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竹林軒出張所

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『「やればできる!」の研究』(本)

b0189364_859532.jpg「やればできる!」の研究
能力を開花させるマインドセットの力

キャロル S.ドゥエック著、今西康子訳
草思社

この本自体がしなやか

 人が何かに失敗したとき、自分はもうダメだと思うタイプとこれを糧にして次につなげていこうと思うタイプの2つがあって、前者を「こちこちマインドセット」、後者を「しなやかマインドセット」と名付け、しなやかマインドセットで生きていくことを勧める本。
 「こちこちマインドセット」、「しなやかマインドセット」という言葉は、原著では「fixed-mindset」、「growth-mindset」という単語で、「こちこちマインドセット」、「しなやかマインドセット」は訳者が当てた訳語である。なかなかうまい訳だと思うが「マインドセット」というのがちょっとわかりづらい。mindsetは「考え方」程度の意味らしい。
 本書によると、こちこちマインドセットを持つ人は、人の能力というものは固定的で変わらないものと考えがちで、それがために自分の能力を繰り返し証明せずにいられない。そのため大きな失敗をしたら、それが自分の能力の根本的な欠如ゆえである、つまり自分はダメ人間だと思い込み、場合によっては立ち直れないくらいの大きな挫折を経験し、結果的にそれがあきらめにつながるという。一方しなやかマインドセットを持つ人は、人間の基本的資質は努力次第で延ばすことができると考える。そのため、大きな失敗をしたら、どこに問題があったか考え、それを教訓にして事に当たるようになる。失敗したのは、現状の自分の力が足りなかったためで、自分の力を延ばせば同じ失敗をしないと前向きに考えるというのだ。だからしなやかマインドセットの人は、大きな挫折を経験せず、自分を限りなく成長させることができる。こちこちマインドセットの人は、成長を止めて後ろ向きに生き続けることになるため、こういう考え方自体が生きていく上でマイナスに作用することが多い。そこで、こういう考え方をする人は、ひとつものの見方・考え方を変えてしなやかマインドセットを身につけようよというのが本書の主張である。
 本書では、基本的にこの線で話を進め、最初から最後までこの考え方が一貫している。この議論についてさらに深く検討していき掘り下げていくというアプローチは皆無で、しなやかマインドセットの利点、こちこちマインドセットの問題点を繰り返し説いていく。それに則って、教育、家族関係、知人関係など、さまざまな実例を取り上げて、読者の理解を深めようとする。言ってみれば、この本には縦方向の奥深さは皆無で、横方向に大きな広がりを持つ。心理学者が書いた本として見ると少々異色で、「科学的な本」を期待して読むとガッカリするかも知れない。だが一種の自己啓発本と考えれば、わかりやすい良い本だと思う。
 わかりやすい言葉で何度も同じ主張を繰り返していくというスタンスは、読んでいてとても優しさを感じ、著者が女性だというのもなるぼどなーと頷ける。そういう意味で幾度となくしなやかさを感じる本だった。凝り固まった考え方をしているゆえに苦しんでいる人に、この本を読んで脳の中身を解きほぐすと良いよと言ってあげたくなる。そういう類の本である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『なぜあの人はあやまちを認めないのか』(本)』
竹林軒出張所『ティッピング・ポイント(本)』
竹林軒出張所『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい(本)』
by chikurinken | 2015-01-31 09:00 |

『その問題、経済学で解決できます。』(本)

