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竹林軒出張所

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『十戒』(映画)

十戒(1956年・米)
監督:セシル・B・デミル
脚本:イーニアス・マッケンジー、ジェシー・L・ラスキー・Jr、ジャック・ガリス、フレドリック・M・フランク
出演:チャールトン・ヘストン、ユル・ブリンナー、アン・バクスター、エドワード・G・ロビンソン

スケール感はあるが、映画としては少々物足りない

b0189364_84455.jpg DVD2枚組、総上映時間232分という超大作ハリウッド映画。原作はもちろん旧約聖書の出エジプト記で、タイトルの『十戒』はモーセがシナイ山で授かる十戒のこと。まあこんなこと言うまでもないだろうが。
 映画は、あの有名な海のシーンに代表されるようにスペクタクルを売りにしたもので、美術も豪華な上、非常に多数のエキストラを動員するなど、スケール感は申し分なし。とは言え、一般的なカットについては舞台劇みたいな演出で、わざとらしいキャストの配置や大げさな台詞回しが結構鼻につく。特撮についても今見るとアラが目立つ。またストーリー自体も、ユダヤ人の危機になるとユダヤの神が助けて、エジプト人に10倍返しを喰らわせるという単純な展開で、さすがに後半は飽きてきた。こういった展開で4時間近く延々と繰り出されると、贅沢感は残るが、まあそれだけみたいな感触も残る。
 それにユダヤの神が非常に利己的なのもなんだか不快である。もちろんストーリーは旧約聖書の記述に忠実にできているんだが、一部のユダヤ人のために、エジプト人はもちろんのこと他のユダヤ人でさえ平気で殺戮していくのは納得がいかないというか、あまり良い気持ちがしない。大魔神みたいなものと考えたら別に気にならないんだが、これが実在する宗教の経典になっているということを考えるとちょっとどうよと思う。
 キャストについては、ユル・ブリンナーが存在感があって良かったが、チャールトン・ヘストンは『ベン・ハー』のときほどの輝きはなく、他もあまりこれはという役者はいなかった。悪い意味での「ハリウッド映画」の枠内にとどまってしまった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ベン・ハー(映画)』
竹林軒出張所『スパルタカス(映画)』
竹林軒出張所『クレオパトラ(映画)』
竹林軒出張所『サテリコン(映画)』
竹林軒出張所『エジプト人(映画)』
by chikurinken | 2013-10-30 08:06 | 映画

『五番町夕霧楼 (63年版)』(映画)

b0189364_81154100.jpg五番町夕霧楼(1963年・東映)
監督:田坂具隆
原作:水上勉
脚本:鈴木尚之、田坂具隆
出演:佐久間良子、河原崎長一郎、木暮実千代、千秋実、岩崎加根子、丹阿弥谷津子、宮口精二

非常にしっかり作られているが
最後は少々だれる


 水上勉原作の同名小説の映画化。金閣寺放火事件がモチーフになっている。ただし主人公は、放火犯(河原崎長一郎)ではなくその幼なじみの遊郭の女性(佐久間良子)。
 演出は丁寧で、しかも大がかりなセットをこしらえるなど美術も豪華である。しっかり作られていて、60年代の映画界のパワーを感じる。映像もきれいにまとめられている上、キャストの演技も非常にうまい。特に千秋実と端役の東野英治郎が良い。河原崎長一郎も良い味を出している。
 難点は終わりの方がやけに辛気くさくなったことと会話中心に進みすぎたことで、最後の十数分は少々難あり。それまでが良いテンポで進んでいただけに残念至極である。
 原作では寺の堕落が告発されているらしいが、この映画ではそういう部分は皆無である。京都の仏教界に配慮したのか知らんが、そのために金閣寺(映画の中では「鳳閣寺」)放火の動機付けが弱くなってしまった。おかげで放火犯の櫟田の行動が謎のままになっている。犯人が主人公でないからそれでOKと考えることもできるが、寺に対する攻撃は水上勉の本領ではないかとも思う。そういう点では骨抜きになってしまったような感覚もある。
 なお似たモチーフの映画に市川崑の『炎上』があり、こちらは放火犯の方がフォーカスされていて正攻法で、放火犯を演じる市川雷蔵とその同級生の仲代達矢の演技がすさまじい立派な映画だった。また『五番町夕霧楼』は80年代にも松坂慶子主演でリメイクされている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『炎上(映画)』
竹林軒出張所『雁の寺(映画)』
by chikurinken | 2013-10-29 08:13 | 映画

