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竹林軒出張所

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『花咲ける騎士道』(映画)

b0189364_838718.jpg花咲ける騎士道(1952年・仏伊)
監督:クリスチャン=ジャック
脚本:クリスチャン=ジャック
出演:出演:ジェラール・フィリップ、ジーナ・ロロブリジーダ

名作か迷作か、それが疑問

 カンヌ映画祭とベルリン映画祭で監督賞を受賞している名画だってことで見るのが楽しみだったんだが、ストーリーがあまりにお粗末じゃないか。中学生が妄想を働かせて書いたようなレベルの話で、僕が見たこの作品が、ホントに世間で評価された『花咲ける騎士道』なのか疑いたくなるほどだ。あまりにご都合主義的な展開で、これだけいい加減だとおとぎ話にもならない。
 終わりの方にチャンバラ・シーンやスペクタクルのシーンもあるが、これも無駄に長く、そして無駄なカットがはなはだ多く、見ていて退屈で退屈でならない。実は活劇シーンの途中で眠ってしまって、後で巻き戻して見直したのだ。ほとんどジェラール・フィリップのアイドル映画みたいな代物で、ジェラール・フィリップ以外、ほとんど見所がなかったぞ。そのジェラール・フィリップにしても、さかんに「王女様と結婚するんだ」などと言ってはしゃいでいて、お前は中学生かと突っ込みを入れたくなってしまうような有様だったが。
 申し訳ないが、この映画を奨めている人達にどこが良いのか尋ねてみたくなるような、そういう映画だった。はなはだ残念。
★★
by chikurinken | 2013-04-30 08:38 | 映画

『夢追い漫画家60年 (100年インタビュー)』(本)

b0189364_8595696.jpg夢追い漫画家60年(100年インタビュー)
藤子不二雄A著
PHP研究所

インタビューの形跡がまるでない

 NHK-BSの『100年インタビュー』に藤子不二雄Aが登場した回を本にまとめたもの。『100年インタビュー』は、このブログでも過去2回紹介しているが、話し手の個性が出て、大変面白い番組である。この『100年インタビュー』、DVD化されているものがある他、書籍化されているものもある。ということで、今回図書館でDVDと書籍をいくつか借りてみた。そのうちの1冊がこれというわけ。
 結論から言えば、この書籍版については失敗である。そもそもがインタビュー本になっておらず、著者のエッセイみたいな形態になっている。そのため、話し手の個性がまったく出ていない。がっかりだ。内容はもちろんそれなりに面白いが、これも同じ著者の『まんが道』などで明かされている内容とほとんどかぶっているのであまり目新しさはない。インタビューを本にするんだったら、なるべくインタビューをそのまま書き起こすようにしてほしいと思う。『100年インタビュー』がこういう形態でしか出版されないんだったら、山田太一の回を個人的に書き起こしたのも、ある意味有意義だったと言えるような気がしている(竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』参照)。
 どのページも文字が大きく(14ポイントぐらい)、しかも全体で110ページ程度しかないため、1時間もあれば読み終えることができる。『100年インタビュー』は1時間半の番組で、しかも結構密度が濃いため、かなり内容を端折っているんじゃないかと思う。正直、こういう体裁の本ってどうなのよと思ってしまった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『100年インタビュー ロナルド・ドーア(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
『トキワ荘青春日記―いつも隣に仲間がいた…(本)』
『まんが トキワ荘物語(本)』
by chikurinken | 2013-04-29 09:01 |

続・山田太一のドラマ、5本

b0189364_849584.jpg山田太一のドラマ・ベスト10
6. 男たちの旅路 第4部「第三話 車輪の一歩」
 (1979年、NHK)
7. 今朝の秋(1987年、NHK)
8. シャツの店(1986年、NHK)
9. 夏の一族(1995年、NHK)
10. 深夜にようこそ(1986年、TBS)
番外:ふぞろいの林檎たち(1983年、TBS)

 今週は山田太一関連の記事をずらりと並べたので、最後にお奨め山田太一ドラマの続編を(竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』参照)。
 前も書いたが、10本といわず15本でも20本でもベストのランキングを作ることができるが、今回もとりあえずの5本。『午後の旅立ち』や『チロルの挽歌』は相変わらず見ていない。

 『男たちの旅路 第4部「第三話 車輪の一歩」』は、鶴田浩二主演のドラマで初めて「山田太一」という名前が冠についたドラマだったらしい。このドラマができたいきさつなどは『100年インタビュー』に脚本家本人が登場したときに語られていたので、そちらを参照されたい(竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』)。初めてこのドラマを見たとき、僕は高校生だったが、突きつけられるテーマの重さとそれに対する明快な回答に目からウロコの思いがした。
b0189364_8523914.jpg 『今朝の秋』は老いと家族をテーマにした快作。レビューは先日書いたのでそちらをどうぞ(竹林軒出張所『今朝の秋(ドラマ)』)。
 『シャツの店』も鶴田浩二主演のドラマで、鶴田浩二がシャツの仕立て職人になるという珍しい設定の作品。ある夫婦とそれを取り巻く人達の、ときに哀れでときにユーモラスな人間模様が楽しく、セリフが非常に面白かったという記憶がある。
 『夏の一族』は、渡哲也が肩たたきにあう研究員の役を演じるという、こちらも異色の設定である。この渡哲也演じる元研究員と、娘を演じる宮沢りえとが対立するシーンで繰り出されるセリフが素晴らしく、それだけでこのドラマの価値があると言える。もちろんストーリーもよくできていて、藤岡琢也や柳沢慎吾との絡みも面白い。テーマはホームドラマ的だが、当時の世相も反映していて、なかなかの快作である。
 『深夜にようこそ』は、放送時に1回見ただけで記憶は乏しいが、見たときのインパクトが大きく、なんといってもドラマチックな見せ方に魅せられた。深夜のコンビニに新入りバイトとして入ってきた謎の男を千葉真一が演じるが、どう見てもものすごい遣り手企業人にしか見えず、なぜコンビニのバイトなんかしているのか謎……といった展開である。『春の一族』なんかでも同じように主人公の正体を隠したままドラマを展開させているが、こういったパターンのドラマは見る側を惹きつける上で効果的ではある。山田太一もちょくちょくこういった「謎」を利用したドラマを書いているが、確かに面白い作用を生みだしていて、『深夜にようこそ』はその代表と言っても良いかも知れない。
b0189364_853857.jpg 最後は言わずもがなの代表作『ふぞろいの林檎たち』で、その後第4シリーズまで作られたほど人気が高かった。いかにも連続ドラマという展開の群像劇で、この最初のシリーズと第2シリーズが特によくできていた。第3シリーズはほとんど記憶がなく、第4シリーズは、よくできてはいるがちょっと行きすぎだったような印象がある(第4シリーズについては山田太一自身あまり乗り気ではなかったという話を聞いたことがある)。