その問題、経済学で解決できます。
ウリ・ニーズィー、ジョン・A. リスト著、望月衛訳
東洋経済新報社

b0189364_15401261.jpgイライラすることが多い本

 わかりやすい行動経済学の本。行動経済学というのは、経済原則が必ずしも合理的に働くのではなく、人間の動物的な要素が絡んでくることを研究する学問で、たとえば、値段の高いもの、低いもの、中程度のもののうち一つ選んで購入する場合人は中程度のものを選びやすいとか、無料のおまけが付くと、たとえ結果的に損であっても人はそちらの方を選びやすいとか、そういった行動原理を追究していく、比較的新しい分野の学問である。
 この本でも同様に、著者のウリ・ニーズィーとジョン・A. リストが、さまざまなコミュニティや企業と協力して、実際に人が選びやすい選択肢を究明するという作業を行い、それを紹介している。たとえば、寄付金が一番集まりやすいのはどういう設定にした場合か(たとえば宝くじ風のものを付ける、寄付があれば同額の寄付が別の出所から発生する)とか、ワインの値段をどう設定したら一番売れるかとか、あるいは学生の成績を上げる上でインセンティブを付ける場合どういう方法がもっとも効果的かとか、そういった類の実験をやっている。その上で、企業やNPOなどが何らかの決断をする場合は、一部の対象者に対してこのような対照実験を行うことで、どの方法を採用するか決定すべきであるということを説いている。
 内容は、実例が多いこともあって非常にわかりやすいが、ただ全体的にかなり冗長で、読んでいるうちにイライラしてくる。もう少し簡潔にまとめて、他の実例などを盛り込んだ方が良いんじゃないかと思う。僕なんかは半分くらい呼んだところで完全に飽きてしまった。興味深い箇所もあるにはあるんで、結果的に非常にもったいないことになっている気がする。また、翻訳の文章が終始タメ口調で、最初の方はそれに面白味も感じたが、あまりにしつこく続くんでかえってイラッとしてくる。終いには腹が立ってきた。誤植もあちこちに見られるし、「坊主憎けりゃ」でこういうのも腹が立つ材料になってくる。
 行動経済学についてあまり知らない人たちにとっては目新しさもあるかも知れないが、それでもやはり、相当イライラする本であることは変わりない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『予想どおりに不合理 増補版(本)』
竹林軒出張所『不合理だからうまくいく(本)』
竹林軒出張所『フィギュアの採点はアンカリングの所産か?』
by chikurinken | 2015-01-30 15:41 |

『よみがえる“ワルシャワ蜂起”』(ドキュメンタリー)

よみがえる“ワルシャワ蜂起” 70年後の真実(2014年・NHK)
NHK-BS1

ワルシャワ蜂起ここによみがえる

b0189364_8213721.jpg 1944年8月、ナチスドイツに占領されていたポーランドの首都、ワルシャワで、市民がナチスに対して組織的に反乱を起こした。これがいわゆるワルシャワ蜂起で、市民は奮闘しナチスに対抗したが、物資不足のため60日あまり経って降伏した。このとき、川を隔ててナチスに対峙していたのがソ連軍で、ソ連が途中からでも市民を支援していれば、ナチスを追い出すことはできたはずだが、実際には黙殺を続けた。これはソ連が、民主的な政権がポーランドに誕生することを望まなかったためで、それは、市民側が多数の犠牲者を出して敗北した後に悠々と進軍してワルシャワを占領したことからもうかがわれる。
 このワルシャワ蜂起の際、市民側が多数の映像を残していたのだが、それが近年公開され、それにあわせてその映像をカラー化するというプロジェクトが実施された。このドキュメンタリーでは、その映像を公開し、ワルシャワ蜂起の歴史を辿りながら、当時の状況を振り返る。また、映像に映っている市民の今を訊ねるという作業まで行っていて、このあたりは感激もひとしおである。映像のカラー化には、歴史の一断片を現在に甦らせるという役割があるが、こういう作業によってそれに肉付けすることに成功している。まさに「ワルシャワ蜂起がここによみがえる」というドキュメンタリーである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『地下水道(映画)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえる第一次世界大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道 前後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえる東京(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-01-28 08:21 | ドキュメンタリー

『NEXT WORLD 私たちの未来』(ドキュメンタリー)

