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竹林軒出張所

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『コブラ・ヴェルデ』(映画)

b0189364_7403619.jpgコブラ・ヴェルデ(1988年・西独)
監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
原作:ブルース・チャトウィン
脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク
撮影:ヴィクトル・ルツィカ
出演:クラウス・キンスキー、ホセ・レーゴイ、キング・アンパウ

アギーレは二度と降臨しなかった

 ヴェルナー・ヘルツォークがクラウス・キンスキーを起用した映画は全部で5本あるが、その最後の作品がこの『コブラ・ヴェルデ』。5本の映画のうち、『ヴォイツェック』は未見で、他の4本を今週立て続けに紹介したというわけ。この『コブラ・ヴェルデ』だが、ストーリーや主人公の設定は『アギーレ・神の怒り』に似ていて、おそらく監督のヘルツォークも2匹目のドジョウというか、あの映画の再来を狙ったんじゃないかとも思う(『アギーレ』は、狂気の人が南米の奥地に向かう話、『コブラ・ヴェルデ』は、狂気の人が奴隷貿易のためにアフリカに向かう話)が、残念ながらあれだけの作品はなかなか作れない。結局、アラばかりが目立って、面白味に欠ける冒険譚で終わってしまった。
 今回見た4本のヘルツォーク-キンスキー映画に特徴的だったのは、ストーリー展開が単純だったことで、もちろん話自体は奇抜なものばかりなんだが、サブプロットがないために展開が直線的で、そのあたりがストーリーの深みを欠く理由になっている。ただ、『アギーレ』や『フィツカラルド』みたいにあまりに奇想天外だと単純な展開もあまり気にならないが、奇想天外さのグレードが少し落ちてしまうととたんに目立ってしまう。この『コブラ・ヴェルデ』がまさしくそうで、ストーリー自体は確かに奇抜なんだが、どうも作り手の中で十分処理できていないような印象がある。ひとつにはこれが原作ものだということもあるのかも知れない。キンスキーも舞台劇みたいに何だか少し大げさで、アギーレ、フィツカラルドみたいな実在性が乏しかった。ヘルツォーク-キンスキー映画としては残念な部類に入る。
★★★

参考:
竹林軒出張所『アギーレ・神の怒り(映画)』
竹林軒出張所『キンスキー、我が最愛の敵(映画)』
竹林軒出張所『ノスフェラトゥ(映画)』
竹林軒出張所『フィツカラルド(映画)』
竹林軒出張所『小人の饗宴(映画)』
by chikurinken | 2013-05-31 07:41 | 映画

『フィツカラルド』(映画)

b0189364_912960.jpgフィツカラルド(1982年・西独)
監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク
撮影:トーマス・マウホ
出演:クラウス・キンスキー、クラウディア・カルディナーレ、ホセ・レーゴイ、ポール・ヒッチャー