 で、今回紹介したドラマは、『深夜にようこそ』以外すべてDVD化されているので、興味のある方はごらんいただきたいと思う。最近、山田ドラマのDVD化が結構進んでいて(山田作品以外のドラマもそうだが)、ファンとしてはうれしい限り。といってももちろんDVDを買ったりすることはなかなかできないのでどうしてもレンタル頼みということになるんだが、有名作以外にもDVD化されているせいか、レンタルに入ってないものも多くなってきた。買うかどうするかちょっとしたジレンマもある。もう少し気軽に見れるようテレビの再放送を増やしていただくとかできないものかと思うんだが。

参考:
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年(本)』
by chikurinken | 2013-04-27 09:02

『冬構え』(ドラマ)

b0189364_818750.jpg冬構え(1985年・NHK)
演出:深町幸男
脚本:山田太一
音楽:毛利蔵人
出演:笠智衆、岸本加世子、金田賢一、藤原釜足、小沢栄太郎、沢村貞子、せんだみつお

シビアなテーマが目にしみる

 「老い」を扱った80年代山田ドラマの第二弾。この主人公(笠智衆)は『ながらえば』ほどみじめな老人ではなく、どちらかというと小津安二郎の映画に出てくる主人公のような上品さを持つ。だがその内面は実は……という話である。
 老いに直面した老人が、それについて自分の中でどうやってケリをつけるかがテーマであるが、あまりにも厳しいテーマが突きつけられるため、見終わった後はかなりヘビィな気分になる。僕自身が若い頃、この主人公みたいな潔い行動を取ろうと思っていたので、余計身につまされる。このテーマをテレビドラマでやるというのも今考えるとすごい。ただ非常に日常的なテーマであることを考えると、逆にテレビならではと言えるかも知れない。ちょっと参った。
 最近の山田太一は「老い」をテーマとして書いているが、このドラマのような悲観性はない。『ご老人は謎だらけ』(竹林軒出張所『ご老人は謎だらけ 老年行動学が解き明かす(本)』参照)という本に、人間年を取ると非常に楽観的になるというような記述があったが、最近の山田ドラマは「老い」に対して非常に楽観的である。実際に当事者になってみるとさすがに「老い」についてこのドラマほどネガティブに捉えることはないということなんだろう。それを考えると、この頃のドラマは、「老い」に対してかなり意地悪な見方をしているとも言える。
 出演は、これまたうまい人ばかりをよく集めたなというラインアップで、特に岸本加世子はこの登場人物にぴったりはまっている。おそらく山田太一は岸本加世子のことを念頭に置いてこのシナリオを書いたんじゃないかと思う。藤原釜足、小沢栄太郎はもちろん言うまでもなく、金田賢一もいい味出している。ただ、沢村貞子のエピソードは本当に必要だったか少々疑問である。
 この『冬構え』と、少し前に紹介した『今朝の秋』『ながらえば』の3本が、笠智衆主演の「老い」を扱った80年代の作品で、いわば「老い」三部作と言える作品群である。放送されたのは『ながらえば』(82年)、『冬構え』(85年)、『今朝の秋』(87年)の順である。この3本とも同じ登場人物であってもおかしくない(つまり3作を通じて、この年代順に同じ登場人物が年を経たと考えるられる)ような、まとまりの良さが3本を通じてある。この3本、おそらく日本のテレビドラマの最高到達点と言えるような作品群で、こういったドラマをたて続けに出し続けた山田太一と当時のNHKの豪腕ぶりは、今のうすら寂しいドラマ事情を考えるとすごいものがあると思う。
第22回プラハ国際テレビ祭最優秀演出賞受賞、第25回日本テレビ技術賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『ながらえば(ドラマ)』
竹林軒出張所『今朝の秋(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
by chikurinken | 2013-04-26 08:19 | ドラマ

『100年インタビュー 脚本家 山田太一』(ドキュメンタリー)

