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竹林軒出張所

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『神様のベレー帽』(ドラマ)

b0189364_7561924.jpg神様のベレー帽(2013年・関西テレビ)
演出:三宅喜重
原作:宮﨑克
脚本:古家和尚
出演:草彅剛、大島優子、佐藤浩市、岡田義徳、眞島秀和、浅利陽介、又吉直樹、小日向文世

なんだかパッとしない
無理矢理な展開のドラマ


 手塚治虫が『ブラックジャック』を描いていた頃のエピソードをまとめたドラマ。原作は『ブラック・ジャック創作秘話〜手塚治虫の仕事場から〜』。
 秋田書店の新人編集者が、1973年にタイムスリップするという安直にもほどがあるストーリーでドラマは展開する。新人編集者を演じるのはAKBの大島優子で、なんだかパッとしない。ひどくはないがなんだか拙い(大島優子って人、よく知らなかったので、見ているときは冴えない女優だなーくらいの印象しかなかった)。一方手塚治虫を演じるのは草彅剛だが、手塚治虫にも似てないし、こっちもあんまりパッとしない。
 当時のエピソードが出てきて興味深い箇所も多かったが、どうも手塚を神様にしたいというような意図が見えて少々うんざりする。どこか無理矢理な印象が漂う。無理矢理で強引な印象はタイムスリップものにしてしまうというあたりにも窺われる。こんなに強引に話を展開させると、製作者の意図があけすけになってしまってとても白けてしまう。素材が割合面白いんだから、そのまま当時を再現しながら自然に流せば、よほどひどい演出でない限りちゃんとしたものができると思うんだけどなー。下手な装飾はかえって素材をダメにするという好例で、実に安易なドラマになってしまった。
★★★

追記:
 このドラマでは、『ブラックジャック』の頃、手塚治虫が落ち目だったというような表現が出てきたが(他の番組でも出てきたりする)、当時の子どもの感覚(少なくとも僕と僕の周辺の感覚)ではあまりそういう感覚はなかった。手塚本人や編集者側はどう考えていたか知らないが。
 実際当時『少年チャンピオン』を毎週読んでいたが、手塚の連載が始まることに違和感もなかったし、4回限定というパターンもそんなに珍しくなかったと記憶している。

参考:
竹林軒出張所『手塚先生、締め切り過ぎてます!(本)』
竹林軒出張所『手塚×石ノ森 ニッポンマンガ創世記(ドキュメンタリー)』
(こちらは太田光が手塚を演じていたが、これも随分奇妙だった。)
by chikurinken | 2013-09-30 07:57 | ドラマ

『落窪物語 マンガ日本の古典2』(本)

b0189364_875683.jpg落窪物語―マンガ日本の古典 (2)
花村えい子著
中公文庫

「やられたら10倍返しだ」
        by 右近の少将


 『落窪物語』までマンガ化しちゃったのというような、ある意味、このシリーズきっての異色作。『落窪物語』は『源氏物語』や『枕草子』に比べてネームバリューがないため世間ではあまり知られていないが、ストーリーがよくできた古典文学作品である。
 美しい姫君(落窪の君)が継母に虐げられ侮辱されいじめられるが、やがて身分も高く麗しい容姿の男(右近の少将)が、彼女を愛しそして不幸な境遇から救い出すという話。しかもその後、この男、継母たちに手痛いしっぺ返しをこれでもかというほど喰らわせる。まさに「10倍返し」で、読者の鬱憤をさんざっぱら晴らしてくれる。
 ストーリーの骨子は比較的単純な復讐譚であり、よく似た話は、洋の東西を問わずあちこちにある。今でも小説やドラマで頻繁に同じようなストーリーが使われるほどだが、この『落窪物語』が10世紀末に書かれたことを考えると驚きで、ある意味、元祖と言っても過言ではないかも知れない(おそらく中国にこの話のネタ元があったんじゃないかと容易に想像できるが)。
 さて本作では、この『落窪物語』を花村えい子という作家がマンガ化しているが、絵が非常に優美で、実に良い雰囲気を作り出している。そもそもが少女マンガ的なストーリーなんで、この作家の少女マンガ的な絵は非常に合っている。原作の隅から隅までマンガにしたわけではないようだが、全体的にうまくまとめられていて、まったく過不足ないという印象である。何より、時代背景、習慣、衣装、建築物などが丁寧かつ美しく描かれていて、当時の風俗が実に見事に再現できているところが特筆ものである。あの時代に迷い込んだかのような錯覚すら覚えるほどだ。そういう意味でも、非常に質の高い翻案マンガと言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『源氏物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『春色梅児誉美 マンガ日本の古典31(本)』
竹林軒出張所『御伽草子 マンガ日本の古典21(本)』
竹林軒出張所『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9(本)』
竹林軒出張所『好色五人女 マンガ日本の古典24(本)』
竹林軒出張所『徒然草 マンガ日本の古典17(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』
竹林軒出張所『平家物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『吾妻鏡(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『太平記(上)(中)(下)(本)』
by chikurinken | 2013-09-28 08:08 |