ヘルツォークの奇想天外さに驚愕

 こちらもヴェルナー・ヘルツォークの映画。『アギーレ・神の怒り』同様、オリジナル脚本のようだが、ストーリーのあまりの奇抜さに驚く。ストーリー自体は、これも『アギーレ』同様、練り上げられたプロットなどといったものは無く、どちらかというとストレートで至極単純な展開なんだが、話自体が相当奇想天外。アマゾンの奥地にオペラハウスを作りたいという男の野望が描かれるんだが、そもそもこの設定からして意外にもほどがある。その後も、ヘルツォークの大がかりな仕掛けが次々に繰り出されてくる。映画の展開が非常にゆっくりしているため、奇想天外でありながら不自然な感じはまったくなく、なんだか自分が主人公のフィツカラルドと一緒にそういう奇天烈な世界に連れて行かれているような錯覚さえ受けるほどである。一方でこのゆっくりさが少々いらだちを覚える部分でもある。
 映像はスケールが大きく、よくこんな映画が撮れたなと思うようなものである(これも『アギーレ』と同様)。だが撮影過程で森林破壊もやったようで、いくら撮影とはいえそこまでやって良いのかと感じてしまった。主人公のフィツカラルドは、こちらも少し偏執的な男だが、『アギーレ』ほどは暴走せず、はるかに紳士的な男で、これもクラウス・キンスキーが好演している。『アギーレ』と同じ役者が演じているとは思えないほど、しっかり演じ分けられている。キンスキーはヘルツォーク監督にとって実に厄介な存在だったらしいが、それでも何度も主演として起用している。『アギーレ』とこの『フィツカラルド』を見るとその理由も分かるような気がする。この映画も『アギーレ』同様、ほとんどがロケで、ロケには相当な困難があったんじゃないかと容易に想像できるが、そういう意味でも奇跡的な映画と言って良いのではないかと思う。
1982年カンヌ国際映画祭監督賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『キンスキー、我が最愛の敵(映画)』
竹林軒出張所『アギーレ・神の怒り(映画)』
竹林軒出張所『ノスフェラトゥ(映画)』
竹林軒出張所『コブラ・ヴェルデ(映画)』
竹林軒出張所『小人の饗宴(映画)』
by chikurinken | 2013-05-29 09:11 | 映画

『アギーレ・神の怒り』(映画)

b0189364_8205934.jpgアギーレ・神の怒り(1972年・西独)
監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク
撮影:トーマス・マウホ
音楽:ポポル・ヴー
出演:クラウス・キンスキー、ヘレナ・ロホ、ルイ・グエッラ、セシリア・リベーラ

スタニスラフスキーも真っ青
キンスキー全開!


 鬼才、ヴェルナー・ヘルツォークの出世作。16世紀、南米を侵略したピサロの一隊から分離し、エルドラド(黄金郷)を求めてさまよう、アギーレの分隊の話。
 ストーリーはこの分隊の活動を経時的に追っていくもので、起承転結みたいなものはなく、ある種のロードムービーということもできる。そういうわけでオールロケである。オールロケということもあって、全体にドキュメンタリータッチになっている。オールロケといっても安直なわけではなく、ほとんどがジャングルの中での撮影で、しかも当時の風俗を再現した衣装は大変なもので、これをロケで撮り上げるというのは、並々ならぬ苦労が忍ばれる。その辺の事情は、同監督のドキュメンタリー映画、『キンスキー、我が最愛の敵』でも描かれているが、実際に映像を見ると、どうやって撮影したのか疑問に思うような箇所も結構多い。1972年に作られた作品であることを考えるとなおさらである。
 映像は今言ったように圧巻と言えるようなもので、この映画の一番の魅力だろう。特に冒頭のピサロ隊の行軍の俯瞰撮影は、他に例がない壮大なもの。これだけでもこの映画を見る価値がある。
 主演は怪優クラウス・キンスキーで、映画の中でも暴走するが、『キンスキー、我が最愛の敵』によると撮影時も相当暴走していたらしい。あまりの暴走ぶりに、エキストラの先住民が「あいつを殺してやろうか」と監督に持ちかけたという話もある。そのあたりの暴走ぶりが映像にも現れていて、キンスキー演じるアギーレが暴れるときに周囲のキャストの目が点になっているような映像もある。映画として非常に効果を上げる結果になっているが、このあたり、監督のヘルツォークのしたたかさも窺われる。
 ともかく全編、映像と登場人物に圧倒される映画で、よくこんな映画が撮れたなといろいろな意味で感心する作品だった。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『キンスキー、我が最愛の敵(映画)』
竹林軒出張所『フィツカラルド(映画)』
竹林軒出張所『ノスフェラトゥ(映画)』
竹林軒出張所『コブラ・ヴェルデ(映画)』
竹林軒出張所『小人の饗宴(映画)』
by chikurinken | 2013-05-28 08:22 | 映画

