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竹林軒出張所

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『大相撲のぶっちゃけ話』(本)

b0189364_840578.jpg大相撲のぶっちゃけ話
曙太郎著
宝島社

相撲界の内輪話と
あの黄金時代の回想


 宝島社の「業界ぶっちゃけ」シリーズ。他に愛甲猛の『球界のぶっちゃけ話』、畑山隆則の『ボクシング界のぶっちゃけ話』がある。
 内容はトリビアみたいなものが多く、飛行機や新幹線の移動は2席確保するとか、相撲取りは正常位でできるかとか、そういった類の話が多い。業界内部の暴露話がテーマのシリーズなのでその辺は当然か。ただこういった話はとりたてて面白いというものでもなくそれなりである。
 業界内情報で一番興味深かったのが力士の収入で(第3章「関取とお金」)、横綱の月給が282万円、重量の月給が103万6千円など、具体的に書かれている。その他に場所ごとに支払われる報奨金があり、力士によって違うが、一流の関取になると毎場所400万円ほどになる。上位力士になると懸賞金(1本6万円で、そのうち半分が力士に払われ、残りの5千円が相撲協会の手数料、2万5千円が税金用としてプールされる)の他、優勝賞金と副賞、三賞なども手に入る可能性が出てくる。さらにタニマチというスポンサーからもあれやこれやサポートがあるらしい。テレビ東京系の『解禁暴露ナイト』(竹林軒出張所『日本世間噺体系テレビ版』参照)に小錦が出たときも暴露話をしていたが、小錦自身がタニマチから2億円もらったこともあると言っていた(親方株購入費用として)。この本の内容も小錦が番組で話していた内容とほとんど符合する。
 こういった暴露話はまあそれなりである。この本で一番面白かったのはむしろその後で、曙が力士生活を振り返る第5章「あの一番」と第6章「ボクと若貴」の2章。貴乃花、若乃花との出会いやかれらとの取組、彼らへの思いが語られる。曙、貴乃花時代は言ってみれば大相撲の1つの黄金時代だったわけで、そのあたりの熱気も甦ってくるようである。全編に大相撲に対する愛情が感じられる本で、曙の人間性がよく出ていた(おそらく聞き語りだろうと思うが)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ボクシング界のぶっちゃけ話(本)』
竹林軒出張所『球界の野良犬(本)』
by chikurinken | 2013-02-27 08:42 |

『文明崩壊』(ドキュメンタリー)

b0189364_921560.jpg文明崩壊
(2010年・ナショナル ジオグラフィック)
原作:ジャレド・ダイアモンド

主張には納得するがかなり退屈

 ジャレド・ダイアモンドの著作『文明崩壊』を基にしたドキュメンタリー。
 かつて繁栄しながら突然のように崩壊した、北米のアナサジ文明やローマ帝国を、文明崩壊のモデル・ケースとして検討していく。結論から言えば、こういった文明は、都市の拡大と干ばつによる水の不足、エネルギー資源の欠乏、食糧の欠乏、気候変動などにより崩壊していったということで、こういった様相はすべて現代文明の今の姿にも当てはまるという。したがって現代文明は、今現在、崩壊の危機に貧しているというのがこのドキュメンタリーの主張である。そのため、現代文明が崩壊した後の2210年の時点で未来の科学者が現代文明崩壊の原因を遺跡から探るというスタイルで全編貫かれている。そして現代文明の崩壊を回避するためには、今のような過剰な消費生活を改めるべきことが提唱され、それは可能であるという主張で終わる。
 こういう議論は、これまでもさまざまなところで繰り返されており今さらという感もなきにしもあらずだが、浪費生活をしている人は、こういうドキュメンタリーに接することで生活態度を悔い改め、生活を改善するためのよすがになる。それを考えるとこういう作品も有意義であるとは思う。ただし1時間半に渡って、何だかトロトロと展開され、しかも結末が割とありきたりな線に落ち着くと、ドキュメンタリーとしてはかなり物足りなさは残る。内容が薄いため、子ども向けの教育番組みたいにも感じた。ドキュメンタリーとしてはもう少しメリハリがないと最後まで見続ける気にならないんじゃないかと思う。
 前にダイアモンドの代表作『銃・病原菌・鉄』を同じナショナルジオグラフィックのDVDで見て、その後原作本を読んだんだが、そのときも(DVDでも本でも)なんだかだらだらした印象を受けて、見たり読んだりするときに結構イライラした憶えがある。だからこの『文明崩壊』の原作本も同じような展開で、上下2巻に渡ってまだるっこしく続くんじゃないかと勝手に思ったりしている。おそらくこれがダイアモンドの著作の特徴なんだろう。だからAmazonの書評でどんなに絶賛されていても、今度はもう原作を読むつもりはない。
 なお、このドキュメンタリーの中で触れられていた土壌流出の問題については『土の文明史』に詳しい(竹林軒出張所『土の文明史(本)』参照)。この本は内容がぎっしり詰まっているような本で、まったく隙がなく、ダイアモンドの本みたいなまだるっこさはあまりない。『文明崩壊』よりもむしろこちらをお奨めしたいところだ。
★★★

