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竹林軒出張所

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『巨人のイタチョコの星のシステム』(本)

b0189364_7441770.jpg巨人のイタチョコの星のシステム
ラショウ著
毎日コミュニケーションズ

 かつて雑誌『Mac Fan』に連載されていた4コママンガ「ソフトハウス盛衰記 巨人のイタチョコの星のシステム」をまとめたもの。著者は、イタチョコシステムの総帥、ラショウ。ちなみにこのイタチョコシステム、1990年代にMac用のゲームを10数本リリースしたソフトハウスで、『野犬ロデム』や『あの素晴らしい弁当を2度3度』が(ごく一部のMacユーザーの間で)知られている。パソコン用のゲームと言っても、現在の感覚で考えてもらうとちょっと違う。当時からヘナチョコゲームを自称していたようだが、非常に異色のゲームだった。さすがに当時の僕もイタチョコゲームを買ってプレイしようとは思わなかったが、しかしそれでも『Mac Fan』に連載されていたマンガは、絵は少し不気味ではあるが非常に味があって面白いもので、今でも憶えている場面が結構あった(ラショウがボランティア社員のオーツキに親から金を借りてくれとせびるシーンなど)。
 ラショウがソフトハウスを始めて操業していく過程を追った起業話だが、どこか職人的で、利益を追求するという姿勢はあまり見えず、著者が言うように、起業を目指す人には参考にならないかも知れない。だが、こういう姿勢はもの作りを志す人間にとっては大切だとも言える。随所に90年代のMacが登場してきて、同じ時代をMacユーザーとして過ごしてきた人間にとっては懐かしい。当時Macは今よりずっとマイナーで、アップルもいつ潰れてもおかしくないような危機的な状況だった。それでもMacを使い続ける人々がいて、しかもこんな怪ゲームをリリースしていたソフトハウスがあったわけだ。CD-ROMが普及していく過程も懐かしく思い出され、こういうことがあったなーと感じることしきり。
b0189364_804459.jpg 余談だが、この本すでに廃刊状態で、2004年に復刊ドットコムで復刊候補として上がったようだが結局復刊の運びにはならなかったようだ。僕は今回古本で手に入れたんだが、割合出回っているようで、わざわざ復刊する必要はないんじゃないかとも思う。なんと言っても復刊リクエストの数によっては値段が7000円以上になる可能性もあったらしい。古本だと700円程度で買えることだし、それに僕が買った本には著者の奇怪なサインまで入っていた。Amazonにも古本がまだ数冊出回っているんで、欲しい方はそちらでお求めになったらいかがだろう。少なくとも7000円で手に入れるべき本ではないような気がする……。ラショウ氏もそんなことは望んでいないと思うんだな。そうそう、イタチョコのゲームだが、Mac版はもう手に入らないが、Windows版は今でも入周可能。『野犬ロデム』も『あの素晴らしい弁当を2度3度』もVectorで入手可能なようだ(以下のリンクからたどれます。詳細は未確認なのでご自身でご確認ください)。
★★★☆

参考:
ヘナチョコゲームセレクション for Windows - iTachoco Systems - pentacom イタチョコ
by chikurinken | 2012-10-31 07:45 |

『ラストミッション ハッブル宇宙望遠鏡を救え』(ドキュメンタリー)

ラストミッション 〜ハッブル宇宙望遠鏡を救え〜
(2009年・米WGBH/Lone Wolf Documentary Group)
NHK-BS1

b0189364_717167.jpg 地球の軌道上を飛行する衛星型(と言って良いのかわからないが)の望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡。1990年にNASAによって打ち上げられ、その後、宇宙空間の貴重な画像を地球上に送り届けてきた。だが2006年以降、部品の故障が相次ぎ、観測が以前のようにできなくなった。それまでも、NASAによって数度にわたり宇宙空間で補修作業(サービス・ミッション)が行われてはいるが、このミッションも2009年をもって終了するということで、2009年のミッションが最後ということになった。
 そういういきさつで2009年5月にスペースシャトル・アトランティスがサービス・ミッションのためにアメリカを飛び立った。このドキュメンタリーでは、その訓練から実際の作業までを追い、宇宙空間で出くわすさまざまな困難やそれを克服してミッションを成し遂げていく過程を紹介していく。アメリカWGBHのドキュメンタリーらしく、見せ方は劇的で非常にうまい。クルーやスタッフのインタビューを交え、CGも駆使して、さらに現地で撮影された貴重な映像まで紹介されるので、クルーの活動を疑似体験しているような感覚も覚える。衛星の修理作業に非常な困難が伴うということがわかるとても具体的なドキュメンタリーだった。ただしハリウッド映画的というか、面白いには面白いが、あまり残るものがなかったのも事実である。
★★★☆
by chikurinken | 2012-10-30 07:17 | ドキュメンタリー

