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竹林軒出張所

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『高校中退』(本)

b0189364_7382632.jpg高校中退 不登校でも引きこもりでもやり直せる!
杉浦孝宣著
宝島社新書

高校生がリストラされてしまう社会

 現在不登校・高校中退者のための学校を主宰している著者が報告する高校中退の現状。
 日本では現在、高校中退者が年間5万人以上もいるらしく、学校生活に合わない生徒も当然いるだろうが、一方で学校から放擲されるような生徒もいるという。たとえばスポーツ奨学生として入学したが、故障などでそのスポーツを続けられなくなってあげくに肩たたきにあうなど、少年少女の人権などあってないかのような所業が日常的に行われている現実があるそうだ。実際僕の周りでも高校中退者がいるわけで、高校側が面倒そうな生徒をどんどんリストラしている現状ってのは確かにあるようだ(生徒を辞めさせる際は「高校は義務教育じゃない」と言うのが決まり文句になるらしい)。
 ところが一方でこういう生徒がやり直しできる環境というのは皆無に近い。転入できる高校が他にあるわけでもなく(多くの地域・学校には転入制度自体がなく、あっても敷居が非常に高い)、実質的には通信制高校で卒業資格を目指すか高等学校卒業程度認定試験(以前の大検)を受けるという手段しかない。もちろん通信制高校にしても、それを取り巻く環境は少しずつ改善されているが(たとえば「サポート校」など、通信制高校の卒業を支援する通学制の施設も増えている)、それでも、いったん高校で挫折してしまうとやり直しが利かない状況はいまだに続いているわけで、こういう状況は戦後70年変わっていないわけだ。
 本書の主張は、少なくとも高校レベルで転入や転校ができる環境を作っていくべきだというもので、同時に現状の制度が、いかに少年少女の向上心を損なうものであるかを訴えていく。ケーススタディとして、著者の塾に通っていた生徒の状況が紹介され、具体的な状況がよくわかるようになっている。また、高校中退やひきこもりの子供達に対して、周囲の大人はどう接し何を目指させるべきかについても触れられている。全体的に強気な主張が鼻に付くが、高校中退の現状がよくわかる点で評価に値すると思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ドキュメント 高校中退(本)』
竹林軒出張所『子どもの未来を救え(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2014-03-31 07:39 |

『山椒大夫』(映画)

b0189364_14282859.jpg山椒大夫(1954年・大映)
監督:溝口健二
原作:森鴎外
脚本:八尋不二、依田義賢
撮影:宮川一夫
出演:田中絹代、花柳喜章、香川京子、進藤英太郎、河野秋武、加藤雅彦、榎並啓子

山椒大夫は「散所の大夫」から
来ているらしい


 森鴎外の小説『山椒大夫』の映画化作品。ストーリーはおおむね原作どおりになっている(ようだ)。
 監督は溝口健二、撮影が宮川一夫、脚本にヨーダこと依田義賢が加わるなど、溝口映画の定番スタッフが揃う。
 個人的には『山椒大夫』の話も「安寿と厨子王」の話もまったく知らなかったので非常に新鮮だったが、なかなかに強烈な話である。貴族の家柄の安寿と厨子王が奴隷として売り飛ばされてしまう話で、考えようによっては『ルーツ』や『グラディエーター』とも似たような展開と言える。ただ、彼らが売り飛ばされていった散所のありさまの描写はすさまじく、非常に迫力がある。実は最初の20分位は、もうものすごく退屈していて、見るのをよそうかと思っていたので、突然の展開に大いに驚きつつ、その描写に目を奪われたのだった。後はもうジェットコースターのように話が進んでいき、スリリングに展開する。さすがに大映映画で、セットは豪華絢爛、散所のセットにも相当力が入っていたことがうかがわれる。実は今回美術や映像にあまり目が行かなかったので詳しいことは言えないが、手を抜いたような部分は微塵も感じられない。さすがに溝口映画だと思わされるような作品だったと思う。ただ役者の演技が少々センチメンタルに過ぎるきらいがあってそういう点に少し不満を感じたが、ましかし、それでも大作であることは確かである。
 なお、子ども時代の厨子王を演じているのは津川雅彦(加藤雅彦)で、僕は最後まで長門裕之だと思っていたのだった。やはり兄弟だなと感じた次第。
1954年ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『新・平家物語(映画)』
竹林軒出張所『祇園囃子(映画)』
竹林軒出張所『祇園の姉妹(映画)』
by chikurinken | 2014-03-29 14:29 | 映画