『マンガ古典文学 方丈記』(本)

b0189364_8183975.jpgマンガ古典文学 方丈記
水木しげる著
小学館

最上級の『方丈記』ガイドブック

 『マンガ古典文学』は、小学館が今年から刊行しているシリーズで、「小学館創立90周年記念企画」ということになってる。中央公論社の『マンガ日本の古典』シリーズに対抗したのかどうかは知らないが、似たような企画であることは確か。ただ現在刊行が予定されているのは全9巻(そのうち6巻が刊行済み)で、その点中央公論(全32巻)に比べるとチト寂しい。作家陣は、水木しげるの他、里中満智子、長谷川法世、花村えい子、黒鉄ヒロシが両方のシリーズで共通するんだが、ってことはやはり中央公論のシリーズを多分に意識したものではないかと推測できる。
 今回取り上げたのは水木しげるによる『方丈記』である。『方丈記』は、災害の記述が多いということで昨今注目を集めているが、個人的にはあまり関心がない。だがまあ水木しげる作ということで、そういう面で期待して読んだわけだ。それに水木サンは、先の戦争のとき(召集されたとき)に『方丈記』をよく読んでいたというくらい『方丈記』に入れ込んでいたらしいし。
 当然のことながらマンガ形式になっていて、水木しげるを模した人物が『方丈記』のストーリーに適宜登場し、『方丈記』の作者である鴨長明と対話したりするんで、純粋に『方丈記』をマンガ化したものではない。また、『方丈記』には記述されていない、当時の社会情勢や鴨長明自身の背景なども加えられている。だがだからといって原作の味を損ねるものではなく、結果的に『方丈記』の内容が非常にわかりやすいものになっている。そういう点で『方丈記』入門としては恰好の素材である。また、巻末に『方丈記』全文が(古文で)掲載されていて、僕はこれも読んでみたが、マンガ版を読んだ後だったこともあり、古文でありながら普通にスラスラ読めるんで大層驚いたんである。それに『方丈記』自体が意外に短いことも今回あらためて認識することになった。さらにこのマンガが『方丈記』全体を完全にカバーしていたことも(原作を読むことによって)あらためて知ったのである。というわけで、これ一冊で『方丈記』入門から読破までこなすことができ、しかもその背景まで理解することができるということで、最上級の『方丈記』ガイドブックになっているのだった。
 作画は、水木作品ということで手抜きはなく、質は高い。中央公論のシリーズに『方丈記』が入っていないことを考え合わせると、あのシリーズを補完するものと考えてもよいと思う。なお、この小学館のシリーズ、小学館のホームページで一部「試し読み」ができるようになっていて、いくつか試し読みしてみたが、花村えい子の『源氏物語』がグレードが高そうで興味を引かれた。『伊勢物語』は作品自体には興味があるが、黒鉄ヒロシのマンガがちょっと読むに堪えないという印象である。
★★★★

参考:
小学館『マンガ古典文学 全9巻』
竹林軒出張所『マンガ古典文学 源氏物語 (上)(中)(本)』
竹林軒出張所『マンガ古典文学 古事記 壱(本)』
竹林軒出張所『徒然草 マンガ日本の古典17(本)』
竹林軒出張所『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第1巻、第3巻、第4巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第2巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『猫楠(本)』
竹林軒出張所『総員玉砕せよ!(本)』
竹林軒出張所『敗走記(本)』
竹林軒出張所『白い旗、姑娘(本)』
by chikurinken | 2013-09-27 08:19 |

『徒然草 マンガ日本の古典17』(本)

b0189364_801922.jpg徒然草―マンガ日本の古典 (17)
バロン吉元著
中公文庫

『徒然草』全243段を忠実に再現!

