変えるという役割を果たしたのは間違いない。
 1999年には、これをさらに推し進めた男女共同参画社会基本法が制定され、女性差別撤廃は少しずつではあるが進んでいる。もちろん各時代を通じて不利な目や不遇な目に遭った人達(特に女性たち)はたくさんいるわけで、そういう人々がこの番組に登場して当時の状況を振り返っていたが、それも当時の理不尽さがよく伝わってきて、当時の状況をわかりやすくする役割を果たしていた。
 で、目下問題になっているのが、妊娠と同時に退職を迫られるというマタハラ問題で、この国は相も変わらず強者(既得権益保持者)の理論で動いているなあと実感せざるを得ない。北欧並みの人権意識はいつになったら根付くのかと感じずにはいられない。こういう感情はもう30年来続いているんだが、僕が生きているうちには実現しないんじゃないかと思う。1990年代に政府が検討していた夫婦別姓法案でさえ、いまだに実現していない(現在では政府の検討課題にすらなっていないようだ)ってんだから後ろ向きにもほどがあるってもんだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『戦後70年 ニッポンの肖像 (1) 高度成長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『戦後70年 ニッポンの肖像 (2) "バブル"(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『タリバンに売られた娘(ドキュメンタリー)』

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 以下、以前のブログで紹介した男女問題の本に関する記事。

b0189364_8142837.jpg(2004年11月26日の記事より)
「できない男」から「できる男」へ
伊藤公雄著
小学館

 男性学を平易に紹介した本。男である自分を振り返って思い当たるフシが多く、非常に納得できる。文章も明快で読みやすい。
 「男は外、女は家」のシステムを見直し、すべての男女が、家のこと、共同体のこと、育児のことに参加して、人間らしさを取り戻すべきだと主張する。ごもっとも。
 男の特徴を分析した部分も非常に面白い。
★★★★

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b0189364_814931.jpg(2006年7月5日の記事より)
妻たちの思秋期[ルポルタージュ日本の幸福]
斉藤茂男編著
共同通信社

 学生時代(1980年代)ある教師が講義で奨めていた本で、20年来気になっていた本。ついに購入した。上のAmazonリンクをたどっていただくとわかるが、ユーズド商品(古本)はなんと「1円」で売られている。手数料などを入れると結果的に258円になるが、それでも安い。よく売れてよく古本屋に流れた本なのだろう。
 内容はなかなか重く、当時(そして今でも連綿とこの流れは繋がっていると思うが)の、虐げられる主婦の実像が赤裸々に描かれている。この本は、新聞連載をまとめたものらしいが、登場人物たちに同意する声が非常に多かった(反対する声も非常に多かったらしいが)というのが、なによりも当時の社会を反映しているのではあるまいか。今では(社会潮流の変化などにより)いくぶん変わった部分もあるが、「男社会によって虐げられる女性」という構図は根底に残っているようだ。
 企業戦士の夫との生活が破たんし、アルコール依存症になってしまったり離婚を経験したりした数人の女性の物語を軸に話が進んで行くが、観念奔逸のように、次から次と新しい(主役クラスの)女性が出てきて戸惑う箇所も多い。いっそのこと、「○○子の場合」みたいな形で明確に区切った方が分かりやすかったんではないかと思う。
 また、やたらと精神科医が登場し、問題夫や主役女性の精神分析をやるのだが、これがかなり独善的で相当違和感を感じる。たとえば「ミニカーの収集癖が親の愛情の欠如のため」らしいのだが、またずいぶん決めつけちゃったもんだねえと思う。
 ただそういう部分を別にすると、告発物として、センセーショナルでよくできている。ろくでもない夫ばかり出てくるが、これが現実なんだろうなとも思う。思い当たるフシもなきにしもあらず……だ。ちょっとだけ反省した私でした。
★★★☆
by chikurinken | 2015-07-29 08:16 | ドキュメンタリー

『ムハンマドたちの絶望』(ドキュメンタリー)

