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竹林軒出張所

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『こころ』(本)

b0189364_882487.jpgこころ
夏目漱石著
岩波文庫

人ははたして
こんな動機で自死するんだろうか


 夏目漱石の代表作と言ってよい著作がこの『こころ』。学生のときに一度読んだが、そのときは大した感慨もなかった。せいぜい夏目漱石は初期の作品の方が良いと思った程度だが、不思議なもので年を経て読むとまた違った印象を受ける。ただし、当時感じた違和感は相変わらず感じる。それがこのストーリーの柱になっている2人(先生とK)の死に関することで、はたして人はこんな動機で自死するんだろうか……という疑問である。ストーリーの核になっているので、そこにリアリティを感じなければこの小説自体が絵空事になってしまい、白けてしまうのは致し方ない。この話をあくまでフィクションとして捉えれば、気にはならないかも知れないが。
 ただ、登場人物の心情が細かく描かれている点はポイントが高く、このあたりが世間で評価されているゆえんなのかしらんなどと感じた。また、映像がすぐに目に浮かぶような描写が多いのはさすがで、中でも主人公がKの死を初めて目にするシーンは圧巻で衝撃的である。映画化するんならここに核を置きたいところである。
 今回読んだ岩波文庫版の装丁は、前にも書いたように『漱石全集』の装丁を流用したもので、高級感があって良い。また文中でも漱石独特の当て字にも細かくルビが振られており、原文の味わいを残しながらも、わかりにくさを極力排除するという工夫が感じられる。さすが岩波文庫という感じで、ポイントが高い。やはり漱石は岩波文庫に限る。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『草枕(本)』
竹林軒出張所『三四郎(本)』
竹林軒出張所『夏目漱石のこころ(映画)』
竹林軒出張所『吾輩は猫である(映画)』
竹林軒出張所『「坂の上の雲」のドラマ版を見た』
by chikurinken | 2014-10-31 08:08 |

『過ぎし江戸の面影』(本)

b0189364_7465168.jpg過ぎし江戸の面影
双葉社スーパームック

「いろいろな素材から寄せ集めて
味付けしちゃいました」という本


 タイトルや内容から判断すると多分に『逝きし世の面影』を意識した本なんだろう。内容は『逝きし世の面影』に出てきた記述を孫引用してコメントを付けたようなもので、あまり目新しさはない。昔の日本を映した写真や図版をたくさん取り込んだのがひとつの目玉なんだろうが、こういった図版もすでに発表されているものばかりで、こちらも目新しさはあまりない。本書最大の目玉は、モノクロ写真や着色写真にコンピュータを使って新たに色付けしたという部分なんだろうが、これも写真によっては色がギトギトしていて汚いものもある。
 というわけで全編中途半端な印象は否めないが、『逝きし世の面影』を読むときの資料集みたいにして使えば、利用価値はあると思う。それにこういった分野の知識をあまり持っていない人にとっては入門用として格好の素材ではある。ただし、現代日本を持ち上げるような記述が多いのはちょっと疑問。この本で紹介されているような江戸情緒は、現代人によってことごとく破壊されつくしたものであって、江戸・明治初期の日本に当時の西洋人(現代の日本人と通じるものがあると思う)が瞠目したからといって、現代日本がすばらしいということにはならない。こういう素材が妙なナショナリズムに利用されるのはまったくもって愉快ではない。自国のことをすごいすごいなどと声高に言っている輩はよその国の人からは尊重されないよと偏狭なナショナリストたちに忠告してやりたいところで、そのようなナショナリズム本として扱われないことを切に望む。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『カラーでよみがえる東京(ドキュメンタリー)』
竹林軒『映画レビュー:「ラスト・サムライ」に見る「逝きし世の面影」』
竹林軒出張所『にっぽん 微笑みの国の物語 前編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『にっぽん 微笑みの国の物語 後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『美しき日本の面影 小泉八雲のアルバム(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『100年前の世界一周(本)』
by chikurinken | 2014-10-29 07:48 |