『路傍の石』(映画)

路傍の石(1964年・東映)
監督:家城巳代治
原作:山本有三
脚色:家城巳代治
音楽:木下忠司
出演:池田秀一、淡島千景、中村賀津雄、佐藤慶、風間杜夫、水原まき、清川虹子

この後少年はどうなるのだろうかと心配しつつも
原作とストーリーが違っていることに気付く


b0189364_8271012.jpgネタバレ注意!
 山本有三原作の教養小説『路傍の石』の映画化。この映画も、過去何度も(少なくとも4回)映画化されている。
 主人公の吾一(池田秀一)は学業優秀だが、家が貧しいため中学に進学できず、同級生の両親が経営する呉服屋に奉公に出る。そこであるいは屈辱的な扱いを受け、あるいはいじめに遭いながらも、学問を志し、前向きに生きることを誓うというストーリーで、呉服屋を飛び出し上京するところで話が終わる。いたいけな子どもがつらい体験をするのは見ていてつらいものがあるが、「溜めて溜めて爆発」というパターンで、見る方はある程度溜飲を下げられるような展開にはなっている。ただ、上京しても苦労するのは目に見えているし、頼っていった小学校時代の先生もどうなっているかわからないわけで、上京後どうなるかは非常に気になるところではある。
 前も書いたが、僕の幼少時、今は亡き父がやけに『路傍の石』を勧めていて、それで以前テレビでも映画版を見たことがあったんだが、そのとき見た作品とはストーリーが若干違っている。当時、随分古い映像という印象があったので、この映画ではなく38年版か55年版だったのかも知れない。で、ちょっと原作のストーリーを調べてみたんだが(読んでないんで……)、この映画、原作小説と大分ストーリーが違う。原作では母親が死んだことがきっかけで(ろくでなしの)父親を頼って上京することになっているが、この映画では母は死なないし、頼っていくのも父親ではなく先生である。ちなみに原作では上京後の苦労も十二分に描かれるようだが、本質的に映画と原作でストーリーが違うので、別の話と考えなければならないんじゃないかとも思う。
 映画では、社会の理不尽なありように対する批判が随所に見て取れるが、このあたりは原作と共通するようだ。作者の山本有三も幼少時代呉服屋に奉公に出されたということで、そのときの経験が多分に反映しているのかも知れない。
 この映画、公開当時は『狼少年ケン』と併映だったそうで、そうすると、子ども向け、あるいは親子向けの企画として作られたと考えることができる。そういうこともあってか、映画自体は非常にわかりやすい作りになっている。小学生が見ても共感できるような内容になっていて、作りも非常にしっかりしている。なお、主人公の母親は、同じく山本有三原作の『真実一路』でお馴染みの淡島千景、先生は中村賀津雄(若い!)、ろくでなしの父親は佐藤慶(こちらも若い!)がそれぞれ演じる。番頭や小番頭(織田政雄)も好演で、脇に名優がずらっと揃っているという印象である。それから友人の京ちゃんは、子ども時代の風間杜夫が演じているが、こちらは最後まで気が付かなかった。主人公の少年を演じた池田秀一は、聡明そうで吾一に実によく合っているが、この俳優、その後『機動戦士ガンダム』の「シャア」役で声優として大ブレークしたらしい。今や俳優よりも声優として活躍中。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『真実一路(映画)』
竹林軒出張所『裸の太陽(映画)』

by chikurinken | 2014-03-28 08:27 | 映画

『Emma/エマ』(映画)

b0189364_874268.jpgEmma/エマ(1996年・英)
監督:ダグラス・マクグラス
原作:ジェーン・オースティン
脚本:ダグラス・マクグラス
出演:グウィネス・パルトロー、ジェレミー・ノーサム、トニ・コレット、アラン・カミング、ユアン・マクレガー、ポリー・ウォーカー