b0189364_0295430.jpg100年インタビュー 脚本家 山田太一
(2013年・NHK)
NHK-BSプレミアム

山田太一が語るテレビ60年

 テレビ放送開始60年記念ということで、テレビと時代をともに歩いた脚本家、山田太一が『100年インタビュー』に登場。前に見たロナルド・ドーア氏の『100年インタビュー』もなかなか見応えがあった(竹林軒出張所『100年インタビュー ロナルド・ドーア(ドキュメンタリー)』参照)が、この山田太一編も非常に面白かった。
 内容も、テレビ観やテレビドラマの可能性をはじめ、脚本家になったいきさつや、脚本家の名前がドラマのタイトルにつくようになったいきさつ(山田太一が初だったらしい)など非常に多岐に渡り、しかも内容が非常に濃い。あまりに素晴らしいんで書き起こしてここで紹介しようと思ったが、分量が相当なものになったのでやめておく(400字詰め原稿用紙60枚分)。
 実際にインタビューの箇所は全部一生懸命入力したんだが、これまでいくつかの『100年インタビュー』のタイトルがDVDや書籍で発売されていることが分かってしまって、ここで全部出してしまうのは問題があるのでは……と思うようになった。それに書籍の形で出るのであれば、何もこんな大変な思いをして入力する必要はなかったんではないかとも思う。結構な労力だったんだ、本当のところ。ま、それでもせっかく入力したんで、著作権を侵害しない程度に以下に一部だけ紹介しておこうと思う。ちょっと読んでいただければわかると思うが、語り口が優しく、それに聞き手の渡邊あゆみが話しやすい雰囲気を作っていて、質問も適切で、インタビューとしては大成功なんではないか……と思いますですねぇ、はい。
 なお、この番組で取り上げられ話の中で触れられた山田作品は、『男たちの旅路』、『岸辺のアルバム』、『ふぞろいの林檎たち』、『日本の面影』の4作品。どれも興味深い話が聞けた。『男たちの旅路』の「車輪の一歩」は、僕が山田太一を意識し始めた最初の作品で、その製作のいきさつが聞けたのはとても有意義だった。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『100年インタビュー ロナルド・ドーア(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1 続き(補足)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2 続き(補足)』
竹林軒出張所『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年(本)』

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「100年インタビュー 脚本家 山田太一」より
話し手:山田太一、聞き手:渡邊あゆみ
場所:NHK放送博物館

b0189364_0314980.jpg● 脚本家になったいきさつ
渡邊:……テレビって長いこと電気紙芝居って映画の方(かた)に言われてたとか言ってますが……
山田:そうそう(笑)、そういう空気、それはもちろん電気紙芝居と言いながら、実はこれはすごく、後でこう広がっていくぞっていう予感はあったもんですから、わざと気がつかないふりをしてたっていうふうなとこもあったり、それからまあ、テレビの方へ行こうかなっていうような人達もきっといたと思いますけれども、私はその中では結構早めにテレビの方へ行っちゃったというか、これはまああの、木下恵介さんという、先生の組に僕はついていたもんですから……
渡邊:松竹の木下恵介組の助監督でいらした……
山田:はい、助監督でしたんで、木下さんがあのー、最後の映画に近い頃ですかねえ、テレビ局の方と代理店の方が木下さんに、なんとかテレビへ来て作ってもらえないかっていうのをすごく……熱心にいらっしゃってたんです。それならあの、松竹との専属契約は切る、で、テレビに一枠持つっていうふうにだんだん決心を固めていかれたんですね。だけどいきなり行ったってテレビわかりませんから……
渡邊:あ、やっぱり全然違うんですか、テレビと映画は……
山田:そりゃもう全然違います。
渡邊:はい、どういう、特に大きな違いというのは……
山田:大体つまり、映画だったらワンシーン1日ぐらいですよね……
渡邊:えっ?
山田:ええ(笑)。
渡邊:そんなに時間かけて撮るんですかっ?
山田:ええ、巨匠の組は特にね。
渡邊:はい。
山田:ですから、そりゃもう、悠々たるものでしたですね。ライティングの時間も長いし……ですから、あのテレビを知らなきゃしようがないっていうんで、木下さんがテレビを少し見てみるっていうかやってみるっていうのかご自分で少しホンを、脚本をお書きになって、で実際に指揮するのはテレビ局のディレクターに任せて、それでそばにいようっていうことになったんですね。しかし木下さんって大巨匠でしたから、お一人でテレビ局へ来られても、テレビ局の人も困るわけですよね。ずっとちょっとそこにいてっていうわけには行かないから。それで誰か一人つけてくれないかって言われて、それで「君来い」って(笑)、木下さんおっしゃったんで、ずっとカバン持ちして局を歩いたんです。
渡邊:修行期間になったわけですね。
山田:そうですね(笑)。ですからそれで僕は割合スムーズにテレビにこう馴染むことができまして、そうすると30分のドラマでしたけれども、1年間続くっていうとそりゃあ木下さん一人でお書きになれるわけがないんで、それで……
渡邊:毎週1本ってことですか?
山田:そうです。で、「君よすか、松竹を?」って……(笑)
渡邊:やめなさいって言われたんですか?
山田:(笑)いやいやいや、やめなさいとは言われない。
渡邊:松竹退社ってことですか?
山田:ええ。まあ要するに、あの僕があまりディレクターに向いていないとお思いになってたのかもわかりません。それで、脚本書く方が向いてると思ってくださったのかもわかりませんが、「それじゃあよします」って言って、それでもう後は「どんどん書け、どんどん書け」って言われて、書いてるうちにライターになっちゃったという。

