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竹林軒出張所

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『栄光の旗』(ドラマ)

栄光の旗 前編・後編(1965年・TBS)
演出:橋本信也
脚本:笠原和夫
出演:鶴田浩二、岸田今日子、千葉真一、南宏、関口銀三

通り一遍のドラマだが、これも希少価値がある

b0189364_7471281.jpg 「TBS開局十周年記念番組」ということでこれも随分古いドラマ。東芝日曜劇場の1本で、今回放送された映像も四隅にブラウン管の丸みの跡が付いていた。ということで、放送時に(誰かが)テレビ放送を8mmフィルムかなんかで撮影したものではないかと推測される。こちらも画像は非常にきれいである(竹林軒出張所『判事よ自らを裁け(ドラマ)』参照)。
 さてこのドラマ、知る人ぞ知るバロン西の後半生を描く作品。バロン西とは、西竹一という軍人で、1932年のロスアンゼルス・オリンピックの馬術競技で金メダルを取った人。当時アメリカで人気が沸騰したらしく、男爵だったこともあって「バロン西」と呼ばれて、ハリウッドの俳優たちとも親交があったという。
 そのバロン西がロスアンゼルス・オリンピックで優勝してから1945年に硫黄島で玉砕するまでを、約2時間のドラマにしたのがこの作品。西を演じるのは、特攻隊の生き残り、鶴田浩二で、妻の武子は岸田キョンキョンが演じる。西のさまざまなエピソードが時系列で出てくるが、テーマが少し曖昧だったこともあって、ドラマとしてはメリハリが少ない。西の描き方は通り一遍で、他人に対しては人情家で妻に対しては亭主関白。そしてそれが肯定的に描かれている。魅力的な西像を作ろうとしているのはわかるが、正直あまり伝わってこない。
 硫黄島での戦闘中に、米軍から「馬術のバロン西、出てきなさい。世界は君を失うにはあまりにも惜しい」という呼びかけがあったというエピソードは期待どおり出てくるが、やはり終始西の生涯をさらっただけという感じで終わってしまった。意欲的なドラマだったかも知れないが、ちょっと空回りしているという印象であった。なおバロン西は、クリント・イーストウッドの映画『硫黄島からの手紙』で伊原剛志が演じているらしい。この映画、見ていないので詳しいことはよくわからない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『判事よ自らを裁け(ドラマ)』
竹林軒出張所『マンモスタワー(ドラマ)』
by chikurinken | 2013-08-31 07:48 | ドラマ

『判事よ自らを裁け』(ドラマ)

判事よ自らを裁け(1961年・TBS)
演出:大山勝美
原作:土屋隆夫
脚本:山田正弘
音楽:一柳慧
出演:佐分利信、加藤嘉、金子信雄、市原悦子、中村雅子、三宅邦子

放送史の彼方に消え去っていたドラマが甦る

b0189364_7284911.jpg 50年以上も前のテレビ創生期のドラマ。この頃のドラマは、生放送部分が混ざっていてフィルム部分と混ぜて放送されていたりするため、映像の形で残っているものは少ない。それを考えると非常に貴重である。今回送された映像の四隅にブラウン管の丸みの跡が付いていたことを考えると、放送時に(誰かが)テレビ放送を8mmフィルムかなんかで撮影したものではないかと推測される。だが、その後おそらくリマスターみたいな作業が行われているようで、画像は非常にきれいである。アーカイブ映像として是非後の世代にも伝えてほしいと思う。
 さてドラマの内容だが、裁判官が主人公の法廷もので、しっかりした演出が目を引く。オープニングタイトルも、当時の安部公房映画を思わせるような凝った作りである。冤罪で死刑判決を出した裁判官の逡巡がテーマだが、ストーリーはどこかで聞いたような話……というかおそらく『私は告白する』に材を取ったものではないかと推測される。ちなみに原作は土屋隆夫って人の短編小説である。
 ストーリーはどこか作り物的な物足りなさはあるが、ドラマとしてはしっかり作られていて好感が持てる。当時のテレビですでにこれだけのものが作られていたことを考えると、「電気紙芝居」などという映画人による(テレビに対する)あざけりはまったく無知のなせる技であるということがわかる。音楽担当が一柳慧というのもすごい。当時のテレビ界のパワーが推し量れるようである。
 なお、今回このドラマを放送したのは、CS(スカパー)のTBSチャンネル2というチャンネルで、最近このチャンネルでは、古典的なドラマを次々に放送している。中にはこのドラマのようにまずお目にかかれないようなものまである。ドラマファンの方は、万難を排して、このチャンネルを(短期間でも良いので)試聴されることをお奨めする。
★★★