『吸血鬼ゴケミドロ』(映画)

b0189364_822871.jpg吸血鬼ゴケミドロ(1968年・松竹)
監督:佐藤肇
脚本:高久進、小林久三
音楽:菊池俊輔
出演:吉田輝雄、佐藤友美、高橋昌也、高英男、金子信雄、加藤和夫、北村英三、山本紀彦

ネタバレ注意!
 中学生のときにテレビで見て大変な衝撃を受けたSF映画。今見るとアラが目立つが、それでもこの救いようのなさは特筆ものである。
 ある国内便旅客機が、謎の空飛ぶ円盤に遭遇して事故を起こし、未知の地域(無人島みたいな場所)に不時着するところから始まる。事故のために乗客、乗員の多くは死亡するが、2人の乗員と8人の乗客だけが生き残る。ここから15少年漂流記みたいな展開になるが、なんと言ってもそのメンバーが濃すぎる。まず、首相の地位に近い大物政治家(北村英三)、その政治家に取り入る軍需産業の社長(金子信雄)、その妻が揃って生き残る。しかもその妻が大物政治家と愛人関係になっていると来ている。よくこの3人が生存者になったなという、ちょっと「無理から」な展開であるが、それについては目をつぶろう。だが、他の生存者の中に、某国大使を暗殺したばかりのスナイパー(高英男)や、飛行機に時限爆弾を積み込んで爆破を目論む過激派の若者(山本紀彦)までいるとなると、ヲイヲイと思ってしまう。よくこれだけのメンバーがこの飛行機に乗っていて、しかも生存していたなという顔ぶれである。飛行機の乗客ではなく日本全国から選抜してもなかなかこれだけのメンバーは集まらないだろう。
 さて、こういう非常に濃い人達が未知の地域で、水もない食糧もない、連絡もつかない、救援もないという状況で生き延びようとするんだが、ここに登場するのが、謎の空飛ぶ円盤(飛行機が事故に遭ったのもこの円盤と遭遇したせいだった)で地球に降り立った、アメーバ状の異星人。実は人類を皆殺しにして地球を侵略しようという意図を持っている。この異星人、人間の額から体内に入り込んで、その人間を自由にコントロールするという「エイリアン」さながらの恐ろしい寄生生物で、この辺の設定はすばらしいところ。だがそのコントロールされる人間の方が、吸血鬼と化して他の人間から生き血を吸うというのは、人を殺傷する方法としてはとても無駄なやり方のような気もする。とは言え、逃げ場のない無人島の中で吸血鬼に追いつめられていくという展開は面白い。一体どうなるんだろうと思って見ていたら、追いかけられていた人々はなんと、当たり前のように普通の日本の街に出てきた。というわけでまったくもって無人島じゃなかったんだな。水もない食糧もないという状況だったんでてっきり謎の無人島だと思っていたが、ストーリー上の都合なのか、このあたりちょっとご都合主義的に展開してガックリする。
b0189364_862160.jpg そういうバランスの悪さは随所に残してはいるが、終末ものとしての不気味さはなかなかのものである。それに異星人に取り憑かれたスナイパー、高英男の不気味さは、夢に出てきそうなほどである。他にも石立鉄男ドラマでお馴染みの山本紀彦、『仁義なき戦い』の金子信雄など、異色のキャストが揃う。主演の吉田輝雄は、『秋刀魚の味』に出てきた「マグリガ―なんだけどなぁ」の三浦を演じた人(僕は最後まで気がつかなかった。右の写真は『秋刀魚の味』のもの)。また音楽担当は菊池俊輔で、緊迫したシーンの音楽は『キイハンター』そのものになってしまう。
 当時のこの手の映画同様、ご都合主義的な部分も非常に多いが、同時に見所もたくさんある(異星人との遭遇シーンや額が割れるシーンなどはすごい)。そういうところを考えあわせると、やはり全体的なバランスが悪いんだろうなと思う。惜しい映画である。
★★★
by chikurinken | 2012-10-29 08:07 | 映画

