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竹林軒出張所

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『殺人狂時代』(映画)

殺人狂時代(1947年・米)
監督:チャールズ・チャップリン
原作:チャールズ・チャップリン
脚本:チャールズ・チャップリン
音楽:チャールズ・チャップリン
出演:チャールズ・チャップリン、マーシャ・レイ、マリリン・ナッシュ、イソベル・エルソム、アーヴィング・ベーコン

ブラック・ユーモアと皮肉に満ち満ちた一本

b0189364_7531877.jpg 20世紀初頭にフランスで実際に起こった青髭ランドリューの事件を基にした映画。元々はオーソン・ウェルズがチャップリンの元に持ってきた話だということで、ただ当時脚本も何もできておらず、ランドリューの記録映画を作るという企画だけだったのだが、結局チャップリンがこの話を映画化することになった。その際、チャップリンはウェルズ側に5000ドルを支払うことで折り合ったが、ウェルズは、映画ができたら原案として自分の名前をクレジットするよう主張し、結局完成作にはオーソン・ウェルズの名前が出ることになった。チャップリン側からすると、実際に起こった事件を基にしたわけで、オーソン・ウェルズにはこの映画について何の権利も生じようがないということだったんだが、約束してしまったのでしようがなかったということらしい。
 そういうわけで、この映画は、ランドリュー同様、ビジネスとして結婚詐欺・殺人を繰り返す男が主人公で、その主人公アンリ・ヴェルドゥをチャップリン自身が演じている。全編、身勝手な殺人がモチーフになっているため、見ていてあまり良い気持ちがしない場面も多いが、強烈なメッセージが発せられて、いかにも後期のチャップリン映画といった作品である。
 チャップリン映画の中では異色な部類で、笑える要素が比較的少ないこともあり興行的には失敗だったらしい。カトリック関係団体をはじめとする各種団体から上映中止圧力が加わったりしたことも大きかったようだ。チャップリンがアメリカの当局から圧力を受け始めるのもこの映画の時期とちょうど重なり、チャップリン自身、この作品の興行的な不成功もあって、この後しばらくの間失意の時代を送ることになったという。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『チャップリン自伝 ― 若き日々(本)』
竹林軒出張所『チャップリン自伝〈下〉栄光の日々(本)』
竹林軒出張所『モダン・タイムス(映画)』
竹林軒出張所『チャップリンの黄金狂時代(映画)』
竹林軒出張所『キッド(映画)』
竹林軒出張所『ニューヨークの王様(映画)』
竹林軒出張所『街の灯(映画)』
竹林軒出張所『サーカス(映画)』
by chikurinken | 2013-06-29 07:54 | 映画

『街の灯』(映画)

街の灯(1931年・米)
監督:チャールズ・チャップリン
脚本:チャールズ・チャップリン
音楽:チャールズ・チャップリン
出演:チャールズ・チャップリン、ヴァージニア・チェリル、フローレンス・リー、ハリー・マイアーズ

笑って泣ける、チャップリン中期の快作

b0189364_7293248.jpg チャップリン中期の長編映画。すでにトーキー時代であるにもかかわらずサイレントに固執し、サイレント映画でありながらちゃんと音楽や効果音は入っており、厳密にはサイレント仕立てのトーキー映画である。サイレントにこだわったのは、『チャップリン自伝(下)』によると、トーキーへの違和感とパントマイムの面白さが失われることへの危惧から来ているらしいが、それが十分理解できるほど、この『街の灯』はグレードが高い。方々に散りばめられた笑いも実にセンスが良く、それに何より、それ以前の作品に比べると、ストーリーとしての一貫性があって、展開が自然である。そして最後に泣かせるという、映画の教科書のような映画である。
 笑いのシーンの中でもボクシングのシーンはダントツで、最初見たときは我を忘れて笑い転げてしまった。ちなみに見るのは今回で4回目くらい。ストーリーだけでなく、それぞれのシーンでも見所が多く、花売り娘のヴァージニア・チェリルが好演していて、シーンを大いに盛り上げている。ちなみにこの盲目の花売り娘役であるが、なかなか適任の女優が見つからず、キャスティングの段階で随分苦労したという。どの女優も盲目の表現がなかなかできず、たまたま直前にオーディションしたヴァージニアが実にさりげなくそれをやってのけたので大抜擢されたというのだ。これまで見たときは、盲目の演技がそんなに大変であるということにまったく気が付かなかったが、それほどヴァージニアの演技が自然で素晴らしいということである。チャップリン作曲の音楽もすばらしく、まさに彼の天才が花開いた映画と言える。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『チャップリン自伝 ― 若き日々(本)』
竹林軒出張所『チャップリン自伝〈下〉栄光の日々(本)』
竹林軒出張所『モダン・タイムス(映画)』
竹林軒出張所『チャップリンの黄金狂時代(映画)』
竹林軒出張所『キッド(映画)』
竹林軒出張所『ニューヨークの王様(映画)』
竹林軒出張所『殺人狂時代(映画)』
竹林軒出張所『サーカス(映画)』
by chikurinken | 2013-06-28 07:30 | 映画