参考:
竹林軒出張所『銃・病原菌・鉄 第1話 文明の始まり(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『銃・病原菌・鉄 第2話、第3話(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『銃・病原菌・鉄 (上)(本)』
竹林軒出張所『銃・病原菌・鉄 (下)(本)』
竹林軒出張所『土の文明史(本)』
by chikurinken | 2013-02-26 09:22 | ドキュメンタリー

『運命の一枚〜“戦場”写真 最大の謎に挑む』(ドキュメンタリー)

沢木耕太郎推理ドキュメント
「運命の一枚〜“戦場”写真 最大の謎に挑む」
(2013年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

b0189364_8401881.jpg『キャパの十字架』映像版

 沢木耕太郎の『キャパの十字架』を焼き直したような番組(おそらく)で、横浜美術館で現在やっている『ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー 二人の写真家』展の宣伝にもなっている。
 戦場写真家として有名なロバート・キャパ。無名の彼の名前が世界にとどろき渡ったのは、あの有名な写真、「崩れ落ちる兵士」が『LIFE』に掲載されてからである。だがこの写真には以前からニセモノ説がつきまとっていた。つまり撃たれた兵士ではなく、単にポーズをとっただけか、あるいは転倒した際の写真に過ぎないんではないかというのである。ただこの写真に元々「死んだ」という説明があるわけでもなく「崩れ落ちる兵士」というタイトルがついているだけなので「ニセモノ」という表現が適切かどうかわからない。僕などはこの写真の何がそんなにすごいのか永らくわからないでいたのである。もちろん撃たれた瞬間だとしたら大スクープ写真だが、血が噴き出しているわけでもなく、「撃たれた」と考えるのはそれこそ見る側の思い込みである。ま、だからこの写真がたとえ「ニセモノ」であっても僕としてはどうでも良いわけだ。キャパには他にも優れた写真はいくらでもあるし、「ニセモノ」だからといってキャパの価値が下がるわけではなく、とりたててどうこう言うことはない。
 それはともかく、この番組では、近年発見されたという、同じ場所・同じときに撮られた一連の43枚の写真から、この写真が戦場で撮られたものではなく、演習で撮られたものであり、しかも写真を撮ったのはロバート・キャパ(本名はフリードマン・エンドレ・エルネー)本人ではなく、恋人のゲルダ・タローであることが明かされる(そもそも「ロバート・キャパ」という名前はフリードマンとゲルダの2人のチーム名だったという)。
 演習であることは、銃に弾が入っていない状態であることが写真から窺われること、写真が撮られた場所が当時まだ戦場になっていなかったことなどからわかり、その事実は現地スペインの住人へのインタビューから判明する。番組は沢木耕太郎が現地に赴いたりインタビューしたりで進行していき、番組の構成も沢木本人がやっているらしい。
 先ほども書いたようにこの写真が『LIFE』に発表されてからロバート・キャパという名前は有名になるが、その直前に、この写真の撮影者と目される恋人のゲルダ・タローは戦場で死去する。キャパ(つまりフリードマン)は、その後ノルマンディー上陸作戦に同行したり、ベトナム戦争に従軍したりと精力的に命知らずの活動を行う。この番組によると、キャパは「他人が撮った写真」、「偽りの"戦場"写真」という2つの十字架を背負ったことからこういう自滅的な行動に出たんではないかということだった。
 ドキュメンタリーの内容としてはまあそれなりだが、沢木の著書を読まずともその主張がわかるのでそれはそれで良いんじゃないかと思う。ただし50分という時間の制約のせいか知らないが、写真の解析部分が少しおざなりで納得が行かないところもあった。ただ、映像を使った解説がわかりやすいというメリットもあり、その辺はトレードオフなのかも知れない。
★★★☆
by chikurinken | 2013-02-25 08:42 | ドキュメンタリー