 これも中央公論社の『マンガ日本の古典』シリーズの一冊で、原作は『徒然草』。『徒然草』は若い頃からわりに興味があって文庫本も買っていたが、なかなか古文を読もうという気にならず、長い間本棚の中で埃をかぶっていた。このシリーズに『徒然草』があるのは知っていたが、表紙の顔(吉田兼好)が少々気持ち悪いので手を出さずにいた。だが、最近このシリーズのマンガをまとめて数冊買ったこともあって、いよいよ『徒然草』にアプローチするときが来たと言うわけ。
 で、ページを繰ってみると、なんと『徒然草』の全243段がマンガ化されている。僕はてっきり、面白い箇所だけをピックアップして、いわばダイジェスト風にまとめたものかと思っていたが、とりあえずすべての段を網羅している。読んでいくと「後醍醐天皇が嫌い」などという記述があって、こんなのが『徒然草』にあったかしらんと思って原典に当たってみたが、さすがにこういう記述はない(天皇が嫌いなんて現代ならいざ知らず、鎌倉、室町期にあるとは思えないし)。この辺は著者、バロン吉元の解釈らしい。だが全体的に原作の記述がかなり忠実に再現されていることがわかる。そこら辺を確かめるために、途中から古典版の『徒然草』も併読しながらこの本を読むようになった。おかげで読むのにかなり時間がかかったが、『徒然草』もほとんど完読できたというおまけが付いた。
 『徒然草』は段によっては2、3行程度で終わっているものもあるが、そういうところはマンガでも1コマあるいは2コマで終わるという念の入りよう(というかそのままだが)で、おかげでまったく面白味が感じられない箇所もある。が、それも原作を忠実に翻案しているせいであって、原作自体、何が面白いのかわからない箇所が割にあり、ただのメモみたいな部分も結構ある。だから、古典の翻案という意味では非常によくできていると言える。そもそも随筆をマンガ化するということ自体無謀と言えば無謀である。その辺を考え合わせると相当な意欲作とも言え、絵も非常に丁寧に描かれている。第152段から154段に登場する日野資朝は強烈なキャラクターだが、マンガでは薄気味悪く描かれていて、こちらも強烈。内容に沿ってキャラクター設定をしているあたりもなかなか腕力を感じさせる。
 作者のバロン吉元と言えば、昔、少年サンデー(だったか)に連載されていた『黒い鷲』(飛行機で凱旋門をくぐることを目指すというようなストーリー)の印象くらいしかないが、『黒い鷲』を読んだときに感じた以上の技量を今回感じた。この『マンガ日本の古典』シリーズの質の高さをあらためて感じた一冊だった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『マンガ古典文学 方丈記(本)』
竹林軒出張所『吾妻鏡(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『平家物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『太平記(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『御伽草子 マンガ日本の古典21(本)』
竹林軒出張所『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9(本)』
竹林軒出張所『源氏物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』
竹林軒出張所『春色梅児誉美 マンガ日本の古典31(本)』
竹林軒出張所『好色五人女 マンガ日本の古典24(本)』
by chikurinken | 2013-09-25 08:01 |

『吾妻鏡(上)(中)(下) マンガ日本の古典14、15、16』(本)

b0189364_7373080.jpg吾妻鏡(上)―マンガ日本の古典 (14)
吾妻鏡(中)―マンガ日本の古典 (15)
吾妻鏡(下)―マンガ日本の古典 (16)
竹宮恵子著
中公文庫