● テレビの可能性
渡邊:その頃の、テレビの中でのドラマの影響力、一般の人への影響力っていうか、どういう可能性をそこに見られました?
山田:(考え込んで)テレビ界に入っていったときには、活気がものすごくありましたですね、ええ。それでもうみんなで何かやれる何かやれるって、しかも映画とは違うものをやろうっていうような意気込みが非常に局の人達にもあって、それからなんか、すごく映画みたいに時間がかからないで、1本の作品が作れますでしょう。ですから少々実験的だったってあんまりみんな文句言わないで、そういうことで切り開いていった時期だったと思いますですね、テレビの可能性を。で、それからお客様がいろんな他のメディアがある中でテレビをご覧になるんじゃなくて、実にテレビっていうものは珍しいもので面白いもので、そこでつまりドラマがあるっていうことで、毎週ちゃんとみんな忘れないでその時間になったらテレビの前に座るっていうようなね、そういう集中度がありましたですねぇ。ですから反応もこうビビッドにあったりして……視聴率ってのはそんなに言われなかったけども、実感としては、あの頃の方が、テレビの、テレビドラマが社会の中に入り込んでいく力はあったような気がしますですねぇ。
渡邊:その頃のテレビと映画の違いというのは何でした?
山田:長時間、つまり連続(ドラマ)に関して言いますと、長時間時間が使えますでしょ。たとえば10回連続だったら10時間ぐらい。
渡邊:あ、連続ドラマになるから(納得)。映画だったら2時間とか……
山田:まあいくら長くても3時間ぐらいでしょう。テレビドラマの連続ってなると10時間とか20時間とか、長いものはね、そりゃもう全然つまりスピードが違うんですよね。ですから、細かなルールみたいなものもあんまり縛られなくて、で、つまんないことも撮れるっていうんですかねえ……(笑)
渡邊:はい?
山田:あの、玄関入ってきて、こんちはって言ってずっと下駄脱いで上がって茶の間へ来るまで、全部を撮っていく。その一つ一つに芸術的な緊張とかはないんだけれども、そういうところで拾える細かなデテールの面白さ、つまずいちゃったりしても撮り直さないでそのままいくとかね、何かそういう自由感みたいなもの、そして映画だったら省略してしまうようなものをみんな拾えたような気がしますですね。
渡邊:その連続する時間の長さでいろんなことが描ける、ということ……
山田:ええ。つまり事件を追ってどんどんっていうようなものももちろんあの頃もありましたけれども、そういう犯人は誰だ誰だっていうドラマだったらば、他の日常の描写をしたら何を変なところで立ち止まってんだよって怒られちゃうでしょ(笑)。
渡邊:はい。
山田:だけどホームドラマだと、立ち止まっても別に違和感はないわけですよねぇ。
渡邊:自分たちの生活と同じっていうことですからね。
山田:そうそう、そうですねぇ。ですからとりあえずそういう面白さはありましたですねぇ。
渡邊:ああ、書き込めるっていうことですか。
山田:そうですね。つまんないことまで拾えちゃうっていうことね。
渡邊:はい。その、映画ってやっぱり大きなこと扱ったり、非常にインパクト強いものですけれど、テレビってもっと自然に私達の隣にあったような気がするんですが。
山田:そうですね。
渡邊:それはその、ドラマを書く上ではどうなんでしょうかね。
山田:ええ。そこが面白いっていうふうに思いましたですね。たとえば小津安二郎さんの映画なんか、あれは大した事件がない話ですけれども、それでもワンカットにもう何時間もかけて、ほんと2日もかけて「うん」というとこだけ撮るとかいうような緊張と全然違うところで、ドラマは作れていくわけですよね。それの、なんか情けなさもあるけれども(笑)、楽さって言うのかな、なんかその、映画と違う世界、時間が流れているっていう……気楽さもあったと思いますですねぇ。それから、映画と違おう違おうっていうふうにちょっと思っていたところもありますですねぇ。

● 脚本家の名前がドラマのタイトルにつくようになったいきさつ
(脚本家の名前を冠したドラマ、『男たちの旅路』が登場した件について)
b0189364_0334976.jpg山田:あれはあの、脚本家っていうのが本当に名前が出なくて、オリジナルで書いても、まあたとえば、マスコミやなんかもほとんど書いてくれないっていう時期が、まあ70年代の初めあたりですかねぇ、あって……
渡邊:普通小説家ですと、小説のタイトルと小説家の名前はセットですね。
山田:そうそう。
渡邊:でもテレビのドラマは、山田太一さんの名前こそその時代出てきましたけど……
山田:出てきてもみんな印象に残ってないっていうみたいになってて、それで倉本聰さんとか向田邦子さんとかと、それから早坂暁さんとか、「なんか悔しいじゃない」というような話はしてたんですね(笑)。そしたらNHKが『土曜ドラマ』というのを今度始めるについては、一人ぐらい脚本家の名前を被したものをやろうと思っていて、お前にその気があれば書かないかって言われて、そりゃもちろん書きますって言いますよね。そしたら、条件は鶴田浩二を主役に書いてくれれば何書いてもいいって言われたんですよね。それで、鶴田さんところへ会いに行って、やっぱり戦争、まだ戦争を忘れない人はたくさんいましたから……
渡邊:70年代まではいましたね。
山田:ええ、ええ。ですから戦争を体験して、同じ世代がいっぱい死んでる人達が、これからのつまり繁栄の日本をね、ただ楽しむっていうんじゃなくて、一人ぐらいは忘れないで、死んだ人達に義理をたてて一人で生きていこうって決心した人、そういう人を描きたいっていうふうに思ってね。そりゃま、鶴田さんが、特攻隊で死んだ人達を忘れられないって……
渡邊:特攻隊の生き残りという人でしたもんね。
山田:ええ、ええ、そういうことを一生懸命熱心にお話しになるんで、あ、じゃあそうしようって。それで私はそれよりも10歳ぐらい若いのかな。だから、もう少し若い人の気持ちもわかるから、中間世代の、若い人と、ま、特攻隊世代との両方を描いてみようと思ったんですね。それで、まあ、ああいう作品ができたんですけども、やっぱりそりゃあ成功しないと、他の脚本家に影響がありますから(笑)、絶対こりゃあ、それこそ視聴率取りたいなと思って(笑)、いつもの僕のやり方とはちょっと違うね、一つのワンテーマを作って、そのテーマにどういうふうに鶴田さんは考えるか、若い人はどう考えるかっていうふうにして、ワンテーマずつ書いていこうと思ったですね。そりゃ非常にテレビ的だったと思いますね。
渡邊:そのテーマが、今でも古くない。バリアフリーの問題だとか、ま「シルバーシート」、お年寄りが電車をジャックしてしまうというね、その発想で、自分の主張というものを訴える。非常にその、社会に切り込んだという印象があるんですが。
山田:そうですね。そういうふうに作ろうと思っておりましたから。