『トキワ荘の時代―寺田ヒロオのまんが道』(本)

b0189364_933818.jpgトキワ荘の時代―寺田ヒロオのまんが道
梶井純著
ちくまライブラリー

寺田ヒロオの評伝……
にしてほしかった、どうせなら


 マンガ評論家による寺田ヒロオ論。1993年に刊行された本で、寺田ヒロオが92年に死去していることから、その関連で出版されたのだろうか。いずれにしても寺田ヒロオに間する本は珍しい。
 タイトルは「トキワ荘の時代」ということになっているが、トキワ荘時代に特化したものではない。寺田ヒロオの評伝と言えなくもないが、全体にわたり著者が頻繁に登場して、評伝に収まっていない。マンガ評論家であるためか、著者がしつこく自己主張し、そういう点で少し辟易する。著者の野球への思い入れなんかホントどうでも良いのだ、こっちにしてみれば。マンガ評論はしなくて良いから、あくまで「評伝」としてもっとシンプルで、研ぎ澄まされたものにしてほしかったと思う。
 ただ、トキワ荘グループの中でも寺田ヒロオに特化した書物はあまりないし、寺田ヒロオの人となりやトキワ荘グループとの関係性などをこれだけ詳細に書いたものはないので、本としての有用性は高い。また、つげ義春から見た寺田ヒロオ像や棚下照生(たなかてるお)との関係などが紹介されているのも珍しい。棚下照生という人、僕は全然知らなかったが、トキワ荘関連の書物に名前だけ登場することが多く、この本でどういう人であるかがよくわかった。映画『トキワ荘の青春』(竹林軒出張所『トキワ荘の青春(映画)』参照)にも、寺田の個人的な(シニカルな)友人として登場するが、「棚下」という名前が映画に出てくることはなかったように思う。ちなみにあの映画ではこの本も参考文献として使用されているため、この辺の情報が利用されたものと思われれる。また、つげ義春と赤塚不二夫が親しかったというエピソードも映画に出てくるが、この本がネタ元と考えられる。
 寺田ヒロオの実像に迫っている点は十分評価に値するし、トキワ荘グループ周辺と貸本屋マンガ家との関係性なんかもわかって、戦後マンガ史の一断片が映し出されている点も評価できる。『白土三平伝 カムイ伝の真実』(竹林軒出張所『白土三平伝 カムイ伝の真実(本)』参照)、長井勝一の『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史』(竹林軒出張所『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史(本)』参照)、水木しげるの『コミック昭和史』(竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』参照)などと併読すると、戦後マンガ史のかなりの部分を把握できるのではないかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『白土三平伝 カムイ伝の真実(本)』
竹林軒出張所『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘の青春(映画)』
竹林軒出張所『まんが トキワ荘物語(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘青春日記―いつも隣に仲間がいた…(本)』
竹林軒出張所『烏城物語(本)』
by chikurinken | 2013-02-23 09:06 |