参考:
竹林軒出張所『マンモスタワー(ドラマ)』
竹林軒出張所『栄光の旗(ドラマ)』
by chikurinken | 2013-08-30 07:29 | ドラマ

『ホームレス大図鑑』(本)

b0189364_734151.jpgホームレス大図鑑
村田らむ著
竹書房

ホームレスルポ第二弾
本格的な潜入取材が光る


 『こじき大百科』の5年後に出版された同じ著者による「ホームレス」本。こちらは村田らむが単独で書いている。内容は前著とも大きくかぶるが、こちらの方が本としての体裁が整っていて読みやすくなっている。
 こちらも基本は全国のホームレス事情で、大阪(ニシナリ、天王寺)、東京(上野、新宿、隅田川)、名古屋の他、横浜の寿町や川崎も訪れて取材している。取材中は、やはり絡まれたり刃物で脅されたりということもあったらしい。とは言うもののフレンドリーなホームレスも多かったようで、彼らからいろいろな話を聞き出し、ホームレスのあれやこれやに迫ることに成功している。
 本の構成は、各地のホームレス事情を章立てで紹介し、その間に特集記事みたいなものを挿入するというもの。特集記事というのは「ホームレス生活百科」(ファッション、食事、住居、ペット、下半身など)、「ホームレス偉人伝」(尊敬に値するであろう3人のホームレスを紹介)などで、こちらも大変興味深い内容になっている。
 この本で特に目を引いた記事は、ほぼ無一文の状態でニシナリに入って、ホームレスを追体験するという企画である。ドヤ(簡易宿泊所)に泊まって、早朝になるとセンターと呼ばれる建物で手配師と仕事の交渉をしたりするところから始まり、やがて怪しげな屋台の仕事にありついたは良いものの、ひどい待遇で酷使され、最終的に逃亡するに至るというドキュメントである。都合2週間にわたって実際のホームレスと同じような生活を送っており、ちょっとした体験ルポになっている。描写は具体的かつ迫真的で、これだけで1冊の本にしても良いくらいの密度である。
 写真もふんだんに掲載されており、ホームレスの事情がかなり細かくわかるし、シニカルで気の利いたコメントがあちこちに出てきて楽しくもある。そういう意味でもよくできた本であると言える。ホームレスに対する視線は、前の本よりも優しくなっているような印象を受けた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『こじき大百科 にっぽん全国ホームレス大調査(本)』
竹林軒出張所『私、パチンコ中毒から復帰しました(本)』
竹林軒出張所『路上のソリスト(映画)』
by chikurinken | 2013-08-28 07:34 |

『こじき大百科 にっぽん全国ホームレス大調査』(本)