『それ行け!! 珍バイク』(本)

b0189364_861387.jpgそれ行け!! 珍バイク
ハンス・ケンプ著
グラフィック社

 以前テレビで見たベトナムのルポルタージュで、壊れた数台のオートバイからいろいろなパーツを取り出して1台のオートバイを組み上げたというケースが紹介されていた。そのとき純粋に「ベトナムすげっ!」と思ったが、この写真集に出てくるベトナムのスナップショットも、かの国の底力を感じさせるものになっている。
 この写真集は、ベトナムの路上を走っているさまざまなバイクの写真を集めたものだが、そのバイクというのが「積載量完全オーバー」という代物ばかり。バイクの前後の荷台にものを載せるのはもちろんで、中には左右にも載せているものもある(と言うより結構多い)。載せているのは食糧(鶏肉や豚肉、野菜、果物)、日常品(家具、玩具、冷蔵庫!)など多種にわたる。生きている犬(たぶんペット)を前後ろに4頭載せているものや、袋に入れた金魚を山積みしているものもある。2人乗りで(後ろに乗った男が)ガラスや額縁や鏡を持ったものや、家族で5人乗りしているものもあって、見るからに危なっかしい。しかしこういうものを見ると、バイクで運べないものはないんじゃないかと思えてくるから不思議だ。小型自転車を7台搭載したものやポリタンク(5〜10リットル程度のもの)を1000個以上搭載したものまである。これまでの常識が覆される思いがする。
b0189364_862992.jpg なんでもベトナムでは、交通渋滞がひどく、自動車で移動するよりもバイクで移動する方が効率的だそうで、それでこういった珍奇な工夫が出てくるんだろうということだ。ちなみに写真を撮ったハンス・ケンプ氏だが、彼もバイク・タクシー(つまりバイクの後ろに人を乗せるタクシー)の後ろに乗っかった状態で激写したんだそうで、これもはなはだベトナム的。
 荷台に何でも積んでしまうという創意工夫は、複数の壊れたオートバイからオートバイを1台作るというのと相まって、なんとなくテクノロジーの国というイメージを僕にもたらす。結果的にベトナムに対して親近感を感じることになる。それに街にあふれるエネルギーというか活力まで伝わってきて、なんだか元気が出る。ベトナムがちょっとだけ好きになる写真集であった。
★★★☆
by chikurinken | 2012-10-27 08:08 |

『プーサン』(映画)

プーサン(1953年・東宝)
監督:市川崑
原作:横山泰三
脚本:和田夏十
出演:伊藤雄之助、越路吹雪、藤原釜足、三好栄子、小林桂樹、八千草薫

b0189364_732589.jpg 横山泰三の新聞連載4コママンガ『プーサン』が原作の映画。元々が4コママンガなんで、映画のストーリーはオリジナルである。元のマンガは見たことすらないので、「プーサン」が人の名前なのか、別の意味があるのかもよくわからない。主人公の野呂米吉は、怪優、伊藤雄之助が演じている。ちなみにこの映画、同じ作者の『ミス・ガンコ』というマンガからも登場人物を拝借してるという話で、ガンコのほうは越路吹雪が演じている。
 1953年当時の朝鮮特需の世相を反映した映画になっているが、風刺の要素がどの程度あるかといわれると疑問である。これを「風刺」と呼んで良いのかよくわからない(NHKの解説ではやたら「風刺」を強調していたが)。ともかくあまりスッキリしない。『プーサン』とか『ミス・ガンコ』とかよく読んでいる人がこの映画を見たらそれなりに思うところもあるんだろうが、どうにも内輪受けみたいなモヤモヤも残る。演出も、ストーリー展開同様キレがなく、全体に雑な作りで特筆することはない。原作者をはじめ、演技の素人がたくさんゲスト出演しているが、これも何だかひどい素人演技で、映画の粗雑さに輪をかける結果になっている。53年当時にこの映画を見たら、知っている文化人がゲストで突然出てきて面白く感じるのかも知れないが、今見るとこれも内輪受けを狙ったようにしか思えない。
 職を失い路頭に迷う気弱な主人公、野呂には同情や共感を覚えるが、結局それだけで、正直見続けるのが苦痛な映画だった。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『鍵(映画)』
竹林軒出張所『細雪(映画)』
竹林軒出張所『炎上(映画)』
竹林軒出張所『おとうと(映画)』
竹林軒出張所『太平洋ひとりぼっち(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』
竹林軒出張所『吾輩は猫である(映画)』
竹林軒出張所『野火(映画)』
竹林軒出張所『幸福(映画)』
by chikurinken | 2012-10-26 07:33 | 映画