『トキワ荘青春日記―いつも隣に仲間がいた…』(本)

b0189364_857314.jpgトキワ荘青春日記―いつも隣に仲間がいた…
藤子不二雄A著
光文社

『まんが道』資料編…

 藤子不二雄Aこと安孫子素雄が、トキワ荘時代に書いていた日記をまとめたもの。収録されている日記は昭和29年(20歳)から昭和35年(26歳)までのもので、上京してからトキワ荘に入居し、連載を10本持つ頃までが対象になっている。見えない将来に不安を抱えながら、仲間たちとワイワイ青春時代を送る日々が描かれている。初期の頃(昭和30年初頭)藤子不二雄がことごとく連載を落とした(後に干される)事件もかなり詳細に書かれている。内容は同じ著者の『まんが道』と重なるため特に目新しさはないし、元々が日記だから大して面白味もないが、強いて言えば資料的な価値があるというところ。マンガ以外の要素、たとえばみんなしてスキーに行ったり、野球をやったりという「遊び」の部分も出てきて、等身大のリアルな側面も出てくる。そういうのは日記ならではという部分。干された後しばらくは毎日ゴロゴロしていて、そんな自分に自己嫌悪を感じたりするのも日記ならではかも知れない。
 後にマンガ家として大成する人が多数出てくるが、誰もが将来への不安を抱えているのが興味深い。赤塚不二夫が著者に「将来のこと自信ありますか? 漫画家としてやっていく自信…」と訊いて「いや、自信なんかないよ。でも、もう富山へも戻れないし、このままやるしかしかたないもの」と答えるというくだりがあるが、今思うとすごいシーンだ。もっともこのときの仲間の中には、マンガ家として成功しなかった人もいるわけで、確かにどっちに転ぶかわからないぎりぎりのところにいたと言えるかも知れない。
 なお登場するマンガ家は、本人、赤塚不二夫の他、藤本弘(藤子・F・不二雄)、手塚治虫、寺田ヒロオ、石森章太郎、よこたとくお、つのだじろう、森安なおや、永田竹丸、鈴木伸一(マンガ家ではなくアニメーターになったが)ら。
★★★
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付録:
以下、以前のブログで紹介した『まんが道』(マンガ版)の評。

(2006年8月29日の記事より)
b0189364_8561132.jpgまんが道(1)〜(23)
藤子不二雄A著
ブッキング

 NHK銀河テレビ小説で放送された『まんが道・青春編』を最近見る機会があり、それに触発されて通しで読んでみた。映画『トキワ荘の青春』などでお馴染みの世界が藤子不二雄Aこと安孫子素雄の視点から描かれていて面白い。出てくる登場人物も今考えたら豪華絢爛。原作版を読み返して、TV版が非常によくできていたことをあらためて実感した。
 TV版は森高千里や鈴木保奈美、天知総子、江守徹、肝付兼太など、異色・豪華キャストを配し、脚本も布施博一とスタッフも一流(余談ではあるが)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『トキワ荘の青春(映画)』
竹林軒出張所『まんが トキワ荘物語(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘の時代―寺田ヒロオのまんが道(本)』
竹林軒出張所『烏城物語(本)』
by chikurinken | 2013-02-22 08:59 |

『トキワ荘の青春』(映画)

トキワ荘の青春(1996年・カルチュア・パブリッシャーズ)
監督:市川準
脚本:市川準、鈴木秀幸、森川孝治
出演:本木雅弘、鈴木卓爾、阿部サダヲ、さとうこうじ、大森嘉之、古田新太、生瀬勝久、翁華栄、きたろう、北村想、時任三郎、桃井かおり