こじき大百科 にっぽん全国ホームレス大調査
村田らむ、黒柳わん著
データハウス

「大百科」の名に恥じない力作だが
ホームレスの「大百科」が必要かは疑問


b0189364_7461925.jpg タイトルは『こじき大百科』だが、実際はホームレスの実態を扱った本。この本によるとホームレスのほとんどはなんらかの仕事をやっているわけで、物乞いの人はあまりいない。そういうわけで厳密には『こじき大百科』ではない。ちょっと狙ってこういう差別的なニュアンスを持つタイトルをつけたんだろうが、本当に物乞いの生態を知りたければこの本では不十分である。
 さて、この本、イラストレーターの村田らむって人とその後輩の黒柳わんって人が、日本各地のホームレス銀座(上野、ニシナリ、名古屋、博多)を訪れ取材した労作である。あるときはテント村に住み込み、あるときは公園にダンボール住居を作りという具合に、結構徹底して調べ上げている。タイトルといい、本の体裁といい第一印象からは軽さが見え隠れするが、実際には綿密な取材に基づいた相当な情報量があり、「百科」というタイトルに恥じない内容の本になっている。
 著者たちの基本的なスタンスは、ホームレスの人々に対して特にポジティブな感情もネガティブな感情も持たないというもので、その点一般人とあまり変わりない感覚である。ホームレスを扱った本を書くからには、彼らに同情的な立場を取って世の中の矛盾を告発するというようなものになりそうであるが、そういった視線は感じられない。興味はあってもあまりお近づきにはなりたくないという立場である。したがって普通に近付きがたさや恐怖も感じている。そうは言っても近付かないことには話は始まらないわけで、(彼らを刺激しないように)隠しカメラを持ってあちこちに出没する。上野ではとうとうテントに泊まらせてもらうところまで行ったが、泊めてくれたホームレスがホモで、あやうくオカマを掘られるところだったというエピソードもある。最終的には自らもホームレスとして上野公園で寝泊まりし、実際のホームレスの生活を疑似体験するんだが、このあたりのルポもなかなか迫真的で読み応えがある。ホームレス達とも積極的に交流したようだが、やはり尊敬に値するような人はあまりいなかったようで、やたら説教する人とか自分の過去をやたら自慢する人(その多くはウソらしい)とかが多いという。そういうのも情けなさやもの悲しさを助長するんだが、一方でいつ死ぬか分からないという現実もある。凍死や殺人も少なくないという。
 基本的に本書は、2人の著者が一緒に取材したり、個別に取材したりしたものをまとめたものだが、この2人、執筆中に仲違いしたようだ。実は著者の片割れの村田らむは、この後もホームレス関連の本を何冊か出していて、それを考えると元々村田らむの企画だったんだろうと思う。全体を貫く醒めた目線があまり楽しくないため、この本ではこの著者についてあまり好意を感じないが、まあだからといって本自体の価値に疑問を挟むのは筋違いってもんである。ただ本の体裁のせいかある意味読みづらさもあった。素材を雑多に集めただけという感じがして、ちょっとまとまりがないという印象もある。内容は濃いが、本としてはあまりデキが良くないかなという印象であった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ホームレス大図鑑(本)』
竹林軒出張所『私、パチンコ中毒から復帰しました(本)』
竹林軒出張所『路上のソリスト(映画)』
by chikurinken | 2013-08-27 07:46 |

『調査報告 日本のインフラが危ない』(ドキュメンタリー)

