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竹林軒出張所

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2012年ベスト

 今年も恒例のベストです。当然「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)

b0189364_1013859.jpg今年見た映画ベスト5
1. 『野いちご』
2. 『おとし穴』
3. 『愛されるために、ここにいる』
4. 『祇園囃子』
5. 『招かれざる客』
番外:『ある機関助士』

 古い映画ばかりで恐縮です。最新映画を劇場ロードショーで見るなんてことは1年以上ないので致し方ない。それに話題作を見るより、古典的な映画を見る方が外れが少ないし、どうしても古典志向になってしまう。
 『野いちご』はベルイマン、『おとし穴』は勅使河原宏、『祇園囃子』は溝口健二という具合で、ここであらためて取り上げるほどのこともないくらい名声のある監督ばかりである。詳しくは、それぞれのレビュー・ページをみてください。
 そんな中で『愛されるために、ここにいる』は比較的新しい作品だが、流れが自然で完成度が高く、上質な大人のロマンスになっている。恋愛が話の中心になるが、どこぞのくだらない恋愛ドラマと違って、登場人物にそれぞれ抱えるものがあるなどリアリティがあり、作り手側のご都合主義もまったく見受けられない。とってつけたような設定や登場人物がないのも良い。
 『招かれざる客』も古い映画だが、会話劇で、元々舞台劇だったのかよくわからないが、非常に良くできたプロットの映画である。公開当時おそらくセンセーショナルであっただろうテーマを、ズバリと見る側に突きつけながらも、高い理想主義が掲げられていて大変心地良い。
 番外に入れた『ある機関助士』は、蒸気機関車の機関士を扱った古いドキュメンタリー作品だが、こういった身近なテーマが、これだけの重厚な映像作品になるということにとても感心したことから、ここに加えることにした。

今年読んだ本ベスト5
1. 『画材の博物誌』
2. 『だまされて。 涙のメイド・イン・チャイナ』
3. 『FBI美術捜査官 奪われた名画を追え』
4. 『風のジャクリーヌ 〜ある真実の物語〜』
5. 『田宮模型の仕事』
番外:『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと』

 どんなものにも歴史があって、それについて正しく認識しなければならない……というのがこのベスト5の共通のテーマである。
 画材というものが長い歴史の中で培われて今に至っているというのは、本来であれば至極当たり前なんだが、今みたいにいろいろな画材がいくらでもあふれている状況だとなかなかそれに気がつかない。画材が歴史の中でどのように発展してきたか、それはもちろんそれぞれの社会史や政治史とも関わってくるわけで、ものに投影されているその時代背景というものが実は存在するわけだ。こういうことがまとまった形で提示されることで、モノの歴史に思いを馳せることができるという点で、なかなか面白い本であった。ただし美術に興味のない人は読んでも面白く感じないかもしれない。
 『だまされて。』は、中国のモノ作りの現状を内側の目から報告する本で、中国人のありようがわかって興味深い。こういうもの作りをしているようであれば、たとえ今「世界の工場」などと言われていても、いずれ産業が荒廃していくのは火を見るより明らか。中国の関係者には、ちゃんとしたものを作るべく努力してほしいと思うし、日本のもの作りの関係者には、あまり中国と関わり合いにならない方が良いよと警告したくなるような、内容充実の本であった。
 『FBI美術捜査官』は、盗難美術品の奪回にもっぱら取り組んでいたFBI捜査官の告白で、なかなか知り得ない世界が展開されている上、ハードボイルド的な面白さもある。そこいらのハリウッド映画よりはるかに面白い。もしかしたらそのうち映画化されるかも知れないが。
 『風のジャクリーヌ』は、悲劇のチェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレの生涯を家族の目から追ったノンフィクションで、映画『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』で見られた、かなり偏ったイメージと違う「本当のジャクリーヌ・デュ・プレ」を垣間見ることができる。
 『田宮模型の仕事』は、日本のプラモデルを進化させた田宮模型社長の田宮俊作氏が自伝的に半生を語る本。これぞ「日本のもの作り」という職人魂が心地良い。子どもの頃何気なく接していたプラモデルにも、職人魂と作り手のプライドが反映されていたことにあらためて驚く。何にでも大いなる歴史があるのであって、それを正しく認識することが必要なんである。
 なお番外の『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと』は、今回再読だったが、前回同様、非常に感心することの多い教育論だったので、ここに入れることにした。