『カラーでよみがえる東京』(ドキュメンタリー)

b0189364_811262.jpgカラーでよみがえる東京 〜不死鳥都市の100年〜
(2014年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

見所が多いドキュメンタリー
好演出が光る


 『カラーでよみがえる第一次世界大戦』『ヒトラー 権力掌握への道』と同じような企画で、要するに過去のモノクロ映像をカラー化して、現代的なリアリティを持たせようという試みである。今回カラー化されたのは、明治末期から1960年代に至る東京の映像で、関東大震災や東京大空襲の映像が、カラー化でよりリアルな質感に生まれ変わっている。
 今回の企画では、おおむね時系列に従って映像が紹介されているため、東京が関東大震災と東京大空襲という二度の災禍に遭い、そこからいかにして復興していったか、その過程が見て取れる。また、大正、昭和初期のリベラルな空気が、やがて戦争の暗い空気に覆われていく過程まで見えてくるような演出もなかなかよく凝っている。
 たとえば、1943年に明治神宮外苑競技場(現在の国立競技場)で行われた出陣学徒壮行会の映像などもカラー化されており当時の暗い世相が身近に感じられる。一方でその21年後に同じ場所で行われた東京オリンピック開会式の映像は、学徒出陣式と好対照をなしており、それを対比させて提示した演出も見事である。しかもその両方に立ち会ったという杉本苑子の手記まで紹介され、彼女の複雑な心境が示されるという凝りようである。わずか20年の間に、状況がこれだけ大きく変わったのをリアルな映像で目にすると、時代の変化が激烈であったことがわかる。同時に平和の大切さがあらためて感じられるというものである。
 また、江戸の面影を残す明治時代の東京のカラー映像も非常に印象的だった。街の様子が関東大震災、東京オリンピックを節目に大きく変貌していって、江戸情緒が一挙に失われていく様が見て取れる。「逝きし世の面影」がこうして逝ってしまったのかというのがよくわかった。それにしても、このドキュメンタリーで示された江戸の面影は魅力的で、当時来日した外国人の印象を、現代人の我々も共有できるような気さえした。失われたものの貴重さに、100年以上経った今になってやっと気付くというのもはなはだなげかわしいものである。そういう意味で、日本人は自らのアホさ加減を実感しなければならない。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『カラーでよみがえる第一次世界大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道 前後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『色づくQ』
竹林軒出張所『地獄門 デジタル・リマスター版(映画)』
竹林軒出張所『過ぎし江戸の面影(本)』
by chikurinken | 2014-10-27 08:12 | ドキュメンタリー

『アフガニスタンで手足を失って』(ドキュメンタリー)

アフガニスタンで手足を失って 〜“簡易爆弾”被害の実態を撮る〜
(2013年・英Minnow Films)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

身を削って行う告発は説得力がある

b0189364_7441882.jpg ガイル・デューリーというイギリス人のフォト・ジャーナリストがこのドキュメンタリーの主人公。デューリーは、2011年、アフガニスタンで米軍に同行して取材していたが、そのときに小型爆弾に触れ、片手、両足を失う羽目になった。実は命の危険さえあったんだが、米軍の救出活動が迅速だったこともあり九死に一生を得た。
 やがて彼は、義手と義足を付けて社会復帰を果たし、写真も撮れるようになる。そこで思い付いたのが、再びアフガンに赴き、同じような爆弾や地雷の被害者(手足を失った人々)の写真を撮影することで、アフガンの現状を世界に発信したいということだった。もちろんアフガンにはトラウマみたいなものがあって精神的には厳しいが、使命感でそれを乗り越えながら活動を続けるというドキュメンタリーである。
 このドキュメンタリー自体、アフガンの現状を告発する上で大きな役割を果たしており、デューリー自身が感じている使命感を代行する役割を果たしている。この番組を見ることで、アフガンの惨状がよくわかるし(子どもの被害者も多い)、アフガンの医療設備の不足を考えると、同じような事故に遭った場合、デューリーのように命が助かるとは限らないのが現状というのもわかった(実際に、アフガン人がNATOの病院から治療を断られるケースも多いという)。その意味で非常に有意義なドキュメンタリーであると言える。デューリー自身も自らの身体を曝すことでその使命を果たそうとしているのがよくわかり、頭が下がる思いがした。
2013年AIB国際メディアコンクール国際時事ドキュメンタリー部門最優秀賞受賞
★★★☆
by chikurinken | 2014-10-25 07:45 | ドキュメンタリー