調査報告 日本のインフラが危ない(2013年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

b0189364_80157.jpg古い橋を渡るのが怖くなる

 NHKスペシャル告発シリーズ(そういうタイトルがあるかどうか知らんが)の1本。テーマは、以前から巷間でさかんに言われていた日本のインフラの危機である。
 橋やトンネルなど、日本のインフラの多くが高度成長期に造られていることから、この何年間かの間にその多くが寿命を迎えている。昨年、笹子トンネルの天井板崩落事故が起こったのは記憶に新しいところだが、それ以外にも全国の橋がすでに崩落の危機を迎えていると言う。行政は、全国の自治体にインフラの調査と対策の号令を出し、自治体もそれに応えて調査しているが、調査の実態はおざなりなもので、数多くの危険なインフラが見逃されているというのが今回の番組の主旨である。
 番組の中では、実際に浜松の橋を土木建築の専門家が検査するんだが、今にも落ちてしまいそうな橋が次々に出てくる。そしてその多くが、少し前に行われた浜松市による検査を問題なしとしてクリアしていたという。もちろん、ことは浜松だけでなく、状況は他の自治体でも同じようなもので、要は自治体の側が、検査自体やその重要性についてよく把握していないということらしい。業者に検査を丸投げしているというのが実態である。
 また一方で、たとえ問題点が見つかっても、実際に修理を業者に依頼する場合、発注側の見積額があまりに少なく、業者の側でも赤字が出るという問題もある。業者側も赤字が出るくらいなら最初から受注しないという構えで、結局今のままだと修理業者自体がなくなってしまうという問題もある。
 現在の自民党政権は公共事業(新規建設)の予算を増額したらしいが、本当に必要なのは新規建設ではなく既存インフラのメンテナンスである。公共事業の予算を増やして、支持者たちにばらまくのは自民党のお家芸だが、何が本当に必要かあらためて考える必要があるという事実を突きつけたのがこの番組で、非常に意識が高い番組と言える。実際に崩壊したインフラの映像は見る者に大きなインパクトを与えるが、こういう映像を中心に据えた演出も巧みであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『非常識な建築業界 「どや建築」という病(本)』
竹林軒出張所『ダム建設中止問題の実在に関する考察』
by chikurinken | 2013-08-26 08:01 | ドキュメンタリー

『春色梅児誉美 マンガ日本の古典31』(本)

b0189364_826936.jpg春色梅児誉美―マンガ日本の古典 (31)
酒井美羽著
中央公論社

江戸期のロマンス本は
超ご都合主義的だった


 江戸後期の人情本、『春色梅児誉美』(しゅんしょくうめごよみ)までがマンガ化されているというのがまず驚き。ちなみに原典の作者は為永春水だが、この春水、天保の改革のときに手鎖の刑を受け、そのショックが尾を引き2年後に死去した。摘発されたのは出版した本の内容がきわどかったせいらしい。
 この『春色梅児誉美』は、人情本というジャンルを切り開いた作品だということだが、そもそも人情本というのがなんだかよく分からないジャンルである。あちらこちらで解説されてはいる(たとえば「庶民の色恋をテーマにした読み物の呼び名」(Wikipedia)など)が、もう一つピンと来ない。ということで今回は『春色梅児誉美』マンガ版を読んでみた。
 で、読んでみると、あまりにご都合主義的なラブストーリーで、安手のロマンス小説に輪をかけたような内容である。たとえば、没落した主人公の若旦那が実は名家の跡取りだったとか、登場人物Aと登場人物Bが実は姉妹だったとか、後出しジャンケンみたいな種明かしが次から次に出てきて、3、40年前の少女マンガもかくやというストーリーで、つい「あほくさ」と思ってしまう。このマンガの著者(酒井美羽)は、そのあたりも意識してか、『春色梅児誉美』を現代風にアレンジし「スプリング・プラム・カレンダー」というマンガ作品(6ページ)を巻末にまとめているが、これがまたものすごーくはまっている。つまり『梅児誉美』もロマンス本や少女マンガと同系なんだっていうことなんだろう。実際、この『梅児誉美』をはじめとする人情本、当時は女性読者が多かったらしく、要は女性のロマンス嗜好は今も昔も変わらないということなんだろう。僕のようなオッサンは、こういうのを読むととたんに白けてしまってまったく受け付けないんだがねー。
 さてストーリーはこういう風にとりたててどうこう言うほどのものではないんだが、作画というかマンガ化については非常に質が高いと言える。全体的に少女マンガタッチで統一されていて、それも『梅児誉美』の味を引き出す役割を果たしているが、作画が非常に丁寧という印象を受ける。ラブシーンもそれなりに入っていて、おそらく原作の味わいをうまく再現できているんじゃないかと思う。少女マンガに慣れていてこういう話に抵抗がない読者であれば、100%受け入れられるんじゃないかというものに仕上がっている。キャラクターの描き分けもよくできているので、途中で混乱するようなこともない。強いて評価を下すなら「マンガ--優、原作--可」ってとこか。万人にはお奨めできないが、それなりに楽しめる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『源氏物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『とはずがたり マンガ日本の古典13(本)』
竹林軒出張所『落窪物語 マンガ日本の古典2(本)』
竹林軒出張所『御伽草子 マンガ日本の古典21(本)』
竹林軒出張所『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9(本)』
竹林軒出張所『平家物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『太平記(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』
竹林軒出張所『日本人なら知っておきたい日本文学(本)』
竹林軒出張所『セクシィ古文(本)』
by chikurinken | 2013-08-24 08:26 |