『いま助けてほしい 〜息子介護の時代〜』(ドキュメンタリー)

いま助けてほしい 〜息子介護の時代〜(2012年・テレビ東京)
テレビ東京 ザ・ドキュメンタリー

b0189364_8816.jpg 最近とみに増えているという、息子による親の介護をテーマにしたドキュメンタリー。
 親が突然アルツハイマー病を発症すると、誰かが面倒を見なければならなくなる。従来は「嫁」がやるケースが多かったが、最近では「息子」がこれに当たるケースが多くなっているという。で、息子が親の介護をするとどうなるかというと、職を辞さなければならなくなったりするため、介護の肉体的・精神的負担に加え、社会との隔絶感も生じてくる。こういったことすべてが介護者の葛藤となって、介護者を苦しめる。
 このドキュメンタリーの中心は、介護ライター、野田明宏氏の介護現場であるが、10年もの長期に渡って介護を続けてきた野田氏の口から、こういう感情が率直に語られる。この方、カメラの前でもあまりに率直に語るんで、カメラを通じてもその魅力が伝わってくるんだが、あまりに強烈な個性を発揮しているため、この人の映像を見ているとドキュメンタリーというよりドラマを見ているような錯覚にさえ陥る。この人の人間性をカメラでバッチリ捉えたスタッフも大したもんである。
 番組では、野田氏以外にも2件の息子介護のケースが紹介され、そのうち1件は母親を手にかけてしまったという悲惨なケースで、見ていて非常につらくなる。
 自分のキャリアをなげうって親の介護に自ら取り組むという、言ってみれば見上げた人達であるにもかかわらず、社会的には非常に困難な立場に追い込まれているという現実がある。こういう人達を救済するシステムが行政や社会にあってしかるべきではないかとも思うが、金(保険料)は取っても基本的に本人任せという態度は今も昔も変わらないようである。行政に代わって自ら介護に取り組んでいるんだから、最低限、生活保障というかしかるべき報酬を支払うべきではないかと思ったりする。そういうことをいろいろ考えさせられたドキュメンタリーであった。
 今回、僕の地域ではこの番組、夜中に放送された(東京では昼間)が、本当のところ、こういった秀作ドキュメンタリーはゴールデンとかプライムとか大勢の人が目にする時間帯に放送していただきたいものなのだ。なんだったら「NHKスペシャル」枠で……などとも思ってしまう(無理だろうけど)。結局のところほとんどの人が目にすることもなく、その存在すら気付かれることなく、ひっそりと消えていくことになるんだろうが、何とももったいないと思う。秀作番組をオープンに放送するようなチャンネルがあっても良いんじゃないかなどと、現行の放送のあり方にまで思いを馳せたのであった。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『野田明宏先生のファンの皆様へ』
竹林軒出張所『へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々(本)』
by chikurinken | 2012-10-24 08:08 | ドキュメンタリー

『ゴーイング マイ ホーム』(1)(ドラマ)