共感できない主人公とストーリー

 ジェーン・オースティン原作の小説、『エマ』の映画化作品。
 ジェーン・オースティンも『エマ』も人気があるようで、この原作小説も、テレビ映画を含めると過去何度(少なくとも5回)も映画化されている。個人的には、ジェーン・オースティンの作品についてはあまり共感を感じない。この『エマ』もそうで、なんだかお節介な小娘が、自身の独断のためにあちこちで騒動を起こして一人で大騒ぎしているような印象しかなく、まったく好きになれない。もっとも作者自身も「私のほかには誰も好きになれそうにない女主人公」(Wikipediaより)と言ったとか言わないとかで、そういう意味では作者自身も確信犯的なのかも知れない。主演女優がもう少しかわいげのある風貌だったらこちらの印象も変わったのかも知れないが、高慢そうな女優だから余計だ。
 これまで何度も書いているが、こういう時代ものの話の場合、映画だと風俗が一見してわかるので、そのあたりが小説に勝る点なんである。この映画も美術や衣装がよくできていて、風俗がよく見て取れるという点では優れものと言える。
 ストーリーは、オースティンらしくやはり安直で、最初から結末が見えてしまうようなありきたりの話である。それにパーティに招かれたとかあの人とあの人がどうだとか、主人公たちが嬉々として話している内容が実につまらない(主人公のエマは洗練された女性という設定らしいが)。おかげで途中ものすごく退屈した。退屈な上、うっとうしい登場人物と会話のせいで、途中投げ出したくなったほどである。まあ後半はそこそこ盛り上がりもあってそれなりに収束していった。だがしかしハーレクイン風の予定調和的な線から抜け出ることがないのも動かしがたい事実。
★★★

参考:
竹林軒出張所『プライドと偏見(映画)』
竹林軒出張所『ジェイン・オースティンの読書会(映画)』
by chikurinken | 2014-03-26 08:09 | 映画

『ゴリオ爺さん』(映画)

b0189364_843119.jpgゴリオ爺さん(2004年・仏)
監督:ジャン=ダニエル・ヴェルハージェ
原作:オノレ・ド・バルザック
脚本:ジャン=クロード・カリエール
出演:シャルル・アズナヴール、チェッキー・カリョ、マリック・ジディ、ナディア・バランタン、マルーシュカ・デートメルス

アズナヴールのゴリオは
洗練されすぎてやしないか?


 フランスの大作家であるバルザックの代表作『ゴリオ爺さん』をドラマ化したテレビ映画。主演のゴリオを演じるのは、なんとシャンソンの大家、シャルル・アズナヴールである。
 『ゴリオ爺さん』自体は原作を読んでいるわけではないのでどの程度中実に脚色されているかはわからないが、DVDの解説によると大筋では原作どおりということで、おおむねこの映画が『ゴリオ爺さん』であると考えてもよさそうである。娘のためにすべての財を費やし自らは安下宿に住まうゴリオの晩年が話の中心で、これに若き法学生ラスティニャックや極悪人ヴォートランが絡んで人間模様を織りなしていく。ちなみにこの話に登場する人物たちは、バルザックの他の作品にも(あるいは主人公として)登場するらしく(たとえば『ニュシンゲン銀行』のニュシンゲン男爵)、この人物再登場法は『ゴリオ爺さん』から始まったというから、やはりこれがバルザックの代表作ということになるんだろう。なお、こういった作品群は『人間喜劇』という総称で呼ばれている。さらに付け加えると『居酒屋』のゾラもこういう手法を使っている。
 さて肝心の映画の方だが、とりたててどうこう言うような要素はあまりなく、無難にまとめられているという印象である。何よりも当時の風俗がよくわかる点が、こういう映画の原作小説に勝る部分であり、その点では非常にうまく再現されていて良かったと思う。ただ、ラスティニャックが惹かれるデルフィーヌ役の女優があまり冴えないのが少し引っかかった(ラスティニャックが惹かれないヴィクトリーヌの方は陰があって良かった)が、それもまあご愛敬。翻案としてはよくできていたドラマである。これをとっかかりに『人間喜劇』に進んでいくのもありかなと思っている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『原作と映画の間』
竹林軒出張所『居酒屋(映画)』
竹林軒出張所『赤と黒(映画)』
by chikurinken | 2014-03-25 08:46 | 映画

『愛の妖精』(映画)

b0189364_84244.jpg愛の妖精(2004年・仏)
監督:ミシャエラ・ワットー
原作:ジョルジュ・サンド
脚本:ガブリエル・ボリル
撮影:イヴァン・コゼルカ
出演:メラニー・ベルニエ、ジェレミー・レニエ、アニー・ジラルド、リシャール・ボーランジェ、マニュエラ・セルヴェ、ニコラ・ジロー