『山賊の娘ローニャ』(1)〜(3)(アニメ)

山賊の娘ローニャ(2014年・NHK)
絵コンテ・監督:宮崎吾朗
原作:アストリッド・リンドグレーン
脚本:川崎ヒロユキ
出演:白石晴香、宇山玲加、関貴昭、野沢由香里

この後ちっとは面白くなるんだろうか

b0189364_7301378.jpg NHKで初めて長編アニメーションが放送されたのは1978年。世間にはNHKでアニメなんて……という声もありながら、僕自身もNHKのアニメなんか……と思いつつ、少し放送を見てみただけですっかり虜になってしまった。このアニメこそ、宮崎駿が初めて監督した『未来少年コナン』で、あれから36年経った今、息子の宮崎吾朗がNHKでアニメを作成するという。しかも宮崎駿がかつてアニメ化を望んでいたという『山賊の娘ローニャ』だってんだから、どうしても興味が湧くというもの。
 このアニメは、従来のようにセル画で映像を動かすのではなく、CGでモデリングしたものにアニメ風のマチエールを貼り付けて絵を動かすという新しい手法で作成されている。従来のアニメがアナログならこのアニメはデジタルと言えるものだが、実際に映像を見てみると絵に味がないのが実感される。一見従来のアニメと違うようには見えないんだが、空気が抜けたというか魂が抜けたというか、なんだかあちこちで違和感を感じる。これがデジタルの限界なのか知らんが、これならば従来型のセルアニメの方がはるかに良い。もっとも納期などの制約のためにこれからはCGじゃなければダメということであればそれもまた仕方ないが、いずれにしてももう少し改善の余地はあると思う。少なくともこれじゃあ見るに堪えない。
 また、まだ全26話のうちの3話しか放送されていないが、ストーリーはまるで目を引くところがなく、ここまでまったく面白くない。これが果たして今後面白くなるのかよく知らないが、少なくとも僕はもう見るのをやめようと思う。最初にある程度の盛り上がりを持ってくるのがドラマのミソだと思うんだが。宮崎吾朗作品は、悪くはないが、どれもおとなしくて面白味がないという印象が強い。背負うものが大きいせいかわからないが、それはこの『ローニャ』にも共通していて、もう少しはじけちゃっても良いんじゃないかと思う。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『ゲド戦記(映画)』
竹林軒出張所『コクリコ坂から(映画)』
by chikurinken | 2014-10-23 07:30 | ドラマ

『全国アホ・バカ分布考』(本)

