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竹林軒出張所

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『処女の泉』(映画)

b0189364_7422238.jpg処女の泉(1960年・スウェーデン)
監督:イングマール・ベルイマン
原作:ウルラ・イザクソン
脚本:ウルラ・イザクソン
出演:マックス・フォン・シドー、ビルギッタ・ペテルスン、グンネル・リンドブロム、ビルギッタ・ヴァルベルイ

 『処女の泉』というタイトルだが、決してポルノ映画ではない。スウェーデンの巨匠、イングマール・ベルイマンの出世作にして傑作の誉れ高い名作である。
 ベルイマンの映画といえば、これまで『秋のソナタ』とか『リハーサルの後で』とか、非常に退屈な会話劇しか見たことがなかったので、こういったホラーまがいの映画があるとは思わなかった。「ホラーまがい」というのは少し言いすぎかも知れないが、全編を覆う緊迫感は尋常ではない。ストーリーは比較的単純で、どこかに伝わるキリスト教の伝説を基にしているんじゃないかというような話である。だが、伝説みたいな話でも、映像としてリアリティをもって説き起こすと、こういった殺伐としたものになってしまうということがわかる。とにかく迫力がすごい。またモノクロの映像も、エイゼンシュテインの映画を彷彿させるようなギラギラした調子で、強いコントラストが緊迫感を生みだすことに貢献している。
 90分弱の比較的短い映画だが、当時世界中で評価されたということがよくわかる、傑作の名に恥じない名品であった。
第33回アカデミー賞外国語映画賞、第13回カンヌ国際映画祭特別賞受賞
★★★☆
by chikurinken | 2012-09-29 07:43 | 映画

10月放送予定TV番組の告知

b0189364_7524516.jpg 放送予定の映画やドキュメンタリーをチェックするために、毎月TVガイドを買って調べるんだが、このブログで紹介したドキュメンタリーや映画が(再)放送されるケースも結構ある。特にドキュメンタリーについては、放送されるとその記事へのアクセス数が急に増えたりするので、やはりそういう番組を心待ちにしている人々は結構いるんだろうと思う。
 というわけで、過去このブログで紹介した番組で、来月放送される予定のものをここでピックアップしようという企画。BS中心になったのはご愛敬ということで(結構大変だったので、たぶん次はやらないと思う)。

ドラマ
天皇の料理番 10月10日16:00より、BS-TBS
参考:竹林軒出張所『天皇の料理番 (1)〜(19)(ドラマ)』

ドキュメンタリー
バーミヤンの少年 10年の記録 10月10日24:00、NHK BS1
参考:竹林軒出張所『バーミヤンの少年(ドキュメンタリー)』

地球ドラマチック「密着! 都会のアライグマ ~驚きの“進化”~」 10月13日19:00、
NHK Eテレ
参考:竹林軒出張所『アライグマの国 〜都市生活と“進化”〜(ドキュメンタリー)』
(違う番組だが、おそらく同じ映像を使っているのではないかと思われる)

映画
おとうと 10月1日9:00、日本映画専門チャンネル
参考:竹林軒出張所『おとうと(映画)』

黒いオルフェ 10月5日13:00、NHK BSプレミアム
参考:竹林軒出張所『黒いオルフェ』(映画)

たそがれ清兵衛 10月5日19:30、NHK BSプレミアム
参考:竹林軒『2004映画日記』(「たそがれ清兵衛」で検索してください)

忍者武芸帳 10月9日16:00、日本映画専門チャンネル
参考:竹林軒出張所『忍者武芸帳(映画)』

馬鹿まるだし 10月14日13:00、NHK BSプレミアム
参考:竹林軒出張所『馬鹿まるだし(映画)』

セント・オブ・ウーマン 10月15日13:00、NHK BSプレミアム
参考:竹林軒出張所『セント・オブ・ウーマン 夢の香り(映画)』

ニッポン無責任時代 10月21日13:00、NHK BSプレミアム
参考:竹林軒出張所『ニッポン無責任時代(映画)』

博士の異常な愛情 10月19日13:00、NHK BSプレミアム
参考:竹林軒出張所『博士の異常な愛情(映画)』

タンポポ 10月20日23:00、日本映画専門チャンネル
参考:竹林軒出張所『タンポポ(映画)』

恐怖の報酬 10月24日13:00、NHK BSプレミアム
参考:竹林軒出張所『恐怖の報酬(映画)』

注:上記は『デジタルTVガイド』からピックアップしたものです。あくまでも予定ですので変更になる可能性は大いにあります。また上に書いた放送予定にも誤りがあるかも知れません。興味のある方はそれぞれでご確認の上、ご覧になってください。
by chikurinken | 2012-09-28 07:56 | 放送