ゴーイング マイ ホーム(2012年・関西テレビ、テレビマンユニオン)
演出:是枝裕和
脚本:是枝裕和
音楽:ゴンチチ
出演:阿部寛、山口智子、宮崎あおい、YOU、安田顕、吉行和子、西田敏行、りりィ

b0189364_7485084.jpg 韓国ドラマはどれも好きじゃないだが、それは水準が低いからであって、だからといって日本のドラマなら良いっていうもんじゃない。昨今の日本のドラマはどれもひどいものばかりで、テレビの改編期にはとりあえず比較的面白そうなものをチェックしたりするんだが、正直見れたもんじゃないというものがあまりに多い。ドラマの隅々までダメさが行き渡っていて、シナリオが悪いとか演出が悪いとかキャストが悪いとか、もはやそういったレベルではないんだな。間違いなく今のドラマの9割以上はそういった類のもので、時間を使って見る価値はまったくない。残りの1割にしても、ほとんどは情けない代物で、アラが目立つので、継続して見るにはちょっとした決意がいる。そういう低い水準のドラマを見続けるよりも、昔のドラマの再放送を探して見る方がマシだってもんだ。日本のドラマはほとんど壊滅状態と言って良い。だから内容のないドラマが輸入されて、しかも受けたりするんだろう。そういう風に考えると、見る側の水準も落ちていると言えるのかも知れない。
 そういった状況にあって、ちゃんと見れるドラマが出てきた。監督、脚本は、実力者の映画監督、是枝裕和で、ひどいものができるわけがないとは思っていたが、それでもこれだけの水準のものを作れる実力者がまだドラマの世界にいたということがうれしい。といっても元々ドラマ畑の人ではないが。初回は2時間スペシャルだったが(おそらくこれから10回程度続くと思われる)、どのシーンを取っても無駄がなく、見ていてまったく飽きることがない。細部にわたって非常に技巧を凝らしていて、くすぐり的な笑いも随所に散りばめられている。それも、くだらないドラマで見られるようなこざかしいものではない。こういった、最初から最後まで惹きつける力というのが良いドラマの条件になるが、こういうドラマにめぐり逢うのも随分久しぶりのような気がする。
b0189364_750637.jpg さてストーリーは『歩いても 歩いても』の焼き直しみたいなもので(竹林軒出張所『歩いても 歩いても(映画)』参照)、キャストも共通するんで(阿部寛、YOU)おそらく製作者側にそれなりの意図があってのものだろうと思う。父の危篤のために自分の田舎に戻ることがストーリーの柱になるが、本人は会社でも少し微妙な立場にいるし、家族との関係も何だかとても冷たい雰囲気が漂う(しかも本人はそれにあまり気付いていない)など、今後いろいろな展開が予測できる面白い設定である。『歩いても 歩いても』のときにも感じたが、会話や設定に製作者の経験が盛り込まれているのではないかと思う。田舎の両親や姉との関係も非常に現代的というか、『東京物語』に輪をかけたような冷たさが感じられ、リアリティがある。だからと言って、現時点で何か問題意識を突きつけられるというような部分はなく、なんとなく危機感を孕んでいるような居心地の悪さが感じられるという程度のもので、このあたりもドラマとして心地良い部分である。
 映画との棲み分けもなんとなくできていて、ストーリーの中に出てくるいろいろなネタがテレビ的で、映画では出さない方が良いようなネタもふんだんに出てくる。テレビと映画の棲み分けは70年代くらいまで数々の映画人が悩んできた問題だが、さりげなく回答を出す当たり、是枝裕和という人のすごさを感じる。
 ストーリーはこの後「クーナ」という妖精を中心に進みそうだが、このあたりが多少気がかりな点で、そういうところに収束して家族の問題もそれなりに解決してしまうというようなところに落ち着かないでほしいなと思う。是枝裕和のことだから、その辺もうまく処理するんじゃないかとも思うが。
 ともかく現時点で演出、脚本、キャストともまったく文句の付けようがない高い水準のドラマで、今後の展開に期待できる数少ないドラマである。2010年代を代表するドラマになりそうな予感もある。ただし、一般受けして視聴率がとれるかどうかはわからない。なお第2話は本日22:15から放送予定。ドラマ好きは要チェック。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『歩いても 歩いても(映画)』
竹林軒出張所『ゴーイング マイ ホーム (2)〜(10)(ドラマ)』
by chikurinken | 2012-10-23 07:51 | ドラマ