ムハンマドたちの絶望 〜“アラブの春”後のエジプトを生きる〜
(2015年・エジプトAl Batrik Art Production/NHK)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

b0189364_8412019.jpg混迷するエジプトの今

 「アラブの春」がアフリカ、中東を席巻するさなか、エジプトでは2011年に民主革命が起こり、当時の大統領ムバラクが退陣に追い込まれた。その後、民主的に大統領選挙が実施され、宗教組織であるムスリム同胞団の団長、ムハンマド・ムルシが大統領職に就く。ただムルシの政策は反動的で、民主政治を期待していた市民からは失望の声があがっていた。
 このドキュメンタリーのタイトルになっている「ムハンマド」は、イスラム教の開祖のムハンマドではなく、またこのエジプト大統領のムハンマド・ムルシでもない。エジプト北部、ポートサイドのサッカー場の暴動の際に逮捕された1人の市民の名前である。この暴動では74人が死亡したとされるが、このムハンマドもその首謀者の1人として逮捕され、ムルシ政権下で死刑判決が出された。
 ムハンマドは終始無実を訴えているが、一方でムルシ政権に内在する問題が冤罪の原因であるとも考えており、反ムルシの考え方を持っている。こうした中、反ムルシの運動は全国に拡大し、2013年にこれを承けて軍事クーデターが起こり、結果的にムルシは解任される(後に死刑判決が出される)。その後再び大統領選挙が実施され、軍事クーデターの当事者である軍人のシシが当選した。これに伴い、主人公のムハンマドの裁判もやり直しが行われることになった。
 このように、このドキュメンタリーは1市民の目から見たエジプトの今が捉えられた作品だが、内容的にはあまりパッとしない。そもそも主人公のムハンマドが本当に無実なのかどうかがはっきりしないため、それほど共感が湧かない。ただ一つよくわかったのはムルシが反動的で非常に不人気だったということ。新しいシシ政権にしても海のものか山のものかよくわからず、今後どうなるかわからない。まだまだ波乱含みの様相で、真の民主化がいつになるのかはなかなか見えてこない。エジプトのそういう状況はまあ理解できた。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ネットが革命を起こした(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“アラブの春”が乗っ取られる?(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-07-28 08:41 | ドキュメンタリー

『“天国には行かせない” クルド人女性部隊』(ドキュメンタリー)

“天国には行かせない” 〜ISと戦うクルド人女性部隊〜
(2015年・イスラエルItai Anghel/Keshet International)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

噂に聞くクルド軍は勇敢だった

b0189364_850820.jpg イラクとシリアではいまだに内戦が続いており、IS(イスラミック・ステート)は依然として支配領域を確保している。そのISに果敢に戦いを挑み続けているのがクルド人である。
 クルド民族はトルコ、イラク、シリア国境付近に定住する民族で人口は約3000万人、独自の国家を持たない民族としては世界最大と言われる。イラク国内にはクルド人自治区もあったが、トルコやシリアでは虐げられてきた。そのため、イラクとシリアの内戦はクルド人にとってはある意味都合が良い。独立のチャンスとも言える。それを考えると、勢力を北部に広げつつあるISとぶつかるのも理の当然。実際クルド人は民兵組織も持っているのだ。
 このような事情を背景として、ISとクルドはイラク・シリアの北部地帯で戦闘を続けている。このドキュメンタリーは、イスラエルの製作局が作ったものだが、クルド軍の最前線に同行し、ISとの戦闘を取材するというもので、ISを逆側から照らし出すということになる。
 クルド軍には、女性兵士も少なくなく、ISは彼女らを見ると逃げ出すらしい。一つにはISの兵士が、女に殺されると天国に行けないと信じているためで(聖戦で普通に死ぬと「天国に行き72人の処女に囲まれて幸せに暮らせる」らしい)、番組に登場するクルド人女性士官はこれを笑い飛ばす。彼女によると、ISは寄せ集めで統制も取れておらず勇敢でもないらしい。世界中の多くの人々はISのプロパガンダ映像に騙されているに過ぎないと言う。
 クルド人は、ISにとっては奴隷にして良い被差別的存在らしく、クルド人にとってISと闘うことは自らの存亡がかかっている。クルド兵士が勇敢なのも、女性が多いのもそのためらしい。女たちは特にISに捕まったらもの扱いされ、売り飛ばされるのは必至である。このクルド人に対する感覚からわかるようにISの考え方は(特に女性に対して)非常に差別的である。ISが(『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』で語られているように)歴史的必然として登場したのではなく、歴史の空白に現れたただのあだ花に過ぎないことが見てとれる。
 このドキュメンタリーを見ると、いずれイラク・シリア北部にクルド人の国家(つまりクルディスタン)ができるんじゃないかという気がしてくる。そもそもこれまで独自の国家がなかったことが不思議なくらいで、むしろ「クルディスタン」ができる方が歴史的必然と言えるのではないかと、そんな気がしている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『“イスラミック ステート”はなぜ台頭したのか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『追跡「イスラム国」(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イエメンのアルカイダ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イスラーム国の衝撃(本)』
竹林軒出張所『イスラム国 テロリストが国家をつくる時(本)』
by chikurinken | 2015-07-27 08:50 | ドキュメンタリー