『日本プラモデル興亡史』(本)

b0189364_7414667.jpg日本プラモデル興亡史 わたしの模型人生
井田博
文春ネスコ

 著者は、長年模型店を営みながら、その後、さまざまな模型イベントを開催したり、模型雑誌『モデルアート』を創刊したりと日本の近代模型史を間近で見てきた人。同時に模型業界とも深く関わっており、プラモデル史を語らせたらもっとも適任と言っていい人かも知れない。本書は、もちろんタイトル通り日本の戦後プラモデル史を語っているが、同時に著者の自分史にもなっていて、どちらかというと後者に比重がおかれている。
 著者は、戦前から模型に魅せられ、それが高じて模型屋を自分で始めるまでになる。途中徴兵されるが、戦後も模型屋を再興し、やがてデパートに出店するようになって、昭和33年のプラモデルの登場を迎えることになる。その後、スロットカー、サンダーバード、ミニ四駆、ガンダムなど、プラモデルのさまざまな流行も、店のオーナーとして間近で経験していく。で、この本ではそういうことが紹介されていくのだが、いろいろな出来事が時系列で書かれるんではなく、結構前後しているので少しわかりにくい面もある。まあそれでも、どこかのメーカーに偏るんではなく、全体を俯瞰できる(消費者に近い)立場で書かれているため、価値はそれなりに高いと思う。先日紹介した『田宮模型の仕事』『マルサン ― ブルマァクの仕事』と重複するような記述も多いが(どちらも「参考文献」リストに入っていた)、それに消費者側からの視点が加わって前二著と違った視点が非常に興味深いところである。『日本プラモデル興亡史』というタイトルは、やや羊頭狗肉っぽいが。
 昭和40年代から消費者としてプラモデルに関わってきた僕としては、あちこち懐かしいグッズが出てきて感動もひとしおだったことも付け加えておかなければならない。なお、この本は2003年に刊行されたものだが、著者は2006年にすでに鬼籍に入っている。
★★★

参考:
竹林軒出張所『田宮模型の仕事(本)』
竹林軒出張所『マルサン ― ブルマァクの仕事(本)』
by chikurinken | 2012-09-26 07:43 |

『五重塔はなぜ倒れないか』(ドキュメンタリー)

b0189364_7262784.jpg五重塔はなぜ倒れないか
(2008年・日映企画)
ドキュメンタリー(DVD)