『ニューヨークの王様』(映画)

b0189364_8561197.jpgニューヨークの王様(1957年・英)
監督:チャールズ・チャップリン
脚本:チャールズ・チャップリン
音楽:チャールズ・チャップリン
出演:チャールズ・チャップリン、ドーン・アダムス、マイケル・チャップリン、オリヴァー・ジョンストン、マキシン・オードリー

いかれたアメリカ社会への
辛辣な皮肉が心地良い


 祖国の革命のためにニューヨークに亡命したとある国の国王の喜劇。喜劇といっても、チャップリンの初期から中期にかけて見られたドタバタ喜劇ではなく、アメリカの世相に対する皮肉を効かせたニヒリスティックな「喜劇」である。
 祖国では資産を差し押さえられ、外国の銀行に預けられていた資産は首相に持ち逃げされてほとんど無一文になった王様が、とあるきっかけでCM出演のバイトを始めるというような話で、あげくに(王族であるにもかかわらず)共産主義者の疑いをかけられ非米活動委員会に召還されるなど、当時のアメリカの世相を皮肉っている。実際のところチャップリン自身が赤狩りのせいでアメリカを出ることになったわけで、言ってみれば経験者である。そういうこともあってか、非常にシニカルな目線で描かれ、しかも当時のアメリカの世相まで随分厳しく皮肉っている。もちろん笑いの要素も散りばめられていて、見応えのある作品になっている。脇役の「不愉快な」少年は、チャールズ・チャップリンの息子、マイケル・チャップリンが熱演している。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『チャップリン自伝 ― 若き日々(本)』
竹林軒出張所『チャップリン自伝〈下〉栄光の日々(本)』
竹林軒出張所『モダン・タイムス(映画)』
竹林軒出張所『チャップリンの黄金狂時代(映画)』
竹林軒出張所『キッド(映画)』
竹林軒出張所『街の灯(映画)』
竹林軒出張所『殺人狂時代(映画)』
竹林軒出張所『サーカス(映画)』
by chikurinken | 2013-06-26 08:56 | 映画

『キッド』(映画)

b0189364_8391353.jpgキッド(1921年・米)
監督:チャールズ・チャップリン
脚本:チャールズ・チャップリン
音楽:チャールズ・チャップリン
出演:チャールズ・チャップリン、ジャッキー・クーガン、エドナ・パーヴィアンス、カール・ミラー