イイクニできたか鎌倉幕府

 『吾妻鏡』は鎌倉幕府の公用記録書である(本書冒頭に記述)。原作は全52巻の大著で、この『マンガ日本の古典』では3巻にまとめられている。著者は『風と木の詩』、『地球へ……』の竹宮恵子。
 『吾妻鏡』は、源頼朝挙兵から13世紀中頃までを編年体で記述した書だということだが、このマンガ版は実質的に承久の乱(1221年)までである。また、どうしても源平合戦、鎌倉幕府の経営が話の中心になるため、源頼家暗殺、北条時政失脚以降は、それ以前に比べると少々急ぎ足である。それでも和田の乱や実朝暗殺については丁寧に描かれているためわかりやすい。著者によると、「もっと時間とページがあったなら」(「あとがき」より)ということで、そのあたり致し方なかったのだろうと思う。
b0189364_7391810.jpg 著者の竹宮恵子は、以前から源実朝に興味があったらしく、中央公論からこの企画が持ち込まれたときも、割り当てられていた『土佐日記』を断って『吾妻鏡』を選んだらしい。そういう思い入れがあったためか手抜きは一切感じられず、人物の描きわけなどもよくできていて、質の高い歴史戦記になっている。時代的にこの前に来るのが『平家物語』、後に続くのが『太平記』ということになるが、どちらもこの中央公論のシリーズに入っていてそれぞれ3巻構成でマンガ化されている。竹宮版『吾妻鏡』は、他の2冊とテイストは多少違うが、内容充実で、まったく遜色はない。古典としてのアプローチだけでなく、歴史の再認識という点でも大いに役立つ書である。
 それにしても鎌倉幕府内の粛正合戦はすさまじい。今回初めて知ったことも多く、ある意味、フランス革命並みの殺戮合戦とも言える。で、こうして振り返ると、北条氏が150年近く支配できたのも、必然的なものというより偶然によるところが多いように思う。こうしてまとまった形で提示されることで、歴史の勉強ではなかなか見えてこないことが見えてきたりするので、そういう点でもこのマンガシリーズは良い。研究者でもない限り、『吾妻鏡』を全巻読み通すなんてことはなかなかないからね。読んで良かったと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『平家物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『太平記(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『徒然草 マンガ日本の古典17(本)』
竹林軒出張所『マンガ古典文学 方丈記(本)』
竹林軒出張所『御伽草子 マンガ日本の古典21(本)』
竹林軒出張所『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9(本)』
竹林軒出張所『源氏物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』
竹林軒出張所『春色梅児誉美 マンガ日本の古典31(本)』
竹林軒出張所『好色五人女 マンガ日本の古典24(本)』
by chikurinken | 2013-09-24 07:39 |

『好色五人女 マンガ日本の古典24』(本)

b0189364_8594074.jpg好色五人女―マンガ日本の古典 (24)
牧美也子著
中公文庫

少女マンガ風のラブロマンスで終始

 井原西鶴の『好色五人女』をマンガ化したもの。「但馬屋お夏」、「八百屋お七」、「大経師暦屋おさん」、「樽屋おせん」、「琉球屋お万」の5本立てで、西鶴の『好色五人女』に準じている。タイトルに「好色」がついているからといってもポルノというわけではない。恋愛に一途な人たちのことを「色好み」と呼んでいるだけのことで、ポルノを期待して読むとガッカリする。どの話も元々は実話で、それを西鶴が書き起こしたものが原作ということになる。もっとも個人的には、どの話もストーリー面で惹かれるところはあまりなかった。
 マンガは非常に流麗に書かれていて、ティーンエイジャー向けの少女マンガというような趣である。主人公の男女はどれも八頭身でバタ臭い美男美女。江戸時代の日本人とは思えない。まあそれはそれで良いが、どの話もこういう人ばかり出てきて、好いた惚れたの話になりドロドロの展開で終わるというパターンで少々辟易する。ラブロマンスが好きな人には面白いかもしれないが、どれも似たような話に思え(実際はストーリーはそれぞれで大分違うんだが)、僕自身はあまり楽しめなかった(原作の話をよく翻案できているんじゃないかとは思うが)。
★★★

参考:
竹林軒出張所『春色梅児誉美 マンガ日本の古典31(本)』
竹林軒出張所『落窪物語 マンガ日本の古典2(本)』
竹林軒出張所『源氏物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『御伽草子 マンガ日本の古典21(本)』
竹林軒出張所『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9(本)』
竹林軒出張所『徒然草 マンガ日本の古典17(本)』
竹林軒出張所『平家物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『吾妻鏡(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『太平記(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』
by chikurinken | 2013-09-23 09:00 |

『好色一代男』(映画)

b0189364_7525714.jpg好色一代男(1961年・大映)
監督:増村保造
原作:井原西鶴
美術:西岡善信
出演:市川雷蔵、若尾文子、中村玉緒、船越英二、水谷良重、近藤美恵子、中村鴈治郎