NEXT WORLD 私たちの未来
第2回 寿命はどこまで延びるのか

(2015年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

「こうだったらいいのにな」という未来像

b0189364_9212166.jpg NHKスペシャルの医療ものは、前にも書いたが(竹林軒出張所『医療ビッグデータ 患者を救う大革命(ドキュメンタリー)』参照)、将来の医療についてやけに期待を持たせるような番組作りが目立つ。その実、まだ実験段階だったり希望的観測だったりするわけで、これまでのNHKスペシャルによるとガンもアスペルガーもすでに治らない病気ではないかのような印象すら受ける(実はそんなことはないわけで)。
 この『寿命はどこまで延びるのか』という番組も似たような内容で、ガンは致命的な病気でなくなり、しかも若返りの薬さえ販売されるというそういう未来像を描いている。あくまで今から50年後の話ということになっているが、どの技術も、現時点で実験段階にあり、ある程度完成の目途が立っているというような報告の仕方である。実際にそういった技術が紹介されるが、ガン治療(ナノマシン)も若返り(NMN)もまだまだ実用化からほど遠いという印象で、大風呂敷の類にしか思えない。
 また番組自体も、例によってナビゲーターが現れ、こういった技術を寸劇で紹介していくという構成で、相変わらずくだらない。恒例のようにドラマ仕立ての部分(同窓会ネタ)も出てくるが、あまり面白味はない。この『NEXT WORLD』というシリーズは、未来社会を予測するというコンセプトのようだが、SFに毛のはえたもの程度の感覚で見ればそれなりに楽しめるが、「バラ色の未来」を夢見るというのも、小学生ならいざ知らず、大の大人が放送を使って、たびたび「こうであったらいいな」という未来像を語るのはいかがなものかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『医療ビッグデータ 患者を救う大革命(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『病の起源 第1集 がん(ドキュメンタリー)』
竹林軒『書籍レビュー:この本をすすめる本当の理由』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
by chikurinken | 2015-01-27 09:21 | ドキュメンタリー

『子どもの未来を救え』(ドキュメンタリー)

子どもの未来を救え 〜貧困の連鎖を断ち切るために〜(2014年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

アメリカの惨状は対岸の火事ではなくなった

b0189364_825472.jpg 現在、日本の子供の貧困率は16.3%で、OECD諸国の中でもトップクラス(悪い方)に位置している。こういう状況はマクロ的な数字だけではなかなかわかりにくいが、その現状をミクロ的に照らし出していこうというルポである。
 このドキュメンタリーに映し出されるのは、食べる物が十分確保できない母子家庭や、貧困のために進学できない高校生、中退者が増えている高校現場などで、貧困がすでにごく身近なもので、行政がすぐにでも対処しなければならない課題になっていることがあぶり出される。
 一方で行政側の対応も紹介されていて、学校や役所の各部署を、貧困を発見するためのプラットフォームとして機能させるような取り組みも紹介されている。
 このような対策が重要なのはもちろんであるが、国策を抜本的に見直す時期に来ているんじゃないかと僕などは思う。この番組で示されたOECDの各種統計で子供の貧困に関わる数値が優れているのは軒並み北欧諸国である。このことからわかるように、ここで提示されているような問題を解決するためには、高福祉社会の実現を目指すべきことは火を見るより明らかだと思うんだが、ここ10年ほどの流れを見ていると、残念ながら多くの日本人は過酷な新自由主義的な政策を支持しているようだ。将来は自分に降りかかってくるという実感がないのか知らんが、教育が民族の根幹であるのは明らかである。次の時代を担う若い世代を今みたいにないがしろにしていると、いずれは自分のところに戻ってきて手痛い目に遭う。これだけは間違いない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『セーフティネット・クライシス vol.3(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『本当は学びたい(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドキュメント 高校中退(本)』
竹林軒出張所『パーク・アベニュー 格差社会アメリカ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『コミック貧困大国アメリカ(本)』
by chikurinken | 2015-01-26 08:25 | ドキュメンタリー

『ナイフの行方』(ドラマ)