『雁の寺』(映画)

b0189364_832462.jpg雁の寺(1962年・大映)
監督:川島雄三
原作:水上勉
脚本:舟橋和郎、川島雄三
撮影:村井博
美術:西岡善信
音楽:池野成
出演:若尾文子、高見国一、三島雅夫、木村功、山茶花究、中村鴈治郎、菅井きん、小沢昭一

水上勉の怨嗟の声が聞こえる

 水上勉原作の同名小説の映画化。全編、堕落した寺の姿が描かれ、子どもの頃寺勤めをしていた水上勉の怨嗟の声が聞こえてきそうな内容である。ストーリーはサスペンスタッチで、同時に官能的な要素もあって、著者(または映画製作者)のサービス精神満開。
 高名な日本画家の愛人で、その後寺の住職の愛人になる女性を若尾文子が好演している。こういう役をやると若尾文子の右に出る女優はいない。寺で虐げられる若者と、似たような境遇を持つ愛人によるその若者への共感が話の柱になるが、社会の歪みや貧困などといった面も描かれる。なかなか骨太な話である。
 演出は正攻法だが、非常に変わった超ローアングルのショットがいくつか出てきて、映像面で緊張感を生み出すことに成功している。またこの頃の大映映画のご多分に漏れず、大道具などの美術は豪華絢爛で、今では考えられないぐらい作り込まれている。最後のシーン(後日談)がいかにも川島雄三風だが、個人的には要らないんじゃないかと感じた。ましかし、非常に良くできた文芸映画と言えるんではないだろうか。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『五番町夕霧楼 (63年版)(映画)』
by chikurinken | 2013-10-28 08:03 | 映画

『レッツラ*ゴン』(本)

b0189364_823435.jpgレッツラ*ゴン 赤塚不二夫名作選4
赤塚不二夫著
小学館文庫

赤塚不二夫がもっとも愛したマンガ
ナンセンス・マンガの頂点

 赤塚不二夫が自身の作品の中でもっとも愛していたと言われているマンガ。当時の担当編集者の話(本書巻末の「寄稿エッセイ」)によると「『おそ松くん』のユーモアが『天才バカボン』でナンセンスに近づき、『レッツラゴン』でシュールに発展した。これは、オレの目指していた世界だった」と赤塚不二夫が生前語っていたらしい。連載されたのは『少年サンデー』で、1972〜74年頃である。僕はリアルタイムで読んでいたが、あまりのバカバカしさに笑いが止まらなかったことがある。当時かなりのお気に入りマンガだったこともあって、セリフをいまだに憶えているものもある。
 この『レッツラゴン』、赤塚自身の評価にかかわらず、単行本はずっと絶版状態だった。復刊ドットコムで最近復刊されたようで、その波に乗ったのか知らないが小学館から「赤塚不二夫名作選」と名うって文庫で登場した。と言っても元々は2005年に発売されたもので、僕が今回買ったのは2012年に出た第3刷である。要するにこの増刷が復刊ドットコムを意識したのかなということ。
 内容はと言えば、かつて連載したものから19本を選んで収録した選集で、残念ながら子どもの頃大笑いした「ざまあミル貝」の回は入っていなかった。復刊ドットコムの方を読めってことか。ただ今回、40年ぶりに読んでみたこの『レッツラゴン』、さすがにこちらが成長したせいか、懐かしさ以外大した感慨がない……というかくだらない。笑いがあまりにくだらない、ナンセンスにもほどがあるというような内容で、あらためて買って読もうという気にならない。この1冊でもう十分である。まあ小中学生が読んだら笑えるかもしれないが、さすがにこの年ではこの内容を楽しむことはできない。ましかし、これをマンガ雑誌で展開したというのはすごいっちゃぁすごい。赤塚不二夫が言うように、ここに極まれりという感じではある。この『レッツラゴン』以降、赤塚不二夫のマンガはだんだん絵が荒れていってちょっと読むに耐えなくなったと記憶している。アル中がひどくなったんじゃないかと思う。そういう意味で、このマンガ、赤塚ナンセンス・マンガの頂点、またはピークと言っても良いかもしれない。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘(本)』
竹林軒出張所『まんが トキワ荘物語(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘青春日記―いつも隣に仲間がいた…(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘の青春(映画)』
by chikurinken | 2013-10-26 08:25 |