ジョルジュ・サンド作品の
映画は珍しい


 ショパンの愛人として知られるジョルジュ・サンドの代表作『愛の妖精』をドラマ化したテレビ映画。
 普段から、小説は原作を読むより映画化作品を見たいと考えているもので、この映画にアプローチした動機もそれ。特にジョルジュ・サンドは、スキャンダルの方が有名で、作品自体にはあまり目を向けられることがない。映画化されたものもほとんどないということで、この映画は僕のような人間にとっては大変貴重である。
 原作小説を読んでもなかなか当時の風俗まで思いが至らないものだが、映画だとそれが一目でわかる。僕の映画化作品志向の理由の1つはそれなんだが、そういう点でもこの映画は、映像で見るのに非常に適していると言える。風俗が丁寧に描き挙げられている上、舞台となる田園風景も非常に美しく、何より出演しているキャストが魅力的である。特にファデット役のメラニー・ベルニエがワイルドでなおかつ美しい。
 人間関係は結構錯綜していて、行ってみれば(1対3の)四角関係と言えるもので、そのため結末がなかなか見えにくい。浪漫主義的な恋愛ドラマではあるが、そういう点で、最初から結末が見えてしまうような浅はかなドラマとは一線を画すと言える。また、主人公の移ろう心情もよく描かれていて、それがドラマに奥行きを与えている。なんとなくジョルジュ・サンドが好みそうなストーリーだなーと感じたが、もちろんそんなことを言えるほどジョルジュ・サンドのことを知っているわけではない。
 全編1時間半程度にコンパクトにまとめられた秀作ドラマで、ちょっとフランス文学に触れてみようという向きには最適な映画ではないかと思う。カメラがよく動くのが少々気になりはしたが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『別れの曲(映画)』
竹林軒出張所『ショパン 愛と哀しみの旋律(映画)』
by chikurinken | 2014-03-24 08:05 | 映画

『死闘!コスタリカ横断850キロ』(ドキュメンタリー)

死闘!コスタリカ横断850キロ 〜限界に挑んだ日本チームの10日間〜
(2014年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

b0189364_856154.jpgシャレにならない過酷さ

 またまた過酷なレースのドキュメンタリー。こちらもチーム単位の参加だがリレー方式ではなく、男女4人でスタートからゴールまで一緒に走るというもの。しかも途中、カヤックやマウンテンバイクまでも駆使しなければならず、それに3000m超の山越えまである。ドロミテ以上の過酷さである。この大会にも日本から「イーストウインド」というチームが参戦したということで、こちらのドキュメンタリーでも日本チームを中心に据えるという趣向である。
 舞台になるのは中米のコスタリカ。タイトルは「コスタリカ横断」になっているが、実際のところはコスタリカ縦断に近い。もちろんコスタリカは南北に長いため、こちらの方がはるかに過酷で、しかも横断の要素も入っている。山脈を抜けた後はジャングル地帯を抜け、ワニのいる河を遡るなど、過酷にもほどがあるコースである。チームには最低でも1人女性を入れなければならないという規定があり、どこのチームも女性が1人いる。一般的に体力的に劣る女性が足を引っぱるかと思いきや、途中からは女性がチームのまとめ役というか母親役みたいになったりするってんだから、むしろ女性3人のチームの方が良いのかもと思ったりもする。そういう意外性も面白い。
 コース自体バラエティに富んでおり、また当然出場者たちも過酷な地形や高温多湿の気候に苦しめられるため、展開は非常にドラマチックで、ドキュメンタリーとしても面白い。こんなレースには一生関わることはないだろうが、部分部分ではそれなりに近い経験もあるわけで、そういう身近さも感じることができる。
 ましかし、出場者の多くが不眠不休に近い状態で850kmに渡って活動し続けるわけで、あまり健康的ではないのは確かである。実際、日本チームも参加者の1人が転倒事故を起こしたわけだし、トップを行っていたチームですら、メンバーの1人が感染症で動けなくなってしまったくらいである。冒険レースだからしようがないとも言えるが、参加者がワニに襲われたりしたらシャレにならないんじゃないかなどとも思う。
 日本チームのメンバーの1人は、レース中に自然の脅威を感じると同時に人間の卑小さを感じそれこそがこのレースの魅力だと語っていたが、非常に印象的な言葉だった。ただ、それならレースじゃなくても良いんじゃないかとも思ったりするが、彼らには彼らの思いがあるんだろう。ともかく端で見ている分には非常に面白いドキュメンタリーだったのは確かである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『激闘!ドロミテ鉄人レース(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『激走! 富士山一周156キロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『雲上の超人たち(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『人は走るために生まれた(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2014-03-22 08:58 | ドキュメンタリー