チャップリンの最初の古典的名作

 チャップリン初期〜中期にかけての傑作喜劇。基本的にスラップスティックな笑いの映画だが、笑わせて感動させ泣かせるという娯楽映画の必須要素をすべて兼ね備えた逸品。
 棄てられた子どもを育てる貧乏な男の話で、子どもはジャッキー・クーガンが快演。ものすごくけなげで可愛い♡。だがもし今生きていたら百歳で大変な爺ちゃんである(実際には30年前に死去)。この映画の演技が認められたせいか、その後も子役として結構活躍していたようである。共演のエドナ・パーヴィアンスは、初期のチャップリンの作品によく出演している女優で、一時チャップリンと個人的に親密な付き合いがあったらしい。晩年はひどく没落して、チャップリン自身も心を痛めたという(『チャップリン自伝』より)。
 チャップリンは相変わらずさまざまなギャグを駆使し、例によって官憲の嫌がらせを受ける。当時の官憲に対する辛辣な視線が感じられるのは、他のチャップリン映画と共通である。スラップスティックがベースでありながら、ペーソスの要素を取り入れ、感動的な作品にまで昇華させたこの映画、まさに古典と呼ぶにふさわしいチャップリンの代表作と言える。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『チャップリン自伝 ― 若き日々(本)』
竹林軒出張所『チャップリン自伝〈下〉栄光の日々(本)』
竹林軒出張所『モダン・タイムス(映画)』
竹林軒出張所『チャップリンの黄金狂時代(映画)』
竹林軒出張所『ニューヨークの王様(映画)』
竹林軒出張所『街の灯(映画)』
竹林軒出張所『殺人狂時代(映画)』
竹林軒出張所『サーカス(映画)』
by chikurinken | 2013-06-25 08:40 | 映画

『チャップリン自伝〈下〉栄光の日々』(本)

b0189364_7565726.jpgチャップリン自伝〈下〉栄光の日々
チャールズ・チャップリン著、中野好夫訳
新潮文庫

チャップリンの全盛期は
いろいろあった時代でもある


 『チャップリン自伝 ― 若き日々』の後編。映画で成功してから、やがてスイスに移住するまで(1950年代か?)を描く。
 成功してからの話であるため、前半ほどの波瀾万丈はないが、とは言っても『チャップリンの独裁者』をきっかけに共産主義者の烙印を押され、米国からの出国を余儀なくされる当たり、空恐ろしい感じさえする。ちょうどレッドパージの時代で、言ってみれば米国内が集団ヒステリーで最悪の状態だったこともあるだろう。
 ちなみに『チャップリンの独裁者』であるが、作られたのは1940年で、当時まだユダヤ人の虐殺が明らかになっていなかったため、国内外を問わず、相当な批判があったらしい。米国内でもナチスのシンパが結構いたようで、これは今聞くとすごく意外な感じがするのだが、そういうこともあって公開時は右翼勢力から糾弾されたこともあったようだ。特に最後のスピーチを共産主義的と受け止める風潮があったらしく、それが批判の理由でもあったという。もちろん今となっては、チャップリンの主張の方が正しいということは明らかなんだが、こういうことも関係して、その後も共産主義者の疑いをかけられることになったのだった。
 『独裁者』については、その公開時の様子はもちろん制作状況についても相応のページを割いている。また、他の作品群、『黄金狂時代』や『キッド』、『モダン・タイムス』などについても詳しく書かれている。そのため、チャップリン映画の資料としても価値がある。
 また、華やかな交友関係についても紙数を割いている。チャーチル、フルシチョフ、周恩来、ガンジーから、H.G.ウェルズ、アインシュタイン、ハーストなどに至るまで、それはそれは多彩で、もちろん同時代の俳優、ダグラス・フェアバンクスらも登場する。なおフェアバンクスはユナイテッド・アーティスツの共同設立者でもあるし、チャップリンとも非常に親密だったことが窺われる。ただしこの交友関係の部分は少し退屈で、それがあまりに多いので、後半は少々辟易していた(とは言え、チャップリン初期の映画の常連、エドナ・パーヴィアンスについては、晩年が非常に哀れで、こういう部分は少し涙を誘う部分であった)。
 この下巻は交友関係自慢みたいに感じられる部分もあり、そういう点でもやはり上巻の方がはるかに面白かったと思う。ただレッドパージの時代にアメリカから追われる過程はスリリングで、ほとんど唯一の読みどころと言って良いかも知れない。
★★★☆

追記:解説を書いているのが淀川長治で、若い頃チャップリンに会いに神戸まで行った(そして邂逅した)エピソードを紹介している。これも結構面白い話で、なかなか良いエッセイになっている。厳密な意味で「解説」とは言いがたいが。