『黒い鷲』(本)

b0189364_844870.jpg黒い鷲
バロン吉元著
中央公論社

エンターテイメント満載

 先日読んだ『マンガ版徒然草』の作者がバロン吉元だったことから、昔(少しだけ)読んだ同氏作の『黒い鷲』を思い出し、それで今回、このマンガを入手して読んでみたという次第。バロン吉元という名前は最近ではあまり聞かないし、この『黒い鷲』自体今は売られていないようで、そのため古本を購入した。
 ストーリーは、フランスに美術留学した主人公、長宗我部天平(ちょうそかべ・てんぺい)が、その後、軍用パイロット志望に転じ、やがて一流のパイロットになるという話で、背景となる時代は第一次大戦時である。そのため天平が乗り込む飛行機も複葉機で、フィクションの話としては時代、設定とも珍しく、非常に目新しい。全体的にややマンガ的なご都合主義が目立つが、それでもエンターテイメント的な要素が散りばめられていてサービス精神満点である。そのため読んでいて飽きることはない。このマンガ、元々1973〜74年に『少年サンデー』に連載していたマンガだが、この頃の少年マンガの1つのパターンを踏襲しており、主人公の天平は飛行機の操縦能力に天才的な、というか本能的な才能を持つ。同時に奔放で、すこぶる愛すべき人物。女の子たちにももてて、それでいて敵陣に正面から突入したりと豪放磊落な面もある。そんな都合の良い人間いねーよ……と思う人もいるかも知れないが、ま、エンターテイメントだから。
 話の展開は先ほども言ったようにご都合主義的なところが多いが、それでもこれはというシーンがきちんと配されていて、それなりに感動を呼ぶ。特に複葉機でパリの凱旋門をくぐろうとするシーンや、ハンス・クルーゲと対決するシーンは感動的。そういう点でも著者の手腕が光る。
 惜しむらくは、おそらく当時執筆スケジュールが厳しかったせいだろうが、途中読者の投稿ハガキを使って遊んでいるような箇所があったりして、作品の完成度を損なう結果になっている点である。連載マンガとして読んでいる分には、ま、楽しくもあるんだろうが、こういうふうにまとまった形で出てくると、なんだか手抜きみたい感じられて、少し興が醒める。締切のせいだというのは容易に想像できるが、こうなってくると週刊マンガ誌の連載というのも功罪相半ばと言える。『徒然草』の完成度に思いを馳せると、こういう形で描くしかなかった著者の思いやいかんなどと感じてしまうのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『徒然草 マンガ日本の古典17(本)』
by chikurinken | 2013-10-25 08:05 |

『失踪日記2 アル中病棟』(本)

b0189364_7325324.jpg失踪日記2 アル中病棟
吾妻ひでお著
イースト・プレス

やっと出た! 『失踪日記』の続編

 吾妻センセイの名著『失踪日記』の続編がついに出た。『失踪日記』以来この作品に取り組んできたというから、8年間かけてこの330ページに及ぶ大著を描ききったということになる。当然締切に追いまくられることもなく、自分のペースで納得できるまで描き込んでいるため、完成度が非常に高い。『失踪日記』や『地を這う魚』も完成度は高かったがそれ以上で、逆にそのために吾妻ひでおらしさが少々薄れている。
 内容は『失踪日記』のなかの「アル中病棟」と若干重なり、入院時代の話である。『失踪日記』と内容が若干かぶってはいるが、むしろ続きと考えるのが良い。アルコール依存症者向けの病院(アル中病棟)での話で、なかなかよそでは聞けない話ばかりで面白い。とは言うものの、僕の場合吾妻ひでおの別の本(『実録! あるこーる白書』など)で病院内の話を読んでいて、ある程度知識があったので、意外さはそれほどなかったのだった。しかしこういう知識がない普通の人にとっては『刑務所の中』『南極料理人』みたいな目新しい視点を提供してもらえるのは確か。そう言えば『入院しちゃった うつウーマン』も精神病院の閉鎖病棟の話で内容が結構かぶっていたが、どちらもまだ読んでいない人はこの『失踪日記2 アル中病棟』を先に読む方がよかろうと思う。
 ただたとえ閉鎖病棟について多少知っていても、このマンガの面白さが損なわれることはない。特に人間観察の鋭さや独特のユーモアの感覚は吾妻ひでお特有のもので、『失踪日記』には及ばないまでもそれに迫る作であることは疑いない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『実録! あるこーる白書(本)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
竹林軒出張所『私、パチンコ中毒から復帰しました(本)』
竹林軒出張所『入院しちゃった うつウーマン』