 古建築を扱った文化映画。「五重塔はなぜ倒れないか」というタイトルが良い。だが実は同じタイトルの本がすでに存在する。本の方は読んでないので、内容が重なっているのか、あるいはDVDが本を補足するような内容になっているのか、そういうことはわかならないが、その本の編者である上田篤がこのDVDに関わっているわけでもなさそうで、両者の関係はよくわからないままである。
 さてこのドキュメンタリーだが、五重塔をはじめとする古建築の塔が歴史上地震によって倒壊したことがない(そういう記録がない)ということがまず紹介される。これまで塔が崩壊したのはすべて、落雷や戦乱、火災のためである。実際、昭和32年に東京・谷中の五重塔が焼け落ちたときのニュース映像も紹介されているが、これは放火だということだ(焼け落ちる五重塔はなかなかの迫力)。関東大震災でも上野・寛永寺の五重塔は健在だったし、法隆寺の五重塔についても何度も大地震に見舞われたという記録が残っているらしいが、それでも倒壊したことはない。
 その五重塔であるが、元々は釈迦の仏舎利を収めていたインドのストゥーパが源流で、その後中央アジア、中国、朝鮮を経由して、日本に伝わり、今見られるような形で定着した。こういった塔は、五層のものだけでなく、三重、七重、九重といったものもあり、十三重塔(談山神社)というものまである。
 こういうことが前半で紹介され、後半はいよいよ、このドキュメンタリーの核心、地震で崩壊したことがないという塔の内部構造に迫る。
 まず宮大工の宮崎忠仍氏が実際に五重塔の1/5模型を作るところが映像で紹介され、模型を使って塔の構造を紹介していく。部材が示され、木組みが映像で紹介されるため、塔の構造については感覚的にわかるようになっている。で、こうして作った塔の模型を今度は耐震実験に使い、実際に震度6の強度で揺らしてみるのである。このとき塔の揺れがどうなるかを映像に残し、それを基に「五重塔はなぜ倒れないか」を解明していくというのがこのドキュメンタリーの主旨である。
 結論を言うと、木組み構造のために塔の各層が別々の方向に揺れるようになっており、しかも心柱(塔の真ん中に通っている巨大な柱)もそれと関係なく揺れるため、全体でバランスが保てる構造になっているということらしい。だが正直「なんとなく」でしかわからない。実はこれ、1/5模型を使って塔の構造を紹介する場面にも通じるもので、何となくわかった気になってしまうというのがこのドキュメンタリーの特徴である。
 おそらく、この耐震実験(そしてその実験に使った塔の模型の製作)の記録のために撮影された映像を、記録映画として残しておくのが目的で作られたドキュメンタリーではないかと察するが、約35分と上映時間も短く、それにいろいろな要素を詰め込んでいるため、すべてがよーく分かったというわけにはなかなかいかない。結局のところ五重塔入門編みたいなところで終わってしまっている。ここらあたりが残念な部分。
 「五重塔はなぜ倒れないか」という命題に明確に答えることはできていないが、塔建築入門編として、それから記録映像として、なかなか貴重な映像に仕上がっているとは思う。また映画の密度が高いので、飽きることはまったくなかった。
★★★☆

参考:竹林軒出張所『宮大工西岡常一の遺言(本)』
by chikurinken | 2012-09-25 07:26 | ドキュメンタリー

ナマ冨田勲が出た!

b0189364_1259732.jpg 先日いつものように『タモリ倶楽部』を見ていると、なんとあの(!)巨匠、冨田勲が登場。
 テーマは「温故知新シリーズ (1)」ってことで、古いシンセサイザ、MOOGIII-Cを使って音を出してみようという企画である。そもそもこのシンセサイザを日本で最初に購入したのが冨田勲だそうで、MOOGIII-Cを使うという企画であればこの人以上に適任な人はいないんだろうが、それにしてもよくこんな番組に出てきたなと思う。ちなみに冨田勲以外に、弟子の松武秀樹って人(僕は全然知らなかったがエライ人らしい)も登場したが、実際に音出しするのはこの人がほとんどだった。
 さて、この『タモリ倶楽部』、レギュラー陣が進行途中に茶化したりするので、エライ人が出ると見ているこちらがヒヤヒヤするんだが、この回はそういう部分はあまりなく、滞りなく進行する。冨田勲がシンセサイザに魅せられたいきさつ(大阪万博のときに『スイッチト・オン・バッハ』というアルバムを聴いたのが始まりだそうで)や、当時1千万円でアメリカから個人輸入したという話(費用は借りたらしい)、輸入する際税関で1カ月足止めを喰らったという話も非常に興味深い(楽器であるということが理解されなかったそうだ)。さらに、手に入れたは良いが使い方がわからず、「大変な鉄クズをアメリカから買いこんじゃった」(本人談)と思ったという話も面白い。で、手に入れてから数年後1974年にアルバム『月の光』を発表するんだが、これがアメリカでヒットし、「シンセサイザの冨田勲」として知られるようになったんだそうだ。
b0189364_8232682.jpg 僕が個人的に冨田勲を知ったのは、『惑星』が最初で、当時中学生だった僕は小遣いをはたいてこのLPレコードを買ったが、シンセサイザ・アルバムとしてはすでに4作目だったそうである('77年発売)。冨田勲の作品は当時一般的にも人気があったようで、FMラジオでもときどき流れていたし、CMでも使われたりしていて、個人的にはそこそこ馴染みがあった。そういうわけで僕の中では永らく「冨田勲=シンセサイザ」だったんだが、その後、シンセサイザ以前にNHKのテレビ番組のテーマ曲をたくさん書いているということを知ることになった。あの『新日本紀行』や『きょうの料理』のテーマまで冨田勲が書いていたというのもこのとき知ったのである。b0189364_8235214.jpg最近ではこういうのをまとめたアルバム『TOMITA ON NHK〜冨田勲 NHKテーマ音楽集』も出ていて、冨田の作品を回顧できるようになっている。あらためてこの人のすごさがわかるってもんである。
 さて、その冨田勲だが、この『タモリ倶楽部』で、このマシンを使ってどうやって『月の光』の音を作ったかまで細かく説明していて、正味15分弱のこの番組がものすごい密度で展開されていた。音作りの前段階のインタビューも非常に密度が濃く、1視聴者の僕は終始ワクワクしていたのだった。今回に限っては「空耳アワー」を省いてほしかったと思ったほどである。間違いなく僕にとっての『タモリ倶楽部』歴代ベスト3に入る名作だったと言ってよい。ちなみにこの放送、僕は数日前に見たが、東京では2週間前に放送されていたそうである。