『ノスフェラトゥ』(映画)

b0189364_8514598.jpgノスフェラトゥ(1978年・西独仏)
監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク
撮影:イェルク・シュミット=ライトヴァイン
音楽:ポポル・ヴー
出演:イザベル・アジャーニ、クラウス・キンスキー、ブルーノ・ガンツ、ローランド・トパー

怪優の怪演……これ以上の
ノスフェラトゥがあるだろうか


 古典映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』のリメイクで、監督は鬼才ヴェルナー・ヘルツォーク。ノスフェラトゥを演じるのは怪優クラウス・キンスキー。クラウス・キンスキーのノスフェラトゥは、ほとんど素の状態かと思うような風貌(もちろんメイクはしているが)ではあるが、怖いったらない。素で吸血鬼を演じられるのはクラウス・キンスキーくらいのもんだろう。
b0189364_8434566.jpg ストーリーは『吸血鬼ノスフェラトゥ』とほとんど一緒で、話の展開もほとんど同じであるような印象である(ただ最後にちょっとだけ異なった味付けをしている)。そういう意味ではリメイクの鑑とも言える。前の映画はなんと言っても古い映画で、映画創生期に作られたものであるため、そのまま今の技術でリメイクするのも十分価値があると言える。しかも恐怖感も増幅され、重厚さも漂う。難があるのはメイクで、おそらく前の映画を意識してのことだろうが、かなりオーバーな、舞台劇のようなメイクがちょっとなじめなかった(キンスキー以外)。イザベル・アジャーニもメイクがすごくて、特に序盤はまったく彼女と識別できないほどである。
 全編英語で作られていて、ドイツ人監督で主演がドイツ人とフランス人であることを考えると少しだけ違和感がある。どういういきさつで英語にしたのかも分からない。作られてからしばらくは一般の劇場で公開されることもなく、結局テレビの公開の方が先になったそうで、そのあたりのエピソードも少し異色と言える。
1979年ベルリン国際映画祭美術賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『吸血鬼ノスフェラトゥ(映画)』
竹林軒出張所『キンスキー、我が最愛の敵(映画)』
竹林軒出張所『アギーレ・神の怒り(映画)』
竹林軒出張所『フィツカラルド(映画)』
竹林軒出張所『コブラ・ヴェルデ(映画)』
竹林軒出張所『小人の饗宴(映画)』
by chikurinken | 2013-05-27 08:44 | 映画

『カラヤン 〜ザ・セカンド・ライフ〜』(ドキュメンタリー)

b0189364_8343893.jpgカラヤン 〜ザ・セカンド・ライフ〜
(2012年・襖Servus TV)
監督:エリック・シュルツ
出演:ヘルベルト・フォン・カラヤン、ハンス・ヒルシュ、アンネ・ゾフィー・ムター

素顔のカラヤンは意外に魅力的♡

 帝王と呼ばれた指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤンの素顔に迫るドキュメンタリー。生前のカラヤンの映像、会話記録、関係者へのインタビューで構成される。
 カラヤンは、生前その派手な行動(自家用飛行機、スポーツカーなど)ばかりが報道され、彼の音楽性や人間性に迫られることは比較的少なかったように思う。一説にはカラヤン自身が自分の肖像や記事まで厳格に管理していたなどとも言われているが、真相はわからない。ともかくあれだけ有名な指揮者でありながら、彼の話は一般には噂レベルでしか伝わってこなかった。そのためもあり、頑迷かつ独裁的などと一部で言われ、その固陋さゆえ晩年は、指揮者を務めていたベルリン・フィルとももめていたなどと言われている。だが、このドキュメンタリーに登場するカラヤンは、割合普通の人間で、そういう点で意外な印象を与える。もちろん音楽には厳しそうだが、特に頑迷という印象もない。人間、カラヤンがよく捉えられていると言ってよい。
 僕自身はカラヤンの音楽を全般的に高く評価しているため、日本の音楽界で広がっているカラヤン・バッシングみたいなものにはまったく同調できない。このドキュメンタリーを見ると、こういったバッシングが根拠のないものであることもわかる。また、カラヤンがなぜレコードやCDの録音に執拗にこだわっていたか、彼が何を求めていたかも明らかにされ、カラヤンの志向や芸術の一端が理解できる。
 監督が、カルロス・クライバーのドキュメンタリー、『目的地なきシュプール』を撮った人であるため(エリック・シュルツ)、演出や展開はあのドキュメンタリーと驚くほど似ている。インタビューの編集方法や話し手の表情の捉え方もまったく一緒と言ってよく、『目的地なきシュプール』の後にそのまま続けて上映されても気付かないかも知れない(もちろん素材はクライバーとカラヤンで異なるが)。そういう点であまり工夫がないとも言える。全体的には無難な線でうまくまとめ上げられているといった印象である。ただ、カラヤンの映像や会話がふんだんに出てきて、カラヤンの人間性の追求という面で奏功しており、その点、ドキュメンタリーとして高く評価できるんじゃないかと思う。
★★★☆
b0189364_8381523.jpg