『岐路に立つシェール革命』(ドキュメンタリー)

岐路に立つシェール革命 〜アメリカ テキサス州〜(2015年・NHK)
NHK-BS1 ドキュメンタリーWAVE

シェール・オイルは環境面だけでなく
経済面でも割にあわない


b0189364_751172.jpg 数年前からシェール・オイル、シェール・ガスが話題になっているが、その経済性について注目したドキュメンタリーは珍しい。これまでドキュメンタリーで扱われていたシェール・オイルというのは、シェール開発による環境破壊の現状についてというのがほとんどである。確かにこれは重要なテーマであり、これからも追求してほしい項目であるが、経済面からアプローチするというのはこれまであまりなかった。
 いわゆるシェール革命以後、アメリカ合衆国は、サウジアラビアを抜いて世界最大の石油産出国になった。ただしシェール・オイルの産出にはかなりの費用がかかるため、原油価格の影響を受けやすいのも事実……というのがこの番組の主旨である。原油価格は、かつて1バレル100ドルという超高値を付けていたが、現在は50〜60ドル程度である。これでも少し前に比べると十分高い、異常な価格だとは思うが(数年前、先物取引市場の暴走のせいで原油価格が異常に高騰したのは記憶に新しい)、シェール・オイルの採掘には1バレルあたり50〜60ドルかかるため、この原油価格だと採算が取れなくなるという。
 実際、かつてシェール・オイル・ラッシュで沸いたテキサス州でも、採掘から撤退する企業が相次いでいるという。番組に登場したある企業などは採掘費用を削減するためさまざまな努力を続けていたが、原油価格が本格的に低価格化したら、焼け石に水なんじゃないかと思う。むしろ、環境対策をおろそかにして費用を削減しようとしないか、そちらの方が心配になる。どっちみちシェール・オイルなんてのは、環境を汚さなければ採掘できない、不自然な「汚い資源」なんだから、関係者にはこれ以上環境破壊を増やさないよう早々と撤退してほしいものだ。
 いずれにしても経済面からシェール・オイルに迫るというアプローチは新鮮で、内容が充実したドキュメンタリーだった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ガスランド(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『シェールガス開発がもたらすもの(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『脱原発。天然ガス発電へ(本)』
竹林軒出張所『岐路に立つタールサンド(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-07-25 07:52 | ドキュメンタリー

『腰痛・治療革命』(ドキュメンタリー)

腰痛・治療革命 〜見えてきた痛みのメカニズム〜(2015年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