今年見たドキュメンタリー・ベスト3
1. 『電球をめぐる陰謀』
2. 『ガスランド』
3. 『ホットコーヒー裁判の真相』
4. 『パーク・アベニュー 格差社会アメリカ』
5. 『夏の北アルプス 雲上のアドベンチャー』
番外:『調査報告 原発マネー』

 今年のドキュメンタリーは僕にとって大豊作で、ここに入っていないものにも秀作が多かった。1〜4まではどれもセンセーショナルな内容で、目から鱗が落ちるようなものばかりであった。
 『電球をめぐる陰謀』は、今流通しているモノが実は一定の期限で壊れるように作られているという事実を伝えるもので、これがどの程度今の我々の生活に当てはまるかはわからないが、確かに無意味に壊れやすいモノが多いような気はしている。またこういう話は以前も聞いたことがあって、それについて詳しく知りたいと思っていたところだったので、僕にとって非常に有益だった。
b0189364_1032116.jpg 『ガスランド』はシェール・ガス採掘の問題点を市民の目から告発するドキュメンタリー。水道水に火が付くという映像もインパクトがあり、シェール・ガス、シェール・オイルは手放しで賞賛できるものではないよということを知らせてくれる優れた作品であった。
 『ホットコーヒー裁判の真相』は、大企業とマスコミが巧妙に仕掛ける情報操作を告発するドキュメンタリーで、有名なマクドナルドの「ホットコーヒー裁判」に秘められた大変な事実を紹介する。これも目からウロコだった。
 『パーク・アベニュー』は、アメリカの格差社会を告発するドキュメンタリー。アメリカの格差社会が、富裕層の政治活動によって進んでいることが紹介される。『ガスランド』、『ホットコーヒー裁判の真相』、『パーク・アベニュー』を見ると、アメリカで不正義がはびこっている状況がよくわかり、末期的な印象すら持ってしまう。大丈夫か、アメリカ?
 『夏の北アルプス』はがらりと変わって紀行ドキュメンタリーだが、登山の楽しみがこれ以上ないほど伝わってくる稀有な番組であった。
 番外の『調査報告 原発マネー』は、NHKが原発マネーにまで切り込んだという点を高く評価したいということでここに加えた。

b0189364_1035953.jpg今年見たドラマ・ベスト3
1. 『ゴーイング マイ ホーム』
2. 『それぞれの秋』
3. 『とんび』
番外:『極楽家族』

 今年は見たドラマの数が少なかったので、選択肢自体が少なくしょっぱいランキングになった。今のテレビ・ドラマのレベルは相変わらず低く、見るに値するものも非常に少なくなったが、 『ゴーイング マイ ホーム』は数少ない優良作品の1つ。地味だが完成度が高く、優れた映画人がドラマに関わるとこれだけのものができるというのがよくわかる好例である。要するに今のドラマ界は、優れた人材が圧倒的に少ないということなんだろう。今のドラマにはあまり期待できないというのが、このランキングにも反映されていて、『それぞれの秋』は40年前のドラマだし、番外の『極楽家族』も35年前のドラマ。『極楽家族』は内容的には圧倒的に1位なんだが、これまで何度も見ているドラマで、ここで取り上げるのも心苦しいほどなんで、番外ということにした。『とんび』は泣かせるドラマだが、わざとらしさが鼻に付く部分がなきにしもあらず。2013年には同じ原作をTBSが連続ドラマにするらしいが、こういうところにも放送業界の企画の貧困さが見受けられるんだな。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
by chikurinken | 2012-12-31 09:01 | ベスト