参考:
竹林軒出張所『訪問インタビュー 冨田勲(ドキュメンタリー)』
Wikipedia「冨田勲」
竹林軒『マニアの集い タモリ倶楽部』
by chikurinken | 2012-09-24 08:25 | 音楽

『アルフィー』(映画)

b0189364_8273678.jpgアルフィー(1966年・英)
監督:ルイス・ギルバート
原作:ビル・ノートン
脚本:ビル・ノートン
音楽:バート・バカラック、ソニー・ロリンズ
出演:マイケル・ケイン、シェリー・ウィンタース、ジュリア・フォスター、シャーリー・アン・フィールド、ジェーン・アッシャー、ヴィヴィアン・マーチャント

 女たらし、アルフィーの女性遍歴。ドン・ジョヴァンニのように次々と女と関係を持つ男、アルフィー。友達の女でも人妻でも、手当たり次第に手を付ける。当然のごとくハッピーエンドでは終わらないが、とは言え、大きな事件もなく、アルフィーの日常風景が淡々と描かれるというテレビ・ドラマみたいな展開である。
 アルフィーが随時カメラに向かって説明を入れるという方法論は今となっては古い手法ではあるが、それでもなかなか効果を上げている。特に、アルフィーによる女性心理分析はなかなかのもの。途中、楽しい工夫があったり笑える要素もあふれていて、よくできたシナリオである。プレイボーイの話だが、主人公のアルフィーに対して嫌悪感はあまり抱かない。節操のないスケベ野郎だが、愛すべきキャラクターである。
 音楽はジャズのソニー・ロリンズが担当しているが、僕は当初この映画のことをまったく知らず、ソニー・ロリンズのアルバムから知ったのだった。冒頭からロリンズのサックスが流れ、都会的な雰囲気を添えている(作曲はバート・バカラック)。楽しくてしようがないというような映画ではないが、ニヒリスティックかつシニカルで、こういうテイストは結構好きである。完成度も高い。
★★★☆
by chikurinken | 2012-09-22 08:29 | 映画

『万華鏡の女 女優ひし美ゆり子』(本)