● テレビドラマの訴える力
渡邊:それをあの70年代、もう日本が、戦争を忘れてる世代が多くなってきて、高度成長期を経験し、非常に豊かになっている、そのときにあえてそれを出してくる。というのはどういう……あの……
山田:やっぱり、そういうふうに反応する人間が出てきてもいいんじゃないかとは思いましたですね。みんな、だんだんもう戦後ではないみたいなことを言いだした。ねえ、そうじゃないだろうって気持ちはありましたですね。それと、ひとつずつお年寄りのことは、今とは随分違いますけれども、あの頃は「養老院」って言ってましたですね。
渡邊:そうですね。「養老院」って言葉がありました。
山田:それでお国がお金を出してくださってるから、院長さんの言うことはきかなきゃいけないっていうみたいな。だけど老人たちは、人に言えないけども、おかしいって、俺たちこんな扱い受けるのおかしいと思ってて、それでまあ電車をジャックして、じゃあ要求は何かっていうと俺たちを重んじよとは言えませんよね(笑)。だから要求はありませんとか言って閉じこもってるから。言ったら終わりみたいなプライドがあるわけですよ。ねぇ。だけど無念だ、この扱いは無念だと思ってる人を描いてみたいと思ってて、電車ジャックを……警察にみんな最後は連れて行かれちゃう話ですけども、あのまあ、今でもそうやってジャックしたい老人もいるかもわかりませんですね。
渡邊:それからあのいまだにその、バリアフリー、ユニバーサルデザインっていろいろなことは言われるけれども、けしてそんな十全になっていないというこの、だけど自分たち見てみぬふりをしていたかも知れない、気が付きもしなかった。
山田:そうですね。
渡邊:それをドラマでやられてしまったという感じでしたね。
b0189364_0344624.jpg山田:ええあの……非常に反響も多くて、むしろその、車椅子の人達が社会の邪魔になろうと思って訴え始めるっていうことではジャックと、電車ジャックとちょっと似てるんですけども(笑)、いまだに大学やなんかで「車輪の一歩」っていうのはね、教材に使ってるって方がいますですねぇ。まああれも、随分……3年ぐらい、身障者の方とつきあって、それで、ああこの視点だったら書いてもいいなと思って書いたんですよね。
渡邊:その書いてもいいなというのはどういうことですか?
山田:まあみんななるべくうちにいた方が良いよっていうふうな、外行くと迷惑になるからっていうような……人の迷惑にならないということが一つの美徳として言われていて、それは僕はその通りだと思うけれども、でもギリギリの迷惑っていうものまでかけないようにするっていうことだと、身体の不自由な人達はただうちにいればいいっていうふうになってしまう(笑)っていうことですね。ですから迷惑をかけようっていうふうに、かけてもいいんだよってことを鶴田さんが言うわけですけども、身障者の人達がそういうふうに言うっていうのは、社会的には「なんだこいつら、自分のことを(迷惑を)かけてもいいじゃないかって言う」っていうふうに反感を持つだろう、だからこれを鶴田さんが、みんなは遠慮してんのに「君たちは迷惑をかけてもいいんだ、ギリギリの迷惑はかけてもいいんだ」って言う方が、見てる方(かた)が受け入れやすいでしょうっていうふうに言って、まあその人たちと話しして分かってもらって、それでああいう形にしたんですよ。
渡邊:ああ。でもそういうことを、その、まだ当時茶の間というものが存在したと思うんですけど、家族で見てる中に、こういうテーマをぽーんと投げ込んでくる。メッセージをやっぱり山田さんの場合には、非常に強くこう、あのドラマに関してはそう感じました。
山田:あのドラマはそうですね。もうそういうふうにはっきり、そういうドラマを書こうと思って書きましたですね。
by chikurinken | 2013-04-24 08:27 | ドキュメンタリー

『ながらえば』(ドラマ)

b0189364_9495713.jpgながらえば(1982年・NHK)
演出:伊豫田静弘
脚本:山田太一
音楽:湯浅譲二
出演:笠智衆、長山藍子、佐藤オリエ、中野誠也、宇野重吉、堀越節子

山田太一「老い」三部作、第一弾

 妻と離ればなれになった老人(笠智衆)が妻に会いに行くという一種のロードムービー。その過程で、老人ならではのさまざまな難問が降りかかってくる。ということでテーマは「老い」である。前にこのドラマを見たときは僕も若かったが、今回はどっちかというと主人公に近い境遇なので、結構身につまされる……というか、自分に置き換えて考えることが多かった。全編なんとなく『はじめてのおつかい』みたいになっていて、「子どもじゃないのよ、老人はハッハァー」くらいのことは言ってやりたくなるんだが、同時に老人として生きるのはそんなに大変なんだろうかと考え込んでしまう。
 途中、ストーリーを作りすぎている箇所があってちょっと白けてしまう部分もあるが、それでもよくできたストーリーと言えると思う。笠智衆と宇野重吉の絡みは、老人側からのアピールみたいになっていて、同じ脚本家の『男たちの旅路 シルバーシート』を思い出させる。ちなみに『シルバーシート』の主役も笠智衆である。
 笠智衆が山田太一ドラマで主演しているのは、『シルバーシート』とこの『ながらえば』の他、『今朝の秋』『冬構え』があり、すべてDVD化されている(助演で出演しているのは『沿線地図』、『夕暮れて』、『春までの祭』の3本)。どれも野太いテーマを扱っており、山田太一の真骨頂と言えるような作品ばかりだ。
 長山藍子、佐藤オリエ、中野誠也ら他の役者も非常にうまく、演出もしっかりしている。当時は、こういった映画並みかそれ以上の水準を持つ重いテーマのドラマが普通に放送されていたんだなと思うと随分時代が変わってしまったもんだと感じる。ともかく80年代の山田ドラマはすごい。
第23回モンテカルロ国際テレビ祭ゴールデンニンフ賞、
第37回芸術祭優秀賞、第10回放送文化基金賞本賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『冬構え(ドラマ)』
竹林軒出張所『今朝の秋(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
by chikurinken | 2013-04-23 09:52 | ドラマ