『絢爛たる影絵 小津安二郎』(本)

b0189364_928296.jpg絢爛たる影絵 小津安二郎
高橋治著
文春文庫

 映画監督、小津安二郎の評伝。元々の連載時は「小説・小津安二郎」というタイトルだったらしいが、僕はこれが小説だとは知らずに、ずっとノンフィクションだと思って読み進めていた。実際、小津安二郎の身辺だけでなく、著者本人がしつこいくらい顔を出し、本人周辺のことがイヤになるほど出てくる。
 著者は松竹の元・映画監督で、小津安二郎と同じ時期に松竹で監督をやっていた人らしい。『東京物語』にも助監督として参加したという。当時、松竹では新人監督の採用を続けており、後に松竹ヌーヴェルヴァーグと呼ばれる一団を輩出していくが、著者もその中の一人と言える。ちなみに同期の監督には篠田正浩、一期下に大島渚、二期下に吉田喜重らがいるという。
 ただ僕は元々、小津安二郎の話を読みたかったわけで、松竹ヌーヴェルヴァーグにはあまり関心がない。彼らの映画についても、完成度が低い上に押しつけがましさを感じることが多いために、あまり好きじゃない。だから著者の身辺の話がやたら出てくるのは少々辟易した。序盤の方は、「先輩同僚である小津安二郎」という見方が割に新鮮で、そういう切り口から入って小津の人間に迫るのかと思って期待していたんだが、その後も何かというと自分周辺の話を持ち出してくる。僕から見ればこれは「脱線」であり、しかもそれが非常に多い。やたら自己主張が強いという印象で、こういうところが松竹ヌーヴェルヴァーグらしいと言えば言える。
 小津作品の分析めいた箇所も非常に多いが、これもかなり深読みなものばかりで、違和感がかなりある。たとえば著者は『東京物語』の紀子に性的な要素が表現されていると主張しているが、映像を見てそこまで感じることは僕にはできない。あからさまに表現しないのが小津のスタイルだというのはよくわかるが、手がかりをまったく映像に入れていなければそれは表現できていない(または表現していない)のであって、もちろん見る側がどういう解釈をしてもかまわないわけだが、そういうものをいちいち独断でこうだと決めつけても説得力はないと思う。
 松竹大船での小津安二郎の生き様は、著者を含む身辺の人々の目でアプローチしていていて、これは業界に籍を置いた人ならではで、なかなか興味深いものがあった。ただそこでも著者の姿がしつこいほど出てきて、やはりかなり鬱陶しく感じる。
 なお、小津安二郎は、戦時中に、軍の意向でシンガポールに赴任したが、そのあたりのことは「幻のシンガポール」というタイトルで別作品になっていて、「絢爛たる影絵」の後に収録されている。こちらは完全に小説形式になっていて、当時の小津がよく再現されている。著者の姿がしつこく出てきたりしないので鬱陶しく感じることもない。ただ小説として面白いかどうかは少し微妙である。
★★★

参考:
竹林軒出張所『小津安二郎・没後50年 隠された視線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『秋刀魚の味(映画)』
竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえる名作(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青春放課後(ドラマ)』
by chikurinken | 2012-12-30 09:29 |

『無垢の島』(ドラマ)

無垢の島(2012年・NHK大分)
演出:髙武慎
脚本:日下渚
出演:新村澪二、柄本佑、大塚千弘、須藤百合子、村柗一也、ダイノジ

b0189364_9403666.jpg 大分県の豊後水道に浮かぶ無垢島を舞台にした単発ドラマ。NHK大分放送局開局70年記念ドラマということで、ギャラクシー賞2012年5月月間賞という(よくわからない)賞も受賞している。
 無垢島の対岸にある無人島の沖無垢島で助けを求めていた青年(柄本佑)と無垢島在住の子ども(新村澪二)の交流を中心に話が進み、それぞれの登場人物が抱える問題を無垢島の美しい風土が解決してくれるというありがちなストーリー展開である。シナリオ自体は、公募シナリオによく見られるようなもので(ただし公募シナリオではない)やや面白味に欠けるが、ストーリー展開に破綻はない。だがそもそもなぜ柄本青年が、無垢島の人々に知られないまま沖無垢島にいたのか、しかもそこで遭難していたのかは謎のままである。
 シナリオを書いたのは、大分県で劇団を主宰している人で、演出もNHK大分の人が担当しており、非常にローカル色あふれるドラマになっている。もちろんローカルだといって、全国放送局のドラマと比べて劣るなどということはまったくない。キャストも結構地元の衆が出ていて、主人公の少年の同級生は、大分県内でオーディションしたらしいし、民宿の女将も大分の劇団の主催者、やたら登場してくる漁師に至っては地元の現役の漁師だという。演技はどれも素朴なものだが、決して下手ではない。きっと演出が良かったんだろう。他のキャストやエキストラにも地元の衆が多数抜擢されていたようで、考えようによっては町内会総出の自主映画製作みたいにも思える。だがそのためもあってか、島の雰囲気がよく出ていて味わいのあるドラマになっていたし、こういうローカル・ドラマが増えるのは良いことじゃないかとも思えるんだな。
 僕がこの番組を録画したのが2012年の春くらいだったんじゃないかと思うが、その頃NHKは、全国のNHKローカル放送局制作のドラマを毎週のように放送していた。何本か見たが、どれも派手さはなく、このドラマも含めて当たり障りのないあたりに落ち着いていたが、どれもしっかり作られていた。それぞれの地方局にとっては「総力を結集」くらいの勢いで取り組んでいたことは容易に想像されるので、いい加減なものがなかったんだろうと思う。同時にあまりリスクを冒すことができないという面もあるんだろう。ここ一番で無茶なシナリオや演出を採用するというのも無謀な話だし、無難な線に落ち着くのは致し方ない。いずれにしても地方色がほどよく出ていて、こういう試みも良いものだと思わせるものだった。今後も是非、各地方局で持ち回りにドラマを作っていくなどして、こういう企画を続けていってほしいと思う。どのみちNHK東京やNHK大阪で作っても大したものはできないんだから。
★★★