b0189364_832388.jpg全国アホ・バカ分布考 はるかなる言葉の旅路
松本修著
新潮文庫

方言学のパースペクティブ本

 朝日放送で放送されている人気テレビ番組に『探偵!ナイトスクープ』というものがある。知らない人に説明すると、この番組は、視聴者(いわゆる「依頼人」)からの問題提起(いわゆる「ネタ」)に対して、「探偵」と称する芸能人がその現場に赴き解決していくという内容で、そのネタについては奇想天外だったりバカバカしかったり、あるいは学術的に有意義なものまで出てきて、非常に内容が濃い。25年以上番組が続いているのも頷けるような立派なバラエティ番組なんである。
 さらに言うと、この本で取り上げられているテーマ、「全国アホ・バカ分布」というのは、かつてこの『ナイトスクープ』で取り上げられたネタで、この番組が始まった頃に放送された企画である。簡単に言うと、視聴者からの「東のバカと西のアホとの境界を調べてほしい」という依頼に応えたエピソードで、なんでもこのネタの「依頼人」、関西出身の新婚の女性なんだが、結婚相手が関東出身だそうで、何かというと夫から、言われ慣れていない「バカ」という言葉を言われ傷つくというのだ。一方自分の方は夫に「アホ」とつい言ってしまい、「アホ」と言われ慣れていない夫はこの言葉に傷つくという。つまり関東と関西では「バカ」と「アホ」の日常的な使い方が異なるということらしい。そこでどこまでが「バカ」をよく使うバカ圏で、どこまでが「アホ」をよく使うアホ圏か、その境界を調べてほしいというのがこの元ネタだったというわけ。
b0189364_871123.jpg で番組では、探偵役の北野誠が東京を手始めに、愚かしいことをなんと呼ぶか訊きながらだんだん西に向かって移動していくという手法をとった。こうしていくといずれ「バカ」が「アホ」に変わる地域が出てきてそこが境界ということになるという算段である。ところが実際に調べていくと、いきなり「アホ」に変わる境界というものはなく、東海地方に「タワケ」文化圏が登場した。ということになると全国には「アホ」、「バカ」以外にも他の呼び方があるんじゃないかということになってさらに広がっていったのがこのエピソードだった。結局このエピソードはその後さらに深く掘り下げられ、そうして作り上げられたのが「全国アホ・バカ分布図」で、人を罵る言葉が日本国内でどのように分布しているかを詳細に調べ丁寧にまとめられた。この「全国アホ・バカ分布図」で明らかになったのは、全国のアホ・バカ分布が、京都を中心にほぼ同心円状に広がっているということで、これはまさに柳田国男が『蝸牛考』で提唱した(そしてその後自ら疑義を呈した)方言周圏論を体現したものだったということ。これは国語学的に見ても面白い事実で、そのためもあってか、このエピソードを特集した『ナイトスクープ』の特番が、ギャラクシー賞や日本民間放送連盟賞を受賞したのだった。
 ここまでが前振りなんだが、本書の著者は、まさにこの番組のプロデューサーを努めていた人で、こういった事情についてこの本の序盤で詳しく解説している。ただ著者は、これまで調べあげたことをこの特番ですべて終わらせるのが忍びないと感じ、その後もさらに突っ込んで、アホやバカの語源や、その成り立ち、いかにしてこういった言葉が広がっていったかなど個人的に調査していくことになる。また方言周圏論についても検討を加え、柳田国男の自説への疑義に対してまで検討を加える。
 この本では、著者の知的関心が余すところなく表現されており、著者と同じ立場に立って知的冒険を追体験できるようになっている。構成のうまさは『ナイトスクープ』と共通するものがあり、さすがとうならされる。知的な面白さ満載で、終いには「バカ」や「アホ」の語源について新説を提示している(「馬鹿」の語源の説は、秦の宦官、趙高に由来するものが有名。竹林軒出張所『『史記(横山光輝版)(本)』参照)。国語学の門外漢であるはずの著者が、学界をうならせるような新説を学会で提示しているのも痛快である。また著者のサービス精神のせいか、現在の方言学の有り様まで細かく説明があって、方言学に対してひとつのパースペクティブ(見通し)を与えるものになっているのもこの本の特徴である。文庫で500ページを超える大著だが、読んで損はない、方言学入門のための好著である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日本語の文法を考える(本)』
竹林軒出張所『古典文法質問箱(本)』
竹林軒出張所『『史記(横山光輝版)(本)』
by chikurinken | 2014-10-21 08:07 |