『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9』(本)

b0189364_7294932.jpg今昔物語(上)―マンガ日本の古典 (8)
今昔物語(下)―マンガ日本の古典 (9)
水木しげる著
中央公論社

古典か? オリジナルか?
水木ワールド全開


 古典も水木サンの手にかかるとこうなってしまうという見本みたいな作である。といってもデキに問題があるというのではなく、全体に水木色が漂うというのか、まったくオリジナルの作品であるかのようなたたずまいである。収録されている話は、上巻が11本、下巻が12本で、原典の『今昔物語』に1000以上の説話が収められていることを考えると、これもスーパーダイジェストの類と言える。ただし先ほども言ったように、これは水木サンによる今昔物語の翻案である。ストーリーはそのまま使っているようだが、そこに大幅な肉付けと味付けを行い、独自の世界を構築している。さながら芥川龍之介の短編のようで、原典とはちょっと違ったテイストがある。
 元々の『今昔物語』は、ストーリーだけを簡潔に紹介したような説話が多く、奇想天外な話なんかもあってバラエティに富んでいる。だからそれをそのまま読んでもある程度楽しめるんだが、しかしこういった作品みたいに翻案すると、また別の楽しみが出てくる。特に水木センセイの場合、妖怪大好きな方であるため、『今昔物語』に入っている妖怪話や不思議な話を中心に翻案しているんだが、これがまさに水木節炸裂という趣になっている。『ゲゲゲの鬼太郎』に登場した妖怪たちも随所に使われていて、たとえば、猫嫌いであるため「ねずみ大夫」と呼ばれている登場人物はネズミ男そのままで(下巻「ねずみ大夫」)、上巻「入れ代わった魂」に出てくる死神は、水木作品常連の死神そのままである。ただし、キャラがそのままであるため、変に奇を衒ったような感じもなく、違和感はない。
 全体的にエロチックな題材が多いのも水木版『今昔物語』の特徴である。たとえば人妻に横恋慕して交接するがイチモツがなくなってしまう話だとか、旅人が大きな大根を自慰に使い射精してしまう話だとか、ま、基本的に大人向けである。子どもに『今昔物語』の世界を楽しませようと思ってこの本を与えたりすると、当初の目的と違った結果になるのは目に見えている。そういう目的で使うのであれば、『コミックストーリー 今昔物語』の方が良かろう。
 どの話も水木サンらしく丁寧に書き込まれていて、どれもグレードが高い。中には芥川龍之介が翻案した『鼻』と『藪の中』もあり、芥川版の翻案と水木版の翻案を比較するのもまたヨシである。『マンガ日本の古典』シリーズからは少々コンセプトが外れているような気もしないではないが、しかしどれも真摯に描かれており、シリーズの他の作より劣っているなどということはまったくない。なかなかの傑作と言える。
★★★★