参考:
竹林軒出張所『命のあしあと(ドラマ)』
竹林軒出張所『“くたばれ” 坊っちゃん(ドラマ)』
竹林軒出張所『ラジカセ(ドラマ)』
by chikurinken | 2012-12-29 09:41 | ドラマ

『督促OL 修行日記』(本)

b0189364_8483490.jpg督促OL 修行日記
榎本まみ著
文藝春秋

 信販会社のコールセンターで、もっぱら支払い督促業務を行っているOLのエッセイ。著者のブログがネタ元なんだろうが、全体的によくまとまっているので、あらためて書き下ろしたものかも知れない。
 なんと言ってもふだんあまり目や耳にしない業界の話なので、内容が目新しく珍しい。督促と言っても、かつての悪質なサラ金の取立みたいなものは現在法律で禁止されているため、もっぱら電話と書面でお願いするという形になるという。債務者を追い込むような悪質な取立てどころかむしろ、債務者側からひどい罵声を浴びせられたり脅迫されたりということも多いそうだ、本書によると。そのせいもあって、辞めていく人が非常に多いらしい。精神を病んでいく人もあるという。
 本書では、就職氷河期まっただ中の著者が何とか信販会社に就職でき、喜んでいたのもつかの間、督促業務に配属され地獄を見るというところから話が始まる。当初は同僚の中で最低の成績しか上げられず、客の激しい叱責に落ち込んだり、早朝から夜中まで続く過酷な業務に苦しんだりしながら(身体にも異変が出てきた)、やがて自分なりに客への対応方法を模索して、ついには責任ある立場にまで上ったという一種の成長譚である。
 しかしそれにしても、実際に本書で垣間見る業務の内容は非常にハードで、耳を疑うようなものばかりである。「今からそこに行って殺す」とか「火をつけてやる」とかいう客もいるらしく、客だからと言って(客と言っても債務者なんだが)そこまで暴力的な言動が許されていいのかとも思う。毎日がそういう人間否定の中にいれば参ってしまうのもごく当たり前というもんである。ただ著者は、実際に客に対応する中でさまざまな処方箋を身につけていくが、こういった対処法も本書で紹介されていて、こういうものは心理学的に見ても非常に興味深いものがある。
 平易かつ素直な文章で書き綴られ、ちょっと作文風ではあるが、書かれている内容が実に深いので、驚いたり感心したりすることの方が多い。欲を言えば、具体的なやりとりや対処方法をもっと多く紹介してほしかったが、しかしそれでも得るところが非常に多い立派な本であった。特に人間とのつきあい方や話し方、言い換えると心理学的なアプローチについて学習する上で大変役に立った。
★★★☆

追記:お金を取り立てたいときは、直接的に「入金されていません」と言うと相手を怒らせることが多いので(攻撃されていると感じるんだろう、たぶん)、「いつだったら払えますか?」と疑問形から入ると、相手もとっさに支払うイメージを具体的に持つことが多く、怒らせることはないらしい。こういう情報がたくさん欲しかったんだな。