『今朝の秋』(ドラマ)

b0189364_8365695.jpg今朝の秋(1987年・NHK)
演出:深町幸男
脚本:山田太一
音楽:武満徹
出演:笠智衆、杉浦直樹、杉村春子、倍賞美津子、樹木希林、加藤嘉、名古屋章

「多少の前後はあっても
みんな、死ぬんだ」


 1987年に放送された山田太一作の単発ドラマで、数々の受賞歴が示すように評価の高い作品。
 一人暮らしのとある老人(笠智衆)が、50台になる一人息子(杉浦直樹)が末期ガンであることを知るところから話が始まる。息子を送る側になってしまった老人、先に逝く息子、それを取り巻く人々などをめぐる話で、家族について考えさせられる一本。山田太一によって提示される家族観は結構シビアで、うへっと思うようなセリフも出てくる。セリフの中でも特に秀逸なのが、自分の死が近いことを知った息子と父との言葉少なではあるが、重く、そしてウィットに富んだ会話。

父 「多少の前後はあってもみんな、死ぬんだ」
息子「(父を見る)そうですね……みんな死ぬんだよね」
父 「特別なような顔をするな」
息子「(苦笑い)言うなぁ、ずけずけ。しかしね、こっちはまだ50台ですよ。
  お父さん、80じゃない。こっちは少しは特別な顔するよ(笑うが、涙が
  あふれる)」

 出演も笠智衆、杉村春子と小津安二郎作品を彷彿させるようなメンツで、内容も松竹大船調と言ってよい。小津映画の正当な継承者は山田太一だったのかと感じさせられる。息子役の杉浦直樹は山田ドラマの常連で、このドラマでも素晴らしい演技を見せる。
 演出の深町幸男も、山田太一とよく組んでいる人で、山田脚本の魅力を余すところなく表現している。武満徹の音楽もドラマ展開を邪魔せず、それでいてさすが武満徹とうならせるような素晴らしいものである。ドラマのさまざまな要素が高いレベルで一体化し、独自の世界を形作っている。
 80年代は山田太一の全盛期で、この頃は名声も高かったせいか、オリジナルのドラマをたくさん発表している。その中でも最高峰と言える作品で、特にセリフが光る傑作である。
プラハ国際テレビ祭大賞、第14回放送文化基金賞本賞、毎日芸術賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『ながらえば(ドラマ)』
竹林軒出張所『冬構え(ドラマ)』
竹林軒出張所『旅立つ人と(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
b0189364_8375892.jpg

by chikurinken | 2013-04-22 08:41 | ドラマ

『東京・山谷 バックパッカーたちのTokyo』(ドキュメンタリー)

ドキュメント72時間・選「東京・山谷 バックパッカーたちのTokyo」
(2006年・NHK)
NHK総合

b0189364_9103732.jpg『You……』の元ネタ?
……だと思う。間違いない!


 ある場所で72時間連続で取材し、そこに出入りする人々の人生をあぶり出す番組、「ドキュメント72時間」。2005年から2007年まで第1シリーズが放送されていたらしい。全然知らなかった。今年から第2シリーズが始まるということで、過去の傑作選が先日放送された。その第2回目が「東京・山谷 バックパッカーたちのTokyo」である。
 現在テレビ東京系で放送している『Youは何しにニッポンへ』(竹林軒出張所『アドリブの相乗効果 - 「YOUは何しに日本へ?」が面白い』参照)も同じように、成田空港で長時間に渡って外国人にインタビューを続けていくという番組で、コンセプトは同じ。というかおそらく『Youは……』が『72時間』のネタをぱくったんだろうと思う。ただし『You……』の方が定点観測にこだわらず、アドリブでどこでも取材対象者についていくという自由さがあって、それが面白さにつながっている。『72時間』の方は、もっと突っ込んでくれよと思うシーンが多かったのも事実。ただしこの「バックパッカー」の回は非常に充実していた。出てくるのが外国人が多いというのも『You……』と共通している。
 この番組で定点観測されるのは、東京・山谷にある、とある安ホテル(簡易宿泊所)。山谷といえば日雇い労働者の町として有名だが、ここに安宿が多数存在するため、今では(2006年の時点)海外から日本に訪れたバックパッカー(お金を節約したい旅行者)がよく出入りするようになっているという。海外で発売されている日本のガイドブックにも山谷のこのホテルが紹介されているほどである。
 さて、そういった数々のバックパッカーに例によってインタビューしていくんだが、どの人々も日本の文化に大いなる関心を抱いている点が共通している。正直、渋谷のファッションとかアキバのゲーセンとか何がそんなに魅力的なのかにわかに理解できないが、そういうのが面白いらしい。中には3年も逗留している人もいて、英会話の教師をしながら自分の人生を模索している。2013年の今だとこういう外国人の話もよく耳にするし、こういうホテルがドラマで使われるのも目にしたりして(『終電バイバイ』の第3回、竹林軒出張所『終電バイバイ(2)〜(4)(ドラマ)』参照)あまり驚きはないが、2006年にこれが放送されていたことを思うと、当時、日本人視聴者に相当なインパクトを与えたんではないかと思われる。世界にはいろんな人がいるもんだなぁと考えさせられる1本であった。
★★★★

参考:
YouTube『東京・山谷のバックパッカーに密着 #02』(この番組の一部)
竹林軒出張所『アドリブの相乗効果 - 「YOUは何しに日本へ?」が面白い』
竹林軒出張所『終電バイバイ(2)〜(4)(ドラマ)』
by chikurinken | 2013-04-20 09:12 | ドキュメンタリー

『いじめの果てに』(ドキュメンタリー)