追記:今回僕が見たのはNHK-BSプレミアムのプレミアムシアターで放送されたものだが、DVDも出ているようで、タイトルのリンクはその(輸入盤)DVDに対するものである。内容は放送のものと同じだと思うが、もしかしたら一部違うかも知れない。その点は未確認。

参考:
竹林軒出張所『カルロス・クライバーのドキュメンタリー2本』
竹林軒出張所『マエストロ・オザワ 80歳コンサート(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アルゲリッチ 私こそ、音楽(映画)』
by chikurinken | 2013-05-25 08:38 | ドキュメンタリー

『チャップリンの黄金狂時代』(映画)

b0189364_811413.jpgチャップリンの黄金狂時代(1925年・米)
監督:チャールズ・チャップリン
脚本:チャールズ・チャップリン
音楽:チャールズ・チャップリン
出演:チャールズ・チャップリン、ジョージア・ヘイル、マック・スウェイン、トム・マーレイ

チャップリンの
初期ドタバタ喜劇の集大成


 チャップリンの古典的名作映画で、今さらあれこれ言うまでもないような有名な作品。僕自身、4、5回は見ている。何度も見ているため、比較的冷静に見て楽しむことができるとも言える。
 基本的にはチャップリン初期のドタバタ喜劇の延長にある作品で、しかし随所にチャップリンらしい悲哀みたいなものが散りばめられている。ギャグは、有名な靴の食事のシーンやパンの踊りのシーンなど、超弩級のものがあり、これは何度見ても感心させられる。やはりそういう意味でも喜劇映画の古典である。
 なお、この映画はチャップリンらがユナイテッド・アーティストを創設してから、最初の主演映画ということになる。大当たりしてユナイテッドに大きな収益をもたらしたそうだ。ちなみに今回見たのは1942年にチャップリン自身のナレーションが追加されたサウンド版である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『チャップリン自伝 ― 若き日々(本)』
竹林軒出張所『チャップリン自伝〈下〉栄光の日々(本)』
竹林軒出張所『モダン・タイムス(映画)』
竹林軒出張所『キッド(映画)』
竹林軒出張所『ニューヨークの王様(映画)』
竹林軒出張所『街の灯(映画)』
竹林軒出張所『殺人狂時代(映画)』
竹林軒出張所『サーカス(映画)』
by chikurinken | 2013-05-24 08:14 | 映画

『人は走るために生まれた』(ドキュメンタリー)