参考:
『督促(トクソク)OLの回収4コマブログ』(著者のブログ)
竹林軒出張所『攻撃性』
竹林軒出張所『なぜあの人はあやまちを認めないのか(本)』
by chikurinken | 2012-12-27 08:50 |

『テルマエ・ロマエ』(映画)

テルマエ・ロマエ(2012年・「テルマエ・ロマエ」製作委員会)
監督:武内英樹
原作:ヤマザキマリ
脚本:武藤将吾
出演:阿部寛、上戸彩、北村一輝、市村正親、宍戸開、笹野高史、竹内力

b0189364_1004181.jpg ヤマザキマリ原作のマンガ(竹林軒出張所『テルマエ・ロマエ I、II(本)』参照)を映画化したもの。
 原作のマンガもはなはだ安直なストーリー展開だったが、マンガでいるうちはそれほど気にならなくても実写にしてみると荒唐無稽さと安直さが際立って、どうにも吉本新喜劇みたいな、軽さばかりが目立つ映画になってしまった。製作の中心メンバーはフジテレビだが、いかにもフジテレビで放送しそうなドラマをそのまま映画にしてみましたというような映画で、本来であればテレビでやるようなクオリティである。ただし、イタリアのチネチッタ撮影所を使った豪華なセットは、テレビ・ドラマの予算ではなかなか再現できないだろうし、それを考えると「テレビで放送すれば良いじゃないか」とはなかなか言えないところだ。ましかし、見る側は映画を見るつもりではなく、フジテレビ製のテレビ・ドラマを見るような気持ちで見ればあまり落胆もしないのではないかと思う。
 キャストは、阿部寛、北村一輝、市村正親、宍戸開らの濃い顔のメンバーが、イタリア人に混じってしれっとローマ人を演じていて、その辺が話題作りの一環でもあったんだろうが、イタリア人の中に入ってしまうといくら濃い顔であっても日本人には違いない。違和感たっぷりである。演技もオーバーでいただけない。なんでも監督の武内って人はフジテレビの人間のようで、フジテレビのスピンオフ映画を過去たくさん撮っている。メディア・ミックスと言えば聞こえは良いが、(角川商法ならぬ)フジテレビ商法健在といった雰囲気が映画の全編に漂う。
 ストーリーはほぼ原作を活かしているが、安直さに輪がかかったような話になってしまった。なんでもイタリア全土で公開する運びになったらしいが、一人の日本人として、こういう馬鹿話をあまり海外の人に見せたくはないなというのが正直な気持ちである。
★★★

参考:竹林軒出張所『テルマエ・ロマエ I、II(本)』
by chikurinken | 2012-12-25 10:02 | 映画

『ゴーイング マイ ホーム』(2)〜(10)(ドラマ)

ゴーイング マイ ホーム(2012年・関西テレビ、テレビマンユニオン)
演出:是枝裕和
脚本:是枝裕和
音楽:ゴンチチ
出演:阿部寛、山口智子、宮崎あおい、YOU、安田顕、吉行和子、西田敏行、りりィ、阿部サダヲ