いじめの果てに 〜少女フィービー・プリンスの悲劇〜
(2010年・アイルランドTV3Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー シリーズ「教育現場は今」

アメリカ発のいじめ事件

b0189364_949860.jpg 日本の学校でたびたびいじめが問題になっていて犠牲者も出ているのはご承知の通り。なかなか簡単には解決できない難しい問題で、せめて身内の者にはいじめに加担する側にもいじめ被害を受ける側にも回ってほしくないと願うことくらいしかできないのが現状である。とは言え、犠牲者が出るたびに、当事者の学校や教師、自治体に対して世間から強い突き上げが起き(多くは非常に身勝手で利己的な主張であるが)、教育現場では少しずつ改善が進んでいるという状況ではないかと思う(以前は今以上にひどかったという印象である)。それでもなかなかいじめの根絶に至ることはないもので、そういう状況について日本の一部の有識者やマスコミ関係者がかつて、いじめは日本特有のもので、アメリカやヨーロッパにはないなどとしたり顔で語っていたことが思い出される。
 しかし実際のところは、どこの国でも状況は大して変わらず、いじめは存在し続ける。この『BS世界のドキュメンタリー』でもたびたび海外のいじめ問題のドキュメンタリーが放送されてきたが、今回放送されたのは、2010年にアメリカのマサチューセッツ州で起こった「いじめの果ての自殺」事件についてのもの。
 アイルランドからアメリカの高校に転入したフィービー・プリンスは、聡明で明るく、前の学校ではむしろ人気を集めていた生徒だった。アメリカの高校への転校後、学校で非常に人気のある男子生徒2人とつきあい別れたことから、その男子生徒のファン・グループの女子生徒から執拗ないじめを受けるようになる。嫌がらせや脅迫、果てには執拗なストーカー行為が数人の女子生徒によって繰り返され、ついにフィービーは自宅で首つり自殺をしてしまう。学校当局はしばらくの間いじめの存在を公表せず、いじめの加害者生徒も処罰されることはなかったが、ある地元新聞がこの事件を問題視したことから、全米から学校に対して批判が繰り返されるようになり、学校側もようやく重い腰を上げる。一方で捜査当局も動きだし、加害者生徒が刑事告発されることになった。
 このドキュメンタリーではこの事件の顛末が順を追って語られるんだが、その図式は日本で起こる事件とまったく変わらない。そして日本と同様、マサチューセッツ州でも事後処理的に対策がとられていくことになる。なんでもいじめに対する刑事罰を規定した法律ができたということで、これもかつて日本でさまざまな議論を巻き起こした「少年犯罪の厳罰化」を想起させる。つまるところいじめは世界共通であり、要は学校、社会がそれに対して適切な対策をとらなければいつまでも被害者が出続けるということなんである。
 個人的には、どんな対策を施したところで子供の(大人もだが)いじめ自体がなくなることはないのだから、何よりも学校環境の風通しを良くして、いじめがエスカレートする前に露見するようにし、周囲の人間をできる限り多くその「事件」に巻き込むようにするのが対策の第一歩ではないかと思っている。難しいかも知れないが、やりようによっては一番簡単な方策ではないかとも思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『カナダ いじめ撲滅プロジェクトの1年(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『追いつめられて 〜アメリカ いじめの実態〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『いじめを語ろう 〜カナダ ある学校の試み〜(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2013-04-19 09:50 | ドキュメンタリー

『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』(本)

b0189364_8452364.jpg仲代達矢が語る 日本映画黄金時代
春日太一著
PHP新書

一俳優の視点からの戦後日本映画史

 俳優の仲代達矢のインタビューをまとめた本。ただし、一般のインタビュー本みたいに質問と回答が交互に出てくるわけではなく、仲代達矢の一人語りみたいな記述になっている(途中、その話の内容を補足するような記述が挿入されている)。一般的に、インタビュー本を読む人は、話し手のことを知りたいと思って読んでいるわけで、著者のことを知りたいと思っているわけではない。そのため、インタビュアーの方がしつこくしゃしゃり出る本は正直言って大変鬱陶しいんだが、この著者はその辺をよくわきまえているようで大変好感が持てる。
 で、この本の主人公、仲代達矢だが、「はじめに」でも記述されているように、戦後日本映画で重要と考えられる多くの監督の作品に出演している。黒澤明、小林正樹、市川崑、岡本喜八、勅使河原宏、山本薩夫、五社英雄をはじめ、木下恵介や成瀬己喜男の映画にも出ていて、ある意味、戦後日本映画史を体現している俳優と言うことができる。その仲代達矢が、さまざまな監督のこと、他の俳優のこと、若い頃に所属していた俳優座のことについて率直に語っていく。さらに、あるいは『乱』(黒澤明監督)の現場の話だったり、あるいは勝新太郎や三船敏郎との交友関係だったり、映画ファンにとっては興味の尽きない話が続く。
 特に印象に残ったのは、小林正樹が晩年不遇だったという話。『怪談』でこけてからは自宅も手放し二間の家に住み続けていたという話はちょっと悲しくなる。小林正樹と仲代達矢が組んだ『切腹』と『人間の條件』は日本映画史に燦然と輝く金字塔だと思っているが、その小林正樹が晩年あまり評価されなかったというのもある意味情けない話である。この話はまったく知らなかっただけに少し衝撃を受けた。なお本書ではこの『切腹』と『人間の條件』についてもかなり紙数が割かれている。他にも仲代達矢が出演している諸作品、たとえば勅使河原宏監督作品の『他人の顔』、山本薩夫監督作品の『華麗なる一族』『金環蝕』『不毛地帯』、岡本喜八の『殺人狂時代』などについても詳しく語られている。もちろん黒澤作品もある。どの映画でも仲代達矢は非常に個性的な味わいを出していて、戦後の日本映画で大きな役割を果たしていることがよくわかる。それにしても仲代達矢の出演作、役柄は実に多岐に渡っていることよなあと、フィルモグラフィーを見てあらためて感じるのであった。
★★★☆