ナイフの行方 前編・後編(2015年・NHK)
演出:吉村芳之
原作:山田太一
脚本:山田太一
出演:松本幸四郎、今井翼、相武紗季、石橋凌、松坂慶子、津川雅彦

ミステリアスな登場人物たち
山田太一の真骨頂


b0189364_852742.jpg 先日放送された山田太一のドラマ。あまり番宣もなかったんで、あやうく見逃すところだった。前編後編それぞれ1時間15分のドラマで、都合2時間30分。久々の本格ドラマと言える。
 ストーリーは、人生に絶望してナイフで通行人に斬りかかろうとする若い男(今井翼)と、それに関わるワケありの男(松本幸四郎)を中心に動いていく。例によっていろいろな人が絡み、話の広がりを生み出す。
 主人公のワケありの男(松本幸四郎)は、後半途中までなかなか正体がわからないんだが、これは他の登場人物にも共通で、そのために話はミステリアスに進行していく。見る方は、彼らの素性を知りたいと感じるせいか、ストーリーを一生懸命追いながらドラマに集中することになる。このあたりは山田太一の真骨頂で、衰えたといっても他者の追随を許さない部分である。こういう手法はこれまでも多くの山田作品で使われており、新しいところでは『星ひとつの夜』や『遠い国から来た男』もそうだし、古くは『深夜にようこそ』、『春の一族』や『秋の一族』でも同じ手法が使われている。こういうミステリアスな男の役どころは山田ドラマでは緒方拳が演じることが多かったため、主人公には緒方拳を連想するが、なにぶんすでに故人なので今回は松本幸四郎が演ったという、まあそういう印象である。
 この主人公のワケありの幸四郎が合気道の達人で、凶悪化した若い男を押さえつけて骨折させ、自分のうちに連れ帰ってしばらく面倒を見るという具合にストーリーは展開する。なんだかできすぎの話だが、そういうことは見ていてあまり気にならない。シナリオがうまいため、見る側がライターの思い通りに動かされていくから、気にならないということが起こるんだろう。視聴者側が、意識することなくドラマに埋没させられるというドラマは昨今少ないが、このドラマにはそういう要素がある。ナイフ男がテーマになったのは、世間で頻発する同様の事件に対する山田太一の思いが反映されてのことだろうが、ましかし、かなり理想主義的であるのは確か。
 登場人物については一様に、それぞれの経歴が明らかにならないまま話が進み謎がずっと続くんだが、主人公とそのかつての友達(津川雅彦)が抱える問題は、最後の最後まで明かされず、いよいよという段階で延々とセリフで語られる。セリフ部分がちょっと長すぎるという印象はあるが、聞くに堪えないことはない。地味目なドラマだがデキは良い。山田太一久々のセンター前クリーンヒットという感じである。
 タイトルバックには石田徹也の奇妙な絵が使われていたし、途中のバーのシーンでは、バーに宇野亜喜良風(おそらく宇野亜喜良作品だと思う)のミステリアスな絵がたくさん出て来たりして、演出家の好みなのか脚本家の好みなのかはわからないが、こういう美術作品が独特の雰囲気を作り出していたのも事実である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『深夜にようこそ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『「早春スケッチブック」、「夕暮れて」など(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
by chikurinken | 2015-01-24 08:55 | ドラマ

『日曜劇場 それからの冬』(ドラマ)

日曜劇場 それからの冬(1991年・TBS)
演出:井下靖央
脚本:山田太一
出演:大原麗子、佐藤B作、友里千賀子、江藤潤、大空真弓、島田正吾

山田作品らしい面白さはあるが
ストーリーはありきたり


b0189364_837671.jpg これも『東芝日曜劇場』の1本で、脚本は山田太一。これもやはり山田太一の短編集の1本みたいな作品である。
 妻に死なれた若い男(佐藤B作)が、絶望の毎日を送りながらもやがて妻の親友の美女(大原麗子)に惹かれていくという比較的ありふれたストーリーのドラマである。
 80年代後半以降は山田作品をほぼすべてテレビで見たはずだが、このドラマについてはまったく記憶がなかった。もっともあまり目新しさのない話で、大原麗子や友里千賀子の魅力を除けば、かなりありふれた内容ではある。展開もある程度想定どおりで、目を引く箇所と言えば主人公の男と義兄夫婦との葛藤ぐらいか。悪くはないが、割合月並みな部類に入る。日曜劇場としても並の線かなと思う。もちろん、全盛期の山田作品であるため、それなりに面白く作られているのは言うまでもない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『日曜劇場 風前の灯(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 縁結び(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 秘密(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 終りの一日(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 三日間(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
by chikurinken | 2015-01-23 08:38 | ドラマ

『日曜劇場 三日間』(ドラマ)