『人は走るために生まれた 〜メキシコ山岳民族・驚異の持久力〜』(2011年・NHK)
NHK-BSプレミアム

『BORN TO RUN』の恰好のサブテキスト

b0189364_843562.jpg 『BORN TO RUN 走るために生まれた』を読んだ人にはたまらない、驚きのドキュメンタリー。この本によると、タラウマラ族は外の人間と接触することを極度に嫌うという。しかも彼らが棲んでいる地は、なかなか外の人間が近づけない峡谷地帯と来ている。映像はおろか、写真もなかなか見れないんじゃないかと本を読みながら感じていて、一方で記述だけでは想像しかねる部分が非常に多く、本を読んでいてそのあたりが少し悩ましい部分だったのだ。ところがその後このタラウマラ族のドキュメンタリーがあることを知り、しかも再放送予定があることを知り、僕は驚くと共に非常な興奮を覚えた。もっともその後、DVDが出ていることも知って少々興奮は冷めたのであったが。
 さて、このドキュメンタリー、タイトルは『人は走るために生まれた』となっており、明らかに『BORN TO RUN 走るために生まれた』を意識したものになっている。で、番組の中でもこの本が紹介され、本に登場したタラウマラ族のスーパーランナー、アルヌルフォとシルビーノが番組の中にも登場。かれらの家や生活までカメラが捉えていた。本で紹介された「外の人間を寄せ付けない」イメージとはまるで違い、なんだか、こういうドキュメンタリーにときどき登場する辺境地帯の先住民族といった程度のイメージである。撮影クルーに対しても割合フレンドリーな感じである。また彼らが住む峡谷地帯もあちこちが映像で捉えられ、本で紹介されていた場所がありありと映像で示される。こういう実際の映像に接すると、本の記述はちょっとオーバーだなと感じる。
 この本のハイライトになっていたトレイルランの大会はその後も継続的に毎年開催されているらしく(Copper Canyon Ultra Marathon)、この撮影の年にアルヌルフォとシルビーノも参加して、その模様が映像に収められている。つまりあの本の記述を再現したような映像を拝むことができるんで、これは感激である。残念ながらアルヌルフォもシルビーノも思ったような結果にならず、製作者側としては残念だったかも知れないが、それでも貴重な映像である。またララパジリ(木のボールを蹴りながら長距離を走る競技)の大会の模様も収録されていて、これも非常に興味深かった。総じて『BORN TO RUN 走るために生まれた』のサブテキストとして恰好のドキュメンタリーと言える。ただ一方で、こちらのドキュメンタリーを先に見た方が具体的なイメージを伴って『BORN TO RUN』を読めたかなとも思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『BORN TO RUN 走るために生まれた(本)』
by chikurinken | 2013-05-22 08:43 | ドキュメンタリー

『BORN TO RUN 走るために生まれた』(本)