b0189364_8231759.jpg腰痛の画期的治療法
信じる者は救われる


 これまでも何度か書いてきたが、NHKスペシャルの医療特集は、来たるべき明るい未来を謳うだけで眉唾なものが多かった。しかし今回は違う。慢性的な腰痛についての革命的な治験である。ただしその方法は至ってシンプルで、要は「大丈夫だと思い込む」というものである。
 僕なんかは、いったん腰痛持ちになったら一生関わっていくものと思い込んでいたので、腰には随分気をつけてきたつもりだ。だがしかし、実際ギックリ腰などは発症時こそ強烈な痛みが出るには出るが、3カ月以内に完治するらしい。ただしその後、再発するのではないかという不安が、脳の中の痛みを抑える部位(DLPFC)の活動を抑制するため、この部位がだんだん小さくなり、ちょっとした痛みも過剰に感じるようになるというのが慢性腰痛(3カ月以上続く原因不明の腰痛)の仕組みなんだそうだ。したがってこのような不安を排除し、この部位(DLPFC)の活動を復活させれば、慢性腰痛のほとんどは完治するというのがこの番組の主旨。
 そのために具体的に何をするかというと、まず腰痛の仕組みを患者に周知させ、慢性腰痛は気持ちの問題であるということを知らしめる。番組で実際に腰痛持ちの175人にこういう類の映像を何度も見てもらったところ、この段階で68人(38%)の患者の腰痛が改善していた。この時点で改善しなかった人々に対しては簡単な体操をやってもらう。背中を少しそらすという運動で、要するに腰を普通に使っても大丈夫だということを認識させる体操である。この段階でさらに32人の患者が腰痛を改善させていた(わずかこれだけで合計56%の人が改善した)。
 オーストラリアでは国を挙げてこのような腰痛撲滅キャンペーンを行っているらしく、一定の効果を発揮している。番組ではその様子も紹介していた。重症な患者については、数週間入院した上で認知行動療法を行うという。認知行動療法は一般的に欝病などの治療で行うものだが、番組で紹介されていた患者の結果は衝撃的で、それはまさに劇的な改善である。
 ともかく慢性腰痛は気持ちの問題であるということを認識すれば治るってんだから、実にシンプルである。日本政府も早くこういうキャンペーンを始めたら良いのにと思ったが、この番組自体、同種のキャンペーンの一環なのだろうかと思ったりもする。ましかし、テーマもしっかりしている上、余計なものを盛り込まずわかりやすく提示している点、大変よくできたドキュメンタリーと言える。
 ただ一つ気になったのは、以前NHKスペシャルで「腰痛は人間の身体の構造上必然である」みたいな番組があったような気がするが、あれとの整合性はどうなるんだろうということ。なんだか二枚舌みたいにも聞こえなくない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『新アレルギー治療 〜鍵を握る免疫細胞〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『医療ビッグデータ 患者を救う大革命(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『病の起源 第1集 がん(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-07-24 08:24 | ドキュメンタリー

『あなたの中のミクロの世界 (2)』(ドキュメンタリー)

あなたの中のミクロの世界
第2回 ヒトは微生物との集合体

(2014年・豪Smith & Nasht/仏Mona Lisa)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

b0189364_9302741.jpg内容が濃すぎてツライ

 CGや顕微鏡映像でミクロの世界を紹介するドキュメンタリー。第1回に引き続き人の身体と微生物の関係に焦点を当てる。
 第1回にも共通するが、このドキュメンタリー、人に寄生している微生物のほとんどは決して有害なものではなく、むしろ人の健康にとって役に立つものであるという哲学で貫かれている。そして特にこの第2回では、近年の衛生的な生活で駆逐されていった寄生虫が、実は人体にとって必要なものであるという知見を示している。このあたり、寄生虫博士、藤田紘一郎氏がずっと主張してきたことと共通するもので、あらためて藤田氏の先進性にうならされる。
 番組では実際に、寄生虫を使った難病治療の例(多発性硬化症、クローン病、レイノー病、セリアック病)がいくつか示されており、良好な結果が出ている。寄生虫のみならず、現代社会で悪者にされてきた微生物も、実は人にとって不可欠なものだったのではないかというのがこの番組の主張である。また、虫歯やアレルギーなどの現代病も、身体の中に棲む微生物の本来のバランスが崩れたために現れた現象だとする。
 腸内フローラ(竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』参照)についても説明があり、難病の治療法として、病気で苦しむ人の大腸に健康な人の便を注入するという便微生物移植療法についても詳細に紹介されていた。これなんかは微生物(善玉菌)を身体に取り込むことで、症状を改善させようという取り組みである。
 このように、微生物と健康に関するさまざまなトピックがこれでもかという感じで詰め込まれており、しかも顕微鏡映像やCGもバンバン出てくるしで、非常に見応えがあるドキュメンタリーになっている。ただし一方で、あまりにさまざまな事項・事例が詰め込まれていたため、見ているこちらの頭の方がちょっと追いつかない。もちろん、現代の過剰衛生に対して警鐘を鳴らすというテーマについてはよく伝わってきたが、もう少しそれぞれの事例を大切に見せてくれても良かったかなと思う。また、他のMona Lisa Production製作の番組同様、全体的にとりとめがない構成になっているのも、そういう点に拍車をかけている。豪華な食材を用意したは良いが、できあがった料理はやや大雑把で繊細さを欠いていたという感じで、そういうような点が少々惜しまれる。内容も主張も非常に目新しく斬新なので、そのあたりが少しばかりもったいない。