豪華な食材を集めはしたが
砂糖だけで味付けしてしまった


 井原西鶴の『好色一代男』を映画化したものということだが、原作の味がどの程度活かされているのかはわからない。ストーリーはある程度踏襲されているようだが、きわめてご都合主義的でつまらない。いっそのこと、ディテールの部分を再現してくれたらまだ面白くなったかもしれないが、少なくともこの映画にはあまり見るべきところはなかった。
 唯一の救いはセットであり、すごく豪華である。これは今どきのドラマや映画ではなかなか再現できないもので、当時の映画界の威勢を感じさせる。だが演出はいただけない。何が問題なのかはにわかにわからないが、随所にへまな箇所が出てきて、見ているとなんだか気分が重くなる。監督は増村保造で、この人が監督した『青空娘』なんかを見ていると、後の大映テレビ(いわゆる大映ドラマ)の臭い演出を思い出すほどで、この人が大映ドラマの(臭い演出の)基盤を作ったんじゃないかと感じてしまう(実際、映画監督を辞めた後も大映ドラマに関わっていたようだ)。
 いずれにしてもこの映画、美術もキャストも贅沢だが、どうにも食えない映画になってしまっている。アマゾンをはじめ、あちこちで絶賛する向きがあるんで今回この映画を見てみたんだが、僕の感覚からいけば肯定できるような箇所がほとんどない映画で、アマゾンの批評は少なくとも映画についてはあてにならないなということを思い知らされた。先の『青空娘』もアマゾンで絶賛されていたんで借りて見てみたんだが、こちらはもう苦笑するしかないような脚本、演出で、こういう映画が賞賛されていること自体まったく納得がいかない。
★★☆
by chikurinken | 2013-09-21 07:55 | 映画

『お盛んすぎる 江戸の男と女』(本)

b0189364_7511966.jpgお盛んすぎる 江戸の男と女
永井義男著
朝日新書

誇張しすぎじゃねーか?

 江戸の性がおおらかだってのは、春画を見れば大体想像が付くが、この本に書いていることが本当だったかは少々疑問。
 この本では、江戸の性について「素人の部」と「玄人の部」に分けて解説している。で、「玄人の部」の方は参考文献も示されていることが多くおおむね想定内だったが、「素人の部」の方はちょっと極端な事例が多く、ほんまかいなと思うことが多かった。たとえば「女は15、6歳で性体験」とか「夜這いは、し放題」とか、いやいやもちろんそういうケースもあっただろうが、極端な事例(文献など)を引っぱってきてそれが一般的であるかのごとく書くのはどうよと思う。それにその原典が春画や物語と来れば、本当にそれでいいのかと問いたくなる。
 たとえば、後の時代になって今の日本の性風俗を分析するときに、ポルノ雑誌やAVを原典にして、それが社会風俗のすべてであるかのように扱うのがまずいというのは明らかだろう(「平成の世では顔射が流行したせいで少子化が進んだ」みたいな記述があったらヲイヲイと思うだろう)。いくら文献に書いているからといって、それをそのまま一般化するのはまずいんじゃないか……とまあ、そういうことを考えてしまう本であった。内容的には、江戸性風俗百科みたいになっていて、それなりに楽しめるものではあった。特に岡場所(遊郭)の仕組みなんかは、非常に丁寧に解説されており、落語で聞いて知っていた風俗の裏付けになった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
by chikurinken | 2013-09-20 07:52 |

『ウホッホ探険隊』(映画)

ウホッホ探険隊(1986年・NCP=ディレクターズ・カンパニー=日本テレビ)
監督:根岸吉太郎
原作:干刈あがた
脚本:森田芳光
撮影:丸池納
出演:十朱幸代、田中邦衛、村上雅俊、本山真二、藤真利子、時任三郎、斉藤慶子、陣内孝則、津川雅彦、速水典子、柴田恭兵、加藤治子

b0189364_7531480.jpg前に見たときと印象が変わった

 干刈あがたの同名小説が原作の映画。監督根岸吉太郎、脚本森田芳光と、当時としては非常に豪華なスタッフである。監督は根岸吉太郎だが、随所に森田芳光風の演出や映像があり、それになんだか間の取り方も森田風で、もしかして演出面でも口を出しているのかと思ってしまうような作品。一方で全体的に非常に手堅い演出で、その辺が根岸風かと思わせる。
 ストーリーは夫婦の離婚を扱ったもので、夫の不倫、妻の離婚決意、子どもたちの逡巡といったものが淡々と描かれる。前に紹介したドラマ、『風にむかってマイウェイ』の数年前みたいな状況で、それぞれの作品が続きものだと考えても差し支えない……と思う。
 映画は、原作をかなり端折っているという印象だが、それでもセリフの1つ1つに重みがあって、映画は映画で1本の作品としてでき上がっている。いかにも小品的ではあるが味があって良い。また主役の十朱幸代が非常に魅力的で(当時43歳)、非常に好演。時任三郎、陣内孝則、柴田恭兵などの主役級の俳優がチョイ役で登場し、津川雅彦はテープの声だけというのも、なんだか森田芳光風の趣向である。
 前回公開直後に見たときはあまりピンと来なかったが、今回は主人公の(親側の)目線に同化したせいか、随分感じるところがあった。年や経験に負うところが大きいんだろうが、前に見たときと印象が全然違っていて、「あー、そういうことってあるんだなー」と考えたのだった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『風にむかってマイウェイ(ドラマ)』
竹林軒出張所『森田芳光の映画、3本』
by chikurinken | 2013-09-18 07:54 | 映画