BORN TO RUN 走るために生まれた ウルトラランナーVS人類最強の”走る民族”
クリストファー・マクドゥーガル著、近藤隆文訳
NHK出版

人は走るために生まれたらしい……じゃあ走ろかな

b0189364_7471649.jpg メキシコ奥地に「走る民」と呼ばれるタラウマラ族の人々が棲んでいる。しかも彼らは外の世界とあまり交流せず、コッパーキャニオンと呼ばれる峡谷で自給生活を送っているという。ただかれらの走る能力は尋常でなく、かつてアメリカで開催された有名なトレイルランの大会でも優勝をかっさらったことがあるほど。だがなかなか彼らのの正体は掴めず、トレイルランナーの間では長い間謎だった。
 かれらに関心を持った著者は、メキシコの麻薬組織が支配する危険地域を抜け、ついにタラウマラ族と接触することに成功する。そしてその後、かれらの土地、コッパーキャニオンで開催されたトレイルランの大会に、このタラウマラ族と一緒に参加することになる。
 基本的にノンフィクションの本だが、麻薬組織の支配地域を抜けてコッパーキャニオンに迫るあたりの描写はハードボイルド小説さながらで、ハラハラドキドキの要素もある。一方で、この冒険譚と並行して、ランニング関連のさまざまな理論が挿入され紹介されていく。
 タラウマラ族の人々がトレイルランに参加したときも簡易サンダルを履いていて、平気で長い距離を駆け抜けていくが、一方でブランドものの高級ランニングシューズを履いたランナーたちは、足に故障を抱え、かれらについていくことができない。これはそもそも、高機能ランニングシューズがランニングに向いておらず足に悪いためで、素足に近いほど走るフォームも自然になり足が安定するという説も紹介される。
 また、今の人間(つまりホモエレクトゥスの後裔)は元々長距離を走ることで生存競争を生き残ってきたのであって、長距離を走ることができなかったネアンデルタール人は、体格も脳も大きかったにもかかわらず、長距離を走ることができなかったために絶滅してしまったという説も展開される。なんでも人間は他の動物より長距離を走ることができるため、獲物が疲れ果てて走ることができなくなるまで執拗に追跡を続けることで獲物を得ていたというのだ。つまり人間はそもそもその身体が長距離を走る構造になっていて、それは人間の身体の構造からも証明できるという。本書のタイトルの「BORN TO RUN 走るために生まれた」というのは、この説に基づくものである。そしてその姿を今に残しているのが、タラウマラ族だと著者は結論付ける。
 かくして、タラウマラ族の地元で、タラウマラ族参加の下、ついにトレイルランの大会が開催されることになる。これにはアメリカのトップ・トレイルランナー数人も参加する。トップ・ランナーでない著者も成り行き上参加する。さてその顛末は……というそういう本である。
 内容はなかなか深く、特に人間の身体が走るようにできているという話は非常に興味深かった。こういう話を聴くと、誰でも走りたくなるのは必定で、僕もまた長距離走を再開しようかなと考えるようになった。一方で、記述自体は密度が濃くなかなか面白かったが、話があちこちに飛び、しかも時間軸もあちこちに飛び回るため、大変読みにくい本になってしまっている。それに登場人物も非常に多く、しかも見慣れない名前が多いため、何度も何度も前のページに戻り、その登場人物を探すという作業を強いられた。こういう本の場合だと電子版で検索できると良いなと思う。実際のところ、アップルのiBooks版もAmazonのKindle版も発売されているので、電子版で読むのも一つの策かなと読み終えた今思うのだった。翻訳もやや読みづらい箇所があって、原語版にあたりたいと思った部分もあった。
 この本を読むと、タラウマラ族について非常に興味を持つんだが、実はこのタラウマラ族を映像に収めたドキュメンタリーがある。『人は走るために生まれた 〜メキシコ山岳民族・驚異の持久力〜』というDVDがそれで、なんと製作は日本のNHKである。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『人は走るために生まれた(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『激走! 富士山一周156キロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『雲上の超人たち(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2013-05-21 07:55 |

『樋口一葉物語』(ドラマ)

樋口一葉物語(2004年・ドリマックス・テレビジョン/TBS)
演出:竹之下寛次
脚本:渡辺千穂
出演:内山理名、永井大、野口五郎、かとうかずこ、前田亜季、高岡早紀、余貴美子、津川雅彦、岸田今日子(語り)

ドラマとしてはもの足りないが内山理名の一葉が光る!

b0189364_757373.jpg 樋口一葉をモデルにした単発ドラマ。元々2004年に放送されたもので、『太宰治物語』と『夏目家の食卓』が2005年に放送されているように、この頃TBSでは文豪ものドラマをたて続けに放送している。このドラマも『太宰治物語』同様、全編説明的で食い足りなさは残るものの、内山理名が樋口一葉を好演していて、それなりに見られるものに仕上がっていた。
 途中、『にごりえ』に似た話を一葉が実際に間近で見聞きするエピソードが出てくるが、このあたりは実話に基づいた話なのか、それとも架空のエピソードなのかはちょっとわからない。『にごりえ』に似た話が一葉の生きた時代に実際に起こったという話もあるにはある。ただドラマの中でのこのあたりのエピソードは、ちょっととってつけたような印象も受けたので、たぶんここら辺はフィクションなんだろうと思う。
 物足りなさはあるが、一葉の人生を万遍なく描こうとしている点は好感が持てる。そのため一葉入門と捉えればそれなりの価値はある。少なくとも、NHK-BSでやった『ドキュメンタリードラマ 恋する一葉』よりも内容ははるかに充実していた。ま、他の番組を引き合いに出す必要はないんだが。
第22回ATP賞2005優秀賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『太宰治物語(ドラマ)』
竹林軒出張所『にごりえ(映画)』
by chikurinken | 2013-05-20 08:03 | ドラマ