参考:
古典のマンガ化作品
竹林軒出張所『コミックストーリー 今昔物語(本)』
竹林軒出張所『コミックストーリー 日本霊異記(本)』
竹林軒出張所『御伽草子 マンガ日本の古典21(本)』
竹林軒出張所『落窪物語 マンガ日本の古典2(本)』
竹林軒出張所『源氏物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『とはずがたり マンガ日本の古典13(本)』
竹林軒出張所『春色梅児誉美 マンガ日本の古典31(本)』
竹林軒出張所『平家物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『太平記(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』
竹林軒出張所『日本人なら知っておきたい日本文学(本)』
竹林軒出張所『セクシィ古文(本)』
水木センセイの作品
竹林軒出張所『コミック昭和史 第1巻、第3巻、第4巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第2巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『猫楠(本)』
竹林軒出張所『総員玉砕せよ!(本)』
竹林軒出張所『敗走記(本)』
竹林軒出張所『白い旗、姑娘(本)』
by chikurinken | 2013-08-22 07:30 |

『奥の細道 マンガ日本の古典25』(本)

b0189364_15305443.jpg奥の細道―マンガ日本の古典 (25)
矢口高雄著
中央公論社

矢口高雄の描く芭蕉がイイ!

 『マンガ日本の古典』シリーズの第25巻は『奥の細道』。これをマンガに翻案したのは『釣りキチ三平』の矢口高雄。
 『奥の細道』自体にはそれほど興味がなく、矢口高雄ということでマンガとして期待できるかなと思って今回手に取ってみたんだが、実にすばらしいデキで、おそらくこのシリーズで最高の作と言って良いんじゃないかと思う。
 『奥の細道』は俳人、松尾芭蕉の紀行文だが、江戸を旅立って東北に向かい、今の陸奥、出羽を経由して日本海に沿って南下し、さらに越後、越中、越前を通って江戸に戻るというルートを取っている。この行程をすべて1冊のマンガにまとめるというのは無理があるということで、本書では出羽路を中心に物語が展開する。出羽路を選んだのは矢口高雄の意向で、「出羽路こそが『奥の細道』そのもの」と考えたためだという(「あとがき」より)。ただこうやって一部だけに取り組んだことが功を奏し、内容が非常に充実していて、『奥の細道』の世界が見事に描き出されている。矢口高雄自身が元々『奥の細道』に思い入れがあったそうで、そういうことも本作の成功に結びついていると思われる。ところどころ著者独特の解釈も盛り込まれ、それについても本人の記述があって、非常に分かりやすい。当時の俳句界の状況や句の背景なども折に触れ描き出され、『奥の細道』解釈本としても絶品と言える。芭蕉のキャラクターもうまく描き出されていて、魅力的な芭蕉、曽良が躍動する。『奥の細道』には興味がなかったが、この本のおかげで大いに興味を持った。矢口高雄の代表作と言っても良いんじゃないかという快著であった。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『源氏物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9(本)』
竹林軒出張所『とはずがたり マンガ日本の古典13(本)』
竹林軒出張所『平家物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『太平記(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『御伽草子 マンガ日本の古典21(本)』
竹林軒出張所『春色梅児誉美 マンガ日本の古典31(本)』
竹林軒出張所『日本人なら知っておきたい日本文学(本)』
竹林軒出張所『セクシィ古文(本)』
by chikurinken | 2013-08-20 15:30 |

『自衛隊と憲法 日米の攻防』(ドキュメンタリー)