追記:
 以下、以前のブログで紹介した『失踪日記』と『うつうつひでお日記』の評の再録。
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(2005年9月9日の記事より)
b0189364_7331933.jpg失踪日記
吾妻ひでお著
イースト・プレス

 これはすごい。
 吾妻ひでおと言えば、かつて少年チャンピオンで長期間にわたり連載を持っていたメジャー漫画家である。少年チャンピオンの連載時(「ふたりと5人」、「エイトビート」など)が僕の子供時代と一致する。80年代は、ミニコミで書いていたのをちょくちょく見ていたので、そのミニコミ誌の方がメジャーになったのかと勘違いしていたくらいだ(その辺の事情もこの本に書かれている)。
 ともかく、そのメジャーな漫画家が、いろいろなことに行き詰まり、89年11月、突然失踪し、ホームレスになった。その後警察に見つかって、いったんは家に戻り仕事にも復帰するが、92年4月、ふたたび突然(家族の視点から言うと)いなくなってしまう。本人はふたたびホームレス生活に戻り、その後、ガスの配管工としてスカウト(!)され、再度、警察に連れ戻される。再度復職するが、今度はアルコール依存症になり、精神病院に入院することになる。
 こういう異色の経歴が、表現者である当人によって(マンガという手段で)語られたのがこの本である。その内容たるやすさまじいばかりだが、ギャグマンガの手法でこれを描いているため、かなり笑えるのだな、これが。冒頭に「この漫画は人生をポジティブに見つめ、なるべくリアリズムを排除して描いています」「リアルだと描くの辛いし暗くなるからね」と書かれているが、その意図は十分成功している。内容自体はかなり悲惨なんだが。
 全体を通してなんとなく前向き(現在の著者の心境を反映しているのだろう)で、人間生きてりゃ何とかなるなと思わせる。来るべきサバイバル時代に備え、ホームレス教本として読むこともできる。ちなみに続編もある(出る?)ようだ。
★★★★

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(2006年8月10日の記事より)
b0189364_7333033.jpgうつうつひでお日記
吾妻ひでお著
角川書店

 傑作『失踪日記』を執筆していた時期に、平行してつけていたマンガ日記をまとめたもの。『失踪日記』ほどの強烈なインパクトはなく、ブログみたいな「何を食べて何を見た」というレベルの日記ではあるが、著者の経験が経験だけに、楽しく読める(と思う)。
 ろくに仕事もせず(できず)図書館に通いづめで(傍目には)のんびりした生活を送っているなど、どこか僕自身にも似ており(格闘技(K1やPRIDE)をテレビでよく見ている点も共通……曙評など共感)、身につまされる。将来に対する不安などもよくわかるし……。
 この後、著者は『失踪日記』でブレイクするわけで、その辺の事情は、世の中に出ていく新進作家の境地と捉えることもでき、ある意味、サクセス・ストーリーみたいな感じで読むこともできる。俺もがんばらにゃあと思わせる。内容は暗いが元気が出る(かもしれない)。
★★★☆
by chikurinken | 2013-10-23 07:34 |

『フェリックスとローラ』(映画)

b0189364_8524925.jpgフェリックスとローラ(2000年・仏)
監督:パトリス・ルコント
脚本:クロード・クロッツ、パトリス・ルコント
出演:シャルロット・ゲンズブール、フィリップ・トレトン、アラン・バシュング、フィリップ・デュ・ジャネラン

オリジナリティあふれる恋愛映画

 前にも書いたが、7年前に一度見てその後見たことすらも忘れていたという映画。先の予告通り、今回もう一度見た。
 今回見直して感じたのは、(手前味噌だが)前に書いた評は割合適切であったということで、今回も非常に似たような感想を持った。前回の評ではほとんど内容に触れておらず、なんだか奥歯にものがはさまったような記述だったが、それはこの映画がストーリーを重視した映画であるためだということもあらためて確認した。ストーリーに極力触れていなかったために、後で評を見ても内容をまったく思い出せないということにつながったわけだ。もちろんルコント作品であるため、ストーリーだけでなく情緒面でも見所が多いが、全体的にミステリー風に話が進むので、まあここでもストーリーは披露しない方がよかろうと思う。
 シャルロット・ゲンズブールが「謎の女」を演じているが、これが素顔の彼女とまったく違うキャラクターで、そういう意味でもゲンズブールの好演が光り、非常に魅力的である。それから舞台になっている移動遊園地も良い雰囲気を出している。途中まで(緊張を強いられ)なかなかシンドイ展開だったが、試聴後感は非常に良い。「謎の女」が出てくることから想像がつくが、やはりルコントらしく男目線の映画である。ただ、他のルコント映画のようなエロ視線はあまりない。あくまで情緒的な恋愛映画にとどまっていて、その辺も見た後の心地よさにつながっているのかも知れない。
★★★☆