b0189364_8471597.jpg万華鏡の女 女優ひし美ゆり子
ひし美ゆり子、樋口尚文著
筑摩書房

 60〜70年代に活動した女優、ひし美ゆり子のインタビュー集。
 ひし美ゆり子、知ってる人はよく知ってるが知らない人はまったく知らないという女優である。『ウルトラセブン』でアンヌ隊員を演じた菱見百合子のことで、当時の子どもにとっては憬れの存在だった。子ども時代は目鼻パッチリのとんでもない美人のように感じていたが、今写真で見るとどちらかと言うと素朴な顔立ちである(美人には違いないが)。そのひし美ゆり子自身から、『ウルトラセブン』のことや、それ以前・それ以降の出演作、女優活動などについて聞き出すインタビューがこの本のほとんどを占める。著者というか聞き手は、樋口尚文という人で、よく知らないが映画評論家なのだろうか。70年代の映画について、マニアックな知識を披露しながら、ひし美から話を引き出している。同時に、当時の映画界、テレビ界の状況も折りこみながら、60〜70年代の映画・テレビ界の動きをみごとに反映した1女優(ひし美ゆり子)という図式で話をまとめている。
 ひし美ゆり子は、1960年代に「ニュータレント」(他社の「ニューフェース」みたいなもの)として東宝に入社し、その後、豊浦美子の代役として特撮テレビドラマ『ウルトラセブン』にレギュラーとして出演する。子ども向け番組である『ウルトラセブン』の後は、成人向け映画にも出演している他、ヌード写真も公表されたりしていて、相当多彩な経歴を持っていると言える。ただ、ひし美ゆり子自身、主役を張るような女優でもなくて、大作に登場することなく事実上引退していたため、日の当たる場所に出てくることはなかった。だが90年代に、かつて『ウルトラセブン』で育った人々を中心にアンヌ・ブームみたいなものが始まって、再びひし美が脚光を浴びることになり、過去の出演作品が発掘されることになったのだった。1993年にNHKで『私が愛したウルトラセブン』というドラマが放送され、田村英里子が菱見百合子役を演じたりしたのも、アンヌ・ブームのきっかけだったのかも知れない。
b0189364_8475838.jpg 僕自身は、5年ほど前に『セブンセブンセブン アンヌ再び…』(ひし美ゆり子の自伝エッセイ)を読んでいたんだが、成人映画の件はまったく記憶に残っていなかったんで、今回少し驚いたほどであった。成人映画に出ていたなんてにわかに信じられない部分もあるが、本人の口からいきさつが語られていることもあって、違和感はまったく沸かなかった。とにかく、ひし美ゆり子という人、あっけらかんとした性格で、監督やプロデューサーから声がかかったら出演していくという「流され」女優だったそうで、そのために、フィルモグラフィーを見ると、出演映画が多岐に渡っていて当時の映画界の変遷を見事に反映している(ちなみにこれは、著者の樋口尚文の受け売りである)。そういうことも含めて「万華鏡の女」というタイトルになったということらしい。ちなみに「万華鏡の女」というのは「自らが強烈な個性や主張を発散させるのではなく、大衆メディアの変遷を異色な形で映し続けた」女優という意味なんだそうだ。それからこのタイトルを提案したのは、他ならぬひし美ゆり子なんだそうで、そういうエピソードも面白かった。
★★★
by chikurinken | 2012-09-21 08:50 |

『アフガニスタン NATO軍司令官の憂鬱』(ドキュメンタリー)

アフガニスタン NATO軍司令官の憂鬱
(2011年・ノルウェーNRK)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー シリーズ「ビンラディン後の中東」

b0189364_8115261.jpg アフガニスタンには現在もNATO軍が駐留していて治安維持に当たっているが、2014年に全面撤退する予定だという。それを前にして、警察を含む現地の行政に任務の引き継ぎを行おうとしているが、アフガンの行政当局のやる気のなさのせいか、はたまた反体制側であるタリバンの攻勢のせいか、なかなか仕事の引き継ぎが進まない。そういう現状を報告するドキュメンタリー。
 ナレーションはまったくなく、静かな進行のドキュメンタリーであるが、爆発音や銃声なども入っていて、見ていても緊張感を強いられる。決してのどかという雰囲気ではない。製作はノルウェーの製作局だが、これには、NATO軍の司令官がノルウェー人だからという理由がある。実際アフガン駐留NATO軍にはノルウェー軍部隊が入っており、犠牲者も出ている。ノルウェーにとっては他人事ですまされないのだろう。兵士たちにしても早く国に帰りたいというのが本音なんじゃないかと思う。
 だが、アフガンの現状は決して楽観できない。政権側は市民に人気がないし、タリバンは相変わらず自爆テロを繰り返す。一部の地域では内戦状態がいまだに続いており、選挙すらきちんと実施できない。このドキュメンタリーに映る現地の当局者たちは、NATO軍に対する不満ばかりを口にし、なかなか作戦を実行しない。どこか他人事のような印象すら受ける。この辺は多分にNATO軍側の見方が番組に反映されているんだろうと思う。現地の彼らにしたところで、タリバンから命を狙われる身である。実際、番組に登場した「知事の側近」は、(彼を狙った)自爆テロで重症を負っている。ともかく政権移譲はうまく進まないわ、タリバンの攻勢は許すわで、これからのアフガニスタンがどうなるか、予断を許さない状況であることはよくわかった。まさに袋小路に入っているような状況で、打開策が見つかりそうもないという印象だった。
★★★☆
by chikurinken | 2012-09-19 08:12 | ドキュメンタリー