『盆栽の誕生』(本)

b0189364_7501227.jpg盆栽の誕生
依田徹著
大修館書店

盆栽の門外漢にはつらい本

 今やヨーロッパでも絶大な人気を誇る(らしい)盆栽。日本での人気の凋落と好対照をなしており、なんだか不思議な感じもする。
 ワールドワイドになったと言ってよいその盆栽だが、古来から日本に根付いている趣味かと思いきや、日本で人気が出たのは意外に新しいらしい、本書によると。盆栽の原形は平安時代からあった(鉢木や盆山)が、現在のような形になったのは江戸期で、明治期になってからスタイルの変化を経ながら、今の形に落ち着いた。明治期は特に、上流階級の趣味として花開いたという(政財界で流行したらしい)。
 こういった歴史を時系列で記述し、同時に盆栽の飾り方や器の変遷などについても丁寧に説明していくのがこの本。興味深い内容が続くが、扱われている内容が割に細かく、ともすればまったく知らない登場人物が次々に出続けるなど、読むのに少し苦労する。
 もう少しこうしたらよいというような提案はまったくないが、まことに読みづらい本であることには違いない。あえて言うなら、全体の流れを完結にまとめた記述が最初にあってもよかったかなとは思う。それから図版が少なかったのもわかりにくさに拍車をかけていた。写真がふんだんにあったらもっとよかったなと思う。また、世界の盆栽事情も紹介されていたらもっと面白くなったかも知れない(こうして挙げてみると提案めいたものも結構あった)。そういう点を考えあわせると、やはりこれは盆栽愛好家のための本なのかなと思う。僕のような盆栽の門外漢には少々つらい本であった。
★★★
by chikurinken | 2014-10-19 07:50 |

『働かないアリに意義がある』(本)

b0189364_6533164.jpg働かないアリに意義がある
長谷川英祐著
メディアファクトリー新書

そのココロはハチの予備役

 アリやハチなどの真社会性生物を研究している研究者が書いたアリの生態に関する本。
 タイトルが示すとおり、ハタラキバチなどの真社会性生物の巣の中を見てみると、常時働いている個体は全体の30%ほどで、あとの70%は何もしていない(つまりサボっている)という。ハタラキバチと言えば一般的には猛烈に働くイメージがあって、そのためにかつては日本のサラリーマンもアメリカのマスコミから「ハタラキバチ」などと揶揄されたことがあるほどだが、そのハタラキバチの結構な数が実は遊んでいるという何ともセンセーショナルな話がこの本の掴みになっている。それを考えるとタイトルはなかなか見事。
 もちろん、これについてはちゃんと理由があって、要するに働いていないように見えるハチであっても、緊急の仕事が出てきたらそれに対応する個体が少しずつ増えてくるということで、超緊急の仕事が大量に出てきたら、極端な話、すべての個体がそれに対応すべく働くような構造になっているらしいのだ。つまり働いていないように見える個体は予備役みたいなもので、働いていないと言うより控えていると言う方が正確である。それぞれの個体で、危機意識に差があるため、一定の仕事に対してすぐに動く個体とまだ良いじゃないかと感じる個体がいるということらしい。こういうのを反応閾値の差と言う。で、こういう社会構造は、一見不合理にも見えるが、実は巣が存続する上で非常に合理的なもので、自分の遺伝子を次の世代に残すという進化論的な意味合いからも合目的性があるというのが著者の主張なんである。
 前半は、さまざまな種類のアリやハチの社会について検討していくため具体性があって比較的わかりやすいが、後半になると、社会を作る個体およびその社会にとっての遺伝的な有利性にまで話が及び、内容ががぜん難しくなっていく。当然進化論にまで言及され、進化論に付随する問題点や現時点で明らかになっていない点まで紹介されるため、専門性が高く、付いていくのがやっとみたいになってしまう。
 ただし全般的に話して聞かせるような優しい語り口で、しかも各章ごとにまとめがあったりして、非常に親切で真摯な本という印象が残る。大学の教養課程で(マニアックな専門を持つ)先生の話を聞いているような感じさえ受ける。怪しげな本が多いメディアファクトリー新書の中では異色の部類で、講談社のブルーバックスに入っていてもおかしくないような好著である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ミツバチの会議(本)』
竹林軒出張所『ハチはなぜ大量死したのか(本)』
竹林軒出張所『ニホンミツバチが日本の農業を救う(本)』
竹林軒出張所『銀座ミツバチ物語(本)』
竹林軒出張所『漫画・日本霊異記(本)』
by chikurinken | 2014-10-17 06:53 |