 以下、前回の評(再掲)。
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(2006年12月13日の記事より)
フェリックスとローラ(2000年・仏)
監督:パトリス・ルコント
脚本:クロード・クロッツ、パトリス・ルコント
出演:シャルロット・ゲンズブール、フィリップ・トレトン、アラン・バシュング

 恋愛ドラマだが、さすがはルコント、一筋縄ではいかない。なかなかミステリアスに話が進行していく。精神的に少し緊張感を強いられるが、それでも話は淡々と進む。
 シャルロット・ゲンズブールのメークがスゴイ(サイレント映画の登場人物のようにシルエットを強調したかったらしい)が、時折見せる笑顔がなかなか魅力的。劇中でも「笑顔が良い」と周りに言われているが……。
 恋愛ドラマを見たくてこの映画を見たのだが、期待していた方向性とは少し違っていた。それでも十分見応えがある佳作であった。
★★★☆

追記:『仕立て屋の恋』も見直してみたが、こちらは前の評で必要十分である。あれ以上書いてしまうとネタバレになる。ストーリーが非常に重要な映画だからネタは極力仕込まないで(先入観なしで)見ることをお奨めします(75分程度の中編映画なので見る上であまり負担はないと思う)。

参考:
竹林軒出張所『仕立て屋の恋とフェリックスとローラ(映画)』
竹林軒出張所『髪結いの亭主(映画)』
竹林軒出張所『親密すぎるうちあけ話(映画)』
竹林軒出張所『橋の上の娘(映画)』
竹林軒出張所『暮れ逢い(映画)』
竹林軒出張所『歓楽通り(映画)』
竹林軒出張所『ぼくの大切なともだち(映画)』
竹林軒出張所『イヴォンヌの香り(映画)』
竹林軒出張所『ジェイン・エア(映画)』
by chikurinken | 2013-10-22 08:54 | 映画

『地上5センチの恋心』(映画)

地上5センチの恋心(2006年・仏、ベルギー)
監督:エリック・=エマニュエル・シュミット
脚本:エリック・=エマニュエル・シュミット
出演:カトリーヌ・フロ、アルベール・デュポンテル、ジャック・ウェベール、ファブリス・ミュルジア

問題を残したままで終わった映画
すべてを解決して終わらせるのが筋だと思うが


b0189364_8195198.jpg 『ノッティングヒルの恋人』を思わせるような単純なストーリーの映画で、ある小説家(男)の熱烈なファンの女性(主人公)が、その作家と近づきになるという話。ストーリー自体は面白味に欠けるし、少々バカっぽい話だが、この女性が周りの人間を幸せにしていくという展開はなかなか心持ちが良い。また、映像にも随所に工夫が見られる。途中ミュージカル風に展開していくのも楽しい。
 ただ結末には納得がいかない。主人公から見ればハッピーエンドだが、劇中に提示されたすべての問題が解決して終わっているわけではないため(小説家の家族は一体どうなったのか。まるで存在しなかったかのような終わり方で、このままだとこの後修羅場が出てくるんじゃないか)なんだかモヤモヤした終わり方になっている。アマゾンのDVD紹介ページを見ると、この映画を高く評価している人が結構いるみたいだが、このあたりはどうやって折り合いを付けたんだろうか、大いに疑問が残る。
★★★
by chikurinken | 2013-10-21 08:20 | 映画

『マルタのやさしい刺繍』(映画)

b0189364_855664.jpgマルタのやさしい刺繍(2006年・スイス)
監督:ベティナ・オベルリ
原案:ベティナ・オベルリ
脚本:ザビーヌ・ポッホハンマー
出演:シュテファニー・グラーザー、ハイジ・マリア・グレスナー、アンネマリー・デューリンガー、モニカ・グブザー