『メリィ・ウィドウ』(映画)

メリィ・ウィドウ(1934年・米)
監督:エルンスト・ルビッチ
原作:ヴィクター・レオン、レオ・ステイン
脚本:アーネスト・ヴァホダ、サムソン・ラファエルソン
出演:モーリス・シュヴァリエ、ジャネット・マクドナルド、ウナ・マーケル

b0189364_752487.jpg フランツ・レハールのオペレッタ『メリー・ウィドウ』が原作の映画。オペレッタの『メリー・ウィドウ』は20世紀前半にアメリカでも大変人気を博したらしく、そのためもありアメリカでは都合3回映画化されたらしい。その3本の中でもっとも質が高いとされているのが、このルビッチが監督した第2作目。
 ストーリーはオペレッタ版とおおむね同じだが、設定が若干変わっている。そのために主人公の2人、ハンナとダニロ伯爵の関係性も少し違っている。元のオペレッタでは、本音と建て前の間でゆらぐ恋の駆け引きみたいな部分が割合面白かったんで、そこが別の要素にすり替わっているのは少々ガッカリの部分である。しかもすり替わった要素が陳腐だったりするんでガッカリ感もひとしお。
 ストーリーについては、オペレッタ版のメインである大使館の場面の前後に、母国でのエピソードとその後のエピソードが付け加えられているが、元々のストーリーに則っている前の部分はともかく、後の部分はいかにもアメリカ喜劇といった感じで実にバカバカしい。当時のアメリカ人はこういうのを喜んだのかも知れないが、ちょっと品性に欠けるような部分である。
 小粋な喜劇の名匠と言われるルビッチだけに、全編喜劇的要素が散りばめられていてそこそこ楽しめるが、やりすぎと感じられる部分もあって、そういう部分はやはり笑えない。オペレッタをハリウッド・コメディにそつなく移植してはいるが、変な後味が残る映画だった。率直に言って原作のストーリーをそのまま使った方が良かったんじゃないかと思う。音楽については元のオペレッタの曲をあちこちに巧みに配していて、うまい使い方をしていると思った。
★★★

参考:竹林軒出張所『レハール 喜歌劇メリー・ウィドウ(放送)』
by chikurinken | 2012-09-18 07:53 | 映画

『マイファーム 荒地からの挑戦』(本)

マイファーム 荒地からの挑戦 農と人をつなぐビジネスで社会を変える
西辻一真著
学芸出版社

b0189364_853456.jpg 耕作放棄地を一般の人々に体験農園として開放し、放棄地の再生と消費者の農業への参加を推し進めている企業がある。それがマイファームで、本書の著者はそのマイファームの若手社長。
 子どもの頃から土に親しみ、学生の頃は農業の衰退に胸を痛めていたという西辻氏、農業に関わる企業を起こすことを夢見、そのために就職活動すらそれを前提として行ったという。情熱とバイタリティはすごいが、本書から窺われる彼の人格は、真面目、正直、温厚、素直といったもの。どこにそれだけのエネルギーがあるのかわからないが、やはり思い入れの要素というのは、人が何かやる上で大きいんだなと思う。
 本書では、この人のこれまでの来し方を紹介しているが、こういう仕事をやるべくしてやっているという印象で、言ってみればそういう部分が才能ということになるんだろう。正直言って、こういう事業で企業がやっていけるのか疑問に感じる部分もあるが、実際売上が1億円を超えていると言うんだから事業としてはうまく行っているんだろう。現在、有機農業を教えるための教育事業(アカデミー)まで業務を拡大しつつあるという。このアカデミーの卒業生が有機農業で生計を立てていけるように、農園で講師として採用し副収入を確保できるようにするという目論見もあるらしい。このアカデミー事業も当初からのビジョンに入っている事業で、当初からの計画どおり事業の裾野が少しずつ広がっているのがよくわかる。
 また、塩害用の改良剤の開発も行っていて、東日本大震災で農業ができなくなった東北の塩害の畑にこれを使って、一定の効果を上げている。農業を収益の挙げられる事業にして日本の農業を再生させようという気概が心地良く、そのために、できることから着々と仕事を進めるという方法論も実践的で良い。自分も頑張らなきゃいけないなと考えさせられた本だった。
★★★☆
by chikurinken | 2012-09-17 08:53 |