静かで、まったく熱くない青春映画

b0189364_829255.jpg 昭和30年前後にトキワ荘に集結したマンガ家たちの青春を描く映画。
 最初から最後まで静かに静かに時間が過ぎていき、いかにも市川準らしい映画と言える。長回しがかなり多く、しかもトキワ荘のシーンはほとんどがローアングルで撮影されているなど、こういった要素が静けさの表現につながっている。
 主人公は本木雅弘演じる寺田ヒロオで、寺田ヒロオを中心に添えるというのも、トキワ荘関連のものでは珍しい。寺田ヒロオは、トキワ荘のリーダー的存在で、しかもものごとにきっちりしていたらしく、本木雅弘がこれを静かに淡々と演じていて好感が持てる。本木雅弘がかつて「撮影中こんなので映画ができるんだろうかと思ったが試写を見て納得した」というような話をしていたが、それがよくわかるような、生活の中に詩があるとでも言うのか、雰囲気が非常に魅力的な映画に仕上がっている。
 マンガ家たちには劇団関係者が多数キャスティングされたという話で、当時無名な人が多かったようだが、阿部サダヲや古田新太、生瀬勝久はこの映画の後ブレークしたようだ。劇団関係者といえば、北村想まで手塚治虫役で出ていて、ちょっと珍しい配役と言える。
 映画の中では、割合有名なエピソード、たとえば石森章太郎の美人の姉や、赤塚不二夫が墨汁を部屋中に飛ばした話などが出てくる。もちろん漫画少年の学童社が倒産してバタバタする様子も出てくる。売れっ子になっていく石森、藤子不二雄の傍らで、なかなか芽が出ない赤塚不二夫、森安なおやという対比が現実の厳しさを表現して、ほろ苦さも醸し出している。トキワ荘のマンガ家たちを等身大で甦らせたような映画で、しかも詩的な要素が多く、心地良い空気に包まれる佳作であった。テーマ曲(霧島昇の「胸の振子」)も良い味を出している。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『トキワ荘の時代―寺田ヒロオのまんが道(本)』
竹林軒出張所『まんが トキワ荘物語(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘青春日記―いつも隣に仲間がいた…(本)』
竹林軒出張所『烏城物語(本)』
by chikurinken | 2013-02-20 08:32 | 映画

『まんが トキワ荘物語』(本)

b0189364_81139100.jpgまんが トキワ荘物語
手塚治虫他著
祥伝社新書

「トキワ荘」作家たちが
自ら描く「トキワ荘」


 かつて東京、椎名町に「トキワ荘」というアパートがあった。1953年から手塚治虫がこのアパートの1室を仕事場として使っていた縁で、その後、マンガ家を志して上京したばかりの寺田ヒロオが入居し、さらに藤子不二雄、石森章太郎、赤塚不二夫らが移ってきて、さながらマンガ家の集合住宅と化した。東京出身だったつのだじろうや園山俊二は、さすがこのアパートに転居することはなかったがそれでもよく出入りしていたという。そういうわけで、かつてはマンガ・ファンの聖地となっていた。だが今はもう壊されて、存在しない。
 このトキワ荘だが、それぞれのマンガ家にとってやはり思い入れが深いようで、たびたび作品化されている。藤子不二雄の『まんが道』は一番有名だろうが、他にも石森章太郎、赤塚不二夫らもトキワ荘を題材にした作品を出している。
 手塚治虫が主宰していた『COM』という雑誌でもさまざまなマンガ家がトキワ荘時代の想い出を描いていくというシリーズがあったようで、それが、1969〜70年に連載された「トキワ荘物語」である。それをまとめた本が1978年刊の『トキワ荘物語』(翠楊社)で、それを再編集して再出版したのが本書である。この祥伝社新書は、他にも手塚治虫のマイナーな作品を出しているようで、なかなか意欲的でヨイ。
 元々の連載は1969年10月号の水野英子から始まって、寺田ヒロオ(69年11月号)、藤子不二雄、長谷邦夫(69年12月号)、森安なおや(70年1月号)、鈴木伸一(70年2月号)、永田竹丸(70年3月号)、よこたとくお(70年4月号)、赤塚不二夫(70年5・6月号)、つのだじろう(70年7月号)、石ノ森章太郎(70年8月号)、手塚治虫(70年9月号)と続き、70年10月号には「<座談会>われらトキワ荘の仲間たち」が登場する。この本には、この12人分の作品と最後の座談会が収録されていて、当時の連載をほぼ網羅している(と思われる)。
 作品は、昔の状況をストレートに物語で語るものが多いが、石ノ森章太郎みたいに少しシュールな表現を駆使している作品や、手塚治虫みたいにトキワ荘自体を擬人化した意欲的な作品もある。どの作品も8〜16ページ程度である。それぞれ個性的で面白いが、やはりトップで活躍している人とそれ以外の人ではいくぶん差が感じられるように思う。あるいはこの企画に対しての思い入れもあるのかも知れないが、先ほどの手塚、石ノ森、それにつのだじろうと藤子不二雄の作品は丁寧に仕上げられていてグレードが高い。寺田ヒロオと赤塚不二夫の作品もそれぞれ特徴が出ていて良い。
 やはりなんと言ってもバラエティさが魅力で、当時の様子が各人の視点から描かれているため、トキワ荘を取り巻く全体像が見えてくる。新書形式の小さな本だが、魅力的な良い本である。よく復刊した! 感動した!
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『トキワ荘の青春(映画)』
竹林軒出張所『トキワ荘青春日記―いつも隣に仲間がいた…(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘の時代―寺田ヒロオのまんが道(本)』
竹林軒出張所『烏城物語(本)』
by chikurinken | 2013-02-19 08:16 |