自衛隊と憲法 日米の攻防(2013年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

改憲の論議を歴史の視点から見る

b0189364_950348.jpg 「泥棒が憲法改正の論議をしてる コソ泥が選挙制度改革で揉めてる」と歌ったのは、今は亡き忌野清志郎(「善良な市民」、『GOOD BYE EMI』に収録)。このアルバムが発売されたのは1993年だが、2013年の今でも相も変わらず同じことが行われている。だが今度は、いよいよかという雰囲気が漂っている。
 改憲(この場合第9条の改訂を指す)があの首相の悲願のようではあるが、ただ首相になった男が願っているからと言って簡単にことが進まないのが日本の政治。実質官僚が取り仕切っているためか日本の政治には機動力がない。だがある意味ではこれは良いことでもある。機動力がないために侵略戦争に加担せずに済んだ(または消極的に加担した)こともあったし、外交関係もまあ大体安定している。終戦からこっち、比較的急いで行われた政治家主導の改革は、ほぼ100%失敗していると言って良いだろう。そう考えると、実行力のある政治家なんかいらないのだ、日本の政治にとって。
 改憲勢力というのは何十年も前からあって、今まで話題にはなってもさすがにそこまで切り込む政治家もいないし、行政の側でも改憲する必然性がなかったせいか、あまり話が進まなかった。特に1989年の冷戦終結までは、世界のパワーバランスというものがあって、改憲して軍備増強することに必然性がなかったのも大きな理由であった(らしい、この番組によると)。それが大きく変わったのが、1991年の湾岸戦争で、このとき多国籍軍に加わるようアメリカから圧力があったのは記憶に新しい。また先のイラク侵略戦争でも、同じような圧力がアメリカからあって、そのたびに日本は憲法を盾にして協力を惜しんできたのだった。
 この番組では、1990年以降の日米関係に焦点を当てて、現在なぜ改憲の流れが進んでいるか、その理由を明らかにする。70年前に日本の武装解除を求めたアメリカは、現在では米軍に協力できる軍事力を日本に期待している。だが湾岸戦争当時、海部元首相や後藤田元官房長官らは、アメリカの参戦要求を退け、そのときに日本国憲法が大きな役割を果たしたのも事実だ。もちろん彼らに参戦の意志がなかったというということも大きかっただろう。彼らは戦争を膚で知っている世代で、武装に対しては明確に反対の意志を持っていたという(海部氏がこの番組のインタビューで答えていた)。今の二世首相は戦後世代で、こういうことも改憲の意志に関係しているんだろうと思われる。
 おそらく憲法第9条を変えて武装できるようにしたところで、日本国および日本国民にとって、虚栄心を満たせるという以上のメリットはほとんどないだろうと思う。結局得するのはアメリカだけである。またしてもアメリカにいいように丸め込まれる日本国という図式が現れるが、80年代の日米貿易摩擦の頃を思い出すのは僕だけか。日本もいつまでもアメリカに依存せず、そろそろ独立心を持って行動することが大事ではないかと思う。アメリカがとんでもない方向に進んでいるのに、それについていくのが懸命かどうか、政治に関係する人々にもいい加減気付いてほしいものだ。そういうことを考えたドキュメンタリーだった。
 こういう時期にこういうコンセプトの番組を放送したNHKもアッパレ、アッパレ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『今日のつぶやき・プラスα』
by chikurinken | 2013-08-18 09:50 | ドキュメンタリー

『四角いジャングル 激突!格闘技』(映画)

b0189364_824650.jpg四角いジャングル 激突!格闘技(1979年・東映)
監督:後藤秀司
原作:梶原一騎、中城健
脚本:真樹日佐夫
出演:(ドキュメンタリー)アントニオ猪木、ベニー・ユキーデ、藤原敏男、プライユット・シーソンポップ