 これまで書いてきた内容以外にも面白い話が多数紹介されていたので、下に箇条書きで記しておく。
● 虫歯:食生活の変化が口の中の善玉菌と悪玉菌(ミュータンス菌)のバランスを崩し、虫歯の原因となる菌が栄えるようになった。農耕生活を始める前のヒトには虫歯がなかったらしい。
● ピロリ菌:ピロリ菌は胃潰瘍や胃がんの原因であることがわかっているが、ある種の寄生虫が体内にいればピロリ菌によって胃潰瘍が引き起こされることはない。むしろ胃の中のピロリ菌には、身体の免疫機能の過剰反応を弱める作用があるため、喘息を予防する働きさえある。
● 現代食:ジャンクフードにより免疫機能の炎症が起こり、免疫機能の不全が引き起こされている。
● エムバッキー:エムバッキーという微生物(途上国の人々の体内に普通に生息する微生物)がレイノー病や癌に一定の成果を挙げている。乾癬や欝病にも効果があるという。
● デング熱:デング熱を媒介する蚊に、デング・ウイルスに対抗する細菌(ボルバキア)を注入することによって、蚊がデング熱を媒介しないようにするという取り組みがある。オーストラリア北部ではこのような蚊を自然に放つことでデング熱を収束させることに成功している。
● レトロウイルス:レトロウイルスというウイルスは、生殖細胞系列に侵入してDNAに入りこみ、やがて正常な遺伝子の一部になる。これは100万年に一度くらいの頻度で起こり、生物はこのウイルスに適応しながら生き延びてきている。現在このような事態がコアラで見られており、謎の死を遂げるコアラにレトロウイルスが検出されているという。
● 微生物とヒトとの関わり:微生物は人の進化や命まで操っている。ヒトは一人ではなく、ヒトは微生物の集合体である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (1)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの体は9割が細菌(本)』
竹林軒出張所『失われてゆく、我々の内なる細菌(本)』
竹林軒出張所『土と内臓 微生物がつくる世界(本)』
竹林軒出張所『見えざる力“植物の帝国”(ドキュメンタリー)』

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 以下、以前のブログで紹介した藤田紘一郎の著書に関する記事。

b0189364_9362650.jpg(2004年11月5日の記事より)
笑うカイチュウ 寄生虫博士奮闘記
藤田紘一郎著
講談社

 寄生虫ブーム(?)を起こした藤田紘一郎の原点とも言うべき著書。
 寄生虫のことをいろいろ教えてくれるすばらしい本。内容も面白いが、文章がまたうまい。
 他の動物の寄生虫が人間に入ると大事につながることがあるのは、その寄生虫と人間との間に共存関係ができていないためで、人間の寄生虫が人間とある程度うまくやっているのは両者間に歴史があるためだそうな。寄生虫に悠久の歴史を感じる。
★★★☆
by chikurinken | 2015-07-22 09:31 | ドキュメンタリー

『あなたの中のミクロの世界 (1)』(ドキュメンタリー)

あなたの中のミクロの世界
第1回 体は微生物の宝庫

(2014年・豪Smith & Nasht/仏Mona Lisa)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