b0189364_8534466.jpg 先日、フジテレビ系列で放送されていたドラマ、『ゴーイング マイ ホーム』の最終回が終わったので、視聴者側からの総括をしようと思う。第1回目の『ゴーイング マイ ホーム』については、前に書いたのでそちらを参照していただくことにして、今回はその後の展開などを中心に語らせていただく。
 結論から言えば、第1回目を見た後に感じたように、非常に質の高いドラマで、しかも非常にテレビ・ドラマ的なあまりにテレビ・ドラマ的なドラマであった。中心となる事件(このドラマでは父の危篤)が起こりそれを軸に話が進んでいくが、最終的に大したことは起こらないまま終わってしまう。もちろん危篤だった父は結局死ぬんだが、普通に葬儀が行われ、登場人物たちは日常に戻っていく。というふうに、継続する日常から、ある期間だけを切り取って3カ月間のドラマにしたような按配で、一般的な映画のように、起承転結が2時間に盛り込まれるというものではなかった。だから終わった後、あのドラマは一体何だったんだと思うこともあるが、しかし同時にそれはそれで良いんじゃないかと思ったりする。登場人物たちはそれぞれ自分の問題に直面しながらなんとなく解決されたりされなかったりだが、そのあたりも非常に自然で、実際の我々の生活というのも大体がそんなもんだ。そういう点でホームドラマの王道みたいな展開と言えるかも知れない。
 また、何より完成度が高いのがすごい。10本のドラマでこれだけの完成度を保つというのも大したもんである。妖精の「クーナ」がモチーフになっているが、前に危惧していたようにそこに収束してしまうようなこともなく、最後までモチーフとしての位置が保たれたのも良い。セリフも、前に書いたようにわざとらしさがなく、全体が実に自然に流れていく。今どきのドラマでは珍しい。
b0189364_8545422.jpg また「この役者、いいナー」と思うようなシーンが毎回あって、しかもそれが毎回違う役者だったりして、その辺も演出家の力量なんじゃないかと思う。中でも阿部寛、山口智子、宮崎あおい、YOU、阿部サダヲらが非常に好演。吉行和子が包丁を握るシーンなんかもあって、内輪受け的な笑いも誘ってくれる(吉行和子は実生活では一切包丁を使わないらしい。はさみで切れないような料理はやらないと以前『徹子の部屋』で語っていた)。有名なフードコーディネーター(飯島奈美って人)が関わっていたため、毎回料理がやたら出てくるのは賛否両論あるかも知れないが、進行上違和感はなかったので特に問題はない。
 唯一気がかりだったのが、途中で打ち切りにならないかということだった。というのも、フジテレビは以前、視聴率が悪いからと言う理由でドラマを打ち切った前科があるからで、今回、視聴率が取れたのかどうかはよく知らないが、「人気爆発!」というような種類のドラマではないだけに、最終的にはあまり視聴率は上がらなかったんじゃないかと思う。それでも最後までやったのはテレビ局のせめてもの良心だったのかも知れない(打ち切りにするのも結構大変みたいだが)。製作者側には、あまり視聴率なんか気にしないで作ってほしいところだが、視聴率至上主義が何十年も続いていて、中でもここ20年くらいすべてが悪い方に転がっているような感じもする。そんな中でこれだけの作品ができたことを評価したいと思う。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『ゴーイング マイ ホーム (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『歩いても 歩いても(映画)』
by chikurinken | 2012-12-23 08:49 | ドラマ

『アフリカ争奪戦 富を操る多国籍企業』(ドキュメンタリー)

アフリカ争奪戦 〜“富”を操る多国籍企業〜
(2012年・国際共同制作NHK/Guldbrandsen Film/Steps International他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー シリーズ「世界の貧困」
演出:クリストファー・グルバンセン

b0189364_7585972.jpg 南北問題の1側面を告発するドキュメンタリー。アフリカのザンビアにある銅山が多国籍企業によって牛耳られているため、それがザンビアに何の富ももたらしていない状況を紹介する。
 ザンビアは大量の銅を埋蔵している他、さまざまな天然資源を抱えているが、かつて銅価格が暴落したあたりから経済が破綻し始め、結局国営の鉱山を多国籍企業に安い値段で売却せざるを得なくなった。ここでもIMFや世界銀行の影が見え隠れするわけだが、ともかく本来であれば国民の生活に還元されるべき資源が、グレンコア社などの多国籍企業に売り渡されてしまった。そのために鉱山開発による収益はザンビア国内に残らず、しかもこの企業が巧妙に税金逃れをしていることから、ザンビア政府には税収すら入らない。「移転価格」という手法で、税金の安い国(この場合スイス)に置かれた関連会社との間で架空取引をすることで、税金をごまかしているわけだ。
 その上、採掘工場からはわけのわからない毒物が大量に放出され、近隣の住民は健康被害に悩まされている。そこには南北問題の縮図がある。一方でヨーロッパにはこういった状況を告発している勢力もあり、彼らの助けによりザンビア政府もこの企業に対して圧力をかけ始めている。そもそも「移転価格」という手法自体、外からは大変わかりにくい方法らしく、小国の政府ではなかなか対応できないという。そのため、ヨーロッパのさまざまな団体の支援が非常に重要になるわけだ。
 グレンコア社の方はというと近年大変な利益を上げていてウハウハ状態のようだが、「本来ならそれはあんたたちが懐に入れるべき金じゃないんだよ」と言ってやりたくなるところだ。ともかくこういう恥知らずな連中が人の持ち物を平気で懐に入れてのさばっている状況は、世界中のあちこちで見られ、なかなか変わることがない。ベネズエラのウゴ・チャベス大統領が石油の国有化に踏み切ったが、ああいった思い切った政策を実行しない限りこういった泥棒行為はなかなか是正できないんであって、いまだに植民地主義があちこちに見受けられるようで気分が悪いったらない。こういうドキュメンタリーを見ると、社会正義は一体どこにあるのかとまことに暗い気持ちになる。
 このドキュメンタリーは『BS世界のドキュメンタリー』の「世界の貧困」シリーズの1本だったが、このシリーズ、全体的に水準が高かった。中でも前に紹介した2本、『パーク・アベニュー 格差社会アメリカ』『中国 教育熱のゆくえ』は、いろいろ考えさせる内容でなかなかの力作だった。このシリーズ、好評だったのか知らんが、なんでも2013年の1月1日、2日にまとめて再放送されるらしい。
★★★☆