日曜劇場 三日間(1982年・TBS)
演出:鴨下信一
脚本:山田太一
出演:若尾文子、小野寺嗣夫、菊地優子、中島元、岡本史郎、風見章子

80年代の1つの家族を切り取ったスケッチ

b0189364_8184032.jpg これも『東芝日曜劇場』の1本で、脚本は山田太一。昨日も言ったように、これも山田太一の短編集の1本みたいな作品である。
 パキスタンに単身赴任している父親が2年半ぶりに家に帰ってくるが、滞在期間はわずか3日間しかない。慌ただしく過ぎていくその3日間を描こうというのがこのドラマ。「とある家族のある一時期を切り取ったスケッチ」といった風情のドラマである。
 期間が3日間に凝縮されていることから、この家族に内在するいろいろな問題が一度に目に見える形で出てくるが、このあたりの切り取り方はさすがに山田太一というところである。母(一家の中で言うと祖母)に認知症の傾向が出てきたり、浪人中の息子が自殺未遂を起こしていたりとちょっと大変な状況なんだが、主人公の妻は、他の家庭にも問題はありそれに比べるとまだ良い方と自分と娘を納得させる。夫の方もそこに深く入り込むことは無く、上澄みをさらっただけで結局仕事にもどってしまう。当時の時代を反映したような家族像が今見ると非常に新鮮で面白い。こういう作品こそが時代を超えたテレビドラマと言えるんだろうと納得する。派手な面白さはないが、見終わった後、いろいろと思いをめぐらせるような作品であった。中年の若尾文子が、若い頃の小悪魔的な要素がなく落ち着いていて、非常に魅力的。山田作品に出演するのは『午後の旅立ち』以来だが(おそらくこの2本だけ)、日曜劇場には割合頻繁に出ていたようだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日曜劇場 終りの一日(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 それからの冬(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 風前の灯(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 縁結び(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 秘密(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
by chikurinken | 2015-01-21 08:20 | ドラマ

『日曜劇場 終りの一日』(ドラマ)

日曜劇場 終りの一日(1975年・TBS)
演出:甫喜本宏
脚本:山田太一
出演:北林谷栄、小倉一郎、坂口良子、神山繁、及川広夫、村井洋、大橋英子

山田太一の「短編小説」みたいな趣のドラマ

b0189364_827426.jpg 『東芝日曜劇場』の1本で、脚本は山田太一。今回、本作以外に、同じく山田脚本の日曜劇場である『三日間』と『それからの冬』も見たが、こうしてまとめて見てみると、さながら山田太一の短編集みたいに感じられる。どの作品もそれなりに見所があって面白く仕上がっており、コンパクトにまとめられている。
 校長の再三にわたる辞任勧告(今で言うパワハラ)を承けて引退を決意した中年女教師の教師生活最後の1日が舞台設定になる。だからといって、かつての教え子が集まり先生の辞任を撤回させるというような話にはならず、主人公の女教師が酒の勢いでこれまでの鬱憤をぶちまけるという、何とも落ち着かない話になる。結局この主人公の気持ちがテーマになり、そこに教え子の生き方が絡んでくるという展開で、まさに短編小説のような趣で、それなりに味わい深い。こういう話をさらりとやってのけるのが、当時の山田太一の魅力なんだろうと思う。
 主人公の女教師は、若い頃からずっと婆さん役をやっていた北林谷栄が演じるが、このドラマでは年相応の役で、かえって新鮮である。『それぞれの秋』の小倉一郎と、当時売れっ子女優だった坂口良子が良い味を出して、ドラマに花を添えている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日曜劇場 三日間(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 それからの冬(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 風前の灯(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 縁結び(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 秘密(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『喜劇 にっぽんのお婆あちゃん(映画)』
by chikurinken | 2015-01-20 08:31 | ドラマ

『途中下車』(ドラマ)

b0189364_810189.jpg途中下車(2014年・NHK)
演出:笠浦友愛
原作:北村森
脚本:喜安浩平
出演:北村一輝、原田知世、松田知己、六角精児、木内みどり、野際陽子

ストーリーが安直すぎ

 順風満帆な人生を送ってきた敏腕編集者(北村一輝)が、ある日突然パニック障害に悩まされるようになり、仕事をやめて主夫業を始めるという話。結果的に、それまでろくに向き合わなかった家族とも正面から向き合うようになり、家族のコミュニケーションをはじめとするもろもろのことがらがうまく行くようになったというドラマである。
 総じてシナリオ・コンクール受賞作に出てくるような安直なストーリーで、パニック障害の扱いもなんだかおざなりな印象を受ける。それに家のローンもあるのに、妻のパート収入だけでやっていけるのかという疑問も残る。稼ぎ手が仕事をやめたら家計が大変なことになるくらい誰でもわかるんじゃないか。現実の把握が甘いと言わざるを得ない。1つのことが解決すればすべてOKみたいな落とし方は、たとえフィクションであっても受け入れることはできない。
 このようにストーリーおよびシナリオはまったくもって物足りないが、ドラマ自体はそれなりにしっかりと作られていた。妻役の原田知世が図書館員をやっている姿が似つかわしくて非常にヨイ。
★★★

参考:
竹林軒出張所『しあわせのパン(映画)』
by chikurinken | 2015-01-19 08:11 | ドラマ