『激闘! 美食のワールドカップ』(ドキュメンタリー)

激闘! 美食のワールドカップ 〜フランス料理世界一をめざせ〜(2013年・NHK)
NHK-BSプレミアム

b0189364_8372943.jpg3位の重みがよくわかる

 フランスで2年に一度開催される「ボキューズ・ドール」(フランス料理のワールドカップ)の模様を伝える番組。正確にはドキュメンタリーではなくバラエティ形式になっている。いっそドキュメンタリーにしてしまえば良かったのにと思う。ドキュメンタリー映像が流れる部分で、バラエティ部分の出演者の顔が小さな窓に映し出されるが、あれがとてもうっとうしい。なんで一々あいつらの顔色を伺わなければならないのかと感じる。最近こういう演出が民放NHKを問わず散見されるが、いい加減やめたらどうだと思う。
 まそれはさておき、全編ほとんどドキュメンタリー風に撮影されていて、まずこの大会のいきさつや意義、最近の入賞者に北欧勢が多いことなどが伝えられる。基本的に各国の代表が各地域の大会を勝ち抜いて、このワールドカップに駒を進めるという形式になっていて、そのあたりはサッカーのワールドカップと似ている。開催国で本家のフランスは前々回大会3位、前回大会入賞者無しというありさまで、タイトル奪還に燃えている。一方近年上位を独占している北欧勢も意気が上がる。
 彼らに混ざって登場する日本人が浜田統之(はまだのりゆき)って人で、この人、大会の前に『アイアンシェフ』にも登場していて、僕には馴染みがある。ちなみに日本代表に過去メダリストは無く、最高順位が6位。今大会でのこの浜田氏の健闘や、フランス、デンマーク、ノルウェー代表の各シェフに密着し、この大会の準備の模様や、実際の大会での映像を交えて構成するのがこの番組。構成は非常にしっかりしていて、なかなか見応えがあり、見せ方もうまい。ただ、先ほども言ったように途中バラエティになって、出演者がコメントをはさんだりする。出演者ってのがフランス料理に造詣が深い人達ということで、森泉や中尾彬らが出てきて好き勝手なことを言い合う。途中クイズが出たりして、こういう演出が必要なのかはなはだ疑問である。こういった軽薄な展開にする必要が本当にあったのか、製作者にはよくよく考えていただきたいところだ。
 さて、ワールドカップ3カ月前の試食会で酷評されて涙を見せたりした浜田氏だが、その後、自分の欠点を克服し、本番ではなかなかの料理を作り上げた。その際に日本の職人の手による食器やプレートを使うなど、料理を魅せることにも細心の注意を払っていた。要するにこの大会、『料理の鉄人』や『アイアンシェフ』のような料理人の腕を競う大会ではなく、料理を提供する上でのプロデュース能力など、すべてを総合したプレゼンテーション能力を評価する大会というコンセプトのようだ。そういうわけで、料理自体も数カ月前からプランを練ることができるのだ。結果的にこの浜田氏、3位に入賞し(魚料理部門では1位)、堂々銅メダルを獲得したのであった。優勝者はフランス人シェフで、彼の場合、フランスの食器メーカーの全面支援を受け、本番と同じ形式のキッチン・ブースを作り上げてシミュレーションを続けるという念の入れようである。また2位のシェフも、シェフを辞めてこの大会に備えるという気合いの入り方で、やはりそれだけの準備や支援が可能な人だけが掴める栄冠、それがこの大会ということなんだろう。こういう大会が良いか悪いかは別にして、ドキュメンタリーとして見ればなかなか面白い番組だった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『鉄人の音楽』
by chikurinken | 2013-05-18 08:38 | ドキュメンタリー