『激闘!ドロミテ鉄人レース』(ドキュメンタリー)

激闘!ドロミテ鉄人レース 〜ヨーロッパ巨大山塊に日本が挑む〜(2013年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

b0189364_834128.jpgオールスター戦は
競技の面白味を削ぐ


 日本だけでなく世界中に過酷なマラソン・レースがあり、このブログでもこれまで2回ほど関連ドキュメンタリーを紹介しているが、今回紹介するのはリレー・マラソン(マラソンと言えるかどうかは微妙だが)。しかも山岳ラン、パラグライダー、カヤック、マウンテンバイクという(トライアスロンならぬ)クアドラスロンである。ただしこちらは、それぞれのスペシャリストがリレーするという企画であるため、それぞれの分野のエリート選手をいかに集めるかがポイントになる。そういった意味では、富士山一周レースや日本アルプス大縦断レースのような耐久レースとしての面白さはない。どちらかというとオリンピックなどの競技に近いと言える。
 舞台になるのは、イタリア・オーストリア国境のドロミテ山塊。そのため世間では『ドロミテマン・レース』と呼ばれるらしい。この大会に今回日本チームが参加したが、この日本チームを中心に据えた番組になっている、このドキュメンタリーは。b0189364_832673.jpg日本のチームも各分野のスペシャリストを集めているが、トップを争うヨーロッパのあるチームなんかは、たとえば山岳ランのためにアフリカ人を雇っていたりする。そういうのもなんだかちょっと物足りなさを感じる要因になる。たとえばオリンピックで、ボクシングとレスリングと水泳とマラソンの複合競技があって、それぞれスペシャリストが出るような競技があったと仮定した場合、それが本当に面白いかということなんである。1人で全部をこなすってんだったら、競技間のバランスの妙や意外性があって面白いと思うが、こういう競技になってくると、ただのオールスター戦に過ぎず、競技としての面白さはあまりない、少なくとも僕には。いくら過酷なレースと言われてもちょっとばかり白けるのである。
 そういうわけで見るドキュメンタリーとしては特に感慨もなく、どうぞ勝手にやってくれという印象だけで終わった番組であった。それに出場している日本人選手にもあまり共感できなかった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『死闘!コスタリカ横断850キロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『激走! 富士山一周156キロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『雲上の超人たち(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『激闘!ドロミテ鉄人レース(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2014-03-21 08:05 | ドキュメンタリー

『永山則夫 100時間の告白』(ドキュメンタリー)

永山則夫 100時間の告白 〜封印された精神鑑定の真実〜(2012年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