人間は一人で生きているのではない

b0189364_8135928.jpg CGや顕微鏡映像でミクロの世界を紹介するドキュメンタリー。以前『見えざる力“植物の帝国”』というドキュメンタリーで、植物の微小世界をCGや顕微鏡映像で紹介していたが、テイストはあの番組とよく似ている。それもそのはず製作局が共通である(フランスのMona Lisa Production)。
 さて今回スポットが当てられるのは人体で、人間の周辺が微生物だらけというテーマである。腸内に細菌がいることぐらいなら昨今誰でも知っているが、顔の表面にも大量に微生物がくっついているというのは目新しい。それでもごく微小な菌類ならまあ理解の範囲だが、ダニの類も毛穴に潜っていて、夜になると表面にでてきて垢を食べるってんだから驚きである。1人の人間に数兆もの微生物が寄生しており、つまり1人の人間が生態系として機能しているということになる。なお、この微生物群だが、ほとんどが人間にとってプラスに働いているというから、菌がいるからといって過剰に抗菌に励むのはいけないのだ。
 このような微生物は、ときには人間の生き方まで左右している。たとえば脇の下などは本来匂いはないはずだが、脇の下に寄生する微生物が人体から出される分泌物を分解してそれを匂い成分に変えるというのだ。人間の体臭はこのようにして作られており、その体臭は元々身内を識別するために使われていたというから、寄生微生物は侮れない。もはや人の一部と言ってよい。
 また、トキソプラズマというネコに寄生する細菌については、ネズミの脳に寄生してネズミがネコの前で大胆に行動するようにする(ひいてはネコに捕獲され喰われることでトキソプラズマはネコに移動する)らしいが、これが人間に寄生すると、人間も恐怖を感じず大胆に行動するようになるという説が示されていた(トキソプラズマを保有している人はその他の人に比べて交通事故に遭う確率が2.6倍だそうで)。つまり人間の性格までもが、微生物の働きで決定されるというのだ。
 全体的にとりとめのない印象のドキュメンタリーだったが、紹介される内容は深く目新しいことも非常に多い。なお、微生物の働きが人間の性格を決定するという説は、NHKスペシャルの『腸内フローラ』でも提唱されていた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの体は9割が細菌(本)』
竹林軒出張所『失われてゆく、我々の内なる細菌(本)』
竹林軒出張所『土と内臓 微生物がつくる世界(本)』
竹林軒出張所『見えざる力“植物の帝国”(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2015-07-21 08:14 | ドキュメンタリー

『あなたの脳は男性?女性?』(ドキュメンタリー)

あなたの脳は男性?女性?(2014年・英BBC)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

性差についての最新の知見

b0189364_812414.jpg 男女の性差について脳科学から迫るドキュメンタリー。男女の性差はここ十数年注目されている話題で「今さら」感があるが、このドキュメンタリーでは、男女の性差が生理的なものではなく単なる習慣によるものに過ぎないという見方も並列で紹介し、二項対立の形式にしている。今でもこういった「性差が習慣による」という見方が健在なのも驚きで、こちらも「今さら」感がある。
 ただこういう構成にしたのは、一定の「性差習慣由来」派への配慮からではないかと思わせる部分もある。脳自体に差があるとする研究結果を随所に紹介していることからもそれがわかる。たとえば男の脳が前後への神経結合が強く、女の脳が左右への神経結合が強いという研究データは非常に興味深い。また番組の中で、いわゆる「男性脳」の特徴としてシステム化への欲求(細部の構造を探りたいと言う欲求)が強いことが挙げられ、この傾向は自閉症の患者に顕著であるという知見が紹介されていたが、これも非常にユニークな説である。そのために子宮内で浴びたテストステロン(男性ホルモン)の量が多いと自閉症になるのではないかというのだが、この説が正しければ、自閉症の解明、治療に新しい視界が開けてくるのではないかと思う。
 人に生まれつき性差があることくらい小さな子どもを見れば明らかなような気もするし、このドキュメンタリーでは、サルにもものに対する嗜好に性差があることを示しているくらいなんで、今さら「習慣説」を取り上げる必要があるのかとも思うが、そういう腰が引けた部分がこの番組の限界かなと思う。そうは言うものの新しい見識が随所に示されており、見応えがある番組ではあった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『エロティシズム(本)』
by chikurinken | 2015-07-20 08:12 | ドキュメンタリー

『ベン・ハー』(映画)