『昨夜のカレー.明日のパン』(1)〜(2)(ドラマ)

昨夜のカレー.明日のパン(2014年・NHK)
演出:茂原雄二、阿部雅和、佐々木詳太
脚本:木皿泉
出演:仲里依紗、鹿賀丈史、溝端淳平、ミムラ、小倉一郎、筒井真理子、小野ゆり子

申し訳ないが小ネタが笑えない

b0189364_7372333.jpg 10年ほど前に放送されたドラマ『すいか』によく似たドラマ。それもそのはず脚本家が共通で、どちらも木皿泉が書いている。食べるシーンや調理のシーンが(ストーリーとほとんど無関係に)むやみに出てくるのも木皿泉らしい。昨今少なくなったほのぼのとしたホームドラマになっているのも『すいか』と共通している。
 こういったホームドラマもなかなかいいものだが、ただこのドラマについては、なんだかちょっと狙いすぎの小ネタが非常に多く、それが少し外れているために、見ていて少々イタイ感じがする。それが何度も繰り返し出てくるんで、見ていてイラッとする。たとえば隣に住む、微笑を忘れた美女(ミムラ)が通称「ムムム」だったり、義父の劇中名が「ギフ」だったりするのも気恥ずかしさを感じる。はまっていたらこういうのも面白いんだろうが、ちょっとずつずれている感じがしてまったく笑えない。ただ全体的によくまとまっていて破綻はまったくないので、こういうのを面白いと感じられるヒトにとっては十分楽しめるドラマではないかと思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『すいか (1)〜(10)(ドラマ)』
竹林軒出張所『おやじの背中 (2)〜(6)(ドラマ)』
by chikurinken | 2014-10-15 07:38 | ドラマ

『藏』(1)〜(6)(ドラマ)

b0189364_871113.jpg(1995年・NHK)
演出:大山勝美
原作:宮尾登美子
脚本:中島丈博
出演:鹿賀丈史、檀ふみ、松たか子、井上真央、香川京子、高橋惠子、洞口依子、渡辺えり子、平田満

芯のないストーリーが残念

 新潟の酒の蔵元を舞台にした、大正から昭和期に渡る一種の大河ドラマ。主人公は盲目の美少女、烈(井上真央→松たか子)なんだろうが、話はその祖父母の代から始まり、父母の代を通じて、最終的に烈にまで至る。いろいろな因果が張り巡らされているようなストーリーではあるが、それぞれの因果の絆が薄いというか、ピントがぼけているというか、結果的にそれぞれのエピソードが散漫になってしまって、焦点が定まっていない。最後の結末(つまり最終回)を見れば、そこへの布石としてそれまでのエピソードがあったんだなということに気が付くが、そこに至るまでが迷走気味で芯がなく少々食い足りなさを感じる。視聴者を最後まで引っ張り続けるダイナミズムが欠如しているために、途中で見るのを止めようと思ったことが何度もあった。
 丁寧に作られ好感が持てるドラマではあるが、途中かなり退屈したというのが僕にとってのマイナス点である。なお主人公の烈の子ども時代は、子役の井上真央が演じる。顔の印象が今と少し変わっていて、井上真央とは気付かなかった。松たか子もこれが初主演。
第13回ATP賞'96優秀賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『極楽家族(ドラマ)』
竹林軒出張所『郷愁(映画)』
竹林軒出張所『シナリオ無頼(本)』
竹林軒出張所『深夜にようこそ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『真夜中のあいさつ(ドラマ)』
竹林軒出張所『ハワイアン ウエディング・ソング(ドラマ)』
竹林軒出張所『判事よ自らを裁け(ドラマ)』
by chikurinken | 2014-10-13 08:08 | ドラマ