竹林軒出張所『パーク・アベニュー 格差社会アメリカ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『中国 教育熱のゆくえ(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2012-12-21 08:09 | ドキュメンタリー

『ファントム』(映画)

ファントム(1922年・独)
監督:フリードリヒ・W・ムルナウ
原作:ゲルハルト・ハウプトマン
脚本:テア・フォン・ハルボウ
出演:アウド・エゲーデ=ニッセン、アルフレート・アーベル、ハンス・ハインリヒ・フォン・トヴァルドウスキー

b0189364_12374110.jpg ドイツの国民詩人、ハウプトマン(僕はよく知らなかったが)の自伝的小説が原作で、ハウプトマンの生誕60年を記念して作られたらしい。監督はF. W. ムルナウで、全6幕構成、上映時間2時間の映画である。
 ハウプトマンの自伝的映画ということをまったく知らずに一切先入観なしで見たためか、あまりストーリーに面白味を感じなかった。生真面目な公務員のローレンツ君が、詩人になることを夢見ながら、ある女性に一目惚れしたことをきっかけに道を外してしまうというよくありがちな話で、しかも途中大した起伏もなく展開していく。『ファウスト』『タルチュフ』のような劇的な展開もなく、途中見るのが少し苦痛になったほどである。ただこれが、ある作家の自伝的作品だということがわかっていれば、こちらの感情移入の度合いももう少し違っていたのかも知れないと思う。
 何せ古い映画なので、通常であればきれいなプリントで見ることはできないものだが、この映画も他のムルナウ作品と同様、残っていたきれいなプリントをつなぎ合わせてリマスターしたものということで、90年前の映画とは思えないほどきれいな状態で再現されている。ただし、シーンに応じて色が付けられていて(作成時の意図どおりということらしいが)はなはだ見づらかったことを付記しておく。こういう効果がどれほど有効なのかは疑問である。
 また、6幕構成にした意味も正直あまりわからない。僕などは途中でかなり飽きていたので、一旦見るのをやめて翌日見たんだが、そのときに途中で区切るために幕と幕の間を利用するという使い方をした。だから個人的にはまったく役に立たなかったわけではないんだが、まさかそういうことを前提にして6幕にしたわけではあるまい。いずれにしてもかなり物足りない一本であったことには変わりない。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『フォーゲルエート城(映画)』
竹林軒出張所『吸血鬼ノスフェラトゥ(映画)』
竹林軒出張所『タルチュフ(映画)』
竹林軒出張所『ファウスト(映画)』
by chikurinken | 2012-12-19 12:37 | 映画

『熱いトタン屋根の猫』(映画)

b0189364_814185.jpg熱いトタン屋根の猫(1958年・米)
監督:リチャード・ブルックス
原作:テネシー・ウィリアムズ
脚本:リチャード・ブルックス、ジェームズ・ポー
出演:エリザベス・テイラー、ポール・ニューマン、バール・アイヴス、ジャック・カーソン、ジュディス・アンダーソン、マデレーン・シャーウッド