丁寧に作られた老人映画

 スイスの田舎町が舞台。夫を亡くして立ち直れないマルタお婆ちゃんが、あるきっかけでかつての夢を叶えることを思い立ち、人生に前向きに立ち向かえるようになるという話。もちろん途中さまざまな障害が現れて危機に陥るが、いろいろな力や助けを得ることでそれを超えていく。ある意味パターン化された展開で、多少予定調和の感はあるが、全体によくまとまっていて、安心して見ていられるような映画である。
 世間から虐げられる立場にある人々(特に老人)の逆襲という意味合いもあって、弱者に対する応援メッセージになっている。弱い立場の人々が幸福を求めて未来を切り開いていく姿は一般的に受け入れやすいもので、見ている側も応援したくなる。そういう意味でも、見た後は爽快感が残って気持ちの良い作品である。
 老人の映画やドラマもいくつかあるが、どちらかと言うと「老い」自体を問題にしたようなものが多く、老人が何かを作っていくというものはあまり記憶にない。一方で主人公が何かを作っていき世間をあっといわせる映画は結構あり、この映画のミソは老人をそういう位置に据えたという点にあるのかなと思う。そのため目新しさはあまりないが、丁寧に作られていて破綻もなく、ストーリーにもうまく起伏を作っているため、優良な映画と言える。スイスの田舎町の映像も美しく、観光した気分も味わえる……かな。そういう点では劇場向きだったかも知れない。
★★★☆

追記:登場する老女優の皆さんは、どれも名優だそうで、日本で言えば杉村春子とか乙羽信子とかのクラスになるんだろうか。そう言えば杉村春子と乙羽信子が出た老人映画(『午後の遺言状』)もあったが、あれはつまらなかった。老人映画を作るんなら、いっそのことこの映画のストーリーを拝借してしまえばどうだなどとも考えてしまうが、残念ながら杉村さんも乙羽さんもすでに鬼籍に入っていたんだった。

参考:
竹林軒出張所『喜劇 にっぽんのお婆あちゃん(映画)』
竹林軒出張所『野いちご(映画)』
竹林軒出張所『ながらえば(ドラマ)』
竹林軒出張所『極楽家族(ドラマ)』
by chikurinken | 2013-10-19 09:10 | 映画

『アメリ』(映画)

アメリ(2001年・仏)
監督:ジャン=ピエール・ジュネ
脚本:ジャン=ピエール・ジュネ、ギョーム・ローラン
撮影:ブリュノ・デルボネル
特殊効果:イヴ・ドマンジュー
衣装デザイン:マデリーン・フォンテーヌ
音楽:ヤン・ティルセン
出演:オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ、ヨランド・モロー、ジャメル・ドゥブーズ、イザベル・ナンティ、ドミニク・ピノン

b0189364_5572360.jpgおもちゃ箱みたいな楽しさ
まさに映画の「新しい波」


 人と接するのが異常に苦手な年頃の女性、アメリの周辺で起こる出来事、そしてアメリが起こすさまざまな出来事の話。基本はアメリの成長譚で、恋愛映画の範疇に入る。
 人物設定は少しややこしく、ストーリーも少しもつれていてやや複雑。さらに、次々に繰り出されるエピソードも斬新で奇想天外。であるため、見ていて飽きるなどということがなく、正直めまぐるしく話が推移するので、ついていくのがやっとという面もある。演出もアニメやコミックみたいな要素を意図的に入れていて斬新でなおかつ洗練されている。音楽や美術、衣装も水準が高く、よくこれだけいろいろなものを高い水準で集めたものだと感心する。中でも一番斬新だったのは撮影で、やたら動き回るカメラが意外性のある絵を生み出していて、あるシーンでは気分を高揚させる働きを果たし、別のシーンでは官能的な絵作りもある(エロシーン以外に)。意図が明確で外れがないので、見ていてとても心地良い。非常に感心した。
 とにかく何度も言うがいろいろな面が斬新で、今までの映画表現と少し違った新しい次元に進んているような印象すら持った。この映画が1つのエポックになっているような気さえする。前に見たときも表現の仕方やエピソードに感心したが、今回はそれを上回る発見があった。ちなみに今回、1回見た後、翌日にもう1回見たんで計3回見たことになる。ストーリー展開が少しだけまとまりがなかった部分があったが、それ以外はもう言うことがない。これだけお客を喜ばせてくれる映画に文句を言えるはずもない。
 僕がこの映画で特に「好きなもの」は「いろんな登場人物の好きなものと嫌いなものが表明されること」や「小人の人形が世界を旅するエピソード」。それから「アメリの素敵な表情」。アメリを演じるのはオドレイ・トトゥ。この映画が出世作で、今や大女優と言える。ココ・シャネルも魅力的だった(竹林軒出張所『ココ・アヴァン・シャネル(映画)』参照)。
2001年セザール賞作品賞、監督賞、音楽賞、美術賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『ココ・アヴァン・シャネル(映画)』
by chikurinken | 2013-10-18 05:58 | 映画