参考:仲代達矢出演映画
竹林軒出張所『切腹(映画)』
竹林軒出張所『肉弾(映画)』
竹林軒出張所『鍵(映画)』
竹林軒出張所『他人の顔(映画)』
竹林軒出張所『殺人狂時代(映画)』
竹林軒出張所『華麗なる一族(映画)』
竹林軒出張所『金環蝕(映画)』
竹林軒出張所『不毛地帯(映画)』(以上は本書に登場)
竹林軒出張所『吾輩は猫である(映画)』
竹林軒出張所『姿三四郎(映画)』
竹林軒出張所『二百三高地(映画)』

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以下、以前のブログで書いた『人間の條件』と『怪談』についての記事の再録。

(2005年11月26日の記事より)
b0189364_8463755.jpg人間の條件 第一部純愛篇第二部激怒篇
(1959年・松竹)
監督:小林正樹
原作:五味川純平
脚本:松山善三、小林正樹
出演:仲代達矢、新珠三千代、山村聡、淡島千景、石浜朗、宮口精二、小沢栄太郎、有馬稲子、安部徹

小林正樹の大作映画、『人間の條件』の3部構成の第1部。第一部から第六部まで全部で9時間以上にもなる。まさに大作。
声高に反戦を叫ぶのではなく、日中戦争の現実を正面から突きつける。人間らしく生きようとする実直な人間、梶(仲代達矢)に対して、現実によって次から次へと難題が突きつけられる。『第三部/第四部』、『第五部/第六部』ではさらに悲惨な現実が突きつけられることになる(20年前、名画鑑賞会で3日がかりで全編見たことがある)。
演出も手堅く、古臭い演技も多少あるが、全体的によくまとまっている。
満州の壮大な風景や、よくできたセットが、スケール感を出している。当初、ロケを大陸でやったのかと思っていたほどだが、実は北海道と信州、九州だったのだ……。
★★★☆
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(2005年12月9日の記事より)
b0189364_8465383.jpg人間の條件 第三部望郷篇第四部戦雲篇
(1959年・松竹)
監督:小林正樹
原作:五味川純平
脚本:松山善三、小林正樹
出演:仲代達矢、新珠三千代、佐田啓二、渡辺文雄、安井昌二、桂小金治、藤田進、川津祐介

小林正樹の大作映画、『人間の條件』の3部構成の第2部。
前の第一部/第二部がシャバ編で、これが軍隊編。まったく理不尽で不快きわまりない軍隊(関東軍)の様子が赤裸々に描かれている。先日見た小津安二郎の映画で「戦争中はくだらないヤツが威張り散らしていた」というような台詞が出てくるが、この映画でも本当にくだらないヤツが威張り散らしている。非常にリアルだ。
原作者も監督も軍隊体験者だそうで、そりゃリアルなわけだ。終わり近くの戦闘シーンは、ド派手な戦争映画と違って激しいドンパチもないが、たまにニュース映像で目にするイラク、アフガン、ユーゴなどの戦場の感じと非常に良く似ており、逆に臨場感というかリアルさを感じた。
約3時間、まったく飽きることなく引っ張り回される。戦争に対する想像力を欠いた好戦的な若者にも見てほしい映画だ。
★★★★
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(2005年12月10日の記事より)
人間の條件 第五部 死の脱出人間の條件 第六部 曠野の彷徨(1961年・松竹)
監督:小林正樹
原作:五味川純平
脚本:松山善三、小林正樹
撮影:宮島義勇
出演:仲代達矢、川津祐介、高峰秀子、中村玉緒、内藤武俊、岸田今日子、金子信雄、新珠三千代

b0189364_854264.jpg小林正樹の大作映画、『人間の條件』の3部構成の完結編。
前の第一部/第二部がシャバ編、第三部/第四部が軍隊編、そしてこれが敗走および捕虜編。
どこにいても、周囲とぶつかり合う、まっすぐな人間、梶。ここでも、強力なリーダーシップを発揮しながら、周囲の姑息な人間たちとぶつかっていき、同時に超人ぶりを発揮する。まったく息もつかせぬ面白さだ。
しかし日本映画にこれほどの作品があったことにあらためて感心した(見たのは今回で2回目だが)。迫力といいリアリズムといい、メッセージ性といい、文句の付けようがない。日本映画を代表する名画と言える。小林正樹は、黒澤明や小津安二郎ほど、個人として高い名声が与えられていないようだが、『切腹』や『東京裁判』を見ても、ただ者でないことは容易に察しが付く。これから個人的に注目したいと思っている。
★★★★☆
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(2005年12月24日の記事より)
b0189364_8474513.jpg怪談(1965年・東宝)
監督:小林正樹
原作:小泉八雲
脚本:水木洋子
撮影:宮島義勇
美術:戸田重昌
音楽:武満徹
出演:三国連太郎、新珠三千代、仲代達矢、岸恵子、中村嘉葎雄、丹波哲郎、志村喬、中村翫右衛門、中村雁治郎

小泉八雲の『怪談』から「黒髪」、「雪女」、「耳なし芳一」、「茶碗の中」の4話を映画化したオムニバス。
リアリズムより幻想的な表現を重視した美術で、演劇のようである。どの話もほとんどがセットで撮られている。スタジオはかなり大きく、セットも金がかかっていることがわかる。だが、こういう人為的な演出は好みの別れるところだと思う(私はあまり好きでない)。
話自体は有名なものが多く意外性はない(「茶碗の中」は少し珍しい)。展開もまったりしているのであまり緊迫感がない(怖い場面もあるが)。昔のお化け屋敷みたいな感じだ。
★★☆
by chikurinken | 2013-04-17 08:44 |