参考:
竹林軒出張所『チャップリン自伝 ― 若き日々(本)』
竹林軒出張所『モダン・タイムス(映画)』
竹林軒出張所『チャップリンの黄金狂時代(映画)』
竹林軒出張所『キッド(映画)』
竹林軒出張所『ニューヨークの王様(映画)』
竹林軒出張所『街の灯(映画)』
竹林軒出張所『殺人狂時代(映画)』
竹林軒出張所『サーカス(映画)』
by chikurinken | 2013-06-24 07:57 |

『いじめを語ろう 〜カナダ ある学校の試み〜』(ドキュメンタリー)

いじめを語ろう 〜カナダ ある学校の試み〜(2012年・加CBC)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

b0189364_7231469.jpg学校現場の今を捉える

 こちらは、カナダでのいじめの事例。いじめ問題に積極的に向き合っている学校(中学&高校に相当すると思われる)の取り組みを取材。
 先日のアメリカの事例と違い、こちらは学校側、特に校長がいじめ問題に熱心に取り組んでいる。といってもこれが奏功しているかは疑問であるが、いずれにしても取材班を1週間受け入れようと決断したのは立派。
 取材班は、まずインタビュー用のブースを設置して、子どもたちが自由にカメラに向かっていじめについて語れるような環境を作る。同時に、いじめに苦しんでいる子どもたちにも聞き取りを行う。その結果、校内のほとんどの子どもがいじめにあった経験があり、同時にそのうちの多くが他の子どもに対していじめをした経験があるという。しかも一部の教師にも過去いじめで苦しんだ時期があることが判明。いじめ問題が非常に根深いものであることが分かる。一方で、いじめの被害と加害の両方の経験を持つ子どもが多かったことから、最終的には、いじめる側の問題に立ち入らなければならないことも明らかになってくる。実際、この学校では、通常であれば退学になっても仕方がないようないじめの常習者を、校長自ら立ち直らせようと奮闘している姿も映し出される。
 いじめ問題の解決の難しさを思い知らされると同時に、問題に対して真摯に取り組むことの大切さも伝わってくる番組で、学校現場の真の問題を問題として共有できるようなドキュメンタリーだった。最後は、一時的なものであるにしろ、非常に爽やかな終わり方をしていて、心地よさも残った。もちろん学園ドラマみたいな嘘っぽさはまったくない。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『いじめの果てに(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カナダ いじめ撲滅プロジェクトの1年(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『追いつめられて 〜アメリカ いじめの実態〜(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2013-06-22 07:23 | ドキュメンタリー

『追いつめられて 〜アメリカ いじめの実態〜』(ドキュメンタリー)

追いつめられて 〜アメリカ いじめの実態〜 前編後編
(2011年・米WHERE WE LIVE FILMS)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