『烏城物語』(本)

b0189364_20275210.jpg烏城物語
森安なおや著
漫画家・森安なおやを岡山に呼ぶ会

あの森安なおやの遺作

 大変珍しい「森安なおや」のマンガ。森安なおや、ご存知だろうか? かつて数々の有名漫画家を輩出した東京・椎名町の「トキワ荘」に、藤子不二雄や石森章太郎らと同時期に住んでいた漫画家である。無頼などと言われることもあるが、要は人(他のマンガ家)から金を借りて踏み倒したり、せっかく紹介してもらったマンガの仕事も結局やらなかったりで、温厚だと言われていた寺田ヒロオ氏から「新漫画党」除名宣告を受けたほどの変わり者である。僕の中では、ものすごくいい加減で迷惑な存在というイメージがあり、「森安」という名前を聞くといつも俳優の森川正太を思い出すんだが、これはテレビ・ドラマ『まんが道・青春編』の影響である。
 森安なおやの人となりは、『まんが道』をはじめさまざまなトキワ荘関連本などで紹介されているため割に知っているが、実は彼のマンガは一度も読んだことがなかった。実際、トキワ荘時代以降はあまりマンガも描いていなかったようだが、森安の昔の同級生が彼のマンガを自費出版したという話を最近知って、このたびその本を入手したというわけ。実はこの本、最初に出版されたのは1997年で、そのときは即完売だったそうな。今回第2刷が出ることになって、それが僕のところにも回ってきた。
 話は、岡山に住む少年の話で、時代背景は戦前(なお、森安なおやは岡山出身)。少年の成長がテーマで、周りの大人たちの魅力も描かれる。本書の「森安なおやプロフィール」に「永島慎二の詩の世界に魅かれ」と書かれていたが、永島慎二みたいな味わいもある……かな(ちなみに永島慎二もトキワ荘に出入りしていたことがあるらしい)。絵は、書きなぐったようなタッチだが、背景まで割合丁寧に仕上がっていて独特の世界になっている。ストーリーも一編の詩のようでなかなか良いんだが、しかし途中、何を描いているのかわからない部分がところどころある。コマの繋がりがどうなっているのか判断できないというか、とにかく説明が十分でないため、よくわからないんである。セリフが少なくて詩的な部分を強調しているのはわかるし、回想形式を取り入れたりしていて意欲的なんだが、肝心の骨子となるストーリーがところどころ泳いでいってしまう。この点は非常に残念なところで、慣れたマンガ編集者がいれば、ネームの段階で直させるんだろうが、自費出版ゆえ致し方ない部分なのか(ただし森安氏の性格から考えるとそういう編集者とは仕事をしないことも十分考えられる)。そういうわけで完成度はやや低い。だが、世界観や絵を楽しむ分には十分で、それなりの味わいはある。なんと言っても森安なおやがこれだけのものを残したということが良いじゃないか……。実はこの本が出た後、1999年に同氏は急逝している。したがって『烏城物語』は最後の完成作ということになる(他に絶筆となった作品もあるようだ)。なお、本書には「烏城物語」の他に「小さな河の水映り」も収録している。
★★★

参考:竹林軒出張所『まんが トキワ荘物語(本)』
by chikurinken | 2013-02-18 08:27 |

『終電バイバイ』(2)〜(4)(ドラマ)