『なぜ分数の割り算はひっくり返すのか?』(本)

b0189364_7553923.jpgなぜ分数の割り算はひっくり返すのか?
板橋悟著
主婦の友社

 小中学生が算数や数学を勉強するときに抱きそうな素朴な疑問を中心に、数学的思考の重要さを説く本。
 目次を見てみると、タイトルで使われている「なぜ分数の割り算は、ひっくり返すのか?」(第1章)や「なぜマイナス×マイナスは、答えがプラスになるのか」(第2章)、「因数分解は、大人になって何の役に立つのか!?(第4章)」などという項目があって目を引く。当然のことながら、このタイトルの命題に基づいて論が展開されるのだが、こちら側としては、数々の素朴な疑問への明快な回答を期待して読み進めることになる。
 たとえば「なぜ分数の割り算はひっくり返すのか」の理由は、中学レベルの代数で考えれば比較的簡単に説明できるんだが、小学生から質問されたりするとなかなか説明できない(実際に質問されたことはこれまでないが)。これについては、非常に適確な説明があって参考になったが(それぞれの項に同じ数をかけて、割る数字を1にするという説明。たとえば2/3÷5/7であれば、2/3と5/7の両方の項に同じ数をかけても結果が同じであるため、7/5をかける。すると
   (2/3×7/5)÷(5/7×7/5) = (2/3×7/5)÷1 = 2/3×7/5
になるというもの)、だがこれ以外のケースについては、残念ながら納得できるような回答があまりなかった。「因数分解は、大人になって何の役に立つのか!?」に至っては、一般的な問題解決の技法が因数分解的だからこういう考え方を身につけておけば将来役に立つなどという結論を出していて、正直期待外れも甚だしい。他の項も同様で、僕にとってはまったくもって「羊頭狗肉」本であった。
 全体的に中学の数学の教師が生徒を無理矢理説得しようとして展開するような手前味噌的な講釈が多くて、あまり新鮮味がないし感心もしなかった。読みやすいし(1時間くらいで読み終えられる)著者の真摯さは伝わってくるが、甚だしくもの足りない本であった。
★★★
by chikurinken | 2012-10-22 07:56 |

『物語 数学の歴史』(本)

b0189364_8431162.jpg物語 数学の歴史 正しさへの挑戦
加藤文元著
中公新書

 前にマンガ版の数学史の本を読んだ(竹林軒出張所『マンガ おはなし数学史(本)』参照)んで、いよいよもう少し内容の充実した本を読もうということで、この本に挑戦。副題も「正しさへの挑戦」ってことで、こちらの意気込みとシンクロしているかのようである。
 数学の歴史を古代文明から説き起こし、最終的には群論や非ユークリッド幾何学まで解説していこうという試みで、数学通史のような内容である。フェルマーの最終定理やリーマン予想まで扱うので内容充実と言えるのではないかと思う。とは言うものの、射影幾何学や非ユークリッド幾何学が出てきたあたりから、正直、著者(および本書で紹介される数々の数学者)が何を言わんとしているのかほとんどわからなくなった。つまり100ページ分くらいはちんぷんかんぷんの状態で読んだのであった。こういう読書法は絶対に良くないと思う。が、非ユークリッド幾何学については最後に1章割いていて、何となくぼんやりとではあるがイメージは掴めるようになった。わからないなりに最後まで読んでいて、少しだけプラスになった部分があったということだが、投入したエネルギーを考えると得るものが小さかったような気もする。
 ただこの非ユークリッド幾何学にも群論にも言えるが、僕の知っている数学の世界とは随分かけ離れているような気もする。世界の捉え方に関連するようなテーマで、哲学に近いんじゃないかとも感じた。こういうものに必然性があるのかどうかすら見当が付かず、完全に僕の理解を超えている。通史であるため致し方ない面もあるんだろうが、やはり説明が極端に不足しているんじゃないかと感じた箇所も多かった。いろいろ説明してくれているんだが、具体的なイメージが沸かない箇所も多い。『マンガ おはなし数学史』と内容は重複しているが、『マンガ』とは違って、項目によっては興味すら沸かないものも割にあった(その点『マンガ おはなし数学史』は非常に良くできた本だと言える)。まあしかし、考えようによっては、そういう世界があるということがわかっただけでもめっけもんとも言える。
★★★