 テネシー・ウィリアムズの有名な戯曲を映画化したもの。そのため、ハリウッド映画でありながらドンパチは一切なく、地味な人間ドラマになっている。
 出ている役者も舞台出身者が多いのかうまい人ばかりで、上質の演劇を見るような印象すら受ける。それぞれの登場人物に家族関係に対するそれぞれの思いがあって、それが少しずつ明らかになっていくんだが、その過程も非常に自然でまったく無理がない。さすがテネシー・ウィリアムズという展開である。ただ、ポール・ニューマン演じるブリックが、最後にどうしてああなったかはまったく納得がいかない。ちょっと無理矢理に予定調和にしたような印象がある。ブリックが同性愛者であることがあまり明確にされていない点も、そういう無理を生じさせる原因になったのかとも思う。あるいは、この時代に映画で同性愛者を描くことに無理があったのかも知れない。ましかし、総じてよくできたストーリーの映画で、会話劇でこれほどスリリングに展開していく映画はあまりない。
 キャストは先ほども書いたようにどれもうまく、ポール・ニューマン、バール・アイヴス、マデレーン・シャーウッドが独特の存在感を放つ。演出も正攻法で、戯曲らしく三一致の法則に従って作られている。
 テネシー・ウィリアムズの戯曲はハリウッドで何度も映画化されており、ハリウッドにとって、おそらくここ一番の文芸路線だったんだろうが、今まで見たものはどれも真面目に取り組まれたものばかりで、質の高いものが多い。特に『ガラスの動物園』とこの『熱いトタン屋根の猫』は非常に立派な作品で申し分ない。ハリウッドの良心と言えるような作品である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『冬のライオン(映画)』
竹林軒出張所『第十七捕虜収容所(映画)』
竹林軒出張所『フロント・ページ(映画)』
竹林軒出張所『ロープ(映画)』
by chikurinken | 2012-12-17 08:14 | 映画

『ファウスト』(映画)

b0189364_8571977.jpgファウスト(1926年・独)
監督:フリードリヒ・W・ムルナウ
脚本:ハンス・カイザー
出演:ヨースタ・エックマン、エミール・ヤニングス、ウィルヘルム・ディターレ、カミルラ・ホルン

 ドイツに古くから伝わる「ファウスト」伝説を映画化したもの。なにしろ古いサイレント映画で、「古典」の部類に入る。監督は巨匠、F. W. ムルナウ。
 悪魔に魂を売ったファウストの悲劇であるが、映画自体も古い上題材も古いので正直あまり期待していなかったのだが、展開はなかなかスリリングで、エンタテイメントとしてもよくできている。さまざまな特撮技術を駆使しており、しかもその多くが非常に効果的である。90年近く前の映画でありながら、映像技術については古さを感じさせない。逆に言えば、この頃から撮影技術自体はあまり変わっていないということになるのか。もちろん、サイレント時代の映画だけにメイクは異様に派手で少し気味が悪いが、逆にメフィストフェレスについてはこういうメイクがかえって味を出していて、トータルで見るとそれほど悪くないとも思える。背景に流れる音楽はすべてピアノ伴奏で、サイレント映画であることを考えるとおそらく後から付けたものだろうが、バッハやムソルグスキーらの音楽を断片的に使って、映像を補う役割を十分に果たしていた。
 演出については、ムルナウの実力を窺うことができるもので、きわめて質が高いと言える。ムルナウは、この映画を撮ってからアメリカに移った(その後アメリカで事故死)ので、ドイツ製のムルナウ映画はこれが最後らしい。
 ムルナウ映画の常連、エミール・ヤニングスもメフィストフェレスとして怪演している。この映画でのヤニングスのイメージは『タルチュフ』に近く、『最後の人』や『嘆きの天使』のイメージとはかなり違う(同一人物とは思えないんだな)。
 僕が今回見た版はフィルムの状態が非常に良いもので、ノイズもほとんどなく、まったく古さを感じさせない。よくこれだけきれいな状態で残っていたなというくらいのレベルであった(僕はCSの放送で見たんで、今流通しているDVD版と同じバージョンかどうかはわからない)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『フォーゲルエート城(映画)』
竹林軒出張所『吸血鬼ノスフェラトゥ(映画)』
竹林軒出張所『タルチュフ(映画)』
by chikurinken | 2012-12-15 08:59 | 映画