b0189364_9522822.jpg永山則夫の悲惨な生涯

 1968年から翌年に発生した連続4件の拳銃射殺事件の犯人、永山則夫に関するドキュメンタリー。
 永山則夫といえば、逮捕後獄中から文学作品を発表したりしたことから名前が今でも残っているが、我々のような年寄り世代でも一般的には名前以外よく知られていない。永山則夫が逮捕された後、精神鑑定のために聞き取り調査が行われたが、その調査結果は結局採用されることもなく死刑判決が出され、1997年に死刑執行された。
 だが実はそのときの録音テープが残されていた……というのがこのドキュメンタリーのミソ。それを持っていたのは当時聞き取り調査を行った医師で、この医師、当時永山が心神喪失状態だったという結論を出したにもかかわらず裁判では完全に無視されたために、その後一切犯罪者の精神鑑定をやらなくなったという。実際、残された録音テープは100時間にも上り、永山自身が自身の生い立ちや当時の有様までよく語っている。当時行われた精神鑑定が、決して生半可な仕事でなかったことがわかる。
 このテープのインタビューからは、永山の悲惨な過去が見えてくる。父親は仕事をせず家から金を持ち出すばかり、母親も子供達をろくに顧みないという家庭で育った永山。しかも幼い頃から兄から激しい暴行を受け続けていたという。母親が父親から離れるために北海道から青森に越したときも、永山を含む3人の子どもは放置されたというとんでもない扱いまで受けている(当時父親もとうに失踪していたため子供達だけが3人取り残され、ホームレスなみの生活をしていたという)。その後も母親から疎んじられながら成長し、中学卒業と同時に集団就職で上京、しばらくは真面目に働いていたが、店主に過去の犯罪歴が知られたところから一転。そのまま住み込みの店を飛び出す。その後もしばらく真面目に働いた後店を飛び出すという生活を繰り返す一方で自殺願望だけが募っていく。
 米兵に射殺されることを望んで横須賀の米軍宿舎に忍び込んだが、実際には射殺されたりすることはなく、それどころかピストルを入手してしまう。これが犯罪への序章となった。後に東京、京都、函館、名古屋で、この拳銃を使って殺人事件を起こし、その後逮捕される。これが世に言う「永山則夫連続射殺事件」。その後、一審死刑、二審無期懲役、最高裁で差し戻し後、再び高裁で死刑判決が出される。この間、永山は獄中で勉強し、執筆活動を行うようになる。これで得た印税は被害者に振り込まれたという。
 この番組で辿られる永山則夫の生涯は、それはもう悲惨で、自殺念慮が出てきても当然というものである。自殺と他殺の根は同じと言う話を聞いたことがあるが、永山の殺人事件についてもそれが当てはまるような気がする。こういう人間を生み出さない社会が重要なんだということがよくわかるドキュメンタリーで、押しつけがましくはないが強い主張が感じられる。『裸の十九才』(永山則夫をモデルにした映画)も見てみたくなった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『裸の十九才(映画)』
竹林軒出張所『裁判百年史ものがたり(本)』

by chikurinken | 2014-03-19 09:52 | ドキュメンタリー

『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』(本)

第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい
マルコム・グラッドウェル著、沢田博・阿部尚美訳
光文社

b0189364_750548.jpg話のネタ本に良いかも

 アメリカで話題になっているマルコム・グラッドウェルの第2作目。マルコム・グラッドウェルは、元々『ワシントン・ポスト』の記者で、その後フリーのライターになったという経歴を持つライター。
 前著『ティッピング・ポイント』と同様こちらも、さまざまな実験データを引用して、人間の直感が正しい状況を紹介していくが、雑多でとりとめがない印象である。副題になっている「最初の2秒の「なんとなく」が正しい」というのが本書のテーマなんだろうが、直感が正しくない状況についてもかなり紙数を割いている。結局のところ「何かを判断する上で直感が正しい場合もあるが正しくない場合もある」ということがテーマになるのか。そうするとテーマ自体は至極当たり前でさして面白味はないが、本書の中で行われている議論については興味を引く部分があった。特に第6章の、人間の心情が常に表情に現れているという研究の話や、危機的な状況になると本能的な部分以外のすべての思考回路が停止するなどという説は非常に興味深い。いずれは本書で紹介されている著者の文献に当たってみたいところではある。とは言うものの、全体的にはこういう面白い話を引っぱり出してきて、内容を面白おかしく紹介し、自分なりの結論を導いているだけという印象も残る。
 そういう意味でも前著と非常に似たたたずまいで、いろいろな研究や実験について面白く語ってくれるが、なんだか怪しい印象が常につきまとう。テーマがぶれがちで明確でないためもあるんだろう。結局は世間話みたいな内容で終わってしまうのがこの著者の特徴と言える。ただ先ほども書いたように、ダラダラと読んでいると目を引くような記述もあって、そこから別の領域に興味の触手を延ばすことができるのは大きな長所である。したがって前著『ティッピング・ポイント』の記述に従えば、この人は「メイヴン」(通人)というよりも「セールスマン」に近いと言える……かな。この人の面白おかしいネタ話に触発されて、専門家によるしっかりしたテーマの本に進めば良いということだ。なおタイトルの「第1感」は訳者による造語(もっとも将棋の世界では「第1感」という言葉、よく使うが)で、原題は『Blink』つまり「ひらめき」である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『天才! 成功する人々の法則(本)』
竹林軒出張所『ティッピング・ポイント(本)』

by chikurinken | 2014-03-18 07:50 |