追記:リーマン予想については、過去このブログでも『リーマン予想 天才たちの150年の闘い』というドキュメンタリーを紹介しているが、今読むとゼータ関数だのガウスだのいろいろ出てきてよくこれだけのことが書けるなと感心するくらいである(それほど、このドキュメンタリーが具体的でわかりやすくできていたんだろう)。こういった内容はこの本とも少しかぶっているので、今あのドキュメンタリーを見るともう少し楽しめるかも知れない。どっちにしてもあまり近付かなくて良い世界ではないかとも思う。

参考:
竹林軒出張所『リーマン予想 天才たちの150年の闘い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ポアンカレ予想 100年の格闘(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『世にも美しい数学入門(本)』
竹林軒出張所『博士の愛した数式(映画)』
by chikurinken | 2012-10-20 08:44 |

『インド式かんたん計算法』(本)

b0189364_8253915.jpgインド式かんたん計算法
水野純著、ニヤンタ・デシュパンデ監修
三笠書房知的生きかた文庫

 英語が苦手な人が英語ペラペラになったら良いなと思うように、暗算が苦手な人は高速暗算にあこがれる。テレビでたまに出てくるフラッシュ暗算(画面に次々に映し出される数字をあっという間に足していく暗算)なんか見るともう羨望である。小さい頃からソロバンをやっていると、頭の中にソロバン機構ができて暗算ができるものらしいが、こちらは子どもの頃からソロバンは苦手中の苦手だったと来ている。だから簡単に暗算ができるという本があると、飛びついてしまうのだな。以前テレビの通販で「マスマジックス」という教材を売り出していたことがあったが、実はあれにも手を出したのだった。「マスマジックス」では手軽に難しい暗算ができるようになるという触れ込みで、まあインチキではなかったが、大したこともなかったという印象である。筆算でやるような足し算や引き算は下の桁ではなく上の桁から計算すべきとする考え方は賛同できるものだったが。
 本書も似たような方向性を持つハウツー本で、例によって「インド式」暗算方法をうたっている。「インド式」をうたった本は他にもあるんだが、なんでもインド人は2桁の九九を憶えるとかで、「計算=インド」というブランドイメージが世間に出回っているんだな。だから「インド式」と付いているだけでそれなりの魅力を放つことになる。暗算にあこがれを持つこの僕も、そういうわけで手を出したんである。もっとも「手を出した」と言っても図書館で借りただけなので大した打撃はない。
 内容は、計算に関するさまざまな技法を紹介するというもので、紹介される技法は、足し算・引き算が3種類、かけ算が18種類、割り算が2種類である。だがかなり特殊なケースの計算技法が多く、汎用性のないものが多い。たとえば10の位が同じ数で1の桁を足したら10になる2桁の数字のかけ算(72×78など)とか、1の位が同じ数で10の桁を足したら10になる数字のかけ算(29×89など)とか、かけ算の一方の数字が999とか……。こうなってくると、個別に計算法を憶えなければならない。4桁×4桁のかけ算の方法(インド式の筆算)というのも紹介されているが、日本で教わる筆算の方が合理性、汎用性があってわかりやすいように思う。少なくとも計算の速度はそれほど変わらないような気もするが。
 もちろん中には役に立つ計算方法もある。20×20までのかけ算(たとえば14×18とか)は確かに素早くできるようになるし、それから1桁目に5が付く数字(たとえば75)の二乗計算も素早く簡単にできる。こういった計算は技法的にも複雑ではなく簡単に憶えられるので、お奨めである。
 全部が役に立つわけではないが役に立つ部分もあり、しかもそれが「知ってる」と「知らない」で大きな差があるような方法であることを考えると、こういった類の本としては及第点と言える。それから、技法の解説の項に、中学程度の代数を使った簡単な証明もあって、これがなかなか面白かった。暗算に関心のある方(そういう人がいるかどうかわからないが)は、是非図書館で借りるなどして、中身をチェックしていただきたいところである。買うべきかどうかは少し微妙なところ……。
★★★
by chikurinken | 2012-10-19 08:26 |