ドラマNEO『終電バイバイ』(2013年・TBS)
演出:波多野貴文、橋本光二郎
脚本:岩井秀人、平田研也
出演:濱田岳、入山法子、Noemie、小松彩夏、谷中敦

遊び心あふれる意欲的なドラマ……今のところは

b0189364_8551054.jpg 久しぶりにビックリのドラマ。1話完結で、各回演出、脚本、キャストが変わる。ドラマの設定は毎回共通で、主人公が終電を逃し、朝までその駅で過ごすというもの。その間にさまざまな出来事が起こり、それをドラマとしてすくい取るというものである。舞台になる駅は毎回違っていて、第1話から立川駅、秋葉原駅、南千住駅、蒲田駅と続く。
 僕が見たのは第2話から第4話で、第2話(秋葉原)を見たとき、こういうセリフを書ける人がいるんだなと思い少し驚いた。自然でひねりが利いたセリフに加え、心情描写が見事で、設定もかなり意外性がある。40分番組のシナリオとしては非常に完成度が高いと思った。演出も手堅く、まったく破綻がない。ちなみにこの回(第2話)の脚本は岩井秀人って人が書いている。僕はこの人のことを全然知らなかったが、なんでも舞台出身の人らしい。過去に向田邦子賞も受賞したことがあるらしく、すでに名前がある人なのかも知れない。
 第3話(南千住)は、設定にはやや意外性があるが、比較的平凡な「ボーイ・ミーツ・ガール」パターンで、シナリオとしては平凡。こちらは平田研也って人がシナリオ担当。
 ただ、同じシナリオ作家が書いた第4話は、意外性があって、ストーリーもよく練られていた。潔癖症の男が、あるアイドルのマンションに行くが、そこが散らかし放題の不潔な部屋だったという設定で、そこでいろいろドタバタが起こるという話。話は喜劇的だが、至極シリアスに演出されていて、演出も見事と言える。
 主人公は、役名は毎回異なるが、各回、『鴨川ホルモー』(竹林軒出張所『鴨川ホルモー(映画)』参照)のちょんまげ男、濱田岳が演じていて、毎回好演している。どの話も終電を逃してから夜明けまでの話だが、実際に深夜から早朝にかけて撮影しているらしく、徹夜明けの雰囲気が画面上によく再現されている。
 TBSにもまだこれだけの意欲的なドラマを作る余力があったのかと思うほどで、毎回見たいと思わせるドラマである。ただしだからと言って、このシリーズが格別「新機軸」だというわけでもなく、なぜ「ドラマNEO」と名うっているのかはよくわからない。NHKの『サラリーマンNEO』に対抗したのか。まあしかし、今後も十分期待を持たせるドラマではある。いつまで続くかはわからないが。
★★★★

追記:第5話(第5夜:片瀬江ノ島駅)は、案の定ありふれたストーリーでもの足りなかった。それにつまらないおふざけが多いのも気になる。この水準だと普通の深夜ドラマになってしまうんだな……。