アメリカのいじめも相当ひどい

b0189364_728471.jpg 前にも書いたが、かつて日本では、アメリカには日本のような陰湿ないじめはないと言われていた。このドキュメンタリーで最初に示される統計データによると、アメリカの12〜17歳の子どもたちの3人に1人はいじめを経験しているという。要するに、いじめに関する状況は、日本と大して変わらない。もちろん、それはアメリカだけでなく世界中にあるわけで、いじめの性質や対処法が違いこそすれ、世界中で共通する問題である。
 日本の場合、30年以上前からいじめによる犠牲者がたくさん出て来たこともあって、役所・学校側もそれなりに対応策を練り、世間もいじめについては厳しい視線を向けるようになっている。それでもいまだに問題はなくならず、犠牲者は相変わらず出続けるというのが現状。実際に小学校や中学校の関係者に聞くと、いじめについてはある程度真摯な対策がとられていることは肌で理解できる。自分が小中学校に通っていたときと比べたら雲泥の差と言って良い。方向性としては良い方向に向かっていると個人的には感じている。ただ抜本的な対策が必要であることは変わりなく、子供たちに学校の代替となる場を提供するとか、校内の風通しを良くするとか、そういった対策は今後続けて行かなければならないと思う。
b0189364_7285666.jpg さて、このドキュメンタリーだが、アメリカ中から何件かのいじめのケースを取り上げてレポートする、前後編で90分の番組である。取り上げられる子どもたちは、現在いじめを受けている少年、いじめに耐えられず自ら命を断った少年、これもいじめに耐えられずスクールバス内で銃をかざして脅したために逮捕されて拘禁されている少女、同性愛者であることをカミングアウトしたために同級生だけでなくコミュニティからも排除されている少女など。どれも憂鬱になるような事例だが、どのケースにも共通しているのが学校・行政側の逃げの姿勢と、地域、社会の冷淡な態度である。いじめで犠牲者が出ても、それに対してなかなか対策をとろうとしないというもので、以前の日本の状況によく似ている(アメリカの場合は、教員の地位の低さに由来するのではないかと思う)。そういう点でもアメリカはいじめ対策の後進国であると言える。
 人々の意識を変えようとして運動している、いじめ被害者の父兄の活動も取り上げられており、それに対する周囲の人々の共感もあるが、まだまだ道はほど遠いという感じである。何よりアメリカが被害者や弱者に対して非常に厳しい社会であるという印象を受ける。こういうドキュメンタリーが出て少しでも意識が変わり、良い方向に変わることが望まれる。もちろん日本もそうである。とりあえず、ドロップアウトした子供たちの受け皿くらいは、公共の費用で用意すべきじゃないかと思うが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『いじめの果てに(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カナダ いじめ撲滅プロジェクトの1年(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『いじめを語ろう 〜カナダ ある学校の試み〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『私たちの未来を救って!(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2013-06-21 07:29 | ドキュメンタリー

『もうひとつのアメリカ史』(8)〜(10)(ドキュメンタリー)

オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史(2012年・米Showtime)
第8回 レーガンとゴルバチョフ
第9回 “唯一の超大国”アメリカ
第10回 テロの時代 ブッシュからオバマへ
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

こうして「悪の帝国」は完成した

b0189364_7505677.jpg 映画『プラトーン』や『サルバドル』を監督したオリバー・ストーンが、現代アメリカ史を自身の視点で洗い直そうというドキュメンタリー。オリバー・ストーンが作るドキュメンタリーだけに、当然、アメリカ中心の傲慢な歴史観で描かれるわけもなく、アメリカ政府に不信感を抱く人々にも受け入れられる内容になっている。
 さてこの『もうひとつのアメリカ史』もいよいよ最後の3回。レーガン時代からオバマ政権に至るまでで、アメリカが果てしなく暴走を続ける時代。この頃は僕自身完全に同時代であるため、ほとんど身近な社会情勢として感じたものばかりで、目新しさはあまりない。言ってみれば、既知のできごとに対して別の見方を提示してもらうという感じか。
 第8回はレーガン時代で、カーター時代から反動化して急速に軍拡を進める時代である。元俳優で反共的なロナルド・レーガン元アメリカ大統領、会見やスピーチでもセリフを読むようによどみなく語るんで人気が出たが、(オリバー・ストーンによると)思考能力が欠如していたらしく、行動は著しく情緒的であった。SDI(戦略防衛構想)などという夢物語に飛びつき莫大な金を注ぎ込むという愚行まで起こしている。そうしたときに登場したのがソビエトのゴルバチョフで、こちらは進歩的な考え方を持つ政治家で、核兵器廃絶までレーガン側に提案する。結局レーガン側が受け入れを拒否したことから、核廃絶は叶わなかった(中距離核ミサイルの制限のみ実現)。あげくにイラン・コントラ事件まで発覚し、レーガンはニクソン以来の失職に追い込まれるかというところまでに至ったが、結局うやむやのまま、後を当時副大統領だったブッシュが引き継ぐことになる。ブッシュはブッシュで、反動的な保守政治家を閣僚に入れ、あげくにイラクをだまし討ちして攻撃したり(湾岸戦争)、パナマに大部隊で侵攻したり、やりたい放題。その後の大暴走の礎を作る。
 次のクリントンは、再び民主党に政権が戻ることで希望が持たれたが、保守閣僚が多数入り、実質はあまり前政権から変わっていない。むしろ経済界による政治支配を助長したというマイナス面が大きい。
 そして次のブッシュ・ジュニアの時代になって、いよいよ「悪の帝国」アメリカが完成するのであった。そもそもブッシュが当選した大統領選挙自体が相当怪しいものでなおかつ恣意的なものだったというのは記憶に新しい。まるで途上国の選挙だと思ったのは僕だけではあるまい。そういう人間が権力を握ったらどういうことになるか容易に想像がつくが、結局世界中に災厄をまき散らすことになったのだった。
b0189364_7511841.jpg こうしてアメリカは、1945年以降、血に染まった恥ずかしい歴史を綴ってきたが、いくつかそれを正しい方向に導く契機があったとオリバー・ストーンは言う。1つはヘンリー・ウォレスが大統領にもっとも近付いた1945年(トルーマン側の画策により大統領選挙に敗北)。ケネディとフルシチョフが接近した時代(最終的にケネディが暗殺される)、ゴルバチョフが核兵器廃絶を提案したとき(レーガンがこれを拒否)などもそうで、その都度、アメリカは間違った選択肢を選んできて今に至っている。今のアメリカを見ると、社会保障はないし社会正義も守られていないしでまさに途上国と変わりない有様である。しかもそういう国が、世界最大の武力を持って世界中を脅し続けるってんだから始末に悪い。こういうドキュメンタリーで、アメリカ国民が少しでも過去を振り返って、そして正しい未来を志向するようになれば良いと思うが、保守主義者は相変わらずなんだろうなとも思う。銃規制関連のドキュメンタリー(ドキュメンタリーWAVE『銃と自由とアメリカ 〜銃規制に揺れる開拓の町〜』など)を見たら、保守反動の人達の救いようのなさと利己主義を感じてしまうんだな。アメリカもいずれは過剰な利己主義から脱出できますよう。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(1)〜(4)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(5)〜(7)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『スプリット 二極化するアメリカ社会(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2013-06-19 07:52 | ドキュメンタリー