昭和ちびっこ格闘技手帳

 アントニオ猪木がかつて異種格闘技路線で名前を売っていた頃(1975〜80年頃)、この異種格闘技戦周辺をリアルタイムに辿るというマンガが『少年マガジン』に連載されていた。タイトルは『四角いジャングル』で、原作が梶原一騎ということから、猪木周辺のみならず、極真空手や、キックボクシング、新格闘術(当時梶原一騎の知人が関係)などが取り上げられていた。このマンガ、猪木対ウイリー・ウィリアムス(極真空手)戦を盛り上げる役割を大いに果たしていたんだが、実際の試合の後は、なんだか急速に下火になったような印象がある。少なくとも僕の周りの格闘技ファンの間ではそうだった。それに格闘シーンが異様にオーバーで、特に極真系の戦いでそれが当てはまり、今考えると極真空手の広報の役割を果たしていたのかとも思える。僕なんかも極真の強さは神がかり的だと思い込んでいた時代が長く、その後、極真系の選手が他の格闘家と一戦交えた段階で初めてそれが幻想だったことに気付くという有様だった。梶原一騎のマンガに騙されたそういういたいけな少年は随分多かったようで、どうにも困ったものである。
 さて、当時、この『四角いジャングル』、それなりに人気があったようで、そのためか『四角いジャングル』を原作にした映画が都合3本製作された。そのうちの第2作が今回見た『四角いジャングル 激突!格闘技』である。内容は、マンガの『四角いジャングル』に沿った形で、登場する格闘家も、それから試合もマンガとかなりの部分が共通する。当時、僕は田舎に住んでいて、キックボクシングはTBS系のものしか見れなかったため、ベニー・ユキーデも藤原敏男もプライユット・シーソンポップも映像では見たことがなかった。彼らの試合はテレビ東京系でしか放送されていなかったんである。マンガに登場する彼らはもうとんでもない存在で、そのためもあって見たくて見たくてしようがなかったんだが、情報格差はいかんともしがたい。この映画を見ることができればまた話は違ったんだろうが、映画館すら地元になかったんでしようがない。もっともこんな映画があったことすら最近まで知らなかったんだが。
 そういうわけで、今回、感慨を持ってベニー・ユキーデと藤原敏男の勇姿を見たのであった。マンガのオーバーな描写を除外して素直な目で見ても、どちらもなかなか強く魅力的である。ユキーデはスピード、藤原敏男はボディバランスが特に優れているという感じで、両者とも格闘センスは超一流という印象である。もっともこの映画で紹介された映像自体、彼らが活躍している試合なんで、にわかに断定することはできないのかも知れない。相手にやられている試合も見なければ本当の実力はよく分からないんだが(ちなみにユキーデは敗戦の試合がある)、それでも魅力的であるのは変わりない。
 他には、猪木対ミスターXの異種格闘技戦や、極真空手のオープントーナメントが収録されている。猪木対ミスターXなんて今見るとどうしようもないマッチアップで、しかも興業色の強い試合なんだが、当時はマンガ版『四角いジャングル』のせいでなんだか恐ろしいことが起こりそうな予感すらしたんだから、返す返すも罪作りなマンガだったと言える。極真空手のオープントーナメントは、確かに衝撃的なKOシーンもあるが、長すぎて退屈した。この映画でも随所に取り上げられた極真空手のデモンストレーション(バット折り、ビール瓶割り、氷割りなど)も確かに衝撃的だが、今見ると宣伝臭が強く、所詮デモンストレーションに過ぎないとも感じられる。これを梶原一騎のマンガが補完し、少年達のイメージを過剰に膨らませていったのが70〜80年代。まんまと広報にやられていたわけだ。そういうことをこの映画を見ながらつらつら考えたのだった。
 本作の映像は寄せ集めみたいなもので、16mmで撮ったような映像が多く、アングルもあまり良くないため、映像的にはあまり魅力がない。本当は若い頃の藤波辰巳(プロレスラー)の映像を見たかったんだが、ほんの少し出てきただけでガッカリ。この辺も原作マンガと同じで、あのマンガの映画化としてはかなりうまくやっているという印象である。
 なお、あのマンガの主人公だった赤星潮だが、僕はてっきり架空の人物かと思っていたんだが、赤星潮という名前の格闘家が実際に映画に出て来たんで驚いた(後で知ったんだが、このマンガが出てから、同じ名前を付けた選手が登場したんだそうである)。
★★★

竹林軒出張所『完本 1976年のアントニオ猪木(本)』
竹林軒出張所『ブッチャーとシン』
竹林軒出張所『買った、見た、ふるえた……キックの鬼 最終章』
竹林軒出張所『キックの鬼』
竹林軒出張所『真空飛び膝蹴りの真実 “キックの鬼”沢村忠伝説(本)』
竹林軒出張所『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(本)』
竹林軒出張所『昭和ちびっこ広告手帳(本)』
by chikurinken | 2013-08-16 08:03 | 映画