ベン・ハー(1959年・米)
監督:ウィリアム・ワイラー
原作:ルー・ウォーレス
脚本:カール・タンバーグ、クリストファー・フライ、ゴア・ヴィダル
撮影:ロバート・L・サーティース
音楽:ミクロス・ローザ
美術:ウィリアム・ホーニング、エドワード・カーファグノ
出演:チャールトン・ヘストン、スティーヴン・ボイド、ジャック・ホーキンス、ヒュー・グリフィス、ハイヤ・ハラリート、マーサ・スコット、キャシー・オドネル

b0189364_8503100.jpgハリウッド映画の1つの頂点

 ハリウッド映画を代表する超大作映画。全編3時間半を超え、序曲や間奏曲まで付いている。「オペラか!」とツッコミを入れたくなるところだが、内容の壮大さはオペラをはるかに凌ぐ。音楽も壮大だが、美術や衣装も目を瞠るものがある。ハリウッド映画の1つの頂点と言える。
 舞台は紀元前後で、ユダヤの王子ベン・ハーの数奇な運命がストーリーの中心になるが、それにイエス・キリストの物語が絡んでくる。よく練られたストーリーと言える。原作は、19世紀末にアメリカの軍人、ルー・ウォーレスが書いた同名小説で、発表当時からベストセラーになった。やがて映画の時代が来ると1907年に15分の映画が作られ、1925年にはかなりの資金を注ぎ込んだ大作映画(サイレントだが)が作られた。1959年版は3回目の映画化ということになる。
 実は今回見るのは2回目で、前回見たのは10年ほど前だが、そのときは25年版のサイレント映画の直後に見た。25年版は、(あの)レースのシーンは確かにすごいが、それ以外は多分に芝居がかっており、今見るとちょっと退屈してしまう。その後見たのが59年版だったので、同じ話がこれだけ活き活きとしたストーリーになるのかと感心した憶えがある。その間の35年の映画の進歩を思い知らされた格好になった。とは言え、内容についてはこれもレースのシーン以外はあまり記憶になかった。逆に考えると、それくらい「あの」レースのシーンは印象に残るものである。
 舞台になるのがローマ帝国が支配するエルサレムということで、ローマ帝国の時代の風俗が描かれる。どの程度正確に再現されているかはわからないが、よく再現できているように見受けられる。ローマのガレー船も再現されており、こういうものの再現はうならされる。ただしこの映画の海戦シーンは模型を使ったもので、波の大きさが気になると言えば気になる。前の映画(25年版)のときは実際に船の模型を浮かべて撮影したらしいが、撮影用の火が帆に燃え移り死傷者まで出たという。このあたりは、DVDに収録されていたメイキング映像で紹介されていたが、何でも25年版では、撮影中の事故のシーンもそのまま映像として使っていたという。今では考えられない人権感覚だが、それが迫力を生み出す結果になっている。もちろん59年版ではそういうことはできず、当事者によるとけが人すらほとんど出なかったらしい。それが意外に感じられるくらいの迫力ある映像が随所に出てくる。
 余談だが、この映画、当時赤字に苦しんでいたMGMが、起死回生の一本として多大な制作費をかけて作ったものだが、結果的にMGMに多大な収益をもたらし、この映画でMGMは財政の立て直しに成功した。その話が納得できるような、おそらく当時の客は度肝を抜かれただろうという内容の絢爛豪華な映画である。映画史に残る国宝級の1本であることには間違いない。
第32回アカデミー賞作品賞、監督賞他11部門受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『クレオパトラ(映画)』
竹林軒出張所『サテリコン(映画)』
竹林軒出張所『十戒(映画)』
竹林軒出張所『スパルタカス(映画)』
竹林軒出張所『エジプト人(映画)』
竹林軒出張所『アレキサンダー(映画)』
竹林軒出張所『アレクサンドリア(映画)』
竹林軒出張所『キングダム・オブ・ヘブン(映画)』
竹林軒出張所『ローマの休日(映画)』
竹林軒出張所『図解 古代ローマ人の日常生活(本)』
竹林軒出張所『チネチッタの魂 〜イタリア映画75年の軌跡〜(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-07-18 08:51 | 映画