『実録! あるこーる白書』(本)

b0189364_7391381.jpg実録! あるこーる白書
西原理恵子、吾妻ひでお著、月乃光司協力
徳間書店

経験者たちによるアル中対談
書籍版AAまたは教育プログラム


 かつてアルコール依存症だったマンガ家の吾妻ひでおと、アルコール依存症の夫による虐待に苦しんだ経験を持つ西原理恵子の対談。他に月乃光司という詩人も加わるが、本書では「協力」という扱いになっている。
 それぞれが壮絶な経験談を披露し、さながらAA(アルコホーリクス・アノニマス)か断酒会かというような趣であるが、現在アルコール依存者が周りにいない者としては、比較的客観的に接することができ、「ふーん」とか「へー」とか感じるような話である。
 彼らの話を総合すると、アルコール依存に陥った人は、おおむね自覚症状がなく、周囲に迷惑をかけまくり、あげくに家庭崩壊などに至ってどん底を経験した上で、自ら復活を望んだときに初めて治療の道が開ける(ただしそこに至るまでに死んでしまうことも多いらしい)ということで、薬物依存やギャンブル依存同様、明らかに病気なんだという。西原理恵子によると、アルコール依存症患者を(今の普通の扱いのように)単なるろくでなしや怠け者として扱うんではなく、病気として認識し、家族もそれを認識して対応しなければならず、それゆえに病気であるという認識を社会に持ってもらうことが重要であるという。一般的には、家族が認識不足のためにイネーブラー(アルコール依存症の進行に加担してしまう人)になってしまうことが多いとも。なるほどと感じる部分は多い。
 対談であるため読みやすいが、だからと言って面白くてたまらないというほどのものでもなく、ホントにアルコール依存症患者が病院で受ける(という)教育プログラムみたいな内容だった。自分がこういった状態に陥らないようにする上で役に立つかなというような内容である。それを考えると、患者や患者予備軍、その家族のための本と言えるかも知れない。吾妻センセイも面白い話を披露してくれているが、(当然だが)やはりマンガのようなキレはなく、そういうのを期待していると少々ガッカリするかも知れない。なお本書によると、まもなく吾妻センセイの新作(『失踪日記』の続編)が出るそうだ。現在鋭意執筆中とのこと。楽しみ。
★★★