『本当は怖い昭和30年代 〜ALWAYS地獄の三丁目〜』(本)

b0189364_10212711.jpg本当は怖い昭和30年代 〜ALWAYS地獄の三丁目〜
鉄人社

事実誤認や悪意による記述が多く
途中でうんざりする


 映画『ALWAYS 三丁目の夕日』のキャッチフレーズ(「携帯もパソコンもTVもなかったのに、どうしてあんなに楽しかったのだろう」)が嘘臭いというのも賛同するし(過去このブログでもさんざん書いているし)、今考えるとあの時代ひどい面が多かったというのも同意するが、ウソを書いちゃいけない。
 前半はまあよく書けていて、昭和30年代生まれとしてはなつかしいと思う箇所も多かった(「ジュースの添加物」とか「学校の体罰は当たり前」、「個人情報がダダ漏れ」とか)が、特に後半は、国の統計データを参考にして文章をでっち上げましたというようなデタラメな記述が多い。いや必ずしもデタラメとは言えないかも知れないが、当時の空気とちょっと違うというか、知りもしないでええ加減なこと言うなと言いたくなるような記述が頻繁に出てくる。そういう点で結構ツッコミどころが多く、意図的に過去の時代を貶めているような箇所も多い。世代間の対立を煽りたいのかしらんが、上の世代に対する悪意も随所に見られる。
 たとえば、昭和30年代が暴力的で殺人が非常に多かったというような記述が結構見られるが、確かに30年代の初めの方はまだ戦争の傷痕があちこちに残っていたため治安が悪かったと聞く。だが30年代後半は、治安の面ではその後の時代とそれほど違うという感覚はない(もちろんここ20年ほどの日本がかつてないほど治安が良いのは確か)。だから一概に30年代ですべてをくくってもらっても困ると思う。昭和35年くらいを境に日本は大きく変わっているのだ。
 また東京-大阪間の移動に7時間かかっていて、今の「約3倍に近い時間を異動で消費させられていた」という記述があったりするが、そもそもそんなに頻繁に東京-大阪を往復するようなこともなかったし、それが普通であれば不便と感じることもない。風呂だって、内湯がないのが当たり前であれば、銭湯に行くのが普通でそれを不便と感じるようなことはない。今の感覚で、過去の人が不便を感じていたと考える(またはそういうような記述をする)のは誤りである。タイムマシンで過去に行くわけじゃないんだから。
 こんな調子で事実誤認やおかしな感覚が随所に見られるのが本書の特徴である。正直少し安直で愚かしい本という印象を持った。どこか週刊誌風の扇情的な雰囲気もある。30年代は社会制度が立ち後れていて弱者の切り捨てが平気で行われていた点や、力を持つ人間が環境を好き勝手にいじくり回すことができた点が最大の問題なんであって、自動車やテレビがないから、海外旅行に行けないから不便だとかいう議論はまったくもってトンチンカンである。ただ、この本で当時のことをいろいろと思い出すことも多かったわけで、そういう面はそれなりに評価できるが、内容のいい加減さを考えると総体としては到底容認できない……という、そういう本である。
★★☆

追記:悪意のある週刊誌なんかで今の中国の社会がいろいろ言われていたりするが、当時のことを振り返ると昔の日本と今の中国とそんなに変わりないじゃないかとも感じた(毒入り粉ミルク、農薬だらけの野菜、危険物の垂れ流し、ゴミの散乱など)。とかく偉そうなことを言う日本人もいるが、発展途上にある地域はどこも似たようなものなんである。喉元過ぎて熱さを忘れるようじゃ人間進歩ないよと、あの人たちに向けてここに書いておきます。

参考:
竹林軒出張所『レトロにもほどがある -- ALWAYS 三丁目の夕日(映画)』
竹林軒出張所『潮風の町(本)』
by chikurinken | 2013-09-17 10:23 |