参考:竹林軒出張所『バイバイ、終電バイバイ』
by chikurinken | 2013-02-16 08:55 | ドラマ

アドリブの相乗効果 - 『YOUは何しに日本へ?』が面白い

 テレビ番組が最近つまらないというのは誰もが実感することだろう。お笑いタレントを呼んできてウチでやっている遊びを再現するような、安易な作りの番組がやたら増殖しているが、もういい加減よしたらいいのにと思う。作り手のレベルの低さをさらされたところでまったく笑えない。
b0189364_98146.jpg それでもやはり毎週テレビで見る番組というのはあって、僕自身は特に最近はテレビ東京系のものが増えているように思う。前もテレビ東京系の深夜枠について書いたが(竹林軒出張所『日本世間噺体系テレビ版』参照)、最近興味深く見ているのが、やっぱりテレビ東京系深夜枠の『YOUは何しに日本へ?』という番組。
 成田空港にいる外国人旅行者に「YOUは何しに日本へ?」と訊き、内容が面白そうだったら同行取材するというただそれだけの番組で、コンセプトはあるが、結構行き当たりばったりで、アドリブ満載、「なるようになる」的なバラエティ番組である。同じ局の『和風総本家』の1企画みたいな内容で、またこういうのをやらせるとテレビ東京はなかなかうまいんだ。そう言えばやはり同じテレビ東京の『田舎に泊まろう』という番組も似たような同行取材番組であった。こういうアドリブ番組は、何を拾って何を採用し、どうまとめるかにすべてかかっているが、この『YOUは何しに日本へ?』では、今のところ毎回かなり面白い人々を拾いまくっていて、まったく飽きない。意外性もある。
 で、今週放送されたのが、日本海側の都市を自転車旅行するために日本に来たというドイツ人に密着する企画で、いつもはこの番組、数人の人々のインタビューと約2組の密着取材で構成されるんだが、この回はこのドイツ人のみ。つまりスペシャル企画なわけだ。
 実はこのドイツ人、かつてこの同じ番組のパイロット版(以前特番として2回放送されている)のときに登場したらしく、その際に彼が青森に行き、自転車をそこで調達するまでを撮影クルーが追っていったようなのだ(このパイロット番組については見ていなかったが、今回の放送の前半でそのときの模様が放送された)。
 要するにこのドイツ人、「日本海側を自転車で旅する」という目的はあるが、それ以外、何も計画を立てずに来日したということなのである。簡易テントとそこそこのお金は持っているが、かなり行き当たりばったりで、もちろん日本語もろくに喋れない。そういう人が普通列車で東京から青森まで行き、そこで自転車屋を探して、スポーツ車を購入するという、なんだかもうすごい展開になるんだな。しかも買った自転車が30〜40年前の、小・中学生向けでライトがたくさんついたヤツ(ちなみに新車)で、それをなんと5000円で買っていった。ネットに出せば10万円超えるんじゃないかというビンテージものなんだが、すでにここらあたりで面白ネタの宝庫になっている。その後、彼はこの自転車にまたがり、竜飛岬目指して北上していく。坂があれば適当に自転車を押していき、なんだか気ままなもんである。ノープランでいかにも呑気なこのドイツ人を、やはりノープランのこの番組が密着するという、ノープラン同士の相乗効果が番組を面白くしている。ここらあたりまでがパイロット番組で放送された部分である。
 その数ヶ月後、スタッフのところにこのドイツ人から「東京に戻ってきた」というメールが来て、東京で再会することになる。ここからが番組の後半部分で、今回のオリジナル部分。東京のとあるホテルでスタッフはこのドイツ人と無事再会し、今度は彼の東京自転車観光を追っていく。ちなみにあの5000円自転車は健在で、なんでも東京に来る前に、青森から日本海側を南下し、新潟や山口を経由して九州、鹿児島まで行き、そこから再び自転車で東上してきたという話で、そこらあたりの事情は彼が撮影した写真を使ってうまく編集して放送された。そもそも自転車旅行の同行取材だけでもある程度面白くなるのに、そこに「外国人旅行者」、「行き当たりばったり」という面白さが加味されて、この企画、出色のできになった。なにしろこのドイツ人のキャラクターもまた魅力的で、この企画を一層引き立てている。
 通常の放送でも、出てくる外国人の方々がなかなか魅力的で面白いが、おそらくしばらく続くうちにこの番組もワンパターン化していくんだろうと思う。ただテレビ東京の番組は引き際もまた良くて、良いタイミングで終わることも割合多い。放送業界の中では永らく地味な位置を占めていた同局だが、いちやくトップに躍り出る日も近いんじゃないかというような昨今の充実ぶりである。正直今の段階でも、NHKとテレビ東京以外、あまり見るべきものがないという状況なのだ。作り込んだNHKとアドリブに強いテレビ東京、それぞれ持ち味が出ていてよろしいんじゃないかと思う。

参考:
竹林軒出張所『日本世間噺体系テレビ版』
竹林軒出張所『取材ディレクターが語る18のアザーストーリーズ(本)』
by chikurinken | 2013-02-15 09:04 | 放送