参考:
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
竹林軒出張所『私、パチンコ中毒から復帰しました(本)』
竹林軒出張所『この世でいちばん大事な「カネ」の話(本)』
by chikurinken | 2013-06-18 07:40 |

『風に吹かれてカヌー旅』(ドキュメンタリー)

風に吹かれてカヌー旅 〜野田知佑 モンゴル・ロシア1300キロをゆく〜
(2001年・NHK)
NHK-BSプレミアム プレミアム・アーカイブス

『世界の川を旅する』映像版

b0189364_8124418.jpg カヌーイスト、野田知佑の川下りの旅に同行するというドキュメンタリー。まさに野田氏の著書を映像化したような企画である(竹林軒出張所『ダム建設中止問題の実在に関する考察』参照)。
 今回の川旅の舞台はシベリアのバイカル湖に流れ込む川で、モンゴル北部にあるフブスグル湖が源流になっている。そのフブスグル湖を出発して、エグ川、セレンゲ川を経由しバイカル湖まで40日かけてゆっくり下るというはなはだ贅沢な川旅である。途中、モンゴルとロシアの国境を越える。
 出発地点はフブスグル湖畔で、そこまでは飛行機や車などで移動。当然折りたたみ式のカヌーも持参する。で、このカヌーを組み立てるところから番組は始まる。まさしく野田氏の旅に同行しているような感覚である。ちなみにこの旅、野田氏の他に、カメラマンの藤門弘も同行する。なんでも、これまでも何度も一緒に川下りをしてきたそうで、その都度(著書の)写真を担当しているらしい。たしかに野田氏の本は写真が良いものが多い。その写真を撮ったのが藤門氏なのかわからないが、ともかく気心の知れた両人である。
 やがて湖から川に入るが、例によって途中でキャンプしながら、食糧の魚を釣ったり、本を読んだり、ぼんやりしたり、あるいは現地の人々と触れあったりして、まさに野田氏の川旅が映し出される。つまり、彼の著書で紹介される川旅がそのまま繰り広げられ、見ているこちらも川旅を体感できるようになっている。また、現地の子供達をカヌーに乗せてやったり、ナーダム(モンゴルの祭り)を訪れたりという紀行ドキュメンタリー的な要素も出てくる。だが、テレビ番組的な作為的な不自然さはまったくない。こういった一つ一つがすべて野田氏主導で行われていることが窺われる。
b0189364_8134773.jpg カメラは水上あるいは陸上から2人の旅人の姿を捉え、雄大な自然もフレームに収められる。最初から最後まで彼らの旅に同行しているかのように感じられる。これこそ紀行ドキュメンタリーの醍醐味である。
 登場する野田氏であるが、不必要なことはあまり語らず、常にどっしりしていて、なんだかもう非常にかっこいい。自然人とでも言ったらいいのか、男の理想形みたいなものがそこから見えてくる。こういう部分もこのドキュメンタリーの魅力になっている。
 途中、モンゴル-ロシア国境を越えるとき、制度上、川をそのまま通過することができないために、いったん陸に上がって越境手続きをしなければならなくなる。しかもその手続きもさんざん待たされて結局9時間かかったという。川を行けばあっという間に通過できるのにこれである。人為のバカバカしさが見ているこちら側にもよく伝わってくる。一見単調な紀行ドキュメンタリーであっても、実はいろんなことを考えさせられるんだが、そういう点も野田氏の著書と共通なんである。
 川の自然も非常に美しく、ダイナミックな清流が至る所に残って入るが、途中川の中にちらほら(釣り具などの)ゴミが散見していて、野田氏がこの川の美しさもあと2、3年かなと言っていたのが非常に印象的であった。破壊し尽くされていった日本の川を川面から見続けた野田氏だけに、この言葉が非常に重く響いた。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『ダムはいらない! 新・日本の川を旅する(本)』
竹林軒出張所『ダム建設中止問題の実在に関する考察』
竹林軒出張所『世界の川を旅する(本)』
by chikurinken | 2013-06-17 08